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明細書 :デジタル聴診解析システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4759727号 (P4759727)
公開番号 特開2005-296643 (P2005-296643A)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
公開日 平成17年10月27日(2005.10.27)
発明の名称または考案の名称 デジタル聴診解析システム
国際特許分類 A61B   7/04        (2006.01)
FI A61B 7/04 V
請求項の数または発明の数 2
全頁数 29
出願番号 特願2005-080720 (P2005-080720)
出願日 平成17年3月18日(2005.3.18)
優先権出願番号 2004081506
優先日 平成16年3月19日(2004.3.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年12月5日(2007.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】江 鐘偉
個別代理人の代理人 【識別番号】100111132、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 浩
審査官 【審査官】門田 宏
参考文献・文献 特開平03-503962(JP,A)
国際公開第2005/041778(WO,A1)
国際公開第2006/078954(WO,A1)
調査した分野 A61B 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
解析入力情報格納部と、振動モデルを用いて特徴値波形を解析する心音波形解析部と、解析された前記特徴値波形を用いて評価指数を解析する評価指数解析部と、異常心音評価部と、解析結果情報格納部とを有するデジタル聴診解析システムであって、
前記解析入力情報格納部は、デジタル化された心音データと前記振動モデルの解析パラメータと前記評価指数の正常値範囲情報を読み出し可能に格納し、
前記心音波形解析部は、前記心音データと解析パラメータを読み出して前記振動モデルを用いて心音の特徴値波形を解析する手段と、この特徴値波形を前記解析結果情報格納部に格納する手段とを備え
前記振動モデルは、質量にばね系及び粘性減衰系を接続させた1の機械的振動系又はインダクタンスに電気容量と抵抗を接続させた電気的振動系からなる、あるいはこれらの振動系を複数連成させてなる鼓膜の振動応答に関する振動モデルであり、前記解析入力情報格納部から読み出した前記解析パラメータ及び前記心音データを前記振動モデルに代入して前記鼓膜の振動応答を得て、これを特徴値波形とし、
前記評価指数は、前記特徴値波形から得られる心臓の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁、肺動脈弁のいずれかの閉鎖音の持続時間、あるいはこれらの任意の弁に対して同一弁あるいは異なる2弁の閉鎖音間の持続時間、あるいはそれらの組合せとし、
前記評価指数解析部は、前記解析結果情報格納部から前記特徴値波形を読み出してこの特徴値波形から前記評価指数を演算する手段と、前記評価指数を前記解析結果情報格納部へ格納する手段とを備え、
前記異常心音評価部は、前記解析結果情報格納部から前記評価指数を読み出して前記解析入力情報格納部から読み出した前記評価指数の正常値範囲情報と比較する手段と、前記評価指数が前記正常値範囲内から外れる場合に警報情報信号を発する手段とを備えることを特徴とするデジタル聴診解析システム。
【請求項2】
前記特徴値波形、評価指数、警報情報の少なくとも1を出力及び/又は表示する表示部を有することを特徴とする請求項に記載のデジタル聴診解析システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、聴診音の異常を診断するデジタル聴診解析システムに係り、特に、心音データから特徴的なパターンを作成して解析するデジタル聴診解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では心臓病による死亡率が急速に増加しており、1985年からは脳卒中を抜いて第二位になっている。そして、心臓病の中では心不全や虚血性心疾患といわれる心筋梗塞による死亡が最も多く、また、原因不明の急性死が三割を占めている。このような心臓病を診断する代表的な方法として心音解析が挙げられるが、この心音解析に関する研究は心エコー図法や心臓カテーテルのような正確な検査方法の確立によって減少傾向にあった。しかしながら、近年のコンピュータの発達とデジタル信号処理技術の進歩によって、心音の録音や解析が容易にできるようになり、熟練を要する心音の聴診診断分野においても心音を自動診断する装置等が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、患者の聴診音を入力する聴診マイクと、入力される聴診音の体外部雑音を濾過する濾過器と、聴診音のアナログ波形データをデジタルデータに変換するデジタル変換器と、聴診音のデジタルデータと予め入力された各種疾病の聴診音の標準データとを比較するコンピュータと、コンピュータの出力を記録する記録装置及び表示する複数のモニタから構成される自動判読記録診断装置が開示されている。
この特許文献1に開示された発明では、患者の聴診音がデジタル化され、このデジタルデータはコンピュータによって各種疾病の聴診音の標準データと比較されて病名が判読されるので、医師の個人別読力や主観的判断を介入せずに迅速で正確な病名を決定することができる。また、複数のモニタの設置によって、医師だけでなく、患者、看護師、医大生等の大勢の人が同時に見ることができるので対処診療の協同と迅速性を期することが可能である。
【0004】
また、特許文献2には、聴診器に設置され受信した音声を被測定信号に変換して出力する第1の変換手段と、聴診器に設置され制御操作子の操作状態に基づいて単一周波数の制御信号を出力する制御信号発生手段と、制御信号によって操作され被測定信号を分析して記録する診断装置と、入力信号の周波数成分毎のレベルを検出する周波数成分検出手段と、周波数成分に基づいて入力信号と制御信号及び被測定信号を比較判定する判定手段とを具備する電子式聴診・診断装置が開示されている。
この特許文献2に開示された発明では、聴診器が取得した信号音はマイコン装置によって処理されて他の複数の聴診器においても聴診が可能となり、また、判読の結果が作成されるので診断の正確性を上げることができる。さらに、資料の記録計算や累積や伝送出力も可能になっている。
【0005】
そして、聴診器について、特許文献3には、聴診音を検出するステート部と、ステート部に設置されスイッチング操作に応じて制御信号を送るスイッチと、聴診音を音信号に変換する変換手段と、制御信号に基づいて音信号の記録処理又は音信号の外部装置への伝送処理を行う信号処理装置を備えた聴診器が開示されている。
この特許文献3に開示された発明では、ステート部にスイッチが設置されており、このスイッチのスイッチング操作によって発生する制御信号に基づいて聴診音の音信号の録音や伝送を行うことができるので、看護師等の聴診を行う者は、聴診器の基本的な操作に加えて聴診音の音信号の録音又は伝送の操作を片手のみで容易に行うことができる。
