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明細書 :出力制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4774512号 (P4774512)
公開番号 特開2007-067780 (P2007-067780A)
登録日 平成23年7月8日(2011.7.8)
発行日 平成23年9月14日(2011.9.14)
公開日 平成19年3月15日(2007.3.15)
発明の名称または考案の名称 出力制御装置
国際特許分類 H04R  25/00        (2006.01)
FI H04R 25/00 L
H04R 25/00 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2005-250666 (P2005-250666)
出願日 平成17年8月31日(2005.8.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年3月8日 社団法人日本音響学会発行の「日本音響学会2005年春季研究発表会 講演論文集-1-」に発表
審査請求日 平成20年8月14日(2008.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】宇佐川 毅
【氏名】▲苣▼木 禎史
【氏名】松尾 浩太郎
【氏名】中島 栄俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100098785、【弁理士】、【氏名又は名称】藤島 洋一郎
【識別番号】100109656、【弁理士】、【氏名又は名称】三反崎 泰司
審査官 【審査官】鈴木 圭一郎
参考文献・文献 特開平05-199590(JP,A)
特開平10-313498(JP,A)
特開平06-327088(JP,A)
特開昭63-135100(JP,A)
特表平08-510565(JP,A)
特開2005-268964(JP,A)
特開2004-325284(JP,A)
調査した分野 H04R 25/00
H04R 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
信号を検出する少なくとも2つの信号検出装置と、これらの信号検出装置により検出された信号を出力する信号出力装置とを備えたシステムの、前記信号出力装置での出力制御を行う出力制御装置であって、
前記2つの信号検出装置で検出された信号についての周波数成分ごとのレベル差分を算出する差分算出手段と、
前記2つの信号検出装置において異常な信号が検出されていない状態で検出された2つの正常な信号についての周波数成分ごとの複数の被験者によって検出された音波のレベル差分の絶対値の最大値を判定基準情報として格納する判定基準情報記憶手段と、
前記差分算出手段において算出されたレベル差分を前記判定基準情報と比較する差分比較手段と、
前記差分比較手段での比較結果に基づいて前記信号検出装置において異常な信号が取り込まれているか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段の判定結果に基づいて前記信号出力装置に対しての出力制御を行う出力制御手段と
を備えたことを特徴とする出力制御装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、異常な信号の取り込みが発生しているときにその周波数成分を特定する機能を有し、
前記出力制御手段は、前記異常判定手段により特定された周波数成分を抑圧するよう出力制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の出力制御装置。
【請求項3】
前記出力制御手段は、特定された周波数成分に対して所定の重み付け関数によって得られる係数を乗ずる重み付けを行って出力制御を行う
ことを特徴とする請求項に記載の出力制御装置。
【請求項4】
前記信号検出装置が音波を検出するマイクロホン、前記信号出力装置がスピーカまたはイヤホンである
ことを特徴とする請求項1ないしのうちいずれか1つの項に記載の出力制御装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば両耳補聴システムのような信号検出装置と信号出力装置とが近接したシステムに適用されることにより、異常な信号の発生を抑圧するための出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音波、機械振動、電磁波などの各種信号を取り扱う信号検出装置と信号出力装置とが近接して用いられると、それらの装置間に信号の回り込みが生じることがあり、それに起因して、所謂ハウリングなどのような異常なエネルギー発散が発生してしまうことがある。
【0003】
