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明細書 :磁性砥粒及びその製造方法並びに磁気研磨法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4189446号 (P4189446)
公開番号 特開2005-290233 (P2005-290233A)
登録日 平成20年9月26日(2008.9.26)
発行日 平成20年12月3日(2008.12.3)
公開日 平成17年10月20日(2005.10.20)
発明の名称または考案の名称 磁性砥粒及びその製造方法並びに磁気研磨法
国際特許分類 C09K   3/14        (2006.01)
B24B  31/112       (2006.01)
B24B  37/00        (2006.01)
FI C09K 3/14 550E
B24B 31/112
B24B 37/00 D
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2004-108446 (P2004-108446)
出願日 平成16年3月31日(2004.3.31)
審査請求日 平成18年3月20日(2006.3.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】山口 ひとみ
【氏名】齋藤 哲男
【氏名】桑名 朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】澤村 茂実
参考文献・文献 特開2003-193036(JP,A)
特表2002-544318(JP,A)
調査した分野 C09K 3/14
B24B 3/00-3/60,21/00-39/06
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性を有する扁平状の磁性砥粒であって、当該磁性砥粒をHeywoodの定義を基にした扁平度をmで表したとき、m=B/Tの値が1.5以上であることを特徴とする磁性砥粒。但し、Bは磁性砥粒の短軸長を表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最小距離のことである。Tは磁性砥粒の厚さを表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、水平面に平行で、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最大距離のことである。
【請求項2】
前記磁性砥粒が、ニッケル、コバルト又はそれらの合金により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性砥粒。
【請求項3】
磁性を有する磁性薄膜を切断、粉砕又は鍛造して、扁平度(m=B/T)が1.5以上の扁平状の磁性砥粒を形成することを特徴とする磁性砥粒の製造方法。但し、mはHeywoodの定義を基にした扁平度を表す。Bは磁性砥粒の短軸長を表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最小距離のことである。Tは磁性砥粒の厚さを表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、水平面に平行で、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最大距離のことである。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の磁性砥粒を用いて被加工物の表面を研磨することを特徴とする磁気研磨法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性砥粒及びその製造方法並びに磁気研磨法に関し、更に詳しくは、より精密な表面加工を行える磁性砥粒及びその製造方法並びに磁気研磨法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気研磨法は、研磨作用を有する磁性砥粒を磁場の作用により運動させて被加工物の表面を研磨する精密加工方法である。この磁気研磨法は、従来の機械加工では困難な部品の研磨を可能にする方法であり、例えば、複雑形状を有する部品の表面、工具が入らない穴の内面、工具が届かない管の内面等の研磨について一部実用化されている。
【0003】
磁気研磨法で利用される磁性砥粒は、磁場の作用により被加工物に対して相対運動するものである。一般的には、磁性を有する研磨粒子を含む磁性砥粒や、磁性を有しない非磁性の研磨粒子と磁性を有する磁性粒子との混合物からなる磁性砥粒が知られている。前者の場合は磁場により研磨粒子自体が運動するが、後者の場合は、磁場により運動するのは磁性粒子であり、研磨粒子は磁性粒子の運動に伴って運動して被加工物の表面を研磨する。したがって、後者の磁性砥粒は、磁性粒子の運動に伴って研磨粒子が所望の運動を行わないこともあり得るという問題がある。
