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明細書 :磁気バリ取り方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4185986号 (P4185986)
公開番号 特開2006-272533 (P2006-272533A)
登録日 平成20年9月19日(2008.9.19)
発行日 平成20年11月26日(2008.11.26)
公開日 平成18年10月12日(2006.10.12)
発明の名称または考案の名称 磁気バリ取り方法
国際特許分類 B24B  31/112       (2006.01)
B24B  37/00        (2006.01)
FI B24B 31/112
B24B 37/00 D
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2005-098661 (P2005-098661)
出願日 平成17年3月30日(2005.3.30)
審査請求日 平成18年3月13日(2006.3.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】進村 武男
【氏名】鄒 艶華
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】筑波 茂樹
参考文献・文献 特開昭63-221965(JP,A)
特開2001-198793(JP,A)
特開平11-010519(JP,A)
調査した分野 B24B 31/112
B24B 37/00
特許請求の範囲 【請求項1】
バリが形成された加工面を有する工作物を挟むように一対の磁石を対向配置し、前記加工面側に配置された一方の磁石が磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物を磁気吸着し、当該磁気吸着を伴う前記一方の磁石が対向する他方の磁石に磁気吸引されて前記磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物が前記加工面に押圧し、前記対向する一対の磁石と前記加工面を有する工作物とが相対運動することによりバリを除去する磁気バリ取り方法であって、
前記工作物を挟むように対向配置された一対の磁石は、それぞれ、2つの永久磁石をヨークで結合して閉磁気回路を構成した複合磁石であることを特徴とする磁気バリ取り方法。
【請求項2】
前記工作物を挟むように対向配置された磁石のいずれもが前記磁気吸着を伴い、当該磁気吸着を伴う磁石が永久磁石であることを特徴とする請求項1に記載の磁気バリ取り方法。
【請求項3】
前記磁気吸着を伴う磁石の表面に弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気バリ取り方法。
【請求項4】
前記磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物が前記加工面に押圧する力を、前記磁気吸着を伴う磁石及び/又は当該磁石に対向する磁石の磁力を変化させて制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の磁気バリ取り方法。
【請求項5】
前記対向する磁石と前記加工面を有する工作物との相対運動を、前記対向する磁石の移動又は前記工作物の移動により制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の磁気バリ取り方法。
【請求項6】
前記対向する磁石と前記加工面を有する工作物との相対運動を、外部からの変動磁場を利用した高周波振動運動により行うことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の磁気バリ取り方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細長い円管内や複雑な形状からなる工作物等に形成されたバリを効果的に取り除くことができる磁気バリ取り方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属加工の際に行われる穴あけ加工、プレス加工、切削加工、切断加工等の機械加工は、通常、工作物にバリを形成する。そうしたバリを取り除く方法として、各種の方法が行われているが、バリを取り除くために用いられる工具の種類や工作物の形状によっては、従来の方法を用いてもバリの除去が難しい場合があり、必ずしも効果的にバリを取り除くことができないことがある。
