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明細書 :新規微生物及びそれを用いた有機性汚泥の処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4654437号 (P4654437)
公開番号 特開2006-230332 (P2006-230332A)
登録日 平成23年1月7日(2011.1.7)
発行日 平成23年3月23日(2011.3.23)
公開日 平成18年9月7日(2006.9.7)
発明の名称または考案の名称 新規微生物及びそれを用いた有機性汚泥の処理方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C02F  11/02        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12N 1/20 D
C12N 1/20 F
C02F 11/02 ZAB
請求項の数または発明の数 2
微生物の受託番号 FERM P-20399
全頁数 9
出願番号 特願2005-052397 (P2005-052397)
出願日 平成17年2月28日(2005.2.28)
審査請求日 平成19年10月3日(2007.10.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】尾川 博昭
【氏名】今泉 啓太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100077263、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 純博
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2005-205336(JP,A)
特開2003-250586(JP,A)
特開2004-081926(JP,A)
特開2003-024979(JP,A)
特開2004-261714(JP,A)
特表2005-526595(JP,A)
第39回日本水環境学会年会講演集,2005年 3月17日,p. 78
調査した分野 C12N 1/20
C02F 11/02
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
タンパク質分解酵素を産生し、有機性汚泥の分解能力を有する、ブレビバシラス(Brevibacillus)属細菌に属する、グラム陽性のブレビバシラス(Brevibacillus)sp. KH3株(受託番号FERM P-20399)として寄託された新規微生物。
【請求項2】
請求項1に記載の新規微生物を用いて、有機性汚泥を可溶化することを特徴とする有機性汚泥の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚泥の分解能力を有する新規微生物、及び、その微生物を用いた下水汚泥、各種生物性汚泥あるいは有機性汚泥の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道の普及に伴い、国内で発生する下水汚泥の量は年々増加する傾向にある。下水や排水などは、通常、活性汚泥法によって処理されるが、その際発生する余剰汚泥の量は、年々増加し続けており、下水余剰汚泥はわが国の産業廃棄物の割合の第一位を占めている。日本下水道協会の報告によれば、平成14年度に下水処理場で発生した汚泥の量は、4.3億m以上に上り、その有効利用率は60%となっている。一方、残りの約40%は埋め立て処分されているが、埋立て処分地の確保が年々困難になっており、その残余年数は全国平均3.9年とされている。また、余剰汚泥、動物の糞尿やその他の有機性汚泥などの廃棄物は、資源循環としてリサイクル枠の拡大はもちろんであるが、効率的な発生抑制も方策として重要であると認識されている。
【0003】
そして、微生物による汚泥の処理を効率的に実施するために、有益な微生物の探索が試みられており、例えば、特開2000-139449号(特許文献1)には、バシラス属細菌に属し、アルカリ性条件下で汚泥を分解する能力を有する微生物が、特開2002-125657号(特許文献2)には、有機性汚泥や生物性汚泥に含まれるタンパク質を分解するバシラス サチリスに属する微生物が、特開2003-235547号(特許文献3)には、有機性廃棄物中及び下水汚泥中の有機物を分解消滅する能力のあるシュードモナス属に属する微生物が、特開2003-245066号(特許文献4)には、排水処理等の環境浄化に役立つロドバクター属に属する微生物が、特開2004-267127号(特許文献5)には、有機性固形物の処理に有用なバシラス属に属する微生物が開示されている。しかしながら、産業的に実用化するには、必ずしも十分なものであるとは言えない。

【特許文献1】特開2000-139449号公報
【特許文献2】特開2002-125657号公報
【特許文献3】特開2003-235547号公報
【特許文献4】特開2003-245066号公報
【特許文献5】特開2004-267127号公報
【0004】
また、バシラス(Bacillus)属の好熱性細菌を利用した、余剰汚泥の減量化技術も提案されている(非特許文献1)。しかし、この好熱性細菌を増殖及び汚泥に作用させるためには、65℃といった高い温度が必要であり、その条件を満たすために、運転費用や設備投資などの多額の経費が避けられないという問題がある。

【非特許文献1】長谷川進著「汚泥の減量化と発生防止技術」248~270頁、エヌ・ティー・エス社(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、下水余剰汚泥等の減量化及び資源化のために、効率的で且つ取扱い易い微生物を見出すこと、そしてその微生物を用いた下水汚泥等の有機性汚泥の処理法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、タンパク質分解酵素を産生し、有機性汚泥の分解能力を有する、ブレビバシラス(Brevibacillus)属細菌に属するグラム陽性の新規微生物である。
【0007】
