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明細書 :哺乳動物において機能的なトランスポゾン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4364474号 (P4364474)
公開番号 特開2003-235575 (P2003-235575A)
登録日 平成21年8月28日(2009.8.28)
発行日 平成21年11月18日(2009.11.18)
公開日 平成15年8月26日(2003.8.26)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物において機能的なトランスポゾン
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 B
A01K 67/027
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 14
全頁数 32
出願番号 特願2002-038971 (P2002-038971)
出願日 平成14年2月15日(2002.2.15)
審査請求日 平成17年1月19日(2005.1.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
発明者または考案者 【氏名】川上 浩一
【氏名】野田 哲生
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 国際公開第01/040477(WO,A1)
国際公開第01/030965(WO,A1)
FEBS Letters, 1999, Vol.461, p.295-298
Proceedings of the National Academy of Sciences of U.S.A., 2991, Vol.98(20), p.11474-11478
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 5/00- 5/10
A01K 67/027
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物細胞に下記(A)または(B)に記載のDNA、または下記(A)若しくは(B)に記載のDNAを保持したベクターを導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法:
(A) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、
(B) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードし自律的に転移し得るDNA
【請求項2】
哺乳動物細胞において下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースにより非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAまたは前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクターと、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードするDNAであって、下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNA、前記トランスポゼースDNAを保持したベクター、前記トランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースまたは前記トランスポゼースをコードしたRNAのうち少なくともいずれか一つとを、哺乳動物細胞に導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法
(A) 配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA
(B) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(C) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(D) 配列番号1に記載の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項3】
前記非自律的トランスポゾンDNA、前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクター上の前記非自律的トランスポゾンDNA領域には、任意の核酸が挿入されている、請求項2に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法。
【請求項4】
前記配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAが、配列番号4記載の塩基配列からなるDNAである、請求項1から3のいずれかに記載の遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法。
【請求項5】
ヒトを除く哺乳動物に下記(A)または(B)に記載のDNAまたは下記(A)若しくは(B)に記載のDNAを保持したベクターを注入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の作製方法
(A) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、
(B) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードし自律的に転移し得るDNA
【請求項6】
哺乳動物細胞において下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースにより非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAまたは前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクターと、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードするDNAであって、下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNA、前記トランスポゼースDNAを保持したベクター、前記トランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースまたは前記トランスポゼースをコードしたRNAのうち少なくともいずれか一つとを、ヒトを除く哺乳動物細胞に導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の製造方法
(A) 配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA
(B) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(C) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(D) 配列番号1に記載の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項7】
哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードするDNAであって、下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAを保持したヒトを除く哺乳動物と、哺乳動物細胞において下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースにより非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAを保持したヒトを除く哺乳動物とを交配させ、個体を発生させる工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の作製方法
(A) 配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA
(B) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(C) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(D) 配列番号1に記載の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項8】
前記配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAが、配列番号4記載の塩基配列からなるDNAである、請求項5から7のいずれかに記載の遺伝子改変哺乳動物の製造方法。
【請求項9】
哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードするDNAであって、下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAまたは哺乳動物細胞において非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAを保持した、ヒトを除く遺伝子改変哺乳動物作製用哺乳動物
(A) 配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA
(B) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(C) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(D) 配列番号1に記載の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項10】
前記非自律的トランスポゾンDNA、前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクター上の前記非自律的トランスポゾンDNA領域には、任意の核酸が挿入されている、請求項6に記載の遺伝子改変哺乳動物の作製方法。
【請求項11】
哺乳動物細胞において転移しうるDNAであって、下記(A)若しくは(B)記載のトランスポゾンDNAまたは前記トランスポゾンDNAを保持するベクターを含む、哺乳動物における遺伝子改変用キット
(A) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA
(B) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードし自律的に転移し得るDNA
【請求項12】
哺乳動物細胞において下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースにより非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAまたは前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクターと、哺乳動物細胞において転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードするDNAであって、下記(A)から(D)からなる群から選択される1のDNAであるトランスポゼースDNA、前記トランスポゼースDNAを保持したベクター、前記トランスポゼースDNAによりコードされたトランスポゼースまたは前記トランスポゼースをコードしたRNAのうち少なくともいずれか一つと、を備えた、哺乳動物における遺伝子改変用キット
(A) 配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA
(B) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(C) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(D) 配列番号1に記載の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項13】
前記非自律的トランスポゾンDNA、または前記非自律的トランスポゾンDNAを保持したベクター上の前記非自律的トランスポゾンDNA領域に任意の核酸が挿入し得る部位が備えられた、請求項12に記載の哺乳動物における伝子改変用キット。
【請求項14】
前記配列番号3において少なくとも第2230塩基から第4146塩基を欠失する非自律的トランスポゾンDNAが、配列番号4記載の塩基配列からなるDNAである、請求項11から13のいずれかに記載の遺伝子改変用キット
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は哺乳動物で転移誘導し得るトランスポゼース、および該トランスポゼースを保持したトランスポゾン、哺乳動物内において転移し得る非自律的トランスポゾン、さらには、これらトランスポゼースなどを用いた遺伝子改変動物の作製方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
トランスポゾンは分子生物学や遺伝学の研究において強力なツールであり、細菌、植物、無脊椎動物においては、変異導入、トランスジェニック個体の作製などの目的として広く利用されている。一方、このような技術は脊椎動物では開発が遅れていたが、近年、サケ科魚類で見出されたTc1様トランスポゾンの断片を繋ぎ合わせた合成トランスポゾン系「Sleeping Beauty」が再構築された(Ivics, Z., Hackett, P.B., Plasterk, R.H., & Izsvák, Z. Cell 91, 501-510 (1997))。このトランスポゾンはマウスの胚幹細胞や生殖細胞系などでもトランスポジションすることが確認されている(Luo G., Ivics Z., Izsvak Z. & Bradley A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 10769-10773 (1998)、Yant S. R., Meuse L., Chiu W. Ivics Z., Izsvak Z. & Kay M. A. Nat. Genet. 25: 35-41 (2000), Fischer S. E., Wienholds E. & Plasterk R. H. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 6759-6764 (2001), Horie K., Kuroiwa A., Ikawa M., Okabe M., Kondoh G., Matsuda Y. & Takeda J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 9191-9196 (2001), Dupuy A. J. Fritz S. & Largaespada D.A. Genesisi 30: 82-88 (2001))。
【0003】
上記「Sleeping Beauty」は合成トランスポゾンであるが、他方、脊椎動物において、活性を有する天然トランスポゾンも見出されている。この脊椎動物において唯一の天然トランスポゾンTol2 はメダカのゲノムからクローニングされ(Koga, A., Suzuki, M., Inagaki, H., Bessho, Y., & Hori, H. Nature 383, 30 (1996))、その配列はトウモロコシのAc エレメントと類似していることからトランスポゾンhATファミリーに分類されている。また、このTol2 のトランスポジションは、メダカの胚(Koga, A., & Hori, H. Genetics 156, 1243-1247 (2000))だけでなく、ゼブラフィッシュの生殖細胞系(Kawakami, K., Koga, A., Hori, H., & Shima, A. Gene 225, 17-22 (1998)、Kawakami, K., & Shima, A. Gene 240, 239-244 (1999)、Kawakami, K., Shima, A., & Kawakami, N. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11403-11408 (2000))でも観察されているが、哺乳動物でのトランスポジションは確認されていない。
【0004】
こうしたトランスポゾンは、哺乳動物細胞での変異導入後の表現型から遺伝子を解析するフォワードジェネティクス、トランスジェニックの作製などにより導入遺伝子から表現型を解析するリバースジェネティクスのいずれにも極めて有用となることが予想される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、哺乳動物における遺伝子解析の強力なツールとなる機能的なトランスポゾンを見出すべく、Tol2の哺乳動物細胞での活性を解析することを第一の目的とし、このTol2を用いて哺乳動物における遺伝子改変方法等を開発することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本願発明者らはTol2トランスポゾンが哺乳動物で転移し得るかを調べた結果、哺乳動物においても機能することを見出した。特に、Tol2トランスポゾンにコードされているTol2トランスポゼースとトランスポゼースを欠損したTol2トランスポゾンとを別のベクターに組み込み、コトランスフェクションすることによってTol2トランスポゾンが染色体に転移し得ることが検出された。これら知見に基づき、本願発明者らは、以下の発明を開発した。
【0007】
(1) 哺乳動物細胞内で転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードしたDNAであって、配列番号1に記載の配列を有するトランスポゼースDNAである。