【0004】
一方、前者の磁性砥粒にはそうした問題がなく、例えば、磁性粒子の表面に研磨粒子を含有した無電解めっき皮膜を形成した磁性砥粒(例えば特許文献1を参照。)や、焼結などの方法で磁性粒子と研磨粒子とが一体化されている磁性砥粒等が報告されている。このような磁性砥粒としては、国内では1種類の磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80)が市販されている程度で種類が少ないのが現状である。

【特許文献1】特開2002-265933号公報(請求項3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した市販の磁性砥粒は、加工効果を有するものの、より精密な研磨加工を行う際には、必要以上に被加工物表面の微小凹部に入り込み、凸部に加えて凹部を過剰に除去加工してしまうことがあり、必ずしも好ましい磁性砥粒であるとは言えないものであった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、より精密な表面加工を可能にする磁性砥粒及びその製造方法並びにその磁性砥粒を利用した磁気研磨法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の磁性砥粒は、磁性を有する扁平状の磁性砥粒であって、当該磁性砥粒をHeywoodの定義を基にした扁平度をmで表したとき、m=B/Tの値が1.5以上であることを特徴とする磁性砥粒。但し、Bは磁性砥粒の短軸長を表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最小距離のことである。Tは磁性砥粒の厚さを表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、水平面に平行で、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最大距離のことである。

【0008】
この発明によれば、磁性砥粒は扁平度が1.5以上の扁平状に形成されていることにより、周縁部が研磨を行う研磨部として作用するので、より精密に研磨を行うことができる。また、扁平状に形成されていることにより、断面略円形の粒状に形成されている場合に比して大きい体積を有したままで、例えば被加工物の微小な溝等の細部に容易に入り込むことができ、より精密な表面加工を行うという利点がある。
【0009】
本発明の磁性砥粒において、前記磁性砥粒が、ニッケル、コバルト又はそれらの合金により形成されていることが好ましい。この発明によれば、磁性砥粒がニッケル、コバルト又はそれらの合金により形成されているので、磁性砥粒は錆び難いものとなる。また、合金組成を変えることにより加工力の異なる磁性砥粒を得ることができる。
【0010】
前記目的を達成するための本発明の磁性砥粒の製造方法は、磁性を有する磁性薄膜を切断、粉砕又は鍛造して、扁平度(m=B/T)が1.5以上の扁平状の磁性砥粒を形成することを特徴とする磁性砥粒の製造方法。但し、mはHeywoodの定義を基にした扁平度を表す。Bは磁性砥粒の短軸長を表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最小距離のことである。Tは磁性砥粒の厚さを表し、1個の磁性砥粒がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、水平面に平行で、かつ磁性砥粒の表面に接する平行面間の最大距離のことである。この発明によれば、扁平状の磁性砥粒を簡単に形成することができる。形成された磁性砥粒は、扁平状に形成されているために、周縁部が研磨を行う研磨部として作用すると共に、断面略円形の粒状に形成されている場合に比して大きい体積を有したままで、例えば被加工物の微小な溝等の細部に容易に入り込むことができ、より精密に表面加工を行うことができる。
【0011】
前記目的を達成するための本発明の磁気研磨法は、前述した本発明の磁性砥粒を用いて被加工物の表面を研磨することを特徴とする。この発明によれば、前述と同様により精密な表面加工を行うことができると共に、複雑な形状を有する被加工物を容易に加工することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の磁性砥粒及び本発明の磁気研磨法は、磁性砥粒が扁平状に形成されているので、より精密に加工することが可能となると共に、複雑な形状を有する被加工物を容易に加工することができる。
