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明細書 :がんモデル動物の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4565189号 (P4565189)
公開番号 特開2007-043975 (P2007-043975A)
登録日 平成22年8月13日(2010.8.13)
発行日 平成22年10月20日(2010.10.20)
公開日 平成19年2月22日(2007.2.22)
発明の名称または考案の名称 がんモデル動物の作製方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2005-232674 (P2005-232674)
出願日 平成17年8月10日(2005.8.10)
審査請求日 平成19年3月5日(2007.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】小田 竜也
【氏名】大河内 信弘
【氏名】榎本 剛史
【氏名】青柳 靖之
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 Biotechnol Prog Vol.21 No.4 Page.1289-1296 (2005.07)
口腔病学会雑誌Vol.65 No.2 Page.241-250 (1998.06)
Jpn J Cancer Res Vol.87 No.8 Page.831-836 (1996.08)
Jpn J Cancer Res Vol.87 No.9 Page.952-957 (1996.09)
日本外科学会雑誌 Vol.106 臨時増刊号 Page.478 (2005.04.05)
Nat Biotechnol Vol.19 No.1 Page.35-39 (2001.01)
J Microencapsulation Vol.14 No.1 Page.27-34 (1997.01)
調査した分野 A01K 67/027
G01N 33/15
G01N 33/50
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
がんモデル動物の作製方法であって、がん細胞を着床させたい実験動物(ヒトを除く)の臓器に至る血管内に、内部に500個~4000個のがん細胞を封入した平均粒径が100μm~800μmのマイクロカプセルを注入し、前記マイクロカプセルを前記臓器に到達させた後、前記マイクロカプセルの内部に封入したがん細胞の増殖による時限的な前記マイクロカプセルの破壊により、その内部からがん細胞を外出させ、外出したがん細胞を前記臓器に着床させてがん病巣を形成させることを特徴とする作製方法
【請求項2】
前記マイクロカプセルの構成材料としてアルギン酸塩と所望によりポリリジンを用いることを特徴とする請求項記載の作製方法。
【請求項3】
前記臓器が肝臓であって、前記血管が門脈であることを特徴とする請求項1または2記載の作製方法。
【請求項4】
前記実験動物がゲッ歯動物であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
前記ゲッ歯動物がラットであることを特徴とする請求項記載の作製方法。
【請求項6】
前記マイクロカプセルを100個~6000個注入することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法。
【請求項7】
前記がん細胞が消化器がん細胞をはじめとする各種悪性腫瘍細胞であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法。
【請求項8】
請求項1記載の作製方法によって作製されてなることを特徴とするがんモデル動物。
【請求項9】
請求項1記載の作製方法によって作製されてなるがんモデル動物に抗がん剤候補物質を投与し、その抗がん性を評価することに基づくことを特徴とする抗がん剤のスクリーニング方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がんモデル動物の新規な作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓がん、胃がん、大腸がんなどの消化器がん患者の多くは、終末期に肝転移を伴い、それが患者の直接の死因となることも多い。肝転移を制御する治療法を得ることができれば、がん患者の予後改善に大きく寄与することは間違いがないが、残念ながら今のところそのような治療法は確立されるに至っていない。