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明細書 :多発性嚢胞腎疾患関連遺伝子及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5119430号 (P5119430)
公開番号 特開2006-288265 (P2006-288265A)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
公開日 平成18年10月26日(2006.10.26)
発明の名称または考案の名称 多発性嚢胞腎疾患関連遺伝子及びその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 G
C12Q 1/68 A
C12Q 1/02
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
A61K 48/00
A61P 13/12
C12N 5/00 102
G01N 33/15 Z
G01N 33/53 D
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 15
全頁数 25
出願番号 特願2005-112829 (P2005-112829)
出願日 平成17年4月8日(2005.4.8)
審査請求日 平成20年4月4日(2008.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 寿史
【氏名】若松 佑子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
【識別番号】100139480、【弁理士】、【氏名又は名称】日野 京子
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 Nucleic Acids Research,2003年,Vol.31, No.19,p.5513-5525
第27回阿蘇シンポジウム記録2003,2004年,Vol.27,p.57-66
日本発生生物学会大会発表要旨集,2004年,Vol.37,p.47 W3-7
調査した分野 C12N1/00-15/90
C12Q1/00-1/68
C07K1/00-19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト動物の生体内においGlis3遺伝子の発現が抑制された細胞又は生体外においてGlis3遺伝子の発現が抑制された細胞を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
Glis3遺伝子の発現が抑制された非ヒト形質転換動物を用いる、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記Glis3遺伝子は、以下の群から選択されるDNAを有する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(a)配列番号2,4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(b)配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列を有するDNA
【請求項4】
GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
GLIS3タンパク質又は一部分を発現する能力を有する細胞を用いる、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記GlIS3タンパク質は、配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項4又は5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩に対する抗体を含有する、多発性嚢胞腎疾患の診断剤。
【請求項8】
前記GlIS3タンパク質は、配列番号2,4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項7に記載の診断剤。
【請求項9】
GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩に対する抗体を用いる、多発性嚢胞腎疾患の検査を補助するための方法。
【請求項10】
前記GLIS3タンパク質は、配列番号2,4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項9に記載の法。
【請求項11】
Glis3遺伝子における変異を検出する、多発性嚢胞腎疾患の検査を補助するための方法。
【請求項12】
前記Glis3遺伝子は、以下の群から選択されるDNAを有する、請求項11に記載の法。
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(b)配列番号5に記載の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列を有するDNA
【請求項13】
GLIS3タンパク質若しくはその一部分をコードするDNA又はこれらのDNAの塩基配列に相補的な塩基配列を有するアンチセンスDNAを含有する、多発性嚢胞腎疾患の診断剤。
【請求項14】
GLIS3タンパク質若しくはその一部分をコードするDNA又はこれらのDNAの塩基配列に相補的な塩基配列を有するアンチセンスDNAを用いる、多発性嚢胞腎疾患の検査を補助するための方法。
【請求項15】
Glis3遺伝子の発現が抑制された、非ヒト形質転換動物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性嚢胞腎疾患の発症及び進展等を制御する活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする核酸分子及びこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の体の主要な器官の多くは「管」を基本単位として構成されている。腎臓はその代表的器官である。しかしながら、「管」形成の分子メカニズムはほとんど解明されていない。
【0003】
一方、ヒトにおける多発性嚢胞腎疾患(Polycystic Kidney Disease,PKD)には、常染色体劣性多発性嚢胞腎疾患(Autosomal Ressive Polycystic Kidney Disease, ARPKD)と常染色体優性多発性嚢胞腎疾患(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease, ARPKD)とがあるが、なかでもADPKDは、ありふれた遺伝子疾患の一つであり、わが国においては10万人~20万人程度の罹患が推測されている。ADPKDは全身性疾患であり、腎臓における嚢胞のほか、肝臓、膵臓、脾臓等にも嚢胞が生じることがあるほか、頭蓋骨内出血などの既往を高い頻度で有し、その半数以上において高血圧症を合併する。ADPKDにおける最も顕著な特徴である腎臓嚢胞の形成は、腎臓の肥大化および腎臓の濃縮能力の低下を引き起こす。ADPKD患者におけるこれらの症状は年齢とともに進行するが、有効な治療方法がないために、最終的に腎不全となり腎臓透析及び腎臓移植を要するようになる場合もある。ADPKDにおける嚢胞の形成という病態は、腎臓の管の肥大化、すなわち、管径の調節・維持の異常によることを示している。
【0004】
ADPKDの原因遺伝子としては、ヒトの16番染色体上の16p13.3に位置されるPKD1遺伝子及びヒト4番染色体の4q21-23に位置されるPKD2遺伝子とされ、これらはそれぞれタンパク質ポリシスチン1(PC1)とポリシスチン2(PC2)をコードしている(非特許文献1)。また、マウスの多発性嚢胞腎モデルからも原因遺伝子がクローニングされている(非特許文献2)。これらのタンパク質は、尿細管上皮細胞の頂端に位置する繊毛に存在することがわかっており、繊毛の機能障害により尿細管が肥大することがADPKDの発症原因の一つであると予想されている(非特許文献3)。しかしながら、ADPKDの詳細な発症メカニズムは未だに明らかになっていない。

【非特許文献1】Wilson PDら, N Engl J Med. 2004 Jan 8;350(2):151-64.
【非特許文献2】Liang JDら, J Formos Med Assoc. 2003 Jun;102(6):367-74.
