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明細書 :超伝導導体、超伝導整流素子及びこれを用いた整流回路

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5098003号 (P5098003)
公開番号 特開2006-179872 (P2006-179872A)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
公開日 平成18年7月6日(2006.7.6)
発明の名称または考案の名称 超伝導導体、超伝導整流素子及びこれを用いた整流回路
国際特許分類 H01L  39/00        (2006.01)
FI H01L 39/00 ZAAG
請求項の数または発明の数 18
全頁数 14
出願番号 特願2005-330308 (P2005-330308)
出願日 平成17年11月15日(2005.11.15)
優先権出願番号 2004338585
優先日 平成16年11月24日(2004.11.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年7月16日(2008.7.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】原田 直幸
審査官 【審査官】鈴木 聡一郎
参考文献・文献 特開平08-018110(JP,A)
特開平03-219608(JP,A)
特開2005-078939(JP,A)
J. E. Villegas, Sergey Savel'ev, Franco Nori, E. M. Gonzalez, J. V. Anguita, R. Garci'a, J. L. Vicent,"A Superconducting Reversible Rectifier That Controls the Motion of Magnetic Flux Quanta",Science,米国,American Association for the Advancement of Science,2003年11月14日,Vol.302,pp. 1188-1191
Hans Hilgenkamp, Victor V. Moshchalkov, Peter Kes,"Flux Quanta on the Move",Science,米国,American Association for the Advancement of Science,2003年11月14日,Vol. 302,pp. 1159-1160
調査した分野 H01L 27/18
H01L 39/00- 39/24
WPI
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
薄板状の超伝導体の一方または両方の面に、電流の流れる方向に平行に複数の溝または穴からなる凹部を、その各々の断面形状が電流の流れる方向に関して非対称形となるように形成し、その非対称形状により薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくする整流作用の機能を有する超伝導導体。
【請求項2】
薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の列をなす細孔を穿設して配列し、該細孔の各列における細孔の数が電流の流れる方向に垂直な方向に列毎に漸次変化し、各列における細孔の数の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細孔を配列することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくする整流作用の機能を有する超伝導導体。
【請求項3】
薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の細溝を形成して配列し、該複数の細溝における隣接細溝の間隔が漸次変化し、該間隔の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細溝を配設することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくする整流作用の機能を有する超伝導導体。
【請求項4】
