TOP > 国内特許検索 > プレイオトロフィン結合性および非結合性のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸オリゴ糖 > 明細書

明細書 :プレイオトロフィン結合性および非結合性のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸オリゴ糖

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5344785号 (P5344785)
公開番号 特開2007-016099 (P2007-016099A)
登録日 平成25年8月23日(2013.8.23)
発行日 平成25年11月20日(2013.11.20)
公開日 平成19年1月25日(2007.1.25)
発明の名称または考案の名称 プレイオトロフィン結合性および非結合性のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸オリゴ糖
国際特許分類 C08B  37/08        (2006.01)
G01N  30/06        (2006.01)
G01N  33/00        (2006.01)
A61K  31/737       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12P  19/64        (2006.01)
FI C08B 37/08 Z
G01N 30/06 E
G01N 33/00 Z
A61K 31/737
A61P 43/00 111
C12P 19/64
請求項の数または発明の数 6
全頁数 22
出願番号 特願2005-197587 (P2005-197587)
出願日 平成17年7月6日(2005.7.6)
審判番号 不服 2012-008171(P2012-008171/J1)
審査請求日 平成20年4月14日(2008.4.14)
審判請求日 平成24年5月7日(2012.5.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】菅原 一幸
【氏名】バオ シンフォン
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
参考文献・文献 JBC,2004年,Vol.279,No.11,pp.9765-9776
JBC,2005年,Vol.280,No.10,pp.9180-9191
Eur.J.Biochem.,1998年,Vol.251,p.114-121
Glycobiology,2005年,Vol.15,No.6,pp.593-603
JBC,2002年,Vol.277,No.11,pp.8882-8889
調査した分野 C08B37
特許請求の範囲 【請求項1】
ブタ胎仔脳由来のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸ハイブリッド糖鎖をコンドロイチナーゼB処理後、ゲル濾過カラム、次いで陰イオン交換カラムを用いて分画することにより得られた以下の(1)~(7)、(17)~(23)のいずれかの八糖構造の硫酸化オリゴ糖を含む画分:
(1)ΔC-O-C-C、(2)ΔA-O-A-C、(3)ΔA-O-A-A、(4)ΔA-C-C-C、(5)ΔA-C-A-C、(6)ΔA-C-C-A、(7)ΔC-A-A-A、(17)ΔC-C-D-C、(18)ΔA-C-D-C、(19)ΔD-C-D-C、(20)ΔC-D-D-C、(21)ΔC-D-iD-C、(22)ΔE-D-A-D、(23)ΔE-D-iA-D、
(ここで、上記O、C、A、D及びEはいずれも二糖単位の略号であり、
Oは [GlcUAβ1-3GalNAc]、Cは [GlcUAβ1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、Aは [GlcUAβ1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、Dは [GlcUA(2-O-硫酸)β1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、Eは [GlcUAβ1-3GalNAc(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。
上記iA及びiD、さらにΔC、ΔA、ΔD及びΔEも二糖単位の略号であり、
iAは [IdoUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、iDは [IdoUA (2-O-硫酸) α1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、ΔCは [ΔHexUAα1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、ΔAは [ΔHexUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、ΔDは [ΔHexUA(2-O-硫酸) α1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、ΔEは [ΔHexUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。)
【請求項2】
上記(1)~(7)のいずれかの八糖構造の硫酸化オリゴ糖を含む、プレイオトロフィン非結合性である、請求項1記載の硫酸化オリゴ糖の画分。
【請求項3】
上記(17)~(23)のいずれかの八糖構造の硫酸化オリゴ糖を含む、プレイオトロフィン結合性である、請求項1記載の硫酸化オリゴ糖の画分。
【請求項4】
請求項3記載の硫酸化オリゴ糖を含む画分を含み、プレイオトロフィン(PTN)の機能調節に用いられるPTN機能調節結合剤。
【請求項5】
請求項1記載の硫酸化オリゴ糖を含む画分の、当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する物質の探索のための使用。
【請求項6】
請求項1記載の硫酸化オリゴ糖を含む画分から調製した、当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する物質の探索に用いられるプローブ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プレイオトロフィン結合性および非結合性のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸オリゴ糖に関する。本発明は特に、糖鎖の構造及び機能の研究解析において、及びその医療等への応用分野において有用な技術を提供するものである。
【0002】
尚、本明細書並びに図面において使用される主要な略号の意味は以下のとおりである。
CS:コンドロイチン硫酸、DS:デルマタン硫酸、CS/DS:コンドロイチン硫酸及び/又はデルマタン硫酸、HS:ヘパラン硫酸、GAG:グリコサミノグリカン、PG:プロテオグリカン、E-CS/DS:ブタ胎仔脳由来CS/DSハイブリッド糖鎖、GlcUA:D-グルクロン酸、GalNAc:N-アセチルD-ガラクトサミン、IdoUA:L-イズロン酸、HexUA:ヘキスロン酸、Δ4,5HexUA(ΔHexUA):4-deoxy-L-threo-hex-4-enepyranosyluronic acid、2S:2-O-硫酸、4S:4-O-硫酸、6S:6-O-硫酸、PTN:プレイオトロフィン、2AB:2-アミノベンズアミド、HPLC:高速液体クロマトグラフィー。
【背景技術】
【0003】
コンドロイチン硫酸 (CS) やデルマタン硫酸 (DS) は、グリコサミノグリカン (GAG) タイプの多糖鎖で、コアタンパク質に共有結合した形でプロテオグリカン (PG) として存在している。他のGAGであるヘパラン硫酸 (HS) と同様に、CS/DS鎖は細胞表面や細胞外マトリックスに存在し、分泌型シグナルタンパク質と直接結合し、あるいは細胞外マトリックス分子と相互作用することによってそれらの活性を調節し、細胞の分裂、接着、分化を調節している。
【0004】
典型的なCSとDSの骨格構造は、それぞれ [-GlcUA-GalNAc-]、[-IdoUA-GalNAc-] (GlcUA、GalNAc、IdoUAはそれぞれグルクロン酸、N-アセチルガラクトサミン、L-イズロン酸を示す) の二糖繰り返し構造から成り、CS/DSのハイブリッド糖鎖は両者のユニットが様々な比率で含まれている。これらのユニットは糖鎖が伸長する際に、GlcUA/IdoUAのC2位、GalNAcのC4、C6位が様々な組み合わせで、特異的な硫酸基転移酵素によって硫酸化修飾される。それによってCS/DSに特徴的な硫酸化パターンが生じ、様々な臓器由来のCS/DSの組成分析や異なったCS/DSエピトープを認識する抗体を使った免疫組織化学的解析から明らかになったように、厳密に制御されかつ莫大な構造多様性を獲得する。
【0005】
哺乳動物の脳において、CS/DSは神経細胞の接着、移動、分化、神経突起形成や軸索誘導などの調節を通して、神経の発生に関与している。しかしながら、神経突起生成において報告されている脳のCS/DSの機能には議論の余地がある。黒質線条体路の切断や脊髄損傷の後にコンドロイチナーゼABCで処理しCS鎖を取り除くと、軸索が再生するというin vivoにおける研究から、一般的にCS/DS鎖は神経突起伸長や軸索伸長に対して阻害的に機能していると考えられている。一方で、ラットホスファカンの相同体であるマウスDSD-1-PGは、CS/DS側鎖に機能ドメイン (いわゆるDSD-1エピトープ) を有し、胎仔ラットの海馬ニューロンの神経突起伸長を促進する。さらに、様々な海産動物由来の高硫酸化CS、DSおよびハイブリッド型CS/DS鎖が神経突起生成活性を示すことが明らかとなった。重要なことに、我々は最近ホヤ由来のDSに対する抗体であるモノクローナル抗体2A12を使って、iDユニット [IdoUA(2-O-硫酸)α1-3GalNAc(6-O-硫酸)] を含むユニークなエピトープが、発達段階のマウス脳の特定の領域に空間的時間的に発現し、更に培養胎仔マウスの海馬ニューロンの神経形成に関与していることを明らかにした (非特許文献1)。このようにCS/DS鎖の阻害的あるいは促進的活性の違いは、おそらく特定の微細構造の中にある特徴的な硫酸化パターンを有する特異的な糖鎖配列によって規律されるのではないかと考えられる。
【0006】
