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明細書 :カイコ中部絹糸腺特異的遺伝子発現系を利用したタンパク質の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5131798号 (P5131798)
公開番号 特開2006-137739 (P2006-137739A)
登録日 平成24年11月16日(2012.11.16)
発行日 平成25年1月30日(2013.1.30)
公開日 平成18年6月1日(2006.6.1)
発明の名称または考案の名称 カイコ中部絹糸腺特異的遺伝子発現系を利用したタンパク質の製造方法
国際特許分類 C07K   1/00        (2006.01)
A01K  67/033       (2006.01)
A01K  67/04        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07K 1/00 ZNA
A01K 67/033 501
A01K 67/04 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 46
全頁数 24
出願番号 特願2005-072401 (P2005-072401)
出願日 平成17年3月15日(2005.3.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年3月29日岩手大学において開催された社団法人日本蚕糸学会主催の「2004日本蚕糸学会第74回学術講演会」において文書を持って発表
特許法第30条第1項適用 日本蚕糸学会第74回学術講演会講演要旨集(平成16年3月29日)社団法人日本蚕糸学会発行第51頁に発表
優先権出願番号 2004279527
優先日 平成16年9月27日(2004.9.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年8月17日(2007.8.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】田村 俊樹
【氏名】瀬筒 秀樹
【氏名】小林 功
【氏名】小島 桂
【氏名】神田 俊男
【氏名】内野 恵郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2003-325188(JP,A)
BIO INDUSTRY,2004年 3月12日,Vol. 21, No. 3,pp. 28-35
平成15年度の主要な研究成果,2004年 5月28日,p. 24,25
調査した分野 C07K 1/00
A01K 67/033
A01K 67/04
C12N 15/09
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)および(b)の工程を含む、任意のタンパク質の製造方法:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA、および該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコを製造する工程
(b)製造されたトランスジェニックカイコから、該任意のタンパク質を回収する工程。
【請求項2】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA、および該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵を製造する工程を含む、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコの製造方法。
【請求項3】
トランスジェニックカイコが、任意のタンパク質を中部絹糸腺細胞から中部絹糸腺内腔に分泌するトランスジェニックカイコである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
トランスジェニックカイコが、以下の(i)および(ii)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることで製造される、請求項1~3のいずれかに記載の方法:
(i)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ。
【請求項5】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUAS、または、転写制御因子がTetRであり、標的プロモーターがTREである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
以下の(a)および(b)の工程を含む、任意のタンパク質の製造方法:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNA、およびUASの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコを製造する工程
(b)製造されたトランスジェニックカイコから、該任意のタンパク質を回収する工程。
【請求項8】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNA、およびUASの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵を製造する工程を含む、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコの製造方法。
【請求項9】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、請求項1~8のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、プロモーター活性能を持つDNA。
【請求項10】
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
トランスジェニックカイコが裸蛹系統のカイコ由来である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
トランスジェニックカイコがセリシン蚕由来である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
トランスジェニックカイコがNd-sD由来である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA、および該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコ。
【請求項15】
任意のタンパク質を中部絹糸腺細胞から中部絹糸腺内腔に分泌する、請求項14に記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項16】
以下の(i)および(ii)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることで製造される、請求項14または15に記載のトランスジェニックカイコ:
(i)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ。
【請求項17】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUAS、または、転写制御因子がTetRであり、標的プロモーターがTREである、請求項1416のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項18】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、請求項1416のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項19】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNA、およびUASの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコ。
【請求項20】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、請求項14~19のいずれか一項に記載のトランスジェニックカイコ:
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、プロモーター活性能を持つDNA。
【請求項21】
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、請求項1420のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項22】
裸蛹系統のカイコ由来である、請求項1421のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項23】
セリシン蚕由来である、請求項1421のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項24】
Nd-sD由来である、請求項1421のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項25】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ。
【請求項26】
転写制御因子がGAL4またはTetRである、請求項25に記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項27】
転写制御因子がGAL4である、請求項25に記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項28】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ。
【請求項29】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、請求項25~28のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ:
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、プロモーター活性能を持つDNA。
【請求項30】
裸蛹系統のカイコ由来である、請求項2529のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項31】
セリシン蚕由来である、請求項2529のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項32】