【非特許文献3】Boletta A ら, Trends Cell Biol. 2003 Sep;13(9):484-92. Review.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らによれば、メダカの突然変異体に、ヒトのADPKDの病態と非常によく似た表現型を示すもの(以下、このメダカ突然変異体をメダカpc突然変異体という。)があることがわかっている。このメダカpc突然変異体は、孵化後まもなく腎臓尿細管の管径の拡大が始まり、年齢とともに腎肥大が進行し、成体期には腎臓重量が正常体の100倍以上にもなり、孵化後数ケ月で死に至る。この突然変異体の腎臓は巨大で複雑に分岐する嚢胞から構成され、嚢胞を構成する細胞は扁平化しているという組織学像を有しているが、この組織像はヒトのADPKDのそれと酷似している。
【0006】
一般に、メダカを始めとする小型魚類は、器官の構造や機能においてもヒトとの間に高い共通性があり、腎臓についていえば、メダカの腎臓は、ヒトと同様に糸状体及び近位及び遠位の尿細管からなる多数のネフロン単位を有している。さらに、哺乳類の腎臓の発達についてのゲノム上の制御もメダカにおいて保存されている。また、ゲノムについて、ヒトと魚類の間では多くの遺伝子の類似性があるほか、染色体の広い範囲にわたってシンテニー-複数の相同な遺伝子が同じ連鎖群あるいは同じ染色体上にあること-も存在している。さらに、メダカには、卵が透明であること、人工的な環境では1年中産卵すること、世代時間が2~3ヶ月と短いこと、飼育が容易で維持コストが極めて安価であることなどの研究上のメリットがある。以上のことから、メダカは、発生生物学上の管径調節モデル及びヒトの疾患モデルになる。特に、メダカpc突然変異体は中腎性であり、成体で進行することなどから、小型魚類では唯一のPKDの良好な疾患モデルとなることが期待されている。
【0007】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、メダカpc突然変異体は腎尿細管上皮細胞に繊毛を有していること、ポリシスチン1及び2をコードするmRNAの発現には異常が認められないことがわかっており、メダカpc突然変異体がこれまでに見出されていない新たな遺伝子の突然変異が病因となっている可能性が見出された。こうしたメダカpc突然変異体における原因遺伝子の同定は、動物における「管」形成制御機構のみならず、ヒトPKDの発症メカニズムの機能解明に寄与することができることが期待される。同時に、原因遺伝子の特定によりヒト等の動物におけるPKDの診断及び治療に寄与することが期待される。
【0008】
そこで、本発明では、メダカpc突然変異体の原因遺伝子を同定することを一つの目的とし、同PKDの発症メカニズムの解明等のほか、動物におけるPKDの治療のための薬剤探索、診断及び治療剤に利用することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、メダカpc突然変異体についてポジショナルクローニングの手法を用い、メダカにおいて多発性嚢胞腎を生じさせる遺伝子を染色体領域から同定し、単離した。すなわち、本発明者らは、メダカpc突然変異体について想定される原因遺伝子(以下、pc遺伝子という。)の連鎖群を特定した後、pc遺伝子近傍の高解像度染色体地図を作成し、最も近位のマーカーから染色体歩行を開始し、pc遺伝子座をカバーするBACクローンを特定した。次いで、当該クローンについてショットガンクローニングを行うとともにトラフグゲノムとの比較を行い、可能性あるpc遺伝子座を二つの領域にまで絞り込み、さらに、野生型及びメダカpc突然変異体に対しこれらの領域の発現解析を行い、変異体においては前記二つの遺伝子の一方の遺伝子の3’側にインサーション又は欠失の変異を有しそのために当該一方の遺伝子の転写物であるmRNAが検出されないこと等から、当該変異が生じた遺伝子をメダカpc遺伝子として同定した。pc遺伝子は、5つのC2H2型zinc finger領域を有する転写因子であり、zinc finger領域における高い相同性からヒトのGli-similar3(Glis3)遺伝子の相同遺伝子であると考えられる。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0010】
(1)(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2又4に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号1又は3に記載の塩基配列を有する核酸分子、及び
(d)配列番号1又は3に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
から選択されるDNA。
(2)前記(a)に記載のタンパク質又は前記(b)に記載のタンパク質の一部分をコードするDNA。
(3)(1)又は(2)に記載の核酸分子又はその相補鎖にハイブリダイズするDNA。
(4)(1)又は(2)記載のDNA又はその相補鎖の連続した100塩基以下の塩基配列と同じ配列を有する、DNA。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のDNAを含有する、検出用剤。
(6)(1)又は(2)に記載のDNAに対するアンチセンスDNA。
(7)(1)又は(2)に記載のDNAを含むベクター。
(8)前記DNAとして前記DNAのセンス鎖と同等なRNAを含む、(7)に記載のベクター。
(9)(7)又は(8)に記載のベクターが導入された形質転換体。
(10)内在性の前記DNAの発現が抑制された、形質転換体。
(11)以下の群:
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、実質的に同質の活性を有するタンパク質、
から選択されるいずれかのタンパク質又はその一部分である、ポリペプチド。
(12)(11)のポリペプチドに対する抗体。
(13)(12)に記載の抗体を有する検出用剤。
(14)タンパク質又はその一部分をコードするDNAを含有する、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤。
(15)前記GLIS3タンパク質をコードするDNAは、以下の群から選択されるDNAである、(14)に記載の薬剤。
(a)配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列を有するDNA、及び
(d)配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(16) GLIS3タンパク質又はその一部分をコードするDNAの有効量を動物に投与する工程を備える、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療方法。
(17) GLIS3タンパク質若しくはその一部分をコードするDNA又はこれらのDNAの塩基配列に相補的又は実質的に相補的な塩基配列を有するアンチセンスDNAを含有する、多発性嚢胞腎疾患の診断剤。
(18) GLIS3タンパク質若しくはその一部分をコードするDNA又はこれらのDNAの塩基配列に相補的又は実質的に相補的な塩基配列を有するアンチセンスDNAを含有する、多発性嚢胞腎疾患の診断方法。
をコードする
(19) GLIS3タンパク質若しくはその一部分をコードするDNA又はこれらのDNAの塩基配列に相補的又は実質的に相補的な塩基配列を有するアンチセンスDNAを用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(20) Glis3遺伝子を発現する細胞を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(21) Glis3遺伝子の発現が抑制された細胞を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(22) Glis3遺伝子の発現が抑制された形質転換動物を用いる、(21)に記載の多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(23) GLIS3タンパク質、一部分又はその塩を含有する多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤。
