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明細書 :無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4815583号 (P4815583)
公開番号 特開2006-188377 (P2006-188377A)
登録日 平成23年9月9日(2011.9.9)
発行日 平成23年11月16日(2011.11.16)
公開日 平成18年7月20日(2006.7.20)
発明の名称または考案の名称 無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法
国際特許分類 C01G  23/00        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C01G 23/00 C
C01G 23/00 Z
A61L 27/00 F
A61L 27/00 M
請求項の数または発明の数 8
全頁数 22
出願番号 特願2005-000259 (P2005-000259)
出願日 平成17年1月4日(2005.1.4)
審査請求日 平成19年12月18日(2007.12.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
発明者または考案者 【氏名】西沢 均
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125184、【弁理士】、【氏名又は名称】二口 治
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査官 【審査官】壺内 信吾
参考文献・文献 特開2000-302441(JP,A)
特開平09-248467(JP,A)
特開平11-199860(JP,A)
特開平04-362014(JP,A)
特開2001-270709(JP,A)
特開2004-075445(JP,A)
特開2003-252626(JP,A)
調査した分野 C01G1/00-23/08
B01J21/00-38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
基体表面に無機粒子・酸化チタン複合体層を形成する方法であって、
チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水を含有する混合物を、100℃~200℃の温度範囲で加熱することによって酸化チタン前駆体を作製する工程と、
当該酸化チタン前駆体を基体表面に塗布する工程と、
当該塗布された酸化チタン前駆体に、さらに無機粒子を添加することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程と、
当該基体表面に塗布された無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を、300℃~600℃の温度範囲で焼成する工程
とを含むことを特徴とする無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項2】
上記酸化チタン前駆体を作製する工程において、
チタンアルコキシド1molに対して、
アルコール40~120mol、
アミノアルコール1~20mol、
水10~80mol
を用いる請求項1に記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項3】
上記基体として、金属、ガラス、セラミックス、コンクリートの単独物または混合物からなるものを用いる請求項1または2に記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項4】
上記基体として、合金からなる人工骨または人工関節を用いる請求項1~のいずれかに記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項5】
上記酸化チタンに対する上記無機粒子の含有量を、90質量%以下とする請求項1~のいずれかに記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項6】
上記無機粒子として、アパタイトを用いる請求項1~のいずれかに記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項7】
酸化チタンに対する無機粒子の含有量が、互いに異なる無機粒子・酸化チタン複合体層を2層以上設け、多層構造とする請求項1~のいずれかに記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
【請求項8】
基体として金属からなるものを用い、基体に近い内層ほど無機粒子の含有量を少なくする請求項に記載の無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子および酸化チタンを含有する無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタンは、幅広い用途に使用されている。例えば、細菌や有害化学物質を分解する光触媒作用により、抗菌材料として使用され、また、生体適合性により、生体用材料として使用されている。しかし、酸化チタンは、特に有機化合物との親和性が低い。従って、処理すべき細菌や有害化学物質を吸着できないことから、その抗菌作用を十分に発揮できない。また、骨などの生体組織との結合力も有さないことから、人工骨あるいは人工関節等として十分に機能できないことがある。
【0003】
一方、酸化チタン以外にも、各種無機物質からなる粒子(以下、無機粒子)は、それぞれ固有の特性に応じて、様々な用途に使用されている。例えば、アパタイトは、タンパク質の吸着能を有するため、細菌やウイルスなどを吸着することができる。しかし、アパタイトは、吸着した物質を分解することはできないため、吸着性能が飽和してしまう。
【0004】
従って、酸化チタンと他の無機粒子を組み合わせることにより、それぞれの利点を有する複合体が得られる可能性がある。例えば、酸化チタンとアパタイトを組み合わせることにより、アパタイトによって吸着された細菌などの有害化学物質を、酸化チタンの光触媒作用により分解させることができるため、酸化チタンの抗菌作用を十分に発揮させることができ、かつ、アパタイトへの有害化学物質の吸着性能が飽和せず、抗菌作用を持続させることが考えられる。
【0005】
