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明細書 :分子マクロクラスターの形成方法と高分子薄膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4863645号 (P4863645)
公開番号 特開2006-312148 (P2006-312148A)
登録日 平成23年11月18日(2011.11.18)
発行日 平成24年1月25日(2012.1.25)
公開日 平成18年11月16日(2006.11.16)
発明の名称または考案の名称 分子マクロクラスターの形成方法と高分子薄膜の製造方法
国際特許分類 B05D   7/24        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
FI B05D 7/24 302Z
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2005-136533 (P2005-136533)
出願日 平成17年5月9日(2005.5.9)
審査請求日 平成20年3月13日(2008.3.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】栗原 和枝
【氏名】遠藤 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】横島 隆裕
参考文献・文献 特開2005-053116(JP,A)
特開2000-143705(JP,A)
特開2001-152363(JP,A)
特開平10-052880(JP,A)
調査した分野 B05D 1/00-7/26
B82B 1/00-3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
固体基板上への分子マクロクラスターの形成方法であって、少なくとも次の手順を含むことを特徴とする分子マクロクラスターの形成方法。
<A>金もしくは金薄膜表面を有する固体基板に次式
HS-R-X
(式中のRは炭化水素鎖を示し、Xは、-OH、-COOH、-CONH2、-CONHR0、-NH2、もしくは-NHR0を示し、R0は炭化水素基を示す。)
で表わされる水素結合性の官能基を持つ化合物を吸着させて表面が水素結合性の官能基で覆われた分子膜を形成し、
<B>非水素結合性の溶媒とアルコール、カルボン酸、カルボン酸アミド、およびアミンから選ばれるいずれかの水素結合性の化合物との溶液を前記分子膜と接触させ、水素結合性の化合物が水素結合で組織化された分子マクロクラスターを形成させる。
【請求項2】
手順<B>での水素結合性の化合物は重合性のモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の分子マクロクラスターの形成方法。
【請求項3】
請求項2の方法により形成した分子マクロクラスターにおける重合性モノマーを重合反応させて高分子薄膜を生成させることを特徴とする高分子薄膜の製造方法。
【請求項4】
重合性のモノマーは光重合性のモノマーであり、分子マクロクラスターに光照射して光重合性モノマーを重合反応させて高分子薄膜を生成させることを特徴とする請求項3に記載の高分子薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、シラノール基や水酸基を有する固体基板に限られることなく、各種固体基板上に水素結合による組織化がなされた分子マクロクラスターを形成する方法とこれを利用した高分子薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜を調製する技術としてスピンキャスト法やLangmuir-Blodgett法などが代表的な方法として知られているが、前者の方法では数十nmのごく薄い薄膜を作るのは難しく、後者では複雑な道具を必要とし、また数十nmの厚みの膜を調製するためには、長時間を必要としている。
【0003】
一方、本願の発明者らは水素結合で組織化した分子マクロクラスター形成を利用する方法を開発し、これによって従来の問題点を解決し、非極性溶媒から水素結合性の分子を固体基板上に吸着させ数十nmの厚みの薄膜を固体基板上に簡便に調製可能としている。たとえば、発明者らは、シクロヘキサン中でのガラス表面における水素結合性アルコールクラスターの形成(非特許文献1)や、アクリル酸の界面クラスターの形成とその場重合における薄膜の調製(特許文献1)をすでに報告している。
【0004】
しかしながら、これまでの発明者らの開発とその検討においては、固体基板としては従来は基板としてシラノール基を有するシリカ表面に限られていた。

【非特許文献1】コロイドおよび界面化学討論会講演要旨集、Vol.55, p.355 (2002年)
【特許文献1】特開2000-143705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記のとおりの背景から、発明者らによって開発された分子マクロクラスター形成の方法の特長を生かし、しかもシラノール基や水酸基を有する固体基板に限られることなく各種の基板上に分子マクロクラスターを簡便、かつ容易に形成することのできる方法と、これを応用発展させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして以下の方法を特徴としている。
