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明細書 :がん幹細胞の作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4752051号 (P4752051)
公開番号 特開2006-296364 (P2006-296364A)
登録日 平成23年6月3日(2011.6.3)
発行日 平成23年8月17日(2011.8.17)
公開日 平成18年11月2日(2006.11.2)
発明の名称または考案の名称 がん幹細胞の作成方法
国際特許分類 C12N   5/0789      (2010.01)
C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/095       (2010.01)
FI C12N 5/00 202Q
C12N 5/00 202U
C12N 5/00 202V
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2005-126266 (P2005-126266)
出願日 平成17年4月25日(2005.4.25)
審査請求日 平成19年12月19日(2007.12.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】高倉 伸幸
【氏名】山田 賢裕
【氏名】木戸屋 浩康
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特開昭58-094385(JP,A)
Cancer Res.,2005年 4月15日,Vol.65, No.8,pp.3035-3039
PNAS,2003年,Vol.100, No.7,pp.3983-3988
調査した分野 C12N 5/0789
C12N 5/09
C12N 5/095
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
がん幹細胞の作成方法であって、腫瘍細胞と造血幹細胞を含みCD11bを細胞表面に発現する細胞集団とをインビトロで細胞融合する工程を含む方法。
【請求項2】
モデル腫瘍組織の作成方法であって、腫瘍細胞と造血幹細胞を含みCD11bを細胞表面に発現する細胞集団とを細胞融合することにより得られるがん幹細胞及び上記腫瘍細胞の混合物を培養する工程を含む方法。
【請求項3】
担がんモデル動物の作成方法であって、腫瘍細胞と造血幹細胞を含みCD11bを細胞表面に発現する細胞集団とを細胞融合することにより得られるがん幹細胞及び上記腫瘍細胞の混合物をヒト以外の哺乳類動物に投与する工程を含む方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はがん幹細胞の作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代のがん研究および治療は、がんを均質な細胞集団として扱っており、がん治療薬開発においては、ただ単純に増殖するがん細胞の細胞死を指標に治療薬の開発がなされている。このような経緯により多くのがん治療薬や治療法が開発されてきたが、がんを根治させるには至っていないのが現状である。一方、最近になって、がん組織は、抗がん剤に抵抗性のがん幹細胞と、そのがん幹細胞より分化して過剰に増殖する抗がん剤に感受性のあるがん細胞により構築されており、がん幹細胞の細胞死を誘導しない限りがんが再発するという概念が提唱されており、非常に注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1によれば、試験管内で培養されている腫瘍細胞株は均一な細胞が増殖しているのではなく、一部の細胞は薬剤排出能の高いSP(side population)と呼ばれる幹細胞群に属し、これらの細胞は種々の細胞に分化する多分化能を有するとされている。また、非特許文献2及び3では、それぞれ個体に発生した乳がんおよび脳腫瘍細胞の中で、他の腫瘍細胞とは一部異なる細胞表面マーカーを有する腫瘍細胞が存在しており、これらの細胞は他の腫瘍細胞に比べ個体への生着能力が高いことが示されている。
【0004】