このような異常なエネルギー発散が生ずると、人体や物体に対して有害な影響を与えることがある。ハウリングをその典型的な一例とすると、このハウリングは基本的に可聴周波数帯域での音波エネルギーの異常発散であり、無意味なばかりか、比較的高音域等で発生しやすいことなどから、難聴やその他の聴覚障害等の要因とさえなり得る。また、ハウリングの頻繁な発生は、それを聴く人に神経的に多大なストレスを与えることが知られている。
【0004】
このようなハウリングの発生を防ぐために、従来では、信号や信号の伝達経路を予め推定しておき、それに基づいて、その回り込みによって生じ得る特定の周波数成分のみの抑圧を行う提案がなされている(特許文献1参照)。

【特許文献1】特開2004-297304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のハウリングのような異常信号は、単一の周波数付近のみで発生しているのではなく、異なった複数の周波数で同時に発生している場合が多い。このため、上記のような従来の技術では、ハウリングを十分効果的に抑圧することが困難あるいは不可能であった。また、異常信号となる周波数帯域は、必ずしも恒常的に一定ではなく、その時々で異なったものとなることも多いので、上記の従来の技術のように単一の周波数のみを想定していたのでは、的確な抑圧効果が得られない、という問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、異なった複数の周波数で同時に発生するハウリングのような異常なエネルギー発散を十分効果的に抑圧することのできる出力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の出力制御装置は、信号を検出する少なくとも2つの信号検出装置と、これらの信号検出装置により検出された信号を出力する信号出力装置とを備えたシステムにおいて、信号出力装置での出力制御を行うものであり、以下の要素を備えることにより異常信号の発生を効果的に抑圧する。
【0008】
(1)2つの信号検出装置で検出された信号についての周波数成分ごとのレベル差分を算出する差分算出手段
(2)2つの信号検出装置において異常な信号が検出されていない状態で検出された2つの正常な信号についての周波数成分ごとの複数の被験者によって検出された音波のレベル差分の絶対値の最大値を判定基準情報として格納する判定基準情報記憶手段
(3)差分算出手段において算出されたレベル差分を判定基準情報と比較する差分比較手段
(4)差分比較手段での比較結果に基づいて信号検出装置において異常な信号が取り込まれているか否かを判定する異常判定手段
(5)異常判定手段の判定結果に基づいて信号出力装置に対しての制御を行う出力制御手段

【0009】
この出力制御装置では、2つの信号検出装置で検出される音波などの信号についてのレベル差分が算出される。そしてその差分値が予め求めておいた判定基準情報と比較され、その比較結果に基づいて、異常な信号の取り込みの有無が判定され、その結果に基づいて信号出力装置での出力制御がなされる。
【0010】
より具体的には、異常判定手段に、異常な信号の取り込みが発生しているときにその周波数成分を特定する機能を持たせると共に、出力制御手段において、異常判定手段により特定された周波数成分を抑圧するよう出力制御を行う。また、異常判定手段では、異常な信号の周波数成分の特定を、複数の周波数成分について一度に行う機能を有するものとする。
【0011】
また、出力制御手段での出力制御は、特定された周波数成分に対して所定の重み付け関数(例えば、余弦関数)によって得られる係数を乗ずる重み付けを行うようにすることが望ましい。
【0012】
なお、本発明の出力制御装置は、例えばイヤホンとマイクロホンとを左右両耳にそれぞれ一組ずつ当てがうように、一つのヘッドセットとして備えた、補聴器などに好適に用いることができる。すなわち、信号検出装置として音波信号を検出するマイクロホン、信号出力装置としてスピーカまたはイヤホンを用いるものである。その場合には、ヘッドセットを装着した複数の被験者により異常な信号の取り込みが発生していない状態での実験を行い、このとき取り込まれた2つの信号についてのレベル差分の絶対値の最大値を、判定基準情報として用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の出力制御装置によれば、2つの信号検出装置で検出される信号についてのレベル差分を算出し、その差分値と予め求めた判定基準情報とを比較し、その比較結果に基づいて、異常な信号の取り込みの有無を判定し、その結果に基づいて信号出力装置での出力制御を行うようにしたので、例えばイヤホンとマイクロホンとを備えた音響システムにおけるハウリングのような異常なエネルギーの発散を十分効果的に抑圧することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係る出力制御装置を適用した両耳補聴システムのブロック構成を表したものであり、図2はこのシステムの使用時の状態を表したものである。両耳補聴システムは、いわゆる耳掛式のヘッドセット100を有し、左のイヤホン101aおよび右のイヤホン101b(信号出力装置)の近傍にマイクロホン102a,102b(信号検出装置)を各々取り付けたものである。本実施の形態では、これらイヤホン101a,101bとマイクロホン102a,102bとの間に出力制御装置10が設けられている。