Nd-sD由来である、請求項2529のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
【請求項33】
以下の(a)および(b)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれかに記載の方法に用いるためのDNA:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA
(b)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA。
【請求項34】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUAS、または、転写制御因子がTetRであり、標的プロモーターがTREである、請求項33に記載のDNA。
【請求項35】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、請求項33に記載のDNA。
【請求項36】
以下の(a)および(b)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれかに記載の方法に用いるためのDNA:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNA
(b)UASの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA。
【請求項37】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、請求項33または36に記載のDNA:
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、プロモーター活性能を持つDNA。
【請求項38】
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、請求項3337のいずれかに記載のDNA。
【請求項39】
請求項1~13のいずれかに記載の方法に用いるための、以下の(a)および(b)のDNAの組み合わせからなるキット:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA
(b)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA。
【請求項40】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUAS、または、転写制御因子がTetRであり、標的プロモーターがTREである、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、請求項39に記載のキット。
【請求項42】
請求項1~13のいずれかに記載の方法に用いるための、以下の(a)および(b)のDNAの組み合わせからなるキット:
(a)セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合したGAL4をコードするDNA
(b)UASの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA。
【請求項43】
セリシン1タンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、請求項39または42に記載のキット:
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAであって、プロモーター活性能を持つDNA。
【請求項44】
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、請求項39~43のいずれかに記載のキット。
【請求項45】
トランスポゾンの逆位末端反復配列の間に、請求項3338のいずれかに記載のDNAを挿入したベクター。
【請求項46】
請求項45に記載のベクターとトランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)を含むキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カイコ中部絹糸腺特異的遺伝子発現系を利用したタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質を生産する方法として、大腸菌や酵母、哺乳動物の培養細胞、植物や動物の個体を使う方法等が知られている。これらの方法はいずれも短所と長所があり、生産しようとするタンパク質の性質や使用目的に応じて、使い分けられている。
【0003】
昆虫を使った組換えタンパク質の生産系については、これまでに鱗翅目昆虫の核多角体病ウイルスによる方法と組換えカイコを用いる方法が開発されている。前者はベクターとしてDNA型のウイルスを用いている。そのため、比較的容易に組換えウイルスを作出し、これをカイコなどの幼虫個体に感染させることができる。感染後、ウイルスは昆虫の個体内で増殖し、これに伴ってウイルス中に導入した遺伝子から組換えタンパク質が合成される。この場合、ウイルス感染後の幼虫は数日後には死滅し、死ぬ直前のカイコ体液を採取してタンパク質を精製する。そのため、生産できるタンパク質量は多くの場合、体液1ml当たり1mg以下で、精製に多くの労力を要するという問題点がある。
【0004】
組換えカイコを用いる方法は、カイコの絹糸線という特殊な器官を利用する。絹糸腺は前部、中部、後部に分けられ、異なった機能を持っている。即ち、前部絹糸腺はほとんどタンパク質の生産機能はなく、繭糸タンパク質の75%は後部絹糸腺において、残りの25%は中部絹糸腺で生産される。作られるタンパク質は後部絹糸腺ではフィブロインであり、中部絹糸腺ではセリシンである。これまでの研究で後部絹糸腺特異的な遺伝子発現系を作出してきたが、中部絹糸腺については組換えタンパク質を作るのに成功した例はない。

【非特許文献1】田村俊樹(1999)トランスポゾンを利用した形質転換カイコの作出方法.第7回昆虫機能研究会講演要旨、p49-56.
【非特許文献2】Horn, C., B. Jaunich and E. A. Wimmer,(2000)Highly sensitive, fluorescent transformation marker for Drosophila transgenesis. Dev Genes Evol 210: 623-629.
【非特許文献3】Horn, C., and E. A. Wimmer,(2000)A versatile vector set for animal transgenesis. Dev Genes Evol 210: 630-637.
【非特許文献4】Thomas, J. L., M. Da Rocha, A. Besse, B. Mauchamp and G. Chavancy, 2002 3xP3-EGFP marker facilitates screening for transgenic silkworm Bombyx mori L. from the embryonic stage onwards. Insect Biochem Mol Biol 32: 247-253.
【非特許文献5】Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P. (2000) Germline transformation of the silkworm Bombyx mori L. using a piggyBac transposon-derived vector Nature Biotechnology 18, 81-84.
【非特許文献6】Berghammer, A. J., M. Klingler and E. A. Wimmer,(1999) A universal marker for transgenic insects. Nature 402: 370-371.
【非特許文献7】富田正浩、佐藤勉、安達敬泰、宗綱洋人、田村俊樹、神田俊男、吉里勝利(2001)ヒトコラーゲン遺伝子を組み込んだトランスジェニックカイコの作出.第24回日本分子生物学会年会講演要旨.p.854
【非特許文献8】Tomita M, M. H., Sato T, Adachi T, Hino R, Hayashi M, Shimizu K, Nakamura N, Tamura T, Yoshizato K.,(2003)Transgenic silkworms produce recombinant human type III procollagen in cocoons. Nat Biotechnol 21, 52-56
【非特許文献9】田村俊樹(2000)トランスジェニックカイコ:現状と展望.日蚕雑69、1-12.
【非特許文献10】田村俊樹(2000)カイコ発生における有用遺伝子導入.第21回基礎育種シンポジウム報告:動植物分子育種における発生工学的手法の展開。p23-29.
【非特許文献11】Tamura, T., Quan, G.X., Kanda, T., and Kuwabara, N. (2001) Transgenic silkworm research in Japan: Recent progress and future. Proceeding of Joint International Symposium of Insect COE Research Program and Insect Factory Research Project. p77-82.
【非特許文献12】Imamura, M., Nakai, J., Inoue, S., Quan, G-X., Kanda T., and Tamura, T.(2003)Targeted gene expression using the GAL4/UAS system in the silkworm Bombyx mori. Genetics 165, 1329-1340.
【非特許文献13】Inoue, S., Tanaka, K., Tanaka, H., Ohtomo, K., Kanda, T., Imamura, M., Quan, G-X., Kojima, K., Yamashita, T., Nakajima, T., Taira, H., Tamura, T., and Mizuno, S. (2004) Assembly of the silk fibroin elementary unit in endoplasmic reticulum and a role of L-chain for protection of α1,2-mannose residues in N-linked oligosaccharide chains of fibrohexamerin/P25. Eur. J. Biochem. 271, p356-366.