【0007】
第1:固体基板上への分子マクロクラスターの形成方法であって、少くとも次の手順を含むこと。
【0008】
<A>金もしくは金薄膜表面を有する固体基板に次式
HS-R-X
(式中のRは炭化水素鎖を示し、Xは、-OH、-COOH、-CONH2、-CONHR0、-NH2、もしくは-NHR0を示し、R0は炭化水素基を示す。)
で表わされる水素結合性の官能基を持つ化合物を吸着させて表面が水素結合性の官能基で覆われた分子膜を形成し、
<B>非水素結合性の溶媒とアルコール、カルボン酸、カルボン酸アミド、およびアミンから選ばれるいずれかの水素結合性の化合物との溶液を前記分子膜と接触させ、水素結合性の化合物が水素結合で組織化された分子マクロクラスターを形成させる。
【0009】
第2:手順<B>での水素結合性の化合物は重合性のモノマーであることを特徴とする上記第1の分子マクロクラスターの形成方法。
【0010】
第3:上記第2の方法により形成した分子マクロクラスターにおける重合性モノマーを重合反応させて高分子薄膜を生成させることを特徴とする高分子薄膜の製造方法。
【0011】
第4:重合性のモノマーは光重合性のモノマーであり、分子マクロクラスターに光照射して光重合性モノマーを重合反応させて高分子薄膜を生成させることを特徴とする上記第3の高分子薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
上記のとおりの本願発明の分子マクロクラスターの形成方法によれば、分子マクロクラスターの形成をシリカ表面以外の各種の基板表面に対して適用することができ、そしてシラノール基以外の官能基である水素結合性の官能基に対象を広げることができる。水素結合性の官能基を有する化合物を表面に吸着させると、表面が水素結合性の官能基で覆われた基板を作製できる。この基板を適当な非水素結合性である溶媒と水素結合性の分子からなる混合溶液に浸漬することで、水素結合性の分子が水素結合で組織化した分子マクロクラスターを基板表面に形成することができる。また、非水素結合性である溶媒と水素結合性の分子からなる混合溶液に水素結合性の官能基で覆われた表面を有する基板を浸漬して、重合により高分子膜を基板表面に固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明の分子クラスターの形成方法においては上記のとおりの手順<A><B>を必須としているが、まず手順<A>については、表面に水素結合性の官能基を持たない固体基板は各種であってよく、金属、合金、セラミックス、樹脂、これらの1種以上の複合体の各種であってよい。そしてこれらの固体基板は、水素結合性の官能基を持つ化合物が吸着されるものとして選択される。この場合の吸着では各種の方法、手段が採用されてよい。
【0016】
また、固体基板は水酸基を持つガラス基板等であってもよく、これら固体基板においては、たとえばシランカップリング剤を用いて適当な水素結合性の官能基を持つ化合物が吸着されるようにする。
【0017】
たとえば手順<A>における代表的な例としては、表面に水素結合性の官能基を持たない固体基板は金もしくは金の薄膜表面を持つ各種の固体であって、その表面に吸着される化合物としては、吸着性のチオール(-SH)基とともに水素結合性の官能基を持つものが挙げられる。
【0018】
より具体的には、上記のように一般式
HS-R-X
で示されるものがある。ここでRは炭化水素鎖であって、鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素鎖や、脂環式環あるいは芳香環を含む炭化水素鎖等であってよい。たとえば-(CH2n-:n=5~14等のものが例示される。
【0019】
水素結合性の官能基(X)としては、-OH、-COOH、-COSH、-CONH2、-CONHR0、-NH2、-NHR0(R0=炭化水素基)等の各種のものであってよい。
【0020】
また、水酸基を持つガラス基板等においては、シランカップリング剤を用い、たとえばカルボン酸やアミド基等を付加することも考慮される。
【0021】
たとえばこれらを用いることによって、具体的には、たとえば上記化合物の溶液を固体基板と接着させることで、上記の固体基板の表面に、上記の水素結合性の官能基で覆われた分子膜が形成されることになる。
【0022】
この際の化合物濃度や接触時間、温度等の条件は後述の実施例に沿って適宜としてよく、たとえば室温もしくはその近傍において操作される。
【0023】
次いで本願発明では、手順<B>によって分子マクロクラスターが上記の分子膜を介して固体基板上に形成されることになる。
【0024】
この手順<B>においては、発明者らがすでに提案している条件を参照することができる。非水素結合性の溶媒は、たとえば炭化水素系の非極性溶媒あるいは低極性溶媒から選択することができる。水素結合性の化合物は、アルコール、カルボン酸、アミド、アミン等とすることができる。この化合物として重合性のモノマー化合物を用いる場合には、生成された分子マクロクラスターの状態において重合反応させることで高分子薄膜を製造することができる。
【0025】
たとえば、水素結合性化合物の溶液中での濃度はたとえば10mol%未満、特に2mol%以下とし、室温もしくはその近傍の温度において分子マクロクラスターを形成する。また、重合反応については、たとえば光照射によることができる。
