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明細書 :弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスを用いたウリ科作物ウイルス病の防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4045358号 (P4045358)
公開番号 特開2004-283164 (P2004-283164A)
登録日 平成19年11月30日(2007.11.30)
発行日 平成20年2月13日(2008.2.13)
公開日 平成16年10月14日(2004.10.14)
発明の名称または考案の名称 弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスを用いたウリ科作物ウイルス病の防除方法
国際特許分類 C12N   7/04        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 7/04 ZNA
A01G 7/00 604Z
A01N 63/00 F
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 20
出願番号 特願2004-052855 (P2004-052855)
出願日 平成16年2月27日(2004.2.27)
優先権出願番号 2003054736
優先日 平成15年2月28日(2003.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年3月5日(2004.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
【識別番号】390028130
【氏名又は名称】タキイ種苗株式会社
【識別番号】591193370
【氏名又は名称】株式会社微生物化学研究所
発明者または考案者 【氏名】小坂 能尚
【氏名】夏秋 知英
【氏名】塩見 寛
【氏名】安原 寿雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100059225、【弁理士】、【氏名又は名称】蔦田 璋子
【識別番号】100076314、【弁理士】、【氏名又は名称】蔦田 正人
【識別番号】100112612、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 哲士
【識別番号】100112623、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 克幸
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 特表2002-536956(JP,A)
Plant Disease, 1997, Vol. 81, No. 7, p. 733-738
九州病害虫研究会報、2001、第47巻、第16-20頁
調査した分野 C12N 7/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JMEDPlus(JDream2)
JST7580(JDream2)
JSTPlus(JDream2)


特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列をコードするRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルス。
【請求項2】
下記(A)、(B)及び(C)のRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルス。
(A) 配列番号3のアミノ酸配列をコードするRNA、又は、
配列番号3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、アミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、かつヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
(B) 配列番号4のアミノ酸配列をコードするRNA、又は、
配列番号4のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号100に相当するアミノ酸がトレオニンであるアミノ酸配列からなり、かつRNAヘリカーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
(C) 配列番号5のアミノ酸配列をコードするRNA、又は、
配列番号5のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号33に相当するアミノ酸がセリンであるアミノ酸配列からなり、かつRNA依存RNAポリメラーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
【請求項3】
下記のRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルス。
配列番号3のアミノ酸配列をコードするRNA、又は、
配列番号3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、下記(D1)~(D3)のいずれかを満足するアミノ酸配列からなり、かつヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
(D1)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリンであること。
(D2)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであること。