【0003】
バリを取り除くために用いられる工具として、例えば、砥石や研磨紙等のように砥粒が固定されている固定砥粒工具を用いた場合には、バリ取りを行っていくと目詰まりが起こり易く、加工寿命が著しく低下するという難点があり、そのため、砥石の目立て作業や研磨紙の交換を頻繁に行う必要がなり、コストがかかるという問題がある。
【0004】
また、ラッピング加工のように砥粒が固定されていない遊離砥粒加工方式は、作業性が悪く、砥粒が飛散するという難点がある。さらに、精密部品のバリ取りや精密エッジ仕上げ加工には適さない。
【0005】
また、ワイヤブラシや砥粒入りナイロンブラシ等の従来のバリ取り工具は、部品外面のバリには適用できるが、細長い円管内等の狭い箇所に生じたバリ(例えばドリル加工バリ)等の除去には適用できず、また、よく利用されるバレル加工等も部品外面のバリ取りには利用されるが、狭い円管内面のバリ取り加工には適用し難い。
【0006】
ところで、磁場の作用を取り込んだ精密加工技術である「磁気援用加工法(磁気研磨法)」は、既成概念にとらわれない新技術として注目されている。この磁気援用加工法は、磁力線を媒介にして磁性砥粒や磁性粒子に加工力と運動力を与えて精密な表面加工を実現するものである。磁力線を媒介にする磁気援用加工法は、X線の物体透過現象と同じく、磁力線が非磁性体を透過する現象に着目した技術であり、従来の機械加工では困難な部品の研磨等の加工を可能とすることができ、例えば、複雑な形状を有する部品の表面、工具が入らない穴の内面、工具が届かない管の内面等の研磨等を行うことができる(例えば、特許文献1を参照)。

【特許文献1】特開2002-192453
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の磁気援用加工法においては、磁性砥粒や磁性粒子に加工力と運動力を与えて精密な表面加工を実現することはできるものの、機械加工によって生じた強固なバリを取り除くことまでは検討されていなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、例えば、細長い円管内や複雑な形状からなる工作物に生じたバリを効果的に取り除くことができる磁気バリ取り方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の磁気バリ取り方法は、バリが形成された加工面を有する工作物を挟むように一対の磁石を対向配置し、前記加工面側に配置された一方の磁石が磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物を磁気吸着し、当該磁気吸着を伴う前記一方の磁石が対向する他方の磁石に磁気吸引されて前記磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物が前記加工面に押圧し、前記対向する一対の磁石と前記加工面を有する工作物とが相対運動することによりバリを除去する磁気バリ取り方法であって、前記工作物を挟むように対向配置された一対の磁石は、それぞれ、2つの永久磁石をヨークで結合して閉磁気回路を構成した複合磁石であることを特徴とする。

【0010】
この発明によれば、バリが形成された加工面側に、磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物(以下、これらを「磁性砥粒等」という。)を磁気吸着した磁石が配置されており、その磁石は、他の磁石の磁化力で加工面側に磁気吸引される。その結果、加工面側の磁石に磁気吸引した磁性砥粒等はバリが形成された加工面に強く押圧するので、機械加工によって生じた強固なバリであっても、磁性砥粒等により容易に取り除くことができる。さらに、この発明によれば、加工面側の磁石をもう一方の磁石で移動させたり、加工面側の磁石をもう一方の磁石で一定の位置に保持しつつ工作物を移動させたりすることができるので、対向する一対の磁石と工作物とを容易に相対運動させることができる。その結果、機械加工によって生じた強固なバリであっても、容易かつ効率的に取り除くことができる。