【0006】
さらに、特許文献4には、聴診音を採取して聴診音信号を出力する聴診手段と、聴診音信号に圧縮符号化処理を行ってファイル化するデータ処理手段と、ファイル化された聴診音信号を通信手段を介して送信する送信手段を備えた聴診システムが開示されている。
この特許文献4に開示された発明では、聴診音信号を比較的安価に送信することができるので、訪問医療や在宅看護等の医療機関以外の看護や介護において使用すると医療の質を低下させることなく人件費の効率的な抑制が可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、患者から測定される聴診音に基づいてコンピュータが詳しい病名を判読するが、この判読は立会する医師の最終的な判断をより精確に行うためのものであり、一般家庭において個人が健康管理の目的で使用するには内容が高度であるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載された従来の技術は、特許文献1の場合と同様に、医師等の専門家の診察を補助するためのものであって一般家庭で使用するには複雑な構成になっているという課題があった。また、病状の判定を行う病徴判定器についても記載されているが詳しい判定方法は開示されていない。
【0009】
そして、特許文献3及び特許文献4に記載された従来の技術では、聴診器によって測定される聴診音を録音したり伝送したり送信したりすることはできるが、測定される聴診音を解析するものではない。

【特許文献1】特開2002-165789号公報
【特許文献2】特公平4-32661号公報
【特許文献3】特開2002-153459号公報
【特許文献4】特開2001-333899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、一般家庭で簡単に心音診断が可能なデジタル聴診解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明であるデジタル聴診解析システムは、解析入力情報格納部と、振動モデルを用いて特徴値波形を解析する心音波形解析部と、解析された前記特徴値波形を用いて評価指数を解析する評価指数解析部と、異常心音評価部と、解析結果情報格納部とを有するデジタル聴診解析システムであって、
解析入力情報格納部は、デジタル化された心音データと振動モデルの解析パラメータと評価指数の正常値範囲情報を読み出し可能に格納し、心音波形解析部は、心音データと解析パラメータを読み出して振動モデルを用いて心音の特徴値波形を解析する手段と、この特徴値波形を解析結果情報格納部に格納する手段とを備え
振動モデルは、質量にばね系及び粘性減衰系を接続させた1の機械的振動系又はインダクタンスに電気容量と抵抗を接続させた電気的振動系からなる、あるいはこれらの振動系を複数連成させてなる鼓膜の振動応答に関する振動モデルであり、
解析入力情報格納部から読み出した解析パラメータ及び心音データを振動モデルに代入して鼓膜の振動応答を得て、これを特徴値波形とし、
評価指数は、特徴値波形から得られる心臓の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁、肺動脈弁のいずれかの閉鎖音の持続時間、あるいはこれらの任意の弁に対して同一弁あるいは異なる2弁の閉鎖音間の持続時間、あるいはそれらの組合せとし、
評価指数解析部は、解析結果情報格納部から特徴値波形を読み出してこの特徴値波形から評価指数を演算する手段と、評価指数を解析結果情報格納部へ格納する手段とを備え、
異常心音評価部は、解析結果情報格納部から評価指数を読み出して解析入力情報格納部から読み出した評価指数の正常値範囲情報と比較する手段と、評価指数が正常値範囲内から外れる場合に警報情報信号を発する手段とを備えることを特徴とするデジタル聴診解析システムである。
上記構成のデジタル聴診解析システムでは、心音波形解析部において解析入力情報格納部に格納される心音データと解析パラメータが読み出され振動モデルに基づいて心音の特徴値波形が作成されるという作用を有する。
また、鼓膜の振動モデルを模擬した振動系を採用することで、より特徴的な心音の特徴値波形を作成するという作用を有する。
さらに、心音波形解析部において解析入力情報格納部に格納される心音データと解析パラメータが読み出され振動モデルに基づいて心音の特徴値波形が作成され、続いて評価指数解析部において、解析結果情報格納部から特徴値波形が読み出されて評価指数が演算される。そして、異常心音評価部において、解析結果情報格納部及び解析入力情報格納部から各々読み出される評価指数と評価指数の正常値範囲情報とが比較されて評価指数が正常値範囲内から外れる場合に警報情報信号が発せられるという作用を有する。
【0015】
請求項の発明であるデジタル聴診解析システムは、請求項に記載のデジタル聴診解析システムにおいて、特徴値波形、評価指数、警報情報の少なくとも1を出力及び/又は表示する表示部を有するものである。
本構成に係るデジタル聴診解析システムにおいては、特徴値波形、評価指数、警報情報を出力して、これらの情報に関して使用者に対して認知させたり、あるいはさらに情報を処理するために加工するという作用を有する。また、表示部は、使用者にこれらの情報を視認可能とする作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1及び請求項2に記載のデジタル聴診解析システムは、デジタル化した心音データから振動モデルを用いて特徴値波形を作成することができるので、心音データそのものよりも客観的な判断を行なうことが可能となる。
また特徴値波形から演算される評価指数とこの評価指数の正常値範囲とを比較して異常を検知することができる。従って、専門的で詳細な病状診断はできないものの、評価指数を導入することで定量的で客観的な判断が可能であり、特に専門知識を有していない人でも扱い易く、日常の体調管理を手軽に行うことができる。
また、本発明に係るデジタル聴診解析システムは、簡単な構成であるので安価で提供できる。
【0017】
さらに鼓膜の振動モデルを模擬した比較的単純な振動系を採用することで、容易に特徴的な心音成分を抽出することができる。また心臓弁(僧帽弁、三尖弁、大動脈弁、肺動脈弁)の閉鎖音に着目して、これらの持続時間やこれらの閉鎖音間の持続時間等、特に心臓疾患に関連して変動し易い数値を評価指数として採用することで、より客観的で精度の高い診断を容易に実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係るデジタル聴診解析システムの実施の形態を図1乃至図15に基づき説明する。(請求項1及び請求項2に対応)
まず、最初に、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの設置環境について図1を用いて説明する。
図1(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いた無線聴診システムの送信部の構成図であり、(b)は同じくデジタル聴診解析システムを用いた無線聴診システムの受信部の構成図である。