(2) 哺乳動物細胞内で転移誘導活性を備えたトランスポゼースをコードしたDNAであって、下記(A)または(B)に記載のトランスポゼースDNA、(A)配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしたDNA、(B)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。
(3) 配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又はその相補鎖と相補的であり、少なくとも15ヌクレオチド長を備えたDNAである。
(4) 上記(1)または(2)に記載のDNAによりコードされたトランスポゼースである。
(5) 上記(4)に記載のトランスポゼースをコードしたRNAである。
(6)上記(1)または(2)に記載のDNAが挿入されたベクターである。
(7) 上記(1)もしくは(2)に記載のDNAまたは上記(6)に記載のベクターを保持する宿主細胞である。
(8) 哺乳動物細胞において転移し得るDNAであって、以下(A)または(B)記載のトランスポゾンDNA、(A)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、(B)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。
(9) 上記(8)に記載のDNAを保持したベクターである。
(10) 上記(8)に記載のDNAまたは上記(9)に記載のベクターを保持した宿主細胞である。
(11) 配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA又はその相補鎖と相補的であり、少なくとも15ヌクレオチド長を備えたDNAである。
(12) 哺乳動物細胞において非自律的に転移し得るDNAであって、配列番号3に記載の塩基配列においてトランスポゼースをコードした領域に塩基配列の欠失、挿入または置換を備えた、非自律的トランスポゾンDNAである。
(13) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAを含むベクターである。
(14) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAまたは上記(13)に記載のベクターを保持した宿主細胞である。
(15) 上記(8)に記載のDNAまたは上記(9)に記載のベクターを含む、哺乳動物遺伝子改変用キットである。
(16) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAまたは上記(13)に記載のベクターと、上記(1)もしくは(2)に記載のトランスポゼースDNA、上記(6)に記載のベクター、上記(4)に記載のトランスポゼースまたは上記(5)に記載のRNAのうち少なくともいずれか一つと、を備えた、哺乳動物遺伝子改変用キットである。
(17) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA、または上記(13)に記載のベクター上の上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA領域に任意の核酸を挿入し得る部位が備えられた、上記(16)に記載の哺乳動物遺伝子改変用キットである。
(18) ヒトを除く哺乳動物細胞に上記(8)に記載のDNAまたは上記(9)に記載のベクターを導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法である。
(19) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAまたは上記(13)に記載のベクターと、上記(1)もしくは(2)に記載のトランスポゼースDNA、上記(6)に記載のベクター、上記(4)に記載のトランスポゼースまたは上記(5)に記載のRNAのうち少なくともいずれか一つとを、ヒトを除く哺乳動物細胞に導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法である。
(20) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA、上記(13)に記載のベクター上の上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA領域には、任意の核酸が挿入されている、上記(19)に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞の製造方法である。
(21) ヒトを除く哺乳動物に上記(8)に記載のDNAまたは上記(9)に記載のベクターを注入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の作製方法である。
(22) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAまたは上記(13)に記載のベクターと、上記(1)もしくは(2)に記載のトランスポゼースDNA、上記(6)に記載のベクター、上記(4)に記載のトランスポゼースまたは上記(5)に記載のRNAのうち少なくともいずれか一つとを、ヒトを除く哺乳動物に導入する工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の作製方法である。
(23) 上記(1)または(2)に記載のトランスポゼースDNAを保持したヒトを除く哺乳動物と、上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAを保持したヒトを除く哺乳動物とを交配させ、個体を発生させる工程を含む、遺伝子改変哺乳動物の作製方法である。
(24) 上記(1)もしくは(2)に記載のトランスポゼースDNAまたは上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNAを保持した、ヒトを除く遺伝子改変哺乳動物作製用哺乳動物である。
(25) 上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA、上記(13)に記載のベクター上の上記(12)に記載の非自律的トランスポゾンDNA領域には、任意の核酸が挿入されている、上記(22)に記載の遺伝子改変哺乳動物の作製方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0009】
[自律的トランスポゾン]
本発明は、哺乳動物において転移し得るTol2トランスポゾンDNAに関する。通常、トランスポゾンの転移には、トランスポジションを誘導する酵素(トランスポゼース)とこのトランスポゼースにより認識されて転移するDNA配列(トランスポゾンシスエレメント)が必要になる。本発明のTol2トランスポゾンは、この両者を備えたDNA型のトランスポゾンである。なお、本願明細書においては、自らトランスポゼースを発現して転移し得るということから、このTol2トランスポゾンを自律的Tol2トランスポゾンと称する。
【0010】
具体的に、本発明の自律的Tol2トランスポゾンDNAの代表としては、配列番号3に記載の塩基配列を挙げることができるが、Tol2トランスポゾンと同様に哺乳動物において転移し得るTol2トランスポゾンと類似のDNAも含まれる。このような類似のトランスポゾンDNAとしては配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAなどを挙げることができる。
【0011】
このようなTol2トランスポゾンと機能的に同等なDNAを単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組合せは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0012】
上記Tol2トランスポゾンはメダカで見出されたことから、メダカのゲノムDNAより得ることができるが、簡便には、後述するTol2トランスポゾンを保持した形質転換体から生成することができる。また、Tol2トランスポゾンの類似体は、配列番号3に記載の配列からDNAを人工的に改変することにより、また、メダカ以外の生物種から上記ハイブリダイゼーション法により得ることもできる。
【0013】
このようにTol2トランスポゾンおよびTol2トランスポゾンの類似体は哺乳動物(細胞)内で自律的に転移し得るため、ランダムな遺伝子のノックアウトなどの変異導入ツールとして有用となる。
【0014】
このように変異導入ツールなどの目的で使用するような場合には、上記Tol2トランスポゾンDNAはベクターに担持させて用いることができる。このベクターは宿主細胞に応じて選択することができ、このような選択は当業者が容易に成し得る範囲である。例えば、哺乳動物細胞への導入のためのベクターは、ウイルス系ベクター、非ウイルス系ベクター、あるいは、哺乳動物細胞内では複製能力がないベクターであってもよい。Tol2トランスポゾンは、これがコードしているTol2トランスポゼースが発現し、これによりTol2トランスポゾンが転移し得れば、Tol2トランスポゾンを保持したベクターが哺乳動物細胞内で自律複製する必要は必ずしもない。したがって、ウイルスベクターの持ち込みを望まない場合には、非ウイルス系ベクターや、Tol2トランスポゾンDNAのデグラデーションを回避し得る任意のDNA配列の付加、化学修飾などであってもよい。