脳のCS/DS鎖の二糖組成やGlcUA/IdoUAの比が発達成長に伴って変化することや、特定のCS/DSエピトープが哺乳動物の脳の特定の領域にのみ見出されることが構造解析研究によって明らかとなった。これらの知見は脳のCS/DS鎖のサブポピュレーションが発達に伴って異なった役割を担っていることを示唆するものである。
【0007】
非常に興味深いことに、ブタ胎仔脳から単離したCS/DSハイブリッド糖鎖 (E-CS/DS) は培養細胞系で、胎仔マウス海馬ニューロンの神経突起伸長促進活性を有していることが分かった (非特許文献2)。さらに、ヘパリン結合性増殖因子であるプレイオトロフィン (PTN) に結合する少量のE-CS/DSサブポピュレーションが、内在性のPTNと相互作用し、神経細胞表面にPTNを提示することによって、神経突起生成を促進することが明らかになった (非特許文献3)。構造-機能活性相関に関しての予備的な結果では、D/iDユニット [HexUA(2-O-硫酸)-3GalNAc(6-O-硫酸)]、E/iEユニット[HexUA-3GalNAc(4, 6-O-硫酸)] (HexUAはヘキスロン酸を表す) のような高硫酸化二糖とIdoUAを含んだ構造が、E-CS/DSとPTNとの相互作用に重要な役割を担っていることが分かってきた (非特許文献3)。
【0008】

【非特許文献1】J. Biol. Chem. 280, 23184-23193 (2005)
【非特許文献2】J. Biol. Chem. 279, 9765-9776 (2004)
【非特許文献3】J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、ブタ胎仔脳から単離したCS/DS (E-CS/DS) は培養細胞系において、プレイオトロフィン (PTN) を介してマウス海馬ニューロンの神経突起伸長を促進する活性を有している。PTNは多くの生物活性を有するヘパリン結合性増殖因子であるが、これまでヘパリンやヘパラン硫酸からもデルマタン硫酸やコンドロイチン硫酸からも特異的に結合するオリゴ糖は単離されていなかった。
【0010】
また、CS/DSにおける異なる配列構造が、PTNなどの増殖因子その他の機能性タンパク質とそれぞれ特異的・選択的に相互作用し、各発生段階で異なる生理機能を発揮していると考えられる。従って、CS/DSなど多様な配列を有する糖鎖の構造と機能に関する研究を今後もなお一層精力的に進めることは、哺乳類の中枢神経系の形成・発達における糖鎖の役割や、増殖因子等の作用機構における糖鎖の役割を解明する上において非常に重要である。更にその研究成果を利用した創薬、疾病の診断法の開発など医療等への応用も期待される。
【0011】
本発明は、種々の生物活性をもつコンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸の構造と機能を解明するための研究用試薬として有用な新規硫酸化オリゴ糖を提供することをその課題とする。新規硫酸化オリゴ糖は、その配列又は構造と相互作用するタンパク質の探索などに有用である。また、プレイオトロフィン(PTN)と相互作用する最小の機能ドメインに相当する硫酸化オリゴ糖鎖を同定することによって、これらの糖鎖をPTNと結合しその機能を調節するPTN機能調節結合剤として利用することができる。さらに創薬への応用が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ブタ胎仔脳から神経突起伸長促進活性をもつコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸ハイブリッド鎖 (E-CS/DS) を単離、断片化し、その活性を媒介するプレイオトロフィン(PTN)固定化カラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー等によって、PTN結合性および非結合性の硫酸化オリゴ糖を単離、精製した。さらに、その構造解析を行った結果、従来報告のない多種類の新規硫酸化オリゴ糖の構造を決定すると共に、生理的な塩濃度でPTNと相互作用する最小サイズは八糖であること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明に係る硫酸化オリゴ糖は、ブタ胎仔脳由来のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸ハイブリッド糖鎖から単離された、プレイオトロフィン結合性または非結合性の硫酸化オリゴ糖である。本発明の硫酸化オリゴ糖には、二糖単位が以下のように配列された八糖構造を含む31種類の硫酸化オリゴ糖が含まれる。
(1)ΔC-O-C-C、(2)ΔA-O-A-C、(3)ΔA-O-A-A、(4)ΔA-C-C-C、(5)ΔA-C-A-C、(6)ΔA-C-C-A、(7)ΔC-A-A-A、(8)iC-O-C-C、(9)iA-O-A-C、(10)iA-O-A-A、(11)iC-C-C-C、(12)iA-C-C-C、(13)iC-C-A-C、(14)iA-C-A-C、(15)iA-C-C-A、(16)iC-A-A-A、(17)ΔC-C-D-C、(18)ΔA-C-D-C、(19)ΔD-C-D-C、(20)ΔC-D-D-C、(21)ΔC-D-iD-C、(22)ΔE-D-A-D、(23)ΔE-D-iA-D、(24)iC-C-D-C、(25)iA-C-D-C、(26)iC-A-D-C、(27)iD-C-D-C、(28)iC-D-D-C、(29)iC-D-iD-C、(30)iE-D-A-D、(31)iE-D-iA-D
【0014】
ここで、上記O、C、A、D及びEはいずれも二糖単位の略号であり、
Oは [GlcUAβ1-3GalNAc]、Cは [GlcUAβ1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、Aは [GlcUAβ1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、Dは [GlcUA(2-O-硫酸)β1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、Eは [GlcUAβ1-3GalNAc(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。
上記iC、iA、iD及びiE、さらにΔC、ΔA、ΔD及びΔEも二糖単位の略号であり、
iCは [IdoUAα1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、iAは [IdoUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、iDは [IdoUA (2-O-硫酸) α1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、iEは [IdoUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、ΔCは [ΔHexUAα1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、ΔAは [ΔHexUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸)]、ΔDは [ΔHexUA(2-O-硫酸) α1-3GalNAc(6-O-硫酸)]、ΔEは [ΔHexUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。
【0015】
後述の実施例に示すように、上記(1)~(16)の硫酸化オリゴ糖はプレイオトロフィン非結合性であり、上記(17)~(31)の硫酸化オリゴ糖はプレイオトロフィン結合性である。また、本発明の硫酸化オリゴ糖は後述のように、長さ八糖のオリゴ糖に制限されるものではなく、これよりも長い糖鎖のオリゴ糖、例えば、上記(1)~(31)のいずれかの八糖構造の還元末端側に更にL-イズロン酸(IdoUA)含有二糖が配された十糖構造を有するものであってもよい(後記の表3・4参照)。
【0016】
本発明のPTN結合性硫酸化オリゴ糖は、PTNと結合しその機能を調節するPTN機能調節結合剤として利用することができ、換言すればPTNの活性増強剤、安定化剤として利用することができる。また、PTN非結合性のものも含めて、本発明の硫酸化オリゴ糖は、その構造をもとに、当該オリゴ糖の化学合成、酵素による合成などが可能となる。さらに、当該オリゴ糖に蛍光タグなどを結合させた種々の誘導体の合成や、タンパク質、脂質、核酸など他の分子との複合体の合成が可能である。これらの合成物は、当該オリゴ糖と相互作用する物質を探索するためのプローブとして利用することができる。例えば、本発明の硫酸化オリゴ糖を脂質と結合させてニトロセルロース膜上に固定し、当該オリゴ糖に結合する物質を高感度にハイスループットで検出するプローブとして利用できる。このようなプローブは、コンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸を含めた糖鎖全般の構造及び機能の研究解析において有用であり、グライコミクス、糖鎖生物学、糖鎖工学など糖鎖研究の諸分野において有用な研究ツールを提供するものである。
【0017】
また、本発明の硫酸化オリゴ糖は、医療等への応用分野において有用な技術を提供することができる。例えば、種々の機能性タンパク質との結合解析を通じて得られた糖鎖の機能に関する研究成果を利用した創薬、疾病の診断法の開発などが挙げられる。本発明者は先に、他の硫酸化オリゴ糖が、繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)、プレイオトロフィン(PTN)、ミッドカイン(MK)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)といった各種増殖因子・神経栄養因子と相互作用し、その活性調節に利用し得ることを見出している(特願2005-80724号参照)。これらの知見は、本発明のPTN結合性硫酸化オリゴ糖のみならず、PTN非結合性硫酸化オリゴ糖もまた、増殖因子、神経栄養因子、サイトカインなど種々の機能性タンパク質との相互作用(結合)解析に利用できること、さらに当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する機能性タンパク質の機能調節に利用し得ること、換言すれば、それらのタンパク質と混合して、いわば機能性タンパク質の活性調節結合剤として利用できることを示している。
【0018】
