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明細書 :IgA腎症関連抗体の検出法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4701391号 (P4701391)
公開番号 特開2007-010540 (P2007-010540A)
登録日 平成23年3月18日(2011.3.18)
発行日 平成23年6月15日(2011.6.15)
公開日 平成19年1月18日(2007.1.18)
発明の名称または考案の名称 IgA腎症関連抗体の検出法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C07K  14/195       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAN
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/53 D
C07K 14/195
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2005-193439 (P2005-193439)
出願日 平成17年7月1日(2005.7.1)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年2月25日 日本細菌学会発行の「日本細菌学雑誌 第60巻 第1号」に発表
審査請求日 平成20年6月27日(2008.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】鳥居 啓三
【氏名】太田 美智男
【氏名】岡本 陽
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 鈴木他,医学のあゆみ,1999年,Vol.190,No.1,p.2-7
Medical Practice,2000年,Vol.17,No.11,p.1904
調査した分野 G01N 33/48-98
G01N 33/15
C07K 14/195
C12N 15/09
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のステップを含む、試料中のIgA腎症関連抗体の検出法、
(1)配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出するステップ、及び
(2)配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出ステップ。
【請求項2】
以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のタンパク質を含む、IgA腎症診断用又はIgA腎症研究用試薬、
(1)配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び
(2)配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質。
【請求項3】
請求項に記載の試薬と使用説明書とを含む、IgA腎症診断用キット。
【請求項4】
抗IgA抗体を更に含む、請求項に記載のIgA腎症診断用キット。
【請求項5】
以下の(1)又は(2)のステップを含む、IgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法、
(1)配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体とが免疫複合体を形成することに対する、試験化合物の阻害活性を調べるステップ、
(2)配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体との免疫複合体が腎糸球体に結合することに対する、試験物質の阻害活性を調べるステップ。
【請求項6】
以下の(1-1)及び(1-2)のステップを含むことを特徴とする、請求項に記載のスクリーニング方法、
(1-1)試験化合物の存在下及び非存在下において、配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体とをin vitroで接触させるステップ、
(1-2)前記タンパク質と前記IgA抗体との免疫複合体の形成量を、試験化合物の存在下で前記ステップ(1-1)を実施したときと、試験化合物の非存在下で前記ステップ(1-1)を実施したときとの間で比較するステップ。
【請求項7】
以下の(2-1)~(2-4)のステップを含むことを特徴とする、請求項に記載のスクリーニング方法、
(2-1)配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列からなる、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体との免疫複合体を用意するステップ、
(2-2)試験化合物と前記免疫複合体とを非ヒト動物に投与するステップ、
(2-3)前記非ヒト動物の腎糸球体への前記免疫複合体の結合量を検出するステップ、及び
(2-4)ステップ(2-3)で検出した結合量を、前記免疫複合体のみを非ヒト動物に投与した場合に検出される結合量と比較するステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はIgA腎症の診断、治療、又は研究分野において有用な手段に関する。
【背景技術】
【0002】
IgA腎症は本邦で頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、その予後は一般に不良である。IgA腎症では組織学的な特徴として糸球体メサンギウム領域へのIgA沈着、メサンギウム細胞の増殖、及び細胞外基質の増加が認められる。IgA腎症の発症原因は未だ不明であるが、発症には病因抗原の存在が重要であり、病因抗原とそれに対するIgA抗体との免疫複合体が糸球体沈着を繰り返すことによってIgA腎症が引き起こされると考えられている。これまで、自己抗原、食物抗原、ウイルス抗原、細菌抗原などが病因抗原の候補として報告されてきた。特に細菌については黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌などの関与が指摘されている(非特許文献1~3)。その中で1994年には、上気道や口腔内に常在する細菌であるヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜タンパク質がIgA腎症の発症に関与しているとの報告がなされた(非特許文献4)。これを受けてヘモフィルス・パラインフルエンザのhpnAなどの遺伝子がIgA腎症の原因として報告された(鳥居ら 第75回 日本細菌学会 横浜 2002年4月)。
【0003】

【非特許文献1】Davin, J.C., Malaise, M., Foidart, J., and Mahieu, P. 1987. Anti-alpha-galactosyl antibodies and immune complexes in children with Henoch-Schonlein purpura or IgA nephropathy. Kidney Int 31:1132-1139.