【0013】
また、本発明の磁性砥粒の製造方法によると、より精密に加工することが可能となると共に、複雑な形状を有する被加工物を容易に加工することができる扁平状の磁性砥粒を簡単に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の磁性砥粒及び磁性砥粒の製造方法並びに本発明の磁気研磨法について図面に基づき詳細に説明する。
【0015】
(磁性砥粒)
図1は本発明の磁性砥粒の一例を示す図である。図2は本発明の磁性砥粒の他の例を示す図である。本発明の磁性砥粒は、磁気研磨方法で利用されるものであり、図1及び図2に示すように、磁性を有する扁平状の磁性砥粒1であって、当該磁性砥粒1の扁平度が1.5以上であることに特徴がある。
【0016】
磁性砥粒1は磁気研磨法で利用される際の磁場内で磁性を有し、その磁場の変動と共に移動するものである。磁性砥粒1の材質は、磁場内で磁気を帯びていればよく、常に磁気を帯びたものでもよいし、磁場外では磁気を帯びていないが磁場内に置くことにより磁化するものでもよい。このような磁性砥粒1の材質としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金などのニッケル系金属、コバルト、コバルト合金などのコバルト系金属、フェライト、酸化鉄等が挙げられ、錆び難い点からニッケル、ニッケル合金などのニッケル系金属やコバルト、コバルト合金などのコバルト系金属等が好ましいものとして挙げられる。
【0017】
磁性砥粒1は、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定され、平面視した形状が略円形、略楕円形、略三角形、略矩形、略多角形等の各種の形状であって扁平状に形成されている。本発明の磁性砥粒1は、図1及び図2に示すように、扁平状に形成されていることに特徴がある。なお、本発明において扁平状とは、厚さが薄いことを意味し、厚さが薄ければ板状とも薄片状ともいうことがあり、また、鱗片状ということもある。
【0018】
磁性砥粒1の厚さTは、1μm~100μmの範囲であることが好ましく、特に好ましくは10μm~30μmである。本発明において厚さTとは、Heywoodの定義を基にしたものであり、図1に示すように、1個の磁性砥粒1がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、水平面に平行で、かつ磁性砥粒1の表面に接する平行面間の最大距離のことをいう。磁性砥粒1の厚さTが1μm未満であると、被加工物を加工することができないことがある。一方、磁性砥粒1の厚さTが100μmを超えると、より精密な表面加工を行うことができないことがある。
【0019】
磁性砥粒1の扁平度mは、1.5以上、好ましくは4以上である。扁平度mの上限は、特に限定されないが、好ましくは30である。本発明において扁平度mとは、Heywoodの定義を基にしたものであり、磁性砥粒1の短軸長をBとしたとき、m=B/Tで表される。ここで、磁性砥粒1の短軸長Bとは、1個の磁性砥粒1がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒1の表面に接する平行面間の最小距離のことをいう。扁平度mが1.5未満であると、より精密な表面加工を行うことができないことがある。
【0020】
磁性砥粒1の長軸長Lは、特に限定されないが、好ましくは200μm~2000μmの範囲、好ましくは450μm~1700μmの範囲である。本発明において長軸長Lとは、Heywoodの定義を基にしたものであり、1個の磁性砥粒1がもっとも安定した状態で水平面上に静止されているとき、短軸長Bに対して直角な方向であって同一水平面上に延び、かつ磁性砥粒1の表面に接する平行面間の最大距離のことをいう。磁性砥粒1の長軸長Lが200μm未満であると、磁性砥粒が小形化して加工力の基となる磁力が弱くなるので、より精密な表面加工を行うことができないことがある。一方、磁性砥粒1の長軸長Lが2000μmを超えると、磁性砥粒が大形化して加工圧力が大きくなり過ぎ、より精密な表面加工ができなくなることがある。磁性砥粒1の短軸長Bは、特に限定されないが、好ましくは100μm~1000μmの範囲、より好ましくは140μm~450μmの範囲である。磁性砥粒1の短軸長Bが100μm未満であると、磁性砥粒が小形化して加工力の基となる磁力が弱くなるので、より精密な表面加工を行うことができなくなることがある。一方、磁性砥粒1の短軸長Bが1000μmを超えると、大形化して加工圧力が大きくなり過ぎ、より精密な表面加工を行うことができなくなることがある。
【0021】