このように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、増殖因子やサイトカインなどの種々の機能性タンパク質との結合を解析する研究用試薬として有用であり、このような解析を通じて、糖鎖の新規生物活性や機能の発見、更にそれらの構造を創薬の素材として利用することも可能である。また、本発明の複数の硫酸化オリゴ糖を含んだ硫酸化オリゴ糖鎖ライブラリーを構築することによって、これらの糖鎖を抗糖鎖抗体のエピトープ構造の解析に利用することができ(特願2005-165699号参照)、あるいはこのような硫酸化オリゴ糖鎖ライブラリーを創薬の素材として利用することができる。
【0019】
本発明の硫酸化オリゴ糖は、前述のように、ブタ胎仔脳由来のコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸ハイブリッド糖鎖 (E-CS/DS) から単離精製することができる。例えば、市販のE-CS/DS鎖を材料に、まずコンドロイチナーゼBなどの酵素を用いて断片化する。さらに後述の実施例に示すように、ゲルろ過クロマトグラフィー、PTN固定化カラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー、陰イオン交換HPLCなどで複数回分画することによって単離精製することができる。分画操作は、所望の純度が得られるまで必要な回数行えばよい。分画方法も特に制限されるものではなく、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又はこれらのHPLCシステム等を用いたカラムクロマトグラフィーによって行うことが可能であり、複数のカラムを組み合わせて多段階の分画・精製を行うことが望ましい。
【0020】
このように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、上記E-CS/DS鎖から作製可能であるが、本発明の硫酸化オリゴ糖の作製方法としては当該方法に制限されるものではない。例えば、上記E-CS/DS鎖以外の天然物由来糖鎖から単離精製してもよいし、上述のように、糖鎖合成技術を用いて化学合成や、酵素による合成を行ってもよいし、合成した糖鎖や天然物由来糖鎖を化学的に硫酸化することによって、本発明の硫酸化オリゴ糖を作製してもよい。
【0021】
なお、本発明の硫酸化オリゴ糖は、長さ八糖のオリゴ糖に制限されるものではなく、これよりも長い糖鎖のオリゴ糖や多糖であってもよい。糖鎖の長さについては、新規の「八糖構造」を機能ドメインやエピトープ構造などとして含むものであれば特に制限されるものではなく、八糖構造のどちらか一方にさらに二糖をもつ十糖や、両側にそれぞれ二糖がひとつずつ伸びた十二糖でもよく、さらに、より長い多糖鎖であっても、それぞれの八糖がもつ立体構造(コンフォメーション)と類似したドメインを含んでいればよい。好ましい糖鎖の長さは8-150糖であり、8-100糖がより好ましく、8-50糖がさらに好ましく、8-20糖がより一層好ましい。
【0022】
また上述のように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、天然多糖又は天然多糖由来のオリゴ糖に限らず、人工合成多糖であってもよい。さらに、この人工合成多糖は、新規の「八糖構造」を化学的に模倣して、新規の「八糖構造」と構造は相違するが、機能上及び用途上は共通する類似構造を含む多糖やオリゴ糖を合成したものであってもよい。例えば、八糖構造の片方あるいは両端にアグリコンを結合させたものや、四つの二糖単位のいずれかを人工のリンカー又はスペーサー(1又は複数の連続したメチレン基(-CH2-)からなる炭化水素基など)に置換して八糖の機能ドメインのコンフォメーションを持たせたものでもよい。
【実施例】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
[本実施例の要旨]
本実施例において、我々は酵素消化や蛍光標識したオリゴ糖を、PTN-アフィニティクロマトグラフィーで分画し、高速液体クロマトグラフィーや質量分析などの手法を駆使して、E-CS/DS鎖中に存在する一連のPTN-結合配列を決定した。生理的な塩濃度でPTNと相互作用する最小サイズは八糖であることが分かった。その八糖画分をPTNに結合する5つの画分と結合しない8つの画分にさらに分画し、構造解析を行ったところ、PTNとの結合性は弱いながらも有意な親和性を示す高硫酸化二糖であるDユニット [GlcUA(2-O-硫酸)β1-3GalNAc(6-O-硫酸)] とiDユニット [IdoUA(2-O-硫酸)α1-3GalNAc(6-O-硫酸)]が神経突起生成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、D/iDユニット以外に、Eユニット [GlcUAβ1-3GalNAc(4, 6-O-硫酸)]、Bユニット [GlcUA(2-O-硫酸)β1-3GalNAc(4-O-硫酸)] あるいはそれらのGlcUAがIdoUAになった二糖 (iEおよびiB) を含む十糖が必要であることも明らかになった。このように、PTNとの相互作用には糖鎖の長さやその二糖組成が重要な役割を果たし、PTNは親和力の異なるE-CS/DS鎖の複数の配列と結合する。特に哺乳動物の脳では、ヘパラン硫酸だけでなくCS/DSハイブリッド糖鎖構造も高硫酸化二糖のクラスターを不均一にしかも高頻度に有しており、PTNの機能を調節するのに重要な役割を担っている。
【0024】
[1]実験方法
[1-1]実験材料
E-CS/DS鎖は、以前に報告したブタ胎仔脳のホモジェネートをリン酸緩衝食塩水に溶かして精製したものを使用した (J. Biol. Chem. 279, 9765-9776 (2004)、およびJ. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005) 参照)。Streptcoccus dysgalactiae由来ヒアルロニダーゼSD、コンドロイチナーゼABC (従来品およびプロテアーゼフリー品)、AC-I、AC-II 、Bおよびヘパリチナーゼは、生化学工業株式会社より購入した。相互作用解析に用いた組み換え型ヒトPTNは、RELIA Tech GmbH社より購入した。Δヘキスロン酸-2-O-スルファターゼ (以下、「Δヘキスロン酸-2-スルファターゼ」ともいう) は、Flavobacterium heparinumから精製されたものを使用した。PTN結合アフィニティカラムは、以前報告したように (J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005))、酵母で作製した0.5 mgの組み換え型ヒトPTNをHiTrap N-hydroxysuccinimide-活性型カラム (1 ml) に結合させて調製した。PD-10カラムおよびSuperdexTM peptide HRカラム (10 x 300 mm) は、アマシャムバイオサイエンス社より購入した。アミン結合シリカPA-03カラム (4.6 x 250 nm) はYMC社より購入した。その他の化学物質および溶液はすべて試薬特級を用いた。
【0025】
[1-2]BIAcoreシステムを用いた阻害活性測定
固相化E-CS/DS鎖とPTNとの結合に対する糖鎖による阻害活性は、BIAcoreシステム (BIAcore AB、ウプサラ、スウェーデン) を用いて調べた。以前報告した方法に従い (J. Biol. Chem. 279, 9765-9776 (2004))、ストレプトアビジンで表面を誘導体化したセンサーチップ上にビオチン化E-CS/DS鎖を固相化した。E-CS/DSの阻害活性測定に対するGAG分解酵素による処理の効果を調べるために、等量のE-CS/DS (1.35 μg) をそれぞれ至適なバッファー中、コンドロイチナーゼABC (5 mIU)、AC-I (2 mIU)、B (2 mIU)、ヒアルロニダーゼSD (2.5 mIU)、ヘパリチナーゼ (1 mIU) で37℃、1時間反応させた。それから各分解物を130 μlの容量中200 ngのPTNと混合し、センサーチップ表面上にインジェクトした。等量のPTNとインタクトなE-CS/DSのコインジェクションをコントロールとした。レスポンスカーブを記録し、各々の反応の最大レスポンスを計算した。糖鎖が共存しない時のPTN (200 ng) のインジェクションのレスポンスとの相対的割合で阻害効果を評価した。
【0026】
E-CS/DSから調製したオリゴ糖を阻害剤として用いた際には、オリゴ糖 (8~80 pmol) を50 ngのPTNと混合し、BIAcoreシステムにコインジェクトした。PTNのみのインジェクションをコントロールとし、阻害効果はコントロールから得られたレスポンスに対する相対的割合で計算した。
【0027】
[1-3]E-CS/DSの断片化
E-CS/DSを選択的に断片化するためにコンドロイチナーゼBで徹底消化した。E-CS/DS (100 μg) を全量30 μlの100 mM Tris-HClバッファー、pH 8.0中、50 mIUのコンドロイチナーゼBを用いて30℃、4時間反応させ、その後さらに等量の酵素を加えて12時間反応させた。100℃で1分間煮沸し反応を停止した後、その分解物を凍結乾燥し、2-アミノベンズアミド (2AB) で蛍光標識し、それから過剰の2ABをペーパークロマトグラフィーで取り除いた。2AB誘導体を流速0.3 ml/min、0.2 M NH4HCO3の溶出液で、Superdex Peptideカラム (10 x 300 mm) でゲルろ過を行った。図2(a)に示すように分離した各画分を集め、同条件下で再びクロマトグラフィーを行い、繰り返し凍結乾燥することによって脱塩した。各々の画分中の化合物のサイズを決定するため、CS-CあるいはCS-D由来のサイズ既知のオリゴ糖標準品の溶出位置と比較し、あるいは後述するように質量分析を行った。
【0028】
[1-4]PTNアフィニティカラムによるE-CS/DSオリゴ糖の分画