しかし、酸化チタンと他の無機粒子との親和性が低い場合には、上記作用を十分に満足する複合体が得られないことがある。そこで、かかる複合体を得るための技術が、検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、酸化チタンとアパタイトを水熱反応によって複合化した酸化チタン・アパタイト複合体が開示されている。当該技術では、アパタイト、水溶性チタン化合物、および水を混合し、10~100℃で常圧条件下、100~300℃では飽和水蒸気圧下で水熱反応を行うことにより、酸化チタン微粒子をアパタイト粒子の表面に析出させて、酸化チタンとアパタイトの複合体を製造する方法が開示されている。しかし、当該特許文献1の実施例で製造しているのは、酸化チタンとアパタイトの複合体の粉体である。従って、かかる酸化チタンとアパタイトの複合体を基体表面に層として結合させる場合、接着剤が必要となり、かかる接着剤は、酸化チタンの光触媒作用により分解されるおそれがある。また、接着剤の種類によっては生体内で異物と認識されアレルギー反応を引き起こす、あるいは、接着剤が生体内に溶け出せば、生体内組織に損傷を生じさせるおそれがある。さらに、前記アパタイト、水溶性チタン化合物、および水の混合液を基体表面に塗布した後、加熱して水熱反応を行ったとしても、極めて薄い複合体層しか製造することができない。しかも、アパタイトを基体表面に強固に結合させるために十分な量の酸化チタンを結晶化することは、上記低温での加熱処理を行う水熱反応においては困難である。
【0007】
また、特許文献2には、アパタイト被覆二酸化チタンからなる光触媒を0.1~50重量%含むコーティング層が開示されている。当該技術では、酸化チタンからなる表面を持つ基材を、擬似体液に浸漬することによりアパタイト被覆二酸化チタンを作成し、かかるアパタイト被覆二酸化チタンとバインダとを用いてコーティング層としている。しかし、擬似体液に酸化チタンを浸漬する方法では、アパタイトを生成するのに時間がかかり過ぎること、酸化チタンを浸漬するための装置が煩雑になること、あるいは、生成するアパタイトの種類に応じて様々な反応条件を設定する必要がある、といった問題点が挙げられる。さらに、バインダを用いてコーティング層としているため、酸化チタンによるバインダの分解、あるいは、生体内に適用する際、生体に及ぼす悪影響が生じるおそれがある。
さらに、擬似体液を用いて酸化チタン表面にアパタイトを結合させる方法では、アパタイト層を厚くすることは困難である。
【0008】
ところで、特許文献3には、チタンアルコキシド、アルコール系有機溶媒、アミノアルコールおよび水を含有するチタンアルコキシド混合溶液を、加熱処理して得られるゲル状組成物である二酸化チタン前駆体の製造方法が開示されている。
【0009】
しかし、当該特許文献3には、酸化チタンと他の無機粒子との複合体に関しては、何ら開示されていない。

【特許文献1】特開2004-75445号公報
【特許文献2】特開2003-89587号公報
【特許文献3】特開2003-252626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の製造方法は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いることなく、無機粒子と酸化チタンとを強固に結合させて無機粒子・酸化チタン複合体を製造することができるとともに、かかる無機粒子・酸化チタン複合体からなる層を、基体表面に、同じく接着剤を用いることなく、層の厚みを大きく、強固に結合させて、かつ、簡便に製造することができる、無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、本発明に至った。
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明の無機粒子・酸化チタン複合体層の第1の製造方法は、基体表面に無機粒子・酸化チタン複合体層を形成する方法であって、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水を含有する混合物を、100℃~200℃の温度範囲で加熱することによって酸化チタン前駆体を作製する工程と、当該酸化チタン前駆体に無機粒子を添加し、当該酸化チタン前駆体と当該無機粒子とを混合することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程と、当該無機粒子・酸化チタン前駆体を基体表面に塗布し、300℃~600℃の温度範囲で焼成する工程とを含むことを特徴とする無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法である。
【0013】
また、本発明の無機粒子・酸化チタン複合体層の第2の製造方法は、基体表面に無機粒子・酸化チタン複合体層を形成する方法であって、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水を含有する混合物を、100℃~200℃の温度範囲で加熱することによって酸化チタン前駆体を作製する工程と、当該酸化チタン前駆体を基体表面に塗布する工程と、当該塗布された酸化チタン前駆体に、さらに無機粒子を添加することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程と、当該基体表面に塗布された無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を、300℃~600℃の温度範囲で焼成する工程とを含むことを特徴とする無機粒子・酸化チタン複合体層の製造方法である。
【0014】
上記酸化チタン前駆体を作製する工程において、チタンアルコキシド1molに対して、アルコール40~120mol、アミノアルコール1~20mol、水10~80molを用いることは、本発明の好ましい態様である。かかる組成で用いることにより、クリーム状の酸化チタン前駆体の粘度を適切なものとすることができ、当該前駆体に無機粒子を均質に分布することができ、また、当該前駆体を基体表面に対して十分な厚みで塗布することが可能となる。
【0015】
そして、上記基体として、金属材料からなるものを用いることが好ましい。かかる金属材料からなるものを用いることによって、本発明の製造方法における焼成温度で変質せず、当該金属材料からなるものの固有の特性に応じて、様々な用途に適用可能な無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することが可能となる。
【0016】
上記基体として、生体用埋め込み材料からなるものを用いることも、本発明の製造方法の好ましい態様である。かかる材料を用いることによって、生体内に悪影響を及ぼすおそれがある接着剤を使用することなく、生体内に親和性の高い無機粒子を基体に結合させることが可能となることから、生体親和性の高い無機粒子・酸化チタン複合体層が得られるからである。
【0017】
上記酸化チタンに対する上記無機粒子の含有量を、90質量%以下とすることも、本発明の製造方法の好ましい態様である。かかる含有量とすることによって、無機粒子・酸化チタン複合体層における無機粒子と酸化チタンとの結合力、および当該複合体層と基体表面との結合力をより高めることが可能となる。
