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明細書 :磁性砥粒及び磁気研磨法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4478795号 (P4478795)
公開番号 特開2006-015468 (P2006-015468A)
登録日 平成22年3月26日(2010.3.26)
発行日 平成22年6月9日(2010.6.9)
公開日 平成18年1月19日(2006.1.19)
発明の名称または考案の名称 磁性砥粒及び磁気研磨法
国際特許分類 B24B  37/00        (2006.01)
B24B  31/112       (2006.01)
C09K   3/14        (2006.01)
FI B24B 37/00 H
B24B 37/00 D
B24B 31/112
C09K 3/14 550E
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2004-197683 (P2004-197683)
出願日 平成16年7月5日(2004.7.5)
審査請求日 平成19年5月25日(2007.5.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591100563
【氏名又は名称】栃木県
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】齋藤 哲男
【氏名】小池 勝美
【氏名】大和 弘之
【氏名】山口 ひとみ
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】金本 誠夫
参考文献・文献 特開2005-324281(JP,A)
特開昭62-136361(JP,A)
調査した分野 B24B 21/00-39/06
B24D 3/00-18/00
C09K 3/14
B22F 1/00- 8/00
B22F 9/00- 9/30
C22C 1/04- 1/05,33/02
特許請求の範囲 【請求項1】
ガスアトマイズ法で製造された磁気研磨用の真球形状の鋼材粒子であって、該粒子の金属組織が、焼き戻しされた焼き戻しマルテンサイト組織、及び、フェライト組織とパーライト組織、のいずれかであることを特徴とする磁性砥粒。
【請求項2】
前記粒子の粒径が、0.10μm~500μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の磁性砥粒。
【請求項3】
ガスアトマイズ法で製造された磁気研磨用の真球形状の鋼材粒子であって、該粒子の金属組織が、焼き戻しされた焼き戻しマルテンサイト組織、及び、フェライト組織とパーライト組織、のいずれかである磁性砥粒を用いて被加工物を研磨することを特徴とする磁気研磨法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性砥粒及び磁気研磨法に関し、更に詳しくは、より精密な表面研磨を行える磁性砥粒及びその磁性砥粒を用いた磁気研磨法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気研磨法は、研磨作用を有する磁性粒子(磁性砥粒という。)を磁場の作用により運動させて被加工物の表面を研磨する精密加工方法である。この磁気研磨法は、従来の機械加工では困難な部品表面の研磨を可能にする方法であり、例えば、複雑形状を有する部品の表面、工具が入らない穴の内面、工具が届かない管の内面等の研磨について一部実用化されている。
【0003】
磁気研磨法で利用される磁性砥粒は、磁場の作用により被加工物に押しつけられると共に被加工物との間で相対運動する。磁気研磨法で利用される従来公知の磁性砥粒として、磁性を有する研磨粒子である磁性砥粒や、磁性を有しない汎用の研磨粒子と磁性を有するが研磨性能は十分でない磁性粒子との混合物からなる磁性砥粒(混合砥粒ともいう。)が知られている。前者の場合は、磁場の作用により研磨粒子自体が運動して被加工物の表面を研磨するが、後者(混合砥粒)の場合は、磁場の作用により運動するのは磁性粒子であり、研磨粒子は磁性粒子の運動に伴って運動して被加工物の表面を研磨する。この後者の混合砥粒においては、磁性を有さない研磨粒子が磁性粒子の運動に伴って十分に運動しないことがあり、研磨性能が不安定になることがある。
