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明細書 :設計支援方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4528962号 (P4528962)
公開番号 特開2006-031488 (P2006-031488A)
登録日 平成22年6月18日(2010.6.18)
発行日 平成22年8月25日(2010.8.25)
公開日 平成18年2月2日(2006.2.2)
発明の名称または考案の名称 設計支援方法
国際特許分類 G06F  17/50        (2006.01)
FI G06F 17/50 604A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 35
出願番号 特願2004-210825 (P2004-210825)
出願日 平成16年7月16日(2004.7.16)
審査請求日 平成19年2月7日(2007.2.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
発明者または考案者 【氏名】石川 晴雄
【氏名】南 允議
個別代理人の代理人 【識別番号】100091904、【弁理士】、【氏名又は名称】成瀬 重雄
審査官 【審査官】加舎 理紅子
参考文献・文献 特開平08-129582(JP,A)
特開平06-290225(JP,A)
久芳泰弘 他,セットベースの概念を用いた3次元CADシステムによる設計支援,第13回設計工学・システム部門講演会講演論文集,2003年10月30日,p.414-417
石川晴雄 他,セットベース概念を用いた設計支援システム(目的仕様に合う変数空間設計),デザインシンポジウム2004講演論文集,2004年 7月 8日,p.327-330
川口克也 他,ファジィ数理計画法を利用した多目標最適設計,日本機械学会機械力学・計測制御講演論文集,1992年 7月 7日,第920-55号,p.127-132
調査した分野 G06F 17/50
CiNii
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
コンピュータを用いて実行される次のステップを備えたことを特徴とする設計支援方法:
(1)設計変数範囲と、前記設計変数の入力選好度と、要求性能変数範囲と、前記要求性能の選好度とを設定するための命令を前記コンピュータが受け付けるステップ;
(2)前記コンピュータが、前記設計変数範囲を分割するための命令を受け付けるステップ;
(3)前記分割された設計変数範囲における性能の期待値およびロバスト性を統合的に評価するために、分割された各設計変数範囲について、以下の式に基づいて、前記コンピュータにおける算出手段がPRIを算出するステップ
PRI=NDPI*NPSI
ここで、
NDPI:正規化されたDPI;
DPI:前記要求性能変数範囲における前記要求性能の選好度(p(x))と、前記設計変数範囲と前記設計変数の入力選好度とから得られる前記要求性能の可能性分布(q(x))とから算出される、性能の期待値;
NPSI:正規化されたPSI;
PSI:前記要求性能の可能性分布(q(x))の精度と安定性とを示す測度
である
【請求項2】
さらに、コンピュータにより実行される次のステップを備えたことを特徴とする、請求項1記載の設計支援方法;
(4)前記PRIが0である場合には、該当する分割された設計変数範囲を、前記コンピュータにおける計算手段が、設計検討の対象から除外するステップ。
【請求項3】
請求項1における前記可能性分布を算出するために、コンピュータにより実行される次のステップを備えたことを特徴とする可能性分布の算出方法:
(1)前記設計変数の入力選好度が0の場合における、設計対象についての性能値の可能性分布を示す計算モデルを、前記コンピュータの算出手段が算出するステップ;
(2)前記コンピュータにおける算出手段が、任意の入力選好度における設計変数に対応する性能値を、前記計算モデルを用いて内挿により算出することにより、前記可能性分布を取得するステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は各種の設計を支援する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンカレントエンジニアリング(Concurrent Engineering, CE)の概念が提唱され、リードタイムの短縮、安全性などの品質の向上などを目的に製品のライフサイクルに属する諸過程の作業を同時並行的に処理する必要性が指摘されている。この同時並行的とは単に複数のプロセスの独立的同時進行ということではなく、各プロセスが共通データに基づいて協調処理を行いながら自らの処理を進めることを意味する。現在、産業界ではこの手法を用いて製品の多様化、多品種少量生産にも対応する製品開発プロセスが一般的になりつつある。
【0003】
従来の設計では、CEであるかどうかに関わらず、図1(a)のように初期段階からあるポイント値で規定される設計解を求め、その解が要求仕様及び制約を満たすかどうかを評価し、評価結果が不適切だった場合はその解が設計目標に到達するまで修正を繰り返す手法を用いている(これをポイントベースという)。
【0004】
しかし、実際の設計では、概念設計から詳細設計へと設計が進むにつれ、求めてきた解が不適切になり、設計解の修正やその修正による影響によって既に決定した内容の変更の必要が生じることもある。また、CEの場合は設計部門以外にも企画・開発・生産などの他部門でも同時並行的に作業を進めている可能性が高いため、少しの変更が大きな影響を引き起こす可能性がある。このようにポイントベース手法では最適解を導くまでに解の修正の繰り返しが必要になるため、多くの時間を費やしてしまう。また、初期段階での企画変更やデザイン変更、製品の販売サイドの要望などにより、設計仕様そのものが変更されてしまう場合もある。このような場合は、もう一度最初から設計し直す必要があり、全体の製品開発プロセスが長期化してしまう可能性がある。
【0005】
最近、これを改善するために、図1(b)のように、初期段階でポイント値ではなく、幅広い集合としての設計解を求め、その解集合を元に各部門による協調作業を行い、設計が進むにつれて徐々に実現性の乏しい解集合を除くことにより設計解集合を狭めていくセットベースコンカレントエンジニアリング(Set-Based Concurrent Engineering, SBCE)という手法(下記非特許文献1-4参照)が提案されている。ポイントベースのアプローチに比べ、設計初期段階では設計解集合の求解にある程度の時間を要するが、設計の後期の段階ではより短時間で最終的な製造プロセスへと解を収束させることができるので、総合的にはより効率的と言える。ここで、セットベース設計とは、初期段階でポイント値ではなく、幅広い集合としての設計解を求め、徐々に実現性の乏しい解集合を除くことにより設計解集合を狭めていく手法である。
【0006】
以下、非CE型、CE型、SBCE型の各設計手法の特徴・本質について説明する。従来からの設計過程はポイントベースの非CE型(直列型(Sequential Engineering, SE))であり、基本的には上流過程での設計が完了した後に下流過程からのフィードバックがあり、開発期間の長期化が起きる。それに対し、CEでは設計初期段階から下流過程の内容が上流過程へフィードバックされ、より早く多くの要求を考慮するが、本質的には従来の設計開発の流れと同様、単一設計解の修正を繰り返していることになる。そのため、この方法では常に最良の設計解を指向して数多く修正が行われるため、CEを適用することによりさらに開発期間が長期化する可能性もある。SBCEでは設計の初期段階で設計解集合をできるだけ広く取り、様々な異部門間での並行的・協調的な開発により、設計案の実現可能性に関する様々な情報をもとに設計解の集合を徐々に狭めていく。個々の部門のみを見ると効率が悪いように見えるが、システム全体として見ると既に決定した内容を無効化することがなくなるため、より効率的な手法であると言える。
【0007】
また、詳細段階における最適解は初期設計段階での設計案の選定に大きく左右される。しかし、初期設計段階では、正確な要求仕様を決めるのが困難であること、製造及び組立寸法のばらつき、使用環境の変化、設計者による最良の設計案選定の難しさ、他部門からの設計解の変動性などといった様々な不確実性が存在する。従って、性能の観点から最適でロバストな設計解を得るためには、様々な不確実性を考慮した設計が要求される。SBCEはこのような不確実性に対応できる手法であるとも言える。