(24) 前記GLIS3タンパク質は、
(a)配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列から選択されるいずれかのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、実質的に同質の活性を有するタンパク質、
である、(23)に記載の薬剤。
(25) GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩の有効量を動物に投与する工程を備える、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療方法。
(26) GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(27) GLIS3タンパク質又は一部分を発現する能力を有する細胞を用いる、多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法。
(28) GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩に対する抗体を含有する、多発性嚢胞腎疾患の診断剤。
(29) GLIS3タンパク質、その一部分又はその塩に対する抗体を用いる、多発性嚢胞腎疾患の診断方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明は、多発性嚢胞腎疾患(PKD)の制御に関与し、該疾患を発症又は進展させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び当該ポリペプチド並びにこれらの利用を提供するものである。本発明者らは、上述のとおり、ポジショナルクローニングの手法を用いて単離したメダカのPKDの原因遺伝子であるメダカpc遺伝子を同定した。
【0012】
本発明で用いたメダカpc突然変異体においては、本発明者らが単離したpc遺伝子の3’側において転座による欠損又は挿入が生じているために本来のポリペプチドが発現されていなかった。正常なメダカにおいては、このpc遺伝子は、成魚の腎臓において強く発現していた。すなわち、pc遺伝子は、PKDの発症及び/又は進展の抑制に活性があることが証明された。したがって、pc遺伝子は管形成機構やPKDの発症や進展の機能解明や、PKDの治療のための新たな薬剤の探索に利用することが可能である。
【0013】
このpc遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号1又は3に示し、それぞれコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2及び4にそれぞれ示す。なお、これらの2種類のポリペプチドは、メダカのpc遺伝子の同一ゲノムから選択的スプライシングにより生じたものである。
【0014】
配列番号2及び配列番号4に記載のpcタンパク質のアミノ酸配列は、いずれも、5つのC2H2型zinc finger領域を有するzinc fingerタイプの転写因子である。これらのタンパク質は、ヒトにおけるGli-similar3(GLIS3)タンパク質との間でそれぞれ48%及び49%の相同性、マウスのGLIS3タンパク質との間でそれぞれ50%及び52%の相同性を有していた。動物間の相同性は、特にzinc finger領域において高く、この領域の相同性はpcタンパク質(pc-aおよびpc-bに共通)とヒトのGLIS3タンパク質で87.4%であった。これは、関連する他のzinc fingerファミリーGliやZicよりも有意であり、メダカpc遺伝子は、ヒトGlis3遺伝子の相同遺伝子であることを支持していた。また、ヒトのGlis3遺伝子はPKDの原因遺伝子として同定されているPKD1、PKD2遺伝子とは同一でなくまた相同でもなかった。したがって、Glis3遺伝子は、新たなPKDの原因遺伝子である。なお、本明細書において、Glis3遺伝子とは、GLIS3タンパク質をコードする遺伝子を意味している。
【0015】
(ポリヌクレオチド)
本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号1又は3に記載される塩基配列を有するポリヌクレオチドや配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0016】
また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と相同性の高いヒトなどの他の動物における相同遺伝子をコードするポリヌクレオチドを包含している。本発明の配列番号1又は3に記載の塩基配列によってコードされるポリペプチドは、zinc fingerタイプの転写因子であり、zinc finger領域における高い相同性からヒトのGli-similar3(Glis3)遺伝子が相同遺伝子である。また、マウスのGlis3遺伝子も相同遺伝子である。ヒトのGLIS3タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示し、マウスのGLIS3タンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に示す。したがって、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号5又は7に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドや配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも包含される。ヒトやマウスなどの哺乳動物のPKDに関する検出、診断、薬剤スクリーニング及び治療においては、ヒトやマウスのGlis3遺伝子を利用することが有効である。
【0017】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2、4,6及び8に記載のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも含まれる。
【0018】
実質的に同一なアミノ酸配列としては、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、もとのアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも包含される。実質的に同質な活性とは、PKDの制御活性などが挙げられる。活性の程度は特に限定しない。こうしたポリヌクレオチドは、天然には、変異体や他のメダカ種や小型魚類、他の動物種に見出すことができるであろう。
【0019】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードする核酸分子は人工的に調製することもでき、このような核酸分子を調製する方法は、当業者において周知である。例えば、市販のキットを用いて行うこともできる。例えば、変異や置換であれば「Transformer Site-directed Mutagenesis Kit」や「ExSite PCR-Based Site-directed Mutagenesis Kit」(Clontech社製)を、欠失であれば「Quantum leap Nested Deletion Kit」(Clontech社製)などを用いて行うことが可能である。上記の部位特異的変異法等の周知の方法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、1個から数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個である。好ましいアミノ酸の改変は、保存的置換である。また、縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0020】
また、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一なアミノ酸配列とは、例えば、配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、一層好ましくは90%以上、さらに一層好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。また、zinc finger領域における相同性は、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0021】
