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明細書 :エステル化触媒及びエステル製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4649610号 (P4649610)
公開番号 特開2006-110539 (P2006-110539A)
登録日 平成22年12月24日(2010.12.24)
発行日 平成23年3月16日(2011.3.16)
公開日 平成18年4月27日(2006.4.27)
発明の名称または考案の名称 エステル化触媒及びエステル製造方法
国際特許分類 B01J  27/188       (2006.01)
B01J  27/192       (2006.01)
B01J  37/30        (2006.01)
C07C  45/66        (2006.01)
C07C  49/76        (2006.01)
C07C  49/84        (2006.01)
C07C  67/08        (2006.01)
C07C  69/24        (2006.01)
C07C  69/54        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI B01J 27/188 Z
B01J 27/192 Z
B01J 37/30
C07C 45/66
C07C 49/76 B
C07C 49/84 C
C07C 67/08
C07C 69/24
C07C 69/54 Z
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2005-177485 (P2005-177485)
出願日 平成17年6月17日(2005.6.17)
優先権出願番号 2004268005
優先日 平成16年9月15日(2004.9.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月12日(2008.5.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】薩摩 篤
【氏名】清水 研一
【氏名】高橋 哲平
【氏名】新美 健二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開平11-152248(JP,A)
特開2003-190796(JP,A)
特開2003-071299(JP,A)
調査した分野 B01J 21/00-38/74
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、
ヘテロポリ酸に含まれるすべてのプロトンを電気陰性度が9以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とする、エステル化触媒。
【請求項2】
アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、
ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部をセシウムカチオンに交換し残りを電気陰性度が9以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とする、エステル化触媒。
【請求項3】
前記金属カチオンは、電気陰性度が9以上でイオン半径が70pm以上120pm以下で価数が3価又は4価である、請求項1又は2に記載のエステル化触媒。
【請求項4】
前記金属カチオンは、電気陰性度が11以上でイオン半径が80pm以上120pm以下で価数が3価又は4価である、請求項1又は2に記載のエステル化触媒。
【請求項5】
アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、
ヘテロポリ酸に含まれるすべてのプロトンをハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオン、鉛カチオン及び鉄カチオンからなる群より選ばれた1種以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とする、エステル化触媒。
【請求項6】
アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、
ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部をセシウムカチオンに交換し残りをハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオン、鉛カチオン及び鉄カチオンからなる群より選ばれた1種以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とする、エステル化触媒。
【請求項7】
前記金属カチオンは、ハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン及びジルコニウムカチオンからなる群より選ばれた1種以上の金属カチオンである、請求項5又は6に記載のエステル化触媒。
