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明細書 :高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4496366号 (P4496366)
公開番号 特開2006-294326 (P2006-294326A)
登録日 平成22年4月23日(2010.4.23)
発行日 平成22年7月7日(2010.7.7)
公開日 平成18年10月26日(2006.10.26)
発明の名称または考案の名称 高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材及びその製造方法
国際特許分類 H01M   4/583       (2010.01)
H01M   4/36        (2006.01)
FI H01M 4/58 102
H01M 4/36 C
請求項の数または発明の数 7
全頁数 9
出願番号 特願2005-110759 (P2005-110759)
出願日 平成17年4月7日(2005.4.7)
審査請求日 平成20年4月2日(2008.4.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
発明者または考案者 【氏名】武田 保雄
【氏名】劉 宇
【氏名】今西 誠之
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
審査官 【審査官】松岡 徹
参考文献・文献 特開2000-188134(JP,A)
国際公開第2005/114767(WO,A1)
国際公開第03/100888(WO,A1)
調査した分野 H01M 4/00- 4/62
特許請求の範囲 【請求項1】
黒鉛の表面部にリチウムと炭素からなる化合物膜が形成されていることを特徴とする高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材。
【請求項2】
前記において、黒鉛表面部に形成されたリチウムと炭素からなる化合物膜の表層部が少なくとも非晶質状態であることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材。

【請求項3】
前記の高分子固体電解質がポリエチレンオキサイドにリチウム塩を溶解したものであることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材。
【請求項4】
前記ポリエチレンオキサイドがセラミックスフィラーを含有することを特徴とする請求項3に記載の高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材。
【請求項5】
黒鉛、金属リチウム及び沸点が190℃~260℃の有機溶剤で構成される混合物に、ボールミリング処理を施し、黒鉛表面部にリチウムと炭素からなる化合物膜を形成することを特徴とする高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
前記の混合物において、黒鉛/リチウムの重量混合比がリチウム1に対し黒鉛0.01-0.8であり、有機溶剤/リチウムの容積混合比がリチウム1gに対し有機溶剤1-40mlであることを特徴とする請求項5に記載の高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材の製造方法。

【請求項7】
前記有機溶剤がドデカン(CH(CH10CH)であることを特徴とする請求項5または6の何れかに記載の高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材の製造方法。













発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンオキサイド(PEO)を電解質材料とする高分子固体電解質リチウムイオン2次電池のインターカレーション負極としての黒鉛系材料に関わる。
【背景技術】
【0002】
1991年にリチウムイオン電池が発売されて以来、その高作動電圧と高いエネルギー密度のために多大な注目が払われてきた。
そして、このリチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、その他デジタル製品の電源として広く使われている。市販のリチウムイオン電池は、低い作動電位と優れたサイクル性を持つ黒鉛系材料を負極とし、又、リチウムを含む遷移金属酸化物を正極とし、さらに、カーボネート系の有機化合物を主体とする溶媒にLiPF等のリチウム塩を溶解させたものを電解質として使用している。
【0003】
しかしながら、有機液体を電解質とするリチウムイオン電池は電解液の漏洩や熱的安定性から来る安全性の問題が常に存在する。この問題は、電気自動車あるいはハイブリッド車(EV/HEV)などへの大きなスケールのリチウムイオン電池の適用の障害となっている。
そして、ここ20年間の研究で、ポリエチレンオキサイド(PEO)にリチウム塩を溶解させた固体PEO電解質が室温より高い温度であるが、10-3Scm-1の導電性を示すようになってきた。このPEO電解質を使用した高分子固体電解質リチウム二次電池は、前述の有機液体電解質に発生する問題を解決できる可能性がある。
【0004】
ところで、これまでに開発されたリチウムポリマー電池はリチウム(Li)金属が負極として使われており、リチウムデンドライト形成に起因する安全性上の問題点があった。この、問題点を解決するにはいわゆるインターカレーション化合物の採用が効果的である。
たとえば、スピネル構造のLi1.33Ti1.67のように充放電でひずみを生ぜず、優れたサイクル性を示すLi-M-O物質を採用することが望ましいが、それらは容量が小さく電圧が高いという欠点がある。一方、もっと大きな容量を持つLi合金を採用する方法が考えられるが、これらは充放電サイクルによって大きな体積変化が生じ電極劣化が解決できず採用は難しい。
結局、平坦で低い電位を示し有機電解液系で優れたサイクル特性を示す、黒鉛性材料が最適な負極と考えられている。
【0005】
ところが、市販のリチウムイオン電池で優れた性能を示す層状の黒鉛材料は、PEO電解質では電解質/電極界面の相性が悪く、低い初期効率と劣ったサイクル特性を示し、適用できないのが現状である。上記の点から、PEO電解質としての黒鉛負極の電気化学的性能向上のため、PEOと炭素負極の界面の最適な設計に重点が置かれている(例えば、特許文献1)が、必ずしも良好な結果を示していない。
【0006】