【0018】
また、上記無機粒子として、アパタイトを用いることも、本発明の好ましい態様である。生体親和性の高いアパタイトを用いることによって、基体を生体内に安全に埋め込むことができ、かつ生体内にしっかりと固定することが可能な無機粒子・酸化チタン複合体層が得られるからである。
【0019】
酸化チタンに対する無機粒子の含有量が、互いに異なる無機粒子・酸化チタン複合体層を2層以上設け、多層構造とすることも、本発明の製造方法の好ましい態様である。かかる多層体構造とすることにより、本発明に用いる基体および無機粒子の性質、またはその組み合わせに応じた、所望の無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することが可能となる。
【0020】
前記多層構造の製造方法としては、基体として金属材料からなるものを用い、基体に近い内層ほど無機粒子の含有量を少なくすることも、本発明の製造方法の好ましい態様である。基体表面近くの層では結合力を有する酸化チタンが多くなるため、基体表面と複合体層との結合を強固なものとすることができ、同時に、外層では、固有の特性を有する無機粒子が多くなるため、当該無機粒子の作用効果をより発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明方法により、接着剤を使用することなく、無機粒子と酸化チタンとを強固に結合させて無機粒子・酸化チタン複合体を製造することができるとともに、かかる無機粒子・酸化チタン複合体からなる層を、基体表面に、同じく接着剤を用いることなく、層の厚みを大きく、強固に結合させて、かつ、簡便に製造することができる。
【0022】
この結果、酸化チタンおよび無機粒子のそれぞれの特性を、十分に発揮することができる。
【0023】
例えば、無機粒子としてアパタイトを用いた無機粒子・酸化チタン複合体層を、本発明の製造方法によって製造すれば、吸着性能と光酸化力により、汚染した空気や水などの浄化を、吸着性能が飽和することなく長期間行うことができる。この際、接着剤を使用することがないため、接着剤自身あるいは接着剤の分解物による環境汚染への影響はない。また、強固な厚い層を形成できるため、複合体層の亀裂あるいは剥がれといった劣化が生じ難く、複合体層の耐久性をさらに向上させることが可能となる。
【0024】
また、基体として、例えば、生体材料、特に人工骨、生態埋め込み医療機器、器具などを用いて、前記アパタイトを用いた無機粒子・酸化チタン複合体層を、本発明の製造方法によって製造すれば、当該基体を、生体材料として、安全に、かつ安定して生体内に埋め込むことができる。しかも、このような生体材料への適用に際し、接着剤を使用することがないため、生体内への悪影響を及ぼす危険因子を取り除くことが可能となる。また、強固な、厚い層を形成できるため、複合体層の亀裂あるいは剥がれが生じ難く、当該複合体層の破片による生体内への危険性を回避することが可能となる。さらに、前記複合体層は、例えば、基体として人工骨を使用すれば、アパタイトの生体親和性によって、生体細胞が人工骨内部にまで成長することができ、特にこのように、生体細胞と一体化する場合において、複合体層が強固であることは、より生体材料としての安全性が増し、医療技術の発展に大きく寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の無機粒子・酸化チタン複合体層の第1の製造方法は、基体表面に無機粒子・酸化チタン複合体層を形成する方法であって、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水を含有する混合物を、100℃~200℃の温度範囲で加熱することによって酸化チタン前駆体を作製する工程と、当該酸化チタン前駆体に無機粒子を添加し、当該酸化チタン前駆体と当該無機粒子とを混合することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程と、当該無機粒子・酸化チタン前駆体を基体表面に塗布し、300℃~600℃の温度範囲で焼成する工程とを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の第1の製造方法において、前記酸化チタン前駆体を作製する工程とは、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水とを用いて、以下に示す加水分解反応および重縮合反応を逐次的に行うことによって、クリーム状の酸化チタン前駆体を作製することに要旨を有するものである。
加水分解反応
~TiOR + H2O → ~ TiOH +ROH
重縮合反応
~TiOR + HOTi~ → ~TiOTi + ROH
~TiOH + HOTi~ → ~TiOTi + H2
【0027】
前記酸化チタン前駆体を作製する工程において、前記2つの反応は、チタンアルコキシドと水との反応によって生じるが、さらにアルコール、アミノアルコールを含有して当該4成分を含有する混合物とすることによって、室温付近での加水分解反応および重縮合反応の進行を抑制することができる。そして、前記混合物を加熱することによって、前記2つの反応を、一気に進行させることができる。このように、室温付近での前記反応を抑制し、加熱によって前記反応を一気に進行させることによって、適度な粘度を有するクリーム状の酸化チタン前駆体を作製することができる。酸化チタン前駆体をクリーム状とすることにより、無機粒子を当該前駆体表面に均質に分布させることが可能となり、また、当該前駆体を基体表面に塗布した後、焼成するまでの間、液垂れすることがないので、従来の方法と比較して、厚みの大きい無機粒子・酸化チタン複合体層を作製することが可能となる。
【0028】
前記チタンアルコキシドとしては、水に溶解し、上記加水分解反応および重縮合反応を受けて、本発明の製造方法における酸化チタン前駆体を作製することができるものを用いるのであれば、特に限定されない。このようなチタンアルコキシドとしては、一般式Ti(OR)n(OR:単一または異種のアルコキシル基、n=2、3または4)として表されるものを用いることができる。例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等を用いることができ、これらの少なくとも1つを単独で、または混合物として用いることができる。これらの中でも、比較的水に速やかに溶解し、経時的な粘性等の物理化学的変化が少ないことから、テトライソプロポキシドを用いることが好ましい。
【0029】
