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明細書 :昆虫の乾燥耐性遺伝子とその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4674377号 (P4674377)
公開番号 特開2006-101874 (P2006-101874A)
登録日 平成23年2月4日(2011.2.4)
発行日 平成23年4月20日(2011.4.20)
公開日 平成18年4月20日(2006.4.20)
発明の名称または考案の名称 昆虫の乾燥耐性遺伝子とその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2005-260148 (P2005-260148)
出願日 平成17年9月8日(2005.9.8)
優先権出願番号 2004261412
優先日 平成16年9月8日(2004.9.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年4月4日(2008.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】黄川田 隆洋
【氏名】奥田 隆
【氏名】渡邊 匡彦
【氏名】三田 和英
【氏名】門野 敬子
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 The Journal of Experimental Biology,2003年,Vol.206,p.2281-2286
The Journal of Experimental Biology,2002年,Vol.205,p.2799-2802
FEBS Letters,2003年,Vol.553,p.387-390
TRENDS in Plant Science,2004年 1月,Vol.9, No.1,p.13-17
調査した分野 C12N1/00-15/90
C12Q1/00-1/68
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)から(d)のいずれかに記載の、昆虫由来のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:2、4、6のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2、4、6のいずれかに記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項2】
ネムリユスリカ由来である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド、または請求項3に記載のベクターを保持する宿主細胞。
【請求項5】
請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド、または請求項3に記載のベクターを含有する、細胞を乾燥耐性にするための薬剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を細胞内で発現させることを特徴とする、細胞を乾燥耐性にする方法。
【請求項7】
配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
被検細胞において、請求項1に記載のポリヌクレオチド、または請求項1に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質の発現を測定する工程を含む、被検細胞の乾燥耐性の有無を判定する方法。
【請求項9】
被検細胞において、請求項1に記載のポリヌクレオチド、または請求項1に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質の発現を測定する工程を含む、被検細胞の乾燥状態を判定する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫由来の乾燥耐性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびにそれらの利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アフリカの半乾燥地帯にのみ生息するネムリユスリカ幼虫は、48時間かけて完全に乾燥した状態になっても、水に戻すだけで吸水し1時間以内に正常な発育を再開する唯一の昆虫である(非特許文献1)。この完全に乾燥しても復活できる状態は、クリプトビオシス (cryptobiosis) と呼ばれる。一旦クリプトビオシスの状態になったネムリユスリカは、-270℃から+102℃の温度や100%エタノールにも完全に耐えうる(非特許文献2および3)。これまでクリプトビオシスの状態を誘導・維持するにはトレハロースが必須であると言われてきたが、高濃度のトレハロースを体内に蓄積するように誘導した後に乾燥しても、クリプトビオシスの状態にならない場合がある(非特許文献4)。従って、トレハロースの蓄積のみでクリプトビオシス誘導・維持の機構を説明するには不十分であることから、トレハロース以外の因子もクリプトビオシスには必要であることが考えられた。
【0003】
一方、植物の種子の休眠もクリプトビオシスの一種である。種子休眠は胚発生後期に起こるが、この時期に特異的にLEA (late embryogenesis abundant) タンパク質と呼ばれるタンパク質が蓄積されることが20年ほど前から知られていた(非特許文献5および6)。このタンパク質は、種子以外の花粉や植物体本体においても、乾燥刺激を与えると、発現が上昇する(非特許文献7)。LEAタンパク質は、その二次構造に特徴があり、α-ヘリックスリッチである点が共通である(非特許文献8)。また、このタンパク質は、酵母やイネへの遺伝子導入の結果から、耐乾燥性・耐寒性・耐塩性といったストレス耐性機能を有していることがわかっているが、タンパク質自体の詳細な生化学的機能(活性)は現在でも不明である(非特許文献9)。このタンパク質は、植物にのみ存在すると考えられていたが、2002年に線虫から発見されたことから(非特許文献10)、植物以外にもLEAタンパク質が存在する可能性が強く示唆されている。