【非特許文献14】Tamura, T. (2003) Silkworms: Germ line transformation technology and production of useful substance. Farming Japan 37(3), 20-25.
【非特許文献15】山田勝成・田中 貴・平松紳吾・田村俊樹(2003)絹糸中に生理活性タンパク質を産生する組換えカイコの作出.ブレインテクノニュース 97, 6-10.
【非特許文献16】田村俊樹(2003)遺伝子組換えカイコと新繊維.高分子 52 (11), 822-825.
【非特許文献17】田村俊樹(2004)組換え体カイコを利用した有用物質の生産系の開発とその展望.バイオインダストリー21(3)、28-35.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、カイコの中部絹糸線における組換えタンパク質の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。セリシン1遺伝子の上流約1kbをプロモーター領域として用い、これをGAL4遺伝子の上流に挿入した。さらに、組換えカイコ作出用のベクタープラスミドにこの融合遺伝子を挿入した。組換えカイコの作出はTamura ら(2000)の方法によって行った。得られた組換えカイコはImamuraら(2003)の方法で作出されたGAL4の標的配列UASの下流にレポーターとして緑色蛍光タンパク質遺伝子をもつUASGFPホモの系統と交配した。交配によって得られた組換えカイコの最終齢の幼虫の絹糸腺を観察した結果、この系統では中部絹糸腺でのみ蛍光が観察された。また、吐糸期ころからGFPは中部絹糸腺の細胞から分泌され、GFPが腺腔内に移動していることがわかった。最終的にはGFPは繭糸として吐糸され、GFPを大量に含む繭が作られた。このように、本研究で用いたGFP遺伝子は分泌のためのシグナル配列を有していないにも関わらず大量に中部絹糸腺内腔に分泌され、繭糸に移行することが明らかになった。
【0007】
すなわち本発明は、カイコの中部絹糸線における組換えタンパク質の生産方法に関し、以下の〔1〕~〔19〕を提供するものである。
〔1〕
以下の(a)および(b)の工程を含む、任意のタンパク質の製造方法。
(a)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコを製造する工程
(b)製造されたトランスジェニックカイコから、該任意のタンパク質を回収する工程
〔2〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵を製造する工程を含む、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコの製造方法。
〔3〕
トランスジェニックカイコが、以下の(i)および(ii)に記載のDNAを有するトランスジェニックカイコである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA
〔4〕
トランスジェニックカイコが、以下の(i)および(ii)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることで製造される、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
〔5〕
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、〔3〕または〔4〕に記載の方法。
〔6〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、セリシン1タンパク質またはセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNA
〔8〕
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコ。
〔10〕
以下の(i)および(ii)に記載のDNAを有する、〔9〕に記載のトランスジェニックカイコ。
(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA
〔11〕
以下の(i)および(ii)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることで製造される、〔9〕または〔10〕に記載のトランスジェニックカイコ。
(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ
〔12〕
転写制御因子がGAL4であり、標的プロモーターがUASである、〔10〕または〔11〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔13〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、セリシン1タンパク質またはセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターである、〔9〕~〔12〕のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
〔14〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、〔9〕~〔12〕のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNA
〔15〕
任意のタンパク質が、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質である、〔9〕~〔14〕のいずれかに記載のトランスジェニックカイコ。
〔16〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ。
〔17〕
転写制御因子がGAL4である、〔16〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔18〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、セリシン1タンパク質またはセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターである、〔16〕または〔17〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔19〕
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターが、以下の(a)または(b)である、〔16〕または〔17〕に記載のトランスジェニックカイコ。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNA
【発明の効果】
【0008】