さらに、この発明によれば、磁性砥粒等は磁石に半固定状態で磁気吸着しているので、その磁性砥粒等が加工面で研磨加工に供されても、その流動性により新たな磁性砥粒等が入れ替わり加工面に供給されるように作用する。その結果、従来の固定砥粒のような目詰まりが起こり難く、加工寿命が格段に向上するという利点がある。さらにこの発明によれば、工作物を挟むように対向配置された一対の永久磁石として、それぞれ、ヨークで結合して閉磁気回路を構成した2つの永久磁石を用いたので、強力な磁気力を発生させることができる。こうした永久磁石を用いれば、機械加工によって生じた大きく強固なバリであっても容易かつ効率的に取り除くことができる。

【0011】
本発明の磁気バリ取り方法において、前記工作物を挟むように対向配置された磁石のいずれもが前記磁気吸着を伴い、当該磁気吸着を伴う磁石が永久磁石であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、対向配置された磁石の両方を、磁気吸着を伴う永久磁石とするので、磁性砥粒等との間の磁気吸着力、及び対向する磁石との間の磁気吸引力は、その永久磁石の材質を変更することによって容易に制御することができる。その結果、機械加工によって生じたバリの大きさや強度に対して、柔軟に加工条件を設定することができ、バリを容易かつ効率的に取り除くことができる。
【0017】
本発明の磁気バリ取り方法において、前記磁気吸着を伴う磁石の表面に弾性体が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、磁気吸着を伴う磁石の表面に弾性体が設けられているので、磁石に磁気吸着する磁性砥粒等を、その弾性体に半固定状態で保持することができる。その結果、機械加工によって生じたバリが大きく強固なものであっても、磁性砥粒等を磁石から脱落させることなく加工面に押圧させて研磨加工することができる。
【0019】
本発明の磁気バリ取り方法において、前記磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物が前記加工面に押圧する力を、前記磁気吸着を伴う磁石及び/又は当該磁石に対向する磁石の磁力を変化させて制御することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、磁性砥粒等が加工面に押圧する力を、対向配置された磁石の一方又は両方の磁力を変化させて制御するので、工作物の種類、バリの形状や大きさ等によって、任意に設定することが可能である。その結果、多様な工作物に対して柔軟に対応することができる。
【0021】
本発明の磁気バリ取り方法において、前記対向する磁石と前記加工面を有する工作物との相対運動を、前記対向する磁石の移動又は前記工作物の移動により制御することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、対向する磁石と工作物との相対運動を、対向する磁石の移動又は工作物の移動により制御するので、工作物の種類、バリの形状や大きさ等によって、任意に設定することが可能である。その結果、多様な工作物に対して柔軟に対応することができる。
【0023】
本発明の磁気バリ取り方法において、前記対向する磁石と前記加工面を有する工作物との相対運動を、外部からの変動磁場を利用した振動運動により行うことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、対向する磁石と工作物との相対運動を、外部からの変動磁場を利用した振動運動により行うので、磁性砥粒等の研磨作用をより向上させることができる。その結果、工作物の種類、バリの形状や大きさ等に応じて柔軟に対応することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の磁気バリ取り方法は以下のような優れた効果を有する。(1)切削バリや研削バリ、あるいは他の機械加工法によって生ずる加工バリを除去でき、精密なエッジ仕上げ加工を実現できる。(2)磁性砥粒等が磁石に半固定状態で保持されているので、その磁性砥粒等は加工面との間で抵抗を受けて動くことができる。磁性砥粒等が動くので、新しい磁性砥粒等が入れ替わり加工面に出てくることになり、バリ取り加工寿命が向上すると同時に、経時的に安定したバリ取り加工性能を発揮することができる。