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明細書 :唾液腺由来の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な未分化な多分化能を有する新規細胞およびその細胞の調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4147306号 (P4147306)
公開番号 特開2005-218306 (P2005-218306A)
登録日 平成20年7月4日(2008.7.4)
発行日 平成20年9月10日(2008.9.10)
公開日 平成17年8月18日(2005.8.18)
発明の名称または考案の名称 唾液腺由来の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な未分化な多分化能を有する新規細胞およびその細胞の調製方法
国際特許分類 C12N   5/06        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 E
C12Q 1/02
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
A61L 27/00 V
請求項の数または発明の数 16
全頁数 11
出願番号 特願2004-026549 (P2004-026549)
出願日 平成16年2月3日(2004.2.3)
審査請求日 平成18年10月13日(2006.10.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】遠藤 文夫
【氏名】松本 志郎
【氏名】久富 雄一朗
【氏名】奥村 健治
【氏名】中村 公俊
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】森井 隆信
参考文献・文献 特開2003-144140(JP,A)
第26回日本分子生物学会年会プログラム講演要旨集,日本,2003年,765,演題番号2PC-026
Hepatology,2003年,Vol.38, No.1,104-113
細胞工学,日本,2003年,Vol.22, No.5,534-538
調査した分野 C12N 5/06
C12Q 1/02
A61L 27/00
G01N 33/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物の唾液腺から単離される、内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞であって、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養することにより得られる有突起浮遊細胞である上記細胞。
【請求項2】
哺乳動物がブタまたはヒトである、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
内胚葉系細胞である膵臓内分泌細胞及び/又は肝臓細胞へ分化する能力と、外胚葉系細胞である神経系細胞へ分化する能力とを有している、請求項1又は2に記載の細胞。
【請求項4】
哺乳動物の唾液腺から細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに1x106 ~3x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種して培養を行い、10~14日目以降に出現する突起を有する細胞を単離することにより製造される、請求項1からの何れかに記載の細胞。
【請求項5】
哺乳動物の唾液腺から細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに1x106 ~3x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種して培養を行い、10~14日目以降に出現する突起を有する細胞を単離することを含む、請求項1からの何れかに記載の細胞の製造方法。
【請求項6】
請求項1からの何れかに記載の細胞を、内胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することを含む、内胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織の製造方法。
【請求項7】
内胚葉系細胞が、膵臓内分泌細胞又は肝臓細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
内胚葉系細胞に分化させる条件が、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をU字型の底面を有する容器にて培養を行うことを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
インスリンの発現及び/又は膵臓特異的転写調節因子の発現の有無を指標として膵臓内分泌細胞に分化した細胞を取得する、請求項6から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
アルブミンの発現の有無を指標として肝臓細胞に分化した細胞を取得する、請求項6から8の何れかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1からの何れかに記載の細胞を、外胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することを含む、外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織の製造方法。
