TOP > 国内特許検索 > 膀胱癌患者の予後検出方法 > 明細書

明細書 :膀胱癌患者の予後検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4649608号 (P4649608)
公開番号 特開2006-275989 (P2006-275989A)
登録日 平成22年12月24日(2010.12.24)
発行日 平成23年3月16日(2011.3.16)
公開日 平成18年10月12日(2006.10.12)
発明の名称または考案の名称 膀胱癌患者の予後検出方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI G01N 33/53 Y
C12Q 1/04
G01N 33/48 P
請求項の数または発明の数 3
全頁数 13
出願番号 特願2005-100120 (P2005-100120)
出願日 平成17年3月30日(2005.3.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 Clinical Cancer Research第10巻第19号6449-6455ページに発表
審査請求日 平成19年12月5日(2007.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】松山 豪泰
【氏名】内藤 克輔
【氏名】佐々木 功典
【氏名】奥田 優
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 国際公開第2004/015394(WO,A1)
KUO,HEPATOLOGY,2000年 1月,V31 N1,P59-64
山口医学,2004年,第53巻第2号,99-101ページ
調査した分野 G01N 33/48-98
C12Q 1/04
特許請求の範囲 【請求項1】
膀胱移行上皮癌に侵食された臓器組織切除手術後の患者の予後の検出において、患者の切除組織あるいは、尿中に存在する細胞について、その細胞の中心体を2段階抗原抗体反応により標識し、標識された中心体数の数値を蛍光顕微鏡下で測定し、3個以上の中心体が存在する中心体複製異常細胞が全細胞中に5%以上存在するか否かにより再発および進展の可能性の有無を検出することを特徴とする膀胱移行上皮癌患者の予後検出方法
【請求項2】
細胞の中心体に対し、マウスあるいはウサギに感作して得られた抗体を一次抗体として結合させ、さらに、一次抗体に特異的に結合するIgG蛍光抗体を二次抗体として結合させ、蛍光顕微鏡下で、中心体数の数値を測定し、全細胞中に存在する中心体複製異常の存在率を算出し、再発および進展の指標とする請求項1に記載の膀胱移行上皮癌患者の予後検出方法
【請求項3】
少なくとも観察対象の膀胱移行上皮癌患者の切除組織あるいは、尿中に存在する細胞の中心体に結合する一次抗体と、一次抗体に特異的に結合するIgG蛍光二次抗体とを含有し、再発および進展の可能性の有無を検出することを特徴とする膀胱移行上皮癌患者の予後検出用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱癌に侵食された臓器組織切除手術後の患者の予後判定方法に関し、特に細胞内の中心体複製異常を検出することによる膀胱癌の予後を判定する方法に関する。さらにまた、細胞内の中心体複製異常を検出する方法および検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱癌は、泌尿器科領域では、前立腺癌に次いで2番目に頻度の高い癌で、発症年齢は60‐70歳が最も多く、男女比は約3:1と男性に多く見られる。日本では、2003年度には、約15000例の発症があり、2015年には、約10000例の増加が見込まれている。膀胱癌には、膀胱粘膜内に癌が留まっている表在性膀胱癌と膀胱の筋肉や膀胱外にまで癌が根を張るように発育した浸潤性膀胱癌に大別される。表在性膀胱癌は、膀胱を温存する経尿道的切除術による治療が施されることが多く、手術でも根治が可能であるが、浸潤性膀胱癌の場合は膀胱全摘出あるいは、部分切除と言った治療を必要とすることが多くなり、当然患者への負担も大きい。表在性膀胱癌の場合であっても、その後、50~70%に再発が見られ、表在性膀胱癌から浸潤性膀胱癌へと進展するケースが10~20%に認められる。浸潤の程度がひどくなればなるほど、リンパ節転移や他臓器への転移の頻度は上昇する。