(3)半固定状態で磁石に保持された磁性砥粒等は、比較的自由な動きをすることができるので、磁性砥粒等の粒子間にチップポケットを簡単に形成することができる。その結果、粒子間の目詰まりが起こることがなく、バリ取り効果を長期間維持することができる。(4)磁性砥粒等は、磁石表面に磁気吸着力のみで保持されているため、材質、粒径及び形状等の異なる種々の粒子を必要に応じた条件で自由に選定し、利用できる。各種の組み合わせも可能であり、異なる効果を奏する粒子を複数混合することによる効果も期待できる。(5)本発明の磁気バリ取り方法によれば、湿式加工でも可能であり、乾式加工でも可能である。
【0026】
また、本発明の磁気バリ取り方法によれば、(6)磁性砥粒等の加工面への押圧力を、磁石の磁力を変化させて制御することができ、(7) 対向する磁石と工作物との相対運動を、対向する磁石の移動又は工作物の移動により制御することができる。また、(8)磁石の寸法が小さくとも所定の加工力が得られるので、細長い円管内面に生じたバリ取りのように、見えない箇所や、通常のバリ取り工具を挿入できない狭い箇所のバリ取りと精密エッジ仕上げに適用することができる。(9)こうした磁気バリ取り方法によれば、バリ取りコストを削減でき、作業性よくバリ取り加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の磁気バリ取り方法について説明する。
【0028】
図1は、本発明の磁気バリ取り方法の一例を示す模式図である。本発明の磁気バリ取り方法は、バリが形成された加工面を有する工作物を挟むように磁石を対向配置し、前記加工面側に配置された磁石が磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物を磁気吸着し、当該磁気吸着を伴う磁石が対向する磁石に磁気吸引されて前記磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物が前記加工面に押圧し、前記対向する磁石と前記加工面を有する工作物とが相対運動することによりバリを除去する、ことを特徴とする。
【0029】
本発明の磁気バリ取り方法は、バリが形成された加工面を有する工作物に対して適用され、特に、金属加工の際に行われる穴あけ加工、プレス加工、切削加工、切断加工等の機械加工により形成されたバリを有する工作物に対して好ましく適用される。本発明が適用される工作物の形状は特に制限はないが、その形状としては、細長い円管や複雑な形状のもののように、一般的なバリ取り手法では困難な形状に対して特に有効である。また、見えない箇所や、通常のバリ取り工具を挿入できない狭い箇所にバリが形成された工作物に対しても適用可能である。工作物が有するバリの大きさや形状についても特に制限はなく、微細なバリであっても可能であるが、本発明の磁気バリ取り方法は、大きく、強固なバリに対しても十分対応可能である。
【0030】
バリが形成された加工面を挟むように対向配置される磁石は、対向配置される磁石のうち、少なくとも1つの磁石は永久磁石である。その永久磁石は、例えば円筒管の内部や、狭い箇所に挿入されて、いわゆる遠隔操作的に使用される。なお、もう一方の磁石は、永久磁石であってもよいし、電磁石であってもよい。永久磁石としては、希土類磁石、フェライト磁石、アルニコマグネット、MA磁石等が挙げられるが、バリ取りを効果的に行うという観点からは、大きな残留磁束密度を有する希土類磁石が好ましく用いられる。希土類磁石としては、具体的には、ネオジ磁石(Nd-Fe-B)やサマリウムコバルト磁石(Sm-Co)が好ましく用いられる。
【0031】
円管内や狭い箇所に配置される永久磁石の大きさは、そうした箇所に応じた大きさであることが好ましい。なお、永久磁石は、その磁化の大きさが磁石の大きさに顕著に変動しないので、小さい磁石であっても比較的大きな磁化を有し、磁性砥粒等を強く磁気吸着することができるという効果がある。
【0032】