図1(a)において、無線聴診システム送信部1は、マイク入力2から採取された聴診音は、トリガー無線送信機3を介してプリアンプ4で音の補正が行われた後、ノイズフィルタ5によってノイズが除去され、オーディオ無線送信機6において無線信号として図1(b)に示す無線聴診システム受信部12に送信される構成になっている。
なお、トリガー無線送信機3では、聴診音に心音の変化等が検出されたときに無線送信を開始するように設定することが可能である。また、ノイズフィルタ5には、例えば、心拍(30Hz~400Hz)や呼吸音(20Hz~1500Hz)に対応するフィルタが設置される。
そして、ノイズフィルタ5を経た聴診音は、オーディオ無線送信機6以外にもパワーアンプ7とマイクロコントローラ10に分岐されており、パワーアンプ7では音が増幅された後、イヤホン/コンピュータ8とICレコーダ9に接続され、イヤホン/コンピュータ8では聴診音を聴いたり、保存したり、また、ICレコーダ9では聴診音を記録したりすることができる。
また、マイクロコントローラ10には外部メモリ11が接続されており、マイクロコントローラ10は外部メモリ11を起動させて聴診音を外部メモリ11に格納するために作動する。なお、外部メモリ11には記録可能な記録媒体であれば特に限定されず、例えばメモリカード等が設置可能である。
【0019】
一方、図1(b)において、無線聴診システム受信部12では、無線聴診システム送信部1から送信される聴診音の無線信号が、オーディオ無線受信機13とトリガー無線受信機14で受信され、プリアンプ4で補正が行われて、ノイズフィルタ5でノイズが除去されると、オートチューニングアンプ15とパワーアンプ7に分岐される。
オートチューニングアンプ15は、送受信によって歪んだ無線信号を解析に適した状態まで増幅するものである。まず、受信される無線信号はオートチューニングアンプ15を介してマイクロコントローラ10に送られ、マイクロコントローラ10において適切な解析信号として増幅度が達成されていないと判断した場合には、オートチューニングアンプ15に増幅度をチューニングするように指令が出される。そして、この指令を受信したオートチューニングアンプ15では指令に従って信号を解析に適切な増幅度に調節して、コンピュータ18や外部メモリ11に送信する。
なお、マイクロコントローラ10は、外部メモリ11が接続される場合には、外部メモリ11を起動させて外部メモリ11に信号を格納するために作動したり、さらには、聴診音のAD変換を行ったりする。
また、コンピュータ18には、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムが搭載されており、後述する聴診音による心音解析を行うことができるようになっている。
そして、パワーアンプ7では、音が増幅された後、イヤホン16で音を聴いたり、オーディオ端子を有するコンピュータ17で保存したり、ICレコーダ9で記録したりすることができる。
なお、コンピュータ17についてもデジタル聴診解析システムを搭載して心音解析を行うことが可能であるが、この場合、オートチューニングアンプ15による無線信号の増幅度の調整はパワーアンプ7を用いて手動で設定する必要がある。また、マイクロコントローラ10を介していないので、コンピュータ17内で解析を行う前にAD変換を施さなければならない。
【0020】
このように構成された無線聴診システムにおいては、採取される聴診音は録音や保存が可能であるので、繰り返し再生することができ、また、患者の病状を管理する上で便利である。そして、聴診音を転送可能に設計されているので、聴診音を採取する場所と離れた場所で解析することができる。
なお、無線聴診システムの送信部及び受信部において複数の構成が並列に設けられているが、全ての構成を設置する必要はなく、いずれか1の構成又はこれらの組合せであってもよい。
また、この無線聴診システムにおいては、無線によって聴診音を転送しているが、転送方法は無線に限定されるものではなく、有線を利用することもできる。
【0021】
以上のような無線聴診システムなどに搭載可能な本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの構成について図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの構成図である。
図2において、デジタル聴診解析システム19は、特徴値波形解析部21、評価指数解析部22及び異常心音評価部23から構成される演算部20と、表示部24と、モデルパラメータ入力部25と、心音データ27、モデルパラメータ28及び正常値範囲データ29を格納する解析入力データベース26と、特徴値波形31、T1データ32、T2データ33、T11データ34及びT12データ35を格納する解析結果データベース30とを有している。
特徴値波形解析部21では、まず、解析入力データベース26から心音データ27とモデルパラメータ28を読み出し、この読み出したモデルパラメータ28と心音データ27を、詳しくは後述するが、鼓膜の振動モデルに対応させて、心臓の僧帽弁と三尖弁の閉鎖音であるI音情報と大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音であるII音情報等、心音を構成する音情報を含む特徴的な心音波形(以下、特徴値波形という)を作成する。そして、作成した特徴値波形31を解析結果データベース30に格納する。
なお、解析入力データベース26では、心音データ27は被験者の氏名や病状等の個人情報や測定日等とともに格納されている。また、モデルパラメータ28は、後述するが、固有振動数及び減衰比係数の各々についてデータテーブルが作成されて格納されている。
モデルパラメータ28はモデルパラメータ入力部25から解析入力データベース26に格納され、特徴値波形解析部21によって読み出されるほか、モデルパラメータ入力部25から直接特徴値波形解析部21に入力することも可能であり、その数値は所望の値に設定することができる。
また、心音データ27は基本的にはデジタル化されたものであるが、特徴値波形解析部21においてAD変換を行うようにすればアナログの心音データを使用することも可能である。
そして、解析結果データベース30では、作成された特徴値波形31は使用した心音データ及びモデルパラメータに関連付けられて格納されている。
【0022】
次に、評価指数解析部22では、解析結果データベース30に格納された特徴値波形31を読み出して、特徴値波形31に含まれる複数のI音情報及びII音情報を抽出する。そして、I音情報及びII音情報から各々I音ピーク及びII音ピークを選定し、これらのピークについて評価指数としてI音の持続時間T1、II音の持続時間T2、I音からII音までの持続時間T12及びI音から次のI音までの持続時間T11を演算し、演算した持続時間をデータとして各々解析結果データベース30に格納する。
なお、このI音ピークやII音ピーク、あるいはT1,T2,T3,T4については図6を参照しながら後で説明する。
また、評価指数解析部22では、演算した評価指数を用いて、例えば、T1とT2の関係やT11とT12の関係を示すグラフを作成したりすることもできる。
なお、解析結果データベース30では、演算された評価指数は使用した特徴値波形と関連付けられて、各々がデータテーブルとして格納されている。
【0023】