【0003】
現在、膀胱癌は深達度(stage)と分化度(grade)という病理学的検査結果を中心として、その治療方針の決定や予後の判定が行われている(TNM臨床分類)。深達度は程度によって、pTa(表在粘膜を越えず非浸潤で乳頭状に発育するもの)とpT1(粘膜下層に浸潤がある)、pTis(粘膜内に存在する平らな腫瘍)、pT2(筋層浸潤があるもの)、pT3(膀胱外の脂肪組織に浸潤があるもの)、pT4(膀胱外の臓器に浸潤する)に分類され、pTa、pT1、pTisは表在性、pT2以上を浸潤性膀胱癌とされる。表在性膀胱癌は10~20%の症例に再発を繰り返すうちに、より高異型度、浸潤性の癌に進展していく可能性が示されている。そのため、再発や進展を予測する手段の開発が望まれている。
【0004】
従来の膀胱癌の予後を予測する方法については、以下のものが知られている。膀胱癌患者から採取した血清中の可溶性Fas濃度を、抗Fas抗体を用いて測定することにより、膀胱癌患者の予後の良否を診断する方法があり、膀胱癌患者の血液又は血清中の可溶性Fas濃度が健常者のそれと比較して高いこと、また、可溶性Fas濃度の低い膀胱癌患者はその濃度の高い膀胱癌患者と比較して生存率が高くしかも非再発期間が長いことを明らかにしている(特許文献1)。他に、核小体に多く存在する真核DNAポリメラーゼα活性調節因子であるnucleophosmin/B23タンパク質に関与するリボ核酸(mRNA)の発現状態を予後の指標として、膀胱癌が再発及び悪化してハイステージ症状になっているかを検査する方法も開示されている(特許文献2)。癌性腫瘍細胞内でのグルコース輸送たんぱく質であるGLUT-1過剰発現の程度が腫瘍の進展度に相関することが見いだされ、GLUT-1過剰発現の程度で、癌性腫瘍を患う個体の予後判定が可能であるとしている(特許文献3)。しかしながら、これらのバイオマーカーの臨床的意義は明らかにされているとは言い難い。
【0005】
本発明者らは、7、9、17番染色体のコピー数異常が、膀胱癌患者の臨床背景と相関するばかりでなく、その予後とも関連することを報告した(非特許文献1、2)。
【0006】
また、特殊遺伝子の変異を利用した膀胱癌の予後を予測する方法として、癌抑制遺伝子のひとつであるp53遺伝子の異常により出現するp53異常タンパクを、免疫組織染色法で測定して判定する方法が明らかにされているが(非特許文献3)、判定が主観的であり予後予測の確率も高いとは言えない。
【0007】
中心体複製異常と癌との関わりは、子宮頚部癌、前立腺癌、乳癌において、前癌状態の病変で中心体複製異常が発見されている報告や(非特許文献4、5)、ラット乳癌の初期変化の段階で、中心体複製異常やAurora‐Aタンパクの過剰発現が見られるとの報告もある(非特許文献6)。

【特許文献1】特開2000-131321公報
【特許文献2】特開2004-337120公報
【特許文献3】特表平11-511245公報
【非特許文献1】Tsukamoto M,et al..Cancer Genet Cytogenet.2002;134:41‐45.
【非特許文献2】Cavenee WK,et al..Nature 1983;305:779-84.
【非特許文献3】Sarkis AS,et al..J Natl Cancer Inst.1993;85:53‐9.
【非特許文献4】Lingle WL,et al..Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:1978‐83.
【非特許文献5】Pihan GA,et al..Cancer Res.2003;63:1398‐404.