アフィニティカラム (1 ml) はPTNを0.35 mg含んでいる。サンプルをアプライする前に、カラムを2.0 M NaClを含む10 mM Tris-HClバッファー, pH 7.4 (バッファーA) 3 mlで洗浄後、0.15 M NaClを含むバッファーA、5 mlで平衡化した。2AB化オリゴ糖画分を各々250 μlの0.15 M NaClを含むバッファーAで溶解後、PTNカラムにアプライした。吸着を最大にするために、各々の非結合画分を6回繰り返してロードした。典型的な実験では、オリゴ糖 (50 pmol) をアフィニティクロマトグラフィーにかけ、カラムを0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.7あるいは2.0 M NaClを含むバッファーA、3 mlで段階的に洗浄した。大量処理の際には、2,500 pmolのオリゴ糖をアフィニティカラムにかけ、0.15 Mおよび0.7 Mの NaClを含むバッファーAで順番に溶出した。0.15 M NaCl溶出画分を上述したように同様の条件下で、再び分画した。二回目の分画から得られた0.15 M NaCl溶出画分を非結合性細画分とした。一方、合わせた0.7 M NaCl溶出細画分を親画分の結合性細画分とした。
【0029】
脱塩および定量するために、精製した各細画分について、Superdex Peptideカラムで、上述したように、ゲルろ過を行った。ある画分における各細画分の相対的なオリゴ糖存在比を求めるために、各々の細画分から検出されたオリゴ糖ピークの蛍光強度を比較した。
【0030】
[1-5]陰イオン交換クロマトグラフィー
コンドロイチナーゼB抵抗性八糖画分のPTN非結合性オリゴ糖画分 (400 pmol) と結合性オリゴ糖画分 (230 pmol) の分離、および細菌由来コンドロイチナーゼを用いた酵素学的分解の解析は、アミン結合シリカPA-03カラムを用いた陰イオン交換HPLCによって行った。コンドロイチナーゼ処理によって生じた不飽和二糖あるいは四糖の同定と定量では、CSおよびDS鎖由来の下記の不飽和二糖および四糖標準品と比較した。
ΔHexUAα1-3GalNAc (ΔOユニット)、ΔHexUAα1-3GalNAc(6S) (ΔCユニット)、ΔHexUAα1-3GalNAc(4S) (ΔAユニット)、ΔHexUA(2S)α1-3GalNAc(6S) (ΔDユニット)、ΔHexUA(2S)α1-3GalNAc(4S) (ΔBユニット)、ΔHexUAα1-3GalNAc(4S,6S) (ΔEユニット)、ΔHexUA(2S)α1-3GalNAc(4S,6S) (ΔTユニット)、ΔHexUAα1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S) (ΔC-C)、ΔHexUAα1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S) (ΔC-A)、ΔHexUAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S) (ΔA-C) 、ΔHexUAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S) (ΔA-A)、ΔHexUA(2S)α1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S) (ΔD-C)、ΔHexUA(2S)α1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S) (ΔD-A)、ΔHexUAα1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUA(2S)β1-3GalNAc(6S) (ΔA-D) 、およびΔHexUAα1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S) (ΔE-A)である。
【0031】
[1-6]マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)
乾燥したオリゴ糖 (個々のオリゴ糖2~4 pmolと混合オリゴ糖画分10~20 pmol) を、1-2 μlの (Arg-Gly)15 (5~20 pmol) と混合し、そこに1 μlのゲンチジン酸溶液 (1mg/ml) を混合した。(Arg-Gly)15 およびゲンチジン酸をコントロールとして、各々の混合溶液をMS解析用プレート上にスポットした。製造会社の説明書に記載されている方法に従い、HCD1001法を使用し、ポジティブモードで解析した。MSスペクトルはVoyager DE-RP-Pro (PerSeptive Biosystems、Framingham、MA) でリニアモードで記録した。
【0032】
[1-7]酵素処理
二糖組成解析をするためにオリゴ糖 (二糖として20~100 pmol) を5 mIUのコンドロイチナーゼABCと2時間反応させ、その後コンドロイチナーゼAC-II (1 mIU) でもう1時間反応させた。生じた分解物を2ABで誘導体にし、過剰の2ABをクロロホルムで除去した。分離した八糖の還元末端側の二糖と四糖構造を決定するために、各々の2AB化した細画分の一定量 (0.5~2 pmol) をそれぞれコンドロイチナーゼAC-II (1 mIU) あるいはABC (従来品、1 mIU) で反応させた。単離したオリゴ糖の非還元末端側の二糖を決定するために、PTN非結合性細画分および結合性細画分 (1~3 pmol) をそれぞれコンドロイチナーゼABC (1 mIU) のプロテアーゼフリー標品で15分間、あるいはコンドロイチナーゼAC-II (1 mIU) で60分間処理し、2AB誘導体とした。ある場合には還元末端の二糖を調べるため、オリゴ糖細画分 (~2 pmol)をΔヘキスロン酸2-スルファターゼ (4 μIU) と反応させた。特別な場合を除いて全ての酵素反応は37℃で行い、100℃で1分間煮沸することによって反応を停止した。各々の分解物を上述したように、陰イオン交換HPLCあるいはゲルろ過により解析した。
【0033】
[2]結果
[2-1]コンドロイチナーゼBに抵抗性を示す構造はE-CS/DSの主要なPTN結合エピトープを含む
コンドロイチナーゼABCによる分解によって求めたE-CS/DS鎖のΔO、ΔC、ΔA、ΔD、ΔBおよびΔEの二糖組成は、14.4 : 32.9 : 60.1 : 1.7 : <0.1 : 0.9のモル比であった。また、コンドロイチナーゼBによる分解からE-CS/DS鎖には、およそ9%のIdoUAを有する二糖が存在し、糖鎖の全体に分散していた (J. Biol. Chem. 279, 9765-9776 (2004)、J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005))。本実施例では、PTNに結合するE-CS/DSのエピトープを決定するため、まずBIAcoreシステムを用いて、PTNと固相化E-CS/DSとの相互作用に対するE-CS/DSの阻害活性に対するコンドロイチナーゼあるいはヒアルロニダーゼ処理の影響を調べた。図1に示すように、10 μg/ml のE-CS/DSで相互作用の75%を阻害した(図中「None」)。しかし、コンドロイチナーゼABCあるいはAC-I処理によって、E-CS/DSの阻害活性はほとんど消失した。このことは両酵素処理によって、元のポリマー中に存在するPTN結合エピトープが壊れたことを示している。対照的に、ヒアルロニダーゼSDあるいはヘパリチナーゼ処理では、E-CS/DSの阻害活性に影響はなかった。ヒアルロニダーゼ分解による結果から、非硫酸化二糖が長く連続した配列はE-CS/DSのPTNとの結合に必要な構造的要素ではないことを示している。また、ヘパリチナーゼ分解の結果から、本実施例で用いたE-CS/DS中にHSが混入していないことが確認できた。驚くべきことに、E-CS/DSのコンドロイチナーゼB分解物はインタクトなE-CS/DSの65%の阻害活性を示した。このことは、E-CS/DS鎖のコンドロイチナーゼBによる分解を受けない構造中にPTN結合エピトープが主に含まれていることを示唆している。
【0035】
E-CS/DSを2ABで標識後、コンドロイチナーゼBあるいはヒアルロニダーゼSDで分解し、ゲルろ過を行うと、コンドロイチナーゼB消化によって、2から20糖以上の長さのオリゴ糖が生成した (図2(a))。一方、ヒアルロニダーゼSD分解物は少量の四糖と六糖に加えて、二糖および分離不可能な大きなオリゴ糖 (>12糖) を含んでいた。
【0036】
[2-2]E-CS/DSのコンドロイチナーゼB分解物からPTN結合性の最小サイズのオリゴ糖の単離
コンドロイチナーゼBはE-CS/DS鎖中の主要なPTN結合ドメインの構造を壊さずに断片化できるだけでなく、切断部位のウロン酸のタイプはIdoUAであるという情報を与えてくれるなどの利点がある。このようなコンドロイチナーぜBの基質特異性の利点を利用してPTN結合構造を単離するため、もとのE-CS/DS鎖の解析にコンドロイチナーゼBを用いた。E-CS/DSをコンドロイチナーゼBで徹底消化し、2ABで誘導体化した後、ゲルろ過によって分画した。図2(a)に示すように溶出画分 (F1からF8) を集め、各画分の主要構成成分の分子量をMALDI-MSによって決定した。
【0037】
PTNとの結合に必要な最小構造がどの画分に含まれているかを調べるために、各画分をPTNカラムで、塩の濃度勾配を利用して溶出し、アフィニティクロマトグラフィーを行った。各々の親画分 (F3からF8) を分画して得られたオリゴ糖について、蛍光強度を基に相対的なモルパーセントを決定した。図2(b)に示すように、F4の全ての蛍光物質 (2AB化オリゴ糖) (99.6%) が素通り画分FLに検出された(F3も同様の結果になった)。しかし、F5からF7では高塩濃度 (≧0.2 M NaCl) で溶出した細画分に少ないながらも有意に (7.0~16.5%) 蛍光物質が検出された (F8も同様に検出された)。これらの結果は、F5の八糖画分が生理的塩濃度で固相化PTNと結合するのに必要な最小構造を含むことを示している。
【0038】
アフィニティ分画した溶出液について阻害活性を検証した。その際、F5の0.15 M NaCl 溶出画分である素通り細画分 (F5-ub)および0.7 M NaCl 溶出画分である結合性細画分 (F5-b) を、固相化したE-CS/DSとPTNとの結合に対する阻害剤として使用した。その結果、少量のF5-b (8 pmol) では53%相互作用を阻害したが、80 pmolのF5-ubは有意に阻害しなかった (図2(c))。これにより、PTNカラムで得られたF5の高塩濃度 (0.7 M) および低塩濃度 (0.15 M) 細画分には、親画分のPTN結合性オリゴ糖と非結合性オリゴ糖がそれぞれ濃縮されていることが確認できた。F6についてもPTN結合性、非結合性画分に分けられ、同様の結果が得られた。さらに、PTN結合性および非結合性オリゴ糖のアフィニティ分画による優れた分離能は、各オリゴ糖の還元側に2ABタグが結合していても、生理的塩濃度でPTNとの相互作用にほとんど影響を与えないことを示している。
