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明細書 :衝突誘起によるイオン化方法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4734628号 (P4734628)
公開番号 特開2006-329710 (P2006-329710A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
公開日 平成18年12月7日(2006.12.7)
発明の名称または考案の名称 衝突誘起によるイオン化方法および装置
国際特許分類 G01N  27/62        (2006.01)
H01J  49/04        (2006.01)
H01J  49/10        (2006.01)
FI G01N 27/62 F
G01N 27/62 V
H01J 49/04
H01J 49/10
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2005-151172 (P2005-151172)
出願日 平成17年5月24日(2005.5.24)
審査請求日 平成20年5月2日(2008.5.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】平岡 賢三
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】伊藤 裕美
参考文献・文献 特開平08-327601(JP,A)
特開2005-063770(JP,A)
国際公開第2005/083415(WO,A1)
Sergei A. Aksyonov and Peter Williams,Impact desolvation of electrosprayed microdroplets - a new ionization method for mass spectrometry of large biomolecules,RAPID COMMUNICATIONS IN MASS SPECTROMETRY,John Wiley & Sons, Ltd.,2001年,Vol.15,P2001-2006
調査した分野 G01N 27/60-27/70
G01N 27/92
H01J 49/00-49/48
特許請求の範囲 【請求項1】
質量分析装置のイオン導入口の外側に設けられ,上記イオン導入口を通して質量分析装置の内部と連通し,内部に加速電極とターゲットが配置された真空加速室を有する加速装置,および
上記真空加速室の液滴導入口を通して上記真空加速室と連通する帯電液滴生成室を備え,この帯電液滴生成室内において,試料が混合された揮発性の液体の帯電液滴を,エレクトロスプレーにより大気中で生成する帯電液滴生成装置を備え,
上記帯電液滴生成装置によって生成された試料が混合された帯電液滴が上記帯電液滴生成室から上記液滴導入口を通して上記真空加速室に導かれ,高電圧が印加された上記加速電極によって加速されて上記ターゲットに衝突し,これによって脱離,イオン化された試料のイオンが上記イオン導入口を通して質量分析装置に導入されるようになされている,
衝突誘起によるイオン化装置。
【請求項2】
上記帯電液滴生成装置は,試料が混合された帯電液滴を,その気化を促進または抑制するように加熱または冷却した状態で生成するものである,請求項に記載のイオン化装置。
【請求項3】
上記帯電液滴生成装置は,試料が混合された帯電液滴をアシストガスにより噴霧するものである,請求項またはに記載のイオン化装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は,衝突誘起によるイオン化方法および装置に関し,特にタンパク質分子やDNA分子などの生体高分子の質量分析のために好適なイオン化方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析のためには,質量分析装置に気体状のイオン化された試料分子イオンを供給しなければならない。イオン化された分子または原子はきわめて短時間のうちに反対極性のイオンまたは電子と再結合するから,これを抑制することも必要である。
【0003】
マトリクスに混ぜた生体試料を質量分析のためにイオン化する方法の一つにイオン衝撃法がある。一次イオンとして,Ar+やXe+を使用する二次イオン質量分析法(FABまたはSIMS)では,マトリクス分子が激しく損傷を受けるので,生体高分子の分析には適せず,またケミカルノイズが現われ,S/N比が悪い。
【0004】
この欠点を取り除く新しいイオン化方法として,マッシブクラスタ衝撃法(Massive Cluster Impact法)(以下,MCI法という)が開発された。