【請求項8】
前記ヘテロポリ酸は、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイ素タングステン酸及びケイ素モリブデン酸からなる群より選ばれたものである、請求項1~7のいずれかに記載のエステル化触媒。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のエステル化触媒の存在下、エステル化反応に不活性な溶媒中で又は無溶媒で、脱水処理を行いながらアルコールとカルボン酸とを反応させることによりエステルを製造する、エステル製造方法。
【請求項10】
前記アルコールと前記カルボン酸をモル比1:1で反応させる、請求項9に記載のエステル製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化触媒、エステル製造方法、アシル化触媒及びアシル化物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル化反応は、医薬品や高分子材料などの合成に重要な反応であり、これまでに膨大な報告例がある。例えば、硫酸やp-トルエンスルホン酸などのような強酸を触媒として、カルボン酸とアルコールのいずれか一方を大過剰用いてエステル化反応を行うことがよく知られている。このように強酸を触媒とした場合には、種々の副反応が生じたり装置が腐食しやすいという問題がある。この種の問題を解決するために、特許文献1では、エステル化触媒としてヘテロポリ酸の酸性塩を用いている。
【0003】
一方、フリーデルクラフツ反応は、医薬品や農薬、電子材料などの合成に重要な反応であり、これまでに膨大な報告例がある。例えば、フリーデルクラフツ反応によるアシル化では、酸ハライドや酸無水物をアシル化剤として用い、芳香族化合物のアシル化を、塩化アルミニウムや硫酸などの触媒存在下で行うことがよく知られている。このように塩化アルミニウムや硫酸をアシル化触媒とした場合には、装置が腐食しやすいという問題がある。この種の問題を解決するために、特許文献2では、アシル化触媒として、ヘテロポリ酸であるケイ素タングステン酸の水溶液を焼成後のシリカに含浸させることにより得たケイ素タングステン酸シリカ担持触媒を用いている。

【特許文献1】特開平11-152248号公報
【特許文献2】特開2004-59572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにヘテロポリ酸の酸性塩をエステル化触媒としてエステル化反応を行った場合には、供給したカルボン酸のモル数に対する、生成したエステルのモル数の比率が低く生産性がよくないという問題があった。具体的には、リンタングステン酸の酸性セシウム塩(H0.5Cs2.5PW1240)を触媒として、トルエン中、等モルのブタノールとアクリル酸とを80℃、4時間反応させてエステルを得ているが、このときの上記比率は反応時間4時間後において24%に過ぎない。
【0005】
また、特許文献2のようにケイ素タングステン酸シリカ担持触媒をアシル化触媒として反応を行った場合には、反応収率があまり高くないとか、反応温度を200℃前後まで高くしないと進行しにくいという問題があった。
【0006】
本発明は、アルコールとカルボン酸とを反応させて高収率でエステルを得ることのできるエステル化触媒を提供すること、また、このエステル化触媒を用いて高収率でエステルを得る方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエステル化触媒は、アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、ヘテロポリ酸に含まれるすべてのプロトンを電気陰性度が9以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とするものである。このエステル化触媒によれば、アルコールとカルボン酸とを反応させて高収率でエステルを得ることができる。また、反応終了後にエステル化触媒を回収してエステル化反応に繰り返し使用することも可能である。
【0008】
本発明のエステル化触媒は、アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部をセシウムカチオンに交換し残りを電気陰性度が9以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とするものとしてもよい。このエステル化触媒によれば、アルコールとカルボン酸とを反応させて高収率でエステルを得ることができる。また、ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部がセシウムカチオンに交換されているため、反応系内で溶けにくく、反応終了後の触媒回収率が向上する。また、回収したエステル化触媒をエステル化反応に繰り返し使用することも可能である。
【0009】