(D3)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、アミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであること。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスをウリ科作物に接種することを特徴とするウリ科作物ウイルス病の防除方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ズッキーニ黄斑モザイクウイルスによるウリ科作物のウイルス病を防ぐ弱毒ウイルスとこれを利用したウイルス病の防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キュウリ、ズッキーニ、カボチャなどのウリ科作物では、わが国のみならず世界において、ズッキーニ黄斑モザイクウイルス(Zucchini yellow mosaic virus)(以下、ZYMVという場合がある)による被害が著しい。このウイルスは、ポティウイルス(Potyviridae)科のポティウイルス(Potyvirus)属に分類されるウイルスであり、そのゲノムは、(+)極の一本鎖RNAであることが知られている(Urcuqui-Inchima,S et.al.(2001), Potyvirus protein: a wealth of functions, Virus Reseach, 74, p.157-175)。
【0003】
ZYMVの感染を防ぐには、媒介虫であるアブラムシに対する殺虫剤の散布や忌避・遮断資材の利用が一般的に行われているが、その効果は不十分である。そのため、現在のところ、弱毒ウイルスの利用が最も有効な手段の一つとされ、世界各国で開発が進められている。ここで、弱毒ウイルスとは、感染した植物において病徴が軽微かほとんど病徴を現さない弱病原性で、かつ、同種類の強毒ウイルスに対する干渉効果を持つウイルスのことをいう。
【0004】
これまでに、ZYMVの被害を防ぐために実用化されている弱毒ウイルスは世界でもわずか2種類に過ぎない(下記非特許文献1)(小坂能尚(1999),弱毒ウイルスによるウイルス病害防除の歩みと展望,バイオコントロール研究会レポート6,p.61-65)。
【0005】
このうちの一つであるZYMV-WK株は、現在、イスラエルのウリ科野菜類で広く使われており(Yarden,G. et al.(2000), Cross-protection of cucurbitaceae from zucchini yellow mosaic potyvirus, Proc. cucurbitaceae 2000, Eds.N.Katzir & H.S.Paris, Acta Hort. 510, ISHS 2000, p.349-356)、また、アミノ酸解析によりヘルパーコンポーネントプロテアーゼ(HC-Pro)領域におけるFRNKモチーフの変異が弱病原性に関与しているとの報告もなされている(下記非特許文献2)。しかし、一方では、地域が異なるとそこで発生している強毒ウイルス系統には防除効果が十分に発揮されない可能性が示されている(Wang,H.L.et al.(1991), Effectiveness of cross protection by a mild strain of zucchini yellow mosaic virus in cucumber, melon, and squash, Plant Disease, Vol.75 No.2, p.203-207)。この実例は、ZYMVとごく近縁のパパイア輪点ウイルスでも報告されている(Huogen,X. et al.(1995), Studies on the cross-protection among strains of papaya ringspot virus and its application in the disease control, Proc. Int. workshop on the pest management strategies in Asian monsoon groecosystems, p.281-291)。
【0006】
もう一つの弱毒ZYMVは、平成7年に京都府で開発し、府内のキュウリで利用されているZY95株であるが、ここ数年、その接種苗の導入面積は約1haに止まっている。この大きな要因の一つには、ZY95株が沖縄県から分離されたZYMVに由来するものであるため、京都府内で発生している強毒ウイルス系統に対する干渉効果が不十分なこと、さらに生育後半からそれ自体の病徴が現れるため、接種していない健全なキュウリよりも1~2割減収し、そのため強毒ZYMVの発生が少なかった場合に生じるリスクが大きいことが挙げられる(下記非特許文献3)(小坂能尚(1997),キュウリ萎ちょう症を予防する弱毒ウイルス接種技術,農耕と園芸,52(4),p.91-93)。

【非特許文献1】Lecoq,H,Control of plant virus disease by cross protection,“Plant virus disease control”,(米国),APS Press,1998年,p.33-40
【非特許文献2】Gal-On,A,A point mutation in the FRNK motif of the potyvirus helper component-protease gene alters symptom expression in cucurbits and elicits protection against the severe homologous virus,“Phytopathology”,(米国),2000年,Vol.90 No.5, p.467-473
【非特許文献3】Kosaka,Y. and Fukunishi,T.,Multiple Inoculation with Three Attenuated Viruses for the Control of Cucumber Virus Disease,“Plant Disease”,(米国),1997年,Vol.81 No.7, p.733-738
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、実用性の高い弱毒ウイルスを開発するには、当該地域で発生している強毒ウイルス系統から弱毒ウイルスを作製するのが最も望ましいと考えられる。また、対象作物への収量や果実の品質にできるだけ影響の少ない優秀な弱毒ウイルスを選抜することも重要である。
【0008】
本発明は、ウリ科作物におけるズッキーニ黄斑モザイクウイルスによるウイルス病の防除効果に優れ、また、接種による副作用的な減収の少ない弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルス、及びこれを利用したウリ科作物のウイルス病の防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、京都府内のキュウリから激しい奇形を伴うモザイク葉などを引き起こすZYMVの強毒ウイルス株Z5-1を分離し、このZ5-1株から低温処理等の突然変異処理を行うことにより、高い防除効果を持つ弱毒ウイルス2002株を選抜して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスに係るものである。