【0026】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。
【0027】
もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0028】
実施例1:アルコール-アルコール
水素結合性の官能基の一つである水素基を有する化合物としてHS(CH2)10CH2OH、HSCH2CH2OHをそれぞれ吸着した金基板と、非水素結合性の官能基であるメチル基を有する化合物としてHS(CH2)17CH3を修飾した金基板を作製した。これら3種類の金基板をエタノール/シクロヘキサン混合溶液に浸漬して、各々の濃度で表面プラズモン共鳴がおきる共鳴角を測定した。図1には、HS(CH2)10CH2OH、HSCH2CH2OH、HS(CH2)17CH3で修飾した金基板に対するΔθのエタノール/シクロヘキサン混合溶液中でのエタノール濃度依存性を示した。ここで、Δθは、シクロヘキサンの表面プラズモンの共鳴角とエタノール/シクロヘキサン混合溶液中の表面プラズモンの共鳴角の差である。非水素結合性の官能基であるメチル基で表面が覆われた金基板のΔθの変化量は、2mol%で0.2度であった。これに対し、水素結合性の官能基である水酸基で表面が覆われた金基板のΔθの変化量は0.55~0.7度であった。Δθは、エタノールマクロクラスターの厚みと混合溶液の屈折率の違いを反映している。この事から、非水素結合性の官能基であるメチル基で表面が覆われた場合、エタノール濃度2.0mol%での、Δθである0.2度は、殆どエタノールマクロクラスターが形成されていないことに相当する。一方、水素結合性である水酸基で表面が覆われた場合、エタノール濃度2.0mol%での、Δθである0.55~0.7度は、表面に形成されたエタノールマクロクラスターの厚みは、6.5~7.5nmに相当する。以上のことから、水素結合性の官能基のひとつである水酸基で覆われた表面は、分子マクロクラスターを形成することに有効であることが示された。したがって、水素結合性の官能基で覆われた表面に分子マクロクラスターを形成できることが示された。
【0029】
実施例2:カルボン酸-アルコール
水素結合性の官能基の一つであるカルボキシル基を有する化合物として、HS(CH2)10COOH、HSCH2COOHをそれぞれ修飾した金基板と非水素結合性の官能基であるメチル基を有する化合物であるHS(CH2)17CH3で修飾した金基板を作製した。これら3種類の金基板をエタノール/シクロヘキサン混合溶液に浸漬して、各々の濃度で表面プラズモン共鳴がおきる共鳴角を測定した。図2にHS(CH2)10COOH、HSCH2COOH、HS(CH2)17CH3で修飾した金基板に対するΔθのエタノール/シクロヘキサン混合溶液中でのエタノール濃度依存性を示した。ここで、Δθは、シクロヘキサンの表面プラズモンの共鳴角とエタノール/シクロヘキサン混合溶液中の表面プラズモンの共鳴角の差である。非水素結合性の官能基であるメチル基で表面が覆われた金基板のΔθの変化量は、2mol%で0.2度であった。これに対し、水素結合性の官能基であるカルボキシル基で表面が覆われた金基板のΔθの変化量は0.55~0.7度であった。Δθは、エタノールマクロクラスターの厚みと混合溶液の屈折率の違いを反映している。この事から、非水素結合性の官能基であるメチル基で修飾した表面の場合、Δθである0.2度は、殆どエタノールマクロクラスターが形成されていないことに相当する。一方、水素結合性の官能基であるカルボキシル基で修飾した表面の場合、Δθである0.55~0.7度は、形成されたエタノールマクロクラスターの厚みは、6.5~7.5nmに相当する。以上のことから、水素結合性の官能基のひとつであるカルボキシル基で覆われた表面は、分子マクロクラスターを形成することに有効であることが示された。したがって、水素結合性の官能基で覆われた表面に分子マクロクラスターを形成できることが示された。
【0030】
実施例3:高分子膜の調製
水素結合性の官能基の一つであるカルボキシル基を有する化合物として、HS(CH2)10COOHで修飾した金基板を用意した。この水素結合性の官能基であるカルボキシル基で表面が覆われた金基板を、アクリル酸濃度が0.1mol%のアクリル酸/シクロヘキサン混合溶液中に浸漬した。この溶液に重合開始剤となるAIBNを加えた。そして、この金基板が浸漬された混合溶液に光照射すると、光重合により、高分子であるポリアクリル酸が金基板表面に固定化された。図3に、エリプソメーターによって測定された、金基板の表面に固定化されたポリアクリル酸の膜厚の位置依存性を示した。金基板に固定化されたポリアクリル酸の膜厚は、最大値11.3nm、最小値8.6nm、平均値9.6±0.6nmであった。以上の結果より、水素結合性の官能基のひとつであるカルボキシル基で覆われた表面に高分子膜を固定化できることが示された。したがって、水素結合性の官能基で覆われた表面に、高分子膜を固定化できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1におけるΔθのエタノール濃度依存性を示した図である。
【図2】実施例2におけるΔθのエタノール濃度依存性を示した図である。
【図3】実施例3におけるポリアクリル酸薄膜の位置依存性を示した図である。
図面
【図1】
0
【図3】
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【図2】
2