【請求項12】
外胚葉系細胞が神経系細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
外胚葉系細胞に分化させる条件が、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をニューロスフェア(neurosphere)法で培養し、形成した細胞球状塊をlaminin / poly-D lysineコードディッシュに播種することを含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
Tuj-I及び/又はGFAPの発現の有無を指標として神経系細胞に分化した細胞を取得する、請求項11から13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1からの何れかに記載の細胞に、被検物質を投与し、誘導された細胞の機能を評価することを含む、細胞の分化に影響を与える物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
所望の細胞に特異的な蛋白質の発現を指標として、誘導された細胞の機能を評価する、請求項15に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液腺由来の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な未分化な多分化能を有する新規細胞およびその細胞の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療に有用なポテンシャルを有する幹細胞についての研究が盛んになされている。今日までに報告された代表的な幹細胞として、間葉系幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、並びに膵幹細胞が挙げられる。
【0003】
間葉系幹細胞はヒト成体骨髄液より分離された(Pittenger, M.F. et al., Science 284, 143 (1999))。この細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞へのin vitroにおける分化誘導が可能である。神経幹細胞(Gage, P.H., Science 287, 1433-1438 (2000))については1992年に成体の中枢神経系からの最初の分離の報告がなされており、2001年には成体の皮膚真皮から神経細胞に分化可能な幹細胞の分離(Toma, J.G. et al., Nature Cell Biology, 3, 778-784 (2001))が報告されている。
【0004】
造血幹細胞は既に多くの研究がなされているが、その分化機能について報告されたのは比較的新しい。1999年に骨髄細胞が肝臓細胞に分化することがPatersenらによって明らかにされ(Petersen B.E. et al., Science 284, 1168 (1999))、翌年にはマウス造血幹細胞をc-kittil、Thr-1low、Linneg、Sca-1+にてsortingした細胞分画が、幹細胞に分化転換することが示されている(Lagasse, E. et al., Nature Medicine 6, 1229-1234 (2000))。この他にも造血幹細胞には分化転換能があると考えられており、心筋(Orlic, D. et al., Nature 410, 701-705 (2001))や、さらには肺胞上皮、腸管上皮、皮膚(Orlic, D. et al.,上掲)への分化も報告されている。
【0005】
以上のように、間葉系もしくは外胚葉系の細胞についての幹細胞研究は進んでいるが、内胚葉系幹細胞の報告は未だ少ない。ヒト肝幹細胞についてはその存在が確実視されているが、未だ確定的な幹細胞の報告はない。膵臓についてはCorneliusらのグループが成体マウス膵臓より膵島産生幹細胞(islet producing stem cells (IPSCs))の分離を行っており、さらにIPSCsよりin vitroにて作製した膵島の移植実験を報告している(Ramiya, V.K. et al., Nature Medicine 6, 278-282 (2000))。この細胞についても、a、b、d細胞への分化は確認されているが、その他の細胞への分化能は確認されていない。膵島よりネスチン(nestin)陽性にて分離した幹細胞が膵臓の内、外分泌および肝臓の表現型へと分化したとの報告はあるが(Zulewski, H. et al., Diabetes 50, 521-533 (2001))、分化マーカーの免疫組織学的検索は示されていない。また、内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能なより未分化な多分化能を有する細胞についての報告はこれまでの所なされていない。
【0006】

【非特許文献1】Pittenger, M.F. et al., Science 284, 143 (1999)
【非特許文献2】Gage, P.H., Science 287, 1433-1438 (2000)
【非特許文献3】Toma, J.G. et al., Nature Cell Biology, 3, 778-784 (2001)
【非特許文献4】Petersen B.E. et al., Science 284, 1168 (1999)
