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明細書 :カードランからなる液晶ゲルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4238370号 (P4238370)
公開番号 特開2007-084615 (P2007-084615A)
登録日 平成21年1月9日(2009.1.9)
発行日 平成21年3月18日(2009.3.18)
公開日 平成19年4月5日(2007.4.5)
発明の名称または考案の名称 カードランからなる液晶ゲルの製造方法
国際特許分類 C08J   3/07        (2006.01)
G02B   5/30        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
C08B  37/00        (2006.01)
FI C08J 3/07 CEP
G02B 5/30
A61K 47/36
C08B 37/00 C
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2005-272375 (P2005-272375)
出願日 平成17年9月20日(2005.9.20)
審査請求日 平成18年3月6日(2006.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】土橋 敏明
【氏名】山本 隆夫
【氏名】野辺 正紘
個別代理人の代理人 【識別番号】100085372、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 正義
審査官 【審査官】▲吉▼澤 英一
参考文献・文献 特開2006-096987(JP,A)
特開平10-130303(JP,A)
特開昭57-147576(JP,A)
特公昭48-044865(JP,B1)
特開平07-310238(JP,A)
調査した分野 C08J 3/07
A61K 47/36
C08B 37/00
G02B 5/30
特許請求の範囲 【請求項1】
アルカリ性水溶液にカードラン又は再生カードランであるパラミロンを溶解して原液を調製する工程と、
前記原液を透析膜のチューブに充填して密封する工程と、
前記チューブに充填密封した原液をカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に浸漬して前記原液を透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせてチューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する円柱状液晶ゲルを前記チューブ内に生成する工程と、
前記チューブ内に生成された円柱状液晶ゲルを前記チューブとともに或いは前記チューブから取出してジメチルスルホキシド又はジメチルスルホキシドを含む溶液に浸漬する工程と
を含むことを特徴とするカードランからなる液晶ゲルの製造方法。
【請求項2】
アルカリ性水溶液にカードラン又は再生カードランであるパラミロンを溶解して原液を調製する工程と、
前記原液をカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に滴下して前記水溶液中において液滴全周囲に透析膜を形成するとともに前記原液を透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせて直径断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する球状液晶ゲルを前記透析膜内に生成する工程と、
前記得られた球状液晶ゲルをジメチルスルホキシド又はジメチルスルホキシドを含む溶液に浸漬する工程と
を含むことを特徴とするカードランからなる液晶ゲルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カードランからなる糸状、円柱状、球状の液晶ゲルを製造する方法に関する。更に詳しくは、生成した液晶ゲルの複屈折率、ゲル強度を制御し得るカードランからなる液晶ゲルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カードランは生体に対する毒性がないため、食品、医薬品等の種々の用途に供せられている。多くの場合、カードランはハイドロゲルとして用いられる。ハイドロゲルの調製方法としては、カードラン粉末を水に分散して加熱することによりゲル化させる方法や、アルカリ性水溶液にカードランが溶解した溶解液から中和などによって溶解性物質を前記溶解液から減少させてゲル化した後、所定の形状に成形する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
一方、カードランをアルカリ性水溶液に溶解して調製した紡糸原液を、アルカリ土類金属塩、又はアルカリ金属塩を主成分とする非酸性水溶液からなる凝固浴に吐出して糸条を形成させることを特徴とするカードラン繊維の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。

【特許文献1】特公昭48-44865号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7-310238号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された方法は、均質なゲル化したカードランを製造することを目的とするだけであって、本発明のようなカードラン分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つようにカードランからなる液晶ゲルを製造するものではない。
