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明細書 :ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質、当該蛋白質をコードする遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3837547号 (P3837547)
公開番号 特開2004-344105 (P2004-344105A)
登録日 平成18年8月11日(2006.8.11)
発行日 平成18年10月25日(2006.10.25)
公開日 平成16年12月9日(2004.12.9)
発明の名称または考案の名称 ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質、当該蛋白質をコードする遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/445       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/445
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2003-146698 (P2003-146698)
出願日 平成15年5月23日(2003.5.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集第25巻(2002年11月25日編集・発行)第400ページ(W3pF-1)に発表
審査請求日 平成15年5月23日(2003.5.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
発明者または考案者 【氏名】石野 智子
【氏名】油田 正夫
【氏名】鎮西 康雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 阿蘇シンポジウム記録,2002年 7月10日,vol. 25th,p. 9-17
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
SwissProt/PIR/Geneseq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus(JOIS)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ネズミマラリア原虫由来の蛋白質であり、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸配列からなることを特徴とする蛋白質。
(a)配列表の配列番号1に示す、アミノ酸番号1-241で示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするアミノ酸配列。
(b)マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有する、(a)のアミノ酸の10個以下が欠損、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項2】
請求項1記載の蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項3】
ネズミマラリア原虫由来の蛋白質をコードし、以下の(c)または(d)に示す塩基配列からなることを特徴とする遺伝子。
(c)配列表の配列番号2に示す、塩基番号1-1592 で示される塩基配列からなることを特徴とする塩基配列。
(d)マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有する蛋白質をコードし、(c)の塩基の10個以下が欠損、置換若しくは付加された塩基配列。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質、および当該蛋白質をコードする遺伝子に関する。Pbsp1蛋白質は、マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有するという特徴を有する。
【0002】
【従来の技術】
マラリアは、マラリア原虫が赤血球に感染することによって起こる、原虫性の熱性疾患である。毎年2億から3億人もの人々がマラリアに羅患しているといわれ、海外のマラリア流行地を旅行中に感染したケースを中心にして、日本国内でも年間数百人程の発症者が認められる。原虫の種類によってマラリアは、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵型マラリア、四日熱マラリアに分類される。マラリアの症状としては、2~3日ごとの高熱発作、進行性の貧血、脾腫が挙げられ、予後は良好である。しかし、熱帯熱マラリアの場合には脳症、腎不全、広汎性血管内凝固などを起こして悪性となる場合もある。