【非特許文献5】Lagasse, E. et al., Nature Medicine 6, 1229-1234 (2000)
【非特許文献6】Orlic, D. et al., Nature 410, 701-705 (2001)
【非特許文献7】Ramiya, V.K. et al., Nature Medicine 6, 278-282 (2000)
【非特許文献8】Zulewski, H. et al., Diabetes 50, 521-533 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞移植治療に使用できる、種々の組織に分化可能なより未熟で多分化能を有する体性幹細胞、および上記体性幹細胞の調製方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、唾液腺細胞の新しい培養を開発することにより上清中で増殖する浮遊系細胞を見出した。この細胞を観察したところ、これまでに報告されていた幹細胞よりも更に未分化な新規の細胞であった。本発明者らはこの細胞が膵臓内分泌細胞又は肝臓細胞などの内胚葉系細胞および神経系細胞などの外胚葉系細胞の双方に分化可能であることを確認した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、哺乳動物の唾液腺から単離される、内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞が提供される。
好ましくは、哺乳動物はブタまたはヒトである。
好ましくは、本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養することにより得られる有突起浮遊細胞である。
好ましくは、本発明の細胞は、内胚葉系細胞である膵臓内分泌細胞及び/又は肝臓細胞へ分化する能力と、外胚葉系細胞である神経系細胞へ分化する能力とを有している。
好ましくは、本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺から細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに1x106 ~3x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種して培養を行い、10~14日目以降に出現する突起を有する細胞を単離することにより製造される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、哺乳動物の唾液腺から細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに5x105 ~1x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種して培養を行い、10~14日目以降に出現する突起を有する細胞を単離することを含む、上記した本発明の細胞の製造方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の細胞を、内胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することを含む、内胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織の製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、内胚葉系細胞は、膵臓内分泌細胞又は肝臓細胞である。
好ましくは、内胚葉系細胞に分化させる条件は、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をU字型の底面を有する容器にて培養を行うことを含む。
好ましくは、インスリンの発現及び/又は膵臓特異的転写調節因子の発現の有無を指標として膵臓内分泌細胞に分化した細胞を取得することができる、
好ましくは、アルブミンの発現の有無を指標として肝臓細胞に分化した細胞を取得することができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した方法により製造される内胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の細胞を、外胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することを含む、外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織の製造方法が提供される。
【0015】
好ましくは、外胚葉系細胞は神経系細胞である。
好ましくは、外胚葉系細胞に分化させる条件は、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をニューロスフェア(neurosphere)法で培養し、形成した細胞球状塊をlaminin / poly-D lysineコードディッシュに播種することを含む。
好ましくは、Tuj-I及び/又はGFAPの発現の有無を指標として神経系細胞に分化した細胞を取得することができる。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した方法により製造される外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の細胞に、被検物質を投与し、誘導された細胞の機能を評価することを含む、細胞の分化に影響を与える物質のスクリーニング方法が提供される。