これらの報告においては、腫瘍は生化学的に均質ではなく、一部に幹細胞様の多分化能、および移植による生着能力が高い細胞が存在しており、それががん幹細胞であると説明されている。しかしながら、これらのがん幹細胞がいかなる分化過程を経て他のがん細胞と異なる形質を獲得しているのかは現在のところ不明であり、また、がん幹細胞を取得する方法についてもこれらの文献には示唆ないし教示がない。がん幹細胞を実験的に取得する方法が開発され、がん幹細胞の発生の成因が解明されれば、がん細胞の幹細胞化を抑制する治療法や、がん幹細胞を標的とする治療法を開発できることが期待されるほか、がんの悪性化や予後の診断法、あるいはがんが棲息するニッチを解明してがんを根絶する診断や治療法への発展が期待される。従って、がん幹細胞を実験的に再現性よく取得する方法の開発が切望されている。

【非特許文献1】Kondo, T., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 101(3), pp.781-786, 2004
【非特許文献2】Al-Hajj, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U S A., 100(7), pp.3983-3988, 2003
【非特許文献3】Singh, S.K., et al., Nature, 432(7015), pp.396-401, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、がん幹細胞を実験的に再現性よく取得する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来より、がん組織の血管新生の分子メカニズムについて造血系細胞の関与について詳細な解析を試みてきた。その結果、腫瘍の成長中においては、骨髄球系、リンパ球系の成熟した血液細胞だけでなく、造血幹細胞や造血前駆細胞が腫瘍内部に多く侵入していること(Okamoto, R., et al., Blood, 105(7), pp.2757-2763, 2005)、及びこれらの多くは腫瘍内で血管外に漏出していることを解明した。そして、これらの血液細胞は血管形成の促進因子を分泌し、腫瘍内に形成される新しい血管の形成、つまり腫瘍血管新生に大きく貢献することを見出した。
【0007】
また、腫瘍内への血液細胞の侵入を抑制すると腫瘍の増大が生じてこないことから、本発明者らは、血液細胞には血管形成を促進する以外に腫瘍の悪性化に関与する機序が存在するとの仮説に基づいて、これらの血液細胞と腫瘍細胞との相互関係を解析した。その結果、造血幹細胞/前駆細胞を含有する血液細胞と腫瘍細胞との共培養により、腫瘍細胞と血液細胞とが細胞融合すること、及び血液細胞と細胞融合した上記の腫瘍細胞は、融合前には発現していなかった幹細胞の表面抗原であるCD133 (AC133)やc-kitの発現が誘導されていることを見出した。また、血液細胞と細胞融合した少量の腫瘍細胞及び血液細胞と細胞融合していない少量の腫瘍細胞(個体に移植しても腫瘍を形成することのできない腫瘍細胞である)を混合してマウスに移植することにより、非常に大きな悪性度の高い腫瘍形成が誘導されることを見出した。これは、がん組織の形成において通常のがん細胞とがん幹細胞とが混在したモザイク状態においてがんの成長が促進すること実験的に再現したものと考えられる。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0008】
すなわち、本発明により、がん幹細胞の作成方法であって、腫瘍細胞と血液細胞とをインビトロで細胞融合する工程を含む方法が提供される。上記の発明の好ましい態様によれば、造血幹細胞及び/又は前駆細胞を含有する血液細胞と腫瘍細胞との共培養により上記細胞融合を行なう上記方法が提供される。また、本発明により、上記の方法により得ることができるがん幹細胞が提供される。
別の観点からは、本発明により、モデル腫瘍組織の作成方法であって、腫瘍細胞と血液細胞とを細胞融合することにより得られるがん幹細胞と上記腫瘍細胞との混合物を培養する工程を含む方法が提供される。また、本発明により、上記の方法により得ることができるモデル腫瘍組織が提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、担がんモデル動物の作成方法であって、腫瘍細胞と血液細胞とを細胞融合することにより得られるがん幹細胞と上記腫瘍細胞との混合物を動物に投与する工程を含む方法が提供される。また、本発明により、上記の方法により得ることができる担がんモデル動物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、がん幹細胞を効率的に再現性よくインビトロで作成することができる。このがん幹細胞を用いて、実際の腫瘍組織により近いモデル腫瘍組織をインビトロで生成することができ、あるいはインビボで腫瘍の発生過程を再現した担がんモデル動物を作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法は、がん幹細胞の作成方法であって、腫瘍細胞と血液細胞とをインビトロ(生体外)で細胞融合する工程を含むことを特徴としている。