続いて、異常心音評価部23では、まず、解析結果データベース30に格納されている4個の評価指数であるT1データ32、T2データ33、T11データ34及びT12データ35を読み出す。続いて、解析入力情報データベース26に格納されている正常値範囲データ29から4個の評価指数各々に対する正常値範囲を読み出す。そして、4個の評価指数を順次対応する正常値範囲と比較して、正常値範囲を外れる評価指数がある場合は、警報情報信号を生成する。
なお、この警報情報信号とは警報情報を伝達する信号であり、警報情報には警報メッセージ、警報音及び警報ランプ等の視覚又は聴覚に訴える全ての情報を含むものである。
また、解析入力データベース26では、4個の評価指数に対応する正常値範囲は各々データテーブルが作成されて正常値範囲データ29に格納されている。
【0024】
そして、表示部24では、演算部20において演算される特徴値波形や、評価指数及び評価指数に基づくグラフ図を表示することができる。また、異常心音評価部において作成される警報メッセージや警報ランプを表示したり、警報音を鳴らしたりすることもできる。
【0025】
ここで、心音について図3を参照しながら説明する。図3は、人の心臓の概念図である。
図3において、心臓36は、左心房37、左心室38、右心房41及び右心室42の四つの部分に分かれており、左心房37及び左心室38では肺でガス交換した後の酸素をたくさん含んだ血液を全身に送る働きをし、右心房41及び右心室42では全身から戻る二酸化炭素を多く含む血液を肺に送る働きをしており、全体で収縮と弛緩を繰り返すことで血液を全身に循環させるポンプの役割を担っている。
また、左心房37の入り口には僧帽弁39、左心室38の入り口には大動脈弁40、右心室42の入り口には三尖弁43及び右心房41の入り口には肺動脈弁44と呼ばれる弁膜が各々ついており、これらの弁膜によって血液の逆流が防止されている。そして、心音とはこれらの弁膜が閉じる際に発する音である。
聴診による心音が正常であるか異常であるか、又は、心雑音があるのかないのかについては専門の知識を有する医師でないと厳密に聞き分けて診断するのは困難である。しかしながら、専門知識を有さない素人であっても、「ドック、ドック」と聞こえる正常な心音と、「グー、グー」と聞こえる僧帽弁39の閉鎖不全による心雑音など比較的簡単に聞き分けることができるものもある。これは、鼓膜が聴診器からの音波で拍動された際に発生する低次モードの振動を人間の耳で感じ取りやすいためと考えられる。この発想に基づいて、本願発明の発明者は鼓膜を振動モデルに近似し、聴診器から採取した心音と振動モデルの振動応答との関係から心音の解析を行うことを試みた。
【0026】
次に、鼓膜の振動モデルについて図4を用いて説明する。図4は、鼓膜の振動モデルを示す概念図である。
図4において、符号45は鼓膜、符号46はばね、そして、符号47はダンパーであり、鼓膜の等価質量をm、ばね定数をk、粘性減衰係数をc及び聴診器からの心音をSとすると、鼓膜の振動応答xは式(1)から算出される。
【0027】
【数1】
JP0004759727B2_000002t.gif

【0028】
また、式(1)の両辺をmで割り、さらに、心音信号入力値を式(2)で表し、
【0029】
【数2】
JP0004759727B2_000003t.gif

【0030】
さらに、固有振動数をp及び減衰比係数をξとすると、式(1)は次式(3)で表される。
【0031】
【数3】
JP0004759727B2_000004t.gif

【0032】
したがって、固有振動数p及び減衰比係数ξを設定すると、式(3)から鼓膜の振動応答xを求めることができる。この固有振動数pと減衰比係数ξが先に説明したモデルパラメータである。
なお、本実施の形態においては図4に示される機械的振動系を振動モデルとして説明したが、等価質量mに代えてインダクタンスL、ばね(ばね定数)kに代えて電気容量C、ダンパー(粘性減衰係数)cに代えて抵抗Rを用いる電気的振動系を振動モデルとして採用してもよい。
【0033】
次に、鼓膜の振動モデルを用いて振動応答xを求めた結果について図5を参照しながら説明する。
図5(a)は、鼓膜の振動モデルに基づいて正常心音から振動応答xを求めた結果を示すチャート図であり、図5(b)は同じく鼓膜の振動モデルに基づいて僧帽弁閉鎖不全心音から振動応答xを求めた結果を示すチャート図である。
なお、心音データは市販の心音聴診トレーニング教材に収録されたものを使用し、また、固有振動数pは10Hz、減衰比係数ξは0.707とした。
図5(a)及び図5(b)において、薄い灰色で示される波形が各々の心音Sの原波形であり、濃く太い実線で示される波形が振動応答xによる波形である。
図5(a)では正常心音の「ドック、ドック」と表現される波形が、また、図5(b)では僧帽弁閉鎖不全心音の「グー、グー」と表現される波形が良好に抽出されていることがわかる。
このように、鼓膜の振動モデルに基づくと、測定される心音データから振動応答xによって特徴的な波形を作成することが可能であり、この振動応答xによる波形が特徴値波形となる。
なお、図5(a)及び図5(b)においては、正負の振幅を持つ特徴値波形を示しているが、解析はいずれか一方の特徴値波形について行うとよい。
【0034】
続いて、特徴値波形の解析方法について図6を用いて説明する。
一般に、正常な心音の波形ではI音及びII音と呼ばれるピークが繰り返し現れることが知られている。そして、このI音は前述の心臓の弁膜である僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によって生じ、また、II音は大動脈弁及び肺動脈弁の閉鎖並びに緊張によって生じるものであり、本実施の形態では、心音解析の基本であるI音とII音の持続時間を解析並びに評価することによって心音の異常を検知することを考案した。
図6(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した特徴値波形からの評価指数の求め方を示す説明図であり、図6(b)は評価指数の関係を示すグラフ図であり、図6(c)は評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
なお、図6(a)において、縦軸は振幅を、横軸は時間を示している。実線で示される特徴値波形は見やすくするために測定時間における2秒間分を拡大したものであり、I音ピーク48及びII音ピーク49が各々2本ずつ抽出されている。なお、薄い灰色で示される波形は10秒間分の心音の波形であり、表記される横軸とは対応していない。
図6(a)において、I音ピーク48及びII音ピーク49の幅からI音及びII音の持続時間を求め、これらをそれぞれ評価指数T1及びT2と定義する。また、I音とII音を合わせた持続時間をみると、心臓の弁膜の閉鎖不全等によって現れるI音とII音の間の雑音に関する情報が得られることから、I音ピーク48の開始からII音ピーク49の終了までの持続時間を評価指数T12と定義する。そして、不整脈や心拍リズムを評価するために、I音ピーク48の開始から次のI音ピーク48の開始までの持続時間を評価指数T11と定義する。
【0035】
なお、これらの評価指数は、全てを用いなくてもよく、4個の持続時間のうち1の持続時間のみ用いてもよいし、また、4個の持続時間を如何様に組合せて用いることもできる。さらに、評価指数は本実施の形態においてはI音とII音に着目しているが、これら以外の心音の要素に着目してもよい。例えば、I音の僧帽弁及び三尖弁の閉鎖音、あるいはII音の大動脈弁及び肺動脈弁の閉鎖音が分離される場合には、これらの閉鎖音の持続時間や弁間の閉鎖音の持続時間やそれらを適宜組合わせて評価指数としてもよい。