また、本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号1、3、5又は7に記載される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAなどのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドが挙げられる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとは、配列番号1、3、5又は7に記載される塩基配列又はその一部からなるDNA等をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られる核酸分子を意味している。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、50%のホルムアミド、6×デンハルト溶液、5×SSC溶液、1%SDSの存在下、42℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.2×SSC溶液を用いて、65条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAが挙げられる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、BLAST〔J,Mol.Biol.,215,403(1990)〕やFASTA〔Methods in Enzymology,183,63-98(1990)〕等を用いて計算したときに、配列番号1、3、5又は7に記載される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNAが挙げられる。
【0022】
なお、こうした本発明のポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK, et al: Science 230: 1350, 1985、Saiki RK, et al: Science 239: 487, 1988)を利用することによっても得ることができる。当業者は、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列(配列番号1、3、5又は7)又はその一部に基づくオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、これらの技術に基づいて他の小型魚類その他の動物から本ポリペプチドと相同性の高いポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離することができる。
【0023】
なお、ポリペプチドがPKDの制御活性を有するとは、ポリペプチドが動物のPKDの発症や進展を回避若しくは抑制する又は正常な腎機能を発現させる活性を有することを意味する。ポリペプチドがこうした制御活性を有するかどうかは、pc遺伝子変異体におけるポリペプチドの発現による機能相補試験等により決定することができる。また、後述するスクリーニング方法によっても決定することができる。
【0024】
本発明のポリヌクレオチドは、上記したポリヌクレオチドの一部分であってもよい。すなわち、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質やこのタンパク質と実質的に同一なタンパク質の一部分をコードするポリヌクレオチドも包含される。一部であってもコードするポリペプチドがPKDの制御活性を有する場合もあり、また、後述する試薬,診断薬等の用途においてはPKDの制御活性は必ずしも必要でないからである。
【0025】
本発明のポリヌクレオチドには、上記ポリヌクレオチド又はその相補鎖にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを包含する。こうしたハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション技術におけるプローブやPCR技術におけるプライマーとして利用でき、これらの技術に基づく各種の診断、検出、スクリーニング方法等に利用可能である。なお、ハイブリダイズにはハイブリダイズ対象であるポリヌクレオチドの塩基配列と完全に相補的である必要はなく、実質的に相補的で有れば足りる。実質的に相補的とは、ハイブリダイズ対象であるポリヌクレオチドの塩基配列の少なくとも一部に対して特異的にハイブリダイズ可能な程度に相補的であればよい。本発明ポリヌクレオチドは、こうした核酸分子又はその相補鎖の連続した100塩基以下の塩基配列と同じ配列を有する核酸分子を有していてもよい。好ましくは、60塩基以下であり、より好ましくは40塩基以下である。また、好ましくは5塩基以上であり、より好ましくは10塩基以上である。さらに好ましくは15塩基以上である。
【0026】
本発明のポリヌクレオチドとしては、DNA、mRNAなどのRNA、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合には、二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAはイブリッドであってもよい。また、一本鎖の場合は、センス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい。GLIS3タンパク質をコードするDNAとしては、ゲノムDNA、cDNA、化学合成DNAなどであってもよいし、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーであってもよい。各種のDNA分子又はこれらに対応するmRNAなどのRNAが含まれる。好ましくは、DNAである。以下、本発明のDNA又はRNAというときには、本発明の各種態様のポリヌクレオチドがDNA又はRNAであるものをいうものとする。
【0027】
(アンチセンスポリヌクレオチド)
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドには、本発明のポリヌクレオチド又はその一部の相補鎖と同一又は実質的に相補的であるポリヌクレオチドである。アンチセンス核酸分子は、細胞に導入されることで本核酸分子の発現を抑制することができる。こうしたアンチセンスDNA分子やアンチセンスRNA分子は、生体内で分解を受けにくいように、また、細胞膜を通過できるように化学的な修飾を施しておくことができる。なお、こうしたアンチセンスRNA分子を生体内で発現するようなDNA分子を含むコンストラクトを構築するようにしてもよい。アンチセンス核酸分子は、標的となるRNA等に対して、100%相補的である必要はないが、好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。
【0028】
(ポリペプチド)
本発明は、PKDに対する制御活性を有するポリペプチドを提供する。これらのポリペプチドは、配列番号2又は4に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられるほか、メダカpc遺伝子と相同遺伝子であるGlis3遺伝子によってコードされるタンパク質も包含される。GLIS3タンパク質としては、ヒト(配列番号6)やマウス(配列番号8)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。
【0029】
本発明のポリペプチドには、これらのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、もとのタンパク質と実質的に同質な活性を有するものが包含される。本発明においては、配列番号2、4、6又は8に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質及びこうしたタンパク質を総称して、GLIS3タンパク質と称する。このような改変したアミノ酸配列を有するタンパク質は、各種の公知の方法により得ることができるほか、本発明のDNA分子を利用して遺伝子組換え技術を利用して生産した組換えタンパク質としても得ることができる。また、本発明のポリペプチドは、実質的にもとのアミノ酸配列を有するタンパク質と同質の活性を有することが好ましい。実質的に同質の活性とは、PKDの制御活性等であり、その測定については既に説明した。