好ましくは、所望の細胞に特異的な蛋白質の発現を指標として、誘導された細胞の機能を評価することができる。
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、上記したスクリーニング方法により選抜された物質が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の細胞を、上記したスクリーニング方法により選抜された物質の存在下で培養することを含む、内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織を製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、膵臓内分泌細胞又は肝臓細胞などの内胚葉系細胞および神経系細胞などの外胚葉系細胞の双方に分化可能な未分化な多分化能を有する新規細胞、およびその細胞の調製方法が提供される。再生医療は、人体の細胞(たとえば胚性幹細胞や体性(組織)幹細胞など)を最大限に利用することによって、新たな組織や器官を細胞から作製したり、損傷したもしくは機能の落ちた組織や器官を修復しようとする医学的な試みである。再生医療によって、これまで治療が難しかった疾患に対しての治療が可能になるのではないかと大きな期待が寄せられており、現在、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、腎不全、血管性病変、白血病、関節炎、熱傷など多岐にわたり研究が進められている。本発明の細胞を利用することにより体性幹細胞を用いた種々の組織再生が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ブタ唾液腺由来の初代培養細胞を、I型コラーゲンコート培養皿を用いて従来法と比べて高密度培養することで、10日目以降から運動性を有する有突起浮遊細胞が出現する。
この有突起浮遊細胞は、浮遊状態のまま新しい培地に移すと増殖能を失い死滅するが、conditioned mediumを30%含んだ維持培地を用いてI型コラーゲンコート培養皿に移すと付着して増殖し、継代培養可能となる。
【0021】
I型コラーゲンコート培養皿に付着増殖した細胞は、細胞内ラミニン陽性、表面抗原CD49f、CD90、c-kit及びCD44陽性であるが、アルブミンおよびインスリンについて、免疫染色が陰性およびそれらのmRNAが未検出であることから肝臓細胞および膵臓には分化していない。
【0022】
I型コラーゲンコート培養皿に付着培養させた細胞を、U字型底面容器で培養すると中央部に集合しスフェロイド体を形成する。このスフェロイド体の最外層はインスリン陽性の膵内分泌細胞に分化し、その中央部はアルブミン陽性の肝臓細胞に分化する。さらに、本発明の細胞は、ニューロスフェア法による培養で神経細胞に分化する。
即ち、本発明の細胞は、内胚葉系細胞及び外胚葉系細胞の双方に分化可能な未分化な多分化能を有する有突起浮遊細胞である。
【0023】
幹細胞とは、自己複製能と多分化能(異なった細胞を作り出す能力)をもった未分化な細胞のことを言う。幹細胞には、体をつくるあらゆる細胞に変化する胚性幹細胞(ES細胞)と、すでに完成した体の各器官で増殖及び分化する体性幹細胞がある。本発明の幹細胞は、体性幹細胞である。
【0024】
本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺から単離される、内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞である。
【0025】
本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺から単離される。哺乳動物としては、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サル等の実験動物、又はヒトが挙げられ、特に好ましくはブタ又はヒトであり、最も好ましくはヒトである。哺乳動物としては成体を使用することができる。移植医療を行う場合は、他人の組織ではなく、自分自身の組織を用いることが拒絶反応を回避する上で好ましい。自分自身の組織の損傷や機能不全を自らの組織で修復する目的で、成体由来の唾液腺を用いて、本発明の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞を製造することが好ましい。
【0026】
本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養することにより取得することができる有突起浮遊細胞である。さらに好ましくは、本発明の細胞は、哺乳動物の唾液腺から細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに1x106 ~3x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種して培養を行い、10~14日目以降に出現する突起を有する細胞を単離することにより製造することができる。
【0027】
本発明では、細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレート に5x104 cells/ 100mm dish の細胞密度で播種し初代培養を開始するという従来の方法に改良を加え、更に高密度で培養することで浮遊系細胞が出現することを見出した。すなわち、分散唾液腺細胞をI型コラーゲンコートプレート に1x106 ~3x106cells/ 100mm dishの細胞密度で播種し、初代培養を開始すると、主に2種類の浮遊細胞が出現することを見いだした。浮遊細胞の出現時期と経過は図1に示した。一つ目は、初代培養開始後、3~7日目に出現する大型顆粒細胞であり、二つ目は10~14日目以降に出現する突起を有するToge細胞である。大型顆粒細胞は、7日目以降は出現せず、増殖もしないことがわかった。Toge 細胞は、14日目以降から約20日間上清中に存在し、この浮遊細胞をI型コラーゲンコートプレートに播種すると、付着細胞として増殖し、かつ継代できることが判明した。