【非特許文献6】Goepfert TM,et al..Cancer Res.2002;62:4115‐22.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述する従来の方法においては、膀胱癌患者の予後の判定となる方法については明らかにされていない。表在性膀胱癌は、より高分化、高浸潤性の癌に進展していく可能性が高く、高浸潤性の癌は、リンパ節転移や他臓器への転移の頻度が上昇するため、再発や進展を予測する手段の開発が望まれている。本発明は、簡便で客観的に得られる膀胱癌患者の予後の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、膀胱癌患者の癌組織又は尿中の細胞について、中心体複製異常が、染色体不安定性を誘導していること、中心体複製異常細胞が多く存在する膀胱癌患者はその少ない膀胱癌患者と比較して再発率および進展の発生率が高いことを見出し、本発明をなした。
【0010】
すなわち、本発明は、膀胱移行上皮癌に侵食された臓器組織切除手術後の患者の予後の検出において、患者の切除組織あるいは、尿中に存在する細胞について、その細胞の中心体を2段階抗原抗体反応により標識し、標識された中心体数の数値を蛍光顕微鏡下で測定し、3個以上の中心体が存在する中心体複製異常細胞が全細胞中に5%以上存在するか否かにより再発および進展の可能性の有無を検出することを特徴とする膀胱移行上皮癌患者の予後検出方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、細胞の中心体に対し、マウスあるいはウサギに感作して得られた抗体を一次抗体として結合させ、さらに、一次抗体に特異的に結合するIgG蛍光抗体を二次抗体として結合させ、蛍光顕微鏡下で、中心体数の数値を測定し、全細胞中に存在する中心体複製異常の存在率を算出し、再発および進展の指標とする請求項1に記載の膀胱移行上皮癌患者の予後検出方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、少なくとも観察対象の膀胱移行上皮癌患者の切除組織あるいは、尿中に存在する細胞の中心体に結合する一次抗体と、一次抗体に特異的に結合するIgG蛍光二次抗体とを含有し、再発および進展の可能性の有無を検出することを特徴とする膀胱移行上皮癌患者の予後検出用キットを提供する。

【発明の効果】
【0016】
本発明の細胞内中心体の複製異常を検出する方法および予後判定用キットを用いて、中心体複製異常の有無を検出することにより、膀胱癌患者の予後の治療方針を決定することが可能になる。例えば、膀胱癌において中心体複製異常が検出された場合、術後に抗がん剤の投与、膀胱内BCG投与、放射線照射、内視鏡観察間隔の短縮など、再発および進展予防のための補助療法を処置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の膀胱癌に侵食された臓器組織切除手術後の患者の予後を判定する方法は、患者の病理用組織細胞あるいは、尿中の細胞に存在する中心体の複製異常の存在率を指標として、再発や進展の判定をするものである。
【0018】
中心体とは、動物細胞や植物細胞では精子をつくる精細胞内に見出され、細胞内に放射状にのびる微小管の中心に存在する。中心体は、細胞分裂時に分裂し、動物細胞における細胞分裂の前期では、二分した中心体が細胞の両極に移動し,それぞれから微小管を成長させる。(中心体間の微小管は紡錘糸,細胞膜にいたる放射状のものは星状糸とよばれ、それぞれの集まりを紡錘体,星状体という。)細胞分裂の中期では,染色体が紡錘体の中央の面(赤道面)に並び、染色体の中ほどにある動原体に、両中心体から伸びた紡錘糸が付着する。細胞分裂の後期では,各染色体が2つに分かれ,2つの極を形成している中心体に向かって移動する。この染色体移動は,中心体で紡錘糸が分解され短縮するので,自動的に中心体に向かうとされている。細胞分裂の終期では核膜が形成され,染色体は分散する。このようにして、細胞質分裂は終了し、細胞は2つの娘細胞に分かれる。
【0019】
中心体複製異常とは、3個以上の中心体が存在する状態をいう。通常中心体は細胞分裂の際、一回のみ複製されて2個となり、細胞分裂極を形成するが、その複製は厳密にコントロールされている。しかし癌細胞ではこのコントロールが乱れ、3個以上の中心体が出現し、中心体複製異常が発生する。また、その際、染色体の分配が不安定となる。
【0020】