【0004】
本発明の第1の目的は、カードラン分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つカードランからなる液晶ゲルの製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、人体に害を及ぼさず、生分解性を有するカードランからなる液晶ゲルの製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、光学的に複屈折率の勾配を有するカードランからなる液晶ゲルの製造方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、複屈折率、透明性及びゲル強度を制御し得るカードランからなる液晶ゲルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の製造方法における「液晶ゲル」とは、カードラン分子の凝集状態が液晶であるとともにゲルであるものをいい、円柱状液晶ゲルは、糸状又は円柱状に形成され、長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有し、球状液晶ゲルは、球状に形成され、直径断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する。
【0006】
請求項1に係る発明は、アルカリ性水溶液にカードラン又は再生カードランであるパラミロンを溶解して原液を調製する工程と、原液を透析膜のチューブに充填して密封する工程と、チューブに充填密封した原液をカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に浸漬して原液を透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせてチューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する円柱状液晶ゲルをチューブ内に生成する工程と、チューブ内に生成された円柱状液晶ゲルをチューブとともに或いはチューブから取出してジメチルスルホキシド(以下、DMSOという。)又はDMSOを含む溶液に浸漬する工程とを含むことを特徴とするカードランからなる液晶ゲルの製造方法である。
請求項2に係る発明は、アルカリ性水溶液にカードラン又は再生カードランであるパラミロンを溶解して原液を調製する工程と、原液をカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に滴下して水溶液中において液滴全周囲に透析膜を形成するとともに原液を透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせて直径断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する球状液晶ゲルを透析膜内に生成する工程と、得られた球状液晶ゲルをDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬する工程とを含むことを特徴とするカードランからなる液晶ゲルの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本願請求項1に係る方法では、所定のアルカリ濃度と温度を有するアルカリ性水溶液に所定の割合でカードランを溶解することにより所望の粘性を有する原液が調製され、この原液を充填密封した透析チューブを所定の濃度と温度を有するカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に浸漬して透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせてチューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する円柱状液晶ゲルがチューブ内に生成される。このチューブ内に生成された円柱状液晶ゲルをチューブとともに或いはチューブから取出してDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することで、液晶ゲルの光学的物性及びゲル強度が制御される。この液晶ゲルはカードラン分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つ特徴を有する。
【0008】
請求項2に係る発明は、上記原液を所定の濃度と温度を有するカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液中に滴下してこの水溶液中において液滴全周囲に透析膜を形成するとともに原液を透析することにより、カードラン分子のコンフォメーション変化とカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、マンガン、カドミウム、コバルト、或いはアルミニウムによって誘発された架橋を生じさせて直径断面で観察したときに中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する球状液晶ゲルが透析膜内に生成される。得られた球状液晶ゲルはDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することで液晶ゲルの光学的物性及びゲル強度が制御される。この液晶ゲルはカードラン分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つ特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明で使用するカードラン又は再生カードランであるパラミロンは、β-1,3グルカン構造をもつ多糖類である。本発明における「カードラン」はカードランは勿論、再生カードランであるパラミロンをも含む。ここではカードランを用いた3つの液晶ゲルの製造方法について述べる。なお、パラミロンを用いての液晶ゲルの製造は、入手可能なパラミロンの分子量がカードランより小さいために原液への溶解量をカードランよりも3~5倍程度に多くする以外、カードランと同様に行うことができる。