前記薄板状の超伝導体が電子ビーム蒸着法により第2種超伝導体であるNb膜を形成することによって作製されたものであり、これに前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の細孔または複数の細溝を加工形成するようにしたことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の超伝導導体。
【請求項5】
前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を常伝導金属で埋めたことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の超伝導導体。
【請求項6】
前記複数の溝または穴からなる凹部複数の列をなす細孔または複数の細溝を形成した超伝導体よりも臨界温度及び臨界磁場が小さい他の超伝導体で前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を埋めたことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の超伝導導体。
【請求項7】
前記複数の溝または穴からなる凹部がフォトリソグラフィー法、X線リソグラフィー法、電子線リソグラフィー法、イオンビームリソグラフィー法を含むマイクロリソグラフィー法あるいはナノプリンティング法を用いた微細加工技術により階段形状で近似して形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の超伝導導体。
【請求項8】
薄板状の超伝導体の一方または両方の面に、電流の流れる方向に平行に複数の溝または穴からなる凹部を、その各々の断面形状が電流の流れる方向に関して非対称形となるように形成し、その非対称形状により薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくしたことを特徴とする超伝導整流素子。
【請求項9】
前記複数の溝または穴からなる凹部が前記薄板状の超伝導体の一方の面において、一方の側における超伝導体面に実質的に垂直な面と他方の側における超伝導体面に対して緩く傾斜した面とを有する複数の溝として形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の超伝導整流素子。
【請求項10】
前記複数の溝または穴からなる凹部が前記薄板状の超伝導体の一方の面に形成された第1の幅を有する複数の第1の溝と、前記薄板状の超伝導体の他方の面において前記第1の溝に対応してその幅より小さい幅を有し第1の溝の幅方向中心に関して偏倚した状態で形成された複数の第2の溝とからなることを特徴とする請求項に記載の超伝導整流素子。
【請求項11】
前記複数の溝または穴からなる凹部が超伝導体の一方の面に二次元的に分布して形成され、各々電流の流れる方向に関して非対称形の断面形状を有する複数の穴からなることを特徴とする請求項に記載の超伝導整流素子。
【請求項12】
薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の列をなす細孔を穿設して配列し、該細孔の各列における細孔の数が電流の流れる方向に垂直な方向に列毎に漸次変化し、各列における細孔の数の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細孔を配列することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくしたことを特徴とする超伝導整流素子。
【請求項13】
薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の細溝を形成して配列し、該複数の細溝における隣接細溝の間隔が漸次変化し、該間隔の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細溝を配設することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくしたことを特徴とする超伝導整流素子。
【請求項14】
前記薄板状の超伝導体が電子ビーム蒸着法により第2種超伝導体であるNb膜を形成することによって作製されたものであり、これに前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を加工形成するようにしたことを特徴とする請求項8~13のいずれかに記載の超伝導整流素子。
【請求項15】
前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を常伝導金属で埋めたことを特徴とする請求項8~14のいずれかに記載の超伝導整流素子。