【0011】
また、本発明は、下記(A)、(B)及び(C)のRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスに係るものである。
【0012】
(A) 配列番号3のアミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸番号311~766のアミノ酸配列)をコードするRNA、又は、
配列番号3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号40(配列番号2のアミノ酸番号350)に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326(配列番号2のアミノ酸番号636)に相当するアミノ酸がセリン、アミノ酸番号423(配列番号2のアミノ酸番号733)に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451(配列番号2のアミノ酸番号761)に相当するアミノ酸がアルギニンであるアミノ酸配列からなり、かつヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
【0013】
(B) 配列番号4のアミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸番号1165~1798のアミノ酸配列)をコードするRNA、又は、
配列番号4のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号100(配列番号2のアミノ酸番号1264)に相当するアミノ酸がトレオニンであるアミノ酸配列からなり、かつRNAヘリカーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
【0014】
(C) 配列番号5のアミノ酸配列(配列番号2の2285~2801のアミノ酸配列)をコードするRNA、又は、
配列番号5のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸番号33(配列番号2のアミノ酸番号2317)に相当するアミノ酸がセリンであるアミノ酸配列からなり、かつRNA依存RNAポリメラーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
【0015】
更に、本発明は、下記(D)のRNAを有する弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスに係るものである。この場合、更に上記(B)及び/又は(C)のRNAを有していてもよい。
【0016】
(D) 配列番号3のアミノ酸配列をコードするRNA、又は、
配列番号3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、下記(D1)~(D3)のいずれかを満足するアミノ酸配列からなり、かつヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするRNA。
(D1)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリンであること。
(D2)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであること。
(D3)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニン、アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリン、アミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリン、及びアミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであること。
【0017】
本発明は、更に、上記の弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスをウリ科作物に接種することを特徴とするウリ科作物のウイルス病の防除方法に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るZYMVの弱毒ウイルスは、たとえばキュウリの収量や他作物に及ぼす影響が極めて小さく、接種によるリスクの少ない弱毒ウイルスであり、遺伝子のアミノ酸配列レベルでも極めて新規性の高いものである。さらに、キュウリのみならずZYMVの被害が大きいウリ科作物において、有効な防除手段となり得るものである。
【0019】
また、本発明は、ウリ科作物の高品質・安定生産とこれによる価格安定、ウイルス病対策の労力とコストの減少、減農薬による安全で安心な生鮮野菜の供給、環境保全型農業の推進等の波及効果をもたらし、社会的貢献度の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、2002株として本明細書において命名されたズッキーニ黄斑モザイクウイルスの新規な弱毒株の選抜に基づくものであり、2002株自体はもちろんのこと、これと共通する弱毒性の因子を持つ弱毒株をも包含するものである。
【0021】
この弱毒ウイルス2002株は、植物ウイルスであることを理由に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて受託が拒否されており(受託拒否証明書における識別のための表示:ZYMV-2002)、そのため、出願人自らが保管し譲渡可能としている(保管場所:京都府相楽郡精華町大字北稲八間小字大路74 京都府農業資源研究センター)。
【0022】
この弱毒ウイルス2002株は、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする一本鎖RNAをゲノムRNAとして持つウイルスであり、配列番号1の塩基配列は、2002株のゲノムRNAから逆転写されるcDNAの配列である。
【0023】
下記実施例で詳述されるように、弱毒ウイルス2002株は、従来のZYMVと比較して、配列番号2のアミノ酸配列のうち、350番目のトレオニン(T)、636番目のセリン(S)、733番目のセリン(S)、761番目のアルギニン(R)、1264番目のトレオニン(T)、および2317番目のセリン(S)において特徴的なアミノ酸配列を持つことが判明した。そのため、配列番号2のアミノ酸配列そのものをコードするものには限られず、同アミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても、350番目に相当するアミノ酸がトレオニン、636番目に相当するアミノ酸がセリン、733番目に相当するアミノ酸がセリン、761番目に相当するアミノ酸がアルギニン、1264番目に相当するアミノ酸がトレオニン、および2317番目に相当するアミノ酸がセリンのうちの全て又は後述するいずれか1以上の条件を満足するアミノ酸配列をコードするRNAを有する弱毒ZYMVも本発明の対象に含まれる。