【0010】
(a) 第1の液晶ゲルの製造方法(円柱状液晶ゲルの製造方法)
先ずカードランをアルカリ性水溶液に溶解して原液を調製する。このときのアルカリ性水溶液は、pHを広く調節できること、カルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩との反応により中和されること、中性から弱アルカリ性までの液晶ゲルを形成できること、及びカードランに対する溶解性が高いこと等の理由から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウムの水溶液であることが好ましい。アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は0.05~2規定の範囲内に調整することが好適である。好ましくは0.2~1.0規定であり、より好ましくは0.2~0.4規定である。またアルカリ性水溶液の温度は0~40℃の範囲内が好適である。好ましくは10~20℃である。またカードランの溶解割合はアルカリ性水溶液100重量部に対して0.5~12重量部が好適である。好ましくは4~9重量部であり、より好ましくは5~7重量部である。アルカリ濃度が上限値以上又はカードランの量が下限値未満ではカードランがゲル化してもカードラン自体に液晶形成機能を付与することができず、カードランの濃度が上限値を越えると粘性が増加し均質な溶液を得ることが困難になる。パラミロンの溶解割合はアルカリ性水溶液100重量部に対して10~30重量部が好適である。特にアルカリ濃度が上限値を越える場合、カードランの分解反応が速く進むため黄色から褐色に着色するとともに分子量が低下する等の副反応が起こるという不具合を生じる。アルカリ濃度が下限値未満ではゲル化はするが液晶はできない。水溶液の温度が下限値未満では溶液が凝固し、また上限値を越えると次のチューブに充填する前でゲル化が開始してしまう不具合を生じる。
【0011】
次いで得られた原液を透析膜のチューブに充填する。充填前にチューブの下端は封止される。透析膜としては、特に制限はなく、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート等が例示されるが、セルロース系透析膜が好ましい。ここで透析チューブの膜厚及び直径により、ゲル化の速度及び得られるゲルの液晶性と層構造が変化する。最終的に得られる円柱状液晶ゲルの直径はチューブの直径に依存する。チューブの直径及び長さは液晶ゲルの用途に応じて決められる。例えば直径6mm~10cmの範囲から選択され、このチューブからは直径6mm~10cmの円柱状液晶ゲルが得られる。原液をチューブに充填した後、チューブの上端を封止することにより、原液がチューブに充填密封される。
【0012】
次にチューブに充填密封された原液をカルシウム塩を含む水溶液中に浸漬する。このときのカルシウム塩を含む水溶液は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム又は酢酸カルシウムの水溶液であることが、配向性や力学的強度などの物性が良い液晶ゲルが得られるため好ましい。液晶ゲルを得るための水溶液のカルシウム濃度は0.02規定から飽和濃度である。好ましくは0.02~7.2規定であり、より好ましくは0.1~3規定であり、更により好ましくは0.5~2規定である。カルシウム濃度が下限値未満では液晶ゲルが生成されず、上限値を越えるとゲルが収縮し過ぎるという不具合を生じる。またこの水溶液の調製時の温度は0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。更にこの水溶液の透析時の温度は0~45℃である。好ましくは0~25℃であり、より好ましくは15~25℃である。調製時の温度が下限値未満ではカルシウム塩が均一に溶解せず、また透析時の温度が下限値未満では溶液が凝固してしまう不具合がある。透析時の温度が上限値を越えると透析中にカードランの分子量が低下するとともに、分解したカードランがゲル中に沈殿する等の副反応が生じるという不具合を生じる。チューブをカルシウム塩を含む水溶液に浸漬すると、透析膜のチューブ内のOHアニオンがチューブ外に拡散し、一方チューブ外の解離したCaカチオンがチューブ内に拡散する。上記透析によりチューブ内に円柱状液晶ゲルが生成する。チューブの直径に応じた直径の円柱状液晶ゲルが生成される。
【0013】
次に、チューブ内に生成された円柱状液晶ゲルをチューブとともに或いはチューブから取出してDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬する。生成された円柱状液晶ゲルをDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することにより、カードランからなる液晶ゲルの複屈折率や透明性などの光学的物性及びゲル強度などの力学的性質を向上させることができる。生成された円柱状液晶ゲルの光学的物性をDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することにより変化させることができる理由は明らかではないが、カードランとDMSOの高い親和性によりゲルネットワークが広がり、液晶を形成しているカードランの会合体が延伸されるためではないかと考えられる。