カイコの繭糸タンパク質量から見ると後部絹糸腺で合成されるフィブロインが75%であるのに対し、中部絹糸腺で合成されるセリシンは約25%であり、セリシンの相対的な生産量はフィブロインには及ばない。しかし、フィブロインは繊維タンパク質で水に非常に溶けにくいこと、フィブロインを合成する後部絹糸腺で合成されたタンパク質の分泌はかなり厳密な制御をうけており後部絹糸腺細胞から大量に内腔に分泌させるためにはフィブロインH鎖またはL鎖の配列の一部を使う必要があること、しかも分泌されるタンパク質はこれらの不要なアミノ酸配列との融合タンパク質になるとういう欠点があること等を考慮すると、中部絹糸腺において組換えタンパク質を生産する系は、後部絹糸腺より繊維性ではないタンパク質の生産に適していると思われる。さらに、セリシンはフィブロインと比較するとはるかに水に溶けやすいタンパク質であることや、本実験で明らかになったように、特殊なシグナル配列がなくても腺腔内に分泌されることは、タンパク質生産系として有利な点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、以下の(a)および(b)の工程を含む、任意のタンパク質の製造方法を提供する。
(a)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコを製造する工程
(b)製造されたトランスジェニックカイコから、該任意のタンパク質を回収する工程
【0010】
本発明のトランスジェニックカイコを製造する工程においては、まず、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵を製造する。次いで、製造されたカイコ卵から生じたカイコの中から、任意のタンパク質を発現するトランスジェニックカイコを選択する。
【0011】
本発明において、トランスジェニックカイコを選択するには、例えば、選択マーカーを用いて行うことができる。本発明における選択マーカーとしては、当業者において一般的に使用されるマーカー、例えば、CFP、GFP、YFP、DsRed等の蛍光タンパク質を使用することができる。これらのマーカーを用いることにより、実体蛍光顕微鏡で観察するだけでトランスジェニックカイコを検出することができる。また、蛍光色が異なるので、複数のマーカーを同時に使用することもできる。
【0012】
製造されたトランスジェニックカイコから、任意のタンパク質を回収する方法としては、例えば、トランスジェニックカイコが吐糸した繭から、任意のタンパク質を回収する方法が挙げられる。回収方法としては、当業者に周知の方法、例えば、繭を60%LiSCNで溶かし、20mMTris、5M ureaで透析することによって回収する方法(Inoue, S., Tsuda, H., Tanaka, H., Magoshi, Y and Mizuno (2001) Sericologia 4, 157-163. )を使用することができる。また、その他のタンパク質回収法としては、例えば界面活性剤を用いる方法や水溶液で溶かす方法等が可能である。
【0013】
また、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵としては、例えば、(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、転写制御因子をコードするDNAが機能的に結合したDNA、および(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、任意のタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを有するカイコ卵が挙げられる。
【0014】
このようなカイコ卵を製造する方法としては、種々の方法を選択できる。例えば、上記(i)および(ii)のDNAを別々のカイコ卵に導入する。両方のDNAを有するカイコ卵は、それぞれのDNAが導入されたカイコ卵から生じたトランスジェニックカイコ同士を交配させることで得ることができる。この場合、転写制御因子により、発現する組織、時期、量などを決めることができるため、発現させたい遺伝子を導入した系統と交配することにより、多くの系統を作ることなく、各組織や時期、量などを変えることができる利点がある。また、目的遺伝子を発現させた場合、不妊になる場合でも実験が可能である。さらに、単独のプロモーターを使った場合より、導入遺伝子からの生産物の量が増えるという利点もある。また、上記(i)および(ii)のDNAを有するカイコ卵は、片方のDNAが導入されたトランスジェニックカイコが産卵した卵に、もう片方のDNAを人為的に導入することで得ることもできる。また、上記(i)のDNAと上記(ii)のDNAを、同じ卵に導入することによっても、両方のDNAを有するカイコ卵を得ることが出来る(Imamura, M., Nakai, J., Inoue, S., Quan, G.-X., Kanda, T. and Tamura, T.(2003)Targeted gene expression using the GAL4/UAS system in the silkworm Bombyx mori. Fourth International Workshop on Transgenesis and Genomics of Invertegrate Organisms, Asilomar, P53.)。
【0015】
中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するカイコ卵としては、例えば、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、任意のタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを有するカイコ卵が挙げられる。このようなカイコ卵は、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、任意のタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを卵に導入することで製造できる。
【0016】
上記「機能的に結合した」とは、プロモーターに転写制御因子が結合することにより、プロモーターの下流に存在するDNAの発現が誘導されるように、該プロモーターと該DNAとが結合していることをいう。従って、該DNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、該プロモーターに転写制御因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0017】
上記転写制御因子と標的配列の組み合わせとしては、GAL4とUAS、TetRとTREなどが挙げられる。GAL4とUAS、またはTetRとTREを用いることにより、目的とする遺伝子の発現部位や時期、量を正確に制御でき、多くの組織で容易に発現させることができる。また、発現させる遺伝子が致死性の遺伝子でも系統の作出が可能である。
【0018】