その理由の一つには、肝転移を制御する治療法を確立するための研究手法自体の確立がこれまで困難であったことが挙げられる。方法論的に考えれば、肝転移を制御する治療法の開発は、免疫不全のラットやマウスなどにヒトのがん細胞を移植することで肝転移モデルを作製し、このモデルに対する有効性を検討することで行うことができる。しかしながら、実験動物に対して、実際に肝転移を形成させることができるがん細胞は特殊で非常に限られたものである。また、その再現性にも問題があり、転移の結節数や程度を制御することはできない。即ち、肝転移を制御する治療法を開発するための優れたモデル動物が存在しないことが、これまで開発の律速段階の一つになっていたと考えられる。
【0003】
肝転移モデル動物、即ち、肝臓がんモデル動物を作製する方法には、がん細胞を直接脾臓や門脈内に注入し、肝臓にがん細胞を到達させる“直接注入モデル”と、がん細胞を大腸や膵臓などの同所臓器にいったん生着させて、自然に肝転移を形成することを期待する“自然転移モデル”がある。“直接注入モデル”は、“自然転移モデル”よりもより確実に肝転移モデル動物を作製することができるように思われるが、実際には必ずしもそうではない。1個1個バラバラのがん細胞(single cell suspension)を門脈内に注入しても、注入されたがん細胞は末梢門脈、肝類洞を通り抜け、肝静脈から抜け出してしまい、肝臓に着床しにくいということが知られている(非特許文献1)。これに対し、数十個~数百個のがん細胞の塊を作り、これを門脈内に注入すると、がん細胞の集塊は物理的に末梢門脈に引っかかり、1個1個バラバラのがん細胞を投与するよりも転移率が上がるとの報告がある(非特許文献2)。Fidlerらが提唱している肝転移の成立の多段階機序においても、脈管中を遊離するがん細胞は、血小板や宿主の様々な細胞などによって集塊を形成しているとされており(非特許文献3)、がん細胞の集塊が、転移先の毛細血管においてこれを物理的に塞栓することで捕捉されることが、転移形成に有利に働くようである。しかしながら、大きさや性状が均一ながん細胞の集塊を人工的に安定して作ることは極めて困難である。

【非特許文献1】J hepatol 11 53-57 1990
【非特許文献2】J Surg Res 112 31-37 2003
【非特許文献3】Cancer Res 38 2651-2660
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、動物肝転移モデルをはじめとする種々の動物血行性転移モデルとして、抗がん剤のスクリーニングを行う際などに好適ながんモデル動物を安定して作製することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルを作製し、マイクロカプセルの内部でがん細胞を増殖させることで3次元的にがん細胞の微小な集塊を形成させ、がん細胞の集塊がマイクロカプセルの内部をほぼ充満した時点でこれを実験動物の門脈内に注入して肝臓に到達させると、マイクロカプセルは門脈末梢において効率的に捕捉されて物理的塞栓を起こすこと、その後もがん細胞は捕捉されたカプセル内で増殖を続け、時限的にカプセル被膜を破壊して外出し、肝臓に着床してがん病巣を形成することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明のがんモデル動物の作製方法は、請求項1記載の通り、がん細胞を着床させたい実験動物(ヒトを除く)の臓器に至る血管内に、内部に500個~4000個のがん細胞を封入した平均粒径が100μm~800μmのマイクロカプセルを注入し、前記マイクロカプセルを前記臓器に到達させた後、前記マイクロカプセルの内部に封入したがん細胞の増殖による時限的な前記マイクロカプセルの破壊により、その内部からがん細胞を外出させ、外出したがん細胞を前記臓器に着床させてがん病巣を形成させることを特徴とする
た、請求項記載の作製方法は、請求項記載の作製方法において、前記マイクロカプセルの構成材料としてアルギン酸塩と所望によりポリリジンを用いることを特徴とする。
また、請求項記載の作製方法は、請求項1または2記載の作製方法において、前記臓器が肝臓であって、前記血管が門脈であることを特徴とする。
また、請求項記載の作製方法は、請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法において、前記実験動物がゲッ歯動物であることを特徴とする。