【0024】
より詳細には、上記6個のアミノ酸のうち、350番目、636番目、733番目及び761番目の各アミノ酸は、配列番号2におけるアミノ酸番号311~766のヘルパーコンポーネントプロテアーゼ(HC-Pro)領域に属し、1264番目のアミノ酸は、配列番号2におけるアミノ酸番号1165~1798のサイトプラズミックインクルージョン(CI)領域に属し、2317番目のアミノ酸は、配列番号2におけるアミノ酸番号2285~2801のヌクレアーインクルージョンb(NIb)領域に属するものである。
【0025】
そのため、本発明はまた、上記(A)、(B)及び(C)のRNAを含むゲノムRNAを持つ弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスも対象とする。
【0026】
上記(A)のRNAは、HC-Proタンパク質をコードするものであり、配列番号3のアミノ酸配列そのものをコードするものには限られず、同アミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても、40番目に相当するアミノ酸がトレオニン、326番目に相当するアミノ酸がセリン、423番目に相当するアミノ酸がセリン、及び451番目に相当するアミノ酸がアルギニンであり、弱毒ZYMVとしてのヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするものであれば、そのようなものも含まれる。
【0027】
上記(B)のRNAは、CIタンパク質をコードするものであり、配列番号4のアミノ酸配列そのものをコードするものには限られず、同アミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても、100番目に相当するアミノ酸がトレオニンであり、弱毒ZYMVとしてのRNAヘリカーゼ活性を持つタンパク質をコードするものであれば、そのようなものも含まれる。
【0028】
上記(C)のRNAは、NIbタンパク質をコードするものであり、配列番号5のアミノ酸配列そのものをコードするものには限られず、同アミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても、33番目に相当するアミノ酸がセリンであり、弱毒ZYMVとしてのRNA依存RNAポリメラーゼ活性を持つタンパク質をコードするものであれば、そのようなものも含まれる。
【0029】
また、下記実施例で詳述されるように、上記6つの2002株に特有のアミノ酸のうち、HC-Pro領域に属する350番目のトレオニン(T)、636番目のセリン(S)、733番目のセリン(S)および761番目のアルギニン(R)が特に弱毒性に関与していることが判明した。
【0030】
そのため、本発明はまた、上記(D)のRNAを含むゲノムRNAを持つ弱毒ズッキーニ黄斑モザイクウイルスも対象とする。なお、上記(D)のRNAとともに、上記(B)と上記(C)のいずれか一方又は双方のRNAを持つものであってもよい。
【0031】
上記(D)のRNAは、HC-Proタンパク質をコードするものであり、配列番号3のアミノ酸配列そのものをコードするものには限られず、同アミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても、上記(D1)~(D3)のいずれかを満足し、弱毒ZYMVとしてのヘルパーコンポーネントプロテアーゼ活性を持つタンパク質をコードするものであれば、そのようなものも含まれる。
【0032】
ここで、上記(D)においては、下記(d1)~(d4)いずれか1つでも満足すれば、強毒株に対して病徴を軽減することができるが次の(1)~(7)の各組み合わせの条件を満足することが効果的であり、特に、(3)、(4)、(7)の組み合わせであれば2002株とほぼ同等の優れた弱毒性が発揮される。
(d1)アミノ酸番号40に相当するアミノ酸がトレオニンであること。
(d2)アミノ酸番号326に相当するアミノ酸がセリンであること。
(d3)アミノ酸番号423に相当するアミノ酸がセリンであること。
(d4)アミノ酸番号451に相当するアミノ酸がアルギニンであること。
【0033】
(1)…(d1)と(d2)
(2)…(d3)と(d4)
(3)…(d1)と(d2)と(d3)
(4)…(d1)と(d2)と(d4)
(5)…(d1)と(d3)と(d4)
(6)…(d2)と(d3)と(d4)
(7)…(d1)と(d2)と(d3)と(d4)。
【0034】
なお、アミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、本願出願前に周知の技術である部位特異的変異誘発法により実施することができ、上記2002株や、その元株の強毒ウイルス株Z5-1、更にはその他のZYMV株から、そのようなアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された弱毒ウイルス株を作製することもできる。また、本発明の弱毒ZYMVは、天然に存在するものであっても、遺伝子組み換え技術などにより人為的に弱毒化したものであってもよい。
【0035】
ここで、アミノ酸が欠失又は付加された場合における上記アミノ酸番号の算定は、このような欠失又は付加されたアミノ酸の数も考慮し、欠失した場合には欠失分だけ番号を増やし、付加された場合には番号を減らして定められる。例えば、上記(A)の配列番号3のアミノ酸番号40に相当するアミノ酸について、これよりも上流にアミノ酸が2つ付加された場合、対象とするアミノ酸(トレオニン)は実際には42番目のアミノ酸であるが、付加されたアミノ酸数に相当する2を減じることにより、この42番目のアミノ酸をアミノ酸番号40であると考える。
【0036】
本発明の弱毒ZYMVを用いてウリ科作物のウイルス病を防除する方法としては、該弱毒ZYMVをウリ科作物に接種するものであれば、特に限定されることなく、公知の手法を採用することができる。例えば、カーボランダム法による擦り付け接種やスプレーガンやエアブラシなどを用いた高圧噴霧接種が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0038】