血液細胞と融合させる腫瘍細胞株の種類は特に限定されず、例えば、ヒトやヒト以外の哺乳類動物の任意のがん細胞(固形癌及び血液癌などのがん細胞を包含する)を用いることができる。例えば、腫瘍細胞株(マウスメラノーマ細胞株であるB16細胞など)、そのサブラインやプライマリー腫瘍細胞などを用いることができる。腫瘍細胞株は、細胞融合やその後の腫瘍細胞由来の細胞の挙動の確認を容易にするため、蛍光色素蛋白を発現するための遺伝子を導入しておいてもよい。このような目的のためには、例えば、赤色の蛍光色素蛋白 (DS-RED)を発現できるプラスミドを導入することができる。遺伝子導入は公知の手法により行なうことが可能であり、例えば、エレクトロポレーション法、DEAE-DEXTRAN法などの当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。
【0011】
血液細胞は、腫瘍細胞と融合可能な動物種由来の血液細胞であれば、その種類は特に限定されない。例えば、末梢血や胎児肝臓など、任意の血液や組織由来の血液細胞であってもよい。例えば、造血幹細胞及び/又は前駆細胞を含有する血液細胞を好ましく用いることができる。例えば、血液細胞として造血幹細胞を含むCD11bを細胞表面に発現する細胞を哺乳類動物の骨髄から採取することができる。血液細胞の採取には、例えば、セルソーターを用いる方法、抗体によるパニング法、マグネティックビーズを用いる磁気による細胞回収法、EPICS以外の自動蛍光細胞回収装置を用いる方法など、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。もっとも、血液細胞としては、造血幹細胞や単球、マクロファージ及び好中球を含むCD11b陽性細胞に限定されることはなく、腫瘍細胞をがん幹細胞化させることのできる血液細胞であるならばいかなる細胞を用いてもよい。
【0012】
血液細胞には、細胞融合やその後の血液細胞由来の細胞の挙動の確認を容易にするため、蛍光色素蛋白を発現するための遺伝子を導入しておいてもよい。このような目的のためには、腫瘍細胞に導入した遺伝子から発現される蛍光色素蛋白と異なる色調の蛋白質を発現する遺伝子を用いることが好ましい。例えば、腫瘍細胞に赤色の蛍光色素蛋白 (DS-RED)を発現できるプラスミドを導入した場合には、血液細胞としてグリーン・フルオレセント・プロテイン(GFP)又はその類縁蛋白質を全身に発現するマウス(green mouse)の骨髄から調節した血液細胞を用いることができ、融合された細胞の同定を容易に行なうことが可能になる。もっとも、上記の目的のためには、腫瘍細胞及び血液細胞由来のDNAを確認することができる手段であれば任意の手段を採用することが可能であり、例えば、細胞のDNAに欠損や挿入によるマーキングを行なった細胞を用いたり、短期の培養の際には細胞表面を異なる蛍光色素で標識した細胞を用いてもよい。
【0013】
細胞の融合は、例えば、例えば104個程度の腫瘍細胞と例えば106個程度の血液細胞とを同時に播種して共培養することにより行なうことができる。培養に用いる培地は特に限定されず、当業者が適宜選択可能であるが、例えば、DMEMなどのほか、RPMI、αMEM、F12培地などを用いることができる。培養に際しては、基本培地に適宜の濃度、例えば10%程度のウシ血清を添加した培地や、適宜のサイトカインなどを1種又は2種以上添加した培地を用いることもできる。サイトカインとしては、例えば、stem cell factorやM-CSF などを用いることができるが、これらに限定されることはなく、種類や濃度は当業者が適宜選択可能である。細胞融合のための共培養は、例えば、37℃程度の温度で5% CO2存在下に1~10日程度行なうことができ、全細胞中の0.01~10%程度、好ましくは0.1~数%程度の融合細胞が得られる。上記のように、腫瘍細胞及び/又は血液細胞自体が細胞融合能を有する場合には、共培養により細胞融合を行なうことができるが、細胞自体の細胞融合能を用いずに、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた融合法や電気パルスによる細胞融合法などの一般的な細胞融合方法により細胞融合を行なうこともできる。さらに、血液細胞から取り出した細胞核を腫瘍に機械的に注入する、あるいは逆に腫瘍細胞の核を血液細胞に注入することによっても細胞融合が可能である。腫瘍細胞を赤色蛍光色素、血液細胞を緑色蛍光色素で標識した場合には、融合細胞は黄色に染色されるので、セルソーターなどを用いて分離することが可能である。このようにして、本発明のがん幹細胞を単離することができる。
