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明細書 :微粒子集合体配列基板およびその製造方法、並びに当該基板を用いた微量物質の分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4739859号 (P4739859)
公開番号 特開2007-051941 (P2007-051941A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年8月3日(2011.8.3)
公開日 平成19年3月1日(2007.3.1)
発明の名称または考案の名称 微粒子集合体配列基板およびその製造方法、並びに当該基板を用いた微量物質の分析方法
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
B82B   1/00        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
FI G01N 21/65
B82B 1/00
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2005-237470 (P2005-237470)
出願日 平成17年8月18日(2005.8.18)
審査請求日 平成20年8月6日(2008.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】森 康維
【氏名】福岡 隆夫
【氏名】篠原 渚
【氏名】矢野 都世
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】伊藤 裕美
参考文献・文献 特開2004-098246(JP,A)
特開2005-144569(JP,A)
特開平06-277501(JP,A)
調査した分野 G01N 21/62-21/74
B82B 1/00
B82B 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
粒子径1~10μmの高分子物質粒子である第一の粒子と、粒子径10~100nmの金属ナノ粒子である第二のナノ粒子とを準備し、前記第一の粒子と前記第二のナノ粒子とを溶媒中に分散させて分散液を調製する工程A、前記工程Aで得られた分散液を基板上に塗布することにより、当該基板上に、前記第一の粒子が互いに密接した状態で配列した単層膜を形成させると共に、前記第二のナノ粒子を、前記第一の粒子と前記基板との当接点を中心とする円状に配列させる工程B、及び、前記工程Bで得られた基板上に存在している第一の粒子を除去することによって、当該基板上に、前記第二のナノ粒子が、隣り合うナノ粒子と密接した状態、あるいは、密接せずに間隔をあけた状態でリング状に配列したナノ粒子配列構造領域を少なくとも1以上形成させる工程Cにより製造された微粒子集合体配列基板。
【請求項2】
前記高分子物質粒子がポリスチレン粒子又はポリメタクリレート粒子であり、前記金属ナノ粒子が金ナノ粒子又は銀ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子集合体配列基板。
【請求項3】
前記基板上に、複数の前記ナノ粒子配列構造領域が、互いに接触せず離散的に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子集合体配列基板。
【請求項4】
前記第一の粒子の除去を、加熱による焼成処理又は、有機溶媒を用いた溶解処理によって行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の微粒子集合体配列基板。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に特定の微粒子(ナノ粒子)が特定配列にて集合した構造領域を有するナノ構造体(微粒子集合体配列基板)に関するものである。又、本発明は、このような微粒子集合体配列基板を製造するための方法に関するものでもあり、更に、このような微粒子集合体配列基板を表面増強ラマン散乱(SERS)の基質として用いて、測定対象物中に存在する微量物質の分析を行うための方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
近年研究の盛んなナノテクノロジーを支える素材として高機能性ナノ粒子があるが、一般に、光の波長よりも極めて小さなナノ粒子に光を照射しても、ナノ粒子近傍の光強度は微弱である。ところが、ナノ粒子が金や銀などのように誘電率の実部が負である場合、局在プラズモンという一種の光が粒子周辺にしみ出すようになる。この局在プラズモンの振動と入射光の振動が共鳴したとき(局在プラズモン共鳴)、局在プラズモン吸収と呼ばれる強い光の吸収が起こり、例えば金ナノ粒子では530nm近辺に吸収極大波長があり、粒子径が大きくなるに従い、吸収極大波長は長波長側に移動することが知られている。