【非特許文献2】Endo, Y., Kanbayashi, H., and Hara, M. 1993. Experimental immunoglobulin A nephropathy induced by gram-negative bacteria. Nephron 65:196-205.
【非特許文献3】Koyama, A., Sharmin, S., Sakurai, H., Shimizu, Y., Hirayama, K., Usui, J., Nagata, M., Yoh, K., Yamagata, K., Muro, K., et al. 2004. Staphylococcus aureus cell envelope antigen is a new candidate for the induction of IgA nephropathy. Kidney Int 66:121-132.
【非特許文献4】Suzuki, S., Nakatomi, Y., Sato, H., Tsukada, H., and Arakawa, M. 1994. Haemophilus parainfluenzae antigen and antibody in renal biopsy samples and serum of patients with IgA nephropathy. Lancet 343:12-16.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の背景の下で本発明は、IgA腎症の原因抗原を特定し、IgA腎症の診断分野、治療分野、又は研究分野において有用な手段を提供することを目的とする。具体的には、IgA腎症の診断に有用な情報を得る手段及びそれを用いたIgA腎症の診断法、IgA腎症の診断や研究に有用な試薬やキット、IgA腎症に対する医療措置に有用な物質のスクリーニング法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはIgA腎症の発症にヘモフィルス・パラインフルエンザが関与しているとの仮説を立て、IgA腎症の原因抗原の同定を試みた。ところで、これまでにもIgA腎症に何らかの細菌感染を示唆する結果がいくつか報告されてきた。しかしながら最終的に原因抗原の決定まで至ったものは非常に少ない。その理由は、目的タンパク質の同定に頻用されてきた従来の手法では、イムノブロット後の目的タンパク質の同定が非常に困難であるからである。また、通常のエドマン分解法によるアミノ酸配列の決定では数種類のタンパク質を含むサンプルを同時に解析することは不可能であるため、原因抗原としての目的タンパク質を単一のタンパク質として分離する工夫が必要である。このような場合には一般に二次元電気泳動が利用されるが、二次元電気泳動は非常に時間を要する上、再現性の良いデータを得るためには相当の習熟を必要とする。さらには、前述のエドマン分解法によるアミノ酸の解析では、アミノ酸残基一つの決定に通常は1時間程度を要し、従ってデータベースとの照合に必要な最低限のアミノ酸配列情報を得るためには相当の時間が必要であり、多数のタンパク質の解析には向かない技術であった。このような事情に鑑み本発明者らは、ヘモフィルス・パラインフルエンザからのIgA腎症の原因抗原を同定する手段として、これまでの手法とは全く異なる新たな手法を導入した。即ち、まずヘモフィルス・パラインフルエンザの外膜タンパク質を電気泳動で分離した後、PVDF膜に転写した。続いて、この転写後のPVDF膜に対してIgA腎症患者の血清と健常人の血清を反応させ、IgA腎症患者の血清に対して特異的に反応するバンドを特定し、切り出した。その後、トリプシン消化、抽出操作を行い、得られたペプチド断片を質量分析に供した。その結果決定されたアミノ酸配列を既報のデータベースに照合した。このように、IgA腎症患者の血清中に含まれる抗体が認識する抗原タンパク質をイムノブロット後の膜より抽出し、質量分析で直接同定するという手法によってIgA腎症の原因抗原を同定することを試みた。その結果、IgA腎症患者の血清が特異的に認識する抗原タンパク質として、ヘモフィルス属の外膜タンパク質(OMP)として登録されているタンパク質(outer membrane protein [Haemophilus sp.], ACCESSION:CAA07454, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、及びヘモフィルス・パラインフルエンザの外膜P6タンパク質(OMP P6)として登録されているタンパク質(outermembrane P6 protein homologue [Haemophilus parainfluenzae], ACCESSION:BAA06035, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を見出すに至った。これらの抗原タンパク質の中でそれをコードする全塩基配列が既知であったOMPについては組換えタンパク質を調製し、それとIgA腎症患者の血清との反応性を調べた。その結果、IgA腎症患者の血清には共通してOMPに対する抗体が高率に存在することが確認された。一方、OMP P6については部分アミノ酸しか明らかになっていなかったことから全長アミノ酸配列の決定を試み、これに成功した。