【0004】
一方、前者の磁性砥粒は、特に精密研磨に対しては混合砥粒よりも原理的に優れると考えられており、現在までに知られている磁性砥粒としては、例えば、磁性粒子の表面に研磨微粒子を含有した無電解めっき皮膜を形成した磁性砥粒(例えば特許文献1を参照。)や、焼結等の方法で磁性粒子と研磨粒子とを一体化させた磁性砥粒等が報告されている。しかし、こうした磁性砥粒は、国内では1種類の磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80)のみが市販されているのが現状である。なお、その市販の研磨砥粒は、鉄と酸化アルミニウムとを構成成分とし、その外観は、図12に示すような凸凹表面を有している。

【特許文献1】特開2002-265933号公報(請求項3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国内で唯一市販されている前述の磁性砥粒を用いて磁気研磨を行った場合、研磨前後の被加工物の重量差で換算される研磨量は比較的大きな値を示し、それ相応の研磨性能を有することが確認された。しかしながら、研磨前後の被加工物の表面粗さを測定して比較したところ、表面粗さはあまり変化しておらず、鏡面となるような精密研磨を被加工物の表面に施すための研磨砥粒としては十分ではなかった。また、この磁性砥粒は、研磨面に付着し易い成分(酸化アルミニウム)を含むという難点もある。
【0006】
また、近年、次世代半導体や医療分野の製造プロセス等に用いられるスーパークリーンパイプ等のように、小さな表面粗さが要求される製品には、高精度の表面研磨が要求されている。しかし、現状の磁性砥粒では、鏡面となるような精密研磨を被加工物の表面に施すことは難しく、さらに、磁性砥粒の凹凸表面がパイプ内のような微小空間でのスムーズな相対移動を妨げるという問題があり、依然として上記の要求を十分に満たすことはできていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、より精密な表面研磨を行える磁性砥粒を提供することにある。また、本発明の他の目的は、その磁性砥粒を用いた磁気研磨法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の磁性砥粒は、ガスアトマイズ法で製造された磁気研磨用の磁性粒子であることを特徴とする。
【0009】
ガスアトマイズ法は所望の組成からなる粒子を容易に製造できるので、ガスアトマイズ法で製造された本発明の磁性砥粒は、その成分を調整することにより任意の磁気特性や硬さを有することができる。その結果、研磨能力に優れ且つ精密研磨可能な磁気研磨用の磁性砥粒として用いることができる。また、本発明の磁性砥粒はガスアトマイズ法で製造されているので、その形状は真球若しくは略真球となっている。こうした形状からなる磁性砥粒は、磁気研磨において、例えば小さな表面粗さが要求される高精度の表面研磨用の磁性砥粒として用いることができると共に、例えばパイプ内のような微小空間でのスムーズな相対移動を実現する磁性砥粒として用いることができる。
【0010】
上記本発明の磁性砥粒においては、前記磁性粒子が、硬化相及び/又は硬化析出物を有することが好ましい。本発明の磁性砥粒はガスアトマイズ法で製造されているので、製造時に準備する原料粉末の組成を調整すると共に製造後に任意の熱処理や硬化処理等を施すことにより、極めて容易に所望の硬化相や硬化析出物を有する砥粒となる。その結果、研磨能力に優れ且つ精密研磨可能な磁気研磨用の磁性砥粒として用いることができる。
【0011】