磁性砥粒、磁性粒子又はそれらの混合物は、磁石に磁気吸着してバリ取り加工に供される。こうした磁性粒子等は、磁石に磁気吸着する程度の磁性を有するものが好ましい。砥粒機能を有する磁性砥粒としては、例えば現在国内で唯一市販されている磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80)や、その他の未市販の磁性砥粒等を使用することができ、また、磁性粒子としては、電解鉄等の鉄材や、ニッケル、Ni-P合金又はNi-B合金等のニッケル合金材等を使用することができる。また、磁性粒子として、磁性のない砥粒の表面に磁性金属皮膜(例えば、ニッケル又はニッケル合金めっき皮膜)を形成してなる複合磁性粒子や、高温高圧下の不活性ガス中で鉄と焼結させた酸化アルミニウムや、不活性ガス雰囲気中でのアルミニウムと酸化鉄とのテルミット反応の生成物等を用いることも可能である。なお、研磨作用を備える磁性砥粒が好ましく用いられるが、磁性粒子を増量材料として加えることが工業的には好ましい。磁性砥粒と磁性粒子との配合割合は、バリ取り対象となる工作物の素材やバリの大きさ等を考慮して設定されるが、1:1~1:10の範囲で配合される。通常、磁性砥粒が多いほどバリ取り効果は大きくなる。
【0033】
なお、こうした磁性砥粒等は、そのまま使用してもよいし、必要に応じて、一般的な研磨粒子を含むスラリーと共に使用してもよい。一般的な研磨粒子とは、JIS表示でA、WA、GC、SA、MA、C、MD、CBNといったものを含む、Al、SiC、ZrO、BC、ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素、MgO、CeO又はヒュームドシリカ等の砥粒とを結合させたものを挙げることができる。
【0034】
本発明の磁気バリ取り方法は、バリが形成された加工面側に、磁性砥粒、磁性粒子又はその混合物を磁気吸着した磁石を配置し、その磁石を、他の磁石の磁化力で加工面側に磁気吸引する。そして、加工面側の磁石に磁気吸引した磁性砥粒等が、バリが形成された加工面に強く押圧する。さらに、加工面側の磁石を対向配置された磁石で移動させたり、加工面側の磁石を対向配置された磁石で一定の位置に保持しつつ工作物を移動させたりするので、対向する磁石と工作物とを容易に相対運動させることができる。その結果、機械加工によって生じた強固なバリであっても、磁性砥粒等により容易かつ効率的に取り除くことができる。なお、磁性砥粒等は磁石に半固定状態で磁気吸着しているので、その磁性砥粒等が加工面で研磨加工に供されても、その流動性により新たな磁性砥粒等が入れ替わり加工面に供給されるように作用する。その結果、従来の固定砥粒のような目詰まりが起こり難く、加工寿命が格段に向上するという利点がある。
【0035】
以下、本発明の磁気バリ取り方法の加工原理について説明する。先ず、磁性砥粒等が磁石表面から離脱しない理由は、以下の通りである。なお、図2から図5の説明では、磁性砥粒等を「磁性粒」に言い換える。
【0036】
図2は、本発明の磁気バリ取り方法の基本的な原理図である。バリが形成された加工面側に配置された永久磁石は、その加工面の反対側に配置した磁石による磁気力Fを受ける。このときの磁気力Fは、F=BS/2μで表される。ただし、Bは磁束密度、Sは面積、μは真空の透磁率である。したがって、磁性粒1個に作用する加工力fは、f=B/2μとなる。ただし、dは粒径である。磁性粒1個がfの加工力で加工面を押しつけると同時に、加工面側の永久磁石表面を押しつける。ここで、加工面側の永久磁石と磁性粒には、下記の2種類の磁気吸引力Fmとfmが働くので、必ず磁性粒の方が、加工面側の永久磁石表面を押しつける力は大きくなる。
【0037】
いま、加工面側の永久磁石表面と磁性粒との間の摩擦抵抗と、加工面に対する磁性粒表面の研磨材切れ刃の加工抵抗(摩擦係数)とが等しいとすれば、磁性粒は加工面側の永久磁石表面にとどまることになる。少なくとも、加工力(加工抵抗)によって、磁性粒は簡単には加工面側の永久磁石表面からは離脱しない。また、もし、加工面側の永久磁石表面と加工面に対する磁性粒の加工抵抗(摩擦係数)が等しくなく、磁性粒表面の研磨材切れ刃の加工抵抗(摩擦係数)が、砥粒加工技術におけるほとんどの文献で見られるように、加工面に対する鉛直方向力fの1/2の値になるとする。このとき、永久磁石表面を押し付ける磁性粒の力(fと磁気吸引力との和)による滑り抵抗力と加工面の押し付け力fによる加工抵抗を比較してみる。fと磁気吸引力のうちの磁気吸引力は、図3に示すように、Fm=πd/12μで表される。ただし、dは粒径、Bは磁束密度、μは真空の透磁率である。したがって、磁束密度Bが等しいとすれば、磁性粒の永久磁石表面での滑り抵抗力は、fと磁気吸引力の和に摩擦係数(0.2)の積と、工作物加工抵抗0.5fとの比ξは下記になる。