【0006】
本発明は以上の成果に基づき完成されたものであって以下の構成を提供する。即ち本発明の第1の局面はIgA腎症関連抗体の検出法に関し、具体的には以下の構成からなる。
[1]以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のステップを含む、試料中のIgA腎症関連抗体の検出法、
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出するステップ、及び
(2)ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出ステップ。
[2]前記ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列であり、
前記ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列である、
ことを特徴とする、上記[1]に記載の検出法。
【0007】
本発明の他の局面は、同定に成功した抗原タンパク質の試薬又はキットとしての利用に関し、具体的には以下の構成からなる。
[3]以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のタンパク質を含む、IgA腎症診断用又はIgA腎症研究用試薬、
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及び
(2)ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質。
[4]前記ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列であり、
前記ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列である、
ことを特徴とする、上記[3]に記載の試薬。
[5]上記[3]又は[4]に記載の試薬と使用説明書とを含む、IgA腎症診断用キット。
[6]抗IgA抗体を更に含む、上記[5]に記載のIgA腎症診断用キット。
【0008】
本発明の更なる局面はIgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法に関し、具体的には以下の構成かならなる。
[7]以下の(1)又は(2)のステップを含む、IgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法、
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体とが免疫複合体を形成することに対する、試験化合物の阻害活性を調べるステップ、
(2)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体との免疫複合体が腎糸球体に結合することに対する、試験物質の阻害活性を調べるステップ。
[8]以下の(1-1)及び(1-2)のステップを含むことを特徴とする、上記[7]に記載のスクリーニング方法、
(1-1)試験化合物の存在下及び非存在下において、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体とをin vitroで接触させるステップ、
(1-2)前記タンパク質と前記IgA抗体との免疫複合体の形成量を、試験化合物の存在下で前記ステップ(1-1)を実施したときと、試験化合物の非存在下で前記ステップ(1-1)を実施したときとの間で比較するステップ。
[9]以下の(2-1)~(2-4)のステップを含むことを特徴とする、[7]に記載のスクリーニング方法、
(2-1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体との免疫複合体を用意するステップ、
(2-2)試験化合物と前記免疫複合体とを非ヒト動物に投与するステップ、
(2-3)前記非ヒト動物の腎糸球体への前記免疫複合体の結合量を検出するステップ、及び
(2-4)ステップ(2-3)で検出した結合量を、前記免疫複合体のみを非ヒト動物に投与した場合に検出される結合量と比較するステップ。
[10]前記ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:1の配列又はそれと実質的に同一の配列であり、
前記ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号:2の配列又はそれと実質的に同一の配列である、
ことを特徴とする、上記[8]又は[9]に記載のスクリーニング方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の局面は、試料中のIgA腎症特異的抗体の検出法に関する。本発明の検出法は、以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のステップを含む。
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出するステップ
(2)ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質に特異的に結合するIgA抗体を検出ステップ
【0010】