【0003】
局在プラズモンの電場にラマン活性な分子が存在すると、その分子のラマン散乱強度が増強する現象、すなわち表面増強ラマン散乱が見られ、1974年にFleischmannらは、電気化学的処理で表面に微細な凹凸を施した銀電極上に単分子層吸着したピリジンのラマン散乱を観測し、ラマン散乱強度が増大していることを見い出している(非特許文献1参照)。このようなラマン散乱の増強の機構はいまだ定量的には説明されていないが、励起光が局在プラズモンの働きで、驚異的に増強される作用(電磁場機構)と、励起光と吸着分子の電荷移動準位とが共鳴する作用(化学的機構)の相乗効果によると考えられている。

【非特許文献1】M.Fleischmann, P.J. Hendra, and A.J. McQuillan, Chem. Phys. Lett., 26,163 (1974)
【0004】
最近では、金ナノ粒子のSERSへの応用(非特許文献2)についても報告されており、又、ナノ粒子を集合・集積し、ナノ秩序構造を再現良く作製できるナノ球リソグラフィーに関する文献としては、例えば以下の非特許文献3及び4が挙げられる。

【非特許文献2】福岡隆夫、森康維、ケミカル・エンジニヤリング、36~39ページ(2004年8月号)
【非特許文献3】John C. Hulteen et al.,Nanosphere Lithography: Size-Tunable Silver Nanoparticle and Surface ClusterArrays, J. Phys. Chem. B 1999, 103, 3854-3863
【非特許文献4】Traci R. Jensen et al.,Nanosphere Lithography: Tunable Localized Surface Plasmon Resonance Spectra ofSilver Nanoparticles, J. Phys. Chem. B 2000, 104, 10549-10556
【0005】
上記非特許文献3及び4に記載された、基板上への微小物体の配列・固定化方法においては、特定の粒子径範囲のポリスチレン粒子を用いてスピンコート法によってポリスチレン粒子単層膜を作製し、その上から銀を蒸着させ、その後ジクロロメタンによりポリスチレン粒子を除去することによってその粒子空間となっていた部分の基板に銀の蒸着膜を規則的に配列・固定化させている。
【0006】
ナノレベル微細構造の効率的な作製法は、ナノサイズ効果を利用するデバイス開発に有用であり、粒子配列を鋳型とするナノ球リソグラフィーは、ドライプロセスの大がかりな装置やパターンマスクは不要であるが、1)ポリスチレン粒子を配列させた単層膜の作製、2)貴金属の蒸着による、ポリスチレン粒子間の隙間への貴金属の微細配列構造の作製、3)ポリスチレン粒子の除去という三段階の製造過程が必要であった。しかも分析デバイスとして用いられるとき、得られる微細配列構造が、配列粒子間隙によって決まる実質的に三角柱状部分等のエッジに限定されるため、相対的に活性点の密度が劣るという問題点があった。しかもそのようなエッジは腐食を受けやすく、容易に劣化、失活するという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、第1に、ナノ球リソグラフィーにおける上述の問題点を解決し、ナノ粒子が集合・集積された構造を有する、従来にない新規なナノ粒子配列構造が形成された基板(微粒子集合体配列基板)を提供するものであり、本発明では、ナノ粒子が、鎖状あるいはリング状に列をなして配列されて構成されたスポット状の領域(ナノ粒子配列構造領域)を、基板上に離散的に配置させて形成させることを課題とする。
第2に、本発明の課題は、このようなナノ粒子配列構造領域が基板上に形成された微粒子集合体配列基板を、比較的簡便に製造するのに適した方法を提供することでもある。
第3に本発明は、上記の微粒子集合体配列基板を用いて、測定対象物中に存在する微量物質を高分解能・高感度で分析するための方法を提供することを課題とするものでもある。
【0008】
本発明者等は、ウエットプロセスにおいて第一の鋳型粒子に依存して、第一の鋳型粒子の下方側に円をなして第二の粒子が自己集合するという現象を利用することによって、ナノ粒子が列をなした状態で配置された構造の微粒子集合体配列基板を、再現性良く、大がかりな装置を必要とせずに、簡便に製造できることを見い出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、上記の課題を解決可能な本発明の微粒子集合体配列基板は、基板上に、ナノ粒子が配列されることによって形成されたナノ粒子配列構造領域が少なくとも1以上存在しており、当該ナノ粒子配列構造領域においては、前記ナノ粒子が列をなした状態で配置されていることを特徴とする。本発明では、前記ナノ粒子配列構造領域において、前記ナノ粒子が列をなした状態が、鎖状あるいはリング状であってもよい。