したがって、本発明は、ヒト膀胱癌細胞では、1)中心体複製異常が染色体不安定性と関係があることを証明するために、中心体やAurora Aの等タンパク発現を、間接的免疫蛍光法により測定し、染色体不安定性を、FISH法(fluorescence in situ hybridization法)およびCGH法(comparative genomic hybridization法)により測定し、2)中心体複製異常がある癌患者の予後は、再発や進展の割合が高いことを明らかする。
【0021】
(間接的免疫蛍光法)
細胞内の中心体やAurora A等のタンパクの発現は、間接的免疫蛍光法を用いて確認することができる。例えば、観察対象の組織切片を液体窒素で冷却したイソペンタンなどに浸して凍結させる。次に、凍結組織をクリオスタットのチャンバーに移し、温度が平衡に達するまで静置させる。包埋剤を用いて組織ブロックをスタブにマウントした後、ブロックの表面を対象の組織に適した温度でトリミングを行い、切片の検体を作製する。作製した検体は、清浄なスライドグラス上に置き、室温で乾燥させる。
【0022】
細胞を染色する場合には、スライドグラス又はカバーグラス上に対象の細胞を付着状態で成長させるか、浮遊細胞の場合は、スライドグラス上に遠心により付着させる。細胞を付着させたスライドグラス又はカバーグラスは、例えば、アルコール、アセトン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどを用いて細胞内タンパク質の固定を行う。その後必要ならば、適当な界面活性剤(例えば、TritonX-100など)処理により細胞膜及び核膜の透過性を上げてもよい。中心体あるいは、Aurora A等のタンパク質に対する一次抗体を至適濃度に希釈後、ブロッキング溶液を適量ライドグラス又はカバーグラス上の細胞に重層し、室温にて接触させる。次に、標識した二次抗体を至適濃度に希釈後、該希釈液を適量細胞上に重層し接触させる。インキュベートション後、PBSにて2~3回程度スライドグラスを洗浄する。染色後、蛍光顕微鏡で観察を行う。
【0023】
使用する一次抗体としては、マウスモノクローナル抗γチュブリン抗体、マウスモノクローナル抗αチュブリン抗体、マウスモノクローナル抗OxPhos Complex V阻害タンパク質IgG抗体、ウサギ抗ペリセントリンポリクローナル抗体など、中心体に結合し、二次抗体との結合性の優れたものを選ぶことが望ましい。
【0024】
使用する二次抗体としては、一次抗体に特異的に結合する優れた蛍光抗体であることが望ましい。テトラフルオロフェニルエステルを標識したAlexa(登録商標)488ヤギ抗マウスIgG抗体、Alexa(登録商標)568ヤギ抗マウスIgG抗体、Alexa(登録商標)594抗ウサギIgG抗体が最も望ましいが、Alexa(登録商標)405抗マウスIgG抗体、Alexa(登録商標)500抗マウスIgG抗体、Alexa(登録商標)514抗マウスIgG抗体、Alexa(登録商標)610抗マウスIgG抗体等を用いることもできる。
【0025】
細胞1個あたりの中心体数は倍率1000倍視野の蛍光顕微鏡(オリンパス社、東京)下100個以上の細胞をカウントし、1細胞当たり3個以上の中心体が存在する場合を中心体複製異常細胞と判定する(参照文献:Okuda M,Horn HF,Tarapore P,et al.Nucleophosmin/B23 is a target of CDK2/cyclin E in centrosome duplication.Cell 2000;103:127-40.)。
Aurora Aタンパクの過剰発現は100個以上の細胞を観察し、20個以上の細胞胞体が染色されていた場合と定義する(参照文献:Sen S,Zhou H,Zhang RD,et al.Amplification/overexpression of a mitotic kinase gene in human bladder cancer.J Natl Cancer Inst.2002;94:1320‐9.)。
【0026】
(染色体不安定性の測定)
染色体不安定性の測定は、20番染色体長腕13領域(20q13)増幅の有無と、染色体不安定性の指標となるばらつきの割合を検討するため、20q13(Vysis社)および7,9,17番染色体コピー数を二色または多色FISH法(fluorescence in situ hybridization法)を用いて検討する。スペクトラムオレンジで標識された20q13プローベを、蛍光標識された20番染色体特異的セントロメアプローベ(D20Z1)とともに検体にハイブリダイズさせ、スポット数をカウントする。7,9,17番染色体については、コピー数の異常は、それぞれCEP7,CEP9,CEP17(いずれもVysis社)プローベを検体にハイブリダイズさせてスポット数をカウントすることにより確認する。実験手技の詳細はプローベ販売業者の推薦する方法に従う。染色体不安定性の測定は、100個以上の細胞について、3蛍光波長帯(DAPI/スペクトラム緑/スペクトラム赤)通過フィルターおよび1蛍光波長帯(スペクトラムアクア)通過フィルターを装着した蛍光顕微鏡下で観察して行なう。