本発明における中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターとしては、例えばセリシン1タンパク質またはセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターが挙げられる。セリシン1タンパク質またはセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターとしては、配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAが挙げられる。配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAとしては、配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNA、配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAの上流域や下流域を含むDNAなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAの上流域や下流域は、文献(Okamoto, H., Ishikawa, E. and Suzuki, Y. (1982) Structural analysis of sericin genes. Homologies with fibroin gene in the 5' flanking nucleotide sequences. J Biol Chem, 257, 15192-15199.、Garel, A., Deleage, G. and Prudhomme, J.C. (1997) Structure and organization of the Bombyx mori sericin 1 gene and of the sericins 1 deduced from the sequence of the Ser 1B cDNA. Insect Biochem Mol Biol, 27, 469-477.、Michaille, J.J., Garel, A. and Prudhomme, J.C. (1990) Cloning and characterization of the highly polymorphic Ser2 gene of Bombyx mori. Gene, 86, 177-184.)に開示されている。
【0019】
また、本発明における中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターとしては、配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAと構造的に類似しており、かつ、配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAと同等あるいは改善されたプロモーター活性能を持つDNAも挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、配列番号:1または2に記載の塩基配列において1または複数の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列を含むDNAが例示できる。該DNAは、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、site-directed mutagenesis法、DNA合成等の方法により調製することが可能である。調製されたDNAがプロモーター活性を有するか否かは、当業者においてはレポーター遺伝子を用いた周知のレポーターアッセイ等により検討することが可能である。
【0020】
該レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-クロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0021】
本発明の任意タンパク質としては、絹糸中で不可逆的な変性が生じないタンパク質であることが好ましい。また、任意のタンパク質は、絹糸腺細胞から絹糸腺内腔への分泌シグナルを有さないタンパク質や繊維性ではないタンパク質が例示できる。
【0022】
カイコ卵へのDNAの導入は、例えば、カイコの発生初期卵へ、トランスポゾンをベクターとして注射する方法(Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)に従って行うことができる。
【0023】
例えば、トランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM, McCombs SD, Fraser MJ, Saul SH.(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(13):7520-5)の間に上記DNAを挿入したベクターとともに、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)をカイコ卵に導入する。ヘルパーベクターとしては、pHA3PIG (Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明におけるトランスポゾンとしては、piggyBacが好ましいが、これに限定されるものではなく、マリーナ(mariner)、ミノス(minos)等を用いることもできる(Shimizu, K., Kamba, M., Sonobe, H., Kanda, T., Klinakis, A. G., Savakis, C. and Tamura, T. (2000) Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W, Swevers L, Iatrou K.(2000) Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
【0025】
また、本発明では、バキュロウイルスベクターを使用することによりトランスジェニックカイコを作出することも可能である(Yamao, M., N. Katayama, H. Nakazawa, M. Yamakawa, Y. Hayashi et al., 1999, Genes Dev 13: 511-516)。
【0026】
また、本発明におけるカイコとしては、特に制限はないが、また、任意のタンパク質の大量生産のためには、フィブロインタンパク質などの絹糸を構成するタンパク質をコードする遺伝子領域(コード領域、プロモーター領域、非翻訳領域を含む)の変異によって、絹糸を構成するタンパク質の生産が抑制されているカイコを用いることが好ましい。このようなカイコとしては、絹糸を構成するタンパク質をコードする遺伝子領域の変異によって絹糸を構成するタンパク質の生産が抑制されている突然変異系統のカイコ、好ましくは該変異によって絹糸を構成するタンパク質の生産が抑制されている裸蛹系統のカイコ、より好ましくはNd-sDが挙げられるが、絹糸を構成するタンパク質の生産抑制の原因が、人為的か否か、また、自然界において生じた変異に依存するか否かに関わらず、絹糸を構成するタンパク質の生産が抑制されているカイコであればよい。このようなカイコは、セリシン蚕として当業者には周知のカイコである。セリシン蚕を利用することによって、染色体に導入された任意の遺伝子から合成されるタンパク質の精製がさらに容易になる。
【0027】