また、I音やII音以外の、III音やIV音を用いてもよい。III音とは、II音にひき続いて起こる低調の音であり、急速充満期、すなわち拡張期のはじめに心房から心室内へ血液が急速に流入する際に生じるものであり、IV音とは、拡張期の終わり近く、すなわち前収縮期に左心房が収縮するときに心室壁が伸展されて生ずる音であり、心房音とも呼ばれるものである。これらの音に着目してそれぞれの持続時間等を評価指数として採用してもよい。
【0036】
次に、図6(b)において、縦軸は評価指数であるT2及びT12を示し、横軸は評価指数であるT1とT11を示している。
図6(b)では評価指数T1に対して評価指数T2をプロットし、また、評価指数T11に対して評価指数T12をプロットして分布を示しており、視覚的に心音の異常を判断することができる。すなわち、図6(b)において点線で囲まれる正常値範囲の領域に評価指数の分布が入っている場合は、心音は正常であると判断でき、逆に、正常値範囲の領域に評価指数の分布が入っていない場合は、心音は異常であると判断できる。なお、心音データには個人差があるので、正常値範囲は、多数の健常者からデータを取得して統計的に決定することが望ましい。
そして、図6(c)において、縦軸は評価指数を示し、縦軸は各々の評価指数の頻度を示している。このように各々の評価指数の値に対して、測定時間である10秒間における各々の評価指数の出現頻度を棒グラフで示すと、各々の評価指数の出現頻度を簡単に比較することができる。例えば、評価指数T1の出現回数よりも評価指数T2の出現回数が明らかに少ない場合は、II音ピーク49が欠損して観測されない不整脈の可能性を指摘することができる。また、図6(c)における評価指数T11は複数の棒で表現されているように評価指数の値にばらつきがあることが視覚的に簡単に判断できる。
このように、本実施の形態においては、特徴値波形を作成して算出される評価指数を評価することによって専門的な知識がなくても簡単に心音の異常を検知することができるのである。
【0037】
続いて、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを使用して心疾患症の心音を解析した結果を図7乃至図11を用いて説明する。
なお、心疾患症の心音データには心音聴診トレーニング用CD教材及びインターネット上のオンライン臨床実習教材に収録されたものを使用し、また、固有振動数pは10Hz、減衰比係数ξを0.7とした。
図7(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、図7(b)は図7(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
図7(a)において、僧帽弁閉鎖不全症の特徴値波形では、持続時間の長いI音ピークと音ピークが繰り返し観察される。僧帽弁閉鎖不全症では、僧帽弁の閉鎖に異常があるために、僧帽弁の閉鎖に関わるI音が止まりにくくII音まで続くことが知られており、図7(a)における特徴値波形は僧帽弁閉鎖不全症の症状を明確に示しているといえる。
また、図7(b)において、評価指数の分布をみると、T1とT2の関係及びT11とT12の関係はいずれも正常値範囲内に入っておらず、心音に異常があることが示唆される。また、T1は0.1から0.5の近傍にまで分布しており、この値は正常な心音のT12(約0.3~0.5)と同じ程度まで観測されていることより、I音が長くII音まで続いていることが容易に推察される。
【0038】
次に、図8(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した不整脈の特徴値波形であり、図8(b)は図8(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、図8(c)は図8(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。これらの図の縦軸と横軸は図6を参照して説明したとおりである。
図8(a)において、不整脈の特徴値波形では、明瞭なI音ピークとII音ピークが繰り返し観察されるが、その間隔が不規則になっていることがわかる。また、図8(b)においては、T1とT2の関係は正常値範囲内に入っているものの、T11とT12の関係は正常値範囲から外れ、特にT11の値が大きく振れている。さらに、図8(c)においても、T11の値にばらつきが大きいことがよくわかる。すなわち、T11の数値に表される心拍のリズムに異常があると判断することができ、不整脈の症状を的確に捉えているといえる。
【0039】
続いて、図9(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した重症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、図9(b)は図9(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
図9(a)において、重症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形では、大動脈弁の閉鎖及び緊張に関わるII音ピークの後に雑音に起因するピークが認められており、大動脈弁閉鎖不全症の症状を示していることがわかる。また、図9(b)では、T11とT12の関係が正常値範囲から大きく外れており、心音に異常があることが明確である。
【0040】
また、図10(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した軽症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、図10(b)は図10(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
図10(a)において、軽症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形では、比較的明瞭なI音ピークとII音ピークが繰り返し観察され、図9(a)に比べると小さいが、II音ピークの後の雑音がわずかに認められる。また、図10(b)において、評価指数の分布をみると、T1とT2及びT11及びT12のいずれの関係についてもほぼ正常値範囲内に入っており、心音の異常を察知するのが困難であると考えられる。そこで、減衰比係数ξを0.3と小さくして特徴値波形の解析を試みた。
【0041】
図11(a)は、図10において減衰比係数を小さくして求めた特徴値波形であり、図11(b)は図11(a)中の符号Aで囲まれた部分の拡大図である。
図11(a)において、減衰比係数ξを0.3と小さくして求めた特徴値波形では、図10(a)に比べると、II音ピークの後に雑音によるピークが強調されて示されている。さらに、図11(b)の拡大図によると、雑音によるピークが明瞭に現れていることがわかる。
このように本実施の形態では、モデルパラメータである減衰比係数ξを変更することによって、見逃しやすい軽症の心疾患症についても正確に解析して診断することが可能であることがわかった。