【0027】
20q13増幅症例の判定は1細胞当たり6個以上のスポットを有する細胞が全体の60%を超えた症例と定義とする(参照文献:Sen S,Zhou H,Zhang RD,et al.Amplification/overexpression of a mitotic kinase gene in human bladder cancer.J Natl Cancer Inst.2002;94:1320‐9.)。
7番、9番および17番染色体のコピー数を計測し、そのコピー数がモード(正常細胞では2)以外の染色体コピー数を有する細胞の割合が25%を超える症例を染色体不安定性ありと判定する(参照文献:Lengauer C,Kinzler KW,Vogelstein B.Genetic instability in colorectal cancers.Nature 1997;386:623‐7.)。
【0028】
(CGH法とデジタル画像解析法)
ゲノムDNAを膀胱癌継代培養細胞株および健常人ボランテイア末梢血からDNA抽出キット(SepaGene,三光純薬、東京)を用いてそれぞれ抽出する。これらのDNAを用いてHarada等の方法(Harada T,Okita K,Shiraishi K,Kusano N,Kondoh S,Sasaki K.Cancer Res.2002;62:835-39.)に従い、CGH法(comparative genomic hybridization法)とデジタル画像解析をおこなう。腫瘍および正常DNAはニックトランスレーション法にてそれぞれスペクトラム緑、スペクトラム赤(Vysis社、Downers Grove)で標識される。デジタル画像解析システムはQUIPS XL(Vysis社)を使用する。
【0029】
DNA配列コピー数の増加と減少は緑(腫瘍DNA)と赤(正常DNA)の比がそれぞれ1.2以上、0.8未満と定義して判定する。
【0030】
(統計解析)
統計解析はJMP4.0ソフトウェアー(SAS社、Cary)をもちいて行い、グループ毎の再発、腫瘍進展までの期間はKaplan‐Meier法を用いて計算され、統計学的有意差の検定はlog‐rank testを用いる。カテゴリー変数の単変量解析にはカイ二乗検定またはFisher直接確率統計法をもちいて有意差検定をおこない、多変量解析にはCox比例ハザードモデルをもちいて全ての因子が有意となるまで有意でない因子を順次外していくステップダウン法をおこなう。全ての検定においてp値が0.05未満の場合を有意とする。
【0031】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0032】
1.ヒト膀胱癌継代培養細胞検体
8種類のヒト膀胱癌継代培養細胞株(KK47,RT‐4,T24,EJ‐1,5637,J82,TCC‐SUP,SCaBER)を基礎実験に用いた。3×10個の細胞を75cm細胞培養用フラスコ(Coning社、New York)に播種後10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培養液(Sigma社、セントルイス)で培養(37℃、5%二酸化炭素、95%空気下)、対数増殖期(播種後4‐5日目)に細胞を回収し、DNAを抽出後CGH法の検体に供した。また、分割チャンバーを有するスライドグラス(4.0cm,Nunc社、Naperville)を用いて、同一細胞数となるように調節された癌細胞を細胞株毎にチャンバー内に播種し、Aurora Aタンパク発現および中心体数計測のための免疫蛍光実験と、20q13の増幅、および7,9,17番染色体コピー数異常の検討のためのFISH法の実験に用いた。
【0033】
2.中心体複製異常の検出
中心体とAurora Aタンパクの発現を免疫蛍光法で検討するため、検体は10%ホルマリン/メタノール液で固定(25℃、20分間)後、PBSで洗浄、PBS溶解0.5%Triton X液にて透徹(25℃、5分間)させた後ブロッキング溶液(PBS溶解10%ヤギ血清)に1時間接触させ実験に用いた。中心体免疫蛍光染色にはマウスモノクローナル抗γチュブリン抗体(Sigma社)を一次抗体として使用した。Alexa488または568を蛍光色素とするヤギ抗マウスIgG抗体(Molecular Probe社、Eugene)を二次抗体として37℃1時間接触させることにより、上記の抗原‐抗体複合物に特異的に結合させた。結合体は、倍率1000倍視野の蛍光顕微鏡(オリンパス社、東京)により検出した。