〔弱毒ウイルス2002株の単離〕
京都府内のキュウリから、激しい奇形を伴うモザイク葉などを引き起こすZYMVの強毒ウイルス株Z5-1(下記表1参照)を分離し、これに低温処理を行った。低温処理は弱毒ウイルスを単離する手法として、すでに幾つかの報告がなされた手法であり(例えば、Kosaka,Y. and Fukunishi,T. (1993), Attenuated isolates of soybean mosaic virus derived at a low temperature, Plant Disease Vol.77 No.9, p.882-886、上記非特許文献3、及び、小坂能尚ら(2001),低温処理により作出したインゲンマメ黄斑モザイクウイルス(BYMV)の弱毒株について, 日本植物病理学会報 第67巻 第2号, p.142)、具体的には以下のようにして行った。
【0039】
Z5-1株を子葉に接種したカボチャ幼苗を、直ちに12.5℃で2ヵ月間処理(人工気象器内、16時間日長)した。これの上葉を接種源としてケノポディウム・キノア(Chenopodium quinoa)に接種した後、生じた局部病斑のそれぞれをカボチャに接種し(単病斑分離)、やや軽くなったと思われる1株が得られた。このウイルス株を接種したカボチャ幼苗を、直ぐに15℃で30日間、さらに12.5℃で35日間処理した。処理葉を供して単病斑分離したところ、Z5-1株の特徴的な奇形を伴わず、モザイク症状のみを示す1株が得られた。次に、この株を接種した13日後のカボチャを15℃で35日間、さらに12.5℃で35日間処理し、単病斑分離を行った。その結果、キュウリでは軽いモザイク症状を示す1株が得られ、さらに単病斑分離を1回行って、これを弱毒ウイルス候補2000A株とした(表1参照)。
【0040】
2000A株を接種した10日後のカボチャを、15℃で30日間、さらに12.5℃で30日間処理した。2000A株はケノポディウム・キノアの接種葉に局部病斑を作りにくくなったため、処理した感染葉の500~2,000倍希釈汁液を多数のカボチャに接種して選抜する方法(single-plant isolation)を行ったところ、カボチャやズッキーニにおける病徴が2000A株よりもやや軽くなった1株が得られた。これとZY95株(既存の弱毒ウイルス)とをカボチャの子葉に混合接種し、その24日後の第4、5本葉を接種源として、4回のsingle-plant isolationの繰返しを行い、キュウリ、カボチャやズッキーニのいずれにおいても病徴が軽微な2002株を得た。すなわち、これら植物の幼苗の子葉に、カーボランダム法によってウイルス感染葉の粗汁液を擦り付け接種したところ、Z5-1株はこれらのすべてに奇形を伴う激しいモザイク葉を引き起こし、生育が著しく悪化したのに対し、2002株はキュウリやズッキーニにはごく軽微なモザイク症状、カボチャには軽微な退緑斑とモザイク症状のみを生じ、それぞれの生育は健全なものとほぼ同じであった(表1参照)。なお、2000A株はZ5-1株よりもかなり軽い病徴を示したが、2002株と比べるとキュウリでの病徴はやや強く、カボチャやズッキーニでの病徴もモザイク症状が明瞭であったことから、弱毒ウイルスとしての特性は2002株よりも劣った。
【0041】
また、この2002株は上記試験と同様の方法でケノポディウム・キノアに接種しても、Z5-1株が生じるような接種葉における明瞭な局部病斑(退緑斑)はまったく現さなかった。この接種葉についてZYMV抗体を用いたティッシュブロットイミュノアッセイを行ったところ、弱いシグナルが認められ、局部的な感染は起こっていることが示された。
【表1】
JP0004045358B2_000002t.gif

【0042】
〔弱毒ウイルス2002株の評価・特性〕
上記で得られた2002株はウリ科作物における病徴が軽く、弱毒ウイルスとして有望と思われたので、温室内のポット植えのキュウリ(品種:つや太郎)への接種試験により、その干渉効果(強毒ウイルスによる発病を抑える効果)を既存の弱毒ウイルスZY95株と比較した。すなわち、あらかじめ2002株またはZY95株の感染葉汁液(リン酸緩衝液で5倍希釈)を、カーボランダム法によって子葉に擦り付け接種し、その10日後に強毒ウイルス(京都府内から分離されたZYMV-KAMO株)の感染葉の100倍希釈汁液を第2本葉に擦り付け接種した後、この上位葉に強毒ウイルス特有の激しいモザイクや奇形症状が現れるか否かで、干渉効果を判定した。その結果、表2に示すように2002株では発病株が少なく、その干渉効果はZY95株よりも明らかに高かった。
【表2】
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【0043】
次に、2002株のアブラムシ伝搬性をZ5-1株と比較した。各ウイルスを接種して15~25日後のキュウリ(品種:相模半白)またはカボチャ(品種:えびす)の第2~3本葉を獲得吸汁源とした。アブラムシは健全なカボチャで飼育した無翅のワタアブラムシを供試した。約2時間飢餓させたアブラムシを獲得吸汁源に移し、3~10分間の吸汁後に健全なキュウリまたはカボチャの幼苗に1株当たり10頭以上を移した。3~4時間後に殺虫剤を散布して、温室内で育成して病徴観察した。アブラムシを接種した苗はすべてELISA法によってウイルス感染の有無を調べた。また、すべての試験において、獲得吸汁源にウイルスが存在することをELISA法により確認した。その結果、表3に示すように、Z5-1株は高率に非永続的に伝搬されたのに対し、2002株はまったく伝搬されなかった。
【表3】
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【0044】
ZYMVのZ5-1株、これから低温処理により選抜された弱毒性の2000A株及び弱毒ウイルス2002株の全塩基配列を決定した。詳細には、キュウリまたはカボチャの感染葉からRNAを抽出、オリゴdTプライマーまたはランダムプライマーでcDNA合成し、PCR産物を得て、クローニング後、塩基配列を解析した。なお、5’末端領域の配列についてはRACE法により決定した。RT-PCRでcDNAを増幅するためのプライマーは、データベース上ですでに全塩基配列が報告されているZYMVの4分離株(DDBJ/EMBL/GenBank Accession No.AF014811、AF127929、L29569、L31350)について、まず塩基配列を整列させて、変異の多い領域、互いに配列が同じ領域が分かるようにし、この整列した配列をもとに、お互いのPCR産物がオーバーラップするように多数設計した。なお、プライマーは、出来るだけ4分離株間で塩基配列が同じ領域に設計するようにし、どうしても配列が異なる場合はディジェネレイトプライマーとした。2002株の全長ゲノムRNAに対応するcDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