本発明の検出法を実施して得られる情報はIgA腎症の診断に利用される。例えば、IgA腎症の患者を対象として上記方法を実施して得られた情報は、当該患者の病態の評価ないし把握、治療効果の評価などに利用できる。例えば、IgA腎症の治療と並行して本発明の方法を実施すれば、結果として得られる情報を基に治療効果を評価することができる。具体的には、薬剤投与後に本発明の方法を実施することで特定の抗原タンパク質に対する抗体の量の増減から治療効果を判定することができる。このように本発明の方法を治療効果のモニターに利用してもよい。一方、患者以外の者、即ちIgA腎症が認定されていない者を対象とした場合に得られた情報は、IgA腎症に関して罹患の有無の判定、罹患リスクの評価等に利用できる。
本発明の検出法では、発症に関わる過程を測定対象とすることから、特に早期診断に有用な情報を与える。
【0011】
本発明の検出法では、IgA腎症の病因抗原として決定されたタンパク質(抗原タンパク質)に特異的結合性を有するIgA抗体を検出する。ここでの抗原タンパク質はヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質(本明細書において「OMP」とも呼ぶ)、又はヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質(本明細書において「OMP P6」とも呼ぶ)である。以下に示すように、OMPについてはその全長アミノ酸配列が明らかにされている。
OMP:outer membrane protein [Haemophilus sp.], ACCESSION:CAA07454, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/(配列番号:1)
一方、OMP P6については、後述の実施例に示すように、本発明者らによって全長アミノ酸配列(配列番号:2)が明らかとなった。尚、以下に示すようにOMP P6はデータベース上に登録されており、その部分アミノ酸配列が示されている。
OMP P6:outermembrane P6 protein homologue [Haemophilus parainfluenzae], ACCESSION:BAA06035, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/(配列番号:8)
【0012】
特定の抗原タンパク質に対する、試料中の抗IgA抗体は例えば免疫学的手法で検出することができる。免疫学的検出法によれば迅速で感度のよい検出が可能となる。また、操作も簡便である。尚、免疫学的検出法としては例えばELISA法、ラジオイムノアッセイ、FACS、免疫沈降法、イムノブロッティング等の方法が挙げられる。
免疫学的検出法の一例を以下に示す。
(1)まず、不溶性支持体に固定した抗原タンパク質(例えばOMP)を用意する。不溶性支持体としては例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂や、ガラス等の水に不溶性の物質を用いることができる。抗原タンパク質は、それを保有する細菌から抽出、分離することによって得ることができる(Gousset, N et al.,Infect. Immun. 67(1), 8-15 (1999)等を参照できる)。また、各タンパク質の配列情報を利用することによって組換えタンパク質として得ることもできる。即ち、配列番号:1又は配列番号:2のアミノ酸配列をコードする核酸を適当な宿主細胞内で発現させて得られる組換えタンパク質を本発明の検出法に使用できる。このような遺伝子工学的手法によれば目的のタンパク質を均質に且つ大量に得ることが比較的容易である。
配列番号:1又は配列番号:2のアミノ酸配列と実質的に同一の配列を有するタンパク質を抗原タンパク質として用いることもできる。アミノ酸配列に関して使用する用語「実質的に同一」とは、比較される二つのアミノ酸配列間で配列上の相違が比較的小さく且つ配列上の相違が抗原タンパク質の機能、即ち抗原タンパク質が生体中のIgAと結合して免疫複合体を形成し、IgA腎症の原因となることに関して実質的な影響を与えないことを意味する。基準となるアミノ酸配列に対して、抗原タンパク質の機能に実質的な影響を与えない範囲で一部の改変を含んでいるとみることができるアミノ酸配列は実質的に同一なアミノ酸配列である。ここでの「アミノ酸配列の一部の改変」とは、アミノ酸配列を構成する1~数個のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変化が生ずることをいう。アミノ酸配列の変異の位置は特に限定されず、複数の位置で変異を生じていてもよい。ここでの複数とはアミノ酸配列を構成する全アミノ酸の例えば10%以内に相当する数であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内に相当する数である。さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内に相当する数である。
二つのアミノ酸が実質的に同一であるか否かは例えば、各アミノ酸配列を含むタンパク質(他の領域の配列は同一)とIgA腎症の患者の血清との反応性を比較することによって判定できる。例えば、比較される二つのタンパク質を用いて反応性を調べたときに反応性に大差がなければ両者の間に実質的な同一性を認定できる。