【請求項16】
前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を形成した超伝導体よりも臨界温度及び臨界磁場が小さい他の超伝導体で前記複数の溝または穴からなる凹部、複数の列をなす細孔または複数の細溝を埋めたことを特徴とする請求項8~14のいずれかに記載の超伝導整流素子。
【請求項17】
前記複数の溝または穴からなる凹部がフォトリソグラフィー法、X線リソグラフィー法、電子線リソグラフィー法、イオンビームリソグラフィー法を含むマイクロリソグラフィー法あるいはナノプリンティング法を用いた微細加工技術により階段形状で近似して形成されたものであることを特徴とする請求項8、9、11のいずれかに記載の超伝導整流素子。
【請求項18】
請求項8~17のいずれかに記載の超伝導整流素子を備えたことを特徴とする整流回路。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導導体、超伝導特性を利用した素子に関し、より詳細には、超伝導特性を利用して一方向に抵抗ゼロで大電流を流せる超伝導導体、超伝導整流素子及びこれを用いた回路に関する。
【背景技術】
【0002】
整流回路は変圧コイル、ダイオード、コンデンサ等の素子により、交流を直流に変換するように構成されており、コイルやダイオードにおいて抵抗による電力の損失が生じる。また、限流装置は超伝導導体やダイオード等により、電力系統に過電流が流れることを抑制するために構成されており、ダイオードにおいて電力の損失が生じる。これらの電力損失を小さくするために、超伝導コイルを用いることが従来考えられていた。このような超伝導コイルを用いた例として、例えば特開2000-350357号(特許文献1)、特開2000-90788号(特許文献2)がある。
【0003】
また、超伝導整流素子として、特開平5-37030号(特許文献3)に示されるものがあるが、これは演算回路とその集積化に使用する素子であり、大きな電流を流すことはできないものであった。

【特許文献1】特開2000-350357号公報
【特許文献2】特開2000-90788号公報
【特許文献3】特開平5-37030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の従来の整流回路や限流装置のような超伝導コイルを用いた回路においては、ダイオードに関して依然電力の損失が避けられない。このためダイオードのような整流素子についても、抵抗を小さく、電力の損失を少なくし、さらに大きな電流でも適用できるようにするという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような課題に対する解決策を与えるものであり、薄板状の超伝導体の一方または両方の面に、電流の流れる方向に平行に複数の溝または穴からなる凹部を、その各々の断面形状が電流の流れる方向に関して非対称形となるように形成し、その非対称形状により薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくしたものである。
【0006】
また、本発明は、薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の列をなす細孔を穿設して配列し、該細孔の各列における細孔の数が電流の流れる方向に垂直な方向に列毎に漸次変化し、各列における細孔の数の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細孔を配列することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくするようにしたものでもよい。
【0007】
さらに、本発明は、薄板状の超伝導体に、電流の流れる方向に平行な複数の細溝を形成して配列し、該複数の細溝における隣接細溝の間隔が漸次変化し、該間隔の変化が電流の流れる方向に垂直な方向に周期的に反復するように細溝を配設することにより、薄板状の超伝導体に垂直な方向の量子化磁束に作用するローレンツ力で量子化磁束が電流に垂直の方向に移動するのに抗するように生ずるピンニング力が電流の順逆に対して非対称になり、それによって順方向における臨界電流を大きく、逆方向における臨界電流を小さくしたものでもよい。
(作用)