【0016】
両耳補聴システムは、空間分解能を持ち、音源の方向を推定し、特定方向の音源のみを強調する動作特性を有しているが、イヤホン101aとマイクロホン102a、イヤホン101bとマイクロホン102bとの間がそれぞれ近いことから、音波エネルギーの異常発散であるハウリングが発生する場合がある。出力制御装置1は、両耳間レベル差を用いたハウリングキャンセルを行うことにより、このようなハウリングを十分効果的に抑圧するものである。
【0017】
出力制御装置10は、差分算出部11、判定基準情報記憶部12、差分比較部13、異常判定部14および出力制御部15を備えている。
【0018】
このうち差分算出部11は、左・右のマイクロホン102a,102b同士で取り込まれる音波信号について、その位相の差分およびレベル差分をそれぞれ算出するものである。また、判定基準情報記憶部12には、正常な音波信号の取り込みがある状態において得られた2つの信号の、位相の差分およびレベル差分がそれぞれ判定基準情報として予め格納されている。ここで、判定基準情報のうちのレベル差分が、本実施の形態における出力制御のための情報として用いられ、位相の差分は、レベル差と共に音源方向の推定,分離のために用いられる。
具体的には、多数(例えば96名)の被験者にヘッドセット100を装着させて、ハウリングが発生していない状態で、左・右のマイクロホン102a,102bから取り込まれた2つの音波信号の位相の差分およびレベル差分を求める。なお、96名のような多数の被験者によるデータを得るのは、異なったユーザに対しても正確な判定基準を提供することを可能とするためであり、ここでは周波数ごとのレベル差分の絶対値の最大値が判定基準情報となる。
【0019】
差分比較部13では、差分算出部11において算出されたレベル差分が、判定基準情報記憶部12に記憶されている判定基準情報と比較される。異常判定部14は、この差分比較部13での比較結果に基づいて、マイクロホン102a,102bから異常な信号が取り込まれたか否かを判定し、その異常信号の周波数を特定する。すなわち、差分算出部11において算出されたレベル差分が、判定基準情報よりも大きい場合には、異常な信号が取り込まれたと判定する。また、この異常判定部14は、異常な音波信号の周波数成分が複数存在する場合には、それらを一度に特定する機能を備えている。
【0020】
出力制御部15は、異常判定部14で異常と特定された周波数成分に対して重み付けを行うことにより異常な出力を抑制するものである。
【0021】
次に、この両耳補聴システムにおける出力制御装置10の具体的な作用について説明する。
【0022】
まず、予め、ヘッドセット100を装着しての実験および高速フーリエ変換を用いた計算によって、両耳の観測信号の周波数成分ごとに、両耳間位相差(IPD)θmap (k,φ,ψ)と両耳間レベル差(ILD)ζmap (k,φ,ψ)とを求める。ここで、kは周波数インデックス、φは方位角,ψは仰角を、それぞれ表している。
【0023】
判定情報記憶部12に格納されるデータベース(判定基準情報)は、多数(例えば96名)の被験者について、上記のように求めた周波数成分ごとの両耳間レベル差の絶対値の最大値ζmax (k)を求めたデータの集積である。これは両耳間に生じ得る最大のレベル差を表している情報と見做すことができる。図3は、このようなデータベースの情報内容の一例をグラフで示したものである。
【0024】
差分算出部11では、左・右のマイクロホン102a,102で検出された音波信号(観測信号)から周波数成分ごとの両耳間位相差、両耳間レベル差を算出する。そして、差分比較部13では、これら算出された両耳間位相差、両耳間レベル差と、判定情報記憶部12に格納された各判定基準情報とを比較し、その差を用いることにより、周波数成分毎の音源方向推定情報を得る。
【0025】
異常判定部14は、差分比較部13での比較結果に基づいて異常の発生の有無を判定する。すなわち、取り込まれた信号の各周波数成分のレベル差分ζin(k)が判定基準情報のζmax (k)を超えている場合には、正常時では両耳間に生じ得ない程度のレベル差(すなわちハウリング)が発生しているものと判定する。
【0026】
異常判定部14によりハウリングが生じていると判定されると、出力制御部15はハウリング防止フィルタH(k)15Aを機能させてハウリング抑圧を実行する。このハウリング防止フィルタH(k)15Aは、任意の時刻ごとにそのとき発生しているハウリングの周波数成分に対応して、出力制御部15によってソフトウェア的に生成される。より具体的には、例えば、図4に模式的に示したように、ハウリングが発生している周波数成分付近のスペクトルを、重み付け関数(例えば、半波長の余弦関数)で得られた係数を乗ずることにより減衰させるものである。ここで、減衰させる周波数インデックスの幅をkwid ,減衰係数をγとすると、ハウリング防止フィルタ15Aは次式に示したように定義される。ここに、mは、-kwid /2≦m≦kwid /2の範囲内の整数である。