更に、本発明は、上記の特徴を有した微粒子集合体配列基板において、前記基板上に、ナノ粒子が配列されることによって形成された複数のナノ粒子配列構造領域が、互いに接触せず離散的に形成されていることを特徴とするものでもある。
又、本発明は、上記の特徴を有した微粒子集合体配列基板において、前記ナノ粒子が、粒子径10~100nmの金ナノ粒子又は銀ナノ粒子であることを特徴とするものでもある。
【0010】
更に、本発明は、上記の微粒子集合体配列基板を製造するための方法であって、当該方法は、1~10μmの粒子径を有する第一の粒子と、粒子径10~100nmの第二のナノ粒子とを準備し、前記第一の粒子と前記第二の粒子とを溶媒中に分散させて分散液を調製する工程Aと、前記工程Aで得られた分散液を基板上に塗布することにより、当該基板上に、前記第一の粒子が互いに密接した状態で配列した単層膜を形成させると共に、前記第二のナノ粒子を、前記第一の粒子と前記基板との当接点を中心とする円状に、第二のナノ粒子が列をなした状態で配列させる工程Bと、前記工程Bで得られた基板上に存在している第一の粒子を除去することによって、前記基板上に、前記第二の粒子が、列をなした状態で配列したナノ粒子配列構造領域を少なくとも1以上形成させる工程Cとを含むことを特徴とする。
又、本発明は、上記の特徴を有した微粒子集合体配列基板の製造方法において、前記工程Cにおける第一の粒子の除去を、加熱による焼成処理又は、有機溶媒を用いた溶解処理によって行うことを特徴とするものである。本発明では、前記第一の粒子と前記基板との当接点を中心とする円状に、第二のナノ粒子が列をなした状態が、鎖状あるいはリング状であってもよい。
又、本発明の製造方法は、前記基板上に、ナノ粒子が配列されることによって形成された複数のナノ粒子配列構造領域が、互いに接触せず離散的に形成されていることを特徴とするものでもある。
更に、本発明の製造方法は、前記ナノ粒子が、粒子径10~100nmの金ナノ粒子又は銀ナノ粒子であることを特徴とするものでもある。
【0011】
又、本発明の微量物質の分析方法は、測定対象物中に存在する微量物質の分析を行うための方法であって、当該方法は、基板上に、ナノ粒子が配列されることによって形成されたナノ粒子配列構造領域が少なくとも1以上存在し、当該ナノ粒子配列構造領域において、前記ナノ粒子が列をなした状態で配置されている微粒子集合体配列基板を準備する工程A’と、前記微粒子集合体配列基板上に形成されたナノ粒子配列構造領域に存在する前記ナノ粒子に前記測定対象物を付着させ、当該ナノ粒子配列構造領域にレーザ光を照射し、この際に観察されるラマン散乱光から前記微量物質を計測(同定又は定量)する工程B’を含むことを特徴とする。本発明では、当該ナノ粒子が列をなした状態が、鎖状あるいはリング状であってもよい。
又、本発明は、上記の分析方法において、前記基板上に、ナノ粒子が配列されることによって形成された複数のナノ粒子配列構造領域が、互いに接触せず離散的に形成されていることを特徴とするものでもある。
更に、本発明は、上記の分析方法において、前記ナノ粒子が、粒子径10~100nmの金ナノ粒子又は銀ナノ粒子であることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微粒子集合体配列基板の場合、金や銀のナノ粒子が列をなした状態で配置されたナノ粒子配列構造領域が少なくとも1以上存在するナノ構造体は従来知られておらず、新規なナノ構造体が実現される。
又、第一の粒子と第二の粒子を同時に展開させるという簡便なウエットプロセスで、第二の粒子の配列構造領域が規則的に配列された基板を製造することは従来知られておらず、第一の粒子と第二の粒子の粒子径及び混合比率を適宜選択することによって、第二の粒子の配列状態(粒子同士の間隔および密接状態)を種々変化させることが可能であり、第二の粒子の種類に応じて、多様な基板を再現性良く、大がかりな装置を必要とせずに、簡便に製造することができる。
更に、金や銀のナノ粒子が列をなした状態で配置されたナノ粒子配列構造領域は、効率的に光を受けるアンテナとなり、表面増強ラマン散乱の基質として機能し、有効な分析デバイスとなる。
本発明の微量物質の分析方法を用いることにより、測定対象物中に存在する微量物質を高感度で分析することができ、従来の蛍光計測では困難な物質の同定や、干渉の少ない近赤外光による分光測定や、色素標識が不要な分光測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず最初に、本発明の微粒子集合体配列基板について、第二の粒子に金ナノ粒子を用いて説明する。もちろん第二の粒子が金ナノ粒子に限定されるわけではない。