また、請求項記載の作製方法は、請求項記載の作製方法において、前記ゲッ歯動物がラットであることを特徴とする。
また、請求項記載の作製方法は、請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法において、前記マイクロカプセルを100個~6000個注入することを特徴とする。
また、請求項記載の作製方法は、請求項1乃至のいずれかに記載の作製方法において、前記がん細胞が消化器がん細胞をはじめとする各種悪性腫瘍細胞であることを特徴とする。
また、本発明のがんモデル動物は、請求項記載の通り、請求項1記載の作製方法によって作製されてなることを特徴とする。
また、本発明の抗がん剤のスクリーニング方法は、請求項記載の通り、請求項1記載の作製方法によって作製されてなるがんモデル動物に抗がん剤候補物質を投与し、その抗がん性を評価することに基づくことを特徴とする



【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1個1個バラバラのがん細胞を門脈から投与する場合に比較して、安定に且つ多くのがん病巣を実験動物の肝臓に形成させることができる。この場合、がん病巣は肝臓のみに形成されるので、本発明のがんモデル動物の作製方法によって作製されてなるがんモデル動物を用いれば、抗がん剤のスクリーニングを定量的な治療効果判定に基づいて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のがんモデル動物の作製方法は、がん細胞を着床させたい実験動物の臓器に至る血管内に、内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルを注入し、前記マイクロカプセルを前記臓器に到達させた後、前記マイクロカプセルの内部に封入したがん細胞の増殖による時限的な前記マイクロカプセルの破壊により、その内部からがん細胞を外出させ、外出したがん細胞を前記臓器に着床させてがん病巣を形成させることを特徴とするものである。本発明のがんモデル動物の作製方法が好適に採用されるがんモデル動物としては、肝臓がんモデル動物が挙げられるので、以下の説明においては、肝臓がんモデル動物を作製する場合を例にとって説明するが、本発明のがんモデル動物の作製方法が適用されるがんモデル動物は、肝臓がんモデル動物に限定される訳ではない。
【0009】
本発明のがんモデル動物の作製方法によって肝臓がんモデル動物を作製する場合、がん細胞を封入したマイクロカプセルを、例えば、ラットやマウスなどのゲッ歯動物、ウサギ、イヌ、ブタなどの門脈内に注入すればよい。がん細胞としては、膵臓がんや大腸がんや胃がんなどの消化器がん、乳がん 悪性黒色腫などの各種悪性腫瘍の細胞(株化細胞が望ましい)を用いるのがよい。
【0010】
内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルは、安定に作製することができるとともに、その大きさや内部に封入するがん細胞の個数の制御ができ、肝臓にがん病巣を形成させるための人工がん細胞集塊として機能する本発明の根幹をなす特徴的なものである。マイクロカプセルの内部に細胞を封入することは、例えば、エンドスタチンやアンジオスタチンなどの抗腫瘍性物質を産生する細胞について行われており、内部にこのような細胞を封入したマイクロカプセルを用いたがんの治療のための研究が報告されている(例えば、Nat Biotechnol, 19: 35-39., 2001.や、Nat Biotechnol, 19: 29-34., 2001.を参照のこと)しかしながら、これらの細胞は、マイクロカプセルの内部で充満した時点で増殖を止めるので、増殖を続けてその結果マイクロカプセルを破壊することはない。従って、本発明において、マイクロカプセルの内部にがん細胞を封入し、内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルを実験動物の門脈内に注入し、肝臓に到達させた上で、がん細胞の高い増殖性を利用して、さらにマイクロカプセルの内部に封入したがん細胞を増殖させ、がん細胞の増殖により時限的にマイクロカプセルを破壊させてその内部からがん細胞を外出させ、外出したがん細胞を肝臓に着床させてがん病巣を形成させることは、これまでに提唱されたことがない本発明者らによる独創的ながんモデル動物の作製方法である。
【0011】