【0013】
(2)次に、不溶性支持体に固定化した抗原タンパク質(固相化抗原)に対して試料を接触させる。本発明の検出法に供する試料としては、対象(IgA腎症の患者又は健常者)の血清、血漿、尿、髄液、腹水、胸水等の生体液が用いられる。好ましくは血清が用いられる。血清を用いれば簡便な測定が可能である。
【0014】
(3)非特異的結合成分を洗浄除去した後、標識化抗IgA抗体(ヒト由来の試料を使用した場合は標識化抗ヒトIgA抗体)を反応させる。続いて、非特異的結合成分を洗浄除去した後、結合した標識量を検出する。抗体の標識化には例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、オレゴングリーン等の蛍光色素、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ等の酵素、ルミノール、アクリジン色素等の化学又は生物発光化合物、32P、131I、125I等の放射性同位体、及びビオチン等を用いることができる。尚、標識化抗IgA抗体は例えば株式会社医学生物学研究所より入手可能である。勿論、市販の抗IgA抗体や、生体試料から分離・精製したIgA抗体を常法で標識化して得られる標識化IgA抗体を用いてもよい。
【0015】
(IgA腎症診断用又は研究用試薬)
本発明の他の局面はIgA腎症診断用又はIgA腎症研究用試薬に関する。本発明の試薬は、本発明の検出法における抗原タンパク質として好適に使用され得る。或いは、IgA腎症の発症メカニズムや症状の進展メカニズムなどを研究するための実験ツールとして使用され得る。また、後述のスクリーニング方法における抗原タンパク質として、或いは後述のスクリーニング方法に使用されるIgA抗体を調製するための抗原として本発明の試薬を使用することもできる。
【0016】
本発明の試薬は、IgA腎症の病因抗原として決定されたタンパク質を含む。具体的には、以下の(1)及び(2)からなる群より選択される一以上のタンパク質を含むことを特徴とする。
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質
(2)ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質
【0017】
本発明の試薬を構成するタンパク質は、好ましくは配列番号:1又は配列番号:2のアミノ酸配列又はそれと実施的に同一の配列を有する。本発明の試薬は、不溶性支持体に固定化された状態(固相化試薬)で提供されてもよい。また、標識化された状態(蛍光標識、酵素標識など)で提供されてもよい。
【0018】
(本発明に使用されるキット)
本発明の各方法(IgA腎症特異的抗体の検出法、後述のIgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法)を、キット化した試薬等を用いて実施してもよい。本発明の他の局面はこのような目的に使用されるキットを提供する。例えば、上記の本発明の試薬(IgA腎症診断用又はIgA腎症研究用試薬)、反応用試薬、希釈液、反応容器などをキットに含めることができる。尚、本発明のキットには通常、使用説明書が添付される。キットを用いることによって、本発明の方法をより簡便に且つより短時間で実施することが可能となる。
【0019】
IgA腎症特異的抗体の検出法を実施するためのキット(IgA腎症特異的抗体検出用キット、又はIgA腎症診断用キット)の好ましい一態様は、本発明の試薬に加えて標識化抗IgA抗体(検体としてヒトの試料が使用される場合には標識化抗ヒトIgA抗体)を含む。標識化抗IgA抗体は、本発明の試薬に結合した試料中の抗IgA量を検出することに使用される。従って、標識化抗IgA抗体を含むキットによれば、本発明の試薬(抗原タンパク質)と試料との接触による免疫複合体の形成、免疫複合体への標識化抗IgA抗体の結合、結合した標識量の測定といった一連の操作を実施可能となる。標識化抗IgA抗体に代えて、未標識の抗IgA抗体と、当該抗IgA抗体に対する標識化抗体(標識二次抗体)をキットに含めることにしてもよい。このようなキットによれば、本発明の試薬(抗原タンパク質)と試料との接触による免疫複合体の形成、免疫複合体への未標識抗IgA抗体の結合、未標識抗IgA抗体への標識化抗体の結合、結合した標識量の検出といった一連の操作を経て、試料中に存在する目的のIgA抗体が検出される。
【0020】
本発明のキットに標準試料を含めてもよい。ここでの標準試料は、本発明のキットを使用して検出等を実施して得られる結果を評価するための基準となり、特定の抗原タンパク質に対するIgA抗体を所定量含む。例えば、IgA腎症患者の血清より分離したIgA抗体を用いて標準試料を調製することができる。また、遺伝子工学的手法で調製したIgA抗体を用いて標準試料を調製してもよい。
本発明のキットに、抗原抗体反応や染色等、免疫染色を実施する上で必要な一以上の試薬(例えば非特異的結合を阻害するためのBSA、緩衝液など)や器具などを更に含めてもよい。
【0021】
(IgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法)