また、本発明におけるカイコとしては、非休眠卵を産下する性質を有するカイコだけでなく、休眠卵を産下する性質を有するカイコ(例えば実用品種であるぐんま、200、春嶺、鐘月、錦秋、鐘和等)も使用することができる。ここで、休眠卵とは産卵後胚発生が一時的に停止する卵を言い、非休眠卵とは産卵後胚発生が停止せず、幼虫が孵化する卵を言う。
【0028】
休眠卵を産下する性質を有するカイコを用いる場合は、非休眠卵を産下させ、該非休眠卵にDNAを導入する。非休眠卵を産下させる方法としては、例えばぐんまにおいては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法を挙げることができる。また、200においては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、または休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を25℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法が挙げられる。
卵の培養は、例えば、18℃~25℃のインキュベーター、または定温の部屋に入れることによって行うことができ、幼虫の飼育は20℃~29℃の飼育室で人工飼料を用いて行うことができる。
【0029】
本発明において、日長条件とは卵の培養、または幼虫の飼育中における一日毎の明暗サイクルを意味する。このような条件としては明条件と暗条件があり、特に全明条件とは暗の無い24時間明の条件を意味する。日長条件は、品種に応じて変化させることができる。
本発明の上記休眠卵の培養は、当業者においては、一般的なカイコ卵の培養法に従って行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って培養を行う。また、本発明におけるカイコ幼虫の飼育は、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って飼育を行う。
本発明において、産卵された卵が非休眠卵であるか否かは、卵の色で判定することができる。一般に、休眠卵は濃い茶褐色に着色し、非休眠卵は黄白色であることが知られている。よって、本発明においては、濃い茶褐色ではないこと、より好ましくは黄白色であることをもって産卵された卵が非休眠卵であると判定する。
【0030】
以下、カイコ卵へのDNAの導入方法の具体例を記すが、本発明におけるカイコ卵へのDNAの導入方法は、この方法に限定されるものでない。例えば、カイコ卵へDNA注入用の管を使用して直接卵内へDNAを導入することが可能であるが、好ましい態様としては、前もって物理的または化学的に卵殻に穴を空け、該穴からDNAを導入する。この際、DNA注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入することができる。
【0031】
本発明において、物理的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば針、微小レーザー等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。好適には針を用いた方法によって卵殻に穴を空けることができる。該針は、カイコの卵殻に穴を空けることができるものであれば、その針の材質、強度等は、特に制限されない。なお、本発明における針とは、通常、先端が尖った棒状の針を指すが、この形状に限定されず、卵殻に穴を空けることができるものであれば、全体の形状は特に制限されない。例えば、先端の尖ったピラミッド型の物質、または先端の尖った三角錐の形状の物質もまた、本発明の「針」に含まれる。本発明においては、タングステン針を好適に使用することができる。本発明の針の太さ(直径)は、後述のキャピラリーが通過可能な穴を空けることができる程度の太さであればよく、通常2~20μm、好ましくは5~10μmである。一方、化学的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば薬品(次亜塩素酸等)等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。
【0032】
本発明において、穴を空ける位置としては、該穴からDNA注入用の管を挿入した場合に卵の腹側の側面に対する挿入角度を、ほぼ垂直にできる位置ならば特に制限はないが、好ましくは腹側の側面またはその反対側であり、より好ましくは腹側の側面であり、よりさらに好ましくは卵の腹側側面のやや後端よりの中央部である。
本発明において、「ほぼ垂直」とは、70°~120°を意味し、好ましくは80°~90°を意味する。本発明において、「将来的に生殖細胞になる位置」としては、通常、卵の腹側の卵表に近い位置(通常、卵表から0.01mm~0.05mmの位置)であり、好ましくは、卵の腹側中央の卵表に近い位置でやや後極よりの位置である。
【0033】
本発明のDNA注入用の管は、その管の材質、強度、内径等は特に制限されないが、DNA注入用の管を挿入する前に、物理的または化学的に卵殻に穴を空ける場合は、空けられた穴を通過できる太さ(外径)であることが好ましい。本発明のDNA注入用の管としては、例えば、ガラスキャピラリー等を挙げることができる。
本発明のDNAの導入方法において、好ましい態様としては、上記のカイコ卵に物理的または化学的に穴を空け、DNA注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入し、DNAを注入する工程を、針とDNA注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用して行う。通常、該マニュピュレーターを構成要素の1つとする装置を使用して本発明は好適に実施される。
【0034】
このような装置としては、解剖顕微鏡、照明装置、可動式のステージ、顕微鏡に金具で固定した粗動マニュピュレーター、このマニュピュレーターに付けたマイクロマニュピュレーター、DNAを注射するための空気圧を調整するインジェクターから構成されている。インジェクターに用いる圧力は窒素ボンベから供給され、圧力のスイッチはフットスイッチによっていれることができる。注射はガラススライド等の基板上に固定した卵に対して行い、卵の位置は移動式のステージによって決める。また、マイクロマニュピュレーターのガラスキャピラリーは4本のチューブで繋がれた操作部によって操作する。実際の手順は、卵に対するタングステン針の位置を粗動マニュピュレーターで決め、ステージのレバーで水平方向に卵を動かし穴を空ける。続いて、マイクロマニュピュレーターの操作部のレバーを操作して、穴の位置にガラスキャピラリーの先端を誘導し、再びステージのレバーによりキャピラリーを卵に挿入する。この場合、卵の腹側の側面に対し垂直にガラスキャピラリーが挿入される必要がある。フットスイッチを入れDNAを注射し、レバーを操作して卵からキャピラリーを抜く。空けた穴を瞬間接着剤等でふさぎ、一定の温度および、一定の湿度のインキュベーターで保護する。本発明に使用される装置としては、好適には、特許第1654050号に記載の装置または該装置を改良した装置が挙げられる。
【0035】