本発明のエステル化触媒は、アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、ヘテロポリ酸に含まれるすべてのプロトンをハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオン、鉛カチオン及び鉄カチオンからなる群より選ばれた1種以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分とするものとしてもよい。このエステル化触媒によれば、アルコールとカルボン酸とを反応させて高収率でエステルを得ることができる。また、反応終了後にエステル化触媒を回収してエステル化反応に繰り返し使用することも可能である。
【0010】
本発明のエステル化触媒は、アルコールとカルボン酸とを反応させてエステルを製造する際に用いられるエステル化触媒であって、ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部をセシウムカチオンに交換し残りをハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオン、鉛カチオン及び鉄カチオンからなる群より選ばれた1種以上の金属カチオンに交換したヘテロポリ酸金属塩を主成分としてもよい。このエステル化触媒によれば、アルコールとカルボン酸とを反応させて高収率でエステルを得ることができる。また、ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部がセシウムカチオンに交換されているため、反応系に溶けにくく、反応終了後の触媒回収率が向上する。また、回収したエステル化触媒をエステル化反応に繰り返し使用することも可能である。
【0011】
なお、上述した金属カチオン群のうち、ハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオンが好ましく、ハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオンがより好ましい。
【0012】
ここで、ヘテロポリ酸とは、2種以上のオキソ酸が縮合した多核構造のポリ酸であり、中心のオキソ酸を形成する原子をヘテロ原子、その周りで重合するオキソ酸を形成する原子をポリ原子という。ヘテロ原子としては、例えば、リン、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、ゲルマニウム、チタニウム、ジルコニウム、セリウム、コバルト、クロム及び硫黄などが挙げられるが、このうちリン又はケイ素が好ましい。また、ポリ原子としては、例えば、モリブデン、タングステン、ニオブ、バナジウム、タンタルなどが挙げられるが、このうちモリブデン又はタングステンが好ましい。本発明のエステル化触媒において、ヘテロポリ酸の好ましい例としては、リンタングステン酸(H3PW1240)、リンモリブデン酸(H3PMo1240)、ケイ素タングステン酸(H4SiW1240)、ケイ素モリブデン酸(H4SiMo1240)のほか、ヘテロ原子がリンでポリ原子がモリブデンとタングステンとの混合配位からなるものや、ヘテロ原子がケイ素でポリ原子がモリブデンとタングステンとの混合配位からなるものなどが挙げられる。
【0013】
また、電気陰性度が9以上の金属カチオンとしては、例えば、ハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、ガリウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオン、鉛カチオン、鉄カチオンなどが挙げられる。このうち、電気陰性度が9以上でイオン半径が70pm以上120pm以下で価数が3価又は4価である金属カチオンが好ましく、そのような金属カチオンとしては、例えばハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオン、インジウムカチオン、スカンジウムカチオン、銅カチオンなどが挙げられる。さらに、電気陰性度が11以上でイオン半径が80pm以上120pm以下で価数が3価又は4価である金属カチオンが好ましく、このような金属カチオンとしては、例えばハフニウムカチオン、スズカチオン、ビスマスカチオン、ジルコニウムカチオンなどが挙げられる。
【0014】
本発明のエステル化触媒において、ヘテロポリ酸に含まれるプロトンの一部をセシウムカチオンに交換し残りを上述したいずれかの金属カチオンに交換したものについては、セシウムカチオンのないものに比べて反応系に溶けにくくなる傾向が強くなるため回収しやすくなるが、セシウムカチオンの比率が高すぎるとエステル収率が低下する傾向がある。
このため、エステル収率が低下しない程度にセシウムカチオンの比率を設定することが好ましい。
【0015】
本発明のエステル化触媒の調製は、例えば、金属無機塩水溶液をヘテロポリ酸水溶液に滴下・撹拌したあと蒸発乾固することにより行う。このとき、金属無機塩水溶液は、ヘテロポリアニオンの電荷と金属カチオンの電荷が等しくなるように添加量を決定する。例えばヘテロポリアニオンが3価の場合には、4価の金属カチオンであればヘテロポリアニオンの0.75当量添加し、3価の金属カチオンであればヘテロポリアニオンと当量添加し、2価の金属カチオンであればヘテロポリアニオンの1.5当量添加すればよい。なお、複数の金属カチオンを導入する場合には、ヘテロポリアニオンの電荷と金属カチオンの電荷の和が等しくなるように添加量を決定すればよい。