マイクロカプセルの内部へのがん細胞の封入は、例えば、公知の二重ノズル法によって行うことができる(必要であればJ Biomed Mater Res, 54: 264-271., 2001.を参照のこと)。例えば、構成材料としてアルギン酸塩を用いたマイクロカプセルは当業者によく知られている。また、アルギン酸塩に加え、ポリリジンを構成材料として用いた、アルギン酸塩-ポリリジン-アルギン酸塩からなるマイクロカプセルもよく知られている。本発明において適用することができるマイクロカプセルとしては、このような構成材料からなるものが例示されるが、マイクロカプセルの構成材料はこれらに限定される訳ではなく、アガロース、キトサン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、カラギーナン、硫酸セルロース、コンドロイチン硫酸などを用いることもできる。
【0012】
内部にがん細胞を封入したアルギン酸塩-ポリリジン-アルギン酸塩からなるマイクロカプセルの二重ノズル法による作製方法の一例の概略を説明すると、まず、がん細胞を予定した濃度でアルギン酸水溶液に混合した後、これを塩化カルシウム溶液などの多価イオン水溶液に滴下することで、滴の周囲にアルギン酸塩(電解質複合体)からなるゲル層を形成させてマイクロカプセル化する。この際、二重ノズルの内側ノズルからはがん細胞を混合したアルギン酸水溶液を滴下し、外側ノズルからは空気を噴出させ、前者の滴下程度と後者の噴出程度の調整を図ることで、マイクロカプセルの平均粒径を所望の値にすることができる。次いで、ポリリジン、アルギン酸塩でゲル層の表面を順次コーティングした後、クエン酸でマイクロカプセルの内部のアルギン酸を液状化すれば、内部にがん細胞を封入したアルギン酸塩-ポリリジン-アルギン酸塩からなるマイクロカプセルを得ることができる。
【0013】
マイクロカプセルの平均粒径は、例えば、100μm~800μmとするのがよい。平均粒径が大きすぎると実験動物の門脈内への注入が困難になる一方で、平均粒径が小さすぎるとマイクロカプセル自体の調製が困難になる上に、マイクロカプセルが標的臓器に留まることができずにすり抜けてしまう可能性が高くなる。
【0014】
例えば、マイクロカプセルの平均粒径を100μm~800μmとする場合、マイクロカプセルの作製時点でのその内部へのがん細胞の封入個数は30個~500個とするのが望ましい。封入個数が多すぎるとその調製が困難になり、一方で、少なすぎると内部でのがん細胞の増殖が不十分になり、後にその時限的破壊を引き起しにくくなる。
【0015】
内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルは、上記の方法で作製した後、まず、例えば、マイクロカプセルの内部に封入されたがん細胞を培養して集塊を形成させるために、インキュベーター内で保存する。そして、マイクロカプセルの内部のがん細胞個数が500個~4000個程度になった時点で、実験動物の門脈内に100個~6000個程度注入することが望ましい。これにより、内部にがん細胞を封入したマイクロカプセルを実験動物の門脈内に注入した後、速やかにがん細胞の増殖によるマイクロカプセルの時限的破壊を起こさせ、がん細胞を肝臓に着床させてがん病巣を安定に形成させることができる。
【0016】
本発明の方法で肝臓にがん病巣を形成させた肝臓がんモデル動物は、がん病巣が肝臓のみに形成されていることは特筆に価する。肝転移モデル動物を作製する方法として従来から知られている、がん細胞を大腸や膵臓などの同所臓器にいったん生着させて、自然に肝転移を形成することを期待する“自然転移モデル”は、1個1個バラバラのがん細胞を門脈内に注入して肝臓にがん細胞を到達させる“直接注入モデル”に比較すれば効率的に肝転移を形成させることができるが、肝転移と同時にがん細胞投与部位での腫瘍増殖や腹膜播腫が発生し、これらが正確な肝転移に対する治療効果の判定の妨げとなっていた。これに対し、本発明の方法で肝臓にがん病巣を形成させた肝臓がんモデル動物にはこのような問題がないので、抗がん剤のスクリーニングを定量的な治療効果判定に基づいて行うことができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を具体的な実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0018】
A:ヒト膵臓がん細胞株封入マイクロカプセルの作製および培養