【0004】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。

【非特許文献1】Watanabe, M., Kikawada, T., Minagawa, N., Yukuhiro, F., and Okuda, T. (2002) J Exp Biol 205, 2799-2802
【非特許文献2】Hinton, H. E. (1960) J Insect Phys 5, 286-300
【非特許文献3】Hinton, H. E. (1960) Nature 188, 336-337
【非特許文献4】Watanabe, M., Kikawada, T., and Okuda, T. (2003) J Exp Biol 206, 2281-2286
【非特許文献5】Dure, L., 3rd, Greenway, S. C., and Galau, G. A. (1981) Biochemistry 20, 4162-4168
【非特許文献6】Grzelczak, Z. F., Sattolo, M. H., Hanley-Bowdoin, L. K., Kennedy, T. D., and Lane, B. G. (1982) Can J Biochem 60, 389-397
【非特許文献7】Ingram, J., and Bartels, D. (1996) Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 47, 377-403
【非特許文献8】Goyal, K., Tisi, L., Basran, A., Browne, J., Burnell, A., Zurdo, J., and Tunnacliffe, A. (2003) J Biol Chem 278, 12977-12984
【非特許文献9】Wise, M. J., and Tunnacliffe, A. (2004) Trends Plant Sci 9, 13-17
【非特許文献10】Browne, J., Tunnacliffe, A., and Burnell, A. (2002) Nature 416, 38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は昆虫の乾燥耐性タンパク質をコードするポリヌクレオチドとその利用方法を提供することにある。より詳しくは、ネムリユスリカ由来の乾燥耐性をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、ならびにそれらの利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
線虫と植物のLEAタンパク質の相同性は高くないため、ネムリユスリカのLEA遺伝子の単離にはRT-PCRやライブラリーのスクリーニングを用いることができない可能性が高い。そこで本発明者らは、上記課題を解決するために、乾燥後0、12、36時間後のネムリユスリカ幼虫からcDNAライブラリーを作製し、独自にネムリユスリカのESTデータベースを構築することにより、LEAタンパク質をコードする遺伝子の単離を進めた。
その結果、本発明者らは、3種類のLEA様タンパク質をコードする新規の遺伝子(PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3)の単離に成功した。各遺伝子から推定されるタンパク質の二次構造予測およびモチーフ検索を行なったところ、3つともLEAタンパク質の特徴であるα-ヘリックスリッチの構造およびLEA_4モチーフを持つことが判明した。以上のことから、今回単離した3つの遺伝子は、新規のネムリユスリカ由来のLEA遺伝子であることが示唆された。
【0007】
次に、単離したLEA遺伝子の乾燥に伴う発現変動を調べたところ、乾燥処理後1時間で発現が上昇しはじめ、6時間後には最大値に達して、その後は一定であった。これは、これまで報告されたLEA遺伝子と同様であり、このことから、PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3は、乾燥誘導性の発現をする遺伝子であることが確認された。
【0008】
次に、本発明で単離した3種類のLEA遺伝子から発現させたタンパク質に熱処理を施し、該タンパク質の親水性を確認した。その結果、3種類のLEA遺伝子から合成した組み換えタンパク質は、熱処理を施したのにも関わらず、全く凝集しないことが明らかとなった。このことから、本発明のLEA遺伝子の翻訳産物は、高い親水性を有するタンパク質で、水と同義置換した活性、すなわち乾燥耐性タンパクとして機能することが示唆された。
【0009】
さらに、ネムリユスリカのLEAタンパク質が、生物に対し乾燥保護機能を有しているか否かを確認するために、細胞発現系を用いて検討を行った。PvLEA1、2 及び3遺伝子をCHO-K1細胞に導入し、乾燥処理後に形成された細胞のコロニーの数を数えた。その結果、PvLEA1、2及び3遺伝子を発現した細胞の内、トレハロースを含む培地で培養したもののみが、乾燥処理後も30~55個のコロニーを形成した。一方、ベクターのみを発現した細胞は、トレハロースの存在に関わらずほとんどコロニーを形成しなかった。このことから、PvLEA1、2 及び3遺伝子の発現とトレハロースの共存が、動物細胞に乾燥耐性能を与えることが明らかになった。
これまで、昆虫からLEA遺伝子を単離したという報告は全くなく、本発明は世界で始めて昆虫からLEA遺伝子を単離した例である。
【0010】
すなわち、本発明は以下の昆虫由来の乾燥耐性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびにそれらの利用方法に関し、より具体的には、以下の〔1〕~〔9〕を提供するものである。