【0038】
ξ=0.2(f+Fm)/0.5f
=0.4(1+Fm/f)
=0.4(1+π/6)
≒0.6
【0039】
このことから、磁性粒は永久磁石表面上を加工抵抗により滑り、磁石エッジに移動する。磁石エッジには、fm=(πdχB/6μ)(ΔB/Δx)の磁気力が作用する。そこで、加工抵抗との関係について調べる。
Fm/0.5f=πχc(ΔB/Δx)/1.5B
【0040】
χc(磁性粒の比磁化率)=500、B=1T、ΔB/Δx=100T/mとすると、(Fm/0.5f)=100000となる。以上の結果から、磁性粒は工具側の永久磁石表面からは離脱しないことになる。
【0041】
図3は、磁石表面への磁性粒の磁気吸引力についての説明図である。上記のように、fと磁気吸引力のうちの磁気吸引力は、Fm=πd/12μで表される。ただし、dは粒径、Bは磁束密度、μは真空の透磁率である。
【0042】
図4は、磁石エッジへの磁性粒の磁気吸引力についての説明図である。上記のように、磁石エッジには、fm=(πdχB/6μ)(ΔB/Δx)の磁気力が作用する。
【0043】
図3及び図4で説明した上記のFmとfmの式から、(1)いずれの磁気力も、磁性粒の粒径dの二乗に比例して大きくなること、(2)磁束密度Bが大きくなるほど、磁気吸引力は大きくなり、したがって、磁化の大きな永久磁石はいずれの磁気吸引力も増大させ、磁性粒をいつまでも磁化面に止め置く作用が強くなること、(3)磁化率の高い磁性粒は磁気力を強く受けること、(4)磁場の変化率が大きな永久磁石エッジの磁気力は大きく、磁性粒は永久磁石エッジに集まりやすいこと、がいえる。
【0044】
図5は、磁性粒同士の磁気吸引力(粒子ブラシの形成)の説明図である。磁性粒同士には、下記の磁気吸引力Faが作用して粒子ブラシを形成する。したがって、加工面側の永久磁石表面の磁性粒は群をつくり、多層の粒子群として工作物表面を加工する。Fa=3πχd/8μ(3+χ)。ただし、χは磁化率である。
【0045】
本発明の磁気バリ取り方法は、上記原理に基づいて、加工面に形成されたバリを、磁性砥粒等の脱落を生じさせない状況下で効果的に取り除くことができる。
【0046】
(第1実施例)
図6は、本発明の磁気バリ取り方法の第1実施例を示す模式図であり、図7は、本発明のバリ取り方法によるバリ取り加工前の切削溝の拡大写真と、バリ取り加工後の拡大写真である。工作物として、メタルソーによる切削加工によって切削溝(溝幅:1mm)が形成されたアルミニウム合金製の角パイプ(厚さ:1.5mm)を用いた。角パイプの内面の切削溝縁部には、図7に示したようなバリが発生していた。対向する一対の磁石として、4mm×7.5mm×12mmのネオジウム磁石を用いた。磁性砥粒として、平均粒径80μmのKMX磁性砥粒を用い、磁性粒子として、平均粒径330μmの電解鉄粉を用いた。なお、その混合比は、重量比で、KMX磁性砥粒:電解鉄分=1:4とした。
【0047】
一対の磁石に磁性砥粒と磁性粒子の混合物(以下、磁性砥粒等という)を磁気吸着させた後、その磁石の一つを角パイプ内に入れ、他の一つを角パイプ外に配置して両者を磁気吸引させた。磁性砥粒等は、一対の磁石間に存在すると共に、溝内で繋がるように存在していた。そして、角パイプを固定し、角パイプの外側に配置した磁石を振動させながら切削溝に沿って徐々に移動させることにより、図7に示す加工前の状態から、図7に示す加工後の状態に変化させることができた。
【0048】
なお、この実施例においては、磁石を振動させながら移動させているが、磁石を固定し、角パイプを移動させて加工を行ってもよい。また、角パイプの外側の磁石を電磁石にしてもよい。電磁石は、印加する電流の強さによって磁化の強さを変化させることができるので、加工面に対する押圧力を変化させることができるという利点がある。また、この実施例では切削溝が繋がっているので、対向する磁石に磁性砥粒等を磁気吸着させることが好ましく、その結果、切削溝内を満遍なくバリ取り加工することができたが、切削溝の形態によっては、角パイプの内面側の磁石のみに磁性砥粒等を磁気吸着させたものであってもよい。
【0049】
(第2実施例)