【0015】
また、本発明は、Tol2トランスポゾン全長配列のみならず、その一部フラグメントも含まれる。このような一部フラグメントは、ハイブリダイゼーションプローブやPCRプライマーなどとして、哺乳動物に変異導入した際にいずれの遺伝子座にトランスポゾンが転移したかを解析するために有用となる。このような一部フラグメントとして、具体的には、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA又はその相補鎖と相補的であり、プローブ、プライマーなどの特異性を保持し得る長さ、例えば、15ヌクレオチド長以上を備えていることが好ましい。
【0016】
[トランスポゼース]
上記自律的Tol2トランスポゾンはそれ自身で哺乳動物内において自律的に転移し得るが、Tol2トランスポゾンを転移させる手法としては、トランスポゼースを欠損し自律的には転移し得ない非自律的Tol2トランスポゾンに、Tol2トランスポゼースを供給することによっても行うことができる。
【0017】
本発明は、このような哺乳動物内でTol2トランスポゾンを転移誘導し得るトランスポゼースに関する。このトランスポゼースには配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるTol2トランスポゼースを挙げることができるが、この配列に限定されるものではない。例えば、哺乳動物内でTol2トランスポゼースと同様の活性を有し、配列番号2記載のアミノ酸配列に類似したタンパク質も含まれる。この類似したタンパク質としては、配列番号2と比べ1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有したトランスポゼース活性を有するタンパク質、他の生物由来のTol2トランスポゼースに類似したタンパク質および人工的に創製したTol2トランスポゼース変異体が含まれる。
【0018】
なお、上記「アミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」の語において、アミノ酸の変異数や変異部位はTol2トランスポゼースにおけるトランスポジション誘導活性が保持される範囲内であれば制限はない。アミノ酸の変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内であると考えられる。
【0019】
Tol2トランスポゼースの調製は、メダカを用いて行うこともできるが、簡便には、後述するTol2トランスポゼースをコードしたDNAを担持したベクターにより形質転換された形質転換体を用いて生成することができる。
【0020】
また、上記Tol2トランスポゼースタンパク質に類似した蛋白質の調整は、当業者に周知のハイブリダイゼーション技術を用いて行うことができる。例えば、Tol2トランスポゼースをコードしたDNAの塩基配列、例えば、配列番号1に記載の塩基配列またはその一部をプローブとして、メダカなどの魚類、ヒトを含めた哺乳類、その他種々の生物種からTol2トランスポゼースのcDNAと相同性の高いDNAを単離し、単離されたDNAからTol2トランスポゼースタンパク質と類似したタンパク質を得ることができる。このようなTol2トランスポゼースと機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組合せは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0021】
また、上記配列番号1に記載の塩基配列またはその一部をプライマーに用い、当業者に周知のPCR(polymerase chain reaction)法によりTol2トランスポゼース類似DNAを単離し、その類似DNAからTol2トランスポゼース類似タンパク質を調製することもできる。
【0022】
また、上記Tol2トランスポゼースと類似したタンパク質は、天然型のタンパク質に限られず、配列番号2に記載のアミノ酸からなるTol2トランスポゼースタンパク質を人工的に改変する方法によっても調製することができる。この人工的な改変は、Tol2トランスポゼースタンパク質をコードしたDNA、例えば、配列番号1のDNAを当業者に公知の技術、deletion-mutant作製方法、PCR法、カセット変異法などを用いたsite-directed mutagenesisにより実行することができる。
【0023】
ここで得られたTol2トランスポゼースに類似したタンパク質が、Tol2トランスポゼースと同様のトランスポジション誘導活性を有するかを解析することにより測定することができる。この解析は後述する実施例に従って行うこともできる。
【0024】
[トランスポゼースDNA]
本発明のトランスポゼースをコードしたDNA(以下、「トランスポゼースDNA」という)は、トンラスポジションを誘導する活性をコードしているDNAであれば、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAも含まれる。
【0025】
本発明のトランスポゼースをコードしたcDNAの好適な例としては、上記Tol2トランスポゼースをコードしたcDNAを挙げることができ、具体的には、配列番号1に記載のDNAが挙げられる。また、このcDNA以外にも、Tol2トランスポゼースと同様の活性を有するcDNAも含めることができる。こうしたcDNAは、配列番号1に記載のDNAまたはその断片などを標識化し、これをプローブとして用いたハイブリダイゼーションにより、上記活性を有するタンパク質が発現している生物組織由来のcDNAライブラリーからスクリーニングすることができる。また別の上記cDNAの調製は、配列番号1に記載のDNAの一部を含む合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、上記活性を有するタンパク質が発現している組織由来のRNAを鋳型としたRT-PCRにより行ってもよい。
【0026】
本発明のトランスポゼースをコードしたゲノムDNAの好適な例として、配列番号3に記載のDNAを挙げることができる。このゲノムDNAは、メダカより得られたことから、メダカのトータルDNA、あるいはメダカのゲノムDNAライブラリー、あるいはゼブラフィッシュのように既にトランスポゾンが導入された動物ゲノムなどより得ることができる。また、配列番号3に記載のゲノムDNA以外にも、Tol2トランスポゼースと同様の活性を有するゲノムDNAも含めることができる。こうしたゲノムDNAは、上記cDNAの調製と同様に、配列番号1または3に記載のDNAまたはその断片などを標識化し、これをプローブとして用いて、生物組織由来のゲノムDNAライブラリーからハイブリダイゼーションにより得てもよく、また上記配列番号1または3に記載のDNAの一部を含む合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、生物組織由来のRNAを鋳型としたRT-PCRにより調製してもよい。
【0027】
また、上述したcDNA、ゲノムDNAは市販のDNA合成機を用いて合成することもできる。例えば、配列番号1または3に記載のDNAおよび相補鎖をそれぞれ合成し、これらをアニーリングさせて二本鎖にすることにより調製することもできる。
【0028】
上記トランスポゼースDNAは哺乳動物細胞内でトランスポジションを誘導する活性を有したトランスポゼースをコードしていることから、このDNAはトランスポゼースを産生させるための材料として有用なだけではなく、本トランスポゼースDNAを直接哺乳動物内に導入し、細胞内でトランスポゼースを発現させるために用いることもできる。
【0029】
本発明はトランスポゼースDNAを組み込んだベクターに関する。上述のようにトランスポゼースDNAを用いてトランスポゼースの産生や哺乳動物内でのトランスポゼースの発現を実行するためには、上記トランスポゼースDNAを所望の発現ベクターに組み込むことが好ましい。ここで用いることができるベクターは特に限定はなく、トランスポゼースDNAを組み込んだベクターが導入される宿主、用途などにより、当業者において知られている発現ベクターから適宜選択して使用することができる。例えば、哺乳動物(細胞)内でトランスポゼースを発現させるためのベクターとしては、例えば、ウイルス系のベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクターなど)、非ウイルスベクター(カチオニックリポソーム、リガンドDNA複合体、ジーンガンなど)などが挙げられる(Y. Niitsuら, Molecular Medicine 35: 1385-1395 (1998)。
【0030】