【0003】
マラリアの感染は蚊を媒介としており、スポロゾイトと言われるステージにあるマラリア原虫が蚊を介してヒトに感染した後、この原虫はヒトの肝臓に侵入して肝臓性原虫となる。肝細胞内でマラリア原虫は数千の赤血球感染型原虫(メトロゾイト)に発育し、血中に放出される。肝細胞にスポロゾイトが感染し、その中で増殖してメトロゾイトとなるというステップは、マラリア伝播の成立おいて非常に重要である。
【0004】
マラリアの治療薬としては現在クロロキン、キニーネ、ピリメサミン、メバクリン、プリマキンなどの抗マラリア薬が使用されている。この中では、副作用が少ないためにクロロキンが第一選択薬である。マラリアのワクチンに関しては、原虫の抗原が変化することなどもあって、その開発は困難であるといわれている。近年、原虫の抗原を遺伝子工学的に生産することにより、マラリアに対するワクチンを開発することも試みなども行われているが、実用化されたものはまだない。そこでマラリアの治療と予防のために、有効かつ安全な新たなワクチンの提供が待望されている。
【0005】
ところで、従来開発されてきたマラリアのワクチンや治療薬は、主に赤血球侵入のステージであるメトロゾイトを標的にするものであった。しかし、[0003]において述べたステップから判るように、メトロゾイトを標的とした手段はマラリアの症状を緩和することはできるが、マラリアの感染自体を阻止することはできない。また、大量に増殖するステージを標的としているため、耐性を持った原虫が出現する可能性が高い。それを考えると、スポロゾイトを標的としたワクチンや薬剤を開発することができれば、感染サイクルそのものを遮断することができるため、劇的な効果をあげる可能性がある。しかしスポロゾイトの感染に関する分子生物学的な知見はまだ不足しているのが実情であり、スポロゾイトを標的としたマラリア治療のアプローチは未だ進展していない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明の課題は、スポロゾイトが肝臓に感染する機構を標的としたアプローチにより、マラリアの治療と予防の目的に有用な新たな技術を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは、スポロゾイト段階のネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)が肝臓へ感染する機構について検討を行った。その結果、本発明において、ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質、および当該蛋白質をコードする遺伝子が与えられた。Pbsp1蛋白質は、スポロゾイトの肝臓への感染を介助する蛋白質であるために、スポロゾイトを標的としたマラリアのワクチンや抗マラリア薬を開発するためのツールなどに有用である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、下記の実施例で示すように、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)を感染蚊の唾液腺より回収し、スポロゾイトのcDNAライブラリーを作製し、ランダムに塩基配列を決定した。そのようにして得られたのが本発明のPbsp1遺伝子である。得られたPbsp1遺伝子の塩基配列およびその遺伝子がコードするPbsp1蛋白質の推定アミノ酸配列を図1に示す。図1において、下線部は分泌ペプチドを、*のマークは終止コドンを示す。得られたcDNAの全長は1592塩基であり、推定アミノ酸配列は241アミノ酸残基により構成されていた。コンピューターによる相同性検索を行ったところ、Pbsp1蛋白質の相同体がヒトマラリア原虫(Plasmodium falciparum)において見出された。ヒトマラリア原虫由来の相同体は、Pbsp1蛋白質とアミノ酸レベルで46%一致していた。
【0009】
そして蛍光抗体法による発現時期の解析を行ったところ、本発明のPbsp1蛋白質は肝臓感染性を持つ原虫(スポロゾイト)に特異的に発現していることを見出した。さらに免疫電顕法を用いて、その遺伝子がマイクロネームと呼ばれる分泌器官に局在していることを見出した。更に、この遺伝子を欠損した原虫を、相同組み換えにより作出した。そのように作製されたスポロゾイトのネズミ肝臓への感染性を解析したところ、野生型の約10分の1に減少していた。その知見より、Pbsp1蛋白質はスポロゾイトの肝臓への感染性に関与していることが明らかとなった。他にもマラリア原虫の肝臓感染に関与する因子が存在するかもしれないが、Pbsp1蛋白質は、スポロゾイトが肝臓に感染する機構の少なくとも一部分を担っていると考えられる。そのためにPbsp1蛋白質は、マラリアに対するワクチンや治療薬を開発するための良いツールとなる可能性がある。