本発明は、前述した手段により、ピンニングセンターのピンニング力に異方性を持たせることで、損失を伴う半導体ダイオードを用いず低損失の超伝導体を用いて、一方向にのみ無損失で大電流を流すことができるという作用を与えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ピンニングセンターに異方性を持たせることで、損失を伴う半導体ダイオードを用いず低損失の超伝導体を用いて、一方向にのみ無損失で大電流を流すことができる整流素子とすることができる。このような超伝導体を用いた整流素子は、従来の半導体ダイオードが用いられていた整流回路、スイッチング回路等に適用可能ものであり、半導体素子に付随した損失を格段に低減でき、大きな電流に対しても適用できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず超伝導整流素子の前提となる基本的原理について説明する。
【0010】
超伝導体は一般的に図1に示される臨界温度Tc、上部臨界磁場Bc2の範囲内で臨界電流密度Jcまで超伝導特性を示す。この超伝導特性は酸化物超伝導体や金属系超伝導体など超伝導材料によって異なり、この範囲内において超伝導特性を示すものであって、超伝導体に無損失電流を流すために、臨界温度Tcや上部臨界磁場Bc2が高い超伝導材料を選び、臨界電流密度を改善、向上させることが必要である。
【0011】
図2に示されるように、外部磁界の向きに垂直に、不純物や格子欠陥等を含まない純粋な第2種超伝導体が置かれ、この超伝導体内に電流を流した場合、電流の作る自己磁場、他の電流が流れている導体やコイルの作る磁場が超伝導体内に侵入し量子化されている。この量子化磁束には磁束密度と電流密度との積で表される電磁力が生じ、ローレンツ力と呼ばれる。このローレンツ力により量子化磁束線が動くフロー状態となり、量子化磁束線の移動に伴って起電力が生じ、結果として超伝導体が有限の電気抵抗を示し、電流が無損失で流れる状態ではなくなる。
【0012】
実際には、超伝導体内に、熱処理や塑性加工により微細な析出物、結晶粒界、空隙、超伝導体と常伝導体の境界面等のミクロな不均質部分がある。これらのミクロな不均質部分によって量子化磁束が捕捉され、移動が妨げられるという作用が生じ、これはピンニングと呼ばれ、ピンニングを生ずる析出物、結晶粒界、空隙、超伝導体と常伝導体の境界面等の不均質部分はピンニングセンターと呼ばれる。不均質部分を含む第2種超伝導体においては、このようなピンニングの作用があることにより、磁場中において、ある臨界電流密度の範囲内で無損失電流が流れる。
【0013】
このような超伝導体のピンニングセンターは量子化磁束の直径程度から量子化磁束の間隔程度の大きさの析出物、結晶粒界、空隙、超伝導体と常伝導体の境界面等の不均質部分であるが、熱処理や塑性加工などの冶金的な手段のみならず、超伝導体に量子化磁束の大きさや量子化磁束の間隔程度のミクロな構造を微細加工により作り込むことによってピンニングセンターを形成することも考えられている。
【0014】
ここで量子化磁束の直径は、コヒーレント長さξの2倍となり、ξは
【0015】
【数1】
JP0005098003B2_000002t.gif
で表され、量子化磁束の間隔f
【0016】
【数2】
JP0005098003B2_000003t.gif
である。ただし、
φ:磁束量子(2.07×10-15(Wb))
Bc2:上部臨界磁場
B :磁束密度
例えば、ξは材料によって異なり、液体ヘリウム温度4.2Kにおいて上部臨界磁場が0.4TのNbにおいては、ξは0.03μm、上部臨界磁場が11TのNbTiにおいては、0.0055μmである。また、磁束線格子間隔は、1mTにおいて1.5μm、1Tにおいて0.05μmである。
図3はこのようなピンニングセンターとしての溝状人工ピンを示したものであり、この図で厚さtの板状の超伝導体1の上面において電流が流れる方向に幅w、深さdの溝2が複数本、ピッチpとなるように形成されている。超伝導体1を水平に配置し、これに垂直に外部磁界Bが作用している状態で、超伝導体1の長さ方向に電流Iを流すと、量子化磁束には前述したローレンツ力が作用する。ただし、超伝導体1の配置は水平方向に限定するものではない。
【0017】
図4(a)は、図3の溝状人工ピンを拡大して示したものであり、ある量子化磁束3が図で溝2内で右側の凸部に近接した位置にある。この状態から、量子化磁束が凸部内に入るまで右方に移動すると、量子化磁束は超伝導体と相互作用体積Vの部分だけ超伝導状態を破壊して超伝導体内に存在することから、量子化磁束の移動に対して凝縮エネルギーUにその差ΔUが生じる。この凝縮エネルギーの差ΔUは、相互作用体積V、磁束密度により定まり、