【0042】
次に、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムにおける解析方法の妥当性の検証について図12乃至図14を参照しながら説明する。
まず、固有振動数の影響について説明する。
図12(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて固有振動数を20Hzの条件で作成した正常心音の特徴値波形であり、図12(b)は同じく固有振動数を5Hzの条件で作成した正常心音の特徴値波形であり、図12(c)は図12(b)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、図12(d)は図12(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
なお、減衰比係数ξは0.707とした。
図12(a)及び図12(b)において、固有振動数を変更すると、固有振動数の大きい図12(a)では、固有振動数の小さい図12(b)に比べて特徴値波形の微細な振動を捉えていることがわかる。したがって、固有振動数は、微細な振動を必要とする場合は大きくするとよく、聴診器の特性、録音状態、心音の個人差及び心疾患の種類の応じて任意に変更することによって解析に適した特徴値波形を得ることができる。
一方、図12(c)及び図12(d)において、評価指数の分布をみると、いずれの固有振動数の場合においても評価指数は正常値範囲内に入っており、また、両者の評価指数はほぼ同値を示していることより、評価指数は固有振動数に依存しないといえる。なお、評価指数における固有振動数の影響を少なくするために、特徴値波形の解析においてノイズを除去する工夫を施している。
【0043】
次に、実測したデータをデジタル聴診解析システムを使用して解析した結果について図13及び図14を用いて説明する。
図13(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した正常心音の特徴値波形の一例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
なお、固有振動数pは10Hzとし、減衰比係数ξは0.707として解析を行った。また、被験者は20代後半の男性の健常者である。
図13(a)において、正常心音の特徴値波形では、明瞭なI音ピークとII音ピークが繰り返して現れており、また、図13(b)において、特徴値波形から算出された評価指数の分布をみると、T1とT2及びT11とT12の関係はいずれも正常値範囲内に入っていることがわかる。さらに、図13(c)では、T1、T2、T11及びT12はいずれもばらつきが少なく、また、ほぼ同頻度であることより、特徴値波形のI音ピーク及びII音ピークは規則的に出現していることが推察される。したがって、この心音は正常であると判断できる。
【0044】
また、図14(a)は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した正常心音の特徴値波形の一例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
なお、図13の場合と同様に、固有振動数pは10Hzとし、減衰比係数ξは0.707として解析を行った。また、被験者は20代後半の男性の健常者である。
図14(a)では、図13(a)と同様に、明瞭なI音ピークとII音ピークが繰り返した特徴値波形が得られている。
一方、図13(b)においては、T1とT2の関係は正常値範囲内に入っているものの、T11とT12の関係は正常値範囲内からわずかに外れている。T11とT12の関係をよくみると、T12は正常値範囲内であるが、T11が正常値範囲内から外れており、これは、被験者が緊張しやすい性格であり、測定時に緊張して心拍が早くなったことが影響していると考えられる。
また、図13(c)では、いずれの評価指数もばらつきが少なく、ほぼ同頻度であることより、被験者は、特に規則正しい心拍リズムを有していると考えられる。
このように、正常な心音であっても、緊張等により心拍数が早くなることがあるので、正常値範囲は統計的な要素の他に個人の特性を考慮しながら設定することが好ましい。
【0045】
次に、図15を参照しながら、鼓膜の振動モデルとして鼓膜の等価質量を2分割してそれぞれm,mとして、質量、ばね、ダンパーから構成される振動系を直列に連成させたものを採用した場合について説明する。図15は、2分割された鼓膜の振動モデルを示す概念図である。
図15において、符号45a,45bは鼓膜、符号46a,46bはばね、そして、符号47a,47bはダンパーであり、鼓膜の等価質量をm,m、ばね定数をk,k、粘性減衰係数をc,c及び聴診器からの心音をSとして、その振動応答をそれぞれx,xとするものである。
なお、本図においても機械的振動系を用いているが、前述のとおり電気的振動系を用いてもよい。
【0046】
このような鼓膜の振動モデルを用いて振動応答x,xを求めた結果について図16乃至図19を参照しながら説明する。
図16は、(a)は2分割された鼓膜の振動モデルを採用した本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全の弁膜症の特徴値波形のうち、図15の振動モデルの振動応答xによる特徴値波形を示す例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
一方、図17の(a)乃至(c)は、それぞれ図16の(a)乃至(c)に対して、振動モデルの振動応答xに代えてxを採用した場合のグラフ図となっている。
これらの図を比較すると、それぞれ(b),(c)では大差がないものの、図16(a)では、図7を参照しながら説明したように、僧帽弁閉鎖不全症が僧帽弁の閉鎖の異常によるものであるために、僧帽弁の閉鎖に関わるI音が止まりにくくII音まで続く状態が示されている。一方、図17(a)では、僧帽弁の閉鎖不全による異常心音がピーク波形として現れている。従って、デジタル聴診解析システムでは抽出が容易であり、より精度の高い診断に供することが可能である。なお、図16(a),図17(a)に薄い灰色で示されるのは心音Sの原波形である。また、この後の図18(a),図19(a)についても同様である。
【0047】
さらに、図18と図19は、図16と図17の関係と同様に、弁膜症においてIII音が聞こえる場合において、それぞれ振動モデルの振動応答xとxを採用した場合のグラフ図を示すものである。
この図18と図19の場合においては、それぞれの(b)には大差が生じていないものの、(a)では、図16と図17と同様に、弁膜症に起因する異常心音がピーク波形で現れていることに加えて、III音も明確にピーク波形として現れていることがわかる。
従って、III音が現れていても、弁膜症に基づく異常心音との識別が容易である。
さらに、図18及び図19の(c)を比較すると、図19(c)の方が、より評価指数のばらつきが少なくなっていることがわかるが、このことによってもより精度の高い解析を行なうことが可能であることがわかる。
また、図16,17を用いて説明したとおり、振動応答xを用いることで、異常心音やIII音の波形がピーク波形として現れるので、デジタル聴診解析システムでの抽出も容易であり、より精度の高い診断に供することが可能である。