【非特許文献1】J.F.Mahoney, D.S.Cornett and T.D.Lee“Formation of Multiply Charged Ions from Large Molecules Using Massive-cluster Impact”RAPID COMMUNICATIONS IN MASS SPECTROMETRY, VOL.8, 403-406(1994)。
【0005】
この方法は,グリセリンの静電場噴霧を利用するものであり,+100 価から+1000価に帯電した106から107uの質量をもつイオンクラスタにより基板に塗布した試料を衝撃するものである。この方法によると,生体高分子が分解されることなく,しかもケミカルノイズの少ないマススペクトルが得られる。
【0006】
しかしながら,上記の方法は,グリセリンを静電場噴霧して帯電液滴を形成するので,イオン源がグリセリンで汚染されて帯電し,イオンクラスタビーム強度が不安定になるという問題があり,実用化に到らなかった。
【0007】
他方,生体試料を液体に混合しておき,この液体を真空中でエレクトロスプレーして生成された帯電液滴をターゲット(基板)に衝突させる方法がある。

【非特許文献2】Sergei A.Aksyonov and Peter Williams“Impact desolvation of electrosprayed microdroplets - a new ionization method for mass spectrometry of large biomolecules”Rapid Commun.Mass Spectrom. 2001;15:2001-2006
【0008】
しかしながらこの方法(IDEM法)は,真空下でのエレクトロスプレーであるから,実用上はさまざまな問題点を含んでいる。すなわち,真空中では液体が急速気化し,凝結するので,キャピラリーがすぐ詰まる,また不揮発性化合物の析出によりキャピラリー先端がすぐ詰まる,スプレーが安定しない,などの本質的欠陥がある。
【発明の開示】
【0009】
この発明は,上記のMCI法およびIDEM法の欠点を解消し,しかも数万を超えるタンパク質分子の脱離も可能であるとともに,正,負イオン分子同士の再結合を抑制し,高感度の質量分析が可能となるイオン化方法および装置を提供することを目的とする。
【0010】
この発明によるイオン化方法は,揮発性の液体(溶媒)に試料を混合しておき,エレクトロスプレーにより,大気中で(大気圧下で),試料が混合した帯電液滴を生成し,生成した帯電液滴を真空室内に導き,真空室内に電場を形成し,電場によって帯電液滴を加速して,ターゲット(基板)に衝突させ,これによって試料を脱離,イオン化するものである。イオン化された分子は質量分析装置に導かれる。
【0011】
この発明によるイオン化装置は,質量分析装置のイオン導入口の外側に設けられ,上記イオン導入口を通して質量分析装置の内部と連通し,内部に加速電極とターゲット(基板)が配置された真空加速室を有する加速装置,および上記真空加速室の液滴導入口を通して上記真空加速室と連通する帯電液滴生成室を備え,この液滴生成室内において,試料が混合された揮発性の液体(溶媒)の帯電液滴を,エレクトロスプレー(ナノエレクトロスプレーを含む)により大気中で(大気圧下で)生成する帯電液滴生成装置を備え,上記帯電液滴生成装置によって生成された試料が混合された帯電液滴が上記帯電液滴生成室から上記液滴導入口を通して上記真空加速室に導かれ,高電圧が印加された上記加速電極によって加速されて上記ターゲットに衝突し,これによって脱離,イオン化された試料のイオンが上記イオン導入口を通して質量分析装置に導入されるようになされているものである。
【0012】
このイオン化装置を用いて,この発明によるイオン化方法を実現することができる。
【0013】
揮発性の液体(溶媒)としては,水/メタノール混合液(酢酸またはアンモニアなどを添加),水,酢酸,アセトン,アセトニトリルなど,あらゆる揮発性の溶媒を用いることができる。
【0014】
この発明によると(特に上記エレクトロスプレー法によると),試料が混合されたミクロンオーダないしはサブミクロンオーダの帯電液滴を生成することが可能である。帯電液滴は帯電液滴生成室から真空室(真空加速室)に導かれる。このような試料を含むイオンが真空室(真空加速室)内で電場により加速され,これによって運動エネルギーが付与され,ターゲットに衝突する。衝突界面において衝撃波が発生し,試料がピコ秒オーダーで気化,イオン化される。
【0015】