【0030】
配列番号2、4、6又は8に表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl,Acad.Sci.USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82、488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば配列番号2、又は4に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより、取得することができる。欠失、置換もしくは付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異法等の周知の方法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、1個から数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個である。また、これらのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加の程度は、もとのアミノ酸配列との相同性が少なくとも60%以上、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが好ましい。また、zinc finger領域における相同性は、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0031】
本発明のポリペプチドとしては、これらのタンパク質の一部分であってもよい。この態様のポリペプチドは、そのアミノ酸残基数は特に限定しないが、もとのタンパク質におけるアミノ酸配列と同一であるか又は実質的に同一のアミノ酸配列を有し、実質的に同質の活性を有することが好ましい。実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するであり、実質的に同質の活性とは上記と同様の意味を有している。
【0032】
本発明のポリペプチドは、これを産生する動物の細胞又は組織から従来公知のタンパク質の精製法によって製造することができるほか本発明のポリペプチドをコードするDNAを用いた形質転換体を培養することによっても得ることができる。さらに、従来公知の化学的合成方法によっても得ることができる。
【0033】
本発明のポリペプチドは、GLIS3タンパク質又はその一部分の塩を包含する。塩の形態は、特に限定しないが、生理学的に許容される酸による塩が好ましい。例えば、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸との塩又は酢酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸などの有機酸との塩等が挙げられる。
【0034】
(抗体)
本発明の抗体は、本発明のGLIS3タンパク質又はその一部分を認識する抗体である。本発明の抗体には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を包含する。本発明の抗体は、本発明のタンパク質及びその一部を抗体作成のための抗原として利用することにより常法により調製することができる。本発明の抗体によれば、本タンパク質を精製できるほか、ウェスタンブロッティング法、ELISA法及び蛍光抗体法等により本発明のタンパク質を検出及び定量したり、細胞及び生体内の局在を検出したりできる。また、本発明の抗体を用いれば、本発明のタンパク質と類似のタンパク質を探索することができる。なお、抗原は、配列番号2、4、6又は8に基づいてペプチド合成機により合成できる。
【0035】
(検出用剤)
上記した各種態様の本発明のポリヌクレオチド及びアンチセンスポリヌクレオチドは、Glis3遺伝子を検出するための検出用剤として使用できる。配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA又はその一部分、配列番号1又は3に記載の塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNA又はその一部分、さらに、これらの相補鎖又は実質的に相補的な塩基配列を有するDNAなどが挙げられる。こうした検出用剤は、標的である本核酸分子又はその一部と特異的にハイブリダイズし、本発明のポリヌクレオチドを検出または単離するためのプローブとして、また増幅するためのプライマーとして利用することができる。なお、核酸に色素、蛍光色素、放射性同位体あるいはこれらとの結合基などを連結して、ハイブリダイズにより直接にあるいは間接的にシグナル変化を生じるように構成することで、組織や細胞においてこうしたプローブとのハイブリダイズにより本核酸分子の発現の有無、発現の程度を視認化することができる。検出対象は、Glis3遺伝子のDNAであってもよいし、転写物であるmRNAなどのRNAであってもよい、cDNAであってもよい。
【0036】
また、上記した本発明の抗体もGLIS3タンパク質を検出するための検出用剤として用いることができる。例えば、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、これらの一部分に対する抗体は、これらのポリペプチドに対する好ましい検出用剤である。こうした抗体は、本発明のポリペプチドまたは単離するためにも利用できる。また、抗体に対して、色素、蛍光色素、放射性同位体あるいはこれらとの結合基などを連結することで、ELISA法やウェスタンブロッティング法、蛍光抗体法等により、本ポリペプチドを検出し、定量することができる。
【0037】
(PKDの診断方法及び診断用剤)
本発明の各種態様のポリヌクレオチド及びアンチセンスポリヌクレオチドは、PKDの診断に用いることができる。この診断用剤によれば、診断対象個体から採取された血液、血清、尿、組織、細胞などの各種検体あるいはその核酸抽出物に対して、Glis3遺伝子の異常や発現産物の有無、異常やその程度を測定することができ、それにより、PKDであるかどうか又はその病態の程度を診断することができる。それにより、PKDであるかどうか又はその病態の程度を診断することができる。例えば、Glis3遺伝子やmRNAに異常がある場合や、mRNAが低下している場合には、PKDの発症可能性がある、又はPKDの病態が進行していると診断することができる。こうした測定では、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ若しくはDNAマイクロアレイなどにより試料中のポリヌクレオチドであるcDNAやmRNAなどを分析することができる。また、ヒトGlis3遺伝子などの本発明のポリヌクレオチドと、診断対象個体から抽出したcDNAとの配列の比較(制限酵素部位の検出も含む)によってPKDを診断することもできる。
【0038】
本発明の抗体は、PKDの診断に用いることができる。本発明の抗体を含有する診断用剤によれば、診断対象個体から採取された血液、血清、尿、組織、細胞などの各種検体あるいはそのタンパク質抽出物に対して、これらのタンパク質の有無やその含有量を測定することができ、それにより、PKDであるかどうか又はその病態の程度を診断することができる。こうした測定では、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、蛍光抗体法、組織染色を用いることができる。また、抗体チップなども利用可能である。
【0039】
(ベクター)
本発明のベクターは、本発明のDNA又は本発明のアンチセンスDNAを含んでいる。本発明のDNAを含み、当該GLIS3タンパク質又はその一部を発現するように構築されたベクターによれば、こうしたGLIS3タンパク質を発現可能に本発明のDNAを動物細胞、小型魚類又は動物などに保持させることができる。また、本発明のアンチセンスDNAを発現するように構築したベクターによれば、導入した細胞においてGlis3遺伝子の発現を抑制させることができる。ベクターは、また、本発明のDNAのセンス鎖と同等なRNAを含むこともできる。こうしたRNAはRNAウイルスベクターに好ましく用いられる。なお、ベクターの形態は、ベクターを導入しようとする細胞の種類や宿主への導入等に応じて適切なものを選択できる。