このように、本発明の磁性砥粒1は、扁平度mが1.5以上の扁平状に形成されているので、周縁部(エッジ部)2が研磨を行う研磨部として作用する。また、本発明の磁性砥粒1は、鍛造、プレス等により扁平状に形成されていると、磁性砥粒1の表面に平行な方向に磁化されやすい特性すなわち磁気異方性を有する。このため、磁性砥粒1は、磁場内では磁場の方向に立つ。例えば、図3に示すように、被加工物である円状の管(円管21ということがある。)の内部に磁性砥粒1を入れて、この円管21の外部に2個の1組の磁極22を配置して、円管21内に磁場を発生させると、磁性砥粒1の表面が磁場の方向と平行になると共に、磁性砥粒1の周縁部が円管21の内壁にくっつくので、磁性砥粒1の周縁部2によって被加工物の表面をより精密に研磨することが可能となる。
【0022】
また、本発明の磁性砥粒1は、扁平状に形成されていることにより、例えば断面略円形の粒状に形成されている場合に比して大きい体積を有したままで、例えば被加工物の微小な溝等の細部に容易に入り込むことができ、より精密な表面加工を行うことができることになる。
【0023】
また、磁性砥粒1には、図2に示すように、磁性砥粒全量基準で研磨粒子5が70重量%以下含有されていてもよい。研磨粒子5としては、研磨粒子として利用可能な各種の無機粒子や化合物(酸化物、炭化物、窒化物等)粒子を用いることができ、例えばダイヤモンド粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子及び炭化ケイ素粒子等を挙げることができる。研磨粒子5の形状は、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定され、例えば、球形状(真球形状も含む)、多角形状、針状等の各種の形状が挙げられる。研磨粒子5の粒径についても、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定される。
【0024】
研磨粒子5の含有量は、磁性砥粒全量基準で70重量%以下であることが好ましいが、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定することが望ましい。例えば、研磨粒子5の含有量を前記の範囲内で多くすることにより、研磨性能を向上させることができる。一方、研磨粒子の含有量を前記の範囲内で少なめにすることにより、研磨効率を抑えて徐々に研磨を進行させ、精密な加工を行うことができる。
【0025】
磁性砥粒1に含有されている研磨粒子5のうち、少なくとも磁性砥粒1の周縁部2の近傍に取り込まれた研磨粒子5の一部が磁性砥粒1の周縁部2から突出していることが望ましい。そうした態様となっていることにより、加工初期においても十分な研磨機能を発揮することが可能となる。なお、磁性砥粒1の周縁部2の近傍に取り込まれた研磨粒子5の一部が磁性砥粒1の周縁部表面から突出していない場合であっても、加工中に磁性砥粒1の周縁部の表層が摩耗して研磨粒子5が露出するので、前記の態様の場合と同様の効果を得ることができる。
【0026】
(磁性砥粒の製造方法)
次に、本発明の磁性砥粒の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の磁性砥粒の製造方法は、磁気研磨方法で利用される磁性砥粒、特に、前述した本発明の磁性砥粒を製造するための方法として好適なものである。本発明の磁性砥粒の製造方法は、磁性を有する磁性薄膜を切断、粉砕又は鍛造して、扁平度が1.5以上の扁平状の磁性砥粒を形成することを特徴とする。
【0028】
磁性を有する磁性薄膜は、前記の磁性砥粒1を形成する材料、例えばニッケル又はニッケル合金などのニッケル系金属、コバルト、コバルト合金などのコバルト系金属などで形成されていることが好ましい。磁性薄膜は、例えばニッケル系金属やコバルト系金属などの磁性材料で形成されていればどのようなものでもよく、金属片であってもよいし、圧延により形成されたものでもよいし、また、めっき例えば電鋳法により形成されたものでもよい。電鋳法は、電気めっき法や、無電解めっき法などの化学めっき法を利用した方法である。
【0029】
次に、電鋳法を用いて磁性薄膜を形成する場合について説明する。電鋳法は、まず母型に電気めっき法、又は無電解めっき法により磁性薄膜を形成した後、この磁性薄膜を母型から剥離して磁性薄膜を得る方法である。電鋳法に用いるめっき浴としては、例えばニッケル系金属の場合、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸を主成分とするワット浴や、スルファミン酸めっき浴を用いることが好ましい。コバルト系金属の場合は、硫酸コバルト及び塩化コバルトを主成分とするコバルトめっき浴を用いることが好ましい。
【0030】