図1(a)は、本発明の微粒子集合体配列基板(基板の材質:マイカ)の表面に形成されたナノ粒子配列構造領域(金ナノ粒子集合体)の配置状態を示す顕微鏡写真であり、この顕微鏡写真は、走査型レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)を用いて撮影されたものである。又、図1(b)は、図1(a)の基板上に形成されたナノ粒子配列構造領域における第二の粒子(金ナノ粒子)の配列状態及び集合状態を示す顕微鏡写真(走査範囲:15μm×15μm)であり、この顕微鏡写真は、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所社製、SPM-9500J3)を用いて撮影されたものである。
図1(a)に示されるようにして、本発明の微粒子集合体配列基板においては、基板上に、ナノ粒子配列構造領域が規則正しく配置されて複数箇所に離散的に存在しているが、本発明はこのような配列に限定されるものではなく、ナノ粒子配列構造領域は、基板上に少なくとも1以上存在すればよい。そして、本発明の微粒子集合体配列基板におけるナノ粒子配列構造領域においては、図1(b)に示されるようにして、金ナノ粒子(粒子径:50nm)が、二次元的に列をなした状態で配置されている。第二のナノ粒子は、鎖状あるいはリング状に列をなして配列していてもよい。
【0014】
本発明では、上記のナノ粒子配列構造領域を構成するナノ粒子として、多様なナノ粒子が使用でき、各種の金属ナノ粒子、無機物ナノ粒子、高分子物質ナノ粒子等を使用することができる。これらの中では、特に貴金属ナノ粒子(金ナノ粒子、銀ナノ粒子)を使用したときにSERS基質として好適である。又、ナノ粒子の粒子径についても、使用するデバイスの目的に応じて適宜好ましい粒子径を選択できるが、粒子径が10~100nmのものがSERS基質として好ましく、市販の金コロイド溶液を使用してもよい。
尚、基板としては、水系分散液との親和性に優れた材質のものであればよいが、特にガラス板やマイカ板が好ましく、本発明における基板は、酸処理やプラズマ処理や紫外線照射などの公知の方法にて親水化処理されてもよい。
【0015】
次に、上記微粒子集合体配列基板を製造するための本発明の方法を、図面を用いて説明する。図2は、本発明の微粒子集合体配列基板の製造方法における製造工程を示す概念図である。
まず最初に、粒子径が1~10μmである第一の粒子と、粒子径が10~100nmの第二のナノ粒子とを準備する。第一の粒子としては、例えば、ポリスチレン粒子やポリメタクリレート粒子等の高分子物質粒子やシリカ等の無機物質粒子を用いることができる。第二のナノ粒子としては、前記のような各種の金属ナノ粒子、無機物ナノ粒子、高分子物質ナノ粒子等を使用することができ、SERS基質として用いる場合には、金ナノ粒子や銀ナノ粒子を用いる。準備した前記第一の粒子と前記第二の粒子とを適切な混合比率にて溶媒中に分散させて分散液を調製する(工程A)。そして、この分散液を基板上に展開塗布して乾燥を行うと、基板上において、第一の粒子が互いに密接した状態で配列した単層膜を形成する一方、粒子径が小さい方の第二のナノ粒子が、各第一の粒子の下側周面において、第一の粒子と基板との当接点を中心とする円状に自己集合し(図2参照)、溶媒が蒸発した際には、第二のナノ粒子が列をなした状態で配列した状態となる(工程B)。このとき、円状に自己集合する第二のナノ粒子は、鎖状あるいはリング状に列をなして配列することがある。最後に、上記工程Bで得られた基板上に存在している第一の粒子を、加熱による焼成処理や有機溶媒を用いた溶解処理等によって除去し、基板上に、第二の粒子が列をなした状態で配列したナノ粒子配列構造領域を形成させる(工程C)。
【0016】
本発明では、上記工程Aにおける第一の粒子と第二のナノ粒子との粒子個数比率は、それぞれの粒子の種類や粒子径、又、最終的に形成されるナノ粒子配列構造領域におけるナノ粒子の配列状態、すなわち、隣り合うナノ粒子が密接した状態であるか、密接せずに間隔をあけた状態であるか、リング状であるか、鎖状であるか、などによって適宜調整され、1個の第一の粒子に対して1個のナノ粒子配列構造領域が形成されることになるので、理論的には分散液中の第一の粒子と第二のナノ粒子との粒子個数比率がそのまま、1個のナノ粒子配列構造領域を構成するナノ粒子の個数となる。尚、第一の粒子と第二のナノ粒子の粒子径比については、第二のナノ粒子の粒子径が第一の粒子の粒子径の1/50~1/150程度となるように選択するのが好ましい。