マイクロカプセル化したヒト膵臓がん細胞株をラットの門脈内に注入し、肝転移を形成させることを目的として、ヒト膵臓がん細胞株ASPC-1,BxPC-3,SUIT-2のそれぞれを、直径300μmのアルギン酸カルシウム-ポリ-L-リジン-アルギン酸カルシウムからなるマイクロカプセルの内部に封入した。なお、ASPC-1とBxPC-3の培養は、RPMI(SIGMA-ALDRICH, St Louis)に10%FBS(Invitrogen Corporation, NY)を加えた培養液を用いて行い、SUIT-2の培養は、DMEM(SIGMA-ALDRICH, St Louis)に5%FBS(同)を加えた培養液を用いて行った。
がん細胞封入マイクロカプセルは二重ノズル法により作製した。まず、ASPC-1とBxPC-3は、matrigel(SIGMA-ALDRICH, St Louis)と2%アルギン酸水溶液を1:3の割合で混合した溶液に濃度が2×107cells/mlアルギン酸となるように混合した。また、SUIT-2は、1.5%アルギン酸水溶液に1×107cells/mlアルギン酸となるように混合した。次いで、得られたがん細胞混合液を二重ノズルの内側ノズル(31G針)から5.0ml/minの速度で1.1%塩化カルシウム水溶液に滴下し、氷冷下において30分間攪拌して反応させることで、内部にがん細胞を封入したカルシウム-アルギン酸ビーズを作製した。なお、がん細胞混合液を1.1%塩化カルシウム水溶液に滴下する際、二重ノズルの外側ノズルからは、得られるカルシウム-アルギン酸ビーズの粒径が300μmとなるように風量を調節した空気を噴出させた。次いで、内部にがん細胞を封入したカルシウム-アルギン酸ビーズを0.05%(wt/vol)ポリ-L-リジンと3分間反応させ、さらに、0.03%(wt/vol)アルギン酸と4分間反応させてビーズの表面をコーティングした後、クエン酸と6分間反応させ、ビーズの内部のアルギン酸を液状化することで、内部にがん細胞を封入したアルギン酸カルシウム-ポリ-L-リジン-アルギン酸カルシウムからなるマイクロカプセルを得た(マイクロカプセル1個当たりの細胞封入個数は計算上ASPC-1とBxPC-3については600個でありSUIT-2については300個である)。なお、操作中の試薬はすべて氷冷したものを用いた。このようにして得られたがん細胞封入マイクロカプセルは、培養液とともに450mlの培養フラスコ内(TPP)に入れ、37℃,5%CO2のインキュベーター内で保存し、がん細胞を培養した。培養液は2日ごとに倍量に交換した。
このようにして作製した、100個のSUIT-2封入マイクロカプセルの直径は平均348μmであり標準偏差33であった(図1参照)。100個のASPC-1封入マイクロカプセルの直径は平均298μmであり標準偏差21.95であった。100個のBxPC-3封入マイクロカプセルの直径は平均362μmであり標準偏差35であった。以上の結果から、いずれのがん細胞を内部に封入した場合でも、安定した大きさのマイクロカプセルが作製されたことがわかった。
【0019】
B:がん細胞封入マイクロカプセルの形態観察および細胞増殖の測定
フラスコ内のそれぞれのがん細胞封入マイクロカプセルを、作製直後から毎日倒立位相差顕微鏡で観察し、1~3日毎にマイクロカプセルの写真を撮影した。また、マイクロカプセルの内部に封入した細胞が集塊を形成し、マイクロカプセルの内部で十分に増殖した日をラットの門脈内への最適投与日に設定した。また、それぞれのがん細胞封入マイクロカプセルについて、マイクロカプセル作製日、2日目、5日目、7日目と以後3日毎に、フラスコ内で細胞の増殖によって破裂しているマイクロカプセルを確認できる日まで、その内部の細胞数をカウントした。細胞数のカウントは、まず、培養フラスコからマイクロカプセルを取り出し、総マイクロカプセル数/1000μl PBSに調整し、次に、そこから50~100μl取り出し、マイクロカプセル浮遊液:4%パパイン:8%リアーゼが2:1:1の容量となるように混合し、ハイブリオーブンで30分間反応させ、ピペティングでカプセルを破壊して細胞を取り出して行った。また、最適投与日に一部のマイクロカプセルを培養フラスコから取り出し、OCT compaundに包埋し、frozen sectionを作製した後にHematoxylin-Eosin染色を行ってカプセルの断面を顕微鏡下に観察した。