前記アルコールとしては、前記チタンアルコキシドを溶解するものであり、かつ、水と相溶するものであり、かつ、前記加熱処理温度より低い温度でのチタンアルコキシドの加水分解反応および重縮合反応の進行を抑制するものを用いるのであれば、特に限定されない。例えば、上記酸化チタン前駆体作製工程における加熱処理温度100℃~200℃の温度範囲付近に沸点を有するものが好ましい。前記加熱処理温度において、前記チタンアルコキシドの加水分解反応および重縮合反応を一気に進行させることができるからである。このようなアルコールとしては、例えば、1-ブタノール、1ペンタノール等のモノアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、ヘキサメチレンジオール等のジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール等を用いることができる。これらのなかでも、アルキレングリコールを用いることが好ましく、エチレングリコールを用いることがより好ましい。
【0030】
前記アミノアルコールとしては、前記チタンアルコキシドと反応して、アルコキシドの一部をトリエタノールアミン、アセチルアセトン、酢酸等で置換してチタンの金属錯体を形成することによって、前記加熱処理温度より低い温度での加水分解反応および重縮合反応の進行を抑制するものを用いるのであれば、特に限定されない。
【0031】
このようなアミノアルコールとしては、例えば、一般式(HOR2sN(R33-sで表されるものを用いることができる。ここで、R2はアルキレン基またはアリーレン基を表し、R3は水素、アルキル基またはアリール基を表し、sは1~3の整数を表す。
【0032】
前記R2のアルキレン基またはアリーレン基、および、前記R3のアルキル基またはアリール基は、特に限定されない。
【0033】
前記R2としては、例えば、混合液中での安定性に優れたチタンの金属錯体を生成し得るものが好ましく、このようなR2として、例えば、メチレン基、エチレン基、i-プロピレン基、n-プロピレン基、i-ブチレン基、n-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基等のアルキレン基、または、フェニレン基、ベンジレン基、ナフチレン基等のアリーレン基を用いることができる。さらに安定な金属錯体が生成し得るものであることから、前記R2としては、直鎖または分岐を有するアルキレン基を用いることがより好ましく、これらのなかでも、分岐を有するアルキレン基を用いることがさらに好ましい。
【0034】
このような、R2として分岐を有するアルキレン基を有するアミノアルコールとしては、例えば、ジアルカノールアミンまたはトリアルカノールアミンを用いることができ、かかるジアルカノールアミンまたはトリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等を用いることができ、これらのうち、少なくとも1つ以上を単独で、または混合して用いることができる。
【0035】
このようなアミノアルコールのうち、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンあるいはこれらの混合物を用いることが、特に好ましい。
【0036】
前記水は、チタンアルコキシドの加水分解反応および重縮合反応を誘起するものとして用いる。
【0037】
前記酸化チタン前駆体を作製する工程で用いる、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールの添加量としては、クリーム状の酸化チタン前駆体を作製することができる量を用いるのであれば、特に限定されない。
【0038】
例えば、前記チタンアルコキシド1molに対して、前記アルコールを、好ましくは40mol~120mol、より好ましくは60mol~100mol、さらに好ましくは65mol~85mol用いることができる。アルコールを40mol未満しか用いないと、チタンアルコキシドの加水分解反応が室温で進行してしまい、得られる酸化チタン前駆体の粘度が低く、クリーム状とならず、基体表面に十分な厚みで塗布することができなくなるおそれがあるからである。また、アルコールを120mol超用いると、加水分解反応が生じ難くなり、チタンとアルコールとの間で化合物を形成し、結晶が析出してしまうおそれがあるからである。
【0039】
また、例えば、チタンアルコキシド1molに対して、前記アミノアルコールを、好ましくは1mol~20mol、より好ましくは1.3mol~15mol、さらに好ましくは1.5mol~10mol用いることができる。アミノアルコールを1mol未満しか用いないと、加熱処理をしても液体のままで、クリーム状とはならないおそれがあるからであり、20mol超用いると、得られる酸化チタン前駆体の粘度が高すぎ、さらに当該粘度が高くなれば、固化してしまい、無機粒子との混合および基体表面へ塗布することができなくなるおそれがあるからである。
【0040】
そして、例えば、前記チタンアルコキシド1molに対して、前記水を、好ましくは10mol~80mol、より好ましくは15mol~60mol、さらに好ましくは20mol~50mol用いることができる。水を10mol未満しか用いないと、チタンアルコキシドの加水分解反応が十分に進行せず、得られた酸化チタン前駆体は、粘度が低いゾル状となり、クリーム状とすることができないおそれがあるからである。また、水を80mol超用いると、常温でも加水分解反応が進行し過ぎて、得られた酸化チタン前駆体の粘度が高くなり過ぎ、さらに当該粘度が高くなると、固化してしまうおそれがあるからである。
【0041】
前記チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコール、および水を含有する混合物を作製する方法は、当業者に公知な適当な方法を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、フラスコ、ビーカー等の適当な容器に、前記4成分を添加してスターラーで撹拌するといった方法で行うことができる。
【0042】
前記酸化チタン前駆体作製工程における加熱温度は、100℃~200℃とするものであり、好ましくは110℃~180℃であり、より好ましくは120℃~160℃とするものである。100℃以上とするのは、得られる酸化チタン前駆体の粘度を、塗布するのに十分な程度に上げるためであり、200℃以下とするのは、得られる酸化チタン前駆体の粘度が硬化し過ぎるのを防ぐためである。
【0043】
また、前記加熱処理は、当業者に公知な適当な加熱装置を用いて行うことができる。例えば、マントルヒーター、温浴装置などを用いて行うことができるが、特にこれらに限定されない。また、加熱に際して、ジムロート冷却管などの、当業者に公知な適当な冷却装置を用いて還流しながら前記加熱を行うこともできるが、特にこれに限定されない。
【0044】
前記酸化チタン前駆体の粘度は、クリーム状であり、基体表面に塗布することができるものであれば、特に限定されない。例えば、40センチポイズ~10ポイズとすることが好ましく、60センチポイズ~8ポイズがより好ましく、80センチポイズ~6ポイズがさらに好ましい。40センチポイズより小さいと、液垂れが生じ、取り扱い性に劣ることがあり、また、無機粒子・酸化チタン複合体層の厚みを十分なものとすることができない場合があるからである。また、10ポイズを超えると、粘度が高すぎて、無機粒子との混合が困難となり、また、塗布するのも困難となる場合があるからである。