そして、請求項2記載の発明は、請求項1記載の微生物の中、更に機能特性を限定した微生物に係り、下水汚泥の重量濃度が25%である浮遊性固形分を、30~50℃、48時間の培養で10%以上減量化させ得る溶解能を有する請求項1記載の新規微生物である。
【0008】
また、請求項3の発明は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM P-20399として寄託された、ブレビバシラス(Brevibacillus)sp. KH3の菌株に係るものである。なお、この菌株と実質的に同じ特性を有する限り、その変異体も請求項3の発明に含まれるものである。
【0009】
更に本発明の他の態様は、請求項1~3のいずれかに記載された微生物を用いて、有機性汚泥を可溶化することを特徴とする有機性汚泥の処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブレビバシラス(Brevibacillus)sp. KH3の菌株を利用した汚泥減量化処理は、従来の活性汚泥法において発生する下水余剰汚泥を減らす上で、新たな装置を下水処理システムに組み込む必要はない。そして、本菌株は30℃から50℃という温度領域で増殖するため、培養にかかる光熱費も比較的安価にかつ容易に実践でき、下水余剰汚泥の減量化や標準活性汚泥法の改良などの産業上の利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において有機性汚泥とは、下水処理場、糞尿処理場等の下水処理プロセスから排出される生汚泥及び余剰汚泥等の生物性汚泥、あるいは食品工場、化学工場等の製造プロセス又は排水処理プロセスから排出される有機性汚泥等を全て包含するものである。そして、本発明の微生物は、タンパク質分解酵素を産生し、これらの有機性汚泥を分解する能力を有するものであり、学術的にはブレビバシラス(Brevibacillus)属細菌に属するグラム陽性の微生物である。
【0012】
かかる微生物を、本発明者らは、下水余剰汚泥の減量化及び資源化を研究目的として、50℃で馴養した余剰汚泥から、汚泥を溶解する微生物をスクリーニングすることによって見出した。即ち、馴養した汚泥を試料として、滅菌汚泥を懸濁した培地に塗布し、生育した細菌のコロニーの周囲にハローが見られるものを分離した。単離した細菌はグラム陽性の桿菌で、その菌株についての生化学的・生理学的試験及び16SリボソームRNA遺伝子DNA相同性解析の結果、ブレビバシラス(Brevibacillus)属の細菌であることが判明した。なお、これらの試験は、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology 第2版(1989年)に記載された方法・手段に従って行った。
【0013】
これまでブレビバシラス(Brevibacillus)属の細菌が、下水汚泥を可溶化するということは報告されていない。今回、発明者らが分離・同定した細菌株は、30℃から50℃の温度で、
下水汚泥を溶解する。この菌株についての生化学的・生理学的試験では、98%の確率でブレビバシラス ブレビス(Brevibacillus brevis)と同定された。さらに、16SリボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析では、92%の確率でブレビバシラス(Brevibacillus) sp.RG-30及びブレビバシラス アグリ(Brevibacillus agri)と判定された。これらの結果から、本菌株はブレビバシラス(Brevibacillus)属の細菌の新菌種であると判断されるので、この細菌株をブレビバシラス(Brevibacillus) sp. KH3と命名した。
【0014】
そして、この菌株は、平成17年2月14日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM P-20399として寄託された。
【0015】
本発明の微生物は、グラム陽性の桿菌であり、胞子を形成する。また、LB培地上で生育良好であり、好気性の細菌である。そして、例えば、LB培地(培地1000mL当たり、バクトトリプトン10g、バクト酵母エキス粉末5g、塩化ナトリウム5gを含む、pH 7.0)で、30~50℃で、好気性条件下で培養できる。また、LB培地で30℃、18時間培養すると、直径が約3mmの円形で、クリーム色の扁平状に隆起したコロニーを形成する。コロニーの表面形状はスムーズで、不透明でバター様の粘稠性を有している。
【実施例】
【0016】
[実施例1]細菌の分離・同定
下水余剰汚泥200 gを500 ml三角フラスコに採り、それを50℃、60 rpmで1週間振とう培養し、その培養液と新たに採取した余剰汚泥を重量比1:2となるように混合し、連続的に培養した。この操作を1週間に1回繰り返した培養液(8回連続培養)を希釈し、滅菌した余剰汚泥を懸濁した、平面寒天培地に塗布して50℃で培養し、生育した細菌のコロニーの中で、コロニーの周囲にハローの確認できるものを分離した。分離した細菌株について、生化学的・生理学的性状テスト(API20E)と炭水化物発酵テスト(API50CHB)を行い、菌株の形態学的及び生化学的・生理学的性質を調べた。その結果を表1と表2に示した。
【0017】
【表1】
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【0018】
【表2】
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【0019】
培養の状況及び表1と表2の結果から、この菌は、30℃から50℃の温度、pH 6.0から9.0の範囲において増殖できること、また、グラム染色及び芽胞染色、生化学的・生理学的試験〔API20E及びAPI50CHB(Biomerieux, France)〕を行った結果、好気性胞子形成グラム陽性桿菌Brevibacillus brevisとの相同性(98%)が高い菌であることが判明した。
【0020】