上記本発明の他の目的の磁性砥粒においては、前記磁性粒子の粒径が、0.10μm~500μmの範囲内であることが好ましい。本発明の磁性砥粒はガスアトマイズ法で製造されているので、平均粒径が0.10μm~500μmの範囲内の真球又は略真球からなる磁性砥粒を容易に提供することができる。その結果、本発明の磁性砥粒は、被加工物を所望の精度で研磨可能な磁気研磨用の砥粒として好ましく用いられる。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の磁気研磨法は、上述した本発明の磁性砥粒を用いて被加工物を研磨することを特徴とする。この発明によれば、上記本発明の磁性砥粒を用いて磁気研磨を行うので、例えば小さな表面粗さが要求される高精度の表面研磨を行うことができると共に、例えばパイプ内のような微小空間でのスムーズな相対移動を実現する磁気研磨を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、ガスアトマイズ法で製造された本発明の磁性砥粒はその成分を調整することにより任意の磁気特性や硬さを有するので、研磨能力に優れ且つ精密研磨可能な磁気研磨用の磁性砥粒として用いることができる。また、その形状が真球若しくは略真球であるので、例えば小さな表面粗さが要求される高精度の表面研磨用の磁性砥粒として用いることができると共に、例えばパイプ内のような微小空間でのスムーズな相対移動を実現する磁性砥粒として用いることができる。
【0014】
また、本発明の磁気研磨法は、ガスアトマイズ法で製造された本発明の磁性砥粒を用いて被加工物を研磨するので、高精度の表面研磨を行うことができると共に微小空間でのスムーズな相対移動を実現する磁気研磨を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の磁性砥粒及び本発明の磁気研磨法について図面に基づいて詳しく説明する。
【0016】
(磁性砥粒)
本発明の磁性砥粒1は、磁気研磨法で使用される研磨作用を有した磁性粒子であり、その性質上少なくとも印加磁場内で磁気を帯び、磁場の変動ないし移動に追従して移動することができる磁性粒子である。本発明は、こうした磁性砥粒1がガスアトマイズ法で製造されたものであることに特徴がある。
【0017】
ガスアトマイズ法(gas atomization)は、ガス噴霧法とも呼ばれ、ガスジェットによって融体を粉化する粉末製造法である。図1は、本発明の磁性砥粒を製造するためのガスアトマイズ法の原理図であり、図2は、ガスアトマイズ法で本発明の磁性砥粒を製造する粉末製造装置の一例を示す概略図である。
【0018】
ガスアトマイズ法の原理は、例えば図1に示すように、るつぼ11中で溶融した溶湯12をるつぼ底部の細孔13から流下させて細流14とし、その細流14に向かって高圧のジェットガス流15を噴射ノズル16から噴射することにより、粉化・急冷させて、球状の粉末17を極めて高速で作製する方法である。
【0019】
ガスアトマイズ法による粉末製造装置21は、例えば図2に示すように、ガスアトマイズ粉が製造される噴射室22と、溶融るつぼ26に高周波電流を供給する高周波電源23と、装置全体を制御する制御盤24とを有している。本願では各部の詳しい説明は周知技術及び公知技術に委ねて省略するが、噴射室22は、噴射ノズルを内部に有する装置本体部をなしており、その噴射ノズルがるつぼ底部の細孔から流下した細流に向かって高圧のジェットガス流を噴射することにより、球状のガスアトマイズ粉が製造される。噴射室22の側面の上部には覗き窓29が設けられ、ジェットガス流が細流に衝突する状態を観察できるようになっている。噴射室22の上部には、真空溶解を可能にさせる真空室25と、その真空室25内に設けられた溶融るつぼ26と、その溶融るつぼ26の周りに設けられて溶融るつぼ内に投入された原料を誘導加熱するための誘導コイル27とからなる溶融装置が備えられている。また、溶湯ストッパー28は、溶湯温度を測定する熱電対を備えており、溶湯温度の制御及び設定温度に達した時にストッパーを開き溶湯を自動落下させる目的で設けられている。噴射室22の下部には、製造されたガスアトマイズ粉を回収する回収室30が設けられ、その回収室30は、超微細粉を回収するために設けられたサイクロン31に連結し、さらにサイクロン31の上部には噴射されたガスを排出するガス排出口32が設けられている。なお、符号33は、真空ポンプへの配管である。
【0020】