【0008】
一方、現在の設計現場では、設計解の妥当性を確認するために、強度特性、振動特性、衝突特性、リサイクル性、運転性、コストなどの性能評価に様々な解析ツールを用いる場合が多くなってきた。しかし、このような解析に要する人的・時間的コストは非常に高く、すべての要求仕様に対応した解析を実行し、その解析結果から要求仕様を満足する最適解を求めるのは難しい。これを解決するための一つの方法として、実験計画法により必要最小の解析を行い、その解析結果から設計変数と性能変数間の関係性を表す近似的な計算モデルを導出するメタモデリング技法が多く使われている。従って、実際の解析の代わりに、この近似計算モデルを用いることで、より低コストで迅速に複数の性能を評価することができる。また、個々の解析結果を統合することによって、多目的・多領域設計のための計算モデルが作成できるという利点から、近似計算モデルの利用は、CEを実現するための有効な方法だと考えられる。
【0009】
SBCEはCEの実現に有効な手法として位置づけられるが、計算機への実装が可能な方法は確立されていない。また、ファジーセットベース手法(下記非特許文献5-7)、インターバルセットベース手法(下記非特許文献8-10)、確率ベース手法(下記非特許文献11,12)などの不確実性に対応した様々なセットベース設計手法やその計算機支援に関する研究が数多く提案されているが、SBCEの全ての仕組みを実現できる手法は未だ存在しない。

【非特許文献1】(1) Ward, A., J.K. Liker, J.J. Cristiano, and D.K. Sobek II, "The Second Toyota Paradox: How Delaying Decisions Can Make Better Cars Faster", Sloan Management Review, 36(3): 43-61, 1995.
【非特許文献2】(2) Liker, J.K., D.K. Sobek II, A.C. Ward, and J.J. Cristiano, "Involving Suppliers in Product Development in the United States and Japan: Evidence for Set-Based Concurrent Engineering", IEEE Transactions on Engineering Management, 43(2): 165-178, 1996.
【非特許文献3】(3) Sobek II, D.K., A.C. Ward, "Principles from Toyota's Set-Based Concurrent Engineering", Proc. of DETC'96, DETC96/DTM-1510, Irvine, CA, August 18-22, 1996.
【非特許文献4】(4) Sobek II, D.K., A.C. Ward and J.K. Liker, "Toyota's Principles of Set-Based Concurrent Engineering", Sloan Management Review, 40(2): 67-83, 1999.
【非特許文献5】(5) Wood, K.L., E.K. Antonsson, "Computations with Imprecise Parameters in Engineering Design: Background and Theory", ASME Journal of Mechanisms, Transmissions, and Automation in Design, 111(4): 616-625, 1989.
【非特許文献6】(6) Antonsson, E.K., K.N. Otto, "Imprecision in Engineering Design", Transactions of the ASME Journal of Mechanical Design, 117(B): 25-32, 1995.
【非特許文献7】(7) Scott, M.J., E.K. Antonsson, "Preliminary Vehicle Structure Design: An Industrial Application of Imprecision in Engineering Design", Proc. of DETC'98, DETC98/DTM-5646, Atlanta, GA, September 13-16, 1998.
【非特許文献8】(8) Ward, A.C., T. Lozano-Perez and W.P. Seering, "Extending the Constraint Propagation of Intervals", Artificial Intelligence for Engineering Design, Analysis and Manufacturing, 4(1): 47-54, 1990.
【非特許文献9】(9) Finch, W.W., A.C. Ward, "Quantified Relations: A Class of Predicate Logic Design Constraints among Sets of Manufacturing, Operating and Other Variables", Proc. of DETC'96, DETC/DTM-1278, Irvine, CA, August 18-22, 1996.
【非特許文献10】(10) Finch, W.W., A.C. Ward, "A Set-Based System for Eliminating Infeasible Design in Engineering Problems Dominated by Uncertainty", Proc. of DETC'97, DETC/DTM-3886, Sacramento, CA, September 14-17, 1997.
【非特許文献11】(11) Chen, W., C. Yuan, "A Probabilistic-Based Design Model for Achieving Flexibility in Design", Transactions of the ASME Journal of Mechanical Design, 121(1): 77-83, 1999.
【非特許文献12】(12) Wallace, D.R., M.J. Jakiela and W.C. Flowers, "Design Search under Probabilistic Specifications using Genetic Algorithms", Computer-Aided Design, 28(5): 405-421, 1996.
【非特許文献13】(13) Zimmermann, H.-J., Fuzzy Set Theory and Its Applications, Kluwer Academic Publishers, 2001.
【非特許文献14】(14) Luoh, L., W.-J. Wang, "A Modified Entropy for General Fuzzy Sets", International Journal of Fuzzy Systems, 2(4): 300-304, 2000.
【非特許文献15】(15) Terwiesch, C., A. De Meyer and C.H. Loch, "Exchanging Preliminary Information in Concurrent Engineering: Alternative Coordination Strategies", Organization Science, 13(4): 402-419, 2002.
【非特許文献16】(16) Scott, M.J., E.K. Antonsson, "Aggregation Functions for Engineering Design Trade-offs", Fuzzy Sets and Systems, 99(3): 253-264, 1998.
【非特許文献17】(17) Otto, K.N., E.K. Antonsson, "Trade-Off Strategies in Engineering Design", Research in Engineering Design, 3(2): 87-104, 1991.
