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明細書 :光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4717522号 (P4717522)
公開番号 特開2006-342411 (P2006-342411A)
登録日 平成23年4月8日(2011.4.8)
発行日 平成23年7月6日(2011.7.6)
公開日 平成18年12月21日(2006.12.21)
発明の名称または考案の名称 光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法
国際特許分類 C23C  14/34        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
FI C23C 14/34 K
C23C 14/08 G
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2005-170568 (P2005-170568)
出願日 平成17年6月10日(2005.6.10)
審査請求日 平成19年11月5日(2007.11.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人 日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】高野 勝昌
【氏名】山本 春也
【氏名】吉川 正人
【氏名】井上 愛知
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】服部 智
参考文献・文献 特開昭60-082946(JP,A)
特開昭61-201143(JP,A)
調査した分野 C23C 14/00-14/58
特許請求の範囲 【請求項1】
室温で水素を含んだ雰囲気に触れることにより光学的な透過率が変化する特性を利用して水素検知を行う光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法であって、スパッタ法により基板に酸化タングステン薄膜を形成させる際の成膜温度を、酸化タングステン薄膜を形成させる基板の温度制御により450℃以上800℃以下にすることを特徴とする光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境や資源問題に関する関心の高まりから、水素の利用が大きな注目を集めている。水素は、酸素がある雰囲気中で爆発するという危険性を有するため、取扱いには注意が必要であり、水素の普及に伴い、水素検知材料の需要は今後飛躍的に増大すると予想される。
【0003】
現在、水素検知材料として、酸化スズを用いた半導体検知材料が広く用いられている。しかしながら、酸化スズを用いた半導体検知材料は、感度および信頼性が高いという利点を有する一方、動作温度が400℃であり、通電等による加熱を要する、材料価格が高いなどの問題がある。そこで、安全性を確保しつつ、室温で作動する低価格な水素検知材料が求められている。
【0004】
酸化タングステンは、室温(20℃付近)で水素を含んだ雰囲気に触れると、光学的な透過率が減少するという特性を有する。室温での水素吸着後の酸化タングステンの透過率は、吸着前の透過率を基準(100%)とすると、50%以上減少する(非特許文献1)。したがって、酸化タングステンの水素吸着による光学的な透過率の変化を利用することにより、水素の検知が可能となり、酸化タングステンは酸化スズの代替材料になると期待される。
【0005】
酸化タングステンを水素検知材料として実用化するためには、厚さ1μm以下に薄膜化する必要がある。酸化タングステン薄膜の作製については、ゾルゲル法(非特許文献2)、電子ビーム蒸着法(非特許文献3)、スパッタ法(非特許文献4)等が検討されている。ゾルゲル法は、作製費用を低く抑えることができる反面、作製された酸化タングステン薄膜は、組成が不均一で、経時変化が起こりやすいという問題がある。電子ビーム蒸着法は、水素吸着後における波長626nmの可視光の透過率が20%程度まで減少する良質な酸化タングステン薄膜の作製が可能であるものの、作製費用が非常に高いという問題がある。このため、ゾルゲル法、電子ビーム蒸着法はともに酸化タングステン薄膜の作製技術には適さない。スパッタ法は、酸化タングステン薄膜の作製費用がゾルゲル法、電子ビーム蒸着法の中間程度であり、実用化に有利であるが、水素検知材料として使用する酸化タングステン薄膜の作製技術としては現状では確立されていない。

【非特許文献1】A. Georg, W. Graf, R. Neumann, and V. Wittwer, Thin Solid Films 384 (2001) 269
【非特許文献2】S. Sumida, S. Okazaki, S. Asakura, H. Nakagawa, H. Murayama, M. Washiya, Chemical Sensors 19 Supplement A (2003) 157
【非特許文献3】D. Schweiger, A. Georg, Solar Energy Mater. Solar Cells 54 (1998) 99