【0040】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、外来性の本発明のDNAを保持する形質転換体を含む。こうした形質転換体は、本発明のポリペプチドの生産、PKDの薬剤のスクリーニングに用いることができる。
【0041】
細胞である形質転換体としては、特に限定しないで必要に応じ適切な微生物や動物細胞を用いることができる。GLIS3タンパク質の製造を意図する場合には、生産能力により微生物を用いることが有効な場合もある。
【0042】
GLIS3タンパク質又はその一部分を発現するように構築したベクターを適当な宿主に導入することで、GLIS3タンパク質又はその一部分を生産する形質転換体を得ることができる。こうした形質転換体は、GLIS3タンパク質の製造に用いることができるほか、多発性嚢胞腎疾患の予防・治療剤のスクリーニングに用いることができる。
【0043】
また、GLIS3タンパク質又はその一部分を発現するように構築したベクターを公知のトランスジェニック動物の作成技術に適用することで、GLIS3タンパク質又はその一部分を発現するトランスジェニック動物を作製することができる。このようなトランスジェニック動物は、GLIS3タンパク質を高発現しており、多発性嚢胞腎のほかGLIS3タンパク質に関連する疾患の病態やGLIS3タンパク質の作用の解明等に有用である。また、Glis3遺伝子の塩基配列に基づいてGlis3遺伝子の発現が抑制された(破壊された)ノックアウト動物を作製することもできる。こうしたノックアウト動物は、多発性嚢胞腎の疾患モデル動物として有用であり、この疾患モデル動物を利用して多発性嚢胞腎疾患の予防又は治療のための薬剤をスクリーニングすることができる。さらに、Glis3遺伝子の構造遺伝子部分にレポーター遺伝子を導入することでGlis3遺伝子を破壊しつつ、Glis3プロモーターによってレポーター遺伝子を発現させるノックアウト動物を作製できる。このようなノックアウト動物によれば、レポーター遺伝子の発現レベルを検出することで、Glis3のプロモーター活性を促進したり、阻害したりする化合物又はその塩をスクリーニングすることができる。レポーター遺伝子としては、GFPをはじめとした蛍光タンパク質の遺伝子、lacZ遺伝子、可溶性アルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0044】
こうしたトランスジェニック動物及びノックアウト動物の動物としては、非ヒト哺乳動物である、ウサギ、イヌ、ラット、マウス、ウシ、ブタ、ヤギ、ハムスターなどが挙げられるが、ノックアウト動物や遺伝子置換動物としては、上記非ヒト哺乳動物が挙げられ、なかでも、マウスが好ましい。また、ノックアウト動物や遺伝子置換動物としては、メダカなど研究又は実験用途の小型魚類が好ましく、より好ましくは、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、ドジョウ、トラフグなどの細胞が挙げられる。なかでも、特開2001-328480号公報に開示される透明メダカなどを含むメダカ属又はその近縁に属する魚類は各種のモデル魚などに適している。
【0045】
また、トランスジェニック動物、ノックアウト動物及び遺伝子置換動物を構築するためのベクターやターゲッティングベクターの構築、また、非ヒト動物のES細胞、未受精卵、受精卵、始原生殖細胞等へのDNAの導入方法等は従来公知の方法を適用することができる。
【0046】
さらに、本発明は、内在するGlis3遺伝子が不活性化されたノックダウン動物も得ることができる。内在遺伝子の不活性化には、DNAの転写抑制、タンパク質への翻訳を抑制するアンチセンス核酸を利用できる。また、内在性遺伝子の発現の抑制には、その他、リボザイムやRNAiの手法に基づくRNAやDNA、Caged技術に基づくRNAやDNAを利用することも可能である。さらに、アプタマ、ペプチド核酸なども利用可能である。こうしたノックダウン動物によれば、ノックアウト動物と同様、多発性嚢胞腎疾患のモデル動物として有用である。
【0047】
(PKDの予防又は治療のための薬剤のスクリーニング方法)
本発明の薬剤スクリーニング方法は、Glis3遺伝子の発現が抑制されたメダカやマウスなどの非ヒトPKDモデル動物や動物細胞に試験化合物を供給し、このモデル動物等における嚢胞の形成を抑制させあるいは嚢胞の形成や病態の進展を観察することにより、GLIS3タンパク質の欠損を代替し、PKDの治療に用いることのできる化合物又はその塩を得ることができる。また、本ポリヌクレオチドを発現するように形質転換した微生物、動物細胞等を利用して、これらの形質転換体あるいは本ポリヌクレオチドの転写産物と特異的に結合する標的化合物を検出できる。さらに、こうした形質転換体において特異的に発現されるタンパク質を検出することでもできる。さらに、本核酸分子を利用して無細胞系にてタンパク質を合成させることにより、このタンパク質に特異的に結合する標的化合物を検出することもできる。こうししたタンパク質や低分子化合物の検出により、PKDの予防又は治療に用いることのできる薬剤がスクリーニングされる。
【0048】
本発明の薬剤スクリーニング方法では、本タンパク質又はその抗体を用いることができる。本発明のタンパク質やその一部を用いて、これらに結合する物質もしくは発現や活性を調節する物質をスクリーニングすることによって、本発明のタンパク質を発現させ又はその機能を促進する薬剤を発見することができる。また、本発明の抗体を用いたELISA法やフローサイトメトリー法により、本発明のタンパク質の発現を調節する物質をスクリーニングすることによって、本発明のタンパク質発現を促進する薬剤を発見することができる。本発明のタンパク質を発現させ又は活性を向上させる物質は、ADPKDを含むPKDに対する新規薬剤を提供することが期待される。
【0049】
(PKDの予防又は治療のための薬剤)
本発明のPKDの予防又は治療のための薬剤は、本発明のDNAを含有することができ、好ましくは、GLIS3タンパク質又はその一部分を発現させるように構築されたベクターであることが好ましい。薬剤には、適当な遺伝子治療剤用の基剤を含有することができる。特に、ヒトGlis3遺伝子のcDNAをコードする塩基配列を含むベクターは、ヒトPKDの予防又は治療のために好ましい遺伝子治療剤である。この遺伝子治療剤は、Glis3遺伝子をPKD患者において発現させ、その産物であるタンパク質を産生させることでADPKDなどPKDの発症を抑制又は回避し、PKDの病態進展を抑制しまたは治癒させることができる。また、本発明のPKDの予防又は治療のための薬剤は、本ポリペプチド若しくはその一部又はその抗体を含めることができる。このような薬剤によれば、GLIS3タンパク質又はその一部分の欠損を補ってGLIS3タンパク質の本来の機能を付与することができる。こうした薬剤には、薬理学的に許容される1又は複数の担体を含むことができる。
【実施例1】
【0050】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0051】
(メダカの系統解析)
多発性嚢胞腎を発症するメダカ系統であるメダカpc突然変異体(以下、pcともいう。)およびpcとは遺伝的に異なった近交系HNI (+/+)由来の子孫において兄妹交配を使用した系統解析(846個体)を行った。スクリーニングに使用したBAC遺伝子ライブラリーは、近交系Hd-rR(+/+)由来である。なお、このBAC遺伝子ライブラリーは、名古屋大学大学院理学研究科堀寛教授より入手した。
【0052】
(遺伝学的解析)
BAC末端は、BAC DNAを通常のMini-prep法により精製した後、直接シークエンスしてマッピングした。BAC174E15は、ハイドロシャー(HydroShear)によってシャーリングした後、Sep400 Spun column/SepharoseCL-4B(Amersham)によりサイズの小さいDNA断片を分画・除去し、PUC18プラスミドにサブクローン化した。これをエレクトロポーレーション法によりDH10Bに導入したものをBAC174E15のショットガンライブラリーとした。コロニーを無作為に選択し、Applied Biosystems Model 377 Automated DNA sequencerでシークエンスした。
