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明細書 :急速な酸化による変色の速さから牛肉の肉色保持日数を予測する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4534035号 (P4534035)
公開番号 特開2006-064629 (P2006-064629A)
登録日 平成22年6月25日(2010.6.25)
発行日 平成22年9月1日(2010.9.1)
公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
発明の名称または考案の名称 急速な酸化による変色の速さから牛肉の肉色保持日数を予測する方法
国際特許分類 G01N  33/12        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
FI G01N 33/12
G01N 33/68
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2004-249921 (P2004-249921)
出願日 平成16年8月30日(2004.8.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年3月20日 社団法人日本畜産学会発行の「日本畜産学会 第103回大会 講演要旨」に発表
審査請求日 平成19年7月18日(2007.7.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】松本 和典
【氏名】村元 隆行
【氏名】柴田 昌宏
【氏名】相川 勝弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 特開2003-121351(JP,A)
特開2003-083883(JP,A)
特開2001-208747(JP,A)
特開平3-096838(JP,A)
特開平10-295263(JP,A)
松本和典、柴田昌宏、村元隆行、安藤貞、相川勝弘,牛肉の肉色保持日数の予測技術に関する検討,日本畜産学会大会第103回大会講演要旨,日本,2004年 3月20日,第163頁
調査した分野 G01N 33/12
G01N 33/48-33/98
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
試料牛肉から採取した筋肉を30~40℃の温度条件下において、該筋肉中のメトミオグロビン割合を経時的に測定し、その割合が30%に達する時間(x)を求め、これを下記の回帰式に代入して、通常の保存条件下における試料牛肉の変色時期(y)を予測することを特徴とする牛肉の肉色保持日数を予測する方法。
y = 0.7618 x + 1.0267
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、牛肉の変色予測方法に関し、詳しくは取引段階で牛肉の日持ちの良さを判断するための、牛肉の変色(褐変)を早期に予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
牛肉において肉の色が小売段階でいかに重要であるかを調べた報告がある。それによると、日本の消費者の約6割が牛肉の購入に際して肉の色を最も重視すると答えている。
牛肉の色を決定する因子はいくつかあるが、ほとんどミオグロビンによって決定されると考えてよい。ミオグロビンは、筋肉内で酸素を貯蔵する役割をもつ色素タンパクである。枝肉の新鮮な切り口や肉塊の中は暗赤色の還元型ミオグロビンであり、この還元型ミオグロビンは、空気中の酸素と容易に結びついて、15~30分ほどで鮮紅色のオキシミオグロビンになる。
この色が店頭で見られる、消費者に最も好まれる肉の色であるが、オキシミオグロビンは自動酸化によって褐色のメトミオグロビンに変わる。ミオグロビンのうち30~40%以上がメトミオグロビンに酸化されると、肉の変色が目に見えて分かり、消費者の購買意欲がなくなると言われている。
【0003】
このオキシミオグロビンからメトミオグロビンへの酸化は、(1)筋肉部位、(2)屠殺月齢、(3)飼養条件、(4)抗酸化物質(ビタミンEなど)の含有量などによって速さが大きく異なる。
しかしながら、牛肉が新鮮な段階で肉色安定性を判断することは難しいため、例えばビタミンEを給与して肥育した「日持ちがよい」という牛肉の付加価値は、枝肉格付けや牛肉の取引段階では評価されにくい。
したがって、取引段階で牛肉の日持ちの良さを判断するためには、牛肉の変色(褐変)を早期に予測する技術の開発が必要であるが、これまでにかかる技術開発に関する報告はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、牛肉の変色を、新鮮な段階で早期に予測する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、検討を重ねた結果、牛の筋肉を急速に酸化させ、単位時間に生成されるメトミオグロビンの割合から、牛肉の変色を予測できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
請求項1に記載の本発明は、試料牛肉から採取した筋肉を30~40℃の温度条件下において、該筋肉中のメトミオグロビン割合を経時的に測定し、その割合が30%に達する時間(x)を求め、これを下記の回帰式に代入して、通常の保存条件下における試料牛肉の変色時期(y)を予測することを特徴とする牛肉の肉色保持日数を予測する方法である。
y = 0.7618 x + 1.0267
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、牛肉の変色(褐変)を新鮮な段階で早期に予測することができるため、取引段階で牛肉の日持ちの良さを的確に判断することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明が適用される牛肉には制限がなく、例えば黒毛和種、交雑種、ホルスタイン種、褐毛和種などに由来し、市場に供給されるものが挙げられる。また、牛肉の部位、屠殺月齢、牛の飼養条件などについても限定されない。