【0016】
本発明のエステル製造方法は、上述したいずれかのエステル化触媒の存在下、エステル化反応に不活性な溶媒中で又は無溶媒で、脱水処理を行いながらアルコールとカルボン酸とを反応させることによりエステルを製造するものである。このエステル製造方法によれば、アルコールとカルボン酸から高収率でエステルを得ることができる。また、アルコールとカルボン酸をモル比1:1で反応させた場合でも高収率でエステルを得ることができる。なお、エステル化触媒は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。即ち、エステル化反応の前処理として数百℃(例えば200℃)で加熱して使用してもよいし、そのような前処理を施さずに使用してもよい。
【0017】
本発明のエステル製造方法に用いられるカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸やアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和脂肪酸などのモノカルボン酸類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸などのジカルボン酸類;ブタン-1,2,4-トリカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,3-トリカルボン酸、ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、ナフタレン-1,2,4-トリカルボン酸などのトリカルボン酸類;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸類;が挙げられる。これらのカルボン酸は適宜、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲンなどを有していてもよい。
【0018】
本発明のエステル製造方法に用いられるアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール等の分岐を有していてもよい脂肪族一価アルコール類;シクロヘキサノール、シクロドデカノール等の脂環式一価アルコール類;ベンジルアルコール等の芳香族一価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリビニルアルコール等の多価アルコール類;が挙げられる。これらのアルコールは1級アルコールであってもよいし2級アルコールであってもよいし3級アルコールであってもよいが、1級アルコールが好ましい。
【0019】
本発明のエステル製造方法に用いられる溶媒としては、エステル化反応に不活性な溶媒であれば非極性溶媒であっても極性溶媒であっても特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチレン等のハロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ペンタメチルベンゼン等のベンゼン類;クロルベンゼン、ブロムベンゼン等のハロベンゼン類;ジエチルエーテル、アニソール等のエーテル類;が挙げられる。なお、本発明のエステル製造方法は、無溶媒であっても進行する。
【0020】
本発明のエステル製造方法に用いられるエステル化触媒の使用量は、特に限定されないが、基質(カルボン酸及びアルコールのうちモル数の小さい方)に対してモル比で0.001~0.5であることが好ましく、0.005~0.2であることがより好ましい。また、エステル化反応の反応温度は、エステル化触媒、反応基質及び反応溶媒によって適宜決定すればよいが、室温~200℃で行うことが好ましく、50~150℃で行うことがより好ましい。また、エステル化反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフ(GC)や高速液体クロマトグラフ(HPLC)などの一般的な分析装置を用いて基質が消失した時点を終点としてもよいし、目的とするエステルの生成速度がほぼゼロになった時点を終点としてもよい。
【0030】
本明細書では、「イオン半径」とは、Shannon(Acta Crystallogr., 1976, A32, p751)による報告値をもとに、カチオンの種類によらず配位数が6であると仮定して決定した値をいい、「電気陰性度」とは、田中ら(雑誌「触媒」, 1964, 6, p262)により見積もられた金属イオンの電気陰性度をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実験例によって以下に説明する。
【実施例】
【0032】
[実験例1]