【0045】
本発明の第1の製造方法において、前記無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程とは、前記クリーム状の酸化チタン前駆体に無機粒子を添加し、当該酸化チタン前駆体と当該無機粒子とを混合することに要旨を有するものである。
【0046】
本発明の第1の製造方法に用いる無機粒子としては、無機物質からなる固形物を用い、本発明の製造方法における無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製することができ、かつ、本発明の製造方法における焼成をすることができるものを用いるのであれば、特に限定されない。
【0047】
前記無機物質としては、例えば、単一原子からなるものを用いても、化合物を用いてもよく、これらの混合物であってもよく、特に限定されない。前記固形物としては、結晶体、非晶質体、あるいはこれらの混合物を含有するものを用いることができ、また、これらの少なくとも1つを含有する成形物を用いることができるが、特にこれらに限定されない。また前記固形物が結晶体である場合は、いかなる結晶形のものも用いることができる。そして、前記成形物の形状としては、粒状、塊状、板状、針状等を用いることができるが、特にこれらに限定されない。さらに、前記無機粒子は、用途に応じて、焼成の前後で物理化学的性質の変化しない無機粒子を用いることも、焼成によって所望の性質を有するような物理的あるいは化学的変化を生じる無機粒子を用いることもできる。
【0048】
このような無機粒子としては、例えば、アパタイト、硫化カドミウム、アルミナ等を用いることができる。これらの無機粒子のうち、アパタイトあるいは硫化カドミウムを用いることが好ましい。
【0049】
前記アパタイトを用いることによって、接着剤を有することなく基体表面に強固結合させることができるため、生体との親和性が高い無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することができるからである。このような前記アパタイトとしては、化学式AX(BOY)6CZ (O:酸素)で表される化合物であり、当該式において、Aは、Ca、Co、Ni、Cu、Al、La、Cr、Fe、Mgなどの各種原子を表し、Bは、P、Sなどの原子を表し、Cは、水酸基(-OH)、ハロゲン原子(例えば、Cl、F)などを表すものを用いることができる。このようなアパタイトとしては、例えば、フッ化アパタイト(FAP、六方晶、Ca10(PO462)、ハイドロオキシアパタイト(HAp;単斜晶、Ca10(PO46(OH)2;六方晶、Ca5(PO43(OH))、α-リン酸三カルシウム(α-TCP、単斜晶、Ca3(PO42)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP、三方晶、Ca3(PO42)、リン酸四カルシウム(TTCP、単斜晶、Ca4(PO42O)などを用いることができ、これらのアパタイトのなかでもハイドロオキシアパタイトが好ましい。
【0050】
また、上記無機粒子として、硫化カドミウムを用いることも好ましいのは、以下の理由による。無機粒子として硫化カドミウムを用いた無機粒子・酸化チタン複合体層を、本発明の製造方法によって製造すれば、硫化カドミウムの可視光吸収能と酸化チタンの紫外線吸収能を有することができる。かかる可視~紫外線領域における幅広い光線吸収能により、従来、可視光吸収能を有するのみであるため、太陽電池として使用することが困難であった硫化カドミウムを、太陽電池として応用するという新たな途が開け、今後の技術開発に大きく寄与することが可能となる。この際、前記複合体層は、接着剤を必要としないため、光線吸収の妨げとなり得るものを添加する必要がなく、応用性を極めて高くすることが可能となる。
【0051】
上記無機粒子のうち、アパタイトを用いることがより好ましい。
【0052】
本発明の第1の製造方法において、酸化チタンに対する無機粒子の含有量は、本発明の製造方法を実施することができる量であれば、特に限定されないが、90質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましく、30質量%以下とすることがさらに好ましい。90質量%以下とすることにより、無機粒子・酸化チタン複合体層において、酸化チタンとアパタイトの結合をより強固なものとすることができ、また、当該複合体層と基体表面の結合もより強固なものとすることができ、当該複合体層の剥がれ、あるいは亀裂を生じ難くすることができるからである。
【0053】
また、本発明の第1の製造方法において、前記無機粒子・酸化チタン複合体前駆体の作製工程における、酸化チタン前駆体と無機粒子とを混合する方法は、前記酸化チタン前駆体と無機粒子とを混合させる方法であれば、特に限定されない。
【0054】
かかる混合方法として、例えば、例えば、クリーム状の酸化チタン前駆体に無機粒子を添加し、めのう乳鉢、混合機、超音波分散機等を使用して混合するといった、当業者に公知な適当な混合方法を用いることができる。前記方法において、例えば、クリーム状の酸化チタン前駆体を、当業者に公知な適当な溶媒で解膠した後、前記混合を行うこともできる。前記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、アセトン等を用いることができるが、特にこれらに限定されない。
【0055】
本発明の第1の製造方法は、前記クリーム状の無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を、基体表面に塗布して焼成することにより、前記酸化チタン前駆体から酸化チタンが結晶化する際、無機粒子と酸化チタンとが強固に結合して複合体層を形成し、かつ、当該複合体層を、十分な厚みを有しつつ、基体表面に強固に接着することができるところに要旨を有する。
【0056】
本発明の第1の製造方法に用いる基体としては、本発明の第1の製造方法における無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を塗布することができ、かつ、本発明の第1の製造方法における焼成をすることができ、かつ、表面に前記複合体層を作製することができるものを用いるのであれば、特に限定されない。前記基体としては、様々な用途を有し、本発明の製造方法における焼成を行っても変質し難いという観点から、例えば、金属材料からなるものを用いることが好ましい。このような金属材料からなるものとしては、例えば、金属、ガラス、セラミックス、コンクリート等の少なくとも1つを、単独で、あるいは混合して用いることができる。前記金属材料からなるものの形状としては、特に限定されないが、例えば、粒状、板状、塊状といった形状のものを用いることができる。