なお、本発明の磁性砥粒を製造するためのガスアトマイズ法及ガスアトマイズ粉製造装置は、本願で開示した上記態様に限られず、本願出願時に知られている各種のガスアトマイズ法及ガスアトマイズ粉製造装置を適用することができる。
【0021】
図3は、上述したガスアトマイズ法で製造された本発明の磁性砥粒の一例を示す拡大写真である。
【0022】
従来、ガスアトマイズ法でされる粉末は、主として粉末冶金用の焼結原料として用いられている。また、一部には、金属射出成形用の成形原料として用いられたり、各種合金製造時の添加用の成分原料として用いられたりしている。また、溶射用の原料として用いられることもある。すなわち、ガスアトマイズ法で製造された粉末の従来からの用途は、ガスアトマイズ法が融点の高い成分を粉末状にすることができるという利点を生かし、主に原料としての用途に用いられてきた。
【0023】
本発明者らは、従来とは異なる観点から新規磁性砥粒について鋭意研究した結果、ガスアトマイズ法で磁性粒子を製造し、その磁性粒子を磁気研磨用の磁性砥粒として本発明を完成させた。
【0024】
本発明の磁性砥粒は、球状であり、実際には真球又は略真球である。この形状は、ガスアトマイズ法で製造される粉末特有の形状であり、他の粉末製造手段では製造し難い形状である。従来からの磁性砥粒は、研磨作用を向上させることができる鋭利な部分を形成したり、硬質微粒子を複合(コンポジット)させたりすることが行われてきたが、本発明の磁性砥粒はそれとは相反し、鋭利な部分を有さない真球又は略真球の磁性砥粒(以下、球状の磁性砥粒を略す。)である。
【0025】
球状の磁性砥粒は、磁場の変化に追従してよく流れるので、例えば細管内で粒子同士がくっついて詰まるようなことがなく、微小空間でのスムーズな相対移動を実現することができる。その結果、被加工物の表面を小さな磁性砥粒がまんべんなく研磨することになるので、極めて精密な研磨加工を実現できる。なお、磁性砥粒の形状については、ガスアトマイズ法で製造される程度の真球又は略真球であればよい。
【0026】
また、本発明は、磁気研磨用の砥粒として各種の粒径の磁性砥粒、例えば、0.1μm~500μmの範囲内の磁性砥粒を提供できる。ガスアトマイズ法では、種々の平均粒径からなる磁性砥粒を製造できる。平均粒径は、図1示す細流14の径、噴射ノズル15の先端径、ガス流量等を変化させることにより調整できる。製造された磁性砥粒には、粒径の異なるものが含まれているが、必要に応じて篩い分け(分級)することにより、所望の粒径範囲をもつ磁性砥粒を磁気研磨用の砥粒として提供できる。
【0027】
粒径の揃った磁性砥粒を容易に提供できるのは、本発明の磁性砥粒がガスアトマイズ法で製造されたことによる。そして、本発明の磁性砥粒は、被加工物の硬さや材質に応じて、また、微小空間、平面、パイプ内面等の加工部位に応じて、その粒径の範囲を任意に調整することができる。
【0028】
また、本発明は、所望の磁気特性を有する限りにおいて各種の組成の磁性砥粒を提供できる。ガスアトマイズ法では、上述したように各種の成分原料をるつぼ中で誘導加熱等により溶解できるので、本発明の磁性砥粒に要求される所望の磁気特性を備えた合金粉末を製造できる。例えば、後述の実施例で例示するような、飽和磁束密度の高い鋼材等を製造できる。好ましい磁気特性は、磁気研磨で使用される磁場の強さ、被加工物の種類や特性、磁性砥粒の粒径や硬度等、磁気研磨装置、被加工物及び磁性砥粒の3つの要素を考慮して選択される。なお、所望の磁気特性を有する各種の組成の磁性砥粒を容易に提供できるのは、本発明の磁性砥粒がガスアトマイズ法で製造されたことによる。
【0029】
また、本発明は、上記の磁気特性に加え、所望の硬さの磁性砥粒を提供できる。前記同様、ガスアトマイズ法では、各種の成分原料をるつぼ中で誘導加熱等により溶解できるので、本発明の磁性砥粒に要求される所望の硬さを備えた合金粉末を製造できる。例えば、後述の実施例で例示するような、ビッカース硬さが450Hv程度の鋼材等を製造できる。好ましい硬さは、磁気研磨で使用される磁場の強さ、被加工物の種類や特性、磁性砥粒の粒径や磁気特性等、磁気研磨装置、被加工物及び磁性砥粒の3つの要素を考慮して選択される。なお、所望の硬さを有する各種の組成の磁性砥粒を容易に提供できるのは、本発明の磁性砥粒がガスアトマイズ法で製造されたことによる。