【0014】
生成された円柱状液晶ゲルの光学的物性は、DMSO又はDMSOを含む溶液への浸漬する時間によって、複屈折率と透明性を所望の割合に制御することができる。生成されたカードランからなる液晶ゲルの複屈折率は、円周の外縁から中心に向かって徐々に低下しているが、DMSOへの浸漬により、円周の外縁から中心付近に向かって徐々に複屈折率が上昇する液晶ゲルに成形し直すことができる。DMSO又はDMSOを含む溶液への浸漬時間は3分~10時間が好適である。好ましくは10分~5時間、より好ましくは20分~2時間である。浸漬時間が3分未満では複屈折率の向上などの変化が少なく、10時間を越えるとゲルが膨潤してしまい、ゲル強度など諸物性の低下が著しくなる。
【0015】
DMSOを含む溶液は、DMSOと、DMSOを溶解することが可能であって、カードランとの親和性が悪くない溶媒とを任意の割合で混合した溶液である。溶媒としては水やアセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、酢酸、蟻酸などの弱酸、硝酸亜鉛などの水溶液が挙げられる。DMSOを含む溶液に生成された液晶ゲルを浸漬する場合、その溶液の混合割合を変化させることでも、液晶ゲルの複屈折率と透明度を制御することができる。DMSOを含む溶液への浸漬は、DMSOに浸漬する場合に比べて急激に複屈折率等が変化することがないため、光学的物性の精密な制御をする際に好適である。生成された円柱状液晶ゲルをDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬する際の温度範囲は18~80℃、好ましくは20~50℃、より好ましくは20~30℃である。18℃未満ではDMSOが凝固してしまい、80℃を越えると溶媒が気化するといった不都合を生じる。
【0016】
DMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬した液晶ゲルをチューブから取り出し、チューブ長手方向に垂直に液晶ゲルを切断し切断面を自然光で観察すると、図1の模式図に示すように、中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する上、中心と外周縁では配向度の異なる円柱状液晶ゲル10が得られる。これはチューブ内に拡散したOHアニオンとCaカチオンにより、カードランにコンフォメーション変化が起こるとともにカードランが架橋したためである。カードラン分子の秩序正しさは、層が透析チューブの中心に向かうに従って同心状の液晶層の曲率が増大することにより減少する。 図1に示した液晶ゲルは液晶の配向度が異なるため、光学的に複屈折率の勾配を有し、また円柱体外周部分の液晶ゲルの内側には、立体障害により同心円状でしかもリング状のアモルファス層11が存在する。アモルファス層11は液晶構造を有しないが、アモルファス層の内側は液晶構造を有する。液晶ゲル10の半径をR0、アモルファス層11のリング外径をR1とするとき、R0-R1=δが液晶層の厚さである。本発明の液晶ゲルは、δ/R0が0.15以上の値を有することが好ましく、0.4以上の値を有することが更に好ましい。また液晶ゲルの直径が大きい場合には、アモルファス層は同心円状に複数形成される。特にアルカリ性水溶液のアルカリ濃度が0.2~0.4規定の範囲で、カードラン濃度が4~9重量部で、しかもカルシウム濃度が0.5~2規定の範囲ではδ/R0が0.15以上になる。カードランからなる液晶ゲルの屈折率勾配や透明性などの構造は液晶ゲルの構成成分濃度によっても制御することができる。
【0017】
なお、カルシウム塩を含む水溶液を用いた場合に最も形状が整った液晶ゲルを製造することができるが、このカルシウム塩を含む水溶液に代えて、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液を用いてカードランからなる液晶ゲルを製造することができる。このうち、3価の鉄塩、アルミニウム塩を含む水溶液を用いた場合が比較的形状の整った液晶ゲルを製造することができる。上記マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液の濃度はカルシウム塩を含む水溶液と同程度として良い。また、上記マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液は、塩化物のような水溶性塩であれば液晶ゲルを製造することができる。
【0018】
(b) 第2の液晶ゲルの製造方法(球状液晶ゲルの製造方法)
第1の製造方法と同様に原液及びカルシウム塩を含む水溶液を調製する。この原液を調製するときのアルカリ性水溶液のアルカリ濃度及びカードランの含有量は、透析膜を自己形成させるために、界面張力により形を球状に保てる程度の粘性が必要であるという点で第1の製造方法と異なる。即ち、アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は0.05~1規定の範囲内に調整することが好適である。好ましくは0.2~0.8規定であり、より好ましくは0.2~0.4規定である。また、カードラン濃度はアルカリ性溶液100重量部に対して3~12重量部であり、好ましくは4~9重量部であり、より好ましくは5~7重量部である。さらに、カルシウム塩を含む水溶液のカルシウム濃度は、透析膜を自己形成させるために、即座に架橋を生じなくてはならないという理由から、0.1規定以上でなくてはならない点で第1の製造方法と異なる。即ち、この水溶液のカルシウム濃度は0.1規定から飽和濃度である。好ましくは0.1~7.2規定である。より好ましくは0.1~3規定であり、更により好ましくは1~2規定である。なお、アルカリ性水溶液の温度及びカルシウム塩を含む水溶液の温度は、それぞれ第1の製造方法と同じである。