本発明は更なる局面としてIgA腎症に有効な化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法で選抜された化合物は抗IgA腎症に関する医療措置に対して有効であると期待される。即ち、本発明のスクリーニング方法によって選抜された化合物はIgA腎症に対する薬剤の有力な候補又はそのような薬剤を開発する際の有用な材料となる。選抜された化合物がIgA腎症に対して十分な薬効を有する場合にはそのまま薬剤の有効成分として使用することができる。一方、十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で薬剤の有効成分としての使用に供することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
【0022】
本発明のスクリーニング方法は以下の(1)又は(2)のステップを含む。
(1)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体とが免疫複合体を形成することに対する、試験化合物の阻害活性を調べるステップ
(2)ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質からなる群より選択されるタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合するIgA抗体との免疫複合体が腎糸球体メサンギウム領域に結合(沈着)すること対する、試験物質の阻害活性を調べるステップ
【0023】
ここで、病因抗原とそれに対するIgA抗体とが免疫複合体を形成し、当該免疫複合体が腎糸球体(特にメサンギウム領域)に沈着を繰り返すことによってIgA腎症が引き起こされていると考えられている。従って、IgA腎症の発症及び進展を阻害ないし抑制するためには、病因抗原とIgA抗体との免疫複合体の形成を阻害すること、及び免疫複合体の腎糸球体への結合を阻害することが有効である。ステップ(1)によれば、病原抗原とIgA抗体との免疫複合体の形成を阻害することで薬効を発揮することが可能な化合物を選抜することができる。他方、ステップ(2)によれば、免疫複合体が腎糸球体に結合(沈着)することを阻害することで薬効を発揮することが可能な化合物を選抜することができる。このように、ステップ(1)によって選抜される化合物も、ステップ(2)によって選抜される化合物も、IgA腎症の発症及び進展に重要な過程の一部を阻害する点においてIgA腎症の治療又は予防に有効である。
【0024】
本発明のスクリーニング方法に供する試験化合物としては、様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド等))又は無機化合物を用いることができる。試験化合物は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、細胞抽出液、培養上清などを試験化合物として用いてもよい。
【0025】
本発明のスクリーニング方法では抗原タンパク質として、ヘモフィルス属(Haemophilus sp.)細菌の外膜タンパク質(OMP)、及びヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)の外膜P6タンパク質(OMP P6)からなる群より選択されるタンパク質を使用する。これらのタンパク質は、上述のように、それを保有する細菌からの抽出、分離、又はそのアミノ酸配列情報(配列番号:1及び配列番号:2)を利用した遺伝子工学的手法によって得ることができる。
【0026】
ステップ(1)は例えば以下の手順で実施することができる。まず、試験化合物の存在下及び非存在下において、抗原タンパク質とそれに対するIgA抗体とをin vitroで接触させる(ステップ(1-1))。特定の抗原タンパク質に対するIgA抗体は例えばIgA腎症患者の血清より分離・精製することができる。抗原タンパク質とIgA抗体との接触は例えば次のように実施する。即ち、プレートや膜、或いはビーズ等の不溶性支持体に固定した抗原タンパク質に対して反応用溶液内でIgA抗体を接触させる。所定時間経過した後、適当な溶液で洗浄することで非特異的結合成分を除去する。
次に、抗原タンパク質とIgA抗体とからなる免疫複合体の形成量を、試験化合物の存在下でステップ(1-1)を実施したときと、試験化合物の非存在下でステップ(1-1)を実施したときとの間で比較する(ステップ(1-2))。その結果、試験化合物の存在下の条件の方が免疫複合体の形成量が少なければ、免疫複合体の形成を阻害する活性を試験化合物が有すると判断し、当該試験化合物を有望な薬剤候補として選抜する。
免疫複合体の形成量は、抗原タンパク質に結合しているIgA抗体の検出によって求めることができる。抗原タンパク質に結合しているIgA抗体の検出には例えば標識化抗IgA抗体を利用できる。即ち、標識化抗IgA抗体を反応させ、特異的に結合した標識量を測定すれば、抗原タンパク質に対して結合したIgA抗体量(即ち免疫複合体形成量)を間接的に算出することができる。
【0027】
一方、ステップ(2)は例えば以下の手順で実施することができる。まず、抗原タンパク質とそれに対するIgA抗体との免疫複合体を用意する(ステップ(2-1))。抗原タンパク質とIgA抗体との免疫複合体は、抗原タンパク質とIgA抗体とを両者が結合可能な条件下で接触させることによって調製することができる。