【0018】
【数3】
JP0005098003B2_000004t.gif
である。ただし、
μ: 真空の透磁率
Bc: 熱力学的臨界磁場
ψ: 秩序パラメータ
V: 相互作用体
溝の壁が垂直な場合に、ΔUだけの変化が量子化磁束の直径2ξ程度の移動によって生ずることになる。またこのΔUの変化は、溝の左側部分に関しても対称的に生ずるはずであるから、結局凝縮エネルギーUは溝の形状に対応して、図4(b)のように変化すると考えられる。この凝縮エネルギーの変化ΔUにより量子化磁束の移動に対する要素的ピンニング力が与えられる。要素的ピンニング力fpは、凝縮エネルギーのポテンシャル勾配として、近似的に、
【0019】
【数4】
JP0005098003B2_000005t.gif
ここで、
ξ: コヒーレント長さ
Bc2: 上部臨界磁場
B: 印加磁場
であり、また、V=πξ2dである。
【0020】
図4(a)のような左右対称的な溝形状のピンニングセンターでは、ピンニング力は対称的になり、電流が正逆いずれの向きでも、ピンニング力の大きさは同じになる。実際に図4(a)に示す対称形の超伝導素子を作製して、人工ピンの導入により素子の臨界電流密度が向上するデータが得られた。また、この実験データは順方向、逆方向ともに同じ臨界電流密度を示している。これらの結果は、溝状の人工ピンが有効に作用し、図4(b)に示す凝縮エネルギーの変化に伴って量子化された磁束線がピン止めされ、超伝導体のピン止めの理論から導かれる数1、数2の妥当性を示している。
したがって、図5(a)に示す非対称の構造の人工ピンを作製すると、図5(b)に示されるような非対称形の凝縮エネルギーの変化をもたらし、順方向と逆方向とで臨界電流密度が異なる超伝導整流素子を得ることができる。
【0021】
このような非対称な溝形状を有するピンニングセンターの断面形状は図5(a)に示されるように、一方の壁はほぼ垂直であるが、他方の壁は緩い斜面になっている。この場合、凝縮エネルギーの変化ΔUが生ずる範囲が垂直な壁の場合の2ξよりずっと大きくなり、緩い斜面形状に対応して凝縮エネルギーの変化ΔUは、垂直な溝の壁の場合よりずっと緩やかになり、図5(b)のようになる。
【0022】
このため、量子化磁束に対するピンニング力も左右非対称になり、緩い斜面形状の壁に対しては、数2で表される最大のピンニング力よりも格段に弱くなり、臨界電流密度は小さくなる。電流の向きに応じてピンニングの作用方向は異なるので、このように左右非対称な溝の壁の傾斜度とすることにより、電流の方向に応じて無損失で流れる電流の大きさが異なることになる。溝の一方の壁を垂直にし、他方の壁を緩い斜面にして、電流が順方向に流れるときのピンニングの作用を大きく、電流が逆方向に流れるときのピンニングの作用を極端に小さくすることにより、図6に示されるような電流-電圧特性となる。すなわち、このピンニングセンターと量子化磁束との相互作用により整流作用が生じることになる。
【0023】
本発明は、このように非対称な人工ピンを形成し、それを超伝導体による整流素子として用いるものであり、これは図5(a)のような非対称の断面形状の溝を有する人工ピンによってなされる。以下、このような非対称の断面形状の人工ピンを形成について説明する。
【0024】
図5(a)に示されるような断面形状で、整流作用を有する超伝導体による人工ピンを形成する場合、溝形状により小さくなる方のピンニング力をできるだけ小さくするために、超伝導体を作製する際に導入される不均質部分によるピンニングの作用をなるべく少なくする必要があり、このため、電子ビーム蒸着法により欠陥が少ない超伝導Nb膜を形成し、これに溝を加工形成して人工ピンとする。超伝導Nb膜の厚さは0.2μm~数μmが適当である。
【0025】
このNb膜の上面に緩い斜面を含む溝を加工形成する。このような微細な加工の場合、現実的には図5(a)のような斜面をエッチングにより形成するのは難しいので、図5(a)の場合と同様の作用を与えるものとして、近似的に図7に示すようにな階段状の断面とし、複数回のエッチングによりこれを形成する。
【0026】
溝のピッチpは量子化磁束の直径2ξの10倍程度の大きさとし、溝の幅については、逆方向の電流を小さくするためにピッチに近い値にする。溝の深さは膜の厚さの範囲で種々設定可能であるが、膜の厚さの70%程度で臨界電流の最大値を示す。
【0027】