【非特許文献18】(18) Kusiak, A., J. Wang, "Dependency Analysis in Constraint Negotiation", IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics, 25(9): 1301-1313, 1995.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、計算機への実装が可能でかつセットベース設計手法に有効な設計支援方法を提供することである。また、本発明は、このような設計支援方法に適切な、可能性分布の算出方法を提供することも別の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る設計支援方法は、次のステップを備えている:
(1)設計変数範囲を設定するステップ;
(2)前記設計変数範囲を分割するステップ;
(3)前記分割された設計変数範囲に対応する要求性能の選好度、性能値の可能性および/またはロバスト性を算出するステップ。後述の実施形態で述べるように、要求性能の選好度とは、例えばp(x)であり、性能値の可能性とは、例えばq(x)であり、ロバスト性とは、例えばPSIであるが、これらには限られない。
【0012】
この設計支援方法は、さらに次のステップを備えていてもよい;
(4)前記要求性能の選好度、性能値の可能性またはロバスト性のいずれかが0である場合には、該当する分割された設計変数範囲を、設計検討の対象から除外するステップ。
【0013】
本発明に係る可能性分布の算出方法は、次のステップを備えている:
(1)入力選好度が0の場合における性能値の可能性分布を示す計算モデルを算出するステップ;
(2)任意の入力選好度における性能値の可能性分布を、前記計算モデルを用いて内挿により算出するステップ。これらのステップ(1)および(2)において計算モデルとは、例えば応答曲面であるが、これには限られない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の設計支援方法によれば、計算機への実装が可能でかつセットベース設計手法に有効な設計支援方法を提供することができる。また、本発明によれば、このような設計支援方法に適切な、可能性分布の算出方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。この説明においては、まず、本実施形態を説明するための前提となる基礎的事項を説明する。その後、実際の設計例(実施例)を用いて、本実施形態を説明する。
【0016】
(前提となる基礎的説明)
1. 選好度を考慮したセットベース設計手法
1.1 設計者の選好度と設計の柔軟性表現のための設計解集合
図2は、本実施形態におけるセットベース設計手法を示している。これをPSD (Preference Set-Based Design)手法と呼ぶ。設計者はまず、なんらかのメタモデリング技法(応答局面法、ニューラルネットワーク、帰納的学習法、Kriging法など)を用いて作成された設計変数と性能変数間の関係性を表す計算モデルを用意する。次に対象性能の評価のために、設計変数や性能変数の可能性範囲を特定する(ステップ2-1)。
【0017】
設計変数としてとるべき値の集合を考える場合、一般に2種類の集合が考えられる。連続量と離散量である。連続量の集合はインターバルとしてその上下境界値を定められる(例えば、雑音は[15, 30](dB)の範囲に減少する)、あるいは上下境界の一方が規定される(例えば、この部品は少なくとも30 cmの容積を必要とする)。PSD手法ではグラフ理論を用いて離散量集合に対する設計者の選好度を表現するための定量的で直感的な表現方法も可能であるが、本実施形態では連続量集合に対するセットベース設計についてのみ焦点を当てて説明する。
【0018】
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【0019】
図3に示すように選好度数は純然たるインターバル集合だけではなく、設計者の選好度に関する情報を表せることで、より幅広い意味を持たせることができる。また、セットベースの概念は最終の設計解をあるセットとして求めるので、その設計解のインターバル内であれば任意に変更できるという意味で設計の柔軟性を与えることになる。
【0020】
選好度関数は確率密度関数(Probability Density Function)、ユーテリティ-関数(Utility Function)、あるいはファジーメンバーシップ関数(Fuzzy Membership Function)と類似である。しかし最も大きな違いは以下のようになる。確率密度関数は統計的不確実性を原因として設計変数の取るべきある種のタイプ(分布形)を示している。これは設計者が制御したり、選択したりすることができない内容、現象であるがゆえに、ある変数に関する正確な知識が欠落することによって生じる不確実性である。ユーテイリティ-関数は様々な仮定や条件に従わなければならない。一方、選好度関数の数学的な意味としては望ましさの程度(Degree of Desirability)に関連した設計者の主観的な度合いを示すのであって、ユーテイリティ-理論におけるような仮定に従う必要性はない。また、ユーテイリティ-の評価は最良あるいは最悪を選択するに十分な情報がない初期設計段階ではそもそも難しい。他方、ファジー理論は一般に不確実性のなかでも不正確性を表現し、これを取り扱うことは可能である。ファジー集合の考えを用いれば、例えばファジーメンバーシップ関数が0.5であるということは設計案がファイジー集合に属する度合いが50%であることを示している。しかしこのことを受けて設計者は設計案に対してどのように対処すべきかは必ずしも明確ではない。
【0021】
さらに、PSD手法では限量関係理論(Quantified Relations, QR's) (非特許文献9,10)に従って、限量記号(全称記号、存在記号)を用いることによって選好度数を定量化する。その限量化選好度数(Quantified Preference Number, QPN)は次のように表される。

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【0022】
選好度数の代わりに限量化選好度数を用いることによって、個々の設計変数に対する可能性を特定化することが可能になる。例えば、製造に関する誤差や他の担当者によって決められる可能性など、設計変数によっては設計者が制御不可能な変数が存在する場合があり、このような設計変数に関しては与えられた可能性の全てを満たすような設計解を求めなければならない。この時、選好度数は全称記号を用いて定量化する。また、設計者によって制御可能な設計変数に対しては存在記号を用いて定量化し、良い性能が達成できるように設計者の解集合の中で調整することもできる。したがって設計者は設計空間と要求性能空間の両者を検討するときに設計の望ましさを構造化した選好度を取り入れることができる。このようにして、設計者は、設計変数範囲を設定することができる(図2のステップ2-2)。
【0023】
1.2 修正離散ファジー演算を用いた集合伝播法