【0019】
第2の製造方法では、透析膜のチューブの代わりにシリンジ(syringe)又はノズルを用いる。最終的に得られる球状液晶ゲルの直径はシリンジ又はノズルの吐出口の口径に依存する。このシリンジ又はノズルの吐出口の口径は液晶ゲルの用途に応じて決められる。例えば、1μm~1mmの範囲から選択され、このシリンジ又はノズルからは直径100μm~4mmの球状液晶ゲルが得られる。原液をシリンジ又はノズルに充填した後、吐出口を下方に向けてシリンジ又はノズルをカルシウム塩を含む水溶液の液面より1~15cm上方の所定の位置に固定する。
【0020】
次いでシリンジ又はノズルの内部を加圧することにより、シリンジ又はノズルに充填された原液をカルシウム塩を含む水溶液中に滴下させる。原液が液滴の形態で水溶液中に泳動する間において液滴全周囲に透析膜が形成される。この透析膜はCaカチオンにより誘発されたカードラン分子からなる。この状態を維持すると、液滴を構成していた原液が透析され、透析膜内部に球状液晶ゲルが生成される。シリンジ又はノズルの吐出口の口径に応じた直径の球状液晶ゲルが生成される。
【0021】
次に、生成された球状液晶ゲルを第1の製造方法と同様にDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬する。生成された球状液晶ゲルをDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することにより、カードランからなる液晶ゲルの複屈折率や透明性などの光学的物性及びゲル強度などの力学的性質を向上させることができる。
【0022】
この球状液晶ゲルを半球になるように直径方向に切断し切断面を観察すると、図示しないが、球状液晶ゲルは、外殻を有し、中心から放射状に配向しかつ同心円状の多層構造を有する中心と外周縁では配向度の異なる構造になっている。この液晶ゲル部分の内側にも、第1の製造方法で作られた円柱状液晶ゲルと同様に、立体障害により同心円状でしかもリング状のアモルファス層が存在する。この構造が形成されるメカニズムは円柱状液晶ゲルと同じである。
【0023】
なお、この第2の製造方法においても、カルシウム塩を含む水溶液に代えて、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液を用いてカードランからなる液晶ゲルを製造することができる。
【0024】
(c) 第3の液晶ゲルの製造方法(糸状液晶ゲルの製造方法)
上記第2の製造方法と同一の原液、カルシウム塩を含む水溶液、シリンジ又はノズルを用意する。第2の製造方法のようにシリンジ又はノズルの吐出口から原液をカルシウム塩を含む水溶液に滴下することなく、吐出口から連続的に糸状に吐出する。これにより原液が糸状体の形態で水溶液中に泳動する間において糸状体全周囲に透析膜が形成される。球状液晶ゲルと同様にこの状態を維持すると、糸状体を構成していた原液が透析され、透析膜内部にシリンジ又はノズルの吐出口の口径に応じて太さ100μm~4mmの糸状液晶ゲルが得られる。
【0025】
次に、糸状液晶ゲルを第1の製造方法と同様にDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬する。生成された糸状液晶ゲルをDMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬することにより、カードランからなる液晶ゲルの複屈折率や透明性などの光学的物性及びゲル強度などの力学的性質を向上させることができる。
【0026】
なお、この第3の製造方法においても、カルシウム塩を含む水溶液に代えて、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、銅塩、鉄塩、マンガン塩、カドミウム塩、コバルト塩、或いはアルミニウム塩を含む水溶液を用いてカードランからなる液晶ゲルを製造することができる。
【0027】
また、本実施の形態では、DMSO又はDMSOを含む溶液に浸漬した後の液晶ゲルを純水又は金属塩水溶液に浸漬することにより、複屈折率を可逆的に変化させることができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
25℃の0.3規定(0.3M)の水酸化ナトリウム水溶液に市販の分子量5.9×105のカードランを5重量%の割合で溶解して原液を調製した。この原液15mlを下端を封止した市販の酢酸セルロースからなる直径20mmのチューブに注入した後、上端を封止して密封した。次いで原液を充填密封した透析膜のチューブを1.4規定(8g/100ml)の20℃の塩化カルシウム水溶液中に浸漬し、2日間維持した。上記原液が透析され、チューブ内に円柱状ゲルが生成された。次に生成された円柱状ゲルをチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、30分間維持した。得られた円柱状ゲルを実施例1とした。
【0029】
得られた円柱状ゲルを長軸方向に垂直に5mmの長さに切断した。図2に実施例1で得られた円柱状ゲルを切断した後の斜視図を示す。また図2の方向Aから自然光で観察した実施例1の円柱状ゲルの模式図を図1に示す。図1から明らかなように、自然光の下で同心円状の複数の層が観察され、ゲルは液晶化していた。外周縁から中心から透明な層と濁った層とが交互に現れた。これらのリング状の層はチューブの上端から下端まで連続してパイプ状に形成された。得られた円柱状液晶ゲルは硬く、複屈折率は大きかった。
【0030】
<実施例2>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、1時間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例2とした。