【0053】
(多型解析)
メダカHNI系統、pc系統、およびこれらの交雑系統のゲノムDNAを鋳型としたPCR反応によってサイズの異なるDNA断片が増幅されるか9%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)法で確認した。上記の3系統でサイズの違いが認められなかった場合は、該PCR産物をさらに制限酵素処理し、生成産物のバンドパターンの違いを同様のPAGE法で検討した。
【0054】
(突然変異解析)
メダカ成魚の腎臓から単離した総RNAを逆転写して一本鎖cDNAを調製した。また、ゲノムDNAはメダカ成魚の尾鰭から定法により調製した。pc対立遺伝子のRT-PCRおよびゲノムPCRは、以下のパラメーターを使用して行った:95℃で30秒、60℃で30秒、および72℃で1~6分、を30サイクル。
【0055】
(メダカpcのcDNAクローニング)
pc系統(-/-)およびOR系統(+/+)の成魚の腎臓から単離したpoly+RNAを材料として、Marathon cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)を用いて、RACEライブラリーを作製した。アンカー配列に相補的なプライマーとpc遺伝子に特異的なプライマーを用いて、5’RACEおよび3’RACEのPCRをそれぞれNestの要領で2回ずつ行った。PCRのパラメーターは、95℃で30秒、62℃で30秒、および72℃で3分、を30サイクルとした。5’RACEおよび3’RACEに用いた遺伝子特異的プライマーの塩基配列は、以下の表に示すとおりとした。
[表1]
5’-cagcatcttcctggactgtgg-3’(ex2-31、5’RACEの1回目)(配列番号9)
5’-cacattcgaactgtgtggctgg-3’(ex2-32、5’RACEの2回目)(配列番号10)
5’-tttgaaggctgcaagaaggcatt -3’(c67-F、3’RACEの1回目)(配列番号11)
5’-ctcgacttgaaaacctgaagat-3’(c67-F3、3’RACEの2回目)(配列番号12)
【0056】
RACEのPCR産物は、pDriveクローニングベクター(QIAGEN)にサブクローニングした後、Applied Biosystems Model 377 Automated DNA sequencerでシークエンスした。
【0057】
(マウスおよびヒトpc相同体)
tBlastnプログラムを使用して、公共に利用可能なデータベースを検索し、メダカpcタンパク質のアミノ酸配列に高い相同性を示すものを同定した。
【0058】
(発現解析)
northern blot法は、pc系統およびOR系統の成魚の腎臓から調製した全RNAを用いて定法により行った。RT-PCRは、調査する遺伝子(pcを含む)に特異的なセンスおよびアンチセンスプライマーのセットを用いた。全固定(whole-mount)インサイチュハイブリダイゼーションはDIGでラベルされたpcのリボプローブをOR系統のサンプルとハイブリダイズして行った。
【0059】
(結果)
Bulked Segregant解析のツールとしてすでに公共に利用可能となっているM-marker 2003(<http://medaka.lab.nig.ac.jp/mmarker.htm>)を利用して、pc遺伝子座が第12連鎖群に位置していることを明らかにした。さらに、図1に示すように、第12連鎖群にマップされている既存の多型マーカーによる連鎖解析の結果から、AU171175の0.5cM(9/847×2)内、OLa06.11gの1.6cM(27/847×2)内にpc遺伝子座がマップされた。
【0060】
多型マーカーAU171175よりもpc遺伝子座に近い位置に既存の多型マーカーが存在しなかったため、AU171175の位置からBACを用いた染色体歩行を行った。1回目の歩行では、BAC184A3がpc遺伝子座に最も近く、該BACクローン上の多型マーカー184A3F(配列番号13及び14)とpc遺伝子座の間での組換え数は5/847×2であった。2回目の歩行では、BAC198E6がpc遺伝子座に最も近く、該BACクローン上の多型マーカー231H8R(配列番号15及び16)とpc遺伝子座の間での組換え数は4/847×2であった。以下同様に、3回目の歩行では、最近位のBAC201K4を基に同定した該BACクローン上の多型マーカー201K4F(配列番号17及び18)とpc遺伝子座の間での組換え数は1/847×2であった。4回目の歩行で最近位と認められたBAC174E15は、多型マーカー174E15R(配列番号19及び20)を末端に持っていたが、該多型マーカーは、pc遺伝子座から見て染色体歩行の開始位置とは反対の側0.2cM(3/847×2)内にマップされた。このことから、BAC174E15はpc遺伝子座の領域を必ずカバーしていると予想された(図1)。
【0061】
BAC174E15をショットガンシークエンスしたところ、該BAC DNAは、15個のコンティグからなる全7個のスキャフォールドに連結された。これらのスキャフォールドはフグゲノムの相同領域との比較によって整列可能であり、これらの塩基配列は、BAC174E15が5個の遺伝子を含むことを示していた。これらの5個の遺伝子はフグゲノムの相同領域に存在する遺伝子の相同体であった。図1に示すように、このうち2個の遺伝子内に同定された多型マーカーc80(配列番号23、24)、c67-1(配列番号25,26)、157F24F(配列番号21、22)およびc78(配列番号27,28)とpc遺伝子座との間の組換え数は、それぞれ0/847×2、0/847×2、0/847×2、1/847×2であったことから、これらの2個の遺伝子の領域にpc遺伝子座が存在すると考えられた。
【0062】
pc遺伝子はc80、c67および157F24Fを含む領域の遺伝子あるいはc78を含む遺伝子である可能性が考えられたが、相同性解析の結果、これらはそれぞれGlis3(Gli-similar3)およびRFX3(regulatory factor X3)タンパク質をコードするヒト遺伝子と高い相同性を有していた。Glis3は、5個のC2H2型zinc fingerを持つ転写因子であるが、ヒトやマウスにおける機能は不明である。RFX3はHLA class IIの発現を調節する転写因子として知られている。
【0063】
Glis3の相同領域およびRFX3のmRNAの発現を、それぞれのc67のプライマーセット(c80-67、配列番号29、30)及びc78のプライマーセット(配列番号27,28)を用いてRT-PCRにより調べた。その結果、図2に示すように、野生型メダカOR(+/+)の腎臓ではいずれのmRNAも検出されたが、pc (-/-)の腎臓では、RFX3 mRNAは検出されたものの、Glis3 mRNAは検出されなかった。さらに、図3に示すように、c80のPCR産物をプローブとしたnorthern blotにより、Glis3は、OR (+/+)の腎臓では発現が確認されたが、pc(-/-)の腎臓ではほとんど検出されなかった。
【0064】
メダカGlis3の全ORF5’RACEおよび3’RACEによってシークエンスして、そのエキソンとイントロンの境界を決定した。メダカGlis3遺伝子には、第1エキソンと第3エキソンの長さがそれぞれ異なる選択的スプライシングが認められ、783アミノ酸(pc-a)(配列番号2)および595アミノ酸(pc-b)(配列番号4)からなると推定される少なくとも2種類のGLIS3タンパク質をコードしていた(配列番号1及び3、図4)。
【0065】
図5に示すように、RT-PCRによりpc遺伝子の発現を調べたところ、ステージ9に母性mRNAが検出され、一旦(ステージ10.5-20)、mRNAは検出されなくなるが、ステージ23頃から接合体性mRNAが検出され始める。胚発生を通じてpc mRNAはRT-PCRで検出可能なレベルで連続的に発現していた。また、図6に示すように、同方法によって、成魚の腎臓にpc mRNAの強い発現を認めた。肝臓と卵巣にも同mRNAを検出したが、非常に微量であった。さらに、図7に示すように、全固定インサイチュハイブリダイゼーションにより、孵化後5日、10日、20日の仔魚において、尿細管と中腎管にpc mRNAの発現を認めた。