図8は、本発明の磁気バリ取り方法の第2実施例を示す模式図であり、図9は、本発明の磁気バリ取り方法の第2実施例の他の例を示す模式図である。工作物として、ドリル加工によって穴(穴径:3mm)が形成されたSUS304ステンレス鋼製の丸パイプ(外径:90mm、内径:80mm)を用いた。丸パイプの内面には、バリが発生していた。対向する一対の磁石として、10mm×10mm×20mmのネオジウム磁石を用いた。磁性砥粒として、平均粒径80μmのKMX磁性砥粒を用い、磁性粒子として、平均粒径330μmの電解鉄粉を用いた。なお、その混合比は、重量比で、KMX磁性砥粒:電解鉄分=1:4とした。
【0050】
図8に示す例では、丸パイプ内の磁石のみに磁性砥粒等を磁気吸着させた後、その磁石を丸パイプ内に入れ、磁性砥粒等を磁気吸引させていない他の一つの磁石を丸パイプ外に配置して両者を磁気吸引させた。磁性砥粒等は、パイプ内の磁石表面に存在すると共に、両磁石の磁気吸引により、丸パイプの内面を押圧するように存在した。そして、丸パイプを固定し、丸パイプの外側に配置した磁石を丸パイプから1mm離した位置に保持しつつ穴形成部に沿って振動させながら徐々に移動させた。
【0051】
一方、図9に示す例では、一対の磁石に磁性砥粒等を磁気吸着させた後、その磁石の一つを丸パイプ内に入れ、他の一つを丸パイプ外に配置して両者を磁気吸引させた。磁性砥粒等は、一対の磁石表面に存在すると共に、両磁石の磁気吸引により、丸パイプの内面と外面を押圧するように存在した。そして、丸パイプを固定し、丸パイプの外側に配置した磁石を穴形成部に沿って振動させながら徐々に移動させた。
【0052】
図10は、ドリル穴に形成された加工前のバリ高さと、加工5分後のバリ高さ、加工10分後のバリ高さを示す結果であり、図11は、ドリル穴が形成された加工前の丸パイプの写真と、加工後の丸パイプの写真である。図示したように、加工前のバリ高さは170μm程度であったが、バリ取り加工を初めて5分後には10μmになっており、10分後にはほとんど認められなくなっていた。なお、バリ高さは、表面形状測定装置によって測定した結果である。
【0053】
なお、この実施例においても、上記第1実施例と同様、磁石を振動させながら移動させているが、磁石を固定し、丸パイプを移動させて加工を行ってもよい。また、丸パイプの外側の磁石を電磁石にしてもよい。この実施例においては、図9に示すように、丸パイプの内外の磁石に磁性砥粒等を磁気吸着させることにより、パイプの内外の両面を同時に研磨することも可能となる。なお、バリ取りのみならず、丸パイプの内面全周を併せて研磨加工してもよい。
【0054】
(第3実施例)
図12は、本発明の磁気バリ取り方法の第3実施例を示す模式図であり、図13は、バリ取り加工前の拡大写真と、バリ取り加工後の拡大写真である。工作物として、複雑な形状に穴あけ加工されたSUS304ステンレス鋼製の円形試料(外径:12mm)を用いた。対向する一対の磁石として、7mm×7mm×10mmのネオジウム磁石を用いた。磁性砥粒として、平均粒径80μmのKMX磁性砥粒を用い、磁性粒子として、平均粒径330μmの電解鉄粉を用いた。なお、その混合比は、重量比で、KMX磁性砥粒:電解鉄分=1:4とした。
【0055】
一対の磁石に磁性砥粒等を磁気吸着させた後、両磁石を試料を挟むように対向配置して両者を磁気吸引させた。磁性砥粒等は、一対の磁石間に存在すると共に、穴内で繋がるように存在していた。そして、円形試料を固定し、バリが形成されていない側の磁石を軸回転させながらバリ取り加工を行った。このとき、バリが形成されている側の磁石も一緒に回転した。その結果、図13に示す加工前の状態から、図13に示す加工後の状態に変化させることができた。
【0056】
(第4実施例)
図14は、本発明の磁気バリ取り方法の第4実施例を示す模式図である。この磁気バリ取り方法は、工作物を挟むように対向配置された一対の永久磁石の他に、さらに別の近傍位置に対向配置された一対の永久磁石をヨークで結合して閉磁気回路を構成した磁石を用いることに特徴がある。
【0057】