設計変数と性能変数に対して1.1節のような選好度数が特定されると、設計変数の選好度数によって達成できる性能値を求める必要がある。入力値がある分布として与えられるので、出力値もある分布を表すことになる。ここでは出力性能のQPNを求めるために入力設計案のQPNをそれらの関係に関して伝播させるための方法を提案する(図2のステップ2-3)。この方法はファジー集合をα‐カットによるレベルセットに分解する手法と類似している。またそのための演算方法も集合演算を用いて定義することができる。しかし、本実施形態の方法では工学設計問題で重要な変数間の因果関係を取り扱うことができ、さらに、拡張したインターバル演算を用いることにより、標準的なファジー集合演算で生じる集合の過大評価を避けることができる。後者の特長により計算時間も少なくすることができる。
【0024】
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【0025】
各インターバルは次式のようなα-レベル pj でのαカットによって与えられる。
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【0026】
式(3)での添え字L,Uはそれぞれインターバルの下限、上限境界を表す。
【0027】
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【0028】
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【0029】
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【0030】
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【0031】
1.3 実験計画法とPRIを用いた集合絞込み法
1.3.1 実験計画法による設計案の部分集合の組合せの作成
1.2節で述べた集合の伝播手法を用いることによって、初期設計案のQPNによって達成される性能の可能性分布を求めることができる。その可能性分布と要求性能の選好度が互いに重なる領域が存在する場合には初期設計案の内に実現可能な設計解が存在することが予測できる。しかし、初期設計案による性能の可能性分布の中、要求選好度から外れている領域が存在する場合がある。このように、初期設計案の中で有効解ではない部分集合を消去するために初期の解集合の絞込みを行う(ここでは、図2のステップ2-6を先に説明する)。PSD手法では実験計画法(DoE)を用いることによって、初期設計案の部分集合の組合せを作成し、その組合せによる性能の可能性分布を算出し、後述の1.3.2で提案される評価指標を用いてそれぞれの性能を評価することによって、よりロバストな設計案を選び出す。PSD手法では、単純な要因分析が可能で、必要最少の組合せの作成ができるTaguchiの直交表(Orthogonal Array)を用いる。
【0032】
1.3.2 設計案の選好度とロバスト性の評価のための新たな評価指標
PSD手法では、1.1節で述べたように設計変数と性能変数に対する選好度の変化する度合いを表現するために、選好度関数を採用した。特に性能変数Xに対する選好度関数pX(x)は選好度pと性能Xのレベルの間の関係を定義する。選好度関数pX(x)は、本発明における要求性能の選好度の一例に相当する。設計変数に対する選好度関数が性能を規定する場合は1.2節で述べた集合伝播法によって得られた性能は設計変数の選好度関数に依存した性能Xの可能性分布qX(x)になる。可能性分布qX(x)は、本発明における性能値の可能性の一例に相当する。
【0033】
ここで、設計変数の変動に対応して、変動する性能の良さを計測するための評価指標が必要になる。PSD手法では解の範囲に依存して生ずる性能変動を評価するために、設計選好度指標(Design Preference Index, DPI)(非特許文献11)を採用する。数学的にDPIは設計範囲内での設計性能の選好度関数からの期待値として定義され、次の式(8)のように表現される。
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【0034】
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【0035】
その情報特性とは情報の精度と情報の安定性(非特許文献15)である。情報の精度とはひとつの情報の正確さで表される。設計変数X (例えば、 X=[19, 21])として与えられるインターバルセット情報に関する精度の指標はインターバルの中央値20cmで除された2cmの範囲、あるいは中央値に対する10%範囲として定義される。一方、安定性とは設計の下流工程でもはやそれ以上修正される見込みのない状態を示す。例えば、ブーリアン型の情報は完全に安定である。何故ならこの情報が持つ可能性は"yes"あるいは"no"だけであり、変更されない確率が100%であるからである。
【0036】
したがって、PSD手法での設計案に対する安定性と精度は次のように解釈できる。可能性分布の精度と安定性はその分布が示す曲線がその境界値であるp=0とp=1にどの程度広がっているかと類似である。つまりPSIはその分布がいかに0と1に近いかを示す測度である。PSIはShannonのエントロピー指標を修正することによって求めた。
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【0037】
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【0038】
図3に示す6つの分布に対して、Shannonのエントロピー測度(S), γ-レベル測度(G), 修正エントロピー測度(M)および今回提案したPSIによる評価結果を表1に示す。
【0039】
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【0040】
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【0041】
一方、ロバスト設計の基本的な考え方は変動の影響を最小化することによって製品の品質を向上させることである。初期変数の部分集合の組合せとしての設計代替案を生成するために1.3.1で述べたように実験計画法を用いて選好度数を分割する。その際、初期変数のインターバルの幅を等しいサイズに分割する(後述の実施例では二等分割)ため、性能の可能性分布の広がりが小さい設計案がよりロバストな設計と言える。
【0042】
PSD手法では設計者の選好度とロバスト性を同時に評価する測度として、DPIとPSIの積を用いるものとする。これをPRI(Preference and Robustness Index)と呼ぶこととする。
【0043】
このとき、より小さいPSI値はよりよい精度と安定性を表すので、PSIはより小さい値がPRIにより多く貢献するように正規化されるべきである。そこで設計の代替案の相対評価を行うために、DPIとPSIはそれぞれDPIの最大値とPSIの最小値で正規化する。結局、PRIは次式で求められる。
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【0044】
ここで、NDPI(Normalized Design Preference Index)とNPSI(Normalized Precision and Stability Index)はそれぞれ正規化されたDPIとPSIである。
【0045】
また、一般に多目的設計問題では設計の代替案に対して複数の性能が検討されるので、それぞれの性能に関するPRIを統合して全ての性能に関する評価を行う必要がある。この統合されたPRIをAPRI(Aggregated Preference and Robustness Index)と呼ぶ。
【0046】
PSD手法では多目的意思決定問題によく使われる重み付きべき乗平均(非特許文献16)を利用する。