【0045】
得られた塩基配列のデータを遺伝子解析ソフトGeneWorks 2.5.1(Intelli- Genetics, Inc)で解析した結果、2002株のアミノ酸配列は配列番号2に示すとおりであった。その結果、2002株は、ZYMVの弱病原性に関与しているとされるヘルパーコンポーネントプロテアーゼ(HC-Pro)領域のFRNKモチーフ(489~492番目)の変異(上記非特許文献2)は認められず、イスラエルなどで利用されている弱毒ウイルスZYMV-WKとは明らかに異なっていた。
【0046】
また、Z5-1株及び上記データベース上の4つの強毒ウイルス株に共通するアミノ酸配列において、2002株と2000A株では、350番目のアラニン(A)がトレオニン(T)、636番目のロイシン(L)がセリン(S)、761番目のリジン(K)がアルギニン(R)、2317番目のグリシン(G)がセリン(S)である点が異なった。また、2002株にのみ特異的な変異は、733番目のセリン(S)(他のすべてがロイシン(L))、1264番目のトレオニン(T)(他のすべてがアラニン(A))であった。
【0047】
2000A株と2002株とZ5-1株との間では、311~766番目のHC-Pro領域と、1165~1798番目のCI領域、及び2285~2801番目のNIb領域を除けば、全く同一のアミノ酸配列を有し、これら3領域では、図1に示すようにHC-Pro領域では、350番目のトレオニン(T)、636番目のセリン(S)および761番目のアルギニン(R)が、2000A株及び2002株とZ5-1株との間で相違しており、更に、733番目のセリン(S)が2002株とZ5-1株との間で相違しており、その他は3者間で同一のアミノ酸配列を有していた。また、図2,3に示すようにCI領域では、1264番目のトレオニン(T)が、2002株とZ5-1株及び2000A株との間で相違していた。なお、1504番目及び1646番目においても相違していたが、これらは上記データベース上の強毒株と一部共通しているため弱毒性に関与してないものと推定される。CI領域におけるその他については3者間で同一のアミノ酸配列を有した。更に、図4,5に示すように、NIb領域では、2317番目のセリン(S)が、2000A株及び2002株とZ5-1株との間で相違しており、その他は3者間で同一のアミノ酸配列を有していた。以上のことから、上記6つのアミノ酸のうちのいずれか又は複数が弱毒性に関与していることが分かる。
【0048】
また、2002株には、アブラムシ伝搬性の欠失に関わるHC-Pro領域のアミノ酸配列におけるPTKモチーフ(618~620番目)(Yan-hua Peng,D. et al.(1998), Mutations in the HC-Pro gene of zucchini yellow mosaic potyvirus: effects on aphid transmission and binding to purified virions, Journal of General Virology, 79, p.897-904)と、外被タンパク質領域のDAGモチーフ(2810~2812番目)(Atreya,P.L. et al.(1995), Mutational analysis of the coat protein N-terminal amino acids involved in potyvirus transmission by aphids, Journal of General Virology, 76, p.265-270)における変異はみられず、伝搬効率に係わるその前後のアミノ酸配列(Lopez-Moya,J.J. et al.(1999), Context of the coat protein DAG motif affects potyvirus transmissibility by aphids, Journal of General Virology, 80, p.3281-3288)ではアブラムシ伝搬されるZ5-1株と差異は認められなかった。にもかかわらず、2002株は上記のようにアブラムシ伝搬性が低い。
【0049】
次に、強毒ZYMVの発生が無かった露地栽培の接ぎ木キュウリ(穂木:つや太郎、台木:シェルパ)において、2002株の接種による収量への影響を調べた。すなわち、穂木キュウリの子葉にカーボランダム法によって2002株を汁液接種した後、接ぎ木し、活着後に感染を確認して京都府農業資源研究センター内の露地圃場に定植した。1区7株で3反復し、収穫は6月下旬から7月下旬まで行った。その結果、2002株自体によると思われる病徴は認められず、わずかに発生したキュウリモザイクウイルス(CMV)との混合感染株は、無接種区のCMV単独感染株とほぼ同程度のモザイク症状を示し、相乗的に病徴が激しくなる傾向はみられなかった。表4に示すように、曲がり等の無い上果実の個数や、これが総果実数に占める割合は、無接種株とほぼ同じで、2002株の収量への影響はほとんどないことが示された。
【表4】
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【0050】
〔弱毒性に関与するアミノ酸の特定〕
2002株に特有の上記6つのアミノ酸のうち、いずれが弱毒性に関与しているかを特定するために、まず、感染性キメラクローンを作出して、弱毒性に関与する領域を特定した。
【0051】
感染性キメラクローンの作出は次のようにして行った。ZYMVのゲノムRNAは全長が9593塩基もあったので、大腸菌のT7 RNAポリメラーゼとT7プロモーター配列を利用したin vitro転写系よりは、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus:CaMV)がもつ35S RNAプロモーターを全長cDNAの5'末端上流に付加し、mRNA合成を終了させるNOSターミネーターを下流に付加した「感染性全長cDNAクローン」のほうが安定していると考えた。この場合、植物のDNA依存RNAポリメラーゼが 35S RNAプロモーターの配列を認識してin vivoでRNAに転写するため、プラスミドDNAのまま植物に接種できる実験系である。
【0052】