【特許文献1】特願平6-292744号
【0007】
又、津村らは天然黒鉛をカーボンでコートしPEOと接触させる方法をとっている(非特許文献1)。
こうして得られた黒鉛負極は60℃のPEO電解質で約300mAhg-1の容量を4サイクル目まで示している 。しかしながら、初期不可逆容量が大きく残るのが欠点であった。
【0008】

【非特許文献1】T.Tsumura, Solid State Ionics, 135 (2000) 209-212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PEOとリチウム塩を組合せて電解質とする高分子固体電解質リチウム2次電池用の負極としてのグラファイトの電気化学的性能を向上させることが、本発明の第一の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PEO電解質と黒鉛性炭素の接触界面を適正化すること、より詳細には黒鉛性炭素の表面構造を改善することにより、特性を大幅に向上させることに成功した。具体的には、黒鉛の表面部にリチウムと炭素からなる化合物膜を形成した高分子固体電解質リチウム2次電池用負極材を提供することにより課題が達成される。ここで、リチウムと炭素からなる化合物膜とは、LiCの化学式で示される化合物で構成される膜を言う。そして、黒鉛表面部に形成されたリチウムと炭素からなる化合物膜の表層部は、少なくとも非晶質状態であることが望ましい。図1に黒鉛及びその表面部に形成されたリチウムと炭素からなる化合物膜の構造概要図を示す。ここで、リチウムと炭素からなる化合物膜の表層部は非晶質状態になっていると考えられる。

【0011】
又、高分子固体電解質はポリエチレンオキサイドにリチウム塩が溶解されたものであり、更に、ポリエチレンオキサイドがセラミックスフィラーを含有している方が望ましい。セラミックフィラーを含有することにより、PEOの強度が増加する上に電気化学的特性も向上するからである。
【0012】
そして、本発明は、黒鉛、金属リチウム及び沸点が190℃~260℃の有機溶剤で構成される混合物に、ボールミリング処理を施し、黒鉛表面部にリチウムと炭素からなる化合物膜を形成する製造方法に関わる。有機溶剤の沸点が190℃より低いと有機溶剤が常温で気体状であり、逆に260℃より高いと10℃前後で有機溶剤が凝固し、有機溶剤としての特性が充分に発揮できなくなるからである。従って、ドデカン(CH(CH10CH)(沸点216℃、凝固点-10℃)が有機溶剤として適切である。
又、上述の混合物において、黒鉛/リチウムの重量混合比がリチウム1に対し黒鉛0.01-0.8であり、有機溶剤/リチウムの容積混合比がリチウム1gに対し有機溶剤1-40mlであることを特徴としている。上述の比率から外れると、黒鉛表面へのリチウムと炭素からなる化合物膜の形成が効率的でなくなるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高い初期充放電効率とサイクル安定性を有するポリマー電解質リチウム2次電池の提供が可能になり、安全性を重視する用途への展開が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、リチウム金属と黒鉛系炭素を適した有機溶媒中で高エネルギー機械的ミリング( high energy mechanical milling (HEMM)) を行うが、その基本的な方法は以下の通りである。 先ず、指定量の黒鉛性材料を高温真空中で一定時間乾燥した後、この黒鉛性材料と金属リチウム及び特定の有機溶剤とを不活性ガス中でさらに混合する。ここで、有機溶媒を使用するのは、金属リチウムと黒鉛性炭素の分散を良くして成分材料同士の集合密着を防ぎ、表面に均一で安定な膜を形成するのに有効であるためである。
【0015】
次に、上記混合物に一定時間、高エネルギーメカニカルミリング処理(HEMM)を行う。これにより黒鉛性炭素のエッジ部分に非晶質構造が形成され、その非晶質構造により、例えばO2-の様なある種の陰イオンや電解質成分が黒鉛層にLiと同時挿入されることが防止される。更に、黒鉛性材料粒子表面に高いLiイオン導電性を持ったリチウムと炭素の安定な化合物(LiC)を形成させることが可能となる。このような化合物は、PEO電解質と黒鉛性材料が直接接触することを防止するからである。 HEMM処理された混合物はさらに残存の有機溶剤を取り除くため高温で乾燥される。このように処理されて得られる黒鉛性炭素材料は、PEO電解質に対して高い初期充放電効率、高い可逆性容量、安定なサイクル特性で示される優れた電気化学特性を示す。
【0016】
本発明の実施例について下記に説明するが、本発明の技術的範囲は本実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく様々に改変して実施することができる。又、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【実施例1】
【0017】
粒径20-25μmのマイクロビーズメソカーボン(MCMB)を真空中20時間、80℃で乾燥する。このように処理した一定量のMCMBを金属リチウムとドデカン{CH(CH10CH)とを混合する。黒鉛材料と金属リチウム比は20.3:1(重量比)であった。また黒鉛材料とドデカンの比は、ドデカン1mlに対し黒鉛1gとした。混合物はボールミルのポット(40cc)に、適量のボール(直径1cm)と共に入れる。ここで、1gの混合物に対し、ボールは12個とした。次に、ポットにアルゴンガスを充填し、混合物を回転数600rpmで15時間のHEMM処理を施した後、混合物を真空中で、90℃、10時間の乾燥処理を行った。
【0018】
PEO系固体電解質の作成は以下の通りである。一定量のLiN(CFSOとポリエチレンオキサイド(MW=6×10)(O/Li=18)を無水アセトニトリル溶媒に溶かす。無機フィラーとしてBaTiO(約0.1μ)を均一に分散させる。得られた粘性の複合溶液をフッ素樹脂プレート上にキャストする。次に、窒素気流中でアセトニトリル溶媒をゆっくり蒸発させ、その後真空中で90℃×10時間乾燥させる。得られた膜の厚さは300μであった。この複合ポリマー電解質の導電率は、80℃で1.7×10-3Scm-1、65℃で0,82×10-3Scm-1であった。