〔1〕下記(a)から(d)のいずれかに記載の、昆虫由来のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:2、4、6のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号:2、4、6のいずれかに記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド
〔2〕ネムリユスリカ由来である、〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
〔4〕〔1〕もしくは〔2〕に記載のポリヌクレオチド、または〔3〕に記載のベクターを保持する宿主細胞。
〔5〕〔1〕もしくは〔2〕に記載のポリヌクレオチド、または〔3〕に記載のベクターを含有する、細胞を乾燥耐性にするための薬剤。
〔6〕〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を細胞内で発現させることを特徴とする、細胞を乾燥耐性にする方法。
〔7〕配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
〔8〕被検細胞において、〔1〕に記載のポリヌクレオチド、または〔1〕に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質の発現を測定する工程を含む、被検細胞の乾燥耐性の有無を判定する方法。
〔9〕被検細胞において、〔1〕に記載のポリヌクレオチド、または〔1〕に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質の発現を測定する工程を含む、被検細胞の乾燥状態を判定する方法。
【発明の効果】
【0011】
ネムリユスリカから単離した本発明の遺伝子 (PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3) がコードするLEAタンパク質の発現により、細胞が乾燥した生物を乾燥状態から復活させることができると考えられる。従って、被検細胞において本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の発現を測定することによって、被検細胞の乾燥耐性の有無を判定することが可能となる。
また、細胞の乾燥が進行するにつれて、本発明のLEAタンパク質の発現レベルが上昇するため、被検細胞において本発明のポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の発現量を確認することで、被検細胞が乾燥状態であるのか否かの判定、または被検細胞の乾燥の度合いの確認を行うことができる。また、この遺伝子をネムリユスリカ以外の生物で発現させることで、その生物(または組織や細胞)を乾燥して保存することが可能になると思われる。例えば、農業分野で利用されている害虫駆除目的の天敵昆虫やカイコやミツバチのような有用昆虫、ショウジョウバエのような実験昆虫にPvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3遺伝子を導入すれば、継代飼育すること無く、乾燥状態で系統を保存することが可能となる。また、これらを遺伝子導入した昆虫をクリプトビオシス状態で輸送すれば、重量減による輸送コストの削減を望める以外に、輸送中の不慮の事故(加温、低温などの障害)による昆虫の死亡を防ぐことにもつながる。さらに、脊椎動物へ導入することが可能ならば、細胞の乾燥保存技術に貢献できることは自明である。
以上の点から、本遺伝子(PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3)は有用性の高い遺伝子であると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)において、3つの独立したLEA(late embryogenesis abundant)タンパク質をコードする遺伝子の単離に成功した。本発明は、この知見に基づき、昆虫由来のLEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドならびにそれらの利用方法を提供するものである。ネムリユスリカ由来の3つのLEAタンパク質(PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3)をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号:1、3、5に、該タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2、4、6にそれぞれ示した。
【0013】
本発明は、配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列のコード領域を含む、昆虫由来のポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドには、配列番号:2、4または6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドが包含される。このようなポリヌクレオチドには、例えば、配列番号:2、4または6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質(例えば、変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログ等)をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0014】
ここで「機能的に同等」なタンパク質とは、LEAタンパク質の特徴であるα-ヘリックスリッチの構造を持ち、LEA_4モチーフを少なくとも1つ以上有するタンパク質であって、細胞を乾燥耐性にするタンパク質である。また、高熱処理によっても凝集せず、高い親水性を持つタンパク質も、本発明の「機能的に同等」なタンパク質として挙げることが出来る。あるタンパク質が本発明のタンパク質と機能的に同等であるかどうかは、被検タンパク質のアミノ酸配列から二次構造を予測し、モチーフ解析などにより確認することができる。また、実際に細胞で被検タンパク質を発現させることで、細胞が乾燥耐性になるか否かで判断できる。さらに、被検タンパク質を発現させ高熱処理を行い、高い親水性を持つか否かを検討することにより、確認することも出来る。