【非特許文献4】A. Georg, W. Graf, R. Neuman, and V. Wittwer, Solid Strate Ionics 127 (2000) 319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの水素検知材料は、動作温度が高く、高価であった。水素を含んだ雰囲気に触れることにより光学的な透過率が減少するという特性を有する酸化タングステンは、通電等の加熱による爆発の危険性がなく、また、低価格であるため、次世代の水素検知材料の最有力候補である。だが、酸化タングステンを水素検知材料として実用化するためには薄膜化が必要であり、組成および膜質が均一で、経時変化の少ないものにするための作製技術が確立していない。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、水素検知材料としての使用を可能にする酸化タングステン薄膜を安価に実現する作製技術を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、室温で水素を含んだ雰囲気に触れることにより光学的な透過率が変化する特性を利用して水素検知を行う光学式水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法であって、スパッタ法により基板に酸化タングステン薄膜を形成させる際の成膜温度を、酸化タングステン薄膜を形成させる基板の温度制御により450℃以上800℃以下にすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、スパッタ時の成膜温度の制御により酸化タングステンの結晶性が調節され、結晶性の制御によって水素吸着後の光学的な透過率の調節が可能となる。作製費用が安価なスパッタ法を用いながらも、電子ビーム蒸着法で作製された良質な酸化タングステン薄膜と同等の透過率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、実施例を示し、本願発明の水素検知材料用酸化タングステン薄膜の作製方法についてさらに詳しく説明する。
【0012】
酸化タングステン薄膜は、主成分が酸化タングステンである、厚さ1μm以下の薄膜である。酸化タングステン薄膜の作製は、価格面で有利なスパッタ法により行う。作製に際しては、成膜温度を制御し、酸化タングステンの結晶性を調節する。成膜温度の制御は、具体的には、酸化タングステン薄膜を形成させる基板の温度を制御することにより行う。成膜時の基板温度を制御することにより、水素吸着後の酸化タングステン薄膜の光学的な透過率を調節することができる。成膜温度は、450℃以上800℃以下が例示される。好ましくは、500℃以上700℃以下である。基板は、たとえば500℃程度の温度に対して耐性を持つ材料から形成されたものとすることができる。たとえば、金属、ガラス、セラミックス等の材料が例示される。
【0013】
酸化タングステン薄膜の表面には触媒層を形成することができる。触媒層を形成する材料は、触媒として機能することができるものである限り任意のものを採用することができる。たとえば、パラジウムまたは白金を好ましく例示することができる。触媒層の厚さは1nmから100nm程度が例示される。触媒層の形成には、酸化タングステン薄膜の形成と同様にスパッタ法を採用することができる他、レーザー蒸着法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法、めっき法、ゾルゲル法などを採用してもかまわない。
【実施例】
【0014】
スパッタ装置に備えた2つのスパッタ銃のそれぞれにタングステンから形成されたターゲット(タングステンターゲット)とパラジウムから形成されたターゲット(パラジウムターゲット)を設置した。基板には厚さ0.5mmの石英基板を用いた。成膜に際しては、基板温度を任意の温度tに一定に保持し、アルゴンガス分圧70mTorrおよび酸素分圧30mTorrの雰囲気中でタングステンターゲットを50Wのパワーで1時間スパッタし、基板に成膜した。この後、アルゴンガス分圧100mTorrの雰囲気中でパラジウムターゲットを50Wのパワーで1分間スパッタし、成膜した。
【0015】
得られた試料について、図1に示した光学式測定装置を用い、透過率の測定を行った。雰囲気を制御可能なセル中に試料を配置し、試料に白色光を照射し、分光計測器で水素吸着前の試料の透過光強度Iを測定した。次いで、アルゴンガスで希釈した濃度3%の水素を100ml/minの流速でセル内に導入し、セル内を30分間ガス置換した。そして、水素が吸着した後の試料の透過光強度Iを測定した。I/Iにより水素が吸着した試料の透過率Tを求めた。図2に、最も光学特性が顕著に変化する波長626nmの可視光を照射した時の水素吸着後の透過率Tに及ぼす成膜温度tの影響を示す。成膜温度tが500℃以上になると、水素吸着後、透過率が急激に減少する。この現象は、成膜速度tを500℃とすることにより、水素が吸着すると透過率が80%程度変化する酸化タングステン薄膜を作製することができることを裏付けている。
【0016】
また、得られた試料について結晶性を評価すると、成膜温度tが500℃以上になると、酸化タングステンの結晶性が向上することが確認された。図3に、結晶性の変化が明確に確認することのできる代表的な成膜温度tが400℃と700℃の場合の酸化タングステン薄膜のX線回折法による測定結果を示す。成膜温度tが400℃の場合の試料では結晶に由来する回折ピークは見られないが、成膜温度tが700℃の場合の試料では酸化タングステン薄膜に由来する回折ピークのパターンが見られる。波長626nmの可視光に対する水素吸着後の著しい透過率の減少の発現が、酸化タングステンの結晶性の向上に起因していることが理解される。
【0017】
もちろん、本願発明は、以上の実施例によって限定されるものではない。基板材料の種類、成膜時の雰囲気およびスパッタ条件、光学式測定装置の構成等の細部については様々な態様が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上詳しく説明した通り、本願発明によって、スパッタ時の成膜温度の制御により酸化タングステン薄膜の結晶性が調節され、結晶性の制御により光学的な透過率の制御が可能となる。水素検知材料を安価に作製することができる。また、作製される水素検知材料は、電子ビーム蒸着法で作製された良質のものと同程度の光学的な透過率を示す。次世代の水素エネルギーの実用化に欠くことのできない新しい高感度の水素検知材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で使用した光学式測定装置の概要を示した図である。
【図2】波長626nmの可視光を照射した時の水素吸着後の透過率Tに及ぼす成膜温度tの影響を示した図である。
【図3】成膜速度tが400℃と700℃の場合の作製された酸化タングステン薄膜の結晶性を示したX線回折図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2