<実施例3>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、2時間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例3とした。
<実施例4>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、4時間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例4とした。
<実施例5>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、6時間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例5とした。
<実施例6>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃のDMSOに浸漬し、8時間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例6とした。
【0031】
<実施例7>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃の50重量%DMSO水溶液に浸漬し、30分間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例7とした。
<実施例8>
生成された円柱状ゲルを透析膜のチューブから取出して20℃の50重量%DMSOのアセトン溶液に浸漬し、30分間維持した以外は実施例1と同様にして円柱状ゲルを得た。この円柱状ゲルを実施例8とした。
【0032】
<比較例1>
25℃の0.3規定(0.3M)の水酸化ナトリウム水溶液に市販の分子量5.9×105のカードランを5重量%の割合で溶解して原液を調製した。この原液15mlを下端を封止した市販の酢酸セルロースからなる直径20mmのチューブに注入した後、上端を封止して密封した。次いで原液を充填密封した透析膜のチューブを1.4規定(8g/100ml)の20℃の塩化カルシウム水溶液中に浸漬し、2日間維持した。上記原液が透析され、チューブ内に円柱状ゲルが生成された。この円柱状ゲルを比較例1とした。即ち、生成された円柱状ゲルをDMSOやDMSOを含む溶液に浸漬しなかった。
【0033】
<比較評価>
実施例1~8、比較例1でそれぞれ得られた円柱状ゲルについて、以下の評価試験を行った。得られた評価試験の結果を表1にそれぞれ示す。
(1)複屈折率試験
先ず、得られた円柱状ゲルを長軸方向に垂直に1mmの長さに切断し、厚さd=1mmのゲルフィルムとした。次いで平行に設置した二枚の偏光レンズの間に切り出したゲルフィルムを平行に挿入した。これら偏光レンズ及びゲルフィルムに垂直に波長λ=632.8nmのHe-Neレーザーを照射し、クロスニコル下での透過光強度Ic及びオープンニコル下における透過光強度I0をフォトダイオードと電流計を用いて測定し、次の式(1)から複屈折率Δnを算出した。複屈折率は半径方向に変化するので、最大複屈折率を表1に記す。
【0034】
【数1】
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【0035】
(2)濁度試験
得られた円柱状ゲルについて分光光度計を用いて全光線の濁度τcを測定した。
【0036】
【数2】
JP0004238370B2_000003t.gif

【0037】
ここでI*は試料への入射光強度である。
【0038】
(3)ゲル強度試験
直径2mm、長さ15mmの真鍮製プローブを取り付けたロードセルを用い、押し込み法により、得られた円柱状ゲルの変形量と応力を測定し、次の式(3)からゲル強度を算出した。
【0039】
【数3】
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【0040】
(4)液晶層の厚みとゲル半径の比
液晶層の厚みδとゲル半径R0の比δ/R0を読み取り顕微鏡により求めた。
(5)膨潤比
円柱状ゲルのDMSOへの浸漬後の体積と浸漬前の体積の比を求め、膨潤比とした。
【0041】
【表1】
JP0004238370B2_000005t.gif

【0042】
表1より明らかなように、実施例1~8の円柱状ゲルでは比較例1の円柱状ゲルに比べて複屈折率や透過率の光学的物性並びにゲル強度に優れた結果が得られた。また、実施例1~8の円柱状ゲルのように製造条件により光学的物性並びにゲル強度などの力学的性質を制御することが可能であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の液晶ゲルは複屈折率を有するため、円柱状液晶ゲルの場合、これをスライスすれば偏光レンズに利用できる。また本発明の液晶ゲルは、球状液晶ゲルの場合、原液に薬成分を含ませておけば、球状液晶ゲル内に薬成分が含有され、液晶ゲルの同心円状の多層構造に由来して、服薬したときに薬成分が液晶ゲルの外側より放散し、内側薬成分は外側薬成分が放散した後で順次放散する徐放作用を生じるため、薬物の放出速度を制御可能なドラッグデリバリーシステム材料などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明実施の形態の円柱状液晶ゲルを模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1で得られた円柱状ゲルを切断した後の斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
10 円柱状液晶ゲル
11 アモルファス層
図面
【図1】
0
【図2】
1