そこでまず、pUC19プラスミドのマルチクローニングサイトを利用し、Kpn I部位,35Sプロモーター,Stu I部位,Sma I部位,Bam HI部位,Xba I部位,Sal I部位,Pst I部位,Sph I部位,Sac I部位,NOSターミネーター,Sma I部位の順で並ぶように改変したプラスミドベクターp35SIV(19)を作製した。
【0053】
一方、上記の通り決定した全塩基配列より、ZYMVの強毒系統Z5-1株と優良弱毒系統2002株はそれぞれ全長が9593塩基からなり、Z5-1株から2002株へは14塩基、7アミノ酸の変異が生じていることが明らかとなった。そこで、これらの変異のうちいずれがZ5-1株の病原性を低下させているかを明らかにするために、まずZ5-1株と2002株の感染性全長cDNAクローンを構築した。その手順は次の通りである。
【0054】
(1) ZYMV(Z5-1株と2002株)の全長を、第1~539までの領域1、第539~2228の領域2、第2228~3830の領域3、第3830~7516の領域4、第7516~9593の領域5の5つに分けて、各領域をそれぞれ一組のプライマーを用いてRT-PCRで増幅した。領域1のPCR産物は平滑末端でp35SIV(19)の35Sプロモーターの隣のStu I部位に挿入した。その他のPCR産物はpUC19にクローニングし、必要に応じて制限酵素で切り出して用いた。また、この時点で各産物の塩基配列を確認した。
【0055】
(2) 領域1のPCR産物を含むp35SIV(19)を制限酵素Pst IとSac Iで切断し、領域4のPCR産物もPst IとSac Iで切断して挿入し、塩基配列を確認した。
【0056】
(3) 上記(2)で作製したものを制限酵素Xba IとPst Iで切断し、領域2のPCR産物もXba IとPst Iで切断して挿入し、塩基配列を確認した。
【0057】
(4) 上記(3)で作製したものを制限酵素Pst Iで切断し、領域3のPCR産物もPst Iで切断して挿入し、塩基配列を確認した。
【0058】
(5) 上記(4)で作製したものを制限酵素Sac Iで切断し、領域5のPCR産物もSac Iで切断して挿入し、塩基配列を確認した。
【0059】
上記(1)~(5)の各ステップで挿入する各々のPCR産物をZ5-1株由来にするか2002株由来にするか選択することで、目的とするキメラクローンを構築することができ、ここでは、下記表5に示すように、基本クローンをZ5-1株として2002株由来の組換え領域を持つキメラクローンと、基本クローンを2002株としてZ5-1株由来の組み換え領域を持つキメラクローンを、それぞれ5種類ずつ作製した。また、組換え領域を持たないクローンもZ5-1株と2002株のそれぞれついて作製した。
【0060】
このようして作製したクローンについて、弱毒性を評価した。その評価は次のようにして行った。前述のようにして35S RNAプロモーターとNOSターミネーターの間にZYMVの野生型又はキメラを導入した全長cDNAを挿入したcDNAクローンを、Bio-Rad社のHelios Gene Gunシステム(パーティクルガン)を用いてカボチャ苗に接種した。すなわち、まず、金粒子(直径0.6~1.6μ)に0.05Mスペルミジンを加えて混合し、さらに同量のTE緩衝液に懸濁した精製プラスミドDNAを加えて混合した。次に1M CaCl2を加えてDNAを金粒子に付着させた。遠心して金粒子を集めエタノールで3回洗浄した後、PVPを含むエタノールに懸濁し、ゴールドコート用チューブの内側に塗布して乾燥させた。乾燥後に、均一にコートされたチューブを0.5インチの長さに切断してカートリッジホルダーに入れ、ヘリウムガスを利用したガンでカボチャの子葉あるいは第一本葉の1枚につき1回ずつ打ち込んだ。
【0061】
このようにして全長cDNAを含むプラスミドDNAをカボチャの2枚の子葉に打ち込むことによりカボチャ葉を感染させ、感染したカボチャ葉を用いて、キュウリ(品種:つや太郎)に接種して、接種25日後の第2~4本葉の病徴を調べた。なお、全ての接種株でエライザ法による陽性反応を確認した。また、接種試験は2回実施した。
【0062】
結果は表5に示す通りであり、Z5-1株を基本クローンとするものにおいて、第539~2228の領域2又は第2228~3830の領域3を組み換えたものについては病徴が軽減され、領域2と領域3の双方を組み換えたものについては2002株と同等程度に弱毒化されていた。一方、2002株を基本クローンとするものにおいて、第3830~7516の領域4と第7516~9593の領域5をZ5-1株由来のものに組み換えても病徴に変化がなかったのに対し、上記領域3又は領域2と領域3を組み換えることにより強毒化されていた。このことから、領域2及び領域3におけるZ5-1株と2002株の違いが弱毒性に関与していることが分かった。即ち、配列番号1の塩基配列における1187番目、2046番目、2337番目および2421番目のいずれか1以上の塩基の違いが弱毒化に関与している。
【表5】
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【0063】
そこで、次に、Z5-1株において、これら特定の塩基を2002株と同じになるように置換させた点変異クローンを作出した。詳細には、Stratagene社のQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kitの原理を利用して1塩基の点変異を導入した。すなわち、まず、目的とする変異を中央にしてその前後に10~15塩基ずつ付加したプライマー、およびそれに相補的なプライマーを用意した。このプライマーを用い、目的とする変異を導入したいcDNAを含むプラスミドと混合し、正確性の極めて高いPfu DNA PolymeraseでPCR反応(95℃で30秒、55℃で1分、68℃で1kbあたり2分、このサイクルを5~10回)によってプラスミド全体を一周増幅した。次に、PCR反応液に制限酵素Dpn Iを加え、鋳型となったDNA鎖を切断した。Dpn IはAがメチル化された4塩基配列GATCを認識して切断する制限酵素であり、大腸菌内で増殖したプラスミドはメチル化されているのでこの酵素により切断されるが、PCR産物は切れない。Dpn Iで切断後そのまま大腸菌を形質転換すると、PCRで増幅された変異のはいったものだけが生えてくる。ニックは形質転換後に修復される。このようにして得られたプラスミドについては、目的とした塩基以外に変異が入っていないことをシーケンスにより確認したのち、前述の感染性キメラクローンの作出法により全長cDNAを構築して1塩基変異を導入した。なお、2塩基以上の変異を導入する場合は、この操作を繰り返した後に全長cDNAを構築した。作製した点変異クローンは下記表6に示す通りである。
【0064】