また、本発明の態様においては、DNAの導入に用いるカイコ卵が基板に固定されていることが好ましい。本発明の基板として、例えば、スライドグラス、プラスチック板等を用いることができるが、これらに特に制限されない。本発明の上記態様においては、カイコ卵内の将来的に生殖細胞になる位置に正確にDNAを注射するために、卵の方向を揃えて固定することが望ましい。また、上記態様においては、基板へ固定するカイコ卵の数には、特に制限はない。また、複数個のカイコ卵を用いる場合、カイコ卵を基板へ固定する方向性としては、好ましくは背腹の向きが一定となるような方向である。本発明の上記カイコ卵の基板への固定は、例えば、水性の糊をあらかじめ塗布した市販の台紙(バラ種台紙)の上に産卵させ、台紙に水を加えて卵をはがし、次いで濡れた状態の卵を基板に整列させ、風乾することによって行う。卵をスライドグラス上に卵の方向を揃えて固定することが好ましい。また、卵の基盤への固定は両面テープや接着剤等を用いることによっても可能である。
【0036】
カイコ卵にDNAが導入されたか否かは、例えば、注射したDNAを卵から再度抽出して測定する方法(Nagaraju, J., Kanda, T., Yukuhiro, K., Chavancy, G., Tamura, T. and Couble, P.(1996)Attempt of transgenesis of the silkworm(Bombyx mori L) by egg-injection of foreign DNA. Appl. Entomol. Zool., 31, 589-598)や、注射した遺伝子としてのDNAの卵内での発現を見る方法(Tamura, T., Kanda, T., Takiya, S., Okano, K. and Maekawa, H. (1990). Transient expression of chimeric CAT genes injected into early embryos of the domesticated silkworm, Bombyx mori. Jpn. J. Genet., 65, 401-410)等によって確認することができる。
【0037】
また、本発明の方法において回収されたタンパク質と医薬上許容される担体とを混合することで、医薬組成物を製造することもできる。該担体としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0038】
また、本発明は、中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーター、および該プロモーターによって直接的または間接的に発現制御される任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコであって、該任意のタンパク質を繭糸に分泌するトランスジェニックカイコを提供する。本発明のトランスジェニックカイコの状態に特に制限はなく、例えば卵の状態であってもよい。本発明のトランスジェニックカイコを使用することで、目的のタンパク質を大量に生産することができる。
【0039】
本発明のトランスジェニックカイコとしては、好ましくは、(i)中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA、および(ii)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNAを有するトランスジェニックカイコ、または中部絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に、任意のタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを有するトランスジェニックカイコである。
【0040】
また、本発明は、上記(i)のDNAを有するトランスジェニックカイコも提供するものである。このようなカイコは、上記(i)および(ii)のDNAを有するトランスジェニックカイコやその卵の製造に利用できる。
さらに、本発明は、本発明のトランスジェニックカイコの繭を提供する。このような繭は、目的のタンパク質を大量に含有する繭として有用である。また、本発明は、該繭から製造される絹糸であって、任意のタンパク質を含む絹糸を提供する。また、公知の手法により、本発明の絹糸を含有する絹織物、例えば抗菌性絹糸を含有する絹織物を作製することができる。本発明はこのような絹織物も提供するものである。
【0041】
また、本発明は、本発明の方法に用いるためのDNAを提供する。このようなDNAとしては、(a)セリシンをコードするDNAのプロモーターの下流に、機能的に結合した転写制御因子をコードするDNA、(b)該転写制御因子の標的プロモーターの下流に、機能的に結合した任意のタンパク質をコードするDNA、(c)セリシンをコードするDNAのプロモーターの下流に、任意のタンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA、などが挙げられ、これらの組み合わせからなるキットとして提供してもよい。また、本発明は、トランスポゾンの逆位末端反復配列の間に、(a)~(c)のDNAを挿入したベクターを提供する。さらに、該ベクターとトランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)を含むキットを提供する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
1.材料と方法
カイコは組換えカイコ作出用の非休眠卵系統w1-pndを用いた。カイコの飼育は密閉したタッパウエア内で用い、組換えカイコ専用の飼育室内で人工飼料(農産工)を用いて行った。セリシン1遺伝子のプロモーター領域は大造系統のゲノムDNAからPCRによって調製した。プロモーター領域としてセリシン1遺伝子の上流約1kbをPCRによって増幅し(図1)、プラスミドに挿入した。このプラスミドを大腸菌で増殖し、精製した。自動シークエンサーを用いて塩基配列を確認した後、GAL4遺伝子の上流に挿入し、組換えカイコ作出用のベクタープラスミドにこの融合遺伝子を挿入した。次いで、組換え体検出のため眼での発現特性を持つ、3XP3DsRed遺伝子をこのベクターに挿入した(図2)。組換えカイコの作出はTamura ら(2000)の方法によって行った。得られた組換えカイコはImamuraら(2003)の方法で作出されたGAL4の標的配列UASの下流にレポーターとして緑色蛍光タンパク質遺伝子をもつUASGFPホモの系統と交配した。組換えカイコにおけるGFPの発現はGFPフィルターを持つ蛍光顕微鏡によって行った。
【0044】
2.結果と考察