【0010】
Pbsp1蛋白質は、配列表の配列番号1に示す、アミノ酸番号1-241で示されるアミノ酸配列により特定される。本願明細書において、配列番号1に示す蛋白質の一部が欠失、置換若しくは付加された蛋白質とは、配列番号1に示すアミノ酸配列において、20個以下、好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下のアミノ酸が置換された蛋白質であり、アミノ酸が過度に置換されたものを意味するものではない。その程度の欠失、置換若しくは付加ならば、本技術分野の当業者は、Pbsp1蛋白質の活性を失うことがなく、そのアミノ酸配列を改変することが可能である。また、その様な蛋白質と配列番号1に示すアミノ酸配列とは、95%以上、好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上の相同性を有する。その様な蛋白質も、マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有するPbsp1蛋白質としての機能を有する限り、本発明の範囲内である。
【0011】
また、Pbsp1遺伝子は上記のPbsp1蛋白質をコードしており、配列表の配列番号2に示す、塩基番号1-1592 で示される塩基配列からなることを特徴とする。なお、塩基配列中の塩基番号590-1312に相当する部分が読み枠であり、上記の蛋白質をコードしている。遺伝子組み換え技術によれば、基本となるDNA の特定の部位に、当該DNA の基本的な特性を変化させることなく、あるいはその特性を改善する様に、人為的に変異を起こすことができる。本発明により提供される天然の塩基配列を有する遺伝子、あるいは天然のものとは異なる塩基配列を有する遺伝子に関しても、同様に人為的に挿入、欠失、置換を行う事により、天然の遺伝子と同等のあるいは改善された特性を有するものとすることが可能であり、本発明はそのような変異遺伝子を含むものである。
【0012】
即ち、配列表の配列番号2に示す遺伝子の一部が欠失、置換若しくは付加された遺伝子とは、配列番号2に示す塩基配列において、20個以下、好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下の塩基が置換された遺伝子である。その程度の欠失、置換若しくは付加ならば、本技術分野の当業者は、Pbsp1遺伝子がコードする蛋白質の活性を失うことがなく、その塩基配列を改変することが可能である。また、その様な遺伝子と配列番号2に示す塩基配列とは、95%以上、好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上の相同性を有する。その様な遺伝子も、マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有するPbsp1蛋白質としての機能を有する蛋白質をコードする限り、本発明の範囲内である。また、その様な遺伝子はストリンジェントな条件下で、配列表の配列番号2に示す遺伝子とハイブリッドを形成する。なお図1に、Pbsp1遺伝子の塩基配列と、それから予想されるアミノ酸配列を示す。
【0013】
本発明のPbsp1遺伝子配列の知見を基にして、スポロゾイトを標的としたマラリアワクチンを製造することができる。具体的には、本技術分野で汎用しているアデノウイルスベクターにPbsp1遺伝子を組み込み、組み換えアデノウイルスを作製する。Pbsp1遺伝子を組み込むベクターとして、アデノウイルスベクター以外の他の適切なベクターを使用することも、当然に可能である。この組み換えウイルスをマウス又はラットに投与することにより、当該動物が免疫され、スポロゾイトを標的とした細胞性免疫を誘導する可能性がある。即ち本発明のPbsp1遺伝子またはPbsp1蛋白質により、スポロゾイトを標的とした新たなマラリアワクチンを提供することができる。また、ワクチンで免疫された動物と免疫されていないコントロール動物にスポロゾイトを再び投与し、両者におけるマラリア感染を比較することにより、得られたマラリアワクチンの有効性を評価することができる。
【0014】
【実施例】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
マラリア感染血を注入することにより、Plasmodium berghei ANKA株をメスのBALB/cマウス(6-10週齢)に感染させた。スポロゾイトを精製するために、感染血を与えた24-28日後に感染した蚊を解剖した。唾液腺と中腸を199培地中に収集し、細かく砕いてスポロゾイトを放出させた。そしてオーキネートと赤血球段階の原虫を調製した。