すなわち、図14に示すように、バリが形成された加工面側には、2つの永久磁石をヨークで結合して閉磁気回路を構成した複合磁石Aを設け、バリが形成されていない側に対向配置した磁石についても同様な複合磁石Bを設けた。加工面側の複合磁石Aには磁性砥粒等を磁気吸着させ、磁気吸着を伴う複合磁石Aが、対向する複合磁石Bに磁気吸引されて磁性砥粒等が加工面に押圧されるように、その複合磁石Bを配置した。永久磁石や磁性砥粒等は、上記同様のものを好ましく用いることができる。なお、ヨーク材料は特に限定されないが、図中に示したように、例えばSS400(一般構造用圧延鋼材)を用いることができる。
【0058】
こうした形態の磁気バリ取り方法は、ヨークで結合して閉磁気回路を構成した永久磁石を用いているので、対向する複合磁石間に強力な磁気力を発生させることができる。その結果、機械加工によって生じた大きく強固なバリであっても容易かつ効率的に取り除くことができる。なお、図14には平面的な加工面を示しているが、加工面の形状は平面に限らず曲面であってもよい。例えば、円管内面のバリ取り等を行う場合には、円管内面の曲がりに沿うように、複合磁石Aを構成する永久磁石の形状とヨークの形状を変形させることが好ましい。
【0059】
(第5実施例)
図15は、本発明の磁気バリ取り方法において適用可能な磁石の一形態を示す模式図である。本発明においては、磁気吸着を伴う磁石の表面に弾性体(弾性層)を設けてもよい。弾性体は、磁石に磁気吸着する磁性砥粒等を半固定状態で保持することができるものであれば特に限定されない。具体的には、不織布やポリシャ等が好ましく用いられる。こうした弾性体を磁石外周に設け、そこに磁性砥粒等を磁気吸着させることにより、機械加工によって生じたバリが大きく強固なものであっても、磁性砥粒等を磁石から脱落させることなく加工面に押圧させて研磨加工することができる。
【0060】
(その他)
磁性砥粒等の加工面への押圧力は、種々の方法で制御することができる。例えば、使用する磁石の磁力を変化させることにより行うことができる。そうした磁力の変化は、例えば永久磁石においては、残留磁束密度の大きいものを採用したり小さいものを採用したりして制御できる。また、電磁石を用いた場合においては、電磁石に印加する電流を変化させることにより変化させることができる。こうした制御は、工作物の種類、バリの形状や大きさ等に応じたバリ取り加工を可能にさせるので、多様な工作物に対して柔軟に対応することができる。
【0061】
また、本発明の磁気バリ取り方法においては、対向する磁石と加工面を有する工作物との相対運動を、外部からの変動磁場を利用した高周波振動運動により行うことができる。例えば、変動磁場としては、回転磁場等のN極とS極とが交互に変動する磁場等を適用できる。この回転磁場は、例えば永久磁石を備えた回転テーブルを回転させることにより変動磁場を発生させることができ、その磁力の制御は、その回転数を変動させることにより制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の磁気バリ取り方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の磁気バリ取り方法の基本的な原理図である。
【図3】磁石表面への磁性粒子の磁気吸引力についての説明図である。
【図4】磁石エッジへの磁性粒子の磁気吸引力についての説明図である。
【図5】磁性粒子同士の磁気吸引力(粒子ブラシの形成)の説明図である。
【図6】本発明の磁気バリ取り方法の第1実施例を示す模式図である。
【図7】本発明のバリ取り方法によるバリ取り加工前の切削溝の拡大写真と、バリ取り加工後の拡大写真である。
【図8】本発明の磁気バリ取り方法の第2実施例を示す模式図である。
【図9】本発明の磁気バリ取り方法の第2実施例の他の例を示す模式図である。
【図10】ドリル穴に形成された加工前のバリ高さと、加工5分後のバリ高さ、加工10分後のバリ高さを示す結果である。
【図11】ドリル穴が形成された加工前の丸パイプの写真と、加工後の丸パイプの写真である。
【図12】本発明の磁気バリ取り方法の第3実施例を示す模式図である。
【図13】バリ取り加工前の拡大写真と、バリ取り加工後の拡大写真である。
【図14】本発明の磁気バリ取り方法の第4実施例を示す模式図である。
【図15】本発明の磁気バリ取り方法において適用可能な磁石の一形態を示す模式図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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