【0057】
また、前記金属材料からなるものとしては、生体用埋め込み材料からなるものを用いることがより好ましい。前記生体埋め込み材料からなるものの表面に、接着剤を使用することなく無機粒子を結合させることができるため、例えば、無機粒子として生体親和性の強いものを使用すれば、当該生体埋め込み材料を埋め込む際、安全に、かつ安定して生体内に固定することができるからである。このような生体埋め込み材料としては、特に限定されないが、例えば、チタン合金、あるいはその他合金からなる人工骨、人工関節等を用いることができる。
【0058】
本発明の第1の製造方法における無機粒子・酸化チタン前駆体を基体表面に塗布するとは、前記複合体前駆体と基体表面とを焼成するために接触させることに要旨を有するものである。
【0059】
前記塗布する方法としては、当業者に公知な適当な方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、スパチュラ、刷毛、ローラー等を用いて行うことができ、また、例えば、スクリーン印刷によって塗布することができる。これらの方法のうち、スクリーン印刷で行う方法が好ましい。当該スクリーン印刷を用いることによって、1回の塗布によって数μm程度の厚みを有する均一な無機粒子・酸化チタン複合体層前駆体を塗布することができるからである。
【0060】
前記塗布する厚みは、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好まくは0.1mm以上、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、さらに好まくは1mm以下とすることが望ましい。0.01mm未満では、無機粒子・酸化チタン複合体前駆体が薄すぎて、十分に層を成形できない場合があるからであり、1mm超では、無機粒子・酸化チタン複合体前駆体が厚すぎて、十分に酸化チタンの結晶化をすることができない場合があるからである。
【0061】
そして、本発明の第1の製造方法における、前記焼成温度は、前記酸化チタンの結晶化を十分に促進し、当該酸化チタンと無機粒子とを強固に結合して無機粒子・酸化チタン複合体層とし、当該複合体層と基体表面とを強固に結合するため、300℃~600℃とするものであり、好ましくは400℃~580℃であり、より好ましくは450℃~560℃とする。300℃以上とするのは、酸化チタンの結晶化を十分に促進し、無機粒子・酸化チタン複合体層において、当該酸化チタンと無機粒子とを強固に結合し、および、当該複合体層と基体表面とを強固に結合するためである。600℃以下とするのは、当該複合体層の剥がれや亀裂を防ぐためであり、また、焼成温度をできる限り低温とすることによって、無機粒子および基体の選択の余地を広げるためである。また、前記焼成温度は、当該焼成の際、無機粒子・酸化チタン複合体層の亀裂、あるいは剥がれをより防ぐため、300℃~400℃の温度で予備焼成してから、さらに温度を上げて焼成することもできるが、特にこれに限定されない。
【0062】
また、前記焼成は、当業者に公知な適当な加熱装置を用いて行うことができる。例えば、高温電気炉などを用いて行うことができるが、特にこれに限定されない。
【0063】
前記焼成によって製造される無機粒子・酸化チタン複合体層は、当該複合体層において、無機粒子と酸化チタンとを強固に結合し、かつ当該複合体層が、基体表面に強固に結合するものであれば、特に限定されない。
【0064】
例えば、前記焼成によって製造される無機粒子・酸化チタン複合体層は、当該製造に用いる無機粒子が、当該焼成後において、固有の作用を残存する場合であっても、新たな作用を生じる場合であっても良いが、固有の作用を残存することが好ましい。前記複合体層において、前記無機粒子の有する予め所望された固有の作用を、十分に発揮することができるからである。前記製造後も、無機粒子が固有の作用を有していることは、例えば、前記複合体層のX線回折における検出ピークによって確認することができるが、特にこれに限定されない。
【0065】
また、前記焼成によって製造される無機粒子・酸化チタン複合体層は、結晶化して得られる酸化チタンが、無機粒子との結合および基体との結合を十分に行うものとなるのであれば、当該酸化チタンの結晶形は、特に限定されない。前記酸化チタンの結晶形としては、ルチル型、アナターゼ型およびブルッカイト型が知られているが、これらの中でも、アナターゼ型に結晶化することが好ましい。アナターゼ型に結晶化することにより、酸化チタンが光触媒作用を有するため、光触媒作用を有する無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することができるからである。前記製造後の、酸化チタンの結晶形は、例えば、前記複合体層のX線回折における検出ピークによって確認することができるが、特にこれに限定されない。
【0066】
本発明の無機粒子・酸化チタン複合体層の第2の製造方法は、基体表面に無機粒子・酸化チタン複合体層を形成する方法であって、チタンアルコキシド、アルコール、アミノアルコールおよび水を含有する混合物を、100℃~200℃の温度範囲で加熱することによって酸化チタン前駆体を作製する工程と、当該酸化チタン前駆体を基体表面に塗布する工程と、当該塗布された酸化チタン前駆体に、さらに無機粒子を添加することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程と、当該基体表面に塗布された無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を、300℃~600℃の温度範囲で焼成する工程とを含むことを特徴とする。
【0067】
本発明の無機粒子・酸化チタン複合体層の第2の製造方法において、前記酸化チタン前駆体を作製する工程とは、上記本発明の第1の製造方法における酸化チタン前駆体を作製する工程と同一の工程である。従って、例えば、上記本発明の第1の製造方法における酸化チタン前駆体を作製する工程において用いる方法と同様の方法を用いることができる。
【0068】
本発明の第2の製造方法において、前記酸化チタン前駆体を基体表面に塗布する工程とは、酸化チタン前駆体を基体表面に接触させることに要旨を有する。かかる塗布方法は、特に限定されないが、例えば、上記本発明の第1の製造方法における無機粒子・酸化チタン前駆体を基体表面に塗布する方法において、「無機粒子・酸化チタン複合体前駆体」を「酸化チタン前駆体」と読み替えた方法と同様の方法を用いることができる。また、本発明の第2の製造方法に用いる基体としては、特に限定されないが、例えば、上記本発明の第1の製造方法に用いる基体と同様の基体を用いることができる。
【0069】