【0028】
上記のようにして、本発明による内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞を得ることができる。上記のようにして得られる本発明の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞は、内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞に特異的な物質の発現の有無を指標にして確認することができる
【0029】
内胚葉系細胞としては、例えば、膵臓内分泌細胞、肝臓細胞、口腔、食道、気管、胃、腸などが挙げられ、好ましくは、膵臓内分泌細胞及び肝臓細胞である。
外胚葉系細胞としては、神経系細胞、感覚器細胞(水晶体、網膜、内耳など)、皮膚表皮細胞、毛包などが挙げられ、好ましくは神経系細胞である。
【0030】
膵臓内分泌細胞に特異的な物質としては、グルカゴン、インスリン、膵臓特異的転写調節因子(例えば、PDX-1,Pax4,Neurogenninなど)、などが挙げられる。肝臓細胞に特異的な物質としては、アルブミン、肝臓特異的転写調節因子(例えば、HNF-1α,HNF-1β,HNF-4α,RXRαなど)、LDH、transferinなどが挙げられる。神経系細胞に特異的な物質としては、nestin、Tuji-1、O2a、O4、GFAP、S-100、p75などが挙げられる。
【0031】
本発明による内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞は、内胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することによって、内胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織を製造することができる。
【0032】
内胚葉系細胞に分化させる条件としては、例えば、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をU字型の底面を有する容器にて培養を行うことなどが挙げられる。それ以外の条件としては、HGF、EGF、GLP-1、betacellurinなどの増殖因子を培地に添加することにより、分化効率を上げることが可能である。
【0033】
本発明による内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞は、外胚葉系細胞に分化させる条件下で培養することによって、外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織を製造することができる。
【0034】
外胚葉系細胞に分化させる条件としては、哺乳動物の唾液腺に由来する細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレートに付着させて培養した細胞をニューロスフェア(neurosphere)法で培養し、形成した細胞球状塊をlaminin / poly-D lysineコードディッシュに播種することなどが挙げられる。それ以外の条件としては、BDNF、CNTF、NT-3、などを分化誘導培地に加えることにより、神経細胞、神経膠細胞の各誘導効率を上げることが可能である。
【0035】
上記したように、内胚葉系細胞および外胚葉系細胞は、本発明の細胞を用いて目的とする内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞に特異的な物質の発現の有無を指標として取得することができるので、これらの指標を用いれば、内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞への分化に影響を与える物質をスクリーニングすることができる。
【0036】
すなわち、本発明の内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞に被検物質を投与し、誘導された細胞の機能を上記した指標を用いて評価することにより、該被検物質が内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞への分化に与える影響を検出することができる。このようにして選抜された物質は、内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞への分化に影響を与える物質であって、再生医療を行う際に有用である。
【0037】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質の種類は特に限定されないが、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。またペプチドライブラリーや化合物ライブラリーなど、多数の分子を含むライブラリーを被験物質として使用することもできる。
【0038】