エステル化触媒であるヘテロポリ酸金属塩を以下のようにして調製した。ここでは、ヘテロポリ酸金属塩の代表例として、リンタングステン酸ビスマス塩(表1の実験例1-3参照)について説明する。まず、リンタングステン酸(H3PW124・nH2O)(日本無機化学工業(株)製)をロータリーエバポレーターにより60℃で減圧下乾燥処理を行い、H3PW1240・6H2Oとした。これを水に溶解し、リンタングステン酸水溶液(0.1mol/L)を調製した。これとは別に、硝酸ビスマス(BiNO3・5H2O)(キシダ化学(株)製)と硝酸(60%)(硝酸ビスマス1gに対して4ml)を水に加え、硝酸ビスマス水溶液(ビスマスカチオンとして0.1mol/L)を調製した。そして、リンタングステン酸水溶液を撹拌した状態で、これにビスマス水溶液をリンタングステン酸水溶液と同量滴下した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧下濃縮乾固させた後、粉末のリンタングステン酸ビスマス塩(BiPW124)を得た。
【0033】
表1に示す他のリンタングステン酸金属塩についても、対応する金属無機塩水溶液をビスマス水溶液の代わりに用いて上述した方法に準じて調製した。但し、ビスマス以外は硝酸(60%)を添加しなかった。また、本実施例のリンタングステン酸アニオン(PW12403-)は3価であるため、金属無機塩水溶液の金属カチオンが4価のものについてはリンタングステン酸の0.75当量添加し、3価のものについてはリンタングステン酸と当量添加し、2価のものについてはリンタングステン酸の1.5当量添加した。なお、表1の実験例1-16のリンタングステン酸酸性セシウム塩については、特開平11-152248号公報に準じて作製した。表1の実験例1-1~1-10は実施例、実験例1-11~1-17は比較例である。
【0034】
続いて、これらのリンタングステン酸金属塩をエステル化触媒として、エステル化反応を行った。即ち、温度計と水冷冷却器と脱水用のモレキュラーシーブス3A0.5g(400℃で2h焼成後真空デシケータ中で保管したもの)を備えた20mlの2つ口ガラス製フラスコに、2mmolのn-オクタノール、2mmolのデカン酸及び溶媒として5mlのトルエンを仕込み、表1に示した各種のエステル化触媒をアルコールに対して表1に示した触媒量となるように添加した。その後、反応温度130℃(還流条件)に維持して撹拌しながら反応を行った。反応開始から適時、反応混合物を少量採取し、ガスクロマトグラフ(GC)により定量分析した。GCの条件は、装置:(株)島津製作所製のGC-14B(検出器:FID)、カラム:Agilent Technologies製のDB-1、昇温速度:20℃/min、到達温度:280℃、キャリアガス:N2、流速:65ml/min、内部標準物質:n-ドデカンとした。その結果を表1に示す。なお、生成物の同定はGC-MSにより行った。
【0035】
表1の結果から、エステル化触媒としてヘテロポリ酸のすべてのプロトンをHf4+,Sn4+,Bi3+,Zr4+,Ga3+,In3+,Sc3+,Cu2+,Pb2+,Fe3+のいずれかの金属カチオンに交換したものを使用した場合(実験例1-1~10)には、公知のエステル化触媒であるヘテロポリ酸酸性セシウム塩(実験例1-16)を使用して同時間つまり6時間反応した場合に比べて、エステル収率が1割以上上回った。これらの金属カチオンは、電気陰性度が9以上のものである。また、金属カチオンがHf4+,Sn4+,Bi3+,Zr4+,Ga3+,In3+,Sc3+の場合(実験例1-1~7)には、ヘテロポリ酸酸性セシウム塩(実験例1-16)を使用してエステル収率が最大になるまで反応した場合と比べても、エステル収率が上回った。これらの金属カチオンは、電気陰性度が9以上でイオン半径が70pm以上120pm以下で価数が3価又は4価のものである。このうち、特に金属カチオンがHf4+,Sn4+,Bi3+,Zr4+のように電気陰性度が11以上でイオン半径が80pm以上120pm以下で価数が3価又は4価の金属カチオンに交換したものを使用した場合(実験例1-1~4)、エステル収率が80%以上という好結果が得られた。
【0036】
【表1】
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【0037】
[実験例2]
エステル化触媒の再使用を試みた。まず、実験例2-1では、実験例1のエステル化反応にしたがって、フレッシュなリンタングステン酸ビスマス塩を用いてデカン酸とn-オクタノールからデカン酸オクチルを合成した。その結果、表2に示すように、エステル収率が88%、触媒回収率が70%であった。触媒の回収は、エステル化反応終了後、反応混合液から遠心分離した固形物につき、トルエンで洗浄し再度遠心分離を行う操作を2回繰り返したあと、100℃の乾燥機にて3時間乾燥することにより行った。続いて、実験例2-2では、実験例2-1で回収したエステル化触媒を使用した以外は実験例2-1と同様にしてデカン酸オクチルを合成した。その結果、表2に示すように、エステル収率が86%、触媒回収率が78%であった。このことから、このエステル化触媒は再使用可能なことがわかった。
【0038】
【表2】