【0066】
図8に示すように、メダカ成魚の腎臓におけるpc mRNAの発現をpc特異的プライマーセット(図8に示すもの、c67-2(配列番号31,32)、c67-3(配列番号33,34)、c67-4(配列番号35,36)、c67-5(配列番号37,38)、c67-6(配列番号39,40)、c67-7(配列番号41,42)、EF(配列番号43,44))を用いて調べた。pc突然変異体では、5’側のエキソン3-4相当部分の断片が増幅されたものの、エキソン5より3’側部分の断片は増幅されなかった。一方、OR系統(+/+)では、いずれのプライマーセットによっても増幅が見られた。このことから、pc突然変異体ではpc遺伝子のエキソン4より3’側の領域が欠損していることが予想された。
【0067】
また、図9に示すように、エキソン4より5’側のゲノム領域、およびエキソン5より3’側のゲノム領域は、それぞれに特異的なプライマーセット(c80-1配列番号45,46)、c80-2(配列番号47、48)、c67-6(配列番号39,40)、c80-3(配列番号49,50)、c80-4(配列番号51,52)、c80-5(配列番号53,54)、EF(配列番号43,44))により増幅された。しかしながら、エキソン4と5にまたがるゲノム断片は、OR系統で約6kbであったが、pc突然変異体では増幅が見られなかった。
【0068】
これらのことから、pc突然変異体では、エキソン4と5の間のイントロン内に何らかの挿入があり、この間の距離が6kbよりもはるかに大きくなっているために、このゲノム領域の断片がPCRで増幅されなかったと考えられた。
【0069】
pc突然変異体では、エキソン4より5’側領域はmRNAとして検出されている。一方、エキソン5より3’側はmRNAとして検出されない。そこで、エキソン4より3’側がどのような構造になっているかを調べるため、プライマーex62-3-52(配列番号35)およびc80-F2(配列番号29)を用いて3’RACEを行った。pc突然変異体から得られたpc mRNAの3’領域は本来何らかの遺伝子の一部として転写されるべきものかどうか今のところ不明であるが、pc遺伝子のエキソン4の3’側には、pc遺伝子以外の配列をもつ少なくとも5つのエキソンがつながっていた(図4参照)。また、この転写産物の3’領域は多様であり、これらの5つのエキソンのうちいくつかはランダムに抜け落ちていた。pc突然変異体のpc mRNAの3’領域に見られたDNA配列は、pc突然変異体に特異的なものではなく、d-rR系統(+/+)のゲノム上にも存在していた(図9)。このことから、pc突然変異体においては、pc遺伝子のエキソン4と5の間に内因性のDNA配列が転座しているか、もしくはpc遺伝子のエキソン5から10を含むゲノム領域が別の染色体領域に転座しているかのどちらかであることが予想される。
【0070】
図10に示すように、pcタンパク質は、5つのC2H2型zinc fingerを持つ転写因子である。pcのアミノ酸配列はヒトおよびマウスのGlis3とそれぞれ48%(bでは49%)、50%(bでは52%)の一致性を有していた。特に、図11及び図12に示すように、zinc finger領域におけるGlisとの類似性は高く、関連する他のzinc fingerファミリーGliやZicよりも有意である。ヒトのGLISは少なくとも3つの異なる分子GLIS1-3が存在する。
【0071】
図13に示すように、メダカpc遺伝子がRFX3遺伝子と隣接していることは前述したが、ヒトおよびマウスでGlis3遺伝子とRFX3遺伝子は第9番染色体上(9p24.2)および第19番染色体上(19C1)の位置で隣接している。このようなシンテニーから、メダカpc遺伝子はヒトおよびマウスのGlis3遺伝子の相同体であると考えられる。
【0072】
本発明の遺伝子の機能解明を進めることで、これまで不明であったヒト多発性嚢胞腎の発症メカニズムの全容解明に大きな飛躍を与えることが可能となる。また、本遺伝子の機能に注目した多発性嚢胞腎の治療薬開発にも貢献することになる。
【配列表フリ-テキスト】
【0073】
配列番号:9~54
:合成プライマー
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】pc変異候補領域の遺伝的マップを示す図。aは、連鎖群12の組換えマップを示している。bは、多型マーカーAU171175を起点として、BACを利用した染色体ウォーキングを開始した。BACクローン184A3、198E6、201K4、174E15の順にpc遺伝子座に接近し、それぞれのBACインサートの末端配列をマップして、184A3F、231H8R、201K4F、174E15Rと命名した。pc遺伝子座と201K4Fおよび174E15Rの間における組換え数はそれぞれ1および3であり、BACクローンBAC174E15上にpc遺伝子座が存在することを確認できることを示している。cは、ショットガンシークエンスによって明らかになったBAC174E15上の遺伝子を示す。左から、pc、RFX3、SMAD4、BMP10、catenin-ARVCFの遺伝子領域である。dは、野生型pc遺伝子のエキソンとイントロンの構造。少なくとも10個のエキソンからなることを示す。エキソン3には選択的スプライシングがあることがわかる。dは、pc突然変異体のpc遺伝子領域では、エキソン4の後にエキソン5-10が存在しないことを示す。
【図2】pcとc78 (RFX3)のmRNAの発現解析を示す図。RT-PCRにより、孵化後1ヶ月のメダカにおけるmRNAを検出した。pcにはc80-67を、RFX3にはc78のプライマーセットを用いた。pc突然変異体では、pc mRNAは検出されない。
【図3】pc mRNAの発現解析を示す図。northern blot法により、pc突然変異体とOR系統(野生型)の腎臓におけるpc mRNAを検出した。OR系統に見られるバンドはpc突然変異体では認められない。
【図4】pcのcDNAを示す図。下線部は選択的スプライシング部位。選択的スプライシングにより、異なる開始コドンを持つ2種類のmRNAができる。それぞれの開始コドンによるメチオニンを下線にて示す。pc突然変異体で発現しているpc mRNAでは、エキソン5-10の部分が「pc突然変異体で変異型pc mRNAのエキソン4の後に続く塩基配列」に変わっていた。各エキソンの3’末端と5’末端の塩基を方形枠で囲み、エキソン境界をスラッシュ(/)を挿入して示す。
【図5】メダカ胚におけるpc mRNA発現の時間的推移を示す図。上のバンドはpc、下のバンドはコントロール(EF-1α)である。
【図6】メダカ成魚におけるpc mRNA発現の器官分布を示す図。腎臓、肝臓、消化管、鰓、卵巣、脾臓から調製した全RNAをRT-PCRによって調べた。
【図7】pc mRNAの全固定インサイチュハイブリダイゼーションを示す図。孵化後5日のメダカを腹側から見た写真。消化管等の内臓器官はあらかじめ除去されている。
【図8】pc突然変異体とOR系統の腎臓におけるpc mRNAの比較を示す図。pc突然変異体およびOR系統(野生型)の腎臓から調製した全RNAのRT-PCRによって、図に示したプライマーセットで増幅される領域の有無を比較した。
【図9】pc突然変異体とOR系統のpc遺伝子領域の比較を示す図。pc突然変異体およびOR系統(野生型)から調製したゲノムDNAのPCRによって、図に示したプライマーセットでそれぞれの領域が増幅されるか否かを比較している。
【図10】メダカpcとヒトGlis3のアミノ酸配列の比較を示す図。一致および類似のアミノ酸残基はハッチが施してある。
【図11】pcタンパク質と他の類似タンパク質のzinc finger領域の比較を示す図である。メダカS935、メダカS2012、ヒトGlis1、ヒトGlis3、メダカpc、ヒトGli2、ヒトGlis2、ヒトZic1のC2H2型zinc finger領域を抜き出して比較している。
【図12】pcタンパク質と他の類似タンパク質のzinc finger領域の相同性と系統樹を示す図。
【図13】メダカpc遺伝子の周辺領域とヒト第9番染色体およびマウス第19番染色体のシンテニーを示す図。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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