【0015】
本発明の昆虫由来LEAタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、当業者であれば、例えば、タンパク質中のアミノ酸配列に変異を導入する方法(例えば、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. Jhon Wiley & Sons Section 8.1-8.5))を利用して調製することができる。塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型の昆虫由来LEAタンパク質(配列番号:2、4、6)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであっても、天然型のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のポリヌクレオチドに含まれる。改変されるアミノ酸の数は、改変後のタンパク質が本発明のLEAタンパク質と同等の機能を有している限り、特に制限はないが、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0016】
置換されるアミノ酸は、タンパク質の機能の保持の観点から、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0017】
改変前と改変後の各アミノ酸についてのhydropathic index(Kyte and Doolitte,(1982) J Mol Biol. 1982 May 5;157(1):105-32)やHydrophilicity value(米国特許第4,554,101号)の数値は、±2以内が好ましく、さらに好ましくは±1以内であり、最も好ましくは±0.5以内である。また、改変されるアミノ酸部位としては、特に制限はないが、特徴的なモチーフ部位以外の部位が改変されることが好ましい。図3を参照することで、特徴的なモチーフ部位以外の部位を決定することができる。
【0018】
また、本発明の昆虫由来のLEAタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、当業者に周知のハイブリダイゼーション技術あるいは遺伝子増幅技術を利用して単離することも可能である。即ち、当業者であれば、ハイブリダイゼーション技術 (Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. Jhon Wiley & Sons Section 6.3-6.4)を用いて、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列またはその一部をもとに、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAから機能的に同等なタンパク質を得ることは、通常行いうることである。本発明には、本発明の昆虫由来のLEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドも含まれる。機能的に同等なタンパク質を単離する昆虫としては、好ましくは耐乾燥性が高い昆虫である。このような昆虫には、乾燥耐性を生体に付与するタンパク質が存在することが考えられる。最も好ましくは、完全に乾燥していても復活できる状態(クリプトビオシス)に移行できる能力を持つ昆虫として知られているネムリユスリカである。
【0019】
機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、ストリンジェントな条件が挙げられる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。本発明におけるストリンジェントな条件の一つの態様としては、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSPE、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSPE、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSPE及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、上記SSPE、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
また、遺伝子増幅技術(PCR)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.1-6.4)を用いて、本発明の昆虫由来のLEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の一部をもとにプライマーを設計し、これら塩基配列またはその一部と相同性の高いポリヌクレオチド断片を単離して、これをもとに本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質を得ることも可能である。
【0021】
このようなハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術を利用して単離されるタンパク質は、本発明のLEAタンパク質と比較して、通常、そのアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明は、配列番号:1、3、5のいずれかに記載の塩基配列に対して高い相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドを包含する。また本発明は、配列番号:2、4、6のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質、またはペプチドを包含する。高い相同性とは、少なくとも50%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは85%以上の配列の同一性を指す。あるいはより望ましくは、90%以上、または95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を言う。同一性は、BLAST検索アルゴリズムを用いて決定することができる。
【0022】
本発明におけるアミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、blastnやblastxと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTに基づいてblastnによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてblastxによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0023】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
【0024】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、昆虫の幼虫個体よりcDNAライブラリーを作製し、本発明の昆虫由来のLEAタンパク質をコードするDNAの一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより天然由来のDNAが調製できる。また、昆虫の幼虫個体よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、本発明のタンパク質をコードするDNAに基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0025】
mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299) 、AGPC法 (Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159) 等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia社) 等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia社) を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0026】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)等を用いて行うこともできる。また、5'-Ampli FINDER RACE Kit (Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998-9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932) に従い、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0027】
本発明の昆虫由来のLEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、脊椎動物細胞、昆虫細胞または昆虫個体を乾燥耐性にするために利用できる。すなわち、本発明は、昆虫由来のLEAタンパク質を細胞内で発現させることを特徴とする、細胞を乾燥耐性にする方法も提供する。本発明において「乾燥耐性にする(乾燥耐性になる)」とは、昆虫由来のLEAタンパク質を発現させない場合よりも乾燥耐性が高まることを意味し、もっとも好ましくは、昆虫由来のLEAタンパク質を発現させることにより、水分が失われても水に戻すと蘇生できる状態(クリプトビオシス)に移行できる能力を獲得することを意味する。
【0028】
昆虫由来LEAタンパク質を細胞内で発現させるためには、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入する必要がある。細胞への遺伝子導入は、一般的には、該ポリヌクレオチドを適当なベクターに組み込んで行なう。用いられるベクターは挿入したポリヌクレオチドを安定に保持するかぎり特に制限されず、乾燥耐性にする細胞の種類によって適宜選択される。本発明には、これら昆虫由来LEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、および該ベクターを保持する宿主細胞も含まれる。
【0029】
本発明の昆虫由来のLEAタンパク質を発現させる宿主細胞としては、昆虫細胞または脊椎動物細胞が挙げられ、例えば、昆虫培養細胞であれば、Sf9、Sf21(どちらもインビトロジェン社製)などが、脊椎動物細胞であれば、NIH/3T3、CHO、HepG2、Jurkatなどが例示される。これら細胞中で遺伝子を発現可能にするベクターとしては、例えば、昆虫培養細胞であれば、pIZT/V5-Hisベクター(インビトロジェン社製)が挙げられる。脊椎動物細胞(特に哺乳動物細胞)の場合は、NIH/3T3やCHO、HepG2、Jurkatなどの多様な細胞に対してGeneSwitchシステム(インビトロジェン)のpGene/V5-Hisベクターを用いることができる。
【0030】
各宿主細胞へのベクターの導入は、宿主細胞の種類に応じて公知の遺伝子導入法を適宜用いることができる。トランスフェクションによる方法であれば、リン酸カルシウム共沈法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、DEAE-デキストランやカチオン性脂質との複合体形成法などの方法が用いられる。例えば、昆虫培養細胞へのベクターの導入は、遺伝子導入用カチオン性脂質Cellfectin(インビトロジェン社製)を用いて行なう。また、ほとんどの脊椎動物細胞(特に哺乳動物細胞)へのベクターの導入には、遺伝子導入用カチオン性脂質Lipofectamine2000(インビトロジェン)を用いることができる。Jurkat細胞のような浮遊性の細胞には、遺伝子導入用カチオン性脂質DMRIE-C(インビトロジェン)を用いる場合もある。本発明の昆虫由来のLEAタンパク質を導入し、細胞内で発現させる際には、トレハロースを添加していてもよい。