なお、本実施の形態においては、振動系を直列に2つ連成させた振動モデルを用いたが、さらに数を増やしたり、並列に連成させてもよい。
【0048】
以上より、本実施の形態では、質量とばね要素と減衰振動要素を組合わせた振動系を1乃至複数連成させた振動モデルに適当な固有振動数や減衰比係数を選択することにより、種々の心音データの解析を精確に行い、心音の異常を簡単に察知することが可能である。
また、実測された心音データについても的確に評価することができ、本解析方法の妥当性が見出せた。
【0049】
最後に、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの解析の処理方法について図20を用いて説明する。
図20は、本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの解析方法を示すフローチャート図である。
図20において、ステップS1は心音データの読込み工程を、ステップS2はモデルパラメータの読込み工程を示している。このステップS1及びステップS2では、演算部の特徴値波形解析部によって、解析入力データベースに格納されている心音データ及びモデルパラメータが読込まれる。なお、モデルパラメータは解析入力データベース以外にもモデルパラメータ入力部から読込むこともできる。また、ステップS1とステップS2の順序はいずれが先であっても構わない。
【0050】
次に、ステップS3は特徴値波形の作成工程を示している。このステップS3では、特徴値波形解析部において、鼓膜の振動モデルに基づいてステップS2で読込まれたモデルパラメータを使用してステップS1で読込まれた心音データから特徴値波形が作成される。そして、図示していないが、作成された特徴値波形はいったん解析結果データベースに格納される。
【0051】
そして、ステップS4はT1の算出工程を示している。このステップS4では、評価指数解析部は解析結果データベースに格納された特徴値波形を読込み、I音ピークからI音の持続時間T1を算出する。そして、算出されたT1を解析結果データベースに格納する。
続いて、ステップS5ではT1が正常値範囲であるか否かを判断する。このステップS5では、異常心音評価部によって、解析結果データベースに格納されているT1と、解析入力データベースに格納されているT1の正常値範囲データが読込まれ、T1とT1の正常値範囲を比較する。そして、T1が正常値範囲内である場合は、ステップS7に進む。また、T1が正常値範囲から外れる場合は、ステップS6に進み、僧帽弁閉鎖不全症又は大動脈弁狭窄症の可能性を忠告する警告メッセージを生成し、表示部又は出力部に表示又は出力する。なお、警告メッセージを警告音や警告ランプに替えることも可能である。
【0052】
次に、ステップS7はT2の算出工程を示している。このステップS7では、ステップS4と同様に、評価指数解析部によって解析結果データベースに格納された特徴値波形が読込まれて、II音ピークからII音の持続時間T2を算出する。そして、算出されたT2を解析結果データベースに格納する。
また、ステップS8ではT2が正常値範囲であるか否かを判断する。このステップS8では、ステップS5と同様に、解析結果データベースに格納されているT2と、解析入力データベースに格納されているT2の正常値範囲データが異常心音評価部によって読込まれてT2とT2の正常値範囲が比較される。そして、T2が正常値範囲内である場合は、ステップS10に進み、一方、T2が正常値範囲から外れる場合は、ステップS9に進み、僧帽弁狭窄症又は大動脈弁閉鎖不全症の可能性を忠告する警告メッセージ等を生成し、表示部等に表示する。
【0053】
続いて、ステップS10はT11の算出工程を示し、ステップS12ではT11が正常値範囲であるか否かを判断する。まず、ステップS10では、評価指数解析部において解析結果データベースに格納された特徴値波形が読込まれ、I音ピークと次のI音ピークまでの持続時間T11を算出し、算出したT11を解析結果データベースに格納する。
そして、ステップS11では、異常心音評価部において解析結果データベースに格納されているT11と、解析入力データベースに格納されているT11の正常値範囲データが読込まれ、T11とT11の正常値範囲が比較される。T11が正常値範囲内である場合は、ステップS13に進み、T11が正常値範囲から外れる場合は、ステップS12に進む。そして、ステップS12では、不整脈の可能性を忠告する警告メッセージ等を生成し、表示部等に表示するのである。
【0054】
さらに、ステップS13はT12の算出工程を示し、ステップS14ではT12が正常値範囲であるか否かを判断する。同様に、ステップS13では、評価指数解析部によって解析結果データベースに格納された特徴値波形が読込まれ、I音ピークとII音ピークからI音とII音の持続時間T12が算出されて解析結果データベースに格納される。
そして、ステップS14では、異常心音評価部によって解析結果データベースに格納されているT12と、解析入力データベースに格納されているT12の正常値範囲データが読込まれてT12とT12の正常値範囲が比較される。
T12が正常値範囲から外れる場合は、ステップS15に進み、僧帽弁閉鎖不全症の可能性を忠告する警告メッセージ等を生成し、表示部等に表示する。
一方、T12が正常値範囲内である場合は、最後のステップS16に進み、心音は異常ないことを知らせるメッセージを作成して、表示部に表示して、解析を終了する。
【0055】
なお、本実施の形態においては、算出される持続時間T1、T2、T11及びT12の全てについて正常値範囲と比較して異常を検知する方法を示したが、全ての持続時間を評価対象としなくても、いずれか1の持続時間又はその組合せについて評価する方法にしてもよい。また、本実施の形態においては、T1を算出してT1に関する正常値範囲と比較して、その範囲から外れる場合に警告メッセージ等を生成し、次にT2を算出するというように各評価指数を順次計算する工程を示したが、最初に4つの評価指数をすべて算出し、それぞれの正常値範囲と比較して、症状の判断を行ってもよい。このようなアルゴリズムでは、すべての症状の可能性について同時に判断することが可能である。
また、本実施の形態では、たとえば、T1において正常値範囲に入らなければステップS6で僧帽弁閉鎖不全症又は大動脈弁狭窄症の可能性と判断され、その後の評価指数の算出は実施されないようなフローとなっているが、もちろん、たとえステップS5でNoとなり、ステップS6に進んでも再度そこからステップS7に進むようなアルゴリズムであってもよい。これはステップS5,6の他、ステップS8,9やステップS11,12においても同様である。このようなアルゴリズムにおいても、すべての症状の可能性について判断することが可能である。
なお、T1,T2,T11,T12に代えて、前述のとおり、心臓弁のいずれかの弁の閉鎖音に関して持続時間や、同一弁あるいは異なる弁の閉鎖音間持続時間、あるいはこれらを適宜組合わせたものを評価するようにしてもよい。
【0056】