【0030】
また、本発明の磁性砥粒は、(i)ガスアトマイズ法で製造されたままの磁性砥粒であってもよいし、(ii)ガスアトマイズ法で製造された粒子に熱処理を施して所望の金属組織に変化させた磁性砥粒であってもよいし、(iii)ガスアトマイズ法で製造された粒子に硬化処理を施して所望の硬さを付与した磁性砥粒であってもよい。
【0031】
上記(ii)における熱処理としては、低温焼き鈍しや高温焼き鈍し等の焼き戻し処理(テンパー処理)、各種の焼入れ処理等を挙げることができる。これらの処理により金属組織等を変化させ、靱性を付与したり、硬化析出物(二次析出物)を形成したり、硬化相(硬化組織)を形成したり、耐摩耗性を向上させたりすることができる。上記(iii)における硬化処理としては、浸炭、窒化、酸化、高周波焼入れ、炎焼入れ、レーザー焼入れ、アーク放電焼入れ等を挙げることができる。これらの硬化処理により金属組織等を変化させ、所望の硬さを付与することができる。
【0032】
図4~図6は、ガスアトマイズ法で製造された磁性砥粒の金属組織の例を示す断面写真である。この磁性砥粒は、後述する実施例1と同じもの(C:0.3%、V:1.1%、Si:0.3%、Mn:0.4%を含有する鋼材。%は質量%である。)である。それぞれの断面を研磨した後にエッチングして表れた組織を観察したものである。図4の磁性砥粒は焼入れされたマルテンサイト組織を有しており、図5に示す磁性砥粒は焼き戻しされた焼き戻しマルテンサイト組織を有しており、図6に示す磁性砥粒はフェライト組織とパーライト組織とを有している。
【0033】
また、本発明では、原料組成を調整することにより、耐食性に優れた磁性砥粒とすることも可能である。
【0034】
以上説明した本発明の磁性砥粒は、従来の磁性砥粒にはない優れた性能を有しており、高性能な特性が要求される精密電子機器部品等の超精密加工技術の向上に貢献できる。
【0035】
(混合砥粒としての応用)
本発明の磁性砥粒は、研磨対象である被加工物の種類に応じて、混合砥粒として使用することも可能である。すなわち、本発明の磁性砥粒と、従来公知の各種の無機粒子や化合物(酸化物、炭化物、窒化物等)粒子等の研磨粒子とを混合させた混合砥粒として用いることができる。混合砥粒とする場合の磁性砥粒と研磨粒子との配合割合は、被加工物や研磨状況に応じて任意に設定される。
【0036】
研磨粒子としては、研磨粒子として利用可能な各種の粒子を用いることができ、例えばダイヤモンド粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子及び炭化ケイ素粒子等を挙げることができる。研磨粒子の形状は、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定され、例えば、球形状(真球形状も含む)、多角形状、針状等の各種の形状が挙げられる。研磨粒子の粒径についても、加工対象である被加工物の材質や形状及びその被加工物への加工目的等に応じて適宜選定される。
【0037】
(磁気研磨法)
本発明の磁気研磨法は、上述した本発明の磁性砥粒を用いて被加工物の表面を研磨することを特徴とする。本発明の磁性砥粒は、各種被加工物の精密加工への適用が期待でき、例えば、次世代半導体や医療分野の製造プロセス等に用いられるスーパークリーンパイプ等のように、小さな表面粗さが要求される製品やパイプ内のような微小空間の高精度の研磨が要求される製品等の研磨に有効である。
【0038】
図7は、本発明の磁気研磨法を実施するための磁気研磨装置の一例である。この磁気研磨装置は、被加工物である円管71をその周方向に回転可能に支持する管支持部(図示せず)と、円管71の外部に配置された磁極72とから主に構成されている。
【0039】