【0031】
脊椎動物細胞、昆虫細胞または昆虫個体を乾燥耐性にするために利用できる本発明の昆虫由来LEAタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、薬剤の形態で用いることもできる。すなわち、本発明は、昆虫由来のLEAタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを含有する、細胞を乾燥耐性にするための薬剤を提供する。本発明の薬剤には、上記ポリヌクレオチド、ベクターの他に、TE緩衝液(10mM Tris-Cl pH7.5, 1mM EDTA)などの緩衝液、保存液、またはトレハロース等適宜含めることができる。
【0032】
本発明はまた、本発明のDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを提供する。
ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70% 、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%、97%、98%あるいは99%以上)の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用すればよい。また、「オリゴヌクレオチド」にはポリヌクレオチドも含まれる。
【0033】
本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、該DNAの発現を検出するためのプローブやプライマーとして使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
【0034】
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp~100bp であり、好ましくは17bp~30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的とし、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0035】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0036】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0037】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0038】
本発明のポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドを用いて、被検細胞において本発明のLEAタンパク質が発現しているか否かを確認することが出来る。さらに、本発明のLEAタンパク質は、乾燥耐性を持つ細胞にのみ特異的に発現するため、本発明のポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドを用いて、被検細胞におけるLEAタンパク質の発現を確認することで、被検細胞が乾燥耐性を示すか否かの判定を行うことができる。すなわち、被検細胞においてLEAタンパク質の発現が確認された場合には、被検細胞が乾燥耐性を有していると判定し、発現が確認されない場合には、被検細胞が乾燥耐性を有しないと判定することができる。
また、本発明のLEAタンパク質は、細胞の乾燥が進行するにつれて、タンパク質の発現レベルが上昇するため、LEAタンパク質の発現量を確認することで、被検細胞が乾燥状態であるのか否かの判定、または被検細胞の乾燥の度合いの確認を行うことができる。すなわち、LEAタンパク質の発現量が多い時には、被検細胞の乾燥が進んでいると判定することができ、LEAタンパク質の発現量が少ない時には、被検細胞の乾燥が進んでいないと判定することが出来る。
【0039】
被検細胞におけるLEAタンパク質の発現量を定量する際には、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、被検細胞のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによってLEA遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、LEAタンパク質の発現レベルを測定することも可能である。
また、LEAタンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。
また、実施例2で述べるように、完全長のLEA cDNAからStrip-EZキット (Ambion)を用いて32Pを放射ラベルしたプローブを作製し、被検細胞のRNAを転写したナイロンメンブレンに対して、ハイブリダイゼーションを行うことでも、LEAタンパク質の発現を確認することができる。
【0040】
さらに、LEAタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、LEAタンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。LEAタンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。該抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。LEAタンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該LEAタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、該LEAタンパク質またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、該LEAタンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該LEAタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕 LEA遺伝子のネムリユスリカホモログの単離