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【0047】
式(13)での変数Sを変えることによって次のような一般的な平均演算子が得られる。
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【0048】
式(14)で表される平均演算子は妥協なし(MIN)から完全妥協(MAX)までの異なる妥協の程度(式(15))を示す(非特許文献17)。例えば、APRIを求めるのにMINが使われた場合は、他の性能が高く評価されても全体評価は一番低い性能によって決まる。また、MAXの場合は一番高い性能特性によって全体評価が行われる。そのMINとMAXの間の平均演算子はHM、GM、AM、QMの順で高く評価された性能値が低い性能値を補償するように平均を求めることになる。
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【0049】
2.4 PSI、依存性、二分法による解集合の修正法
PSDでは入力としての選好度数に基づいて、集合の伝播プロセスにしたがって、ある種の出力としての可能性分布を計算する。しかしながら初期の入力選好度数が期待とは異なる分布を出力し、性能要求を満足しないことがある(図2のステップ2-4)。例えば、p(x)×q(x)=0の場合は、可能な解のセットが存在しないことになる。そこで、入力範囲(設計変数範囲)を修正することが望ましい(図2のステップ2-5)。ここで、設計者はその初期設計案をいかに修正すべきか分らない可能性がある。したがって設計修正を行うために、それぞれの入力選好度数の影響度を決定する必要がある。PSD手法の集合の修正法は基本的にMoI(非特許文献5)の概念を用いるが、不確実性の測度としてのPSIと定量的依存性(非特許文献18)を採用することによって、設計案の中で修正優先順位を決めると共に、修正量を同時に求めることが特徴である。
【0050】
ある関係式を用いて入力選好度数を評価するときには、いくつかの入力値は出力性能にほとんど影響を与えることがなく、他の入力は最も重要な影響を与えることがあり得る。したがって入力と出力の間の相対的な関係性は入力の出力に対する重み(非特許文献5)を得るのに使用されうる。1.3.2節で提案した不確実性の測度であるPSIは入力と出力間の関係を示す定性的測度としても使用されうる。これにより設計者にある種の入力の修正のためのガイドラインを提供することができる。
【0051】
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【0052】
ここでy0は変数yの現在の値であり、ynewは変数xの値をr%変動させて得られる新しい値である。
【0053】
出力分布と入力選好度数との間の定量的依存性を得るためには、すべての入力選好度数の値をそれらの最も高い一つの値にセットすればよい。最終的な出力値はy0に対応する。各入力選好度数をr%だけ変動させることによって新しい出力値(ynew) が得られ、それぞれの定量的依存性が求まる。しかし、そのような定量的依存性は線形近似を仮定しているので、関係が非線形の場合には要求値域の外側に近似値を与えることがある。したがって本修正法では2段階修正法を用いる。すなわち第一段階としては、ラフな近似として前述したような定量的依存性を使用し、その後二分法を用いてより精度のある修正を施すことによって非線形性にも対処する。
【0054】
2. 結言
以上においては、シミュレーションを基礎にした設計においてロバストで柔軟な設計を行うためのセットベース設計の基礎的なフレームワークについて説明した。その方法としては集合の表現方法、集合の伝播法、集合の絞込み法、そして集合の修正法を含むいくつかの計算機ベースのモデルから構成されている。
【0055】
初期設計解の可能性の範囲について考慮するとともに、設計の解空間と選好度空間の両者を考慮した集合表現方法が重要である。設計空間から性能空間への集合間の写像に基づく集合の伝播法により、性能の要求選好度を満足する設計解集合を求めることができる。また、初期の設計解空間から不適切な設計範囲を徐々に除外することによって、集合の絞込みを行う(図2のステップ2-6)。その際、実験計画法と設計のロバスト性を評価するための評価指標を使用する。最後に集合の修正法により初期設計空間を修正するガイドラインを提案している。以上の設計手法によりセットベースコンカレントエンジニアリング(SBCE)のコンピュータ支援による実現が可能となる。
【0056】
(実施例)
以下、車両設計、特にドアビームの設計を例として、本実施形態をより詳細に説明する。
【0057】
1.はじめに
前記においては、セットベ-ス設計手法の理論的側面を説明した。本章と次章では、その有効性について検証する為に、具体的な車体構造に例をあげ、その多目的設計に関するベンチマ-ク設計への適用について説明する。
【0058】
セットベ-ス設計手法は、前記で示したような理論的明快さを有するとともに、実際の多目的設計の現場における様々な困難さを克服することが可能な手法である。
【0059】
そこで、次章では先ずセットベ-ス設計手法がいかに設計現場の実状(開発プロセス、多性能の同時満足解)に呼応しているか、について述べる。
【0060】
次にセットベ-ス設計手法の概念や実際のアプロ-チについて、簡単な設計例を用いて説明する。
【0061】
その上でベンチマークとして実施した内容について説明する。ベンチマークテストでは具体的構造を例にとり、その多目的な満足解を設計変数の範囲として求めるとともに、より良い解範囲への修正方法を示す。また複数の設計者の設計案を比較し、彼らの設計方針と設計結果との関係について説明する。
【0062】
2.設計現場の現状(多性能を同時に達成させることの困難さ)
2.1 .車両開発プロセスの変化
現在の車両開発では、ユーザーニーズの取り込み、安全性の向上(各国レイティング、法規の迅速な対応)、環境対応(軽量化、燃費向上)等への迅速な対応を目的に開発期間の短縮化が大きく進んでいる。このため開発に携わる多くの部署がコンカレントエンジニアリング(Concurrent Engineering,CE)を推し進めており、車体構造計画の段階から車両に要求される性能・レイアウト要件を、与えられた意匠の中で全て満足させるように計画している。ただ車体構造計画の初期段階では、与えられる意匠・採用されるユニットの要件のみならず、社会的な環境要件の変化や市場環境の変化に柔軟に対応させるため車両企画そのものも流動的であり、企画の変更・設計仕様の変更が多く発生する。CEが進んだ現在では、企画・設計仕様の変更が与える影響は変更が決まった時点で業務にあたっている一部署に留まらず、同じ設計情報を同時に使用している複数の部署に相互に影響を与え、それぞれ玉突き的に設計変更が必要になり、修正程度で回復できない場合には各関連性能の設計を最初からやり直すことになる。
【0063】
2.2 設計者が抱える多くの性能要件とこれによる問題
車両企画・設計仕様の変更は環境の変化のみが原因では無い。CEが進んだ現在では、設計者は複数の設計(意匠・生産・企画・レイアウト・性能法規)要件を同時に満足する解を導き出さなければならず、個別の性能ごとに目標に対する達成度が低い解が選ばれた場合にも後に設計変更が必要となる可能性がある。設計初期段階で設計者が多性能を同時に達成させる解を得るために与えられる時間は、従来の直列的な開発がされてきた時代と同等の時間しか与えられていないことが多く、詳細設計フェーズにおいて目標達成のための設計変更を行っているのが現状である。