作出されたベクターの構造を図2に示した。これらのベクタープラスミドと遺伝子を導入するための転移酵素を発現するヘルパープラスミドを一緒に非休眠卵系統w1pndの産卵直後の卵に注射した。DNAを注射した卵から孵化した幼虫を人工飼料で飼育後、実験区内の蛾を互いに交配して次世代の卵を採種した。この卵を25℃でインキュベートし、6日後の胚の単眼の蛍光を、DsRedフィルターを装着した実体蛍光顕微鏡で観察した結果、眼で蛍光を発する個体が検出された。孵化直後の幼虫の単眼でDsRedを発現している個体を選抜し、飼育した。得られた成虫をImamuraら(2002)によって作出されたUASGFPホモの系統と交配した(図3)。GAL4遺伝子はマーカーである3XP3DsRed遺伝子と一緒にベクターに組み込み、組換えカイコが作られている。そのため、個体にGAL4遺伝子が組み込まれているかどうかは、眼でDsRedが発現しているかどうかによって見分けることができる。また、UASGFP遺伝子についてはホモの系統と交配しているため、全ての個体がこの遺伝子を持っている。
【0045】
レポーターであるGFP遺伝子が目的とするカイコ幼虫の中部絹糸腺において転写されているかどうかを調べるため、最終齢の幼虫の絹糸腺を観察した結果、この系統では中部絹糸腺でのみ蛍光が観察された(図4)。5齢後期から吐糸期にかけて、中部絹糸腺を見ると、図4に示したように吐糸期ころからGFPは中部絹糸腺の細胞から分泌され、中部絹糸腺の前部へと蛍光が移動していることが分かる。また、吐糸期の中部絹糸腺の断面図からも、GFPが腺腔内に分泌されていることがわかった(図5)。最終的にはGFPは繭糸として吐糸され、GFPを大量に含む繭が作られる(図6)。このように、本研究で用いたGFP遺伝子は分泌のためのシグナル配列を有していないにも関わらず大量に中部絹糸腺内腔に分泌され、繭糸に移行することが明らかになった。
【0046】
[実施例2]突然変異系統セリシン蚕Nd-sDの中部絹糸腺における組換えタンパク質の発現と性質
実施例1においては、中部絹糸腺からセリシン1遺伝子のプロモーターの下流に酵母のGAL4遺伝子を繋いだ遺伝子をカイコに導入し、GAL4の標的配列UASの下流にレポーターとして緑色蛍光タンパク質遺伝子をもつUASGFPと交配させることによって中部絹糸腺において組換えタンパク質を大量に発現する方法を作出した。この場合、中部絹糸腺で合成されたタンパク質は内腔へと分泌された。本実施例ではフィブロインタンパク質の分泌に異常があり、中部絹糸腺で発現しているセリシンのみを分泌する突然変異系統Nd-sDにこれらの遺伝子導入した系統を作出し、中部絹糸腺から組換え蛋白質としてGFPの精製を試みた結果、容易に組換えタンパク質を精製できることが分かった。
【0047】
1.材料と方法
セリシン遺伝子1のプロモーターをもつGAL4(Ser1GAL4)遺伝子と標的配列UASの下流にレポーターとして緑色蛍光タンパク質遺伝子(UASGFP)をもつ正常カイコ系統とNd-sD突然変異系統を交配しF1を作成した。赤色蛍光タンパク質(DsRed)と緑色蛍光タンパク質(GFP)検出用のフィルターを備えた蛍光実体蛍光顕微鏡により、Ser1GAL4とUASGFP遺伝子を持つ個体を同定し、これらの個体を飼育した。成虫同士を交配した次世代において、再度Ser1GAL4とUASGFP遺伝子を持つ個体を残して飼育し、5齢期のカイコを解剖して突然変異系統かどうかを後部絹糸腺の発育程度によって判断した。突然変異系統の個体の中部絹糸腺を取り出し、実体顕微鏡下で中部絹糸腺の全体、中部絹糸腺の内容物に分け、水又は2%LDSで抽出した。抽出物は5℃で保存し、一部をSDSPAGE及び市販のGFP抗体を用いたウェスタンブロッテイングにより検出した。
【0048】
2.結果と考察
図7に交配によってSer1GAL4とUASGFP遺伝子を導入したセリシン蚕系統の作出法を示した。この交配によりF2において目的とする個体を得ることができた。吐糸を始めた5齢のカイコを解剖し、絹糸腺を観察したところ、図8Aに示したように中部絹糸腺は十分発達していた。しかし、後部絹糸腺は正常なカイコより短く(実施例1図4の写真参照)、明らかに退化していた。また、可視光下の観察においても中部絹糸腺は緑色をしているのが分かり、緑色蛍光タンパク質GFPが大量にこの組織で生産されていることが予想された。実体蛍光顕微鏡によってこの絹糸腺を観察した結果、予想通り中部絹糸腺において強い緑色蛍光が観察され(図8B)、この部位に大量のGFPが存在することが分かった。この組織を解剖し、内容物をピンセットで取り出し、5℃の水に溶かしたところ容易に溶けることが分かった。また、2%LDS溶液では溶かすのがさらに容易であった。この溶液で溶かしたサンプルをSDSPAGEで観察した結果、ゲルをクマシーブリリアントブルーで染めた電気泳動像からも目的のバンドが観察され、大量の目的タンパク質がNd-sD突然変異系統の中部絹糸腺で合成されていることがわかった(図9)。また、この変異系統で目的タンパク質を作らせた場合は、タンパクの変成剤を用いることなく、内腔に分泌する目的タンパク質を容易に水などの溶媒で抽出できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】セリシン1遺伝子の上流領域の塩基配列とプロモーターとして用いた領域を示す図である。遺伝子の第一エクソンは四角の枠内に示した。また、転写制御に関係していると考えられるSAとSC領域は一重下線で、TATA領域は二重下線で示した。
【図2】セリシン遺伝子の上流領域を用いた組み換えカイコ作出用ベクターの構造を示す図である。Serpro、セリシン遺伝子のプロモーター領域;GAL4、GAL4遺伝子;hsp70、ショウジョウバエのHsp70遺伝子のポリA領域;pigLarm、トランスポゾンpiggyBac左側末端領域;pigRarm、トランスポゾンpiggyBac右側末端領域;3XP3、眼での発現特性をもつ人工プロモーター;DsRed、DsRedをコードしている遺伝子;SV40、SV40のポリシグナルをそれぞれ示す。
【図3】GAL4系統とUASGFP系統との交配によるGAL4とUASGFP遺伝子を持つ個体の作出を示す図である。
【図4】5齢幼虫期の絹糸腺におけるGFPの発現を示す写真である。5-4、5齢4日目;5-5、5齢5日目(熟蚕期);吐糸1日、吐糸1日目をそれぞれ示す。
【図5】吐糸1日目の中部絹糸腺の断面におけるGFPを示す写真である。(a)は中部絹糸腺中部、(b)は中部絹糸腺前部を示す。
【図6】セリシンGAL4遺伝子とUASGFP遺伝子を持つ組換えカイコの作る繭を示す写真である。
【図7】交配によるSer1GAL遺伝子とUASGFP遺伝子のセリシン蚕への導入を示す図である。
【図8】セリシン蚕(Nd-sD)絹糸腺からのタンパク質の抽出を示す写真である。A:吐糸期の絹糸腺の可視光による写真(太くなっている部分が中部絹糸腺)、B:Aの絹糸腺の蛍光写真、C:中部絹糸腺から水中に抽出されたGFPタンパク質。
【図9】セリシン蚕(Nd-sD)の中部絹糸腺から抽出されたタンパク質のSDSPAGE(A)とウエスタンブロッテイングによる目的タンパク質(GFP)の検出(B)を示す写真である。1:中部絹糸腺の内容物を水で抽出したもの、2:中部腺の内容物を2%LDSで抽出したサンプル。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図7】
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【図3】
3
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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