【0034】
3.中心体複製異常の定義
ヒト膀胱癌継代細胞培養株8株の基礎検討結果を表1に示す。間接的免疫蛍光法により測定した結果、2つの細胞株(KK47,RT‐4)はCH(中心体複製異常)を有する細胞の割合が5%以下であり、他の6株(T24,EJ‐1,5637,J‐82,TCC‐sup,SCaBER)は5%以上であった。5%以上の6株ではCGH法にて20q(20番染色体長腕)コピー数増加、FISH法にて20q13コピー数増加、Aurora‐Aタンパク過剰発現を共通して認めたが5%以下の2株ではこれらの変異を認めなかった。図1AはKK47株細胞で2個の中心体数(正常)、7番および9番染色体コピー数2本でdisomy(正常コピー数)であることを示している。一方図1BはTCC‐sup株細胞で中心体複製異常と7番および9番染色体コピー数異常を示している。これらの基礎検討結果を基に中心体複製異常症例(以下CH+)の定義を、中心体複製異常を有する細胞の割合が5%以上の症例と定義した。
【0035】
【表1】
JP0004649608B2_000002t.gif
(上記表中、CH:中心体複製異常(カッコ内の数字は1細胞あたり3個以上の中心体を有する細胞の割合を示す)+:CHを有する細胞の割合が5%を超える。‐:CHを有する細胞の割合が5%以下である、20q13増加:カッコ内の数字は1細胞あたり20q13(20番染色体13領域)のシグナルが5個をこえる細胞を示す。+:20q13増加を示す細胞の割合が60%を超える。‐:20q13増加を示す細胞の割合が60%以下である)
【実施例2】
【0036】
1.臨床検体
組織学的に移行上皮癌と診断され、本研究に対する文書による同意が得られた臨床検体50例を臨床検討に用いた(表2)。非浸潤性(pT1以下)は43例、浸潤癌(pT2以上)は7例であった。経尿道的腫瘍切除術による膀胱温存治療は46例、膀胱全摘術は4例に行われた。いずれの患者も過去に放射線治療や抗癌剤による化学療法の既往はなかった。腫瘍の分化度はWHO基準により、腫瘍の病期はTNM分類により分類された。膀胱温存治療をうけた患者は3ヶ月毎の膀胱鏡検査および尿細胞診検査、膀胱全摘術をうけた患者は6ヶ月毎の胸腹部のCTによる画像診断、1年に一度の骨シンチグラムにより経過観察された。
【0037】
腫瘍再発は膀胱鏡または各種画像診断にて新病変が発見された場合と定義された。腫瘍進展は再発腫瘍が原発腫瘍より病期が進展した時(局所進展)、または遠隔転移が出現したとき(遠隔進展)と定義された。腫瘍組織は採取後研究実験に使われるまで‐80℃で凍結保存された。タッチ生検標本は組織を愛護的にスライドグラスに押しつけて作成し、室温で30分間自然乾燥した。
【0038】
2.中心体複製異常の検出
タッチ検体は10%ホルマリン/メタノール液で固定(25℃、20分間)後、PBSで洗浄、PBS溶解0.5% Triton X液にて透徹(25℃、5分間)させた後ブロッキング溶液(PBS溶解10%ヤギ血清)に1時間接触させ実験に用いた。中心体免疫蛍光染色にはウサギ抗ペリセントリンポリクローナル抗体(Covance社、Burkely)を一次抗体として使用した。Alexa594を蛍光色素とする抗ウサギIgG抗体(Molecular Probe社、Eugene)を二次抗体として37℃1時間接触させることにより、上記の抗原-抗体複合物に特異的に結合させた。結合体は、倍率1000倍視野の蛍光顕微鏡(オリンパス社、東京)により検出した。
【0039】
3.臨床結果
患者臨床背景因子と臨床検討結果のまとめを表2に示す。合計50例(男性41、女性9、平均年齢66.9歳[33歳から88歳まで])について検討した。病理組織学的分化度はgrade 1:5,grade 2:31,grade 3:14例であり、病理組織学的病期(深達度)はpTa:9,pT1:34,pT2:7例である。
【0040】
CH+,20q13コピー数増加、染色体不安定性、DNA aneuloidyはそれぞれ30例(60%)、18例(36%)、22例(44%)、19例(38%)に認めた。
【0041】
CH+症例における中心体複製異常細胞の割合は15.5±6.5%(平均±標準偏差)に対しCH+を認めない症例(CH‐)における中心体複製異常細胞の割合はわずか1.7±1.2%であり、統計学的に有意差を認めた(P<0.0001)。
【0042】