【0039】
コンドロイチナーゼBでは分解されないオリゴ糖画分とアフィニティ分画によって得られたそれらの細画分の二糖組成を下記表1にまとめた。PTNカラムに結合しない画分F1からF4は、非硫酸化二糖、4-O-あるいは6-O-硫酸化二糖が異なる割合で含まれていたが、高硫酸化二糖は含まれていなかった。対照的に、F5とF6のPTN結合性細画分 (F5-bおよびF6-b) はD/iD (26.9~20.4%) やE/iE (6.7~8.6%) のような高硫酸化二糖をかなり含んでいたが、その非結合性画分には高硫酸化二糖がほとんど検出されなかったか、検出されても極わずか (0~2.6%) であった。特に、F5、F6およびF7のPTN結合性細画分より非結合性画分に非硫酸化二糖がより多く検出された。これらの結果は、PTNとの結合活性にはオリゴ糖の電荷密度と二糖組成が強く関係していることを明瞭に表している。
【0040】
[表1:コンドロイチナーゼBによっては分解されないE-CS/DS由来のオリゴ糖画分の二糖組成]E-CS/DS由来の各画分をコンドロイチナーゼABCとAC-IIで分解し、その生成物を前記[1]の実験方法に記載した方法に従い、アミン結合シリカカラムを用いた陰イオン交換HPLCで同定および定量した。
【表1】
JP0005344785B2_000002t.gif

[注]
a) 画分の名前は図2(a)(b)で名付けたピークと画分に相当する。“ub” および “b” はそれぞれ結合性および非結合性細画分を示す。
b) 図2(a)(b)に示した各画分の蛍光強度をもとに計算した相対的割合。
c) 硫酸基の平均数/二糖ユニットで計算した硫酸化の程度。
d) “-”、検出されず。
e) n.d.、量が不十分だったため、解析せず。
f) n.c.、計算せず。
【0041】
詳細にPTN非結合性オリゴ糖と結合性オリゴ糖の構造を比較するために、F5-ubとF5-bを陰イオン交換HPLCでさらに分離した。F5-ubを8つの画分 (F5-ub-aからF5-ub-h) に分離した (図3A)。一方、F5-bから7つのマイナー画分 (F5-b-1~7) に加えて、6つの主要な結合性画分 (F5-b-Iから-VI) を単離した (図3B)。F5-ub中のほとんど全てのオリゴ糖は、その溶出位置が50分より前であるが、F5-b中の主要なオリゴ糖は50分よりも後に溶出している。このことはPTN結合性オリゴ糖が非結合性オリゴ糖よりも高い電荷密度を有していることを示している。注意すべきことに、図3B中の35から48分に検出される小さなピーク (ピーク1から5) は、図3A中のピークと同一の溶出位置であることから、洗浄ステップの際にPTN非結合性化合物の除去が不十分だったために検出されたピークであると考えられた。
【0042】
[2-3]単離したPTN非結合性八糖画分 (F5-ub-aからF5-ub-h) の構造解析
陰イオン交換HPLCによって単離したオリゴ糖をMALDI-TOF-MSや酵素消化とHPLCを用いて解析した。質量解析の結果、3種類の画分 (F5-ub-a、-b、-c) は三硫酸化八糖で、その他の5種類の画分 (F5-ub-d、-e、-f、-gおよび-h) の主要構成成分は四硫酸化八糖であった (表2)。コンドロイチナーゼAC-II、コンドロイチナーゼABC (従来品あるいはプロテアーゼフリー標品) 、又は、コンドロイチナーゼABC (特記していない場合は従来品) とコンドロイチナーゼAC-IIとの混合物を用いて、前記[1]の実験方法に示した方法に従い、各々の細画分を消化した。それらの細画分中の全ての構成成分はコンドロイチナーゼAC-IIによって完全に分解されるので、各構成成分の内部のウロン酸は全てGlcUAである。しかし特筆すべきことに、全てのオリゴ糖の非還元末端側の不飽和ウロン酸残基は、親の多糖鎖中のIdoUA由来である。なぜなら、それらのオリゴ糖はコンドロイチナーゼB消化物だからである。さらに、これらのオリゴ糖は親の多糖鎖中のIdoUAに結合していたと考えられる (表3)。
【0043】
[表2:コンドロイチナーゼBによっては分解されない2AB化八糖画分のDEMALDI-TOF-MS解析]
【表2】
JP0005344785B2_000003t.gif

[注]
a) 細画分F4-ub-aから-hは、図3AのHPLCピークのaからhに対応する。一方、F4-b-Iから-Vは、図3BのピークIからVに相当する。
【0044】
F5-ub-aからF5-ub-hの酵素消化の結果を表3にまとめた。F5-ub-gが2種類の成分を同量含んでいることを除けば、それらの細画分は主要な成分をただ1種類含んでいた。
【0045】
[表3:PTN非結合八糖の細画分の酵素学的解析]各細画分をコンドロイチナーゼABC (CSase ABC、従来品あるいはプロテアーゼフリー標品) 及び/又はCSase AC-IIで分解し、その生成物を2AB化する前とした後に、陰イオン交換HPLCによって同定と定量を行った。新規な構造を星印(*)で記した。
【表3】
JP0005344785B2_000004t.gif

[注]
a) 各画分をCSase ABCとAC-IIで分解後、2ABで標識し、不飽和二糖を検出した。O、CおよびAはそれぞれGlcUA-GalNAc、GlcUA-GalNAc(6S)、GlcUA-GalNAc(4S)、また、Δの記号は非還元末端のGlcUAが不飽和であることを示す。
b) 非還元末端ユニットは、図4Dに示すようにエキソ型で作用するコンドロイチナーゼABC プロテアーゼフリー標品で処理することによって、2AB標識した八糖細画分から生成した主要な二糖のことをいう。
c) n.d.、検出されず
d) “ i ” はL-イズロン酸を表し、iXはiOを除いたiA、iC、iD、iE、iB、iTを含むIdoUA残基を有するいずれかの二糖を示す (各略号によって表される構造については、前記[1]の実験方法参照)。
【0046】
細画分F5-ub-hの酵素学的解析を以下に示す。コンドロイチナーゼABCとコンドロイチナーゼAC-IIを用いた連続消化で、ΔCとΔAユニットが1 : 3のモル比で得られた (図4A)。これはF5-ub-h中の主要構成成分が1つのCと3つのAユニットから成ることを示している。還元末端側に2ABタグを有するオリゴ糖 (六糖以上) をコンドロイチナーゼABC処理すると、親オリゴ糖の構造とは無関係に、2AB化されていない二糖に加えて2AB化された不飽和四糖を生じる (Anal. Biochem. 269, 367-378 (1999))。図4Bに示すようにコンドロイチナーゼABC処理により、ΔA-A-2ABに相当する主要な蛍光ピークが検出された。このことはF5-ub-hの主要な成分が還元末端側にA-A構造を有していることを示している。この細画分のコンドロイチナーゼAC-II消化物 (図4C) でも、ΔA-2ABのみの蛍光ピークが検出されたことより、F5-ub-h中の主要なオリゴ糖の還元末端はAユニットである。六糖や八糖などのオリゴ糖にコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリーを作用させると、エキソ型で働くという強い傾向があるので、その性質を利用して、コンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー標品でF5-ub-hを部分分解し、非還元末端側の二糖を明らかにした。コンドロイチナーゼABC (プロテアーゼフリー標品) でF5-ub-hを分解すると、主要二糖としてΔCを産生した。これはこの細画分の主要なオリゴ糖の非還元末端はΔCユニットであることを示している。これらの結果をまとめて考えると、細画分F5-ub-hはΔC-A-A-A配列を有する主要構成成分を含んでいると結論づけることができる。
【0047】
他の全てのPTN非結合性八糖の構造解析から、それらはO、CおよびAユニットのいずれかの組み合わせから成る構成成分で、二硫酸化あるいは三硫酸化二糖は含んでいないことが明らかとなった。これはF5-ubの二糖組成解析から得られた結果と一致している (表1)。生理的塩濃度でPTNカラムに結合しないこれらの八糖は、オリゴ糖とPTNとの結合に高硫酸化 (二硫酸化あるいは三硫酸化) 二糖が重要な役割を果たしていることを暗示している。特に、サメ軟骨CS-C由来のΔC-C-C-C (F5-ub-d) 、及び同CS-D (J. Biol. Chem. 273, 3296-3307 (1998)) 又はCS-C由来のΔC-C-A-C (F5-ub-f) を除いて、他の7種類の配列は天然のCS/DS鎖から初めて単離されたものである。さらに注目すべき点として、これらの八糖が、親のE-CS/DS鎖中の2つのIdoUAに挟まれた十糖(表3)に由来すること、また、いくつかの配列の中にiCユニットが発見されたことである。iCユニットを産生する硫酸基転移酵素はウシ血清中に検出されているが(FEBS Lett. 452, 185-189 (1999))、天然のDSにはiCユニットはこれまでは報告されていなかった。
【0048】
[2-4]単離したPTN結合性八糖画分 (F5-b-IからF5-b-VI) の構造解析
図3に示すように、分離したF5-bの主要な細画分 (F5-b-IからF5-b-VI) の構造解析にも同様の方法を用いた。それらの各画分中はPTNと結合できる最小オリゴ糖をそれぞれ含んでいると考えられた。質量解析によって、6種類の細画分のうち、5種類は共通の八糖骨格を有しているが、硫酸基の位置が異なっていることが分かった (表2)。F5-b-VIの質量解析はうまくいかなかったが、それはおそらく二糖組成 (表4) からも分かるように、高分子で硫酸化の程度が高いからと考えられた。そこで、他の5種類の細画分 (F5-b-Iから-V) について酵素学的解析を行い、その結果を表4にまとめた。
【0049】
[表4:PTN結合八糖の細画分の酵素学的解析]各細画分をコンドロイチナーゼABC (CSase ABC) 及び/又はAC-II (CSase AC-II) で分解し、その生成物を2AB化したものとしないものを、アミン結合シリカカラムを用いた陰イオン交換HPLCによって同定し定量を行った。新規な構造を星印(*)で記した。
【表4】
JP0005344785B2_000005t.gif

[注]
a) 各画分をCSase ABCとAC-IIで分解後、2ABで標識し、不飽和二糖と四糖を検出した。C、A、D、EおよびTはそれぞれ以下の二糖ユニットを表す。C:GlcUA- GalNAc(6S)、A:GlcUA-GalNAc(4S)、D:GlcUA(2S)-GalNAc(6S)、E:GlcUA-GalNAc(4S,6S)、T:GlcUA(2S)-GalNAc(4S,6S)。Δは非還元末端のGlcUAが不飽和であることを示す。