得られたcDNAクローンにつき、上記と同様にしてパーティクルガンによるカボチャ苗への接種を行い、感染したカボチャ苗を用いて、キュウリ(品種:つや太郎)に接種し、接種40日後の第3~7本葉の病徴を調べることにより、弱毒性を評価した。なお、全ての接種株でエライザ法による陽性反応を確認した。
【0065】
結果は表6に示すとおりであり、上記4つの塩基のいずれもが弱毒性に関与していた。特にこれら4つの塩基が全て揃うと完璧であるが(即ち、1187番目のG(グアニン)がA(アデニン)に、2046番目のT(チミン)がC(シトシン)に、2337番目のT(チミン)がC(シトシン)に、2421番目のA(アデニン)がG(グアニン)に置換された場合)、1187番目及び2046番目に、2337番目又は2421番目のどちらかが加わった場合でも、優れた弱毒性が得られた。特に、Z5-1株から2002株への選抜過程を考えると、この選抜途中で得られ、2002株の弱毒性よりやや劣る2000A株は1187番目、2046番目および2421番目が置換されていたことから、2000A株から2002株を選抜する過程で2337番目の置換が加わったと考えることができる。このことから、2002株に万が一圃場において強毒株への復帰変異が起きても、4箇所の変異が2箇所へと復帰する可能性はきわめて低く、キメラクローンおよび点変異の実験において2002株の優秀性が証明されたといえる。
【表6】
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【0066】
以上の評価・分析から、2002株におけるHC-Pro領域、CI領域およびNIb領域について次のことが推測される。
【0067】
HC-Pro領域については、(1) 全身感染能や宿主タンパク質を分解するプロテアーゼ活性が弱く、ウリ科植物で病徴が軽微である。(2) アブラムシ伝染性が極めて低率である。(3) 別種ウイルスと混合感染しても病徴が激化しない。(4) 宿主植物のジーンサイレンシング機構を刺激して、後から感染する同種の強毒ウイルスに対する植物の抵抗性を補強する。(5) 干渉効果の発現に関与している。
【0068】
CI領域とNib領域については、上記表5の結果からは弱毒性に関与しないものと考えられるが、上記表6の最下欄における4塩基置換の場合に、完全に無病徴ではないという結果が出ていることに鑑みると、これらもわずかながら弱毒性に関与している可能性がある。そのため、弱毒性に関与しているとすれば、CI領域については、細胞間移行能が弱くなることにより、また、NIb領域については、ウイルスRNAポリメラーゼの能力が弱り、複製が抑えられることにより、ウリ科植物で病徴が軽微であるという特性に関与しているものと推定される。
【0069】
〔2002株を用いた防除試験〕
平成14年に、京都府農業資源センター内の圃場及び京都府内の2カ所の農家圃場で行った2002株接種苗の防除試験を実施例として次に示す。接種苗は、タキイ種苗ナーサリにおいて、播種後8~10日後のキュウリ(品種:つや太郎)の子葉に2002株の感染葉汁液(リン酸緩衝液で5倍希釈)を、カーボランダム法によって子葉に擦り付け接種し、翌日に台木カボチャ(品種:シェルパ)にタキイ式ピン接ぎ法で接ぎ木した後、ナーサリ慣行法により、第2本葉が完全展開するまで育成した。無接種苗もまったく同様の方法で育成した。
【0070】
〔実施例1〕
5月20日に、京都府農業資源センター内の圃場に2002株接種苗と無接種苗を定植した。ZYMV強毒ウイルスの多発生条件となるように、ポット植えした発病株を畝間に1カ月間配置した。その結果、表7に示すように、無接種区では定植40~50日後から激しく発病し始めたのに対し、接種区では明らかに発病が遅れて軽いままで推移した。曲がりやウイルス症状のまったく無い上果実、やや軽い症状が見られる商品果実の個数は、それぞれ、接種区が無接種区を97%、33%上回った。
【表7】
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【0071】
〔実施例2〕
6月21日に、京都府宇治田原町の農家圃場に2002株接種苗と無接種苗を定植した。表8に示すように、全体的に発病度が低い傾向にあったものの、接種区は無処理区よりも有意に萎凋症状の発生が少なく、2002株の接種による明瞭な発病抑制効果が認められた。なお、両区とも、9月8日時点ではほぼ全株にCMVが発生していたことから、発病度の差は顕著ではなかったが、CMVとの混合感染によって相乗的に病徴が激しくなる傾向は認められなかった。
【表8】
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【0072】
〔実施例3〕
7月24日に、京都府加茂町の農家圃場に2002株接種苗と無接種苗を定植した。ZYMV以外に、CMV、カボチャモザイクウイルスやパパイア輪点ウイルスも混発する栽培条件下での試験となったが、表9に示すように、発病度と萎凋株率には明瞭な違いが認められ、2002株の接種の有効性が検証された。
【表9】
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【0073】
なお、本発明は、文部科学省科学技術振興調整費・先導的研究等の推進「植物ワクチン開発とその利用システムの確立」における研究成果によるものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るZYMVの弱毒ウイルスは、キュウリを始めとするZYMVの被害が大きいウリ科作物において、有効な防除手段となりうるものである。そのため、本発明は、ウリ科作物の高品質・安定生産とこれによる価格安定、ウイルス病対策の労力とコストの減少、減農薬による安全で安心な生鮮野菜の供給、環境保全型農業の推進等の波及効果をもたらし、社会的貢献度の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】HC-Pro領域において2000A株と2002株とZ5-1株との間でアミノ酸配列を比較した対比図である。
【図2】CI領域において2000A株と2002株とZ5-1株との間でアミノ酸配列を比較した対比図(1)である。
【図3】CI領域において2000A株と2002株とZ5-1株との間でアミノ酸配列を比較した対比図(2)であり、図2の続きである。
【図4】NIb領域において2000A株と2002株とZ5-1株との間でアミノ酸配列を比較した対比図(1)である。
【図5】NIb領域において2000A株と2002株とZ5-1株との間でアミノ酸配列を比較した対比図(2)であり、図4の続きである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4