【0064】
こうした設計変更を引き起こす設計仕様の変更を予防するため各社とも様々な対処法を適用している。特に多種多様な性能要求を同時に満足させる解を選択する場面では車両開発責任者や性能を熟知した機能専門家などを交えたデザインレヴュ-が多く用いられ、相反しあう性能への投資配分の決定などでは、車両・車体計画の中心を担う人物が、過去のデータ・経験や企画のコンセプトから選択する解を決めざるを得ない場合が多く、複数の性能要件を車両として満足させる解を指向したつもりでもそれぞれの性能要件ごとの達成度が検証されておらず、後に設計変更を伴う修正が必要となり車両開発全体への影響と個人への負荷増が無視できなくなっている。
【0065】
2.3 多種多様な性能要求を同時に満足する解を得る為のアプローチ
こうした設計初期段階の環境の中で、多種多様な性能要求を同時に満足する解の選択には、過去のデータ・経験やCAE解析などを用いた性能の予測が有効になるが、過去の経験を超える範囲での予測は難しいし、CAE解析そのものにも時間や解析工数の確保などの限界がある。また多種多様な性能要求を同時に満足する解を選択するために与えられる条件自体が、ある幅を持った値で与えられる場合や、値そのものが後で変動する可能性を先に知らされる場合もある。車両開発の中では、ひとつの性能が他の性能に影響を及ぼさない完全に独立した性能項目は極まれで、多くの関連性能と相互に影響を及ぼしあっていることの方が普通である。このため多くの性能要求を同時に満足する解を得るためのツールには、次に述べる特徴が求められると考えた。
1)必要な解を得るために、与えられた設計仕様が存在できる範囲を把握する。
2)複数の目標性能の中で他性能へ与える影響が大きいものは何か、逆に感度の低い設計仕様は何かを確認する。
3)複数の目標性能を相互に満足できる解が得られなかった場合、どの目標性能をどちら側へどの程度変更すればいいのか、その時どの性能へ、どんな影響が出るのかを把握する。
4)これら設計仕様間の関係が視覚的に確認できると、相互の関係をより把握しやすくなる。
【0066】
これらは従来、あまり必要性を論じられなかったか、あるいはツールの中で実現されていなかった項目である。
【0067】
3.セットベース手法の概要
今回、発明者らは、多種多様な性能要求を同時に満足する設計解を得るためのツールとしてセットベース手法を取り上げ、2-3)項の1)~4)の要求がどのように満たされるのかを、種々の性能要件が相互に影響しあう車体構造部品の一部であるドアビームを用いて検証した。我々が着目した『セットベース手法』には、a~fのような特徴がある。
a)目標性能の設定を、設計者自身がある範囲を持たせて指定することができる。
b)指定した目標性能の範囲の中で設計者の意図を反映することができる。
c)得られる解は、与えられた目標性能を満足する範囲と、目標に対する達成度を持った形で得ることができる。
d)与えられた設計仕様の幅の中で全ての目標性能を満足する解が得られなかった場合、解を得るために修正すべき設計仕様とその設計仕様の変更量を効率的に求めることができる。
e)得られる解は、解を得るプロセスも含めて定量的に確認することができる。
f)設計初心者が設計してもベテラン設計者と同じ様な解が得られるのと同時に、設計者の意図を定量的に織り込むことができるため設計者の個性も発揮される。
【0068】
4.ドアビ-ムでの活用事例
実際のドアビ-ムでの事例で、セットベ-ス手法の活用手順を語句の説明も交えながら紹介する。
【0069】
ここで、図4に示す実際の車体モデルのドアビ-ム1での適用事例で入力選好度、要求性能関数について紹介する。
【0070】
先ず、ドアビ-ムに求められる主要な性能は、ドア2の開閉時での強度性能、ドア共振防止の為の振動性能、衝突時の特に側突性能の3種類である。
【0071】
また、ドアビ-ムとしての板厚、直径の基本スペックに対する設計者の思い描いている設計思想(具体的には各種性能を考慮すると板厚はこれぐらいの板厚にしたい)を、ここでは入力選好度と呼ぶ。
【0072】
4.1 入力選好度の意味
Preference Set-Based Design (PSD) というセットベース手法では、設計初期段階でポイント値ではなく幅広い集合としての設計解を求め、設計が進むにつれて徐々に現実性の乏しい解集合を除くことにより設計解集合を狭めていく。そのため、PSDでは設計解および要求性能に対して選好度 (Preference) 関数を導入することによって、選好度を反映しながら様々な不確実性による変化により柔軟に対応できるロバスト設計をその目的としている。
【0073】
PSDでは、まず設計者は、設計変数および性能変数に対して選好度関数付き設計解ISS (Initial Solution Subspace…設計変数範囲に相当) と要求性能PRS (Performance Requirement Subspace) を定義する。次に、設計者は、インターバル伝播アルゴリズム (Preference Set Propagation Algorithm) を用いて初期設計解ISSの性能値PPS (Performance Possibility Subspace) を求める。この時、初期設計解ISSが連続値の選好度関数として表現されるため、それによる性能値PPSもある可能性分布を表す。
【0074】
ここでは、図4に示すドアビーム1の直径dと肉厚tを設計変数とし、図5に示す側面衝突を想定したFEMモデルによる最大反力rfを性能特性とした例題を用いて、具体的に話を進めることとする。複数の性能を同時に満たす実際の設計事例は、後に詳しく述べる。なお、図5においては、符号3はインパクタを示し、符号4は、ビーム1をドア2に取り付けるためのブラケットを示す。
【0075】
例えば、設計変数の直径dと肉厚tに対して、設計解空間の中に選好度関数付き設計解ISSを定義することを考える。この時、PSDでは、設計変数に対して図6に示すような入力選好度を適用する。
【0076】
この選好度は、設計者の主観的判断を、あいまいさを含む形で定量的に扱うものである。例えば、図6(a)では、設計者は直径dが23mmから26mmの時が最も望ましいと考え(選好度が1)、23mm未満か28mm以上では全く望ましくないと考えている(選好度が0)ことになる。それ以外の選好度が0から1に対応する直径の値に対しては、設計者の望ましさの度合いがその数値で表現されていることになる。
【0077】
4.2 可能性分布と要求性能の選好度関数の意味
ここで、二つの設計変数dとtに対し図6に示す入力選好度を持つ初期設計解ISSに関して、図5に示す側突FEM解析による最大反力rfの性能値PPSを求める。この時、初期設計解ISSが連続値の選好度関数として表現されるため、それによる性能値PPSもある可能性分布を表す。
【0078】
まず、種々の直径dと肉厚tの組み合わせに対して図5に示す側突FEM解析を行ない、その最大反力rfを求める。その結果、直径dと肉厚tを変数とする最大反力rfの応答曲面の近似式が式(17)の形で求められ、図7の形で図示することができる。

rf = 17.09 - 1.281×d + 2.617×t + 0.02754×d2 - 0.001638×d×t - 0.1292×t2 (17)

次に、最大反力rfの性能値PPSに対する可能性分布を、図8の手順に従って求める。すなわち、この手順では、まず、選好度が0(つまり最大の選好度の幅)の場合における性能値を計算モデル(図7参照)を用いて得る。計算モデルとは、例えば応答曲面である。
【0079】