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【0039】
[実験例3]
触媒の回収率を上げるためにセシウムカチオンを含むエステル化触媒を以下のようにして調製した。即ち、リンタングステン酸(H3PW124・nH2O)(日本無機化学工業(株)製)をロータリーエバポレーターにより60℃で減圧下乾燥処理を行い、H3PW1240・6H2Oとした。これを水に溶解し、リンタングステン酸水溶液(0.1mol/L)を調製した。これとは別に、炭酸セシウム水溶液(0.1mol/L)と硝酸ビスマス水溶液(0.1mol/L)を調製した。そして、これに炭酸セシウム水溶液と硝酸ビスマス水溶液を、セシウムとビスマスが表3のエステル化触媒の欄に示す分子式の組成に合うように混合し、そこへさらに硝酸(60%)(硝酸ビスマス1gに対して4ml)を添加して混合溶液とした。続いて、リンタングステン酸水溶液を撹拌した状態で、この混合溶液を滴下した。このとき滴下した混合溶液の量は、表3のエステル化触媒の欄に示す分子式の組成に合うように決定した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧下濃縮乾固させた後、所望のリンタングステン酸のセシウム・ビスマス混合塩を得た(表3参照)。
【0040】
続いて、これらのリンタングステン酸のセシウム・ビスマス混合塩をエステル化触媒として、実施例1と同様にしてデカン酸とn-オクタノールからデカン酸オクチルを合成した。その結果を表3に示す。表3から、セシウムカチオンとビスマスカチオンを併用することにより、触媒回収率が向上することがわかった(実験例3-1~3及び実験例1-3を参照)。但し、セシウムカチオンの比率が高いとエステル収率が低下する傾向が見られた。
【0041】
【表3】
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【0042】
[実験例4]
ヘテロポリ酸としてリンタングステン酸以外のものを用いてエステル化触媒を調製した。即ち、実施例1のエステル化触媒の調製方法において、リンタングステン酸の代わりに、ケイ素タングステン酸(H4SiW124)、リンモリブデン酸(H3PMo124)、ケイ素モリブデン酸(H4SiMo124)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にしてヘテロポリ酸水溶液(0.1mol/L)を調製した。これとは別に、硝酸ビスマス(BiNO3・5H2O)(キシダ化学(株)製)と硝酸(60%)(硝酸ビスマス1gに対して4ml)を水に加え、ビスマス水溶液(ビスマスカチオンとして0.1mol/L)を調製した。そして、ヘテロポリ酸水溶液を撹拌した状態で、これにビスマス水溶液を滴下した。このとき滴下したビスマス水溶液の量は、表4のエステル化触媒の欄に示す分子式の組成に合うように決定した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧下濃縮乾固させた後、所望のヘテロポリ酸ビスマス塩を得た。
【0043】
続いて、これらのヘテロポリ酸ビスマス塩をエステル化触媒として、実施例1と同様にしてデカン酸とn-オクタノールからデカン酸オクチルを合成した。その結果を表4に示す。表4から、各種のヘテロポリ酸ビスマス塩がエステル化触媒に適していることがわかった。
【0044】
【表4】
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【0045】
[実験例5]
エステル化反応を無溶媒で行った。即ち、リンタングステン酸ビスマス塩をエステル化触媒として表5に示す触媒量だけ使用して、無溶媒で反応温度130℃という条件下、デカン酸とn-オクタノールからデカン酸オクチルを合成した。その結果を表5に示す。表5から、無溶媒でも高いエステル収率が得られることがわかった。また、ターンオーバー数が高い値を示したことから、このエステル化触媒の触媒能が高いことがわかった。
【0046】
【表5】
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【0047】
[実験例6]
不飽和カルボン酸のエステル化反応を行った。即ち、リンタングステン酸スズ塩をエステル化触媒として表6に示す触媒量だけ使用して、ベンゼン中で反応温度80℃という条件下、アクリル酸とn-ブタノール(モル比1:1)からアクリル酸ブチルを合成した。その結果を表6に示す。表6から、不飽和カルボン酸エステルも高収率で合成できることがわかった。なお、実験例2-1~2-2,実験例3-1~3-3,実験例4-1~4-3,実験例5-1~5-2,実験例6は、実施例である。
【0048】
【表6】
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【0060】
なお、本発明は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えばエステル化触媒及びそれを利用したエステル製造方法は医薬品や農薬の中間体として利用される種々のカルボン酸エステルを製造する際に利用することができる