SUIT-2封入マイクロカプセルについて、図2-aに作製1日目の写真、図2-bに最適投与日の写真を示す。図2-aと図2-bから明らかなように、マイクロカプセルに封入された細胞は、その内部において次第に集塊を形成しながら増殖し、最終的にはマイクロカプセルの内部を充満した後に時限的に破裂して培養フラスコ内で増殖した(図2-c:マイクロカプセルが破裂して一部の細胞が外出していることが確認できる)。ある直径380μmのSUIT-2を内部に封入したマイクロカプセルについて、その内部の細胞数をカウントしたところ、マイクロカプセル作製時は300個で、5日目には700個であった。この時点で、マイクロカプセルの内部は細胞でほぼ充満され、7日目以降、細胞はマイクロカプセルを破裂させた後も増殖することが確認された。7日目の時点で総マイクロカプセル数の10%が破裂しており、この時点におけるマイクロカプセルの内部のSUIT-2の個数は、1700~3500個であった。なお、ASPC-1封入マイクロカプセルについては7日目に、BxPC-3封入マイクロカプセルについては13日目に、それぞれマイクロカプセルの破裂が起こることが確認された。3種類のがん細胞をそれぞれ内部に封入したマイクロカプセルの最適投与日は、SUIT-2とASPC-1では5日目、BxPC-3では7日目であった。最適投与日のSUIT-2封入マイクロカプセルの断面をHematoxylin-Eosin染色で観察した結果を図2-dに示す。図2-dから明らかなように、SUIT-2は、マイクロカプセルの内部において3次元的に腺管を形成しており、あたかも膵臓がん切除標本中に認められる静脈内腫瘍栓に類似していた。
【0020】
C:ヒト膵臓がん細胞株封入マイクロカプセルのラットの門脈内への注入(門注)
ヒト膵臓がん細胞株封入マイクロカプセルをヌードラットMale F344/NJcl-mu rat(日本クレアより購入)5週齢に門注して肝転移を形成させた。ラットは、オートクレーブで滅菌したケージ,餌,水分を使用し、HEPA-filtered下の環境で飼育した。門注方法は、設定した最適投与日にがん細胞封入マイクロカプセルを培養フラスコから回収し、生理食塩水で3000個/mlに調整した。ペントバルビタール40mg/gを腹腔内投与で麻酔した後、正中切開で開腹し、腸管を創外に脱転し、門脈が直線化するように腸間膜を展開した。ヘパリン化した20Gのサーフローを上腸間膜静脈末梢から挿入し、先端をsplenic veinとportal veinの合流部の先に留置した。このような状態でがん細胞封入マイクロカプセルを0.1ml/secで注入し、その後、生食でフラッシュした。刺入部は5-0nylonで結紮して止血した。
ASPC-1,BxPC-3,SUIT-2のそれぞれを内部に封入したマイクロカプセルを門注することで形成される肝転移および他臓器への転移を検討した。ASPC-1,BxPC-3,SUIT-2のそれぞれを内部に封入したマイクロカプセルを3000個ラットに門注した後、BxPC-3投与群とSUIT-2投与群は4週後に、ASPC-1投与群は5週後にペントバルビタールの過量投与でラットを犠死させ肝臓を摘出した。同時に刺入部、腹膜播種および肺転移の有無を肉眼的に観察した。肝転移の評価は、肝全体および腫瘍全体の体積を測定して、肝臓に対する転移巣の占める割合を求めた。体積の測定方法は、肝をホルマリンに固定した後に左葉、中葉、右葉、尾状葉に分割し、それぞれの葉について冠状断で2mmの厚さにスライスし、スライスごとに肝全体の面積および腫瘍部分の面積を汎用画像処理ソフトWinROOF(Mitani corpotarion, FUKUI JAPAN)で求め、2mmの高さを乗じて肝全体および腫瘍全体の体積とした。
その結果、門注を施行した50匹のうち3匹が当日に死亡した(出血2匹、麻酔1匹)が、残りのラットは犠死させるまですべて生存した。ASPC-1,BxPC-3,SUIT-2のそれぞれを内部に封入したマイクロカプセル3000個を門注した場合、SUIT-2では12匹中12匹全てのラットが、ASPC-1では6匹中6匹全てのラットが肝転移を形成し、BxPC-3では6匹中5匹のラットが肝転移を形成した。一方、がん細胞封入マイクロカプセル3000個と同数のsingle cell susupensionを投与した場合では、どのがん細胞を投与した場合でも肝転移は1匹も形成されなかった(表1参照)。また、門注したラットの肝全体の体積、転移巣の体積、肝転移巣体積率(SD)はそれぞれ、SUIT-2封入マイクロカプセルを注入した実験では53.53cm3,7.95 cm3,14.6%(7.0)、ASPC-1封入マイクロカプセルを注入した実験では56.61cm3,5.68 cm3,9.7%(5.8)、BxPC-3封入マイクロカプセルを注入した実験では55.68cm3,9.55cm3,15.0%(12.5)であり、安定して肝転移を形成することができた(図3参照)。