つぎに、任意の選好度(例えば0.5)における設計変数を抽出し、対応する性能値を、計算モデルを用いて内挿により算出する(図5参照)。これにより、本実施形態では、セットベース設計に用いられる可能性分布を効率的に算出することができる。

【0080】
なお、最大反力以外の性能値についても、同様の処理ができる。
【0081】
以上の手順で、性能空間に対して、反力rfなどの性能値PPSの可能性分布が求められる。
【0082】
ところで、この性能空間に対して、設計者は前述した入力選好度と同様な選好度関数の形で、設計者の要求性能PRSを与えておく必要がある(図9)。
【0083】
この図から、設計者が入力選好度を与えて定義した初期設計解ISSから導き出された性能値PPSの可能性分布が、要求性能PRSの選好度関数と重なる共通領域FPS (Feasible Performance Subspace)が存在することが分る。従って、設計解は設計者の入力範囲の中にあると考えられる。このように、セットベース設計は、Feasibleな設計解のスペースを絞ることができるのが特徴である。
【0084】
なお、この性能値PPSと要求性能PRSの共通領域FPSは、全ての性能特性について存在する必要がある。側面衝突に対する最大反力rfの性能特性に関しては共通領域FPSが存在しているが、もし一つでも性能特性の中で共通領域FPSが存在しない場合には、与えた初期設計解ISSで全ての要求性能を満たすことができないため、改めて初期設計解ISSを修正する必要がある。その修正方法は、後に詳しく述べることとする。
【0085】
4.3 実例紹介
ここで、実際の事例でのセットベ-スの活用事例を紹介する。
【0086】
先ず、設計者の書く設計変数に対する主観的判断である入力選好度を定義する必要がある。
【0087】
具体的には、ドアビ-ムの設計スペックを決定するに当たり、ドアビ-ムの板厚、直径の基本スペックに対する設計者の思い描いている設計思想(具体的には各種性能を考慮すると、板厚は、これぐらいの板厚にしたい)である入力選好度を板厚、直径毎に設計者毎に提示する。今回は2人の設計者(ケースAとケースB)の入力選好度の違いによるセットベ-スの活用での結果を比較した。ここでは、入力選好度の示している内容をケ-スBの直径の事例で説明する。
【0088】
図10に示す様に、横軸は直径、縦軸は選好度であり、ケ-スBの直径26mmは設計寸法としては、もっとも望ましいと考え(選好度が1)、24mm未満及び28mmより大きい場合は全く望ましくないと考えている。(選好度が0)また、24mmから26mmに大きくなるほど望ましくなり、その逆に26mmから28mmになるほど望ましくないことを示している。
【0089】
ケ-スAと比較すればわかる様に、2人の設計思想の違いが選好度の違いでもわかる。
【0090】
同様に、板厚の選好度についても、図11に示す様に2人の設計者の板厚についても設計思想の違いがあることが選好度のグラフからわかる。
【0091】
すなわち、設計選好度のグラフは、各設計者の各設計変数に対する本命の案及び設計検討範囲での設計者の満足度を示している。この点が従来の考え方になかった点である。
【0092】
ここまでにおいては、設計者の設計変数等における満足度を示している入力選好度を決めたが、入力選好度同様に設計者が要求している各種性能における満足度も決める必要がある。
【0093】
その理由としては、従来の実際の開発においては、設計検討範囲での要求性能を満足させる検討時間に多大な工数を費やしており、時には設計検討範囲内では要求性能を満足させられないこともあり、検討時間に要した時間が無駄になることもある。
【0094】
そこで、前述した様な検討時間の削減及び設計満足解を得られない無駄な検討時間の削除の為に、設計者の設計検討範囲における各種要求性能の変動範囲を近似式から求め、設計者が満足する要求性能の範囲にその変動範囲が含まれているかを先ず確認して、最終的には設計者の要求性能に対する満足度が高くなる設計検討範囲(設計変数範囲に相当)を絞り込んでいくことにより、設計者の満足度が高くなる設計仕様(具体的には板厚、直径等)を効率よく決定できる。
【0095】
ここで、設計者2人の要求性能に対する満足度を示している要求選好度関数と前述した各設計者のビ-ムの直径及び板厚に対する入力選好度での反力固有振動数、取付部応力、コスト、質量の可能性分布を重ねたグラフを図12~16に示す。
【0096】
図12に示す反力に対する要求性能の選好度関数について、具体的に説明する。
【0097】
今回のドアビ-ムに要求される反力としては、6KNより小さくなることは性能上問題があり、6KNより大きくなる程性能を満足していることを示している。
【0098】
ここで、図9の反力の可能性分布と要求選好度を重ねたグラフにおいてハッチング部の共通領域を持っている。
【0099】
この部位の意味は、設計者の設計検討範囲においては、設計者が要求している性能を達成する設計仕様が存在していることを示している。
【0100】
しかし、例えば図12や図14に示される反力と応力については、要求選好度から外れて可能性分布の領域が存在している。言い換えれば、設計者の要求性能を満足させる設計検討範囲の一部においては、設計者の要求性能を満足できない設計検討範囲になっていることを示している。
【0101】
そこで、要求性能を満足させる設計検討時間を大幅に削減することができ、効率的に要求性能を満足する設計仕様を提案する為に、設計者の要求性能を満足させる設計検討範囲を絞り込む(狭める)必要がある。
【0102】
今回の事例のケ-スAでの、設計実現性の乏しい設計検討範囲を削除する手順について説明する。
【0103】
先ず、ビ-ム板厚及び直径の入力選好度の各選好度において、ビ-ム板厚の入力選好度では、設計変数範囲を、図17に示す様に、縦軸に沿って適当に2分割する。直径においても同様に図18に示す様に適当に2分割する。なお、分割数は3以上でもよい。
【0104】
そこで、全ての組合せにおいて考慮する必要があるので、図19に示す様に、2要因、2水準の4通りの組合せをL4の直交表を用いて、全ての組合せについて各性能の可能性分布と要求性能の選好度関数の関係について検討した。
その結果を図20~図24に示す。
【0105】
その結果に基づき、要求性能の選好度をより高く満たして且つロバストな設計案を提示する為に、各性能に対する設計者の選好度とロバスト性を同時に評価する測度として、DPIとPSIの積であるPRI(Preference and Robustness Index)が提案されているが、その測度を用いて評価する。
【0106】
なお、今回の事例では応力、固有振動数、反力等の複数の性能を同時に満足させる設計仕様の検討をしているので、全ての性能に関する選好度とロバスト性の評価測度である各性能のPRIを統合したAPRI(Aggregated Preference and Robustness Index)を用いる。
【0107】
また、今回はAPRIを求めるにあたり、各性能に対して同じ重み付けとし、APRIにおいては複数の評価方法があるので、その何種類かの評価方法での評価を実施した。
その結果を表2および図25に示す。
【0108】
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【0109】
表2からわかる様に、#A-1、#A-2の組合せにおいては、応力に対して共通領域がない為、応力に関してはDPIが0になっており、DPIとPSIの積であるPRIは0である。
【0110】
よって、#A-1と#A-2には、要求性能を満足する有効解は存在しない。したがって、これらの場合には、分割された設計変数範囲(分割範囲)を除外することができる。