磁極72は、例えば、その周方向に略90°間隔で4個、ヨーク73を介して配置されている。磁極72が配置されたヨーク73は、円管71の軸方向に往復運動(例えば振幅)可能に設けられている。ヨーク73が円管71の軸方向に往復運動することにより、磁極72が円管71の軸方向に振幅することになる。磁極72は、円管71内に磁場を与えるものであり、永久磁石や電磁石が使用される。また、磁極72の個数及び配置も任意に設定される。円管71の内部に入れられた磁性砥粒70は、円管71内に付与された磁場で円管71の内壁に引き寄せられる。この力が磁気研磨での加工力となり、磁性砥粒が円管71の内壁を押圧して押圧力が発生する。
【0040】
この状態で円管71をその周方向に回転させると、磁性砥粒70は円管71の内面との間で相対運動し、円管内面が研磨される。なお、円管71を回転させて研磨加工を行う場合について説明したが、円管71を固定して磁極72を回転させて研磨加工を行ってもよいし、円管71と磁極72の両方を回転させて研磨加工を行ってもよい。
【0041】
この磁気研磨法で円管内面が研磨加工されるとき、真球形状からなる本発明の磁性砥粒70は、被加工物である円管71の内面に接触する接点が微小であり且つ接触する部位が滑らかな球面となっているので、内面を必要以上に深く削ることがなく、表面粗さを小さくするより精密な表面加工を行うことができる。
【0042】
本発明の磁気研磨法は円管の内面を研磨加工する場合に限定されず、本発明の磁性砥粒及び磁気研磨法の機能を発揮できる各種の用途に広く適用可能である。一例としては、既述したように、次世代半導体や医療分野の製造プロセス等に用いられるスーパークリーンパイプの内面等の研磨加工や、ハードディスク装置のハードディスク基板表面のテクスチャ加工への応用が期待できる。また、半導体基板に銅配線を形成するダマシン工程で使用される化学的機械的研磨(CMP)の代替工程としての応用が期待できる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明の磁性砥粒を更に具体的に説明する。本発明の磁性砥粒は、以下の実施例に限定されない。なお、%は質量%である。
【0044】
(実施例1)
ガスアトマイズ粉末製造装置(日新技研株式会社製、型式:NEVA-GP2T)を用い、るつぼ中にC:0.3%、V:1.1%、Si:0.3%、Mn:0.4%を含有する鋼原料を投入し、溶解温度1700℃で真空溶解を行い、るつぼ底部から流下させた細流に6MPaの圧力に設定したアルゴンガスを噴射させて、ガスアトマイズ粉からなる磁性砥粒を作製した。作製した磁性砥粒の外観(倍率:1000倍)を図3に示した。得られた磁性砥粒を篩い分けし、粒径が100~200μmの粒子を研磨加工実験用の試料とした。なお、得られた磁性砥粒を約40mg秤量し、その磁性砥粒を振動試料型磁力計(VSM)で測定して得られた飽和磁束密度の平均値は2.2T程度であった。また、得られた磁性砥粒のビッカース硬度は450Hv程度であった。
【0045】
磁気研磨実験は、被加工物として外径20mmで内径18mmのSUS304ステンレス鋼管(BA管)を用い、そのステンレス鋼管内面を研磨対象とした。磁極としてNd-Fe-B希土類永久磁石を用い、図7と同じ配置となるように、ステンレス鋼管の外周でその周方向に90°間隔となるように4個配置した。このとき、永久磁石とステンレス鋼管との距離を1mmとした。永久磁石によりステンレス鋼管内に与えられる磁場は3600ガウスであった。1.0gの磁性砥粒をバレル研磨用の水溶性研磨液0.12mL(バレル研磨用コンパウンド、商品名:ショーレンコンパウンドSCP-23、協和純薬製)と共にステンレス鋼管内に入れ、そのステンレス鋼管を1800rpmで回転させると共に、磁極の振幅を5cm、振幅数を0.8Hzとして振動させ、5分間及び10分間の磁気研磨加工を行った。
【0046】
磁気研磨加工後、研磨量M及びステンレス鋼管内面の表面粗さを測定した。表面粗さは、JIS B 0601-2001(ISO 4287-1997準拠)に基づき粗さ曲線の算術平均高さRa及び最大高さRzについて触針式表面粗さ測定機にて測定した。その結果を図8及び図9に示した。なお、研磨量Mは、研磨前後のステンレス鋼管の重量差から算出したものであり、重量減少量ということがある。
【0047】
(実施例2)