本発明は、トランスポゼースDNAの一部フラグメントをも含む。上記トランスポゼースDNAは全長配列としてトランスポゼースを発現させる等の目的に利用することができるだけでなく、その一部フラグメントとしても、ハイブリダイゼーション用プローブ、PCRプライマーまたはリボザイム誘導体として利用することができる。そのため一部フラグメントはこれら目的を実行し得るように、プローブ等として特異性を保持できる長さ、例えば、15ヌクレオチド長以上を有していることが好ましい。例えば、こうしたポリヌクレオチドとしては、配列番号1または3に記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズするものが挙げられる。ここで、「特異的にハイブリダイズする」とは、ハイブリダイゼーションにおいて、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションが有意に生じないことを意味する。上記プローブ、プライマーは、本タンパク質をコードしたDNAのクローニングや本DNAの検出に利用することができる。
【0031】
また、本発明のトランスポゼースを発現し得る核酸としては、上記DNAだけではく、RNAをも含まれる。トランスポゼースDNAからトランスポゼースの発現には、RNAが介在する。そのためトランスポゼースDNAではなく、トランスポゼースRNAを哺乳動物細胞に導入することによっても、哺乳動物細胞内でトランスポゼースを発現させることもできる。このようなRNAの調整は、上記トランスポゼースcDNAまたはゲノムDNAを転写することにより、または上記トランスポゼースcDNAに対応したRNAをRNA合成機で合成することにより行うことができる。
【0032】
[非自律的Tol2トランスポゾン]
本発明の他の態様は、トランスポゼースが欠損していることにより自律的には哺乳動物内で転移し得ないTol2トランスポゾンであり、Tol2トランスポゼースの供給により転移し得る非自律的Tol2 トランスポゾンに関する。
【0033】
Tol2トランスポゾンは自律的に転移し得るため、一旦、哺乳動物の染色体内にTol2トランスポゾンが転移した後に、これが切り出され、別の部位に転移する可能性がある。このような自律的トランスポゾンは、単独で哺乳動物の染色体変異を導入し得るが、転移した位置から別の位置へ転移する可能性がある点では不安定といえる。そのため、Tol2トランスポゾンにおいて、トランスポゼースを欠損させて自律的に転移する能力を欠損させることにより、染色体に転移した後の再転移を抑制し、安定して染色体内に変異を導入して、遺伝子改変を行うことができる。こうした非自律的Tol2トランスポゾンは、上述した配列番号3に記載の塩基配列を有するトランスポゾンDNAあるいは同等の機能を有する類似のDNA中、トランスポゼースをコードした領域に塩基配列の欠失、挿入または置換が加えられ、トランスポゼース活性を失ったDNAが挙げられる。
【0034】
このトランスポゼースをコードした領域における塩基配列の欠失、挿入または置換は、トランスポゼース活性を失い得る変異であれば、変異領域の塩基数、種類などには限定されない。また、トランスポゼースをコードした領域に限られず非コード領域の欠失、挿入、置換などの変異によりトランスポゼースの発現を阻害し得る変異をも含めることができる。但し、これら変異はトランスポゾンとして転移し得る能力を担保し得るためにトランスポジションのシスエレメントを欠損しない範囲に限られる。このようなトランスポジションのシスエレメントは、配列番号3に記載の塩基配列を系統的に欠失させたシリーズを当業者に公知の方法あるいは市販のディリーションキットなどを用いて作製し、転移に必要な領域を解析することにより同定することができる。
【0035】
トランスポゼースコード領域の欠失変異の一例としては、図1に示すようなTol2トランスポゾンDNAにおいてエキソン2の5’側からエキソン4の中央付近(具体的には配列番号3における第2230塩基から第4146塩基)にかけて欠失を有するものを挙げることができるが、これよりも長い欠失、あるいは短い欠失であってもよく、また欠失部位は複数に分断されていてもよい。また、挿入変異の一例としては、Tol2トランスポゾン上のトランスポゼースがコードされた領域等に、リンカー配列、制限酵素認識配列、マルチクローニングサイトあるいは任意の遺伝子を挿入することにより、トランスポゼース活性を欠損させるような変異が挙げられる。また、置換変異の一例としては、トランスポゼースコード領域等の塩基配列を他の塩基配列に置換して、トランスポゼースの転移誘導活性を欠損させる置換変異が挙げられる。これら欠失、挿入、置換変異は単独でも組み合わせて用いてもよい。このような変異の組合せの一例を挙げれば、配列番号4に記載の塩基配列からなる非自律的トランスポゾンDNAを示すことができる。このDNAは、配列番号3に記載のTol2トランスポゾンDNA中、第第2230塩基から第4146塩基が欠失され、この欠失領域に「AGATCTC ATATGCTCGAGGGCCC」からなるXhoI認識配列を含むリンカー配列が挿入されている。
【0036】
このような非自律的Tol2トランスポゾンDNAを用いて染色体に変異導入を行った場合、本DNA自体はトランスポゼース活性を保持しないため、トランスポゼースが外部から供給されない限り、本DNAは染色体上に安定的にとどまることができる。そのため、この変異導入による機能遺伝子の同定や、安定したトランスジェニック個体の作製に有利となる。
【0037】
また、本発明は、上記非自律的Tol2トランスポゾンDNAを保持するベクターに関する。非自律的Tol2トランスポゾンDNAそのままで用いることもできるが、哺乳動物あるいはその細胞に導入する場合などにおいては端部からのデグラデーションを防止等するために、このDNAをベクターにつなぐことができる。このベクターは、導入する宿主や目的に応じて選択することができる。例えば、哺乳動物(あるいはその細胞)内に本DNAを導入するためのベクターとしては、例えば、ウイルス系のベクター(アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクター、レトロウイルスベクターなど)、非ウイルスベクター(カチオニックリポソーム、リガンドDNA複合体、ジーンガンなど)(Y. Niitsuら, Molecular Medicine 35: 1385-1395 (1998)のいずれであってもよい。
【0038】
また、本発明は上記非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを含むベクターを保持した哺乳動物細胞に関する。このようなDNAまたはベクターを保持した哺乳動物細胞は、トランスポゼースの供給により、細胞内の非自律的Tol2トランスポゾンDNAが転移し変異を導入し得るため、機能遺伝子の解析、ノックアウト動物の作製等に用いることができる。機能遺伝子の解析用としては、宿主となる哺乳動物細胞は、特に限定はなく、ヒトなどの霊長類由来の細胞、マウスなどのげっ歯類由来の細胞であってもよい。また、この哺乳動物細胞は、体細胞、生殖細胞であってもよく、体細胞であれば種々の臓器由来の細胞を含めることができる。また、ノックアウト動物の作製用としては、この宿主の哺乳動物細胞として、胚細胞などの生殖能力を有する細胞を用いることが好ましい。こうした細胞内において、上記DNAまたはベクターは、染色体外に保持されていても、また染色体内に保持されていてもよい。
【0039】
[変異哺乳動物細胞の製造用システム]
本発明の他の態様は哺乳動物遺伝子改変用システムに関する。この哺乳動物遺伝子改変用システムは、上述した自律的あるいは非自律的のTol2トランスポゾンを用いて、哺乳動物の染色体を改変するシステムである。この「改変」には、既存の染色体上の遺伝子を破壊するノックダウン変異、新たな遺伝子を挿入するトランスジェニック変異および、これら双方の組合せによる改変が含まれる。
【0040】
ノックダウン変異用としては、第一に、上述した配列番号3に記載の塩基配列に代表されるような自律的Tol2トランスポゾンDNAあるいはこのDNAを保持したベクターを含むシステムを挙げることができる。上述したように、自律的Tol2トランスポゾンDNAはトランスポゼースを保持し、哺乳動物細胞内で自律的に転移し得るため、上記DNAあるいはベクターを哺乳動物細胞内に導入することにより、ランダムな遺伝子のノックダウンなどに用いることができる。
【0041】
第二のノックダウン変異用システムとしては、配列番号4に記載の塩基配列のような非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターと、配列番号1に記載の塩基配列に代表されるTol2トランスポゼースDNA、このDNAを保持したベクター、配列番号2に記載のアミノ酸配列に代表されるようなトランスポゼースまたはこのトランスポゼースをコードしたRNAのうち少なくともいずれか一つと、を備えた、哺乳動物遺伝子改変用システムが挙げられる。すなわち、非自律的Tol2トランスポゾンDNAはそれ自身ではトランスポゼースを欠損しているため転移し得ないが、この非自律的Tol2トランスポゾンDNAとともに、DNA、RNAまたは直接、タンパク質としてトランスポゼースを哺乳動物に供給することにより、Tol2トランスポゼースDNAは哺乳動物内で染色体に転移し、染色体上のランダムな遺伝子に変異を導入し得る。なお、Tol2トランスポゼース供給源としてDNAを用いる場合には、このトランスポゼースDNAは、非自律的Tol2トランスポゾンDNAと別体、すなわち、別々のフラグメントまたは別々のベクター上に載せた形式でもよく、同一のベクター上に二つのDNAを担持させる形式であってもよい。