次に、微生物の進化系統の研究に最も有効な分子マーカーとして利用されている、16S リボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析を行った。本菌株の16S リボソームRNA遺伝子をPCRによって増幅させ(63f forward primer: 5’-AGGCCTAACACATGCAAGTC-3’、1387r reverse primer: 5’-GGGCGGTGTGTACAAGGC-3’、反応条件:(1)95℃を5分間、(2)95℃を1分間、(3)50℃を1分間、(4)72℃を1.5分間、(2)から(4)のサイクルを30回、(5)72℃で5分間)、そのPCR産物をTOPO XL PCR Cloning Kit(Invitrogen, USA)を用いて、プラスミドベクターに連結させた。この16S リボソームRNA遺伝子を含むプラスミドを大腸菌へ挿入し、培養したその大腸菌からプラスミドを回収した。その後、M13 forward primer、M13 reverse primer、r2L primer(5’-CATCGTTTACGGCGTGGA-3’)、又はr3L primer (5’-TTGCGCTCGTTGCGGGACT-3’)によってシーケンス反応させ、DNAシーケンサーCEQ8000(Beckman Coulter, USA)にて塩基配列決定し、汚泥可溶化菌の16S リボソームRNA遺伝子のDNA塩基配列を得た。得られた1000塩基程度の塩基配列をもとに、代表的なDNA相同性検索エンジンであるBLAST(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にてシーケンスマッチを行った。その結果、表3に示すように、Brevibacillus sp. RG-30及びBrevibacillus agriと相同性が最も高かった。
【0021】
【表3】
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【0022】
本菌株は、生化学的・生理学的試験による同定、及び16SリボソームRNA遺伝子のDNA相同性が98%以下であること、並びに、以下の実施例2に示すように、下水汚泥を溶解することから、Brevibacillus属細菌の新菌種と判断されるので、この細菌をBrevibacillus sp. KH3株と名付けた(受託番号FERM P-20399)。(手続補正書により受託証の写しを提出した。)



【0023】
[実施例2]汚泥減量化率の測定
[滅菌汚泥の調整]
下水処理場より採取した余剰汚泥300 gを500 ml三角フラスコに採り、121℃で20分間蒸気滅菌し、それを滅菌した遠沈管に移して、4℃、10,000×gで遠心した。上清を捨て、残った沈殿を滅菌精製水で3回洗浄した後、その重量濃度(w/v)が25%となるように調整した。なお、通常の下水汚泥の重量濃度は、20から30%である。
【0024】
[SSの測定]
汚泥中の浮遊性固形分(suspended solid; SS)は、余剰汚泥を18,000×gで10分遠心後、上清を取り除き、沈殿を105℃で2日間乾燥させて、その重量を測定した。
【0025】
[汚泥減量化率の測定]
LB液体培地(Tryptone:10 g/L、Yeast extract:5 g/L、NaCl:5 g/L、pH 7.0)で30℃、
120rpmで16時間前培養したBrevibacillus sp. KH3株を調整滅菌汚泥に接種し(最終菌
量約106
cfu/ml)、恒温振とう培養機にて各温度とも60 rpmで培養した。経時的にこの滅菌汚泥を採取し、SS乾燥重量が汚泥中に占める割合を0時間のものを100%として減量化率の変化を調べた。
【0026】
図1に示した様に、Brevibacillus sp. KH3株は、30℃から50℃の培養温度において、汚泥を溶解した。また、20℃および60℃の培養では、調整汚泥をほとんど溶解しなかった(データは示さず)。本菌株における、最も高い汚泥減量化率31.3%は、培養温度50℃、120時間のときであった。そして、30℃から50℃の培養温度において、48時間で、少なくとも約10%から20%の溶解率を示していることが分かる。また、同時に本菌株の増殖も見られることから(データは示さず)、Brevibacillus sp. KH3株は汚泥を溶解して、その溶解産物を炭素源及び窒素源として増殖するものと考えられる。
【0027】
[実施例3]Brevibacillus sp. KH3の産出するタンパク質分解酵素
Brevibacillus sp. KH3株を、汚泥を懸濁した平面寒天培地に塗布して培養すると、形成したコロニーの周囲に汚泥を溶解したハローができる。即ち、本菌株は菌体外に、汚泥に対する可溶化因子を放出することで汚泥を溶解していると考えられる。また、本菌株をカゼインまたはスキムミルク寒天培地に塗布した場合、コロニーの周辺にハローが出来ることから、この可溶化因子はタンパク質分解酵素であることが示唆される。
【0028】
そこで、KH3株が産生するタンパク質分解酵素の活性を検討したところ、図2に示した様に、50℃で48時間培養した時に、最も高いタンパク質分解酵素活性を示すことが判明した。この48時間培養した上清をポリアクリルアミド電気泳動で調べた結果、一本の濃いバンド(分子量:約60キロダルトン)が視られた。更に、カゼインザイモグラフィー(Archives of Biochemistry and Biophysics,319,211-216(1995年)参照 )によって、タンパク質分解酵素の活性を確認することができた。以上の結果から、汚泥可溶化因子はタンパク質分解酵素であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、下水処理場や工場の排水処理施設など、有機性汚泥を活性汚泥法等を用いて処理を行っている施設において、用いる微生物や処理方法の改善・改良等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】各温度におけるBrevibacillus sp. KH3の汚泥溶解能を示す。
【図2】各温度、各時間培養した上清のタンパク質分解酵素の活性を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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