b) 各細画分の2AB化したCSase AC-II分解物の主要な不飽和二糖を示した。
c) ΔTetraは未同定不飽和四糖を表す。
d) 対応する細画分のCSase AC-II分解によって生成した不飽和二糖の量が極めて少ないため、検出されなかった。
e) n.d.、量が不十分だったため、未決定。
f) プラス (+) はΔヘキスロン酸2-O-スルファターゼ処理に感受性があることを示している。
g) “ i ” と “ iX ” の定義は表3脚注d)を参照。
【0050】
コンドロイチナーゼABCとコンドロイチナーゼAC-IIを用いた連続消化によって、各々の画分中からΔA、ΔC、ΔDおよびΔEユニットが様々な組み合わせで生成した。図4EにF5-b-Vのクロマトグラムを示した。注目すべきことに、2AB標識したΔA-D構造にはコンドロイチナーゼAC-IIが作用しなかった。ΔC-Dのような還元末端側にDユニットを有する2AB化CS四糖やΔD-D-CのようなDユニットを豊富にもつCS六糖においても同様の結果が得られた。コンドロイチナーゼABC分解物の解析からは、ΔD-C-2ABのピークが得られたことから、4種類の細画分 (F5-b-Iから-IV) の主要構成成分として、還元末端側にD-C及び/又はiD-Cの共通の四糖を含んでいることが明らかとなった。一方、F5-b-VからはΔA-D-2ABが生じたので、F5-b-V画分の主成分の還元末端側はA-D及び/又はiA-D配列と考えられる (図4F)。F5-b-I、-IIおよび-IIIはコンドロイチナーゼAC-IIで完全に分解され、ΔC-2ABに相当する主要な1つのピークが検出された。このことは、これら3種類の細画分の主要構成成分の内部のウロン酸残基がGlcUAで、還元末端側の主要成分はCユニットであることを示している。コンドロイチナーゼABC分解物からも同様の結果を得た。
【0051】
コンドロイチナーゼAC-II消化物を2ABで誘導体化し、解析を行ったところ、F5-b-IVあるいはF5-b-VのコンドロイチナーゼAC-II消化では対照的に、還元末端から二糖あるいは四糖を産生しないが (表4)、F-b-IVからは、1つの主要な二糖ΔCと六糖を産生し、F5-b-VからはΔEと六糖が生じた (図4G)。これらの結果は、F5-b-IVと-Vの主要な構成成分が非還元末端側にそれぞれΔCとΔEを有することを示している。これらの細画分をコンドロイチナーゼAC-IIとコンドロイチナーゼABCを用いて連続消化し、続いて2ABで標識すると、F5-b-IVからはΔCとΔDの二糖を産生していたことが分かったが、一方、F5-b-Vに同様の処理をすると、ΔDとΔE (図4H) がおよそ1 : 1のモル比で得られた。これらの結果は、F5-b-IVと-Vの主要な構成成分の非還元末端の四糖がそれぞれΔ C-DおよびΔE-Dであることを示している。
【0052】
加えてF5-b-IIIは、非還元末端側のΔHexUAのC-2位から硫酸基のみを取り除くΔヘキスロン酸-2-スルファターゼに対して感受性を示した。このことはF5-b-IIIの主要構成成分が非還元末端にΔDユニットを有していることを示している。なぜなら、この細画分は2種類の二糖ユニットCおよびDのみを有しているからである。
【0053】
酵素学的解析と質量分析の結果から、F5-b-Iから-V中の主要構成成分の配列を以下のように結論した。即ち、表4に示すように、ΔC-C-D-C (F5-b-I)、ΔA-C-D-CあるいはΔC-A-D-C (F5-b-II)、ΔD-C-D-C (F5-b-III)、ΔC-D-D-CあるいはΔC-D-iD-C (F5-b-IV)、 ΔE-D-A-DあるいはΔE-D-iA-D (F5-b-V)、である (iAあるいはiDのiはIdoUAを表す)。上記のように、F5-b-IIの主要構成成分の配列は、ΔA-C-D-CあるいはΔC-A-D-Cであるが、F5-b-IIには両配列の硫酸化オリゴ糖が含まれ、またΔA-C-D-Cのオリゴ糖を比較的多く含むと考えられる。F5-b-IVにおいてもΔC-D-D-CおよびΔC-D-iD-Cの両オリゴ糖が含まれ、イズロン酸含有iDユニットを含む後者のオリゴ糖(ΔC-D-iD-C)を比較的多く含むと考えられる。同様に、F5-b-VにおいてもΔE-D-A-DおよびΔE-D-iA-Dの両オリゴ糖が含まれ、イズロン酸含有iAユニットを含む後者のオリゴ糖(ΔE-D-iA-D)を比較的多く含むと考えられる。
【0054】
このように、PTN非結合性細画分 (F5-ub) から単離したオリゴ糖には、まったく二硫酸化二糖が検出されなかったのに対し、PTN結合性細画分F5-bから単離した5種類のオリゴ糖全てに1つあるいはそれ以上のD、iD、EあるいはiEユニットのような二硫酸化二糖が含まれていた。これらのD/iDユニットの含量が多いオリゴ糖はPTNカラムから0.3 M NaClよりも低塩濃度で溶出された (図2B)。このことはこれらのユニットが低いながらも有意にCS/DS-PTN相互作用の親和力において、重要な役割を担っていることを示唆している。ΔC-A-D-C構造を除いて(J. Biol. Chem. 273, 3296-3307 (1998))、今回決定された全ての糖鎖配列は新規な構造であった。これらの八糖は、PTN非結合性八糖(表3)の場合と同様に、親のE-CS/DS鎖中の2つのIdoUAに挟まれた十糖(表4)に由来する。以前にDSに対して作成したiD特異的抗体を用いた免疫組織染色の結果を基にマウス小脳に存在するといわれていたiDの存在が実証された点も注目に値する。また、いくつかの配列中にiCユニットが発見されたが、前述のように、iCユニットを産生する硫酸基転移酵素はウシ血清中に検出されているものの、天然のDSにはiCユニットはこれまで報告されていなかった。
【0055】
[2-5]十糖画分F6のPTNに対する結合性および非結合性画分への細分画とその特徴
平衡化バッファーで洗浄したPTNカラムにF6の16.5%が有意に保持された。この割合はF5 (7%) よりも高く、F7 (15.1%) に匹敵する割合であった (図2B)。さらに、0.4および0.5 M NaClで溶出されたF6の量は、F5 (0%)、F6 (4.1%)、F7 (1.6%) の中で最も高かった (図2B)。これらの結果は、PTNに結合するのに最適な構造をF6がF5やF7よりも多く含んでいることを示唆している。従って、これらの高親和性構造を調べるために、PTN結合性細画分 (F6-b) に関して、酵素処理と陰イオン交換HPLC、PTNアフィニティクロマトグラフィー、質量分析とを組み合わせてさらに解析した。
【0056】
F6-bの大半 (58%) はコンドロイチナーゼAC-IIには感受性を示さなかった (図5(a)のI、II、III)。反対に、PTN非結合性細画分 (F6-ub) のほとんど全てが (>98%) この酵素によって完全に二糖にまで分解された (図5(a)のパネルb)。このことは、コンドロイチナーゼAC-IIによって分解されない構造とPTNとの結合活性が相関していることを示唆している。この構造-機能相関を調べるために、F6-bのコンドロイチナーゼAC-II分解物をPTNカラムでアフィニティ分画した。F6-bとそのコンドロイチナーゼAC-II分解物の溶出パターンを比較したところ、F6-b中のコンドロイチナーゼAC-IIで分解されない構造は、大半が元の構造を有しており、高い塩濃度 (0.4および0.5 M NaCl) で溶出された (図5(b))。このことはPTNと強く結合する構成成分が、コンドロイチナーゼAC-IIによっては分解されない構造であることを示唆している。
【0057】
コンドロイチナーゼAC-IIによっては分解されない成分の構造的特徴を調べるため、F6-bのコンドロイチナーゼAC-II消化物をゲルろ過し、図5(a)に示すように4種類の画分 (F6-b-I、-II、-IIIおよび-IV) に分離した。MALDI-TOF-MS解析からF6-b-IとF6-b-IIはそれぞれ主に十糖と六糖を含んでいた (図6のAとB)。しかし、イオン交換HPLCから、F6-b-IIIおよび-Vはそれぞれ三硫酸化四糖とモノ硫酸化二糖を含んでいることが分かった(表5)。F6-b-Iと-IIの細画分をコンドロイチナーゼABCとAC-IIで同時に処理すると、二糖と四糖に完全に分解された (図5(a)のパネルd、図6のCとD)。得られた二糖と四糖のモル比を表5にまとめた。対照的に、F6-b-Iの40%はコンドロイチナーゼAC-IとAC-IIの混合液に対して感受性を示さなかった (図5(a)のパネルc)。F6-bの21%に相当するF6-b-Iのうち60%しか、コンドロイチナーゼAC-Iに感受性を示さないので、F6-b-IはおそらくIdoUAを含んだ構造を有していると考えられる (後述)。
【0058】
[表5:PTN結合十糖のコンドロイチナーゼAC-IIでは分解されない細画分の性質]E-CS/DSから単離したPTN結合十糖画分をコンドロイチナーゼAC-IIで分解し、Superdex Peptideカラムを用いたゲルろ過により、F6-b-Iから-IV (図5(a)) に分画し、分離したピークの分子量、二糖組成、PTN結合カラムに対する結合活性を解析した。
【表5】
JP0005344785B2_000006t.gif

[注]
a) F6-b-Iおよび-IIのサイズを、MALDI-TOF-MSと、構造決定された既知のオリゴ糖の溶出位置との比較によって決定した(図6の説明参照)。Sは硫酸基。
b) 不飽和二糖と四糖の同定および定量をするため、F6-b-IおよびF6-b-IIをCSase ABCとCSase AC-IIで分解し、2ABで標識後、陰イオン交換HPLCで解析した。F6-b-IIIおよび-IVは酵素分解せずに、そのまま陰イオン交換HPLCで解析した。C、A、D、B、E、TおよびΔの各略号については表3の説明参照。
c) プラス (+) およびマイナス (-) はそれぞれPTNアフィニティカラムに対する結合および非結合を示している。
d) マイナー成分として10 mer-6Sおよび9Sを含んでいる。
e) n.d.、未決定。
f) 主要な分解生成物ΔDおよびΔA-Dは互いに結合し、F6-b-II中の六糖配列を形成する。
【0059】