なお、磁性砥粒に研磨粒子を含有させる場合には、めっき浴に研磨粒子を所定量入れて攪拌してめっき浴を調製するようにする。この場合、磁性砥粒となる磁性薄膜中に研磨粒子を均一に分散させることができるように、機械攪拌、エア等のガス攪拌、超音波ホモジナイザー等による超音波攪拌等の攪拌手段を用いることが好ましい。こうした手段によって磁性砥粒となる磁性薄膜中に研磨粒子を均一に分散させることができるので、研磨粒子の含有量を調整することができる。その結果、研磨粒子の含有量を調整することにより、磁性砥粒の機械特性や磁気特性を調整することができることになる。
【0031】
母型は、磁性薄膜が形成される面が平面上に形成されていれるもの、例えば板状に形成されているものが好ましい。母型の材質は、例えば、鉄、ステンレス、銅及び銅合金、アルミ及びアルミ合金、亜鉛、鉛等の金属、エポキシ樹脂、油脂、各種プラスチック、石膏、ガラス、ゴム、セラミック、皮革等の非金属が挙げられる。母型はその材質を限定することなく磁性薄膜を形成することができる。
【0032】
また、母型として板状のものを用いる場合について説明したが、母型としてドラムを用いてもよい。この場合において、ドラムをゆっくり回転させると共に、ドラムの一部を例えばニッケルめっき浴に浸漬させてドラムの一部にめっきを行って磁性薄膜を形成し、この形成された磁性薄膜を連続的にドラムから剥離して、帯状の磁性薄膜を形成するようにしてもよい。
【0033】
磁性薄膜の厚さは、切断、粉砕又は鍛造により磁性粉末1を形成することができる範囲から任意に選定される。例えば、切断により磁性粉末1を形成する場合には、磁性薄膜の厚さが磁性粉末1の厚さとなるので、磁性薄膜の厚さは、所望の磁性粉末1の厚さと同じである。また、粉砕により磁性粉末1を形成する場合も、磁性薄膜の厚さが磁性粉末1の厚さとなるので、磁性薄膜の厚さは、所望の磁性粉末1の厚さと同じである。また、鍛造により磁性粉末1を形成する場合には、磁性薄膜の厚さは、所望の磁性粉末1の厚さより厚い範囲から選定される。磁性薄膜の厚さは、一概には決められないが、例えば100μm~200μmの範囲であることが好ましい。磁性薄膜の厚さが100μm未満であると、粉砕や鍛造等の工程が簡略化されるため、十分に加工硬化した硬質な磁性砥粒を得ることができなくなることがある。一方、磁性薄膜の厚さが200μmを超えると、例えば磁性薄膜の厚さを30μm以下にするための粉砕や鍛造等の工程が複雑になり、製造できなくなることがある。
【0034】
このような磁性薄膜を切断、粉砕又は鍛造して、扁平度が1.5以上の扁平状の磁性砥粒が形成される。切断を行う手段としては、磁性薄膜を細かくして扁平状の磁性砥粒を形成できれば特に限定されず、例えば、切断刃等が挙げられる。粉砕を行う手段としては、磁性薄膜を細かくして扁平状の磁性砥粒を形成できれば特に限定されず、例えば、ボールミル等のミル、シュレッダー等が挙げられる。鍛造は、磁性薄膜を打撃や加圧等することにより、扁平状の磁性砥粒を形成するものである。鍛造は、例えば、図4に示すように、容器10内に所定量の磁性薄膜11を入れてこれら磁性薄膜11を棒状の押し潰し部材12で容器10の底壁等に押しつけて、扁平状の磁性砥粒を形成するようにしてもよい。これら切断、粉砕及び鍛造のうち鍛造により本発明の磁性砥粒1を形成することが好ましい。これは、鍛造により扁平状の磁性砥粒1を形成すると、形成された磁性砥粒1が磁気異方性を有し易くなるからである。なお、扁平状の磁性砥粒1に磁気異方性を付与することができれば、鍛造に限定されず、プレス等により扁平状の磁性砥粒1を形成するようにしてもよい。
【0035】
このように、磁性薄膜を切断、粉砕又は鍛造することにより、容易に扁平度が1.5以上の扁平状の磁性砥粒を形成することができる。
【0036】
(磁気研磨方法)
本発明の磁気研磨法は、前記の本発明の磁性砥粒1を用いて被加工物の表面を研磨することを特徴とする。本発明の磁性砥粒1は、各種被加工物の精密加工への適用が期待でき、例えば、管の内面の研磨に利用することができる。この本発明の磁気研磨法を実施するための磁気研磨装置の一例が図5に示されている。
【0037】
この磁気研磨装置は、図5に示すように、被加工物である円管21をその周方向に回転可能に支持する管支持部(図示せず)と、円管21の外部に配置された磁極22とから主に構成されている。磁極22は、例えば、その周方向に略90°間隔で4個、ヨーク23を介して配置されている。これら磁極22が配置されているヨーク23は、円管21の軸方向に往復移動(例えば振幅)可能に設けられ、これにより磁極22が円管21の軸方向に振幅されるようになっている。磁極22は、円管21内に磁場を発生させることができればどのようなものでもよく、永久磁石でも電磁石でもよい。また、磁極22の個数及び配置もどのようなものでもよい。円管21の内部に本発明の磁性砥粒1が入れられ、入れられた磁性砥粒1は円管21内に発生した磁場によって円管21の内壁にくっつく。すなわち、磁性砥粒1が円管21の内壁を押圧して押圧力が発生する。