このように構成された本実施の形態においては、専門知識を有さないと診断しにくい聴診器からの心音を鼓膜の振動モデルに基づいて特徴値波形を作成し、この特徴値波形に含まれる心臓弁の動作に関わる評価指数から種々の診断を行うので、一般家庭等において簡単に心疾患等の病気の有無を察知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明の請求項1及び請求項2に記載された発明は、心音の異常を簡単に診断するデジタル聴診解析システムを提供可能であり、病院や診療所以外にも一般家庭において使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)は本発明の本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いた無線聴診システムの送信部の構成図であり、(b)は同じくデジタル聴診解析システムを用いた無線聴診システムの受信部の構成図である。
【図2】本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの構成図である。
【図3】人の心臓の概念図である。
【図4】鼓膜の振動モデルを示す概念図である。
【図5】(a)は鼓膜の振動モデルに基づいて正常心音から振動応答xを求めた結果を示すチャート図であり、(b)は同じく鼓膜の振動モデルに基づいて僧帽弁閉鎖不全心音から振動応答xを求めた結果を示すチャート図である。
【図6】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した特徴値波形からの評価指数の求め方を示す説明図であり、(b)は評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図7】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
【図8】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した不整脈の特徴値波形であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図9】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した重症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
【図10】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した軽症の大動脈弁閉鎖不全症の特徴値波形であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
【図11】(a)は図10において減衰比係数を小さくして求めた特徴値波形であり、(b)は図11(a)中の符号Aで囲まれた部分の拡大図である。
【図12】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて固有振動数を20Hzの条件で作成した正常心音の特徴値波形であり、(b)は同じく固有振動数を5Hzの条件で作成した正常心音の特徴値波形であり、(c)は(b)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(d)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図である。
【図13】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した正常心音の特徴値波形の一例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図14】(a)は本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した正常心音の特徴値波形の一例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図15】2分割された鼓膜の振動モデルを示す概念図である。
【図16】(a)は2分割された鼓膜の振動モデルを採用した本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全の弁膜症の特徴値波形のうち、図15の振動モデルの振動応答xによる特徴値波形を示す例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図17】(a)は2分割された鼓膜の振動モデルを採用した本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全の弁膜症の特徴値波形のうち、図15の振動モデルの振動応答xによる特徴値波形を示す例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図18】(a)は2分割された鼓膜の振動モデルを採用した本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全の弁膜症の特徴値波形のうち、図15の振動モデルの振動応答xによる特徴値波形を示す例のうち、特にIII音が聞こえる例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図19】(a)は2分割された鼓膜の振動モデルを採用した本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムを用いて作成した僧帽弁閉鎖不全の弁膜症の特徴値波形のうち、図15の振動モデルの振動応答xによる特徴値波形を示す例のうち、特にIII音が聞こえる例であり、(b)は(a)から求めた評価指数の関係を示すグラフ図であり、(c)は(a)から求めた評価指数と頻度の関係を示すグラフ図である。
【図20】本実施の形態に係るデジタル聴診解析システムの解析方法を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0059】
1…無線聴診システム送信部 2…マイク入力 3…トリガー無線送信機 4…プリアンプ 5…ノイズフィルタ 6…オーディオ無線送信機 7…パワーアンプ 8…イヤホン/コンピュータ 9…ICレコーダ 10…マイクロコントローラ 11…外部メモリ 12…無線聴診システム受信部 13…オーディオ無線受信機 14…トリガー無線受信機 15…オートチューニングアンプ 16…イヤホン 17…コンピュータ 18…コンピュータ 19…デジタル聴診解析システム 20…演算部 21…特徴値波形解析部 22…評価指数解析部 23…異常心音評価部 24…表示部 25…モデルパラメータ入力部 26…解析入力データベース 27…心音データ 28…モデルパラメータ 29…正常値範囲データ 30…解析結果データベース 31…特徴値波形 32…T1データ 33…T2データ 34…T11データ 35…T12データ 36…心臓 37…左心房 38…左心室 39…僧帽弁 40…大動脈弁 41…右心房 42…右心室 43…三尖弁 44…肺動脈弁 45,45a,45b…鼓膜 46,46a,46b…ばね 47,47a,47b…ダンパー 48…I音ピーク 49…II音ピーク m,m,m…鼓膜の等価質量 k,k,k…ばね定数 c,c,c…粘性減衰係数 S…心音 x,x,x…鼓膜の振動応答 p…固有振動数 ξ…減衰比係数
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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