【0009】
本発明は、ミオグロビンの酸化に伴う肉色の変化に着目して牛肉の変色を予測する方法である。そのため、試料の牛肉から筋肉を採取する。屠殺した牛を解体して得た牛肉から採取した筋肉は、採取後直ちに実験に供することができるが、直ちに用いない場合は、屠殺した牛を解体して得た牛肉を真空包装して低温、通常は3~5℃、好ましくは4℃で冷蔵する。このようにして保存すると、牛肉は熟成され、店頭における通常の展示牛肉と同様の状態になるため、肉色の保持日数を測定するために好ましい。なお、保存期間は、3~5日程度が適当である。
筋肉の種類としては、例えば半腱様筋、半膜様筋、中殿筋、胸最長筋、腰最長筋、大腰筋などがあり、検査すべき試料牛肉から必要な筋肉部位を採取する。
枝肉の新鮮な切り口は、還元型ミオグロビンに起因する暗赤色を呈しているが、空気中の酸素と反応して15~30分ほどで鮮紅色のオキシミオグロビンに変化する。これが、ブルーミングと称される反応である。しかし、消費者に最も好まれるこの色がそのまま保持されるわけではなく、経時的にさらに酸化されて褐色のメトミオグロビンに変化する。
【0010】
店頭における通常の展示条件である蛍光灯照射下に4℃で牛肉を保持した場合、ミオグロビンの30~40%がメトミオグロビンに酸化されると、肉の変色が目立つようになり、消費者の購買意欲がなくなると言われている。
そこで、本発明者らは、可及的速やかにミオグロビンの30~40%がメトミオグロビンに酸化される条件について検討した結果、牛肉から筋肉部位を採取し、これを室温より高い所定の温度、通常は30~40℃、好ましくは35~38℃の下で保持すれば良いことを見出した。かかる人為的に設定した条件に保持すると、筋肉は迅速に酸化される。
【0011】
なお、ミオグロビンのメトミオグロビンへの酸化割合(Met(%))は、Stewartらの方法(J. Food Sci., 30, p464-469, 1964)にしたがい、以下のように求めることができる。
試料の520、530、570および580mμにおける各スペクトル反射率(CL(λ)、単位は%)を測定して、下記のようにしてCL(525)およびCL(572)を近似的に算出する。次に、CL(525)とCL(572)を100で割って反射率R(λ)に換算し、この値をもとにKS(λ)を以下の計算式により求める。
CL(525)=CL(520) -{ CL(520) - CL(530) }× 1/2
CL(572)=CL(570) -{ CL(570) - CL(580) }× 1/5
R(525)=CL(525) /100
R(572)=CL(572) /100
【0012】
なお、KS(λ)はkubelka-Munk関数といい、光学濃度を表す。物体の反射率は濃度に比例しないため、ある種の関数に変換して濃度に比例するような値に直さなければならず、その場合、一般にこのkubelka-Munk関数が広く使われる。
ここで、α=KS(572)/KS(525)とすると、αとMet(%)との関係は一次式になるので、図1のグラフからMet(%)の値を算出することができる。
【0013】
KS(λ)=[{1-R(λ)}2]/{2×R(λ)}
α=KS(572)/KS(525)
Met(%)=-10000×α/84+1000/6
【0014】
このようにして、試料牛肉から採取した筋肉を、上記の人為的に設定した条件下において酸化させ、経時的にメトミオグロビンの割合を測定し、その変化率に基づいてミオグロビンの割合が30%に達した時間(変色時間)を推定することができる。
一方、試料牛肉から採取した筋肉を、通常の展示条件である蛍光灯照射下に4℃で保持した場合についても、上記と同じ方法でメトミオグロビンの割合が30%に達するまでの期間(変色日数、すなわち変色時期)を求める。
次に、このようにして得られた各筋肉部位ごとの変色時間と変色日数を散布図にプロットし、両者の関係から最小自乗法による線形近似式(回帰式)を作成する。
例えば、半腱様筋におけるメトミオグロビン割合のデータ〔Met(%)〕が下記のような場合、30%に達する日数は、5日目と6日目の間になる。
日数 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
半腱様筋 15.7 18.6 24.8 26.6 27.9 28.4 33.6 35.4 42.7 66.1 75.8
求める変色日数(x)は、x=5+(6-5)×(30-28.4)/(33.6-28.4)の方程式から得られる。これは、excelで計算式を入力することにより得られる。37℃で酸化させた場合の変色時間も同様にして得られる。
得られたデータを、excel で散布図を作成し、オプションで回帰式が求められる。
【0015】
ミオグロビンからメトミオグロビンへの酸化は、前記したように、牛の屠殺月齢、筋肉部位、飼養条件、抗酸化物質(ビタミンEなど)の含有量などによって速さが大きく異なるが、一般的には、通常の展示条件における酸化速度に比べて、人為的に設定した酸化条件における酸化速度は約26倍である。
そのため、本発明の方法によれば、極めて短時間に試料牛肉の変色時期を予測することができる。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0017】
実施例1
〔材料および方法〕
近畿中国四国農業研究センターにおいて肥育し、28ヵ月齢で屠殺した黒毛和種去勢肥育牛から半腱様筋(そともも)、半膜様筋(うちもも)、中殿筋(らんいち)、胸最長筋(リブロース)、腰最長筋(サーロイン)、大腰筋(ヒレ)を採取した。
採取した筋肉は、真空包装して試験に供するまで4℃で保存した。
屠殺から分析試験に至る一般的スケジュールは以下の通りである。
【0018】
月曜日:屠殺→枝肉(0℃で冷蔵)
火曜日:格付け(市場と同じ方法)
水曜日:解体→部分肉(真空パック)
木曜日~日曜日:サンプル保存期間
月曜日:メトミオグロビン割合の測定開始日(都合により1日ずれる場合あり)