本発明の第2の方法において、前記塗布された酸化チタン前駆体に、さらに無機粒子を添加することによって無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作製する工程とは、当該基体表面に塗布された酸化チタン前駆体に、無機粒子を接触させることによって、焼成を施すための無機粒子・酸化チタン複合体前駆体を作成することに要旨を有する。このような無機粒子を添加する方法は、特に限定されないが、例えば、基体表面に塗布されたクリーム状の酸化チタン前駆体の上から、無機粒子を、当業者に公知な適当な方法を用いて振り掛けるといった方法を用いることができる。前記振り掛ける方法としては、篩、噴霧機等を用いる方法を用いることもできるが、特にこれらに限定されない。本発明の第2の製造方法に用いる無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、上記本発明の第1の製造方法に用いる無機粒子と同様のものを、上記本発明の第1の製造方法において用いる含有量と同様の含有量で用いることができる。
【0070】
本発明の第2の製造方法における焼成とは、上記本発明の第1の製造方法における焼成と同一の方法である。従って、例えば、上記本発明の第1の製造方法における焼成と同様の方法を用いることができる。
【0071】
本発明の第1および第2の製造方法によって製造される無機粒子・酸化チタン複合体層の厚みは、本発明の製造方法による作用および効果を十分に発揮するものであれば、特に限定されない。例えば、前記複合体層の厚みは、1回の塗布に対して、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好まくは0.1μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好まくは10μm以下とすることが望ましい。0.01μm未満では、無機粒子・酸化チタン複合体層が薄すぎて、作用効果を十分に発揮できない場合があるからであり、50μm超では、前記複合体層が、曲面の多い基体に十分に結合することができない場合があるからである。
【0072】
本発明の第1および第2の製造方法において、酸化チタンに対する無機粒子の含有量が、互いに異なる無機粒子・酸化チタン複合体層を2層以上設け、多層構造とすることも、本発明の好ましい態様である。このような多層構造とすることによって、前記複合体層において、基体表面と接触する内層側と、当該基体表面とは反対側の外層側とで、異なる無機粒子の組成とすることができ、当該無機粒子および基体の種類に応じて、無機粒子と酸化チタンの含有量を様々に調整することができるからであり、この結果、より所望の無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することができる。従って、このようにして製造された無機粒子・酸化チタン複合体層は、無機粒子および基体の種類に応じて、様々な無機粒子と酸化チタンの含有量を有することができるため、無機粒子および基体の種類に応じた、所望の作用を有効に得ることが可能である。
【0073】
前記多層構造の製造方法としては、例えば、基体として金属材料からなるものを用い、基体に近い内層ほど無機粒子の含有量を少なくすることが好ましい。金属材料からなるものとしては、上記と同様のものを用いることができる。そして、前記基体表面に近い内層側で無機粒子が少ない場合、すなわち、酸化チタンが多い場合には、前記複合体層と当該基体表面との結合力を高くすることができ、一方、外層側では、当該無機粒子の含有量が高くなるため、当該無機粒子の特性を十分に発揮することができる。
【0074】
前記多層構造の製造方法として、例えば、基体として上記生体埋め込み材料からなるものを用い、無機粒子として上記アパタイトを用いることは、本発明の製造方法における実施態様として好適である。かかる生体埋め込み材料からなるものとアパタイトを用いて、本発明の製造方法により無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することによって、得られた無機粒子・酸化チタン複合体層は、基体表面に近い内層側で酸化チタンが多いため、当該生体埋め込み材料からなるものと当該複合体層との結合力が強く、かつ、外層側では、アパタイトが多いため、アパタイトの作用を十分に発揮することができる。従って、生体埋め込み材料からなるものと一体化した前記複合体層は、前記アパタイトの作用により、生体埋め込み材料の内部まで、生体細胞が成長することができ、生体親和性を極めて高くすることが可能となる。
【0075】
また、本発明の第1および第2の製造方法において、本発明の製造方法を満足するものであれば、いかなる工程を加えてもよく、あるいはいかなる添加物を用いてもよく、特に限定されない。例えば、本発明の製造方法における、酸化チタン前駆体の作製工程において、Ti以外の遷移金属のイオンを添加することができる。かかる工程中に、前記金属イオンを添加することにより、得られる酸化チタン前駆体の粘度をさらに安定なものとし、また、本発明で得られた無機粒子・酸化チタン複合体層の、光触媒活性を高めることができる。このような金属イオンとしては、Cu2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Zn2+等を用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明の製造方法を説明するが、本発明の製造方法はこれらにより限定されるものではない。
【0077】
製造例
以下の原材料を使用し、製造例1~21の試料を製造した。製造例1~21の主な製造条件を表1に示す。
【0078】
使用原材料
チタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製 試薬第一級)
エチレングリコール(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)
トリエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)
アセトン(和光純薬株式会社製 試薬特級)
アルミナ(和光純薬工業株式会社 試薬特級)
硫化カドミウム(和光純薬工業株式会社 化学用)
アパタイト結晶粒子:水熱法により合成した針状ハイドロオキシアパタイト
Ca5(PO4)3(OH):
六方晶 a=9.418A、c=6.884A
基体:ステンレス板 10mm×10mm×10mm
(久宝金属製作所製、SUS430)
ホウ珪酸ガラス板 10mm×10mm×2mm
(岩城硝子社製)
【0079】
【表1】
JP0004815583B2_000002t.gif
HAp:ハイドロオキシアパタイト
CdS:硫化カドミウム。
【0080】
酸化チタン前駆体の作製法