【0014】
上記のようにして得られたがん幹細胞を用いて、モデル腫瘍組織をインビボ又はインビトロで形成させることができる。先に説明したとおり、腫瘍形成に際しては、がん幹細胞とがん幹細胞から分化したがん細胞がモザイク状となっていると考えられる。がん幹細胞が存在することによって、例えば腫瘍細胞の増殖が促進され、あるいはがんが個体内で生着してがん組織を形成すると考えられることから、上記のようにして得られたがん幹細胞である融合細胞と上記融合細胞の生成に用いた腫瘍細胞とを混合して培養し、あるいは上記細胞混合物を動物に移植することにより、より現実の腫瘍組織に近いモデル腫瘍組織を生成することが可能になる。
【0015】
例えば、上記のようにして得られたがん幹細胞である融合細胞と融合に用いた腫瘍細胞とを、例えば1:10程度の割合で混合して培養することによりモデル腫瘍組織をインビトロで生成することができる。培養には上記に例示したような適宜の培地を用いることができる。また、例えば上記の割合でがん幹細胞である融合細胞と融合に用いた腫瘍細胞とを含む細胞混合物をヒト以外の哺乳類動物に移植することにより、移植部位に腫瘍組織を形成することができ、この動物を腫瘍モデル動物として用いることができる。動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サルなどを用いることができるが、これらに限定されることはない。一般的には、融合に用いた腫瘍細胞が生着可能な動物種を選択することが望ましい。上記細胞混合物を動物に移植するに際しては、細胞混合物を例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁してもよく、あるいはコラーゲンやマトリゲルなどの半固形培地やその他の培地を用いてもよい。腫瘍組織の形成に関する評価は、例えば、皮下に細胞混合物を移植した場合には、経時的に腫瘍のサイズを肉眼的に計測することにより行なうことができるが、静脈内又は腹腔内に細胞混合物を移植した場合には、肺や肝臓等で形成される腫瘍を非肉眼的に観察すればよい。
【0016】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、血液細胞と細胞融合した腫瘍細胞は腫瘍を増大させる悪性度の高いがん細胞に変化し、またその細胞の表現型からがん幹細胞に形質転換したものと結論できる。このような過程は生体内においても生じており、生体内において形質転換により生じた腫瘍細胞は造血幹細胞など未熟な血液細胞と細胞融合することによりがん幹細胞となり、周囲の腫瘍細胞とともにモザイク状の腫瘍組織を形成してがんの発生に寄与するものと考えられる。
【0017】
本発明のがん幹細胞を用いることにより、がん幹細胞の発生メカニズム及びがん幹細胞が関与するがんの形成過程を詳細に研究することが可能になる。また、本発明のがん幹細胞の生成方法において、被検物質の存在下で細胞融合を行い、細胞融合の阻害程度を確認することにより、がん幹細胞の生成を阻害する物質をスクリーニングすることが可能になる。また、本発明のがん幹細胞のアポトーシスを誘導する物質をスクリーニングすることもできる。このようにしてスクリーニングされた物質は、抗悪性腫瘍剤として有用であることが期待される。さらに、本発明により提供されるモデル腫瘍組織又はモデル腫瘍動物は、がん幹細胞が存在しない腫瘍細胞単独の場合に比べて、より現実の腫瘍に近い悪性度を再現していることから、がんの発生や成長、又はがんの転移などのメカニズムの詳細な解明に極めて有用であり、インビボで有効な抗腫瘍剤の開発に極めて有用である。
【実施例】
【0018】
例1:試験管内における腫瘍細胞と血液細胞の細胞融合
血液細胞と融合させる腫瘍細胞株としてはマウスメラノーマ細胞株であるB16細胞を用いた。B16メラノーマ細胞は、DMEM(シグマ社製)培地に10%のウシ血清を添加した通常の培地で継代した。B16メラノーマ細胞に赤色の蛍光色素蛋白 (DS-RED)を発現できるプラスミド(ベクトン・ディッキンソン社製)をリポフェクタミン(インビトロジェン社製)により遺伝子導入した。別途、グリーン・フルオレセント・プロテイン(GFP)を全身に発現するマウス(green mouse)の骨髄からCD11bを細胞表面に発現する細胞(造血幹細胞を含む細胞集団)をセルソーター(EPICS, コールター社製)を用いて採取した。