【0038】
この状態のまま、円管21をその周方向に回転させると、磁性砥粒1は円管21の内面との間に相対運動を行い、磁性砥粒1が例えば電気ブラシとして作用してその内面が研磨加工される。なお、円管21を回転させて研磨加工を行う場合について説明したが、円管21を固定して磁極22を回転させて研磨加工を行うようにしてもよく、また、円管21と磁極22の両方を回転させて研磨加工を行うようにしてもよい。
【0039】
このように、円管21の内面が研磨加工されるとき、本発明の磁性砥粒1は、扁平状に形成されているために被加工物である円管21の内面に対する摩擦力及び破壊力が小さいので、内面を必要以上に深く削ることがなく、より精密な表面加工を行うことができる。
【0040】
本発明の磁気研磨法は、円管の内面を研磨加工する場合に限定されず、本発明の磁性砥粒及び磁気研磨法の機能を発揮できる各種の用途に広く適用可能である。例えば、本発明の磁気研磨法の他の使用例として、ハードディスク装置のハードディスク基板表面のテクスチャ加工への応用が期待できる。また、半導体基板に銅配線を形成するダマシン工程で使用される化学的機械的研磨(CMP)の代替工程としての応用が期待できる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0042】
(実施例1)
縦100mm×横100mm×厚さ10mmのステンレス鋼製の母型を用意した。また、硫酸ニッケル1~2mol/L(リットル。以下同じ。)、塩化ニッケル0.1~0.2mol/L、ホウ酸0.4~0.5mol/L、光沢剤及び平滑剤を含むワット浴を、硫酸を用いてpH3~5に調整した。このワット浴に前記の母型を浸漬して、めっき液の温度を55℃として、エア攪拌しながら電気めっきを120分間行って、母型の表面上に100μm厚のニッケルの磁性薄膜を形成した。形成した磁性薄膜を母型から剥離した。
【0043】
次に、剥離した磁性薄膜を切断刃を用いて縦10mm×横1mm×厚さ100μm程度に切断して細かくした。これら細かくした磁性薄膜を図4に示すように容器10内に入れて棒状の押し潰し部材12で容器10の底壁等に押しつけて鍛造し、厚さ10μm~30μmの本発明の磁性砥粒1を形成した。この形成した本発明の磁性砥粒1の扁平度は、4~30であった。この本発明の磁性砥粒1を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、その観察結果を図6に示した。図6(a)は倍率が100倍の図である。
【0044】
このようにして形成した磁性砥粒1を用いて、ステンレス鋼円管(外径20mm、内径18mmSUS304ステンレス鋼(BA管))内面の磁気研磨を行い、その研磨性能を評価した。磁極としては、Nd-Fe-B希土類永久磁石をステンレス鋼円管の外周にその周方向に90°間隔で4個配置した。永久磁石によりステンレス鋼円管内に与えられる磁場は、3600ガウスであった。磁性砥粒を1.0g、ステンレス鋼円管内に入れて、このステンレス鋼円管を1800rpmで回転させると共に、磁極を5cmの振幅、振幅数0.8Hzで振動させて、5分間及び10分間の内面加工を行った。
【0045】
加工後、研磨量(M)及びステンレス鋼円管内面の表面粗さを測定した。表面粗さは、JISB0601-2001(ISO4287-1997準拠)に基づき粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz)について触針式表面粗さ測定機にて測定した。その結果を図7及び図8に示した。なお、研磨量は重量減少量ということがある。また、10分間の加工を行った後のステンレス鋼円管内面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて700倍の倍率で観察した。この観察結果を図9に示した。図9(a)と図9(b)は異なる2箇所を示した図である。なお、図10は加工前のステンレス鋼円管の内面を示した図である。
【0046】
(比較例1)
また、比較のために、市販されている磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80)を使用して前述の実施例1と同様にしてステンレス鋼円管の内面加工を行った。加工後、研磨量(M)及びステンレス鋼円管内面の表面粗さを測定した。表面粗さは、JISB0601-2001(ISO4287-1997準拠)に基づき粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz)について触針式表面粗さ測定機にて測定した。その結果を図7及び図8に示した。また、実施例1と同様に10分間の加工を行った後のステンレス鋼円管内面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて700倍の倍率で観察し、その結果を図11に示した。