次に、試験化合物と免疫複合体とを非ヒト動物に投与する(ステップ(2-2))。非ヒト動物とは例えばヒト以外の霊長類(サル、チンパンジーなど)、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ等である。この中でもマウス又はラットを好適に用いることができる。投与経路は特に限定されず、経口投与、静脈内投与(注射)、皮内投与(注射)、皮下投与(注射)、経皮投与、口腔内投与等から適当なものを選択できる。
試験化合物の投与量、及び免疫複合体の投与量は任意に設定可能である。例えば、非ヒト動物に致死的な影響を与えない範囲で可能な限り最大の投与量とすることができる。
投与回数も任意に設定可能である。例えば、投与回数を1回~20回の範囲内とする。
【0028】
投与後、非ヒト動物の腎糸球体(特にメサンギウム領域)への免疫複合体の結合量(沈着量)を検出する(ステップ(2-3))。例えば、標識化抗IgA抗体を用いた免疫学的方法によって免疫複合体の結合量を検出することができる。
【0029】
次に、ステップ(2-3)で検出した結合量を、免疫複合体のみを非ヒト動物に投与した場合に検出される結合量と比較する(ステップ(2-4))。例えばまず、試験化合物と免疫複合体を投与する動物個体(投与群)と免疫複合体のみを投与する動物個体(非投与群)とを用意し、投与群と非投与群それぞれについて腎糸球体への免疫複合体の結合量を検出する。続いて、投与群の結合量と非投与群の結合量とを比較する。その結果、試験化合物を投与した条件の方が免疫複合体の結合量が少なければ、免疫複合体の腎糸球体への結合を阻害する活性を試験化合物が有すると判断し、当該試験化合物を有望な薬剤候補として選抜する。
【実施例1】
【0030】
1.IgA腎症に関与する抗原タンパク質の同定
(1)ヘモフィルス・パラインフルエンザ菌の外膜タンパク質の調製、及びウエスタンブロット
以下の手順に従い、IgA腎症患者の咽頭より分離培養したH.parainfluenzae 6株より外膜蛋白質を調製し、グラジエントゲルを用いて分離した(Haemophilus parainfluenzae:108-62,108-63,108-64,108-66,111-106,111-107)。まず、一夜培養したH.parainfluenzaeを集菌し、超音波処理に供して菌体を破砕した。続いて菌体破砕液を遠心分離(12000rpm、20分)した。得られた上清を分離し、遠心分離に供した(38000rpm、60分)。得られた沈渣(ペレット)を外膜タンパク質とした。次に、グラジエントゲル(10%~20%)を用いたSDS-PAGEに外膜タンパク質を供した。
続いて、常法に従い、SDS-PAGE後のゲルよりタンパク質をPVDF膜に転写した後、0.5% ポリビニルピロリドン40(Polyvinylpyrrolidone40:PVP40)でブロッキングを行った。尚、PVDF膜から抽出したサンプルをESI-MS/MSに直接かけることを前提として、ポリビニルピロリドン40(Polyvinylpyrrolidone40)やグリシン等のアミノ酸を使ってブロッキングの条件を検討したところ、0.5%PVP40によるブロッキングが最適であることがわかった。
ブロッキング後のPVDF膜に対して、1次抗体として5人のIgA腎症患者血清および対照として健常人の血清を反応させた(1000倍希釈の血清を使用、室温、一晩)。続いて、非特異的結合成分を洗浄除去(1×PBSによる洗浄、合計3回)した後、2次抗体としてHRP標識ヤギ抗ヒトIgA(HRP-conjugate goat anti-human IgA)抗体を反応させた(室温、60分間)。発色基質(H2O2)を添加して発色させたところ、分子量約38kDと約15kDの位置にIgA患者特異的なバンドが認められた(図1)。これらIgA腎症患者特異的なバンドをPVDF膜より切り出してチューブに移した後、トリプシンを作用させた(on membrane digestion、室温、一晩)。トリプシン消化によって得られたペプチド断片を以下の質量分析に供した。
【0031】
(2)質量分析、データベース検索
質量分析はESI-MS/MS(エレクトロスプレイイオン化タンデム質量分析)を用いた。詳細には、上記操作で得られたペプチド断片をLCQ Advantge装置(Themo Finigan社製)で分析し、得られた結果を使用してMS/MS Ion Search(Matrix Science社製)を行った。このようにして決定されたペプチド断片のアミノ酸配列を既報のデータベース(NCBInr)に照合した。その結果、IgA腎症の原因抗原と考えられる2種類のタンパク質(OMP及びOMP P6)が同定された(図2)。OMP(ヘモフィルス属細菌の外膜タンパク質(配列番号:1):outer membrane protein [Haemophilus sp.], ACCESSION:CAA07454, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)は、IgA腎症患者の血清特異的に検出された約38kDのバンドに含まれていたタンパク質である。同様にOMP P6(ヘモフィルス・パラインフルエンザの外膜P6タンパク質(配列番号:8(部分アミノ酸配列)):Outermembrane P6 protein homologue, Haemophilus parainfluenzae:outermembrane P6 protein homologue [Haemophilus parainfluenzae], ACCESSION:BAA06035, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)は約15kDのバンドに含まれていたタンパク質である。