本発明のスクリーニング方法により選抜された物質の存在下において、本発明による内胚葉系細胞および外胚葉系細胞の双方に分化可能な多分化能を有する細胞を培養することによって、内胚葉系細胞又は外胚葉系細胞又は該細胞に由来する組織を製造することができ、これらの細胞又は組織は、患者に移植して再生医療のために使用することができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1:ブタ唾液腺細胞の調製方法
離乳後約2週間目のブタ(LWD(ランドレス・デュロック種)ブタ、生後4~5 週の雄、7-10 kg)を、硫酸アトロピン、ストレスニル、ケタラール麻酔下に大腿動脈を切断して脱血し、仰臥位に固定した。下顎から頚部を正中切開し、顎下腺を摘出した。採取した顎下腺は氷冷したWilliams' E培養液(FCS無添加)へ保存し、培養フードにて直径約1.5 cm、約2-4gの大きさに細切した。滅菌はさみで唾液腺を1~2 mm大に細切した。50 ml遠心管に入れたEGTA buffer 20mlに懸濁して、37℃で20分間、10回/分の速度で回転震盪した。組織細片液は遠心 (100 xg、5分、室温)し、上清は捨てた。ペレットをcollagenase/hyaluronidase bufferに懸濁し、37℃で40分間、回転震盪した。100 xg、5分、室温にて遠心分離し、ペレットをdispase solutionに懸濁し、37℃、60分間、回転震盪した。懸濁液を細胞濾過器にかけ、遠心分離(100 xg、5分、室温)した。細胞ペレットをWilliams' E medium (serum free) に懸濁し、同培養液で3回洗浄した。
EGTA buffer
NaCl 36.9mM, KCl 5.4mM, NaH2PO4 0.7mM, Na2HPO4 1.1mM, HEPES 10mM, EGTA 0.5mM, NaHCO3 0.035%, glucose 0.1%, phenol red 0.006%
Collagenase / hyaluronidase buffer
DMEN/F12 (GIBCO) 40ml, Collagenase(GIBCO) 40mg, Hyaluronidase (Nakarai) 40mg
Dispase buffer
DMEN/F12 (GIBCO) 40ml, Dispase (GIBCO) 40mg
維持培養液
Williams' E medium (GIBCO) supplmented with 10%FBS (GIBCO), insulin (GIBCO) 1x10-6 M, dexamethasone 1x10-5 M (Sigma), penicilline-streptmycin-fungizone 1x (GIBCO), recombinant human EGF (Sigma) 20ng/ml
【0040】
上記の細胞ペレットを維持培養液に懸濁し細胞数を計測した。細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレート (IWAKI)に5x105 ~1x106cells/ 100mm dish の細胞密度で播種し、初代培養を開始した。培養液交換は初回を36時間目に行い、以降は3日毎に半培地交換にておこなった。
【0041】
実施例2:ブタ唾液腺からの浮遊系多分化能細胞の分離
本発明では、細胞浮遊液をI型コラーゲンコートプレート (IWAKI)に5x104 cells/ 100mm dish の細胞密度で播種し初代培養を開始する、という従来の方法に改良を加え、更に高密度で培養することで浮遊系細胞が出現することが見出された。すなわち、分散唾液腺細胞をI型コラーゲンコートプレート (IWAKI)に1x106 ~3x106cells/ 100mm dishの細胞密度で播種し、初代培養を開始すると、主に2種類の浮遊細胞が出現する。浮遊細胞の出現時期と経過を図1に示す。一つ目は、初代培養開始後、3~7日目に出現する大型顆粒細胞であり、二つ目は10~14日目以降に出現する突起を有するToge細胞である。大型顆粒細胞は、7日目以降は出現せず、増殖もしないことがわかった。Toge 細胞は、14日目以降から約20日間上清中に存在し、この浮遊細胞をI型コラーゲンコートプレートに播種すると、付着細胞として増殖し、かつ継代できることが判明した。この付着細胞を以下の分化誘導に使用した。
【0042】
実施例3:ブタ唾液腺由来細胞の分化誘導
(1)方法
実施例1及び2と同様に、浮遊細胞を採取し、I型コラーゲンコートプレートに播種し継代培養を行った。継代培養3代目以降の細胞を用いて、以下の分化誘導を行った。5x105の浮遊細胞由来細胞を分化誘導培養液(Williams' E medium supplimented with 10%FCS(GIBCO), insulin(GIBCO) 1x10-6 M, Dexamethasone (Sigma) 1x10-5 M, penicilline-streptmycin-fungizone 1x (GIBCO), recombinant humanEGF(Sigma)20ng/ml, GLP-1 (Sigma) 20ng/ml)に懸濁し、96 well U-plate(住友ベークライト)に5x102 ~2x103個 / wellずつ分注した。この細胞は5%CO2存在下、37℃にてインキュベートし、各wellの培養液交換は3日毎に行った。この状態で7-14日間培養し、この間の細胞の分化について、免疫蛍光染色、RT-PCRを用いて検討した。
【0043】