フラスコ中にエチレングリコール45mLおよびトリエタノールアミン5mLを加え、さらにチタンテトライソプロポキシド2.94mLを加え、スターラーで撹拌しながら溶解する。この溶液に純水5mLを加えてジムロート冷却管を装着後、スターラーで撹拌しながら、マントルヒーター(株式会社東京後術研究所製)を用い、2時間かけて内容物が130℃になるまで加熱する。前記温度を130℃に保持したまま2時間30分間加熱後、室温になるまで放冷する。冷却された内容物を、遠心分離器(久保田製作所製、2420)を用いて12000rpm、5分間遠心分離した後、アセトン10mLを加えて撹拌し、再度前記条件で遠心分離することによりアセトン洗浄を行い、酸化チタン前駆体を得た。
【0081】
製造例1~3
表1の組成比に従い、上記のように作製した酸化チタン前駆体に、アパタイト結晶粒子をそれぞれ添加した後、めのう乳鉢で混合し、アパタイト結晶粒子と酸化チタン前駆体との混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス板表面に、スパチュラを用いて厚み0.5mm~1mmとなるようにそれぞれ塗布した後、高温電気炉(アドバンテック社製、KM-100)を用いて、550℃、5時間焼成して、製造例1~3の試料を得た。
【0082】
製造例4~6
表1の組成比に従い、基体としてホウ珪酸ガラス板を用いた以外は製造例1~3と同様にして、製造例4~6の試料を得た。
【0083】
製造例7
表1の組成比に従い、ステンレス板表面に、上記のように作製した酸化チタン前駆体のみを、スパチュラを用いて厚み0.5mm~1mmとなるように塗布した。かかる塗布表面に、メッシュ篩(飯田製作所製、400メッシュ)を用いてアパタイト結晶粒子を振り掛けた後、高温電気炉(アドバンテック社製、KM-100)を用いて、550℃、5時間焼成して、製造例7の試料を得た。
【0084】
製造例8~13
表1の組成比に従い、上記のように作製した酸化チタン前駆体をアセトンに分散後、さらにアパタイト結晶粒子をそれぞれ添加し、超音波分散機(石崎電気製作所製)を用いて10分間分散してアパタイト結晶粒子と酸化チタン前駆体との混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス板およびホウ珪酸ガラス板表面に、製造例1~3と同様に塗布および焼成して、製造例8~13の試料を得た。
【0085】
製造例14~19
表1の組成比に従い、上記のように作製した酸化チタン前駆体に、市販のアルミナ(結晶粒子)をそれぞれ添加した後、めのう乳鉢で混合し、アルミナ結晶粒子と酸化チタン前駆体との混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス板およびホウ珪酸ガラス板表面に、製造例1~3と同様に塗布および加熱処理して、製造例14~19の試料を得た。
【0086】
製造例20、21
表1の組成比に従い、上記のように作製した酸化チタン前駆体に、市販の硫化カドミウム(結晶粒子)を、それぞれ添加した後、めのう乳鉢で混合し、硫化カドミウム結晶粒子と酸化チタン前駆体との混合物を得た。得られた混合物を、ホウ珪酸ガラス板表面に、製造例1~3と同様に塗布および焼成して、製造例20および21の試料を得た。
【0087】
試験例
評価方法
SEM観察:SEM(走査型電子顕微鏡)(日立電気製、日立S-530)を用いて、倍率4000倍で観察した。
光学顕微鏡観察:デジタルマイクロスコープ(光学反射顕微鏡)(オリンパス製、MIC-D)を用いて、倍率138倍で観察した。
粉末X線回折:XRD(粉末X線回折装置)(理学電気製、RINT2000)を用いて、測定した。
接着性試験:試料に対して、市販の歯ブラシで約10秒間ブラッシングを行い、基体からの試料の剥がれの有無を確認した。
【0088】
表面観察
肉眼観察
製造例1~21の試料を肉眼で観察した結果、試料の裂けあるいは剥がれは観察されなかった。
【0089】
光学反射顕微鏡観察
製造例1~3および7で得られた試料について、光学反射顕微鏡観察を行った。この結果を図1~3および4に示す。
【0090】
図1~3より、アパタイト粒子は、薄膜表面に、均一に分散していることがわかった。めのう乳鉢でも、アパタイト結晶粒子は薄膜中に十分に分布することがわかった。また、図4より、アパタイト結晶粒子を表面に振り掛けた場合では、酸化チタンの表面にアパタイト結晶粒子が完全に露出した状態で、しっかりと結合していることがわかった。
【0091】
SEM観察
製造例1~3で得られた試料について、SEM観察を行った。この結果を図5~7に示す。
【0092】
図5~7より、アパタイト粒子量が減少するほど、表面の凸凹が減少し、平坦な表面となった。
【0093】
接着性試験
製造例1~21で得られた試料について、接着性試験を行ったところ、いずれの試料においても試料の剥がれは認められず、十分な接着性を有していたことがわかった。
【0094】
結晶性
製造例4、20および21の試料のXRD結果を図8、9および10に示す。
【0095】
図8より、無機粒子としてアパタイト結晶粒子を用いた場合、550℃の焼成を施しても、ハイドロオキシアパタイト(HAp)のピークが観察され、結晶性に変化がなく、酸化等されることはなかった。
【0096】
図9および10より、無機粒子として硫化カドミウム(CdS)を用いた場合、500℃の焼成を施すと、焼成時間が5時間ではチタン酸化カドミウム(CdTiO3)が生成し、5分間では、硫化カドミウムが残存することがわかった。
【0097】
以上の結果、本発明の製造方法により、無機粒子・酸化チタン複合体層を製造することによって、接着剤を用いることなく、無機粒子と酸化チタンとを強固に結合させて無機粒子・酸化チタン複合体を製造することができるとともに、かかる無機粒子・酸化チタン複合体からなる層を、基体表面に、同じく接着剤を用いることなく、均質に無機粒子が分布した状態で、層の厚みを大きく、強固に結合させて、かつ、簡便に製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】製造例1の無機粒子・酸化チタン薄膜の光学反射顕微鏡写真(138倍)。
【図2】製造例2の無機粒子・酸化チタン薄膜の光学反射顕微鏡写真(138倍)。
【図3】製造例3の無機粒子・酸化チタン薄膜の光学反射顕微鏡写真(138倍)。
【図4】製造例7の無機粒子・酸化チタン薄膜の光学反射顕微鏡写真(138倍)。
【図5】製造例1の無機粒子・酸化チタン薄膜のSEM写真(4000倍)。
【図6】製造例2の無機粒子・酸化チタン薄膜のSEM写真(4000倍)。
【図7】製造例3の無機粒子・酸化チタン薄膜のSEM写真(4000倍)。
【図8】製造例4の無機粒子・酸化チタン薄膜の粉末X線回折図。
【図9】製造例20の無機粒子・酸化チタン薄膜の粉末X線回折図。
【図10】製造例21の無機粒子・酸化チタン薄膜の粉末X線回折図。
図面
【図8】
0
【図9】
1
【図10】
2
【図1】
3
【図2】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9