本発明者らは、線虫と植物のLEAタンパク質の相同性は高くないため(図1)、ネムリユスリカのLEA遺伝子も公知のLEA遺伝子とではアミノ酸配列の相同性が低く、単離にはRT-PCRやライブラリーのスクリーニングを用いることができない可能性が高いと考えた。そこで、乾燥後0、12、36時間後のcDNAライブラリーを作製して、独自にネムリユスリカのESTデータベースを構築することによって、相同性の高くないLEAタンパク質をコードする遺伝子の単離を進めることにした。
【0043】
乾燥後0、12、36時間後のネムリユスリカ幼虫個体からISOGEN (ニッポンジーン)を用いてtotal RNAを抽出した。その後、オリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、pBlueScript II KS+ベクター(Stratagene)に組み込み、cDNAライブラリーとした。出来上がった3種類のライブラリーからランダムにクローンを抽出し、T7及びT3プライマーを用いて、塩基配列を決定後、得られたデータを用いてESTデータベースを構築し、BLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/BLAST/)アノテーションを進めた結果、LEAタンパク質をコードしていると思われるクローンを特定した。特定したクローンは、アライメントを施すことによって、クローンのコンティグを作製し、得られたコンティグの存在をRT-PCRによって確認した。最終的に、SMART-RACE法 (Clontech)を用いて、cDNAの完全長の塩基配列を決定した。
【0044】
その結果、3つの独立したLEA様タンパク質をコードする遺伝子の単離に成功し、PvLEA1(RNA: ~2500nt, Protein: 742AA)、PvLEA2(RNA: ~740nt, Protein: 180AA)、PvLEA3(RNA: ~1560nt, Protein: 484AA)と名付けた。PvLEA1の塩基配列を配列番号:1に、アミノ酸配列を配列番号:2に示し、PvLEA2の塩基配列を配列番号:3に、アミノ酸配列を配列番号:4に示し、PvLEA3の塩基配列を配列番号:5に、アミノ酸配列を配列番号:6に示す。
【0045】
得られた塩基配列データから、Genetyx-Mac (SDC) を用いて、翻訳領域を特定し、予想される翻訳産物のアミノ酸配列を決定し、その二次構造の予測も行った。また、この翻訳産物の機能を予測するために、HMMER (http://motif.genome.ad.jp) を用いたモチーフ解析を行った。その結果、タンパク質の相同性は、線虫のLEA (AavLEA1)タンパク質との比較で、PvLEA1タンパクが24.6%、PvLEA2タンパクが28.0%、PvLEA3タンパクが24.4%と軒並み低い値を示した(図2)。
【0046】
また、遺伝子から推定されるタンパク質は、Chou-Fasmanの二次構造予測から、3つともLEAタンパク質の特徴であるα-ヘリックスリッチの構造を持つと予想された。HMMERによるモチーフ検索の結果から、単離した3つ全ての遺伝子には、LEA_4モチーフが少なくとも1つ以上存在していた(図3)。以上のことから、今回単離した3つの遺伝子は、新規の昆虫由来のLEA遺伝子であることが示唆された。
【0047】
〔実施例2〕 LEA遺伝子の発現解析
単離したLEA遺伝子の乾燥に伴う発現変動を調べる目的で、乾燥処理後0、1、3、6、24、48時間のネムリユスリカ幼虫個体からISOGEN (ニッポンジーン)を用いてtotal RNAを抽出した。得られたRNAは、グアニジン変性アガロースゲルを用いて電気泳動を施し、ナイロンメンブレンに陰圧ブロッターを用いて転写した。今回得られた完全長のLEA cDNAからStrip-EZキット (Ambion)を用いて32Pを放射ラベルしたプローブを作製し、前述のナイロンメンブレンに対して、ハイブリダイゼーションを行った。特異的なバンドのみを残すための洗浄処理した後に、LAS-2500 (Fuji film)を用いて、画像解析を行った。その結果、単離した3つの遺伝子は、乾燥処理後1時間で発現が上昇しはじめ、6時間後には最大値に達して、その後は一定であった(図4)。このことから、PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3は、乾燥誘導性の遺伝子発現をする遺伝子であることが判明した。この点は、これまで報告されたLEA遺伝子と同様である。
【0048】
また、LEA遺伝子発現の組織特異性を調べる目的で、乾燥処理後12時間の幼虫個体から中腸を取り出し、脂肪体を多く含む組織とに分割して上記と同様にしてRNAを単離、電気泳動をし、ハイブリダイゼーションすることによって、遺伝子発現の画像解析を行った。脂肪体を多く含む組織と中腸の間でPvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3の遺伝子発現量を比較したところ、3つの遺伝子とも発現の組織特異性は認められなかったことから(図4)、全ての組織・細胞で発現して機能を発揮していることが示唆された。
【0049】
〔実施例3〕 LEAタンパク質の親水性の検討