以下の点について変更した以外は実施例1と同様にして実施例2の磁気研磨加工を行った。変更点;(i)被加工物として外径2.0mmで内径1.8mmのSUS304ステンレス鋼管(BA管)を用い、そのステンレス鋼管内面を研磨対象とした。(ii)ステンレス鋼管の回転数を7653rpmとした。(iii)0.02gの磁性砥粒をバレル研磨用の水溶性研磨液0.04mL(バレル研磨用コンパウンドは、実施例1と同じ)と共にステンレス鋼管内に入れた。(iv)永久磁石とステンレス鋼管との距離を0.5mmとした。(v)磁極の振幅を2.5cm、振幅数を0.8Hzとして振動させ、2分間、4分間、6分間及び8分間の磁気研磨加工を行った。
【0048】
磁気研磨加工後、研磨量M及びステンレス鋼管内面の表面粗さを実施例1と同様の方法により測定した。その結果を図10及び図11に示した。
【0049】
(比較例1)
以下の点について変更した以外は実施例1と同様にして比較例1の磁気研磨加工を行った。変更点;被磁性砥粒として市販されている磁性砥粒(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80、平均粒径80μm)を使用した。
【0050】
磁気研磨加工後、研磨量M及びステンレス鋼管内面の表面粗さを実施例1と同様の方法により測定した。その結果を図8及び図9に示した。
【0051】
(評価結果)
図8及び図9の結果から明らかなように、本発明の磁性砥粒を用いた実施例1の結果と、市販の磁性砥粒(KMX-80)を用いた比較例1の結果とを対比すると、研磨量Mは何れも同程度であったが、実施例1では表面粗さ(算術平均高さRa及び最大高さRz)が顕著に小さくなり、10分間の加工後の結果では0.018μmRaの仕上げ面が得られた。この結果より、本発明の磁性砥粒の表面層に析出した金属炭化物やマルテンサイトの硬い組織により加工性能が向上したと考察される。
【0052】
また、図10及び図11の結果から明らかなように、本発明の磁性砥粒を用いた実施例1の磁気研磨加工により、従来の磁性砥粒では研磨加工ができなかった内径1.8mmの内面が0.05μmRaで加工できることが確かめられた。また、細管への磁性砥粒の供給も容易であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の磁性砥粒を製造するためのガスアトマイズ法の原理図である。
【図2】本発明の磁性砥粒をガスアトマイズ法で製造する粉末製造装置の一例を示す概略図である。
【図3】ガスアトマイズ法で製造された本発明の磁性砥粒の一例を示す拡大写真である。
【図4】本発明の磁性砥粒の金属組織の一例を示す拡大写真である。
【図5】本発明の磁性砥粒の金属組織の他の一例を示す拡大写真である。
【図6】本発明の磁性砥粒の金属組織の他の一例を示す拡大写真である。
【図7】磁気研磨装置の一例を示す概略斜視図である。
【図8】外径20mmのステンレス鋼管の磁気研磨における加工時間tと算術平均高さRa及び研磨量Mとの関係を示すグラフである。
【図9】外径20mmのステンレス鋼管の磁気研磨における加工時間tと最大高さRz及び研磨量Mとの関係を示すグラフである。
【図10】外径2mmのステンレス鋼管の磁気研磨における加工時間tと算術平均高さRa及び研磨量Mとの関係を示すグラフである。
【図11】外径2mmのステンレス鋼管の磁気研磨における加工時間tと最大高さRz及び研磨量Mとの関係を示すグラフである。
【図12】市販の磁性砥粒(KMX-80)の外観を示す拡大写真である。
【符号の説明】
【0054】
11 るつぼ
12 溶湯
13 細孔
14 細流
15 ジェットガス流
16 噴射ノズル
17 粉末(ガスアトマイズ粉)
21 粉末製造装置
22 噴霧室
23 高周波電源
24 制御盤
25 真空室
26 溶融るつぼ
27 誘導コイル
28 溶湯ストッパー
29 覗き窓
30 回収室
31 サイクロン
32 排出口
33 真空ポンプへの配管
70 磁性砥粒
71 円管
72 磁極
73 ヨーク
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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