免疫蛍光染色法は以下の通り行った。96 well U-plate へ分注後8~14日目に各ウェルの培養液をインスリン非添加、無血清 Williams' E培養液に交換し、4時間培養することにより、免疫染色時の培養液中のアルブミン、インスリンによる染色への非特異性を除去した。その後、各ウェルから細胞を取り出し、12個/200μl になるように無血清 Williams' E培養液に分けた。Cytospin(Hettich)の1穴に12個/200μl になるように入れた。1500 rpmにて5分間遠心し、over night の風乾を行った。スライドガラスをドーセにいれて、PBSにて1分間3回洗浄した。その後、4%PFAを用いて4℃にて20分間固定し、PBSにて5分間3回洗浄した。0.2% TritonX100/PBSに10分間、室温にて浸漬し、TBS (Tris buffered saline)にて5分間3回洗浄した。非特異反応ブロッキング試薬(DAKO)を組織に滴下し、室温に5分間インキュベーション後、Rabbit anti-human albumin (DAKO) 1:100、Guinia pig anti-porcine insuline;ready to use (DAKO)、Rabbit anti-human glucagons(DAKO)を滴下し、室温にて60分間インキュベーションした。TBSにて5分間3回洗浄し、Goat anti -Rabbit IgG (santacruze) Alexa488, 1:100、anti-guinia pig IgG FITC594(santacruse)を滴下し、室温にて60分間インキュベーションした。TBSにて5分間3回洗浄し、Fluorosent mounting 試薬(DAKO)を用いて封入し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0044】
(2)結果
浮遊細胞をI型コラーゲンコートプレートに付着させ培養した細胞をU字型の底面を有する容器(96 well 96U-plate)にて培養した場合、細胞は底辺の中央部に集合する。更に、その細胞は球状細胞塊(spheroid body)を形成した。500~2000cells/wellにて播き込みを行い、形成されたspheroid bodyには、最外層(mantle zone)に於いてはグルカゴン陽性細胞が存在した。グルカゴン陽性細胞は球状細胞塊の最外層の1~2細胞層にのみ存在していた。また中央部分に於いてはインスリン陽性細胞が存在した。また同様の条件にて誘導された球状細胞塊に於いては、インスリン陽性細胞の細胞核に一致して膵臓特異的転写調節因子pdx-1に対する抗体染色において陽性反応が認められた。すなわちこれらの細胞は膵臓内分泌細胞へ分化したことを示している。
【0045】
なお浮遊細胞をI型コラーゲンコートプレートで培養した場合のみ、albumin陽性細胞、Insulin陽性細胞、双方向への誘導が可能であった。
【0046】
96 well U-plateへ分注12時間後には、全てのwell にて球状細胞塊の形成が認められた。8-10日間の培養では、スフェア径の変化はほとんど認められず、球状細胞塊の形成後の細胞の増殖はほとんどないものと考えられた。ここで形成された球状細胞塊を調べてみると、1個の球状細胞塊のあたり、500~2000個の細胞が存在していた。
【0047】
96 well U-plateへ分注する前の浮遊細胞由来細胞は、アルブミン及びインスリン免疫染色は陰性であった。またアルブミンおよびインスリン遺伝子の発現について調べる目的でmRNAを分離しRT-PCR法でアルブミンおよびインスリンmRNAの検出を試みたが検出されなかった。すなわち、浮遊細胞はI型コラーゲンコートプレートに付着させ培養した状態では肝臓および膵臓細胞への分化を示していないことが判明した。
【0048】
96 well U-plateで形成させた球状細胞塊を免疫染色したところ、アルブミン陽性細胞及びインスリン陽性細胞ともに存在し、インスリン陽性細胞が最外層に数層存在し、アルブミン陽性細胞がその内側に存在していた。球状細胞塊を構成する細胞の10~30%がアルブミン陽性、5~10%がインスリン陽性細胞であった。すなわち、浮遊細胞はほぼ均一な細胞の集団であり、かつ内胚葉系細胞である膵臓内分泌細胞、肝臓細胞への分化する能力を有する細胞であることが判明した。
【0049】
この浮遊細胞に由来しI型コラーゲンコートプレートに付着して増殖する細胞の分化能をさらに観察する目的でニューロスフェア(neurosphere)法で培養し神経細胞への分化能について検討を行った。その結果neurosphere法による培養で培養に用いた細胞のほとんどが集合し、7日後に細胞球状塊を形成した。細胞球状塊は、DMEN/F12(FBS 5%,N2 1%)培地でlaminin / poly-D lysine dishに播種することでTuj-I陽性細胞、GFAP(glial fibrillary acidic protein )陽性細胞へ分化した。すなわちこの浮遊細胞は神経系(外胚葉系)への分化能も有している細胞であることが判明した。
【0050】
以上をまとめると、ブタ唾液腺初代培養プレートから浮遊してくる細胞をいったんI型コラーゲンコートプレートに付着させた細胞は内胚葉系及び外肺葉系への多分化能を示した。すなわち浮遊細胞はほぼ均一な細胞の集団であり、かつ内胚葉系細胞である膵臓内分泌細胞、肝臓細胞への分化する能力を有する細胞であった。またこれまでに分離された幹細胞よりもさらに未熟な段階にある細胞であることが判明した。つまり上記の方法で分離した細胞は未分化な幹細胞で内胚葉系及び外肺葉系への多分化能を有する新規の細胞であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、培養液中の浮遊系細胞とその経過を示す。
図面
【図1】
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