【0015】
スポロゾイトの肝臓への感染に関与している分子を探索するために、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)の唾液腺のESTライブラリーのスクリーニングを行った。宿主と原虫の相互作用を考えて、分泌蛋白質と膜結合蛋白質に絞ってスクリーニングを行った。ネズミマラリア原虫のゲノムDNA(2μg)をClaI、EcoRI、EcoT22I、HindIII又はXbaIで消化し、1.2%アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜上に転写した。ゲノムDNAを鋳型としてDNA断片をPCRで増幅した。PCRにおいて以下のプライマーを、32Pでラベルしてプローブとして使用した。
5’-TGGGCAATTTTGCCTTTAAAAACG-3’ (配列番号3)
5’-TTTCATTGTGAATTTCGATAAGTG-3’ (配列番号4)
【0016】
ここで同定されたcDNA (配列番号2)は241個のアミノ酸(配列番号1)からなる分泌蛋白質をコードしていると推定された。この蛋白質をPbsp1蛋白質と命名したが、後に詳細に述べるように、Pbsp1蛋白質は寄生虫の肝臓細胞への侵入に必須の蛋白質であった。なお、Pbsp1蛋白質をコードする遺伝子は、4つのイントロンを含んでいる単一コピー遺伝子である。
【0017】
マラリア原虫のゲノムデータベースについて、コンピューター検索を行ったところ、この遺伝子はいくつかのマラリア原虫の間で保存されていることが明らかとなった。ヒトマラリア原虫(P.falciparum)は臨床上最も重要なヒトのマラリア寄生虫であるが、この蛋白質はヒトマラリア原虫の相同体と45.6%の相同性を有していた。図2に、ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質と、ヒトマラリア原虫由来の相同体におけるアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【0018】
次に、マラリアの生活サイクルにおけるこの遺伝子発現のプロフィルを検討した。そしてそのためのツールとして、Pbsp1蛋白質に対する抗体を作製した。シグナル解析を行っていない組み換えPbsp1蛋白質を、pGEX 6p-1システム(アマシャムバイオサイエンス)を用いて、GST組み換え蛋白質として発現させた。組み換え蛋白質をGSTカラムで精製し、ウサギの免疫に使用した。特異的な抗体をNHS活性化カラムを用いて精製し(アマシャムバイオサイエンス)、SPECT蛋白質と結合させた。CS抗血清を産生させるために、繰り返し領域に相当するペプチドであるDPPPPNANDPAPPNANを、担体であるキーホールリンペットヘモシニアンと結合させ、ウサギの免疫化に使用した。
【0019】
免疫蛍光解析を用いてPbsp1蛋白質の発現の時期を解析した。その結果Pbsp1蛋白質の発現は、肝臓感染能を有する段階の原虫であるスポロゾイトにおいて認められた。作製した抗体を用いてウエスタンブロット解析を行ったところ、Pbsp1蛋白質は、唾液腺由来のスポロゾイトに存在する22kDa蛋白質として検出された。一方、中腸のスポロゾイトにおいてはPbsp1蛋白質は検出されず、その産生は唾液腺に侵襲した後に起こることが確認された。
【0020】
更に免疫電子顕微鏡による検討を行ったところ、Pbsp1蛋白質は分泌器官であるマイクロネームに局在することが示された。マイクロネームは、マラリア原虫において運動を行う段階において共通して存在する器官であり、寄生虫が移動する間に先端孔から分泌され、宿主に感染する際の移動において中心的な役割を果たしている。これらの結果は、スポロゾイトが唾液腺にいる間にPbsp1蛋白質はマイクロネームに貯蔵され、スポロゾイトが肝臓に感染するにあたって中心的な役割を果たしていることを示唆している。
【0021】
Pbsp1蛋白質の機能を解明するために、本発明者らは、相同性組み換えによってPbsp1遺伝子の発現を破壊し、Pbsp1蛋白質の機能が失われた寄生虫を作製した。標的ベクターを構築するために、Pbsp1遺伝子の2つの断片をPCRにより増幅した。ゲノムDNAを鋳型として、以下のプライマーを使用した。これらの断片は、pBluescript中の選択可能なマーカー遺伝子にクローンニングした。
5’-CGCGAGCTCGCAATATGGTATTAAATTTTGGGCTAGCCA-3’(配列番号5)
5’-CGCGGATCCGGTATTTTCATTGTGTTAAACGATATGTGA-3’ (配列番号6)