ゲルろ過で分離した4種類の細画分とPTNとの相互作用をPTNカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより解析した。F6-b-IIは主要な構成成分 (モルパーセントで70%) としてΔD-A-DあるいはΔD-iA-D六糖を含み、F6-b-IIIはΔA-DとΔE-A四糖 (表5) の混合物であるにも拘わらず、F6-b-II、-III、-IVのいずれもそのカラムには結合しなかった。このことは生理的塩濃度でそれらの六糖と四糖は、PTNに結合しないことを示している。対照的に、F6-b-IはPTNカラムに結合する唯一の細画分であったので、F6-bのアフィニティ分画パターンはF6-b-I (図5(b)) のパターンを反映しているに違いない。従って、F6-b-Iは、F6-bの高親和性PTN結合性成分の大半を含んでいる。F6-b-I (表5) とF6-b (表1) の二糖組成を比較すると、EあるいはiEとBあるいはiBユニットはF6-b-Iには選択的に濃縮されているが、D/iDユニットはそうではなかった。このことはEあるいはiEとBあるいはiBユニットがE-CS/DSとPTNとの相互作用の高い親和力に関与することを示唆している。
【0060】
[3]本実施例の結果と考察
最近、E-CS/DS鎖のサブポピュレーションがPTNとの相互作用を通して、神経の突起伸長を促進し、D/iDやE/iEユニットのような高硫酸化二糖とIdoUAを含む構造が、E-CS/DSとPTNとの相互作用に必要であることが示されている (J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005))。本実施例ではさらにE-CS/DSの主要なPTN結合オリゴ糖エピトープを同定することができた。
【0061】
コンドロイチナーゼABCあるいはAC-Iによる処理とは異なり、コンドロイチナーゼB処理はE-CS/DSのPTN結合活性を少ししか低下させなかった (図1)。このことによって、コンドロイチナーゼBによる分解で、E-CS/DS中のPTN結合エピトープの単離が可能になった。E-CS/DSのコンドロイチナーゼB分解物のうちで、生理的塩濃度でPTNと結合する最小オリゴ糖は八糖であったが、より強い相互作用を示したのは、十糖もしくはそれ以上の糖鎖であった。このサイズ依存性は、GAGオリゴ糖と繊維芽細胞増殖因子1 (FGF1) (J. Biol. Chem. 276, 30744-30752 (2001))、FGF2 (J. Biol. Chem. 276, 30744-30752 (2001)、J. Biol. Chem. 280, 5300-5306 (2005))、FGF4 (Biochem. J. 389,:145-150 (2005))、FGF7 (J. Biol. Chem. 280, 5300-5306 (2005))、肝細胞増殖因子 (J. Biol. Chem. 273, 271-278 (1998)) のような他のヘパリン結合性増殖因子との相互作用の特徴を想起させる。
【0062】
PTNに結合する八糖画分 (F5-b) と結合しない画分 (F5-ub) から単離したオリゴ糖を比較すると、高硫酸化二糖の重要な役割が明らかとなった。特に、DあるいはiDユニットは、親和力は弱いが有意なE-CS/DSとPTNとの結合に重要であることが分かった (図2B、表3および表5)。このことは、E-CS/DSのPTN非結合画分 (0.15 M NaClで溶出)、低親和性画分 (0.4 M NaClで溶出)、高親和性画分 (1.0 M NaClで溶出) の中で、PTNカラムから0.4 M NaClで溶出したE-CS/DSの低親和性画分にDあるいはiDユニットが豊富であるという我々の以前の結果 (J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005)) と一致した。これはサメ軟骨由来CS-DがPTNと結合し、ホスファカンのCS鎖中の少量のDユニット (1.3%) がPTNとの結合に影響を与えるという最近の報告ともよく一致する。我々は今回初めて、少なくとも1つのDあるいはiDユニットを含むE-CS/DS由来の特定の八糖配列が、生理的塩濃度でのPTNとの結合に必要であることを明らかにした。主要成分 (70%) としてΔD-A-DあるいはΔD-iA-D構造を含む六糖画分 (F6-b-II) がPTNに結合しなかったのは、PTNと相互作用するのに必要なE-CS/DSオリゴ糖は、DあるいはiDユニットだけでなく八糖というオリゴ糖サイズが構造的要素として必要だからであろう (表5)。本実施例によって、単離した八糖に加えて、還元末端と非還元末端にIdoUAを含む二糖をもつユニークなGlcUA/IdoUAハイブリッド型の十糖配列 (表3および4) の存在も明らかとなった。
【0063】
PTNとの結合には、EあるいはiEを含んだ構造の方がDあるいはiDを含んだ構造よりも親和性が高いことが以前示されていた。本実施例で、PTN結合性十糖のコンドロイチナーゼAC-II消化物には高親和性成分が含まれており、PTN結合性十糖細画分 (F6-b) にはDあるいはiDユニットではなく、EあるいはiEとBあるいはiBユニットが豊富に存在していることが分かった (図5(b)、表1および5)。これは以前のデータを支持し、E-CS/DSとPTNとの高親和性相互作用へのこれらの特徴的な二硫酸化二糖の関与を示唆している。
【0064】
コンドロイチナーゼAC-IIは、GlcUAに結合したほとんど全てのガラクトサミニド結合を非還元末端からエキソ型で切断するが、DSやCS/DSハイブリッド糖鎖中のIdoUAに結合したガラクトサミニド結合は切断しない。従って、この酵素でCS/DSハイブリッド糖鎖を分解すると、ΔHexUA-GalNAc-IdoUA-GalNAc-(GlcUA/IdoUA-GalNAc)n (n ≧ 0) の骨格を有する糖鎖を産生することになる。本実施例において、コンドロイチナーゼAC-IIで分解されない成分 (F6-b-I) はサイズが大きく (十糖)、若干の (18%) DあるいはiDユニットを有していた。この酵素はDユニットのクラスターを含む小さいCSオリゴ糖 (六糖あるいは四糖) を分解する力は弱いが、今回の結果は、分解物の成分が非還元末端から二番目にIdoUAを含む二糖をもつことを示唆している。IdoUAを含むというこの仮説は、コンドロイチナーゼAC-IIでは分解されないPTN高親和性細画分 (F6-b-I) の大半 (60%) がコンドロイチナーゼAC-I (図5(a)) で切断されるという知見によっても支持される。なぜならば、コンドロイチナーゼAC-IはDユニットを含む構造を切断できないので、コンドロイチナーゼAC-IIで切断されない構造中にDユニットのクラスターはないことを示しているからである。従って、図5(a)のパネルAに示すように、コンドロイチナーゼAC-IIに感受性を示さず、コンドロイチナーゼAC-Iに感受性を示す十糖は、コンドロイチナーゼBに対しても反応しないユニークなIdoUAを含む二糖を有していると考えられる。
【0065】
コンドロイチナーゼBはDSあるいはCS/DSハイブリッド糖鎖中のIdoUAに結合したガラクトサミニド結合を切断する唯一の現在入手可能な酵素であるが、その基質特異性は十分に調べられていない。この酵素は様々なDS調製品から効率的にΔAユニットを産生するが、硫酸化されていないデルマタンには作用しない。市販のブタ皮膚CS-B (DS) をコンドロイチナーゼABCで消化すると、ΔC、ΔA、ΔBを5.6 : 88 : 6.4のモル比で産生するが、コンドロイチナーゼAC-IとAC-IIで連続消化後、コンドロイチナーゼBで消化すると四糖 (8%) と二糖 (92%) を生成した。これはコンドロイチナーゼBがDSあるいはCS/DSハイブリッド糖鎖中のIdoUAに結合したガラクトサミニド結合を大半は切断するが、全てではないことを示している。加えて、コンドロイチナーゼBは、E/iEやT/iTユニットを豊富に含むヌタウナギ脊索由来CS-HからΔEユニットを産生し、ウシ大動脈やiBユニットをたくさん含むホヤH. roretziのDSからΔBユニットを産生する。これはこの酵素がiEやiBユニットに結合したガラクトサミニド結合に作用できるということを示している。対照的に、iDユニット (~80%) を主要構成成分として、iCユニット (~20%) をマイナー構成成分として有するホヤA. nigra由来のDSは、コンドロイチナーゼBには全く感受性を示さなかった。それにもかかわらず、今回得られた糖鎖配列は、iAやiE以外に、すべてではないがいくつかのiCやiDユニットの非還元末端側で、コンドロイチナーゼBがE-CS/DS鎖を切断することを明瞭に示している。これらの結果も併せて考慮すると、コンドロイチナーゼBはDSあるいはCS/DSハイブリッド糖鎖中のIdoUAに結合した全てのガラクトサミニド結合を切断するわけではなく、基質のサイズや硫酸化パターンがこの酵素による認識と切断に重要であることを示している。このことによって、本実施例で得られたコンドロイチナーゼBに感受性を示さないオリゴ糖中に、E-CS/DSオリゴ糖とPTNとの高親和性相互作用に関与するいくつかのIdoUAを有する構造が含まれている理由を説明できる。
【0066】
D/iD、B/iBあるいはE/iEのような高硫酸化二糖は、脳の発達に関与している。しかしながら、CS/DS鎖の構造-機能相関を十分に理解するためには、CS/DS鎖のD、B、EユニットとiD、iB、iEユニットの識別が難しい課題であった。我々の最近の研究から、ホヤ由来のDSに対するモノクローナル抗体2A12を用いて、発達段階のマウス脳の機能的iDを含むドメインが存在することを明らかにした。このことは、主要構成成分として非還元末端にΔDユニットを有するF5-b-IIIの今回の構造決定においても確認できた。E-CS/DSの断片化の際に用いたコンドロイチナーゼBの基質特異性から、このΔDユニットは、元のE-CS/DS多糖鎖中に存在するiD構造由来であるといえる。E-CS/DSからΔE-D-A-D (F5-b-V) を単離したが、これも同様に哺乳動物の脳にiEユニットが存在することを示している。興味深いことにPTN結合八糖から単離、同定した5種類のオリゴ糖の中で、3種類のオリゴ糖に2つあるいはそれ以上のD/iDあるいはE/iEユニットが含まれていた。従って、E-CS/DSの少量の高硫酸化二糖 (~3%) が、ランダムに分布しているのではなく、クラスターを形成し、E-CS/DSとPTNとの高親和性結合やその他の増殖因子との結合にも関与している可能性がある。加えて、高親和性細画分 (F6-b-I) は少なくとも6から9つの硫酸基を有した4種類の十糖を含んでいる (表5、図6A)。このことは、それらの十糖がモノ硫酸化二糖に加えて、1つから4つの二硫酸化二糖を含んでいることを示している。
【0067】