このような溝の形成に用いられる微細加工技術として、フォトリソグラフィー法、電子線リソグラフィー法、X線リソグラフィー法、イオンビームリソグラフィー法などのマイクロリソグラフィー技術、あるいは最新のナノプリンティング技術を含む手法のいずれかを適用することができる。また、超伝導材料料としてNbを例示したが、Nb以外の金属系超伝導体のほか、臨界温度が高い超伝導体も用いることができる。
【0028】
凝縮エネルギーUの形状に影響するパラメータとしては、溝のピッチ、深さ、斜面の傾斜角度がある。また、必ずしも複数の連続した溝でなくても、非対称形の凝縮エネルギーのポテンシャルを形成することは可能である。複数の溝を形成した場合の平面図は図8(a)に示すようになっているが、これを例えば図8(b)に示すように、多数の非対称形の穴が二次元的に分布して形成されるようにしてもよい。図8(c)は穴のある部分で電流の流れる方向に垂直にとった断面を示す図である。
【0029】
さらに、階段近似した溝または穴の代りに、図9に示すように、上面側に幅wの溝を形成し、上面側の溝の中心から一方に偏倚した下面側の位置に幅w(w<w)の溝を形成することによっても、上面側に図5(b)の場合と概略同様な非対称な凝縮エネルギーUの分布形状が生ずることになる。
【0030】
超伝導体の面に溝や穴を形成する代わりに、超伝導体の面に垂直な方向に多数の細孔を配列することによっても、同様の非対称な人工ピンの作用が得られる。図10(a)は細孔を配列して形成した場合の例であり、図10(b)は対応する溝を形成した場合のものであって、それぞれ斜視図示してある。図10(a)において、細孔は薄板状の超伝導体の面に実質的に垂直の方向に穿設され、図10(b)の場合の溝の方向に列状に配列される。細孔の列は図10(b)の溝の配列のピッチ(p)において少なくとも数列になるようにし、各列における細孔の数を漸次変化させる。溝の場合に対応させて言えば、溝の深い側は、細孔の数が多くなり、浅い側は細孔の数が少ない。すなわち、人工ピンの作用を生ぜしめるのが、溝ないし穴の深さの代わりに、細孔の配置の密度としたものである。
【0031】
それぞれの細孔の形状は円形で示してあり、特に円形に限られることはないが、細孔の断面の大きさは同等のものとする。細孔の深さは超伝導体を貫通しても、貫通せずにそれぞれ同程度の深さになるようにしてもよい。そして、図10(b)に示されるような左側から右側に向かって深さが漸増する溝がピッチpで設けられて形成されるのと同様の人工ピンの作用を得るために、図10(a)に示されるように、ピッチpの範囲内で数列の細孔が配列され、各列にはそれぞれ細孔がほぼ等間隔に設けられ、各列における細孔の数は左側の列から右側の列に向かって漸増するようになっている。このような細孔の列が各ピッチp毎に反復して形成される。
【0032】
細孔の配列により深さが漸次変化する溝や孔の場合と同様な人工ピンの作用を得るために、細孔の径は溝や穴の寸法に比して数分の1以下に小さいものとする必要がある。量子化磁束の直径はコヒーレント長さξの2倍程度であり、溝や穴の場合、その幅の寸法は量子化磁束の直径またはその間隔と同程度かの大きさであるが、細孔を配列した人工ピンの場合は、細孔の分布密度の変化に応じて量子化磁束にローレンツ力が作用するようにするのであるため、量子化磁束の直径の範囲内に数列以上の細径が含まれる寸法関係でなければならない。
【0033】
この状況を説明すると、図11のようになる。図11において、図10(a)に示す超伝導体を上方から見た場合の多数の細孔を配列状態と量子化磁束との関係を示している。図11において、量子化磁束の直径の範囲内に数列の細孔が含まれている。細孔の各列における細孔の数が多い側が溝の場合では深い側に対応し、細孔の数が少ない側が溝の場合では浅い側に対応する。このように各列の細孔の数が漸次変化するように細孔を配列した場合に、細孔の密度の分布と量子化磁束との相互作用体積の変化が、深さの変化する溝の場合同様に非対称に変化し、細孔の密度の低い側から高い側に向かうローレンツ力が量子化磁束に作用することになり、非対称な人工ピンの作用が得られる。
【0034】
人工ピンの作用を得る構成のさらに他の例を図12(a)に斜視図で、図12(b)に断面図で示す。図12(a)において、超伝導体の面に、電流が流れる方向に複数の細溝が形成される。各溝の幅は実質的に同等のものであり、図10(a)の場合の細孔の列と同様に、ピッチpの幅内に複数本が平行になるように、また、隣接する溝の間隔が粗から密へと漸次増大するように形成され、このような間隔が漸次増大する平行な細溝の組がピッチpを周期として、反復して形成される。このような複数の間隔が漸次変化する細溝によっても、細溝の密度が低い側から高い側に向かうローレンツ力が作用して、非対称な人工ピンの作用が得られる。