これまで,植物の乾燥耐性タンパクは高い親水性を持つことから、水と同義置換するような活性を持つと考えられ、具体的にイオンスカベンジャーやシャペロニンとして機能していることが示されている(Dure, L., 3rd (1993) The American Society of Plant Physiologist Vol. 10, pp. 91-103.,Ingram, J. and Bartels, D. (1996) Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 47, 377-403.)。このことから、本発明で単離したLEA遺伝子も、同様な親水性タンパク質であれば、植物の親水性タンパク質で提唱されているような機能を有していると考えられる。高い親水性を持つタンパク質は、沸騰水で処理しても凝集を起こさないことが知られている(Dure, L., 3rd (1993) The American Society of Plant Physiologist Vol. 10, pp. 91-103.)。
そこで、LEA遺伝子からバキュロウィルスタンパク発現系を用いて、His タグを含む組み替えPvLEA1、2 及び3 タンパク質を合成した(M)。そのタンパク質を100℃、15 分間の処理を施した後、遠心分離によって、上清(S)と沈殿(P) に分画した。得られた画分について抗HI タグ抗体を用いたウェスタン分析を行い、組み換えタンパク質が凝集するかどうかを調べた(図5)。その結果、本発明で単離した3種類のLEA遺伝子から合成した組み換えタンパク質は、熱処理を施したのにも関わらず、全く凝集しないことが明らかとなった。このことから、本発明のLEA遺伝子の翻訳産物は、高い親水性を有するタンパク質で、水と同義置換した活性、すなわち乾燥耐性タンパクとして機能することが示唆された。
【0050】
〔実施例4〕 昆虫LEAタンパク質の乾燥保護機能
次に、ネムリユスリカのLEAタンパク質が、生物に対し乾燥保護機能を有しているか否かを確認するために、細胞発現系を用いて検討を行った。
PvLEA1、2 及び3遺伝子をそれぞれpIRESneo3、pIRESbleo3及びpIRESpuro3ベクター(クロンテック)のEcoRV/BamHIサイトにサブクローニングし、pPvLEA1-IRES-neo3、pPvLEA2-IRES-bleo3及びpPvLEA3-IRES-puro3プラスミドを構築した。これらプラスミドをFuGene6(ロシュ)を用いて、50%コンフレントのCHO-K1細胞(チャイニーズハムスター卵母細胞に由来する株化細胞)に導入し、24時間後に培地交換した。培地交換には、0.1Mトレハロースを含む培地かトレハロースフリーの培地のいずれかを用いた。遺伝子導入した細胞を2日間培養継続した後、培地を完全に取り除いて、95%相対湿度の密閉容器に4時間放置した。ハムF-12培地で再吸水させた細胞を懸濁し、5 x 104細胞ずつ12穴培養プレートに播種した。6日間培養をした後、形成された細胞のコロニーの数を数えた。なお、CHO-K1細胞は、10%牛胎児血清を含むハムF-12培地(シグマ)で、95%湿度、5%炭酸ガス、37℃の条件で培養した。
上記の検討の結果、PvLEA1、2及び3遺伝子を発現した細胞の内、トレハロースを含む培地で培養したもののみが、乾燥処理後も30~55個のコロニーを形成した。一方、ベクターのみを発現した細胞は、トレハロースの存在に関わらずほとんどコロニーを形成しなかった。このことから、PvLEA1、2 及び3遺伝子の発現とトレハロースの共存が、動物細胞に乾燥耐性能を与えることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】乾燥耐性線虫のLEA (AavLEA1)と植物のLEAのアミノ酸配列の比較図である。配列番号:7~11に、線虫(Aphelenchus avenae)、ヨーロッパシラカバ(Betula pendula)、大豆(Glycine max)、トウモロコシ(Zea mays)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来LEAタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ示す。乾燥耐性線虫のLEAタンパク質は、植物(ヨーロッパシラカバ、大豆、トウモロコシ、シロイヌナズナ)のLEAタンパク質と比較すると、保存領域は認められない。
【図2】ネムリユスリカのLEAタンパク質(PvLEA1、PvLEA2およびPvLEA3)と線虫のLEA (AavLEA1)タンパク質のアミノ酸配列の比較図である。AavLEA1との相同性は、ネムリユスリカの3つのLEA全てで、30%以下と低い値を示した。
【図3】PvLEAタンパク質の保存ドメインと二次構造を示す図である。3つのPvLEAタンパク質は、HMMERによるモチーフ検索の結果、LEA_4ドメインを有していた。また、予測される二次構造は、α-ヘリックスリッチな構造であることが予想された。
【図4】乾燥処理後のPvLEA遺伝子の発現変動を示す写真である。3つのPvLEA遺伝子は、乾燥処理後1時間で発現が上昇し始め、6時間後には最大値に達し、その後幼虫個体が完全に乾燥するまで、すなわちクリプトビオシスの状態に至るまで一定だった。また、発現の組織特異性は認められなかった。
【図5】LEAタンパク質の高親水性を調べた結果を示す写真である。バキュロウィルスを用いて発現させたPvLEA1、2 及び3 タンパク質(M)を、100℃、15 分間の処理を施した後、遠心分離によって上清(S)と沈殿(P) に分画した。組み替えタンパクはHis タグを含むため、分子量は2kDa だけ増える。(組み替えPvLEA1: 100kDa, 組み替えPvLEA2: 28kDa, 組み替えPvLEA3: 55kDa)
【図6】PvLEA遺伝子をCHO-K1細胞に導入し、乾燥処理を行った後の、コロニー数を計測した結果を示す図である。PvLEA1、2及び3遺伝子を発現した細胞の内、トレハロースを含む培地で培養したもののみが、乾燥処理後も30~55個のコロニーを形成した。一方、ベクターのみを発現した細胞は、トレハロースの存在に関わらずほとんどコロニーを形成しなかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図6】
3
【図4】
4
【図5】
5