20q13コピー数増加と判定された症例における20q13コピー数が5個より多い細胞の割合は87.2±10.4%(平均±標準偏差)に対して同コピー数増加なしと判定された症例における割合はわずか4.8±8.0%であり、両群間に有意差を認めた(P<0.0001)。また、20q13コピー数増加症例18例は全例CH+症例であることより膀胱癌においては20q13コピー数増加がCHを誘導していることが示唆された。
【0043】
【表2】
JP0004649608B2_000003t.gif
(上記表中、‐:陰性(偽陽性症例は陰性と判定)、+:陽性、ND:検査未施行、再発・進展は、手術から腫瘍再発または最終経過観察日までの観察期間(月数)を示す。CIN:染色体不安定性(7,9,17番染色体の平均ばらつき割合が25%以上)、ばらつきの割合:染色体コピー数がモード数をはずれた細胞の割合、略語解説Chr:染色体、D:diploid(DNA量2倍体)、A:aneuploid)
【0044】
表3に、CHと他のパラメーターとの関連を示す。CH+症例とCH‐症例との間に腫瘍数(P<0.05)、腫瘍分化度(P<0.01)、腫瘍再発(P<0.01)、腫瘍進展(P<0.01)、20q13コピー数増加(P<0.0001)、染色体不安定性(P<0.0001)、7番および17番染色体コピー数ばらつきの割合(P<0.0001)、9番染色体コピー数ばらつきの割合(P=0.0005)、DNA ploidy(P<0.0001)に関して単変量解析においてすべて有意差をみとめた。
【0045】
【表3】
JP0004649608B2_000004t.gif

【0046】
4.CHと患者予後との関連
平均43.3ヶ月(範囲4-94ヶ月)の観察期間中に、非浸潤性膀胱癌患者(pTaまたはpT1)43例中23例(53.5%)に腫瘍再発をみとめた。CH‐症例はCH+症例に比べ有意に非再発期間の延長を認めた(図2A,P=0.0028,log‐rank test)。腫瘍分化度grade2と判定された非浸潤性膀胱癌患者においてもCH‐症例はCH+症例に比べ有意に非再発期間の延長を認めた(図2B,P=0.0129,l g‐rank test)。多変量解析においてCH+は非浸潤性膀胱癌の再発予測における最も強い予後予測因子であることが証明された(表4,ハザード比1.882,95%信頼限界1.161‐3.325,P=0.0094)。
【0047】
【表4】
JP0004649608B2_000005t.gif

【0048】
平均40.8ヶ月(範囲1-94ヶ月)の観察期間中に腫瘍進展は、表2に示す膀胱癌患者50症例中10例(20%,遠隔進展6,局所進展4)に認めた。進展様式にかかわらず全ての腫瘍進展例はCH+症例であった。CH‐症例はCH+症例に比べ有意に非進展期間の延長を認めた(図3,P=0.0070,log‐rank test)。
【0049】
術後補助療法として、放射線併用抗癌剤化学療法が行われた症例番号18、19、26、29、35、45において、CH+症例4例(症例番号26、29、35、45)は、腫瘍再発および進展を来したが、CH‐症例2例(症例番号18、19)は再発、進展を来さなかった。
【0050】
5.考察
CH+症例で染色体不安定性を有しない症例は30%であったが、染色体不安定性を有しCH+であった症例は95.5%であり、CH‐であった症例は4.5%であったことより、中心体過剰複製の発生は染色体不安定性に先行することが示唆される。これらの所見を総合すると中心体過剰複製は癌発生の初期段階より出現する変異であり、染色体不安定性を惹起する事により最終的に悪性度のより高い腫瘍を誘導するのではないかと推定される。
術後補助療法として、放射線併用抗癌剤化学療法をうけた患者のデータは中心体複製異常の確認が術後補助療法の治療方針決定に応用できることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
中心体複製異常は腫瘍再発の独立予後因子であることが証明され、中心体複製異常の検出方法は、患者の予後の治療方針を決定する重要な情報を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】染色体7、9番における中心体複製が正常な細胞(A)、中心体複製が異常な細胞(B)を示す図面に代わる写真である。
【図2】表在性膀胱癌患者(A)と深層性膀胱癌患者(B)について、中心体複製異常と再発の関係を説明する図面である。
【図3】膀胱癌患者について、中心体複製異常と進展の関係を説明する図面である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2