【0019】
真空パックのサンプルは、屠殺から1週間後に真空パックから出して、厚さ1cm、直径3cmの円柱状サンプルを作成し、プラスチック皿に乗せ、4℃で30分冷蔵庫に入れた(ブルーミングのため。還元型ミオグロビンが残っていると、スペクトル反射率のデータが不正確になるため、測定開始時にはすべてオキシ型にする必要がある。)。
これを酸素透過性のラップで包み、4℃にて蛍光灯下で展示(通常展示)し、0~9日目における肉表面のメトミオグロビン割合(筋肉の変色割合)を毎日測定した。
【0020】
メトミオグロビン割合の測定は、前記Stewartの方法(反射吸光分析法)によって非破壊的に求めた。すなわち、分光式色差計(日本電色工業製:SE2000)を用いて、580,570,530および520mμの各スペクトル反射率(CL(λ)、単位は%)を非破壊に測定する。このデータからCL(572),CL(525)の反射率を計算する。CL(525)とCL(572)を100で割って得た反射率R(λ)をもとにKS(λ)、αを前出の式により求める。さらに、αの値をもとに図1のグラフからMet(%)の値を求める。このようにして得られた通常展示条件下における各筋肉部位のMet(%)の経時的変化を図2に示す。
また、同様にして得られた筋肉サンプルを37℃でインキュベート(人為的酸化条件)し、1時間ごとに6時間メトミオグロビン割合を測定した(測定方法は、上記と同じである。)。人為的酸化条件下における各筋肉部位のMet(%)の経時的変化を図3に示す。
図2、3から分かるように、人為的酸化条件下(37℃)でのメトミオグロビン生成速度は、通常展示条件下の約26倍であった。また、Met(%)が30%に達するのは、通常展示条件下では、大腰筋=中殿筋>半膜様筋>半腱様筋>胸最長筋>腰最長筋の順で速く、人為的酸化条件下では、大腰筋>中殿筋>半膜様筋>半腱様筋>胸最長筋=腰最長筋の順で速かった。
【0021】
図2および図3のグラフをもとに、通常の展示条件下でメトミオグロビン割合が30%に達する日数(酸化日数、すなわち肉色保持日数)と、人為的酸化条件下でメトミオグロビン割合が30%に達する時間(酸化時間)を近似的に求めた。
次に、同一の牛の採取したすべての部位についての上記酸化日数および酸化時間の関係をプロットした散布図を図4に示す(N=65)。この散布図について線形回帰分析を行った。得られた近似式を以下に示す。この式により、人為的な急速酸化条件下における酸化時間から、通常の展示条件下における肉色保持日数を推定することができる。酸化(変色)の目安はメトミオグロビン割合が30%に達する時間(日数)である。なお、Rは重相関係数(実測値と予測値の相関係数)、p<0.01は1%水準で有意であることを表す。また、Nはサンプル数を表す。
【0022】
y = 0.7618 x + 1.0267
R= 0.8241 (p<0.01)
(yは通常展示条件下でMet(%)が30%に達するまでの日数、すなわち肉色保持日数を、xは人為的酸化条件下でMet(%)が30%に達するまでの時間を表す。)
【0023】
また、各筋肉部位ごとに酸化日数および酸化時間の関係をプロットした散布図を図5-1~図5-6に示す。それぞれの散布図について線形回帰分析を行い、得られた近似式および相関係数を図中に示す。
この図から、特に大腰筋、胸最長筋、および中殿筋において相関係数が大きく、上記酸化時間と酸化日数(肉色保持日数)の関係が直線的であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、枝肉格付けや牛肉の取引段階で的確に肉色安定性を判断することが可能であるため、小売段階において非常に重要である肉色の変化を考慮した適切な取引を行うことができる。そのため、本発明は畜産業界・流通業界に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】筋肉中のメトミオグロビン割合(%)と、反射吸光分析法によって求めた試料のα値(KS(572)/KS(525))との関係を示す。
【図2】通常展示条件下(4℃、蛍光灯下)での各筋肉部位におけるメトミオグロビン割合(%)の経時的変化を示す。図中、LLは腰最長筋、LTは胸最長筋、STは半腱様筋、SMは半膜様筋、PMは大腰筋、GMは中殿筋を示す。
【図3】人為的酸化条件下(37℃)での各筋肉部位におけるメトミオグロビン割合(%)の経時的変化を示す。図中の記号は図2に同じ。
【図4】通常展示条件下における酸化日数(肉色保持時間)と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-1】大腰筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-2】胸最長筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-3】半膜様筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-4】腰最長筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-5】中殿筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
【図5-6】半腱様筋の通常展示条件下における酸化日数と、人為的酸化条件下における酸化時間との関係を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5-1】
4
【図5-2】
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【図5-3】
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【図5-4】
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【図5-5】
8
【図5-6】
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