【0047】
図7~図11の結果から明らかなように、本発明の磁性砥粒(E-02と併記することもある。)1を用いた実施例1の場合は、研磨量(M)が少なく極めて平滑な表面となっていた。これに対して市販されている磁性砥粒(KMX-80)を用いた比較例1の場合は、研磨量(M)が多く、表面が研磨前より粗くなっていた。なお、図11(b)は平滑な表面と見えるが、必要以上に被加工物の表面が一方向に研磨されていた。すなわち、図11(b)において加工方向となる縦方向に延びる凹凸が形成され、表面が研磨前より粗くなっていた。
【0048】
(実施例2)
実施例1で形成した磁性砥粒(E-02)と平均粒径が330μmの鉄粉(電解Fe)を用いて、実施例1と同様にしてステンレス鋼円管の内面加工を行った。ステンレス鋼円管内には、磁性砥粒(E-02)を0.2g、鉄粉(電解Fe)を0.8g入れた。加工時間(t)5分後、10分後、15分後、20分後の研磨量(M)及びステンレス鋼円管内面の表面粗さを測定した。表面粗さは、JISB0601-2001(ISO4287-1997準拠)に基づき粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz)について触針式表面粗さ測定機にて測定した。その結果を図12及び図13に示した。
【0049】
(比較例2)
比較例1で用いた磁性砥粒(KMX-80)と平均粒径が330μmの鉄粉(電解Fe)を用いて、実施例1と同様にしてステンレス鋼円管の内面加工を行った。ステンレス鋼円管内には、磁性砥粒(KMX-80)を0.2g、鉄粉(電解Fe)を0.8g入れた。加工時間(t)5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後の研磨量(重量減少量)及びステンレス鋼円管内面の表面粗さを測定した。表面粗さは、JISB0601-2001(ISO4287-1997準拠)に基づき粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz)について触針式表面粗さ測定機にて測定した。その結果を図12及び図13に示した。
【0050】
図12及び図13の結果から明らかなように、本発明の磁性砥粒(E-02)1を用いた実施例2の場合は、5分間の短時間で十分に研磨を行え極めて平滑な表面となった。これに対して磁性砥粒(KMX-80)を用いた比較例2の場合は、加工に時間がかかり、例えば、実施例2の5分間で加工して得られた表面粗さと略同様の表面粗さを得るには、20分間以上加工を行わなければならなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の磁性砥粒の一例を示す図で、(a)は平面図で、(b)立面図である。
【図2】本発明の磁性砥粒の他の例を示す図で、(a)は平面図で、(b)立面図である。
【図3】本発明の磁性砥粒を磁場内に置いた状態を示す概略断面図である。
【図4】粉砕及び鍛造の一例を説明するための概略断面図である。
【図5】磁気研磨装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の磁性砥粒の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真である。
【図7】加工時間(t)と算術平均高さ(Ra)及び研磨量(M)との関係を示す図である。
【図8】加工時間(t)と最大高さ(Rz)及び研磨量(M)との関係を示す図である。
【図9】本発明の磁性砥粒で加工したステンレス鋼円管の内面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真である。
【図10】加工する前のステンレス鋼円管の内面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真である。
【図11】市販の磁性砥粒(KMX-80)で加工したステンレス鋼円管の内面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真である。
【図12】加工時間(t)と算術平均高さ(Ra)及び研磨量(M)との関係を示す図である。
【図13】加工時間(t)と最大高さ(Rz)及び研磨量(M)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 磁性砥粒
2 周縁部
5 研磨粒子
10 容器
11 磁性薄膜
12 押し潰し部材
21 円管
22 磁極
23 ヨーク
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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