【0042】
トランスジェニック変異用のシステムとしては、上記第二のノックダウン変異用システム、すなわち、非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターとTol2トランスポゼース供給源(DNA、RNA、タンパク質など)を含むシステムを応用することができる。このシステムをトランスジェニック変異用のシステムとして使用し易くするために、上記非自律的トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクター上の非自律的トランスポゾンDNA領域に任意の核酸を挿入し得る部位が備えられていることが好ましい。ここで「任意の核酸」は、哺乳動物の染色体内に挿入させたい所望の核酸であり、例えば、機能を解析したい遺伝子などを任意に選択することができる。また、この任意の核酸を非自律的トランスポゾンDNA上に保持させ易くするために、「任意の核酸を挿入し得る部位」として、制限酵素の認識配列を設けることができる。この制限酵素の認識配列は、一種類の制限酵素の認識サイトであってもよいが、好ましくは複数種の制限酵素の認識サイトを有するマルチクローニングサイトなどとしてもよい。このようにクローニングサイトを設けることにより解析したい遺伝子を非自律的トランスポゾンDNAに挿入することが容易になる。そして、このように任意の核酸を保持した非自律的トランスポゾンDNAを、Tol2トランスポゼース供給源(Tol2トランスポゼースDNA、これを保持したベクター、Tol2トランスポゼースRNAまたはTol2トランスポゼースタンパク質)とともに哺乳動物細胞に導入することにより、非自立型Tol2トランスポゾンDNAの染色体へ転移させ、所望の核酸を効率良く染色体内に組み込むことが可能となる。また、このTol2トランスポゾンの染色体の転移に際しては、仮にTol2トランスポゾンDNAがベクター上に組み込まれた場合であってもベクター配列などのトランスポゾンDNA以外の不必要なDNAの持ち込みがない。そのため、このトランスジェニック変異用のシステムは、トランスジェニック動物などの作製用としてのみ使用することができるだけでなく、安全な遺伝子治療用のシステムとしても利用し得ることが期待される。すなわち、疾患の原因となる遺伝子を外来から補足するなどのシステムとして医療用として利用してもよい。
【0043】
[変異哺乳動物細胞の製造方法]
また、本発明はTol2トランスポゾンDNAを用いて、変異哺乳動物細胞を製造する方法に関する。Tol2トランスポゾンDNAを用いた第一の変異哺乳動物細胞を製造する方法としては、哺乳動物細胞に配列番号3に代表されるような自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターを導入する工程を含む方法である。
【0044】
この方法の対象となる細胞は、哺乳動物細胞であれば、特に種などの制限はなく、ヒトなどの霊長類由来の細胞(ただし、ヒト生体中の細胞を除く)、マウスなどのげっ歯類由来の細胞などであってもよい。このような細胞に上記トランスポゾンDNAを導入するための方法は、特に限定はなく、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、ジーンガン法などを用いることができ、また、胚細胞などに対しては、マイクロインジェクション法などを用いることができる。
【0045】
このように対象となる哺乳動物細胞に自律的Tol2トランスポゾンDNAを導入することにより、細胞内で自律的Tol2トランスポゾンDNAにコードされたトランスポゼースの作用によりTol2トランスポゾンDNAを染色体内に転移させ、変異哺乳動物細胞を製造することが可能となる。
【0046】
また、第二の変異哺乳動物細胞を製造方法としては、配列番号4に記載の塩基配列のような非自律的Tol2 トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターと、配列番号1に記載の塩基配列に代表されるようなTol2トランスポゼースDNA、このDNAを保持したベクター、配列番号2に記載のアミノ酸配列に代表されるトランスポゼースまたはこのトランスポゼースをコードしたRNAのうち少なくともいずれか一つとを、ヒトを除く哺乳動物細胞に導入する工程を含む方法が挙げられる。
【0047】
上記第一の方法では、製造された変異哺乳動物細胞内でTol2 トランスポゼースが再転移する可能性があるため、この再転移の可能性を抑制するためには、非自立型Tol2トランスポゾンを用いた第二の方法を用いることが好ましい。第二の製造方法においても、上記第一の製造方法と同様に、対象となる哺乳動物細胞は特に限定はない。
【0048】
Tol2トランスポゾンDNAと、トランスポゼース供給源としてTol2トランスポゼースDNA、このDNAを保持したベクターまたはTol2トランスポゼースRNAとを対象細胞へ導入する方法は、第一の製造方法において述べた種々の方法(リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、ジーンガン法、マイクロインジェクション法など)を用いて、コトランスフェクションしてもよい。また、トランスポゼース供給源としてTol2トランスポゼースDNAを用いた場合には、非自律的Tol2トランスポゾンDNAと別々のフラグメントとしてあるいは別々のベクターに担持させた状態で上記コトランスフェクションを実施する以外に、両DNAを同一のベクター上に組み込んで上記方法のいずれかにより哺乳動物細胞内に導入することもできる。また、Tol2 トランスポゼース供給源として、直接Tol2 トランスポゼースタンパク質を用いた場合には、対象細胞に上記非自律的Tol2トランスポゾンDNAマイクロインジェクションによりトランスフェクションする際の同時にタンパク質も供給するか、あるいはエンドサイトーシスを利用して、Tol2 トランスポゼースタンパク質を供給してもよい。
【0049】
上記変異哺乳動物細胞の製造方法は、主に染色体へTol2トランスポゾンを転移させ、ランダムに遺伝子等がノックアウトされた細胞を製造し得る方法として利用することができる。そして、ここで製造された細胞はフォワードジェネティクスのツールとして使用し得る。すなわち、ここで製造された細胞は、何らかの遺伝子の破壊により表現型が変化する可能性がある。そのため、このような方法で製造した細胞の表現型を解析し、表現型が変化した細胞内のトランスポゾンDNAが挿入された遺伝子座を同定することにより、機能遺伝子をスクリーニングすることが可能となる。なお、上記において表現型の解析は、細胞表面に現われる状態を解析するだけでなく、広く細胞における動態変化などの解析も含まれる。また、トランスポゾンDNAが挿入された遺伝子座の同定は、変異導入に用いたトランスポゾンDNAまたはその一部をプローブとして用いたハイブリダイゼーションなどにより実施することができる。
【0050】
また、本発明の変異哺乳動物細胞の製造方法は上述したようにランダムなノックアウト哺乳動物細胞を製造する方法にのみ利用されるのではなく、所望の遺伝子などの核酸が導入されたトランジェニック細胞を製造する目的でも利用することができる。このような所望の外来遺伝子等が導入された細胞を製造する場合には、上記非自律的Tol2 トランスポゾンDNAまたはこれを含むベクター上の非自律的トランスポゾンDNA領域に予め機能を解析したい遺伝子等の所望の核酸を挿入する。そして、所望の核酸が挿入された非自律的Tol2 トランスポゾンDNAまたはこれを含むベクターを対象の哺乳動物細胞に導入する。この非自律的Tol2 トランスポゾンDNAの細胞内への導入と同時にあるいは異なるタイミングで細胞に上記Tol2トランスポゼース供給源(Tol2トランスポゼースDNA、このDNAを含むベクター、Tol2トランスポゼースRNAまたはTol2トランスポゼースタンパク質)を提供する。このTol2トランスポゼースの作用により、細胞内では所望の核酸を含むTol2トランスポゾンDNAが染色体に転移し、この所望の核酸を効率よく染色体上に挿入することができる。このように、本発明のトランスポゾンを所望の遺伝子を染色体へ運搬するための担体として用いることにより、機能を調べたい遺伝子、DNAなどの所望の核酸を染色体に効率よく挿入することができる。そして、ここで製造された細胞はリバースジェネティクスの材料として用いることができる。すなわち、トランスポゾンDNAと共に細胞の染色体に導入された所望の核酸により、表現型が変化すれば、この表現型を解析することにより、この所望の核酸の機能を解析することが可能となる。
【0051】
[遺伝子改変動物の作製方法]
本発明の他の態様は、Tol2トランスポゾンを用いた遺伝子改変動物の作製方法に関する。
【0052】