【数1】
JP0004774512B2_000002t.gif
この重み付けを異常と判定された周波数成分に対して施す。
【0027】
なお、音源の分離は、差分比較部13で得られた音源方向推定情報に基づいて行われる。目的音源方向から到来したと推定されたスペクトル成分を抽出するフィルタとハウリング防止フィルタとを機能させ、これを逆高速フーリエ変換処理することで、強調信号を得る。なお、分離信号間両耳間情報であるIPD,ILDは保持され、処理が行われた音声には定位情報が含まれたままとなる。
【0028】
以上のようなハウリング防止の効果を確認するために、図5に示したような帰還モデルを作成し、計算的シミュレーションを行った。
【0029】
帰還モデル中のhl (n),hr (n)は、両耳補聴システムの左・右のイヤホン101a,101bとマイクロホン102a,102bとの間でのインパルス応答である。それらhl (n),hr (n)は、無響室にてダミーヘッドに両耳補聴システムを取り付けて測定したものを用いた。入力は、音声<a:>にダミーヘッド正面方向からのHRTFを畳み込んだ信号とした。なお、サンプリング周波数は16[kHz]とした。逆高速フーリエ変換( 逆FFT) は1フレーム周期(32[ms])毎に行った。
【0030】
ここで、ハウリング防止フィルタ15Aの機能を作動させるにあたり、減衰係数γと減衰対象の周波数幅kwid との2つのパラメータを決定しておかなければならない。この実験では、健聴者3名による聴取実験を先立って行うことで、それらのパラメータを決定した。
【0031】
その結果、上記の帰還モデルにおける出力信号のフレーム毎のパワーの推移は、図6に示したようなものとなった。ハウリング防止フィルタ15Aが機能していない場合には、ハウリングの発生に起因して、信号のパワーが時間の経過に連れて増加している。それとは対照的に、ハウリング防止フィルタ15Aを機能させた場合には、ハウリングが発生していても、信号のパワーは時間の経過に連れて減少し、一定のパワーに収束した。
【0032】
また、このシミュレーション開始から1500[ms]後の出力信号のパワースペクトルは、図7に示したようなものとなった。ハウリング防止フィルタ15Aが機能していない場合には、4000[Hz]付近でハウリングの特徴的なピークローブの波形が観測された。これとは対照的に、ハウリング防止フィルタ15Aを機能させた場合には、そのようなピークローブは観測されず、ハウリングが効果的に抑圧されていることが確認できた。また、このハウリングの抑圧効果は、実験において聴感的にも明確に確認できた。
【0033】
このように、本実施の形態の出力制御装置10を用いた両耳補聴システムでは、異なった複数の周波数で同時に発生するハウリングを十分効果的に抑圧することができる。
【0034】
以上実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、本発明の出力制御装置10を両耳補聴システムに適用した例について説明したが、このようなシステムに限らず音響分野においてマイクロホンとスピーカとの間で生じるハウリングを抑圧するための装置全般に適用できるものである。また、音響分野に限らず、機械的な回転運動に起因した振動や騒音などの異常なエネルギー発散が発生しやすい分野で、その発生した異常な信号を多点制御によって抑圧するための装置として、さらには、電磁波も信号の一種であるから、電磁波の多点制御などにも本発明の出力制御装置は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係る出力制御装置を用いた両耳補聴システムの構成を表すブロック図である。
【図2】両耳補聴システムの使用状態を表す図である。
【図3】データベースの情報内容の一例を示した図である。
【図4】ハウリング防止フィルタH(k)を模式的に示した図である。
【図5】フィルタH(k)によるハウリング防止の動作の効果を確認するための帰還モデルの主要部の構成を示したブロック図である。
【図6】図5に示した帰還モデルにおける出力信号のフレーム毎のパワーの推移を表した図である。
【図7】図5に示した帰還モデルによるシミュレーション開始から1500[ms]後の出力信号のパワースペクトルを表した図である。
【符号の説明】
【0036】
10…出力制御装置、11…差分算出部、12…判定基準情報記憶部、13…差分比較部、14…異常判定部、15…出力制御部、15A…ハウリング防止フィルタ、100…ヘッドセット、101a,101b…イヤホン、102a,102b…マイクロホン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6