【0019】
104個のB16腫瘍細胞と106個のCD11b陽性血液細胞とを12 well培養皿に同時に播種し、10%のウシ血清を含むDMEM基本培地にstem cell factor (ギブコ社製)及びM-CSF (ギブコ社製)をそれぞれ最終濃度20ng/ml及び10ng/mlとなるように添加した培地を用いて共培養した。37℃で5% CO2 下に1~10日間共培養したところ、赤と緑の蛍光蛋白を同時に発現することにより黄色に染色された融合細胞の存在が認められ、その割合は全細胞中0.1-1.0%であった。赤と緑の蛍光を同時に発生する融合細胞(DS-RED陽性及びGFP陽性の融合細胞)をセルソーター(EPICS)を用いて分離し、本発明のがん幹細胞を得た。
【0020】
例2:がん幹細胞による腫瘍形成モデル
がん幹細胞による腫瘍形成の現場では、がん幹細胞とがん幹細胞から分化したがん細胞がモザイクとなっていると考えられる。がん幹細胞が存在することによってがんが個体内で生着してがん組織を形成すると考えられることから、例1で得られたがん幹細胞が、実際にがんの発生にプラスに働くことを以下の実験により確認した。B16腫瘍細胞1.1×104個(B16単独)、又はB16腫瘍細胞1.0×104個と例1で得たがん幹細胞0.1×104個との混合物をそれぞれPBSに懸濁して、C57Bl/6系統マウスの背部皮下に投与移植した。腫瘍形成の評価は、経時的に腫瘍のサイズを計測することにより行なった。その結果を図1に示す。B16腫瘍細胞1.1×104個を移植した個体では腫瘍の形成が認められなかったのに対して、0.1×104のがん幹細胞を混合した同量のB16腫瘍細胞を移植した個体には顕著な腫瘍形成が認められ、がん幹細胞を含む腫瘍細胞が腫瘍形成能の高い細胞集団に変化することが確認された。
【0021】
また、例1で得たDS-REDで蛍光標識したB16腫瘍細胞1×106個(この細胞数はこの腫瘍細胞が単独で腫瘍形成が可能な細胞数である)をPBS に懸濁し、C57Bl/6系統のgreen mouseに移植し、形成された腫瘍中にGFPとDS-REDを同時に発現する腫瘍細胞(宿主のgreen mouse由来の細胞と腫瘍細胞とが融合した細胞)が存在するか否かを検討した。DS-REDを発現するB16腫瘍細胞を移植後14日目に腫瘍をマウスより取り出し、腫瘍組織を手術用ハサミで細切した後に、細切された腫瘍組織にディスパーゼ (ベーリンガー社製)を添加して10分間室温で放置し、その後、細胞懸濁液を注射針をつけた注射器に充填し、数回の吸引と排出を繰り返して細胞を分散させた。これらの細胞をフローサイトメトリー法により解析した。この結果、図2(A)に示すように、DS-REDおよびGFPを同時に発現する融合細胞の存在が認められた。また、この融合細胞に対してc-KitおよびCD133に対するモノクローナル抗体(いずれもファーミンジェン社製)で染色してフローサイトメトリー法で解析すると、c-Kitに関してはほぼ100%、CD133に関して50-60%が融合細胞に発現していることが認められた(図2(B))。c-KitやAC133は未熟な幹細胞レベルの細胞に発現することが知られていることから、例1で得られたがん幹細胞の生成過程が実際の腫瘍形成過程において生じていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】B16腫瘍細胞(単独)又はB16細胞と実施例の例1で得たがん幹細胞との混合物をマウスの皮下に移植し、形成された腫瘍のサイズを経時的に測定した結果を示した図である。
【図2】赤色の蛍光色素でラベルされたB16腫瘍細胞をGFPを全身に発現するマウスに移植した際に形成された腫瘍のフローサイトメトリー解析を示した図である。図中、(A)は腫瘍中に生体内で細胞融合により形成されたDS-RED及びGFPを同時に発現する細胞群が確認された結果を示し(R2)、(B)はこのR2の細胞について幹細胞マーカー(c-Kit又はCD133)の発現を解析した結果を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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