試料を含むクラスタイオンをターゲット(基板)に衝突させているので,衝突時に試料中の分子の運動エネルギーのみが選択的に励起される。このようにして,試料はソフトに衝撃を受けるので,数万を超える分子量の分子であっても損傷を受けずにイオン化される。
【0016】
また,正,負イオン同士の再結合寿命よりも短いピコ秒という短時間内に試料が気化され,イオン化されるので,再結合が抑制され,発生したイオンを効率よく質量分析装置に導くことができる。
【0017】
この発明によると,上記のMCI法のように難揮発性のグリセリンを用いず,揮発性液体を用いているので,イオン源が汚染されるという問題が生じない。また,IDEM法のように真空中ではなく,大気中(減圧された状態を含む)で帯電液滴を生成しているので,キャピラリーが詰まるという問題が殆どなく,安定なスプレーが得られる。
【0018】
大気中におけるエレクトロスプレーによる帯電液滴の生成において,温度制御された冷たい窒素(N2 )ガス(アシストガス),または逆に加熱された窒素(N2 )ガスを併用すると,冷却または加熱(温調),帯電液滴の生成(噴霧),乾燥,真空室(真空加速室)への移送等を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0019】
図1において,質量分析装置10のイオン導入口を含む部分にイオン化装置20が装備されている。
【0020】
質量分析装置(たとえば飛行時間型質量分析装置)10のイオン導入口の部分には,孔11aがあけられたスキマー11が取付けられている。孔11a(イオン導入口)により方向の揃ったイオンを質量分析装置へと導く。質量分析装置10の内部は,排気装置(図示略)により高真空に保たれている。
【0021】
イオン化装置20は,帯電液滴生成室(イオン源室。好ましくは温調(冷却または加熱)されたエレクトロスプレーチャンバー)31を備えた帯電液滴生成装置30と,帯電液滴生成室31と一直線状に連なる真空加速室41を備えた加速装置40とから構成されている。
【0022】
帯電液滴生成装置30はエレクトロスプレー装置32を備え,このエレクトロスプレー装置32は,高電圧が印加される金属(導電性)細管(キャピラリー)33と,この周囲を間隔をあけて覆う囲繞管34とを備えている。これらの金属細管33と囲繞管34の先端部は帯電液滴生成室31内に突出している。金属細管33には帯電液滴となる揮発性の液体(溶媒)が供給される。この液体には試料(生体試料)が混合されている。金属細管33と囲繞管34との間の空間には冷却媒体,たとえば冷い窒素(N2 )ガスまたは加熱された窒素(N2 )ガスがネブライザーガス(アシストガス)として供給される。窒素ガスは液体窒素から生成され,温度制御(加熱を含む)されて囲繞管34に導入される。
【0023】
高電圧が印加された金属細管33の先端からは,試料を含み高度に帯電した微細な液滴(直径数ミクロンないしはサブミクロン,またはそれ以下)Dが帯電液滴生成室31内に噴霧される。また,窒素ガスが金属細管33の先端の周囲において囲繞管34の先端から帯電液滴生成室31内に噴射される。窒素ガスは帯電液滴の噴霧を助けるとともに帯電液滴を冷却または加熱(温度調節)し,さらに,帯電液滴Dを真空加速室41の方向に移送する。窒素ガスは排気口を通して帯電液滴生成室31から外部に排出される。
【0024】
揮発性の帯電液滴が気化(乾燥)すると液滴サイズが小さくなる。帯電液滴の気化を促進または抑制するために,帯電液滴の生成において,そして帯電液滴が真空加速室41に到達するまで,帯電液滴を加熱または冷却するのが窒素ガスである。
【0025】
帯電液滴となる揮発性の液体としては,たとえば,水/メタノール混合液(酢酸またはアンモニアなどを添加),水(酢酸またはアンモニアなどを添加してもよい),酢酸,エタノール,アセトン,アセトニトリル等を挙げることができる。帯電液滴の気化を防ぐために冷却する温度は,上記水/エタノール混合液(酢酸またはアンモニアなどを添加)の場合にはドライアイス-アセトン温度付近である。気化を促進するために加熱する場合には,試料液体の沸点以下である。
【0026】
この実施例では温度制御された窒素ガスにより帯電液滴を加熱または冷却しているが,帯電液滴生成装置30の全体,または帯電液滴生成室31を所定の温度に温度制御(温度調節)するようにしてもよい。帯電液滴生成装置の他の例としては,超音波振動装置がある。帯電液滴生成室31内は大気圧程度であるが,減圧状態に保ってもよい。
【0027】
帯電液滴生成室31と真空加速室41との境界にはオリフィス34が設けられ,このオリフィス34に微細な孔34aが形成されている。この微細な孔34aが帯電液滴導入口である。帯電液滴導入口34aを通して帯電液滴生成室31と真空加速室41とが連通している。
【0028】