【0111】
次に#A-3、#A-4について検討してみると、全てのAPRIの評価方法において、#A-3の設計案の組合せが一番高いAPRIの数値を示しており、#A-3を最良設計案として選定できる。
【0112】
更に、上記に示したプロセスを#A-3の設計組合せについて繰り返すことにより、設計案を更に絞り込む。その設計案による各性能の可能性分布と要求選好度を図26に、その評価結結果を表2および図27~30に示す。その結果からわかる様に#A-3-4が最良の設計案となった。
【0113】
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【0114】
ケースBも同様に行った結果、ケースAとBの最終的な設計案は図31のようになる。二つのケースにおける設計案を比較・検討するために、図31のような選好度を、最大が1になるように正規化し、その正規化された選好度を持つ設計案による性能の可能性分布を図32のように求めた。特に、下記の表4は、ケースAとBの選好度レベルが0と1のときの設計案のインターバルセットを示す。この結果から、異なる選好度を持つ設計案が異なる設計解を生み出していることが分かる。最終設計案を比較したのが表5と図33である。図33に示すように、反力、応力、固有振動数といった技術的な性能を重視した場合は設計案Bが、コスト、質量といった経済的な性能を重視した場合は設計案Aが良い設計案と言える。
【0115】
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【0116】
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【0117】
その為に、選好度を最大が1になる様に正規化し、その正規化された選好度をもつ設計案による性能の可能性分布を図31に示す。
【0118】
なお、本発明の設計支援方法および可能性分布の算出方法は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【0119】
例えば、前記実施例では、PRI=0(つまり要求性能の選好度、性能値の可能性、またはロバスト性のいずれかが0)である場合に、分割された設計変数範囲(分割範囲)を除外している。しかし、PRIが0ではなくて、他の分割範囲より小さい値の場合に、当該分割範囲を除外することもできる。さらには、PRIではなく、DPIを分割範囲選別の基準に用いることや、要求性能の選好度、性能値の可能性、またはロバスト性そのものを選別の基準に用いることも、理論的には可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】ポイントベース設計とセットベース設計の概念を比較するための説明図である。図(a)は、伝統的なポイントベース設計における反復的な設計アプローチを示す図である。図(b)は、セットベース設計のアプローチを示す図である。
【図2】セットベース設計の手順を説明するためのフローチャートである。
【図3】設計変数範囲と選好度(PN)との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における設計対象となるドアビームの説明図であって、図(a)はドアビームをドアに取り付けた状態の図、図(b)はドアビームの断面図である。
【図5】ドアビームに対する側突FEMモデル(ハーフモデル)の図である。
【図6】設計変数範囲と入力選好度との関係を示すグラフであって、図(a)は、設計変数範囲が直径dの場合、図(b)は設計変数範囲が肉厚dの場合の例である。
【図7】最大反力rfの応答曲面を示すグラフである。
【図8】最大反力rfの性能値PPSに対する可能性分布の導出手順を説明するための説明図である。
【図9】性能値PPSの可能性分布と要求性能PRSの選好度関数とを示すグラフである。
【図10】二人の設計者(Case A, Case B)における、直径(設計変数範囲)に対する入力選好度を示すグラフである。
【図11】二人の設計者(Case A, Case B)における、板厚(設計変数範囲)に対する入力選好度を示すグラフである。
【図12】反力の可能性分布を示すグラフである。図中PNは選好度数を示す。
【図13】固有振動数の可能性分布を示すグラフである。図中PNは選好度数を示す。
【図14】応力の可能性分布を示すグラフである。図中PNは選好度数を示す。
【図15】コストの可能性分布を示すグラフである。図中PNは選好度数を示す。
【図16】質量の可能性分布を示すグラフである。図中PNは選好度数を示す。
【図17】板厚の入力選好度グラフ(Case Aの場合)における、設計変数範囲の分割例を示す説明図である。
【図18】直径の入力選好度グラフ(Case Aの場合)における、設計変数範囲の分割例を示す説明図である。
【図19】ケースAにおける入力選好度関数の組み合わせを示す説明図である。
【図20】図19の各組み合わせにおける、反力の可能性分布を示すグラフである。
【図21】図19の各組み合わせにおける、固有振動数の可能性分布を示すグラフである。
【図22】図19の各組み合わせにおける、応力の可能性分布を示すグラフである。
【図23】図19の各組み合わせにおける、質量の可能性分布を示すグラフである。
【図24】図19の各組み合わせにおける、コストの可能性分布を示すグラフである。
【図25】各評価方法におけるAPRIの評価を示すグラフである。
【図26】#A-3の設計案の絞り込みを説明するための図である。
【図27】図26の各組み合わせにおける、反力の可能性分布を示すグラフである。
【図28】図26の各組み合わせにおける、応力の可能性分布を示すグラフである。
【図29】図26の各組み合わせにおける、コストの可能性分布を示すグラフである。
【図30】図26の各組み合わせにおける、質量の可能性分布を示すグラフである。
【図31】ケースAおよびBの例における、設計変数範囲の絞り込みの例を示すグラフであって、図(a)は、直径についての絞り込み例(#A-3-4および#B-4-3)、図(b)は、板厚についての絞り込み例(#A-3-4および#B-4-3)である。
【図32】ケースAおよびBの例における、絞り込まれた設計変数範囲において得られた可能性分布を示すグラフである。図(a)は、反力の可能性分布を示すグラフである。図(b)は、固有振動数の可能性分布を示すグラフである。図(c)は、応力の可能性分布を示すグラフである。図(d)は、コストの可能性分布を示すグラフである。図(e)は、質量の可能性分布を示すグラフである。
【図33】異なる設計案における重み付けを用いた設計解集合の比較のためのグラフであって、図(a)は、技術的性能について重きを置いた例であり、図(b)は、非技術的な要求(例えばコストや質量)に重きを置いた例である。
【符号の説明】
【0121】
1 ドアビーム
2 ドア
3 インパクタ
4 ブラケット
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図6】
2
【図9】
3
【図10】
4
【図11】
5
【図12】
6
【図13】
7
【図14】
8
【図15】
9
【図16】
10
【図17】
11
【図18】
12
【図19】
13
【図20】
14
【図21】
15
【図22】
16
【図23】
17
【図24】
18
【図26】
19
【図27】
20
【図28】
21
【図29】
22
【図30】
23
【図31】
24
【図32】
25
【図1】
26
【図4】
27
【図5】
28
【図7】
29
【図8】
30
【図25】
31
【図33】
32