【0019】
複合電極はグローブボックスの中で作成した。電極の構成物質は、PEO、LiN(CFSO、アセチレンブラック、黒鉛性材料粒子とし、ヘキサン存在下、乳鉢中で混合し、300メッシュのステンレスの網に押しつけて作成した。ステンレスは集電体の働きをし、電極面積は0.55cm、厚さは100~160μであった。
電極の電気化学的特性を調査するために、リチウム金属を対極に用いPEOフィルムを電解質兼セパレータとして使用し、3層に積み重ねて2025コイン型電池セル内に入れた。充放電は0.05mAcm-2の電流密度、電圧範囲を2.0/0V vs・Li/Li+とし、温度は70℃で行った。測定前に、セルを2時間70℃で保持した。電極の容量は活物質の重量あたりで計算した。
以上により得られた、リチウムと炭素からなる化合物膜の電子顕微鏡写真を図2に示す。本発明の処理法により、黒鉛結晶の表面部にLiC結晶層が、更にその表層部にLiCアモルファス層が形成されていることが、図2から判る。
【0020】
図3は、粒径20-25μmの黒鉛について、本発明による処理を施した場合と処理を施していない場合のPEO電解質系における充放電特性を比較したものであるが、処理を施した黒鉛は初期充放電効率が37.6%から63.7%へと増加し、又、可逆容量が120mAhg-1から 260mAhg-1へと増加し、顕著な向上を見せた。又、処理した黒鉛のサイクルによる容量保持性能も優れていた。
【実施例2】
【0021】
粒子径1μm の天然黒鉛を真空中で80℃×20時間乾燥し、乾燥した黒鉛と金属リチウム、ドデカンを一定量混合した。黒鉛対リチウム比は重量比で10.3:1に、黒鉛対ドデカン比は黒鉛1gに対しドデカン2mlとした。混合物をボールミルのポット(40cc)に、適量のボール(直径1cm)と共に入れるが、このとき混合物1gに対し、ボールを16個とした。ポットにアルゴンガスを充填し、混合物を、回転数600rpmで20時間のHEMM処理を施した。この時、1.5時間毎に5分の休止時間をとった。その後、混合物を90℃で10時間、真空中で乾燥させた。以降の作成条件は実施例と同一とした。その結果を図4および表1に示す。
【0022】
ここで、図4は、粒径1μmの黒鉛について、本発明による処理を施した場合と処理を施していない場合のPEO電解質系における特性を比較したものであるが、処理を施した黒鉛は初期充放電効率が28.1%から75.4%に増加し、可逆容量は110mAhg-1から220mAhg-1に増加し、顕著な向上を示した。処理した黒鉛のサイクルによる容量保持性能も同様に優れていた。
【0023】
又、図5は粒径20-25μmの黒鉛について、本発明による処理を施した場合と処理を施していない場合のPEO電解質系におけるサイクリックボルタモグラムを示す(70℃)。通常の黒鉛に一回目にLiを挿入する際、PEOと電極間にある不可逆な反応が起こることで現れる0.2、0.9、1.35、2.3Vのピークが、処理した黒鉛では完全に消えていた。
【0024】
表1は異なった電解質における本発明による処理を施した黒鉛と処理を施していない黒鉛の初期充放電効率と可逆容量を比較したものである。処理をしていない黒鉛材料は液体電解質との組み合わせとは異なり、PEO電解質とは明らかに劣った特性しか示さなかった。しかし、本発明による処理を施した黒鉛材料は初期効率においても可逆容量においても飛躍的な性能向上を示した。
【0025】
【表1】
JP0004496366B2_000002t.gif

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】HEMM処理により、黒鉛表面にLiCを形成させた場合の模式図である。
【図2】黒鉛表面に形成されたLiCを示す透過型電子顕微鏡写真を示す図である。ここで、写真[1]は、本発明の処理無しの場合を、写真[2]は、処理を施した場合を示す図である。
【図3】粒径20-25μmの黒鉛を負極材料に用いた場合の、充放電性能を示す図である。本発明の処理(modification)を施した場合は、処理無し(without modification)に比べ特性がかなり改善されている。
【図4】粒径1μmの黒鉛を負極材料に用いた場合の、充放電性能を示す図である。本発明の処理(modification)を施した場合は、処理無し(without modification)に比べ特性がかなり改善されている。
【図5】粒径20-25μmの黒鉛を負極材料に用いた場合の、サイクリックボルタモグラムを示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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