金属細管33の先端から噴霧された試料を含む帯電液滴Dは,加熱または冷却された窒素ガスとともに帯電液滴生成室31内を真空加速室41の方向に移動し,オリフィス34の微細な孔34aを通って真空加速室41内に導入される。
【0029】
真空加速室41内には,加速電極42とターゲット43とが設けられている。加速電極42には正または負の(帯電液滴の極性とは反対の)高電圧(たとえば10KV)が印加される。ターゲットは硬質の物質,たとえばステンレス・スチール等の各種金属,シリコン等により実現される。真空加速室41内に導入された帯電液滴Dは加速電極42によって加速かつ収束(フォーカス)され,ターゲット43に斜めに衝突し,液滴試料からイオン化された分子が脱離する。スキマー11にあけられたイオン導入口11aを通して質量分析装置10の内部と真空加速室41とは連通しており,試料を含む帯電液滴のターゲット43への衝突により発生し,ターゲット43の面から垂直に飛び出たイオン分子(または原子)はこのイオン導入口11aを通して質量分析装置10内に導入される。
【0030】
上述のように帯電液滴生成装置30によって生成される試料を含む帯電液滴はミクロンないしはサブミクロンオーダのものである。これを(巨大)クラスタ-イオンという。この(巨大)クラスタ-イオンがミクロンないしはサブミクロンオーダの液滴サイズを保ったまま帯電液滴生成室31から真空加速室41に導入され,加速電極42の電場によって加速される。たとえば(巨大)クラスタ-イオンには10KeV 程度の運動エネルギーが付与される。
【0031】
加速された試料を含む(巨大)クラスタ-イオンがターゲット43に衝突する。これによってピコ秒という短時間内に(巨大)クラスタ-イオン中に溶け込んでいる試料が気化される。過剰電荷で帯電しているが,帯電液滴中には多くの正イオンと負イオンが混在する。しかし,正負イオンの再結合寿命よりも短い時間帯でイオンが発生するので,発生したイオンの再結合(中性化反応)が抑制(防止)され,多くのイオンが真空加速室41からイオン導入口11aを通って質量分析装置10内に供給される。これによって高感度の質量分析が可能となる。
【0032】
また,巨大サイズのクラスタイオンに含まれた状態で試料がターゲットに衝突しているので,運動エネルギーのみが選択的に励起される。これによってタンパク質のような数万を超える分子量の分子であっても損傷を受けることなくイオン化される。すなわち,タンパク質を含む生体分子の質量分析(たとえば,オーソゴナル飛行時間型質量分析)が可能となる。
【0033】
一例を挙げると,酢酸1M水溶液中に10-5MのクラミシジンSを混ぜてエレクトロスプレーし,ステンレス基板(ターゲット)に衝突させたところ,図2に示すように,溶液中に混合したクラミシジンSがきわめて高いS/N比で観測された。
【0034】
上記実施例ではN2ガスによりネブライズしている。ネブライザガスにより帯電液滴を加熱または冷却することができる。しかしながら,ネブライザガス(アシストガス)も必ずしも用いる必要はない。ターゲット43表面に試料を保持しておき,これを試料を含まない揮発性の帯電液滴(クラスタイオン)により衝撃してもよい。
【0035】
なるべく小さなサイズの帯電液滴を形成するのが好ましく,そのためにはナノエレクトロスプレー装置の使用が望ましい。ナノエレクトロスプレー装置は二重円筒形状のキャピラリーを用い,内側の円筒内に試料を混合した溶媒(液体)を入れ,外側の円筒からネブライザガスを噴霧して,帯電液滴を強制噴霧する。内側の円筒を金属製(ステンレス製)としてこれに高電圧を印加するか,または内側の円筒内に細い導電線(白金線)を円筒の後端から円筒の途中まで挿入し,導電線に高電圧を印加し,導電線と試料液体との接触により高電圧を円筒の先端部内試料液体まで印加する。これにより,小さく,また高度に帯電した微細な液滴が形成される。他のナノエレクトロスプレー装置では,シリコン基板にシリコン・プロセスにより形成された一または複数のキャピラリーを含む。このキャピラリーはシリコン基板と一体的に形成された極細の筒状体であり,基板にあけられた孔と連通し,基板の裏側から上記孔を通して試料液体がキャピラリーに導入される。シリコン基板に高電圧が印加される。シリコン基板はペルチェ素子等により温度調節が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】イオン化装置の構成図である。
【図2】質量スペクトルの一例を示す。
【符号の説明】
【0037】
10 質量分析装置
11a イオン導入口
20 イオン化室
30 帯電液滴生成装置
31 帯電液滴生成室
32 エレクトロスプレー装置
33 金属細管
40 加速装置
41 真空加速室
43 ターゲット(基板)

図面
【図1】
0
【図2】
1