第一の遺伝子改変動物の作製方法は、ヒトを除く哺乳動物に配列番号3に記載の塩基配列に代表される自律的Tol2 トランスポゾンDNAまたはこれを含むベクターを注入する工程を含む、方法である。
【0053】
本方法の対象となる哺乳動物は、人を除く哺乳動物であればサルなどの霊長類、マウスなどのげっ歯類などを含めることができる。また、これら哺乳動物への上記トランスポゾンDNAあるいはベクターを導入する方法としては、血管内、筋肉内、皮下などに注入することにより動物の体内に輸送することができる。例えば、マウスであれば尾を切断し、尾の静脈血管より上記DNA等を注入することができる。このように注入されたDNAは哺乳動物の組織内などに分配され、体細胞、生殖細胞などに到達し、これら細胞のいずれかにおいてTol2トランスポゾンDNAが染色体に転移して、染色体に変異を有する哺乳動物を作製することができる。なお、ここで生殖細胞内の染色体に上記トランスポゾンDNAが転移した場合には、このトランスポゾンDNAは作製された哺乳動物から子孫へと伝達させ、多くの変異哺乳動物を作製することも可能となる。
【0054】
第二の方法は、配列番号3に記載の塩基配列のような非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを含むベクターと、配列番号1に記載の塩基配列に代表されるTol2トランスポゼースDNA、このDNAを含むベクター、配列番号2に記載のアミノ酸配列に代表されるようなTol2トランスポゼースまたはこれをコードしたTol2トランスポゼースRNAのうち少なくともいずれか一つとを、ヒトを除く哺乳動物に導入する工程を含む、方法である。
【0055】
この第二の方法の場合にも対象となる動物はヒトを除く哺乳動物である。また、これら非自律的Tol2トランスポゾンDNA等およびトランスポゼース供給源(Tol2トランスポゼースDNA、このDNAを含むベクター、Tol2トランスポゼースまたはTol2トランスポゼースRNA)の哺乳動物への注入は、上記第一の方法と同様に、血管内に注入する等により実行することができる。但し、非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはベクターと、上記トランスポゼース供給源との注入のタイミングは、双方同時に行ってもよく、いずれか一方を注入後に他方を注入してもよい。
【0056】
このように非自律的Tol2トランスポゾンDNA等とトランスポゼース供給源とを哺乳動物細胞内に注入することにより、これら注入試料が哺乳動物の組織などに分配され、体細胞、生殖細胞などに到達する。こうした細胞において非自律的Tol2トランスポゾンDNAにトランスポゼースが作用することにより非自律的Tol2トランスポゾンDNAは染色体に転移し、染色体に変異を有する哺乳動物が作製される。なお、この場合にも生殖細胞内の染色体に上記トランスポゾンDNAが転移した場合には、このトランスポゾンDNAは作製された哺乳動物から子孫へと伝達させ、多くの変異哺乳動物を作製することも可能となる。
【0057】
第三の方法は、第二の方法の変形であり、配列番号1に記載の塩基配列に代表されるようなTol2トランスポゼースDNAを保持したヒトを除く哺乳動物と、配列番号4に記載の塩基配列のような非自律的Tol2トランスポゾンDNAを保持したヒトを除く哺乳動物とを交配させ、個体を発生させる工程を含む、方法である。すなわち、一の哺乳動物内に、Tol2トランスポゼース供給源と、非自律的Tol2トランスポゾンDNAとを注入する第二の方法とは異なり、非自律的Tol2トランスポゾンDNAを予め保持した哺乳動物と、トランスポゼースDNAを保持した哺乳動物とを交配させることにより、子孫である哺乳動物内で両DNAを伝達させる点で異なる。このように子孫にこれらDNAを伝達させるためには、非自律的Tol2トランスポゾンDNA、Tol2トランスポゼースDNAはそれぞれの哺乳動物の生殖細胞内で保持されている必要がある。また、この方法では、交配が前提となるため、両哺乳動物は雌雄が異なっている必要がある。
【0058】
なお、親である自律的Tol2トランスポゾンDNAを保持した哺乳動物は、上記第二の方法で作製してもよく、また、自律的Tol2トランスポゾンDNAを保持した胚細胞などから発生させてもよく、またTol2トランスポゼースの作用を用いずに染色体にインテグレーションさせる通常のトランスジェニック個体の作製方法により作製したものであってもよい。また、もう一方の親であるTol2トランスポゼースDNAを保持した哺乳動物は通常のトランスジェニック個体の作製方法により作製することができる(「マウス胚の操作マニュアル」第二版、近代出版、Brigid Hoganら著、山内一也ら訳)。
【0059】
上記3つの遺伝子改変哺乳動物の作製方法は、主に、染色体内に変異を導入したノックアウト個体を作製する目的で用いることができる。そのため、この方法で作製した哺乳動物細胞は、新規の機能遺伝子のスクリーニングに用いることができる。すなわち、ここで作製された変異哺乳動物の表現型を解析し、表現型が変化した動物を選択する。この表現型は全身性のものであっても、特定の臓器あるいは組織特異的なものであってもよい。そして、ここで選択された動物においてトランスポゾンDNAが存在する組織、染色体位置などを同定することにより、機能遺伝子のスクリーニングを行うこともできる。
【0060】
本発明の遺伝子改変動物の作製方法は、上述したようなランダムな遺伝子ノックアウト動物の作製方法として利用できるだけでなく、所望の核酸を導入したトランスジェニック動物の作製方法として用いることもできる。このような目的で本発明の方法を実施するためには、上述した非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはベクター上の非自律的トランスポゾンDNA領域に、所望の核酸を予め挿入する。そして、このように所望の核酸が挿入された非自律的トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターを用いて、上述した本発明の第二の作製方法を実施する。すなわち、所望の核酸が挿入された非自律的Tol2トランスポゾンDNAまたはこれを保持したベクターを哺乳動物に注入する。この注入の際に、非自律的Tol2トランスポゾンを転移させるためのTol2トランスポゼース供給源(上記Tol2トランスポゼースDNA、これを含むベクター、Tol2トランスポゼースRNAまたはTol2トランスポゼースタンパク質)を同時にあるいは別に哺乳動物に注入する。そして、この哺乳動物内において、トランスポゼースの作用により非自律的トランスポゾンDNAを染色体内に転移させることにより、この非自律的トランスポゾンDNAの転移に伴って任意の核酸が染色体内に導入された変異哺乳動物が作製される。この本方法によれば、トランスポゾンの機能を用いることにより哺乳動物に効率良く所望の核酸を導入するが可能となる。そして、この方法を用いれば、哺乳動物に効率良く所望の核酸を導入することにより、所望の機能を付加し得る。また、所望の核酸として、機能を解析したい被験核酸などをトランスポゾン上に載せ、本方法で変異哺乳動物を作製し、作製された動物の表現型を解析することにより、遺伝子の機能を解析する方法としても用いることができる。
【0061】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて、より詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1] 哺乳動物におけるTol2のトランスポジション解析
哺乳動物で利用し得る新たなトランスポゾンを開発するために、Tol2が哺乳動物細胞においてトランスポジションし得るかを以下の2-コンポーネント解析システムを用いて解析した。
【0063】
上記2-コンポーネント解析システムでは、Tol2のシスエレメントを備えたpT2KPKneoとトランスエレメントを備えたpCAGGS-T2TPとの二つのプラスミドを用いた(図1)。先ず、プラスミドpT2KPKneoは以下の通り構築した。pTol2-tyr(Kawakami, K., Shima, A., & Kawakami, N. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11403-11408 (2000))を改変し、Tol2の全長配列(配列番号3)のうち1から2229までの領域と4147から4682までの領域とをXhoI認識配列を含むリンカー配列により接続して非自律的トランスポゾンDNA(配列番号4)を構築した。このDNAをプラスミドpCAGGS(Niwa, H., Yamamura, K. & Miyazaki, J. Gene 108, 193-200 (1991))に組み込み非自律的Tol2トランスポゾンベクターを構成した。そして、上記ベクターに薬剤耐性マーカーを導入するために前記非自律的トランスポゾンDNA内のXhoIにPGK-neoカセット(PGKプロモータの下流にネオマイシン耐性遺伝子が接続され、さらにその下流にPGKのポリA付加シグナル配列を備えたカセット)を挿入し、pT2KPKneoを構築した。一方、もう一つのプラスミドpCAGGS-T2TP は、pCAGGSにTol2 cDNA (配列番号1)を組み込んで構築した。