5’-CCGCTCGAGGTCCTATTTATCATTTTAAAATGTGTTTTATC-3’ (配列番号7)
5’-CGGGGTACCAATCGTCATAAATAGGAGTTATGAAGT-3’ (配列番号8)
【0022】
図3に、相同性組み換えによる遺伝子破壊の手法の模式図を示す。図3において、選抜可能なマーカー遺伝子を含んでいるターゲッティングベクターの構造を上段に、Pbsp1遺伝子座(斜線)付近の構造を中段に示す。Pbsp1遺伝子座にターゲッティングベクターが挿入された結果、図3の下段に示すように、Pbsp1遺伝子が破壊されることになる。
【0023】
ここで行った遺伝子破壊により、マラリア原虫のPbsp1遺伝子が破壊されると共に、抗マラリア薬であるピリメサミンに耐性となる。そこでPbsp1が破壊された原虫をピリメサミンにより選択し、限界希釈によって野生型の原虫から分離した。またサザンブロット解析により、Pbsp1遺伝子座が破壊されていることを確認した。Pbsp1が破壊された原虫の集団が、単一クローンのみから得られたという可能性を排除するために、Pbsp1が破壊された原虫集団を2種類検討した。即ち、2つの独立したクローン由来の原虫集団である、Pbsp1(-)1とPbsp1蛋白質(-)2とを下記の実験に使用した。
【0024】
ラット血液中における赤血球型原虫の成長率は、Pbsp1が破壊された集団と野生型集団の間で、ほとんど差がなかった。よって、遺伝子の破壊は原虫の成長には影響しないと考えられる。次に、感染した蚊を調製して、中腸と唾液腺に存在しているスポロゾイトを計測した。各器官におけるスポロゾイト数は、Pbsp1が破壊された集団と野生型集団において本質的に差はなかった。それは、Pbsp1蛋白質遺伝子を破壊しても、原虫の成長に影響しないことを示唆している。よってPbsp1破壊体も正常な感染能を有しており、蚊に感染する段階と赤血球に感染する段階の間を通じて、正常に感染及び増殖することが可能である。
【0025】
本発明者は、Pbsp1を破壊したスポロゾイトの肝臓への感染性を検討した。蚊の唾液腺から収集したスポロゾイトを培地199に懸濁し、3週齢のメスのウィスターラットに注射した。接種を行う前にスポロゾイトの移動能をインビトロで検討し、60%以上の運動性のスポロゾイトが含まれていることを確認した。ギムザ染色により12時間毎に感染血液のチェックを行った。
【0026】
図4に、Pbsp1遺伝子の発現を破壊した原虫の肝臓感染性を示す。各ラットの寄生虫血をギムザ染色によって評価した。図4において、接種した原虫の数はそれぞれ、Pbsp1 (-)1が30,000個(白丸)、Pbsp1 (-)2が30,000個(白三角)、野生型が30,000個(黒丸)および野生型が3,000個(黒四角)である。
【0027】
図4において、30,000個を接種して3.5日後の平均値の結果から、2クローンのPbsp1破壊体の肝臓感染性は、野生型と比較して15倍(Pbsp1(-)1)と28倍(Pbsp1(-)2)低いと推定された。この結果は、Pbsp1蛋白質は肝臓感染において重要な役割をはたし、ミクロゾームにおける局在を併せて考慮すると、Pbsp1蛋白質はスポロゾイトの肝臓侵入に寄与していることを強く示唆している。
【0028】
【発明の効果】
本発明により、ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質、および当該蛋白質をコードする遺伝子が与えられた。本発明のPbsp1蛋白質は、マラリア原虫スポロゾイトの肝臓への感染を介助する活性を有するという特徴を有するために、スポロゾイトを標的としたマラリアのワクチンの作製や医薬の開発のためのツールとして有用であると考えられる。
【0029】
【配列表】
JP0003837547B2_000002t.gifJP0003837547B2_000003t.gifJP0003837547B2_000004t.gifJP0003837547B2_000005t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Pbsp1遺伝子の塩基配列と、予想されるアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図2は、ネズミマラリア原虫由来のPbsp1蛋白質と、ヒトマラリア原虫由来の相同体におけるアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
【図3】図3は、相同性組み換えによる遺伝子破壊の手法を示す模式図である。
【図4】図4は、Pbsp1遺伝子の発現を破壊した原虫の肝臓感染性を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3