【0035】
このように超伝導体の面に多数の細孔の列、あるいは複数の細溝を形成するのに用いられる微細加工技術として、フォトリソグラフィー法、電子線リソグラフィー法、X線リソグラフィー法、イオンビームリソグラフィー法などのマイクロリソグラフィー技術、あるいは最新のナノプリンティング技術を含む手法のいずれかを適用することができる。
【0036】
また、前述の溝や穴の凹状部分、細孔あるいは細溝を形成すると、この部分は超伝導材料がない部分となるが、この超伝導材料がない凹状の部分、細孔あるいは細溝に常伝導体、または凹状の部分、細孔あるいは細溝を形成した超伝導体よりも臨界温度や臨界磁場が小さい超伝導体で埋めて、表面が平坦になるようにしても、同様に凝縮エネルギーの変化により非対称のポテンシャルが得られるので、超伝導整流素子として用いられ、全体的な形状として凹部、細孔あるいは細溝がなくなることにより機械的強度は強くなると考えられる。
【0037】
以上のような人工ピンを導入した超伝導体は、一方向にのみ臨界電流密度の範囲で無損失電流が流れる整流素子として用いることができ、従来のダイオード素子を用いた整流回路やスイッチング回路に適用することが可能となる。
【0038】
図13(a)は、本発明による超伝導整流素子Dを備えた半波整流回路の例を示すものであり、例えば端子a-b間に交流電流源を接続して正弦波状の交流電流を通電しようとした場合に、順方向の電流のみを導通して、端子c-d間に図13(b)に示されるような半波整流された電流が流れ、整流素子Dに流れる電流IがI<Ic(Icは臨界電流)のときに、整流素子Dの電圧v=0の状態でc-d間の負荷に電流を流すことができる。
【0039】
図14(a)は、本発明による整流素子Dを備えた全波整流回路の例を示すものであり、端子a-b間に交流電流源を接続して正弦波状の交流電流を通電しようとした場合に、端子c-d間に図14(b)に示されるような同じ方向の電流が流れる。さらに、図14(a)に点線で示すコンデンサをいれると、図14(b)の点線のように直流電流を供給でき、整流素子での損失はない。ただし、Iは整流素子の順方向の臨界電流より小さい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】超伝導体として動作する臨界的条件を示す図である。
【図2】量子化磁束に作用するローレンツ力を示す図である。
【図3】溝状人工ピンの基本的形態を示す図である。
【図4】(a)図3の溝状人工ピンを拡大して示した図である。

【0041】
(b)人工ピンの溝の形状に対応する凝縮エネルギーのポテンシャル分布を示す図である。
【図5】(a)本発明の超伝導整流素子の例としての、非対称な溝形状とした人工ピンを示す図である。

【0042】
(b)非対称な溝形状により生ずる凝縮エネルギーのポテンシャル分布を示す図である。
【図6】非対称な溝形状の人工ピンの電流-電圧特性を示す図である。
【図7】人工ピンの非対称な溝形状の斜面を階段で近似したものを示す断面図である。
【図8】(a)複数の溝~形成した人工ピンの平面図である。

【0043】
(b)二次元的に分布する穴を形成した人工ピンの平面図である。
【0044】
(c)穴の部分で電流の流れる方向に垂直な断面を示す図である。
【図9】超伝導体の両側の面に溝を形成した人工ピンの他の例を示す断面図である。
【図10】(a)超伝導体の面に多数の細孔を配列して形成した人工ピンの例を示す斜視図である。

【0045】
(b)(a)の場合に対比して、超伝導体の面に溝を形成した人工ピンを示す斜視図である。
【図11】図10(a)に示す超伝導体を上方から見た場合の多数の細孔を配列状態と量子化磁束との関係を示す図である。
【図12】(a)超伝導体の面に複数の細溝を配列して形成した人工ピンの例を示す斜視図である。

【0046】
(b)超伝導体の面に複数の細溝を配列して形成した人工ピンの例を示す断面図である。
【図13】(a)本発明の超伝導整流素子を備えた半波整流回路の例を示す図である。

【0047】
(b)(a)の半波整流回路の出力電流を示す図である。
【図14】(a)本発明の超伝導整流素子を備えた全波整流回路の例を示す図である。

【0048】
(b)(a)の全波整流回路の出力電流を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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