以上の結果は、HS鎖とFGF1、FGF2、FGF4、FGF7、FGF8bとの結合の場合に報告されているように、E-CS/DS鎖はPTNとの結合に必要な複数の最小配列を有していることを表している。複数の構造的に異なり、増殖因子あるいはヘパリン結合性タンパク質に対する異なった親和性を有する配列の存在は、HSだけでなくCS/DS鎖にも当てはまる一般的な傾向と考えられる。HS鎖の複数の結合配列にヘパリン結合性増殖因子が結合していることから推定されるように、E-CS/DS鎖の複数のPTN結合配列は、長いCS/DS鎖上をPTNが低親和性結合部位から高親和性結合部位に沿ってスライドして移動している可能性がある。また、HS結合性増殖因子とHS鎖で示唆されているように、CS/DSあるいはHS鎖の低親和性結合部位から他のCS/DSあるいはHS鎖の高親和性結合部位へPTNがジャンプして移動する可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、コンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸を含めた糖鎖全般の構造及び機能の研究解析に有用な試薬として利用することができる。さらに、PTN結合性硫酸化オリゴ糖はPTN機能調節結合剤として利用できるほか、PTN非結合性硫酸化オリゴ糖もまた、各種増殖因子、神経栄養因子、又はサイトカインなどの他の機能性タンパク質と相互作用する可能性を有することから、プローブとして、あるいは有用な生理活性調節剤として利用することができる。例えば、これら機能性タンパク質の機能を調節するために、それらのタンパク質と混合して、いわば機能性タンパク質の活性調節結合剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】固相化したE-CS/DSとPTNとの結合に対するE-CS/DSの阻害活性における酵素処理の影響について検討した結果を示すグラフである。E-CS/DS (1.35 μg) をそれぞれ至適なバッファー中、コンドロイチナーゼ (CSase) ABC (5 mIU)、CSase AC-I (2 mIU)、CSase B (2 mIU)、ヒアルロニダーゼ(HAase) SD (2.5 mIU)、ヘパリチナーゼ(HSase) (1 mIU) で37℃、1時間反応後、各分解物をPTN (200 ng) と混合し、BIAcoreシステムのセンサーチップ表面上にコインジェクトした。レスポンスカーブを記録し、各々の反応の最大レスポンスを計算した。PTN (200 ng) と酵素処理していないE-CS/DS (1.35 μg) のコインジェクションをコントロール (None) とした。各消化物の阻害活性は、糖鎖の非存在下にPTN (200 ng) をインジェクションして得られた値に対する相対値として算出した。
【図2】E-CS/DSのコンドロイチナーゼB分解物を分画し、PTNとの結合性について検討した結果を示すグラフである。(a)E-CS/DSのコンドロイチナーゼB分解物のゲルろ過クロマトグラム。E-CS/DS (100 μg) をコンドロイチナーゼB (100 mIU) で徹底消化後、流速0.3 ml/min、0.2 M NH4HCO3による溶出で、Superdex Peptideカラム (10 x 300 mm) を用いてゲルろ過を行い、分画した。2-merから18-merのCSオリゴ糖の溶出位置を上部に矢印で示した。V0:空隙容量、Vt:総容積。(b)PTNカラムに対する画分F4からF7のアフィニティ特性。(a)に示すゲルろ過によって得られた各画分 (~50 pmol) をPTN-Sepharoseカラムで0.15 (平衡化バッファー)、0.2、0.3、0.4、0.5、0.7あるいは2.0 M NaClを含む10 mM Tris-HClバッファーで段階的に溶出し、アフィニティクロマトグラフィーを行った。アフィニティ細画分をSuperdex Peptideカラムでゲルろ過し、溶出液を蛍光検出器でモニターした。親画分と細画分のオリゴ糖の分布を調べるために、各細画分のオリゴ糖の蛍光強度を使用した。0.15 M NaCl-溶出細画分 (素通り画分、FL) と高塩濃度溶出画分 (0.2~0.5 M NaCl) をそれぞれPTN-非結合性、PTN-結合性オリゴ糖とした。同様に、F3およびF8についても解析した (結果は示さず)。結合したF5~F8のうち、八糖画分F5はPTNとの結合割合が有意(7%)で、最も小さな画分であった。(c)固相化したE-CS/DSとPTNとの相互作用に対するPTN非結合性細画分 (F5-ub) とPTN結合性 (F5-b) 細画分の阻害活性。図に示した量の親画分F5あるいはその細画分であるF5-ub又はF5-bをPTN (50 ng) と混合し、BIAcoreシステムのE-CS/DS-固相化センサーチップの表面上にコインジェクトした。PTN (50 ng) のみのインジェクションから得られた値と減少したレスポンスの割合から阻害活性を計算した。注目すべきことに、F5のPTNカラムに結合した細画分 (F5-b) の少ない量 (8 pmol) でその相互作用の53%を阻害したが、F5のPTNカラムに結合しない細画分 (F5-ub) ではより多い量 (80 pmol) でも阻害活性が検出されなかった。以上の結果は、コンドロイチナーゼBによっては分解されないE-CS/DS八糖画分が、PTN固相化カラムに結合するための最小構造を含むことを示している。
【図3】陰イオン交換クロマトグラフィーによってF5-ubおよびF5-bをそれぞれ細分画した結果を示すグラフである。 F5-ub (400 pmol) とF5-b (230 pmol) をアミン結合シリカPA-03カラムを用いた陰イオン交換HPLCによって、流速1 ml/min、NaH2PO4の濃度勾配で分画した。F5-ubから8つの細画分 (F5-ub-aからF5-ub-h) が単離され (A)、一方、F5-bから7つのマイナー画分 (F5-b-1~7) に加えて、6つの主要な結合画分 (F5-b-Iから-VI) が単離された (B)。注目すべきことに、F5-bの主要な細画分はF5-ub細画分の溶出位置よりも後方に溶出された。
【図4】F5-ub-hおよびF5-b-Vの酵素学的解析のクロマトグラムを示すグラフである。各酵素によって分解されたオリゴ糖1~3 pmolを蛍光物質2ABでラベルし、あるいはラベルせずに、PA-03カラムを用いた陰イオン交換HPLCで解析した。AおよびE:F5-ub-h (A) およびF5-b-V (E) をコンドロイチナーゼABCとコンドロイチナーゼAC-IIを用いて連続消化し、2ABで標識後、HPLCで解析した。BおよびF:F5-ub-h (B) およびF5-b-V (F) をコンドロイチナーゼABCで処理し、HPLCで解析した。CおよびG:F5-ub-h (C) およびF5-b-V (G) をコンドロイチナーゼAC-IIで処理し、2ABで標識し、あるいは標識せずにHPLCで解析した。D:F5-ub-hをコンドロイチナーゼABC (プロテアーゼフリー標品) で部分分解し、2ABで標識後、HPLCで解析した。H:F5-b-VをコンドロイチナーゼAC-IIで分解後、2AB標識し、さらにコンドロイチナーゼABCで分解後、再び2ABで標識後、HPLCで解析した。10分より前のピークはフリーの2ABおよび何かの2AB化副反応生成物である。不純物由来のピークと酵素処理に使用したバッファー由来のピークを星印(*)で示した。2AB化不飽和二糖および四糖標準品の溶出位置を矢印で示した。1:ΔDi-0S (ΔO)、2:ΔDi-6S (ΔC)、3:ΔDi-4S (ΔA)、4:ΔDi-diSD (ΔD)、5:ΔDi-diSE (ΔE)、6:ΔDi-TriS (ΔT)、7:ΔA-A、8:F5-ub-hの主要構成成分 (ΔC-A-A-A)、9:ΔA-D、10:F5-b-Vの主要構成成分の非還元末端の六糖 (ΔD-A-D及び/又はΔD-iA-D)。
【図5】F6のPTN結合性細画分と非結合性細画分の性質について調べた結果を示す図である。(a)PTN結合性細画分 (F6-b) と非結合性細画分 (F6-ub) の酵素分解物のゲルろ過クロマトグラム。F6-bをコンドロイチナーゼAC-II (パネルa)、コンドロイチナーゼAC-IIとAC-I (パネルc) あるいはコンドロイチナーゼAC-IIとABCの混合物 (パネルd) で処理し、その後Superdex Peptideカラムでゲルろ過した。比較のためF6-ubのコンドロイチナーゼAC-II分解物のゲルろ過パターンをパネルbに示した。分離したピークのサイズを決定するため、MALDI-TOF-MSあるいはHPLCを行った。構成する単糖の数を数字で示した。即ち、2-10は、二糖から十糖を示す。(b)F6-bとそのコンドロイチナーゼAC-IIで分解されない細画分のPTNカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー。アフィニティ分画は、図2(b)の実験と同様に行った。注目すべきことに、F6-bのコンドロイチナーゼAC-IIで分解されない細画分は、高塩濃度 (0.3~0.5 M NaCl) で溶出されたF6-bの成分の大半を含んでいた。
【図6】MALDI-TOF-MSと酵素分解によってF6-b-IおよびF6-b-IIの性質について調べた結果を示す図である。AおよびB:MALDI-TOF-MSスペクトル。F6-b-I (A) あるいはF6-b-II (B) の4 pmol相当を個々に、(Arg-Gly)15およびゲンチジン酸と混合し、ポジティブモードでMALDI-TOF-MS解析した。3213.5、3529.1、3843.5、3213.8、3529.3のm/zのシグナルは、(Arg-Gly)15由来である。注目すべきことに、(A) の5805.1および5884.3のm/zのシグナルはそれぞれ7つと8つの硫酸基を有する十糖に相当する。しかし、(B) の4885.7のm/zのシグナルは5つの硫酸基を有する六糖に相当する。CおよびD:陰イオン交換クロマトグラム。F6-b-I (C) およびF6-b-II (D) を個々に、コンドロイチナーゼAC-IIとABCの混合物で処理し、2ABで標識後、アミン結合シリカカラムでHPLC解析をした。2AB化不飽和二糖およびオリゴ糖標準品の溶出位置を矢印で示した。1:ΔO、2:ΔC、3:ΔA、4:ΔD、5:ΔB、6:ΔE、7:ΔA-D、8:ΔT、9:ΔE-A (略号の意味は前述と同じ)。不純物由来のピークと酵素処理に使用したバッファー由来のピークを星印(*)で示し、カラム由来のものを#の記号で表した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5