さらに、SUIT-2封入マイクロカプセルの門注個数を段階的に6000個、3000個、1000個、333個と変えた場合、肝転移形成率は門注個数が6000個と3000個では100%であったが(6000個門注群で5匹中5匹,3000個門注群で12匹中12匹)、1000個では85.7%(7匹中6匹)、333個では50%(8匹中4匹)であった。また、肝転移の程度を算出したところ、肝全体の体積、転移巣の体積、肝転移巣体積率(SD)は、6000個門注群では73.1cm3,23.0 cm3,29.5%(13.1)、3000個門注群では53.53cm3,7.95 cm3,14.6%(7.0)、1000個門注群では48.3cm3,0.9 cm3,1.3%(1.8)、333個門注群では44.2cm3,0.1 cm3,0.2%(0.3)であり、マイクロカプセルの門注個数を変えることにより、肝転移の程度を段階的に調節することが可能であった(図4参照)。
なお、他臓器転移の有無についてすべてのラットについて検討したところ、ほぼすべてのラットにおいて、上腸管膜静脈の刺入部への転移、腹膜播種、肺転移など他臓器転移の形成は認めなかった。例外的にSUIT-2封入マイクロカプセル3000個門注群の2匹において、創部の皮膚に転移を認めた(図5と表2参照)。腹膜播腫や肺転移の形成はすべてのラットにおいて認められず、この方法によれば選択的に肝転移を形成させることができた。
【0021】
【表1】
JP0004565189B2_000002t.gif

【0022】
【表2】
JP0004565189B2_000003t.gif

【0023】
D:抗がん剤による肝転移治療効果の判定
本発明の方法によってがん細胞封入マイクロカプセルを用いて作製される肝転移モデルが、抗がん剤などの治療効果判定に有用であるかを検討するため、SUIT-2封入マイクロカプセル3000個を門注して作製したラット肝転移モデルに対し、抗がん剤であるゲムシタビン(Gemcitabine)と塩酸イリノテカン(CPT-11)を投与して治療を行い、効果判定を行った。ゲムシタビンは、SUIT-2封入マイクロカプセルを門注した後7日目から80mg/kgのdoseで週2日(3-4日毎)、合計で6回尾静脈から投与した。同様に、塩酸イリノテカンは、SUIT-2封入マイクロカプセルを門注した後7日目から60mg/kgのdoseで週2日(3-4日毎)、合計で6回尾静脈から投与した。対照として生理食塩水を6回注入して(1回当たり0.5ml)比較した。
その結果、腹腔内および胸腔内を観察したが肝以外の転移は認めず、肝臓に対する転移巣の占める割合は、対照群では43.5%であったのに対し、治療群ではゲムシタビンで1.6%であり塩酸イリノテカンで0.3%であった。よって、本発明の方法によって作製したラット肝転移モデルを用いれば、ゲムシタビンと塩酸イリノテカンによる抗腫瘍効果を確実に数値化して、治療群と対照群での正確な比較ができることがわかった(図6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、動物肝転移モデルをはじめとする種々の動物血行性転移モデルとして、抗がん剤のスクリーニングを行う際などに好適ながんモデル動物を安定して作製することができる方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例において作製したSUIT-2封入マイクロカプセルのサイズ分布である。
【図2】同、(a)はSUIT-2封入マイクロカプセルについての作製1日目の写真、(b)は最適投与日の写真、(c)はさらに培養を継続することでカプセルが破裂した状態の写真、(d)は最適投与日のSUIT-2封入マイクロカプセルの断面をHematoxylin-Eosin染色で観察した結果である。
【図3】同、3種類のがん細胞をそれぞれ内部に封入したマイクロカプセルを門注した場合の肝転移体積と肝全体の体積の比率である。
【図4】同、SUIT-2封入マイクロカプセルの門注個数を333個、1000個、3000個、6000個と段階的に変化させた場合の肝転移の体積率である。
【図5】同、SUIT-2封入マイクロカプセル3000個門注群のうちの1匹のラットの28日後の腹腔内の様子である。転移は肝臓だけに形成され、刺入部、腹膜、肺などの他部位には認めない。
【図6】同、SUIT-2封入マイクロカプセルを門注して作製したラット肝転移モデルに対して、2種類の抗がん剤(ゲムシタビンと塩酸イリテカン)を投与した場合の治療効果である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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