【0064】
上記pT2KPKneo(50μg)をpCAGGS-T2TP(300μg)またはトランスポゼースを担持しないpCAGGSベクター(300μg)と共にエレクトロポレーションによりマウスES細胞に導入した。エレクトロポレーション後の細胞を数枚のシャーレに分注し、G418(175μg/ml)存在下、標準的なES細胞培養法にて培養した。pT2KPKneoおよびpCAGGS-T2TPのコトランスフェクションでは、総数約1.1×104 G418耐性(G418R)コロニーが得られた。一方、pT2KPKneoおよびpCAGGSベクターのコトランスフェクションでは、約50のG418Rコロニーが得られた。すなわち、pCAGGS-T2TPのコトランスフェクションした際のトランスフォーメーション効率は、pCAGGSベクターを用いた場合に比べて約200倍上昇した。この結果は、pCAGGS-T2TPから発現されるトランスポゼースが、トランスフォーメッション効率に正の影響を与えることを示した。
【0065】
高効率のトランスフォーメーションが、転移カセットのトランスポジションにより染色体にインテグレーションしたことによって生じたのか否かを解析する為に、上記各トランスフェクション実験で得られた10コのG418 耐性コロニーを単離、培養し、各コロニーからのゲノムDNAを抽出して種々の解析を行った。ゲノムDNAのサザンブロット解析では、上記転移カセットがこれらG418耐性ES細胞コロニーにおいて染色体に挿入されていたことが示された(図2a)。次に、図1に示したプライマーf20( 5’-TTTACTCAAGTAAGATTCTAG-3’(配列番号5))およびex4f(5’-GCTACTACATGGTGCCATTCCT -3’(配列番号6))を用いたPCRにより、染色体内に挿入されている配列を解析した。pCAGGS-T2TP (図2b, 上部パネル, レーン 1-10)を用いたコトランスフェクションで得られたESコロニーからは、増幅されたDNAバンドは検出されなかった。一方、pCAGGS (図2b、上部パネル、レーン11-20)を用いたコトランスフェクションから得られたESコロニーからは、約200bpのDNAバンドが増幅された。このPCRの結果より、pCAGGS-T2TPと共にコトランスフェクションしたESクローンでは、転移カセットのみがESクローンに挿入され、隣接するベクター配列の挿入されていないことが示された。
【0066】
最後に、挿入されたTol2配列と隣接するマウスゲノム配列との接続部分を含むDNAフラグメントを解析するために、pCAGGS-T2TPと共にコトランスフェクションされた3つのESクローンからインバースPCRを行い、増幅されたフラグメントのクローニングおよび配列決定を行った。なお、ここで用いた3つのESクローンはサザンブロットにおいて、単一のTol2配列の挿入が検出されたクローンである(図2a、レーン1, 9及び10)。これら3つ全てのクローンにおいて、Tol2挿入がマウスの染色体DNAおよび8bpの順向き繰返配列により囲まれていた。この配列はTol2のターゲットサイトにいつも見出され、また形成されていた(図2c)。トランスフェクションされていないES細胞より、Tol2転移前の上記領域の野生型DNAをクローニングした。各領域には1コピーの8bpの配列が含まれていた。これらの結果より、pCAGGS-T2TPより産生されたトランスポゼースはマウスES細胞内で機能し、このトランスポゼースの作用により非自律的Tol2エレメントが染色体内に転移、挿入された。クローン#10において、Tol2が挿入された領域を囲むゲノム配列の一部はマウスEST配列(BB629503)と完全一致し(118bp/118bp)、この相同性の端は染色体配列上のGTで終わっていた。したがって、このクローンではTol2はエキソンに転移、挿入されている可能性が示唆される。
【0067】
Tol2は魚類だけでなく哺乳動物であるマウスにおいても転移し得ることが示された。Tol2トランスポジション反応に関与する宿主ファクターは知られていないが、このようなファクターがこれら宿主間で共通して存在しているのかもしれない。
【0068】
Tol2 は、Sleeping Beautyが属する Tc1/marinerファミリーとは異なるトランスポゾンhATファミリーに属する。このことは両トランスポゾンシステムが、転移効率や好ましい転移配列などにおいて異なる性質を備えている可能性がある。現実に実際にSleeping Beauty は通常TA配列に転移するが(Ivics, Z., Hackett, P.B., Plasterk, R.H., & Izsvák, Z. Cell 91, 501-510 (1997))、このような特異性はTol2では観察されていない(図2C、Koga, A., Suzuki, M., Inagaki, H., Bessho, Y., & Hori, H. Nature 383, 30 (1996)、Kawakami, K., Shima, A., & Kawakami, N. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11403-11408 (2000)、Koga, A., & Hori, H. Genetics 156, 1243-1247 (2000))。そのため、Tol2は哺乳動物におけるトランスジェニック個体の作製方法や変異導入方法ための新規なツールとして利用し得る。
【0069】
【発明の効果】
本発明により、新規な哺乳動物内で機能するトランスポゾンが提供された。このトランスポゾンは、トランスポゼースを保持した自律的トランスポゾンとしても、トランスポゼースを別にした非自律的トランスポゾンとしても利用することができる。このようなトランスポゾンはノックアウト動物やトランスジェニック動物を作成する際の強力なツールとなり得る。また、本発明では、これらトランスポゾンを用いて哺乳動物の改変方法等が提供された。これら方法は哺乳動物における種々の遺伝子の機能解明あるいは機能遺伝子の発見に大いに役立つことが予想される。
【配列表】
JP0004364474B2_000002t.gifJP0004364474B2_000003t.gifJP0004364474B2_000004t.gifJP0004364474B2_000005t.gifJP0004364474B2_000006t.gifJP0004364474B2_000007t.gifJP0004364474B2_000008t.gifJP0004364474B2_000009t.gifJP0004364474B2_000010t.gifJP0004364474B2_000011t.gifJP0004364474B2_000012t.gifJP0004364474B2_000013t.gifJP0004364474B2_000014t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】 Tol2, pT2KPKneo およびトランスポゼース発現ベクターの構成を模式的に示す図である。Tol2 トランスポゼースmRNA はTol2トランスポゾン上の3つのイントロンを備えたトランスポゼースDNAから転写される。 pT2KPKneoはTol2の一部をPGK-neoカセット(ドットで示した矢尻)で置換されて構成されており、3つのBglII 認識サイトが備えられている。pCAGGS-T2TPは, Tol2 cDNAをpCAGGS(Niwa, H., Yamamura, K. & Miyazaki, J. Gene 108, 193-200 (1991))にクローニングして構築されている。pT2KPKneoの上部に示す黒塗りの線および黒塗りの矢尻はそれぞれ、本解析で用いたプローブおよびプライマーを示す。
【図2】 pT2KPKneo および pCAGGS-T2TPを用いて形質転換したG418耐性ES細胞クローン(クローン#1-10)、pT2KPKneo and pCAGGSを用いて形質転換したG418耐性ES 細胞クローン(クローン#11-20)から抽出したゲノムDNAの解析結果を示す。(a)図1に示したプローブを用いて、BglII消化後のゲノムDNAをサザンブロット解析結果を示す。(b) f20およびex4fプライマー (上段)、PGKr1およびr7プライマー(下段) を用いた PCR解析結果を示す。このPGKr1およびr7プライマーを用いた PCRではDNAサンプル中のTol2 DNAの存在を確認するために実施した。図においてMはマーカー, Eは非形質転換ES細胞DNA, PはpT2KPKneo プラスミドDNA, 「-」はブランク(DNA無し)を示す。(c)はクローン1, 9 および 10のインテグレーション部位のDNA配列を示す。なお、この配列中、Tol2配列はイタリックとして示し、8塩基の順向き繰返配列は下線で示した。
図面
【図1】
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【図2】
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