同定された抗原タンパク質の中でそれをコードする全塩基配列が既知のもの(OMP)については組換えタンパク質を作製し、以下の試験に使用した。一方、全塩基配列が未知のもの(OMP P6)についてはまず、近縁菌であるH.influenzaeの配列と比較し、PCR用のプレイマーを作製した。
フォワードプライマー:ATGAACAAATTTGTTAAATC(配列番号:4)
リバースプライマー: GTACGCTAACACTGCACGAC(配列番号:5)
これらのプライマーを用いてH.parainfluenzaeのゲノムDNAをテンプレートとしたPCRを行い、その産物をベクターにクローニングし、H.parainfluenzae OMP P6の全長アミノ酸配列及び全長塩基配列の決定を試みた。その結果、これらの配列を決定することに成功した。H.parainfluenzae OMP P6の全長アミノ酸配列及び全長塩基配列をそれぞれ配列番号:2及び配列番号:3に示す。
【0032】
2.同定された抗原タンパク質とIgA腎症患者血清との反応性
約38kDaのバンドから検出されたOMPは塩基配列も既知であったため、他のIgA腎症患者においても抗原となっていることを確認する目的で以下の試験を実施した。
(1)組換えタンパク質の作製
OMPを特異的に増幅可能な以下のプライマーを作製した。
フォワードプライマー:ATGAAAAAAACTGCAATC(配列番号:6)
リバースプライマー: TTTAGTACCGTTTACTGC(配列番号:7)
【0033】
H.parainfluenzaeのゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(95℃で2分の反応、94℃で30秒、50℃で30秒、72℃で3分の反応サイクルを合計30回、72℃で10分の反応)を実施した。以上の操作によって組換えOMPを得た後、pQEベクターにクローニングした。
【0034】
(2)組換えタンパク質を用いたイムノブロット
組換えOMPを用いて、患者血清及び健常人血清を一次抗体としたイムノブロットを実施した。尚、イムノブロットの手順は、抗原タンパク質の同定の際のイムノブロットの手順と同様とした。
イムノブロットの結果を図3に示す。全ての患者血清に対して明らかに顕著な反応が見られた。即ち、全ての患者の血清中にOMPを認識する抗体が高率に存在していることを確認した。
【0035】
3.まとめ
以上のように、IgA腎症患者に特異的なバンドをイムノブロット後の膜より切り出し、直接ESI MS/MSで解析することによって、IgA腎症の病因抗原と考えられるタンパク質(抗原タンパク質)を2種類同定することに成功した。換言すれば、IgA腎症の患者の血清中にはこれらの抗原タンパク質に対する抗体が存在することが明らかとなった。この成果より、同定に成功した抗原タンパク質に対するIgA抗体を検出すること(即ち、当該IgA抗体の存否又は存在量を調べること)がIgA腎症の診断に有用な情報を与えると考えられた。
一方、同定に成功したタンパク質の中でOMPについてはその組換えタンパク質を作製して患者血清との反応性を検証したところ、試験した全ての患者の血清中にOMPを認識する抗体が高率に存在することが確認された。この結果は、H.parainfluenzaeの外膜タンパク質であるOMPがIgA腎症の発症に関与していることを強く裏付けるものであり、OMPに対する抗体の存否又は存在量がIgA腎症の有効な診断マーカーとなることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の検出法によればIgA腎症の診断に有用な情報が得られる。即ち、本発明の検出法はIgA腎症の診断分野において高い利用価値を有する。また、本発明の検出法で得られる情報はIgA腎症患者の治療方針の決定にも有用である。
【0037】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ヘモフィルス・パラインフルエンザの外膜タンパク質に対してIgA腎症患者血清と健常人の血清(対照)を反応させたイムノブロットの結果である。使用した菌株はA:108-62、B:111-106、C:111-107、D:108-66である。約38kDと約15kDの位置にIgA腎症患者に特異的なバンドが認められる。
【図2】ESI MS/MSによる解析結果である。IgA腎症患者に特異的な約38kDのバンドに含まれていたタンパク質はOMP(ACCESSION:CAA07454)と同定された。同様に約15kDのバンドに含まれていたタンパク質はOMP P6(ACCESSION:BAA06035)と同定された。
【図3】組換えタンパク質(OMP)を用いたイムノブロットの結果である。IgA腎症患者の血清に対して明らかに顕著な反応が認められる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2