上記工程Aにて分散液を調製する際、第一の粒子がポリスチレン粒子で、第二のナノ粒子が金ナノ粒子である場合には、市販のポリスチレン粒子と金ナノ粒子とを水に分散させて調製することもできるが、市販の金コロイド溶液中にポリスチレン粒子を分散させてもよい。又、溶媒は水が一般的ではあるが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の製法における工程Bでは、上記工程Aで得た分散液を基板上に塗布するが、この際、塗布方法は限定されない。第一の粒子と第二のナノ粒子を含む上記分散液の具体的な塗布方法としては、ディップコート法やスピンコート法が挙げられる。分散液に基板を浸漬させ、徐々に引き上げながら粒子を配列させて粒子膜を形成するディップコート法は、大面積化が容易で、どのような基板形状にも適用可能であるという利点はあるものの、基板の形状や膜の形成状況に応じて引き上げ速度を細かくコントロールする必要があり、製膜に長時間を要する。これに対して、スピンコート法は、回転速度が速くなると粒子が遠心力によって基板から排除されて粒子膜が形成できなくなるが、低速(例えば200rpm以下)の場合には粒子膜を形成することが可能であり、短時間での塗布および乾燥が可能な方法である。
この工程Bにおいては、図2に示されるようにして、コーティングした直後には分散液中にナノ粒子は分散しているが、溶媒の蒸発に伴い、溶液と大気との界面の低下(メニスカスの形成)に伴う分散液の流れのためにナノ粒子も移動し、最終的に第一の粒子の下側に入り込んで、ナノ粒子が列をなした状態に配列し、乾燥により基板上に固定される。
【0018】
そして最後の工程Cにおいては、上記工程Bで得られた基板上に存在している第一の粒子を除去するが、この場合の除去方法としては、加熱による焼成処理や有機溶媒を用いた溶解処理等を用いることができる。
加熱による焼成処理
第一の粒子としてポリスチレン粒子を用いた場合の最適加熱温度を調べるために、熱分析装置システム(WS002、マックサイエンス社製)を用いてポリスチレン粒子の熱分析を行った結果、完全燃焼温度は約450℃であることが確認された。従って、この温度よりも低い温度においてはポリスチレン粒子が基板上に残存することになり、逆に、ナノ粒子として金ナノ粒子を用いて600℃以上の温度で加熱を行った場合には、金ナノ粒子の溶融が起こる。これらのことから、焼成処理によりポリスチレン粒子を除去する場合には、500℃前後の温度が好ましい。
有機溶媒を用いた溶解処理
第一の粒子としてポリスチレン粒子を用いた場合、この粒子を溶解除去するには、トルエンやジクロロメタン等の有機溶媒が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。しかしこれに限定されるものではない。尚、この溶解処理は、基板を有機溶媒中に浸漬させた状態で静置させるだけでよい。
本発明では、この工程Cによって、第一の粒子を除去され、基板上に、第二の粒子が列をなした状態で配列したナノ粒子配列構造領域が離散的に形成された微粒子集合体配列基板が製造される。
【0019】
前述の微粒子集合体配列基板を用いて、測定対象物中に存在する微量物質の分析を行うための本発明の方法では、まず最初に、第二の粒子に貴金属ナノ粒子を用いて前述のナノ粒子配列構造領域が形成された基板を準備し(工程A’)、この基板上に形成された貴金属ナノ粒子配列構造領域を構成している貴金属ナノ粒子に測定対象物を付着させ(一般的には溶液を接触させる)、この貴金属ナノ粒子配列構造領域にレーザ光を照射し、この際に観察されるラマン散乱光から微量物質を計測(同定又は定量)することができる。例えば、観察されるラマン散乱光を分光してラマンスペクトルを得る。このようにして得られるラマンスペクトルは、原子の結合または原子団と、その特性バンドから固有の波数の位置にピークが現われたものとなり、このピーク波数から微量物質の分子種を特定することができる(工程B’)。
本発明の微量物質分析法においては、微粒子集合体配列基板をSERS基質として用い、通常のラマン散乱強度に比べて10~1014倍も増大する表面増強ラマン散乱(SERS)を利用する。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1:本発明の微粒子集合体配列基板の製造例
工程A:
第一の粒子としてポリスチレンラテックス(粒子径6μm,2.6wt%,3.0×10粒子個数/ml,Polysciences, Inc.社製)、第二のナノ粒子として、金コロイド溶液(粒子径50nm,4.5×1010粒子個数/ml,British BioCell社製)を用いた。これらを、ポリスチレン粒子と金ナノ粒子との粒子個数比が1:18となるように混合したものを試料溶液として用いた。
工程B:
基板には、ガラス板とマイカ板を用いた。ガラス板には、直径15mmのカバーガラス(MATSUNAMI社製)を硝酸(特級、含有量61%、和光純薬工業社製)中で一晩静置することによって親水化処理し、その後 MILLI-Q水で洗い流したものを乾燥させて用いた。マイカ板(応研商事社製)は1.5cm×1.5cmの大きさに鋏で切り、実験直前にテープでへき開してその内側の面を使用した。
そして、市販のスピンコーター(1H-DX2,ミカサ社製)を用いて、上記基板を200rpmの回転速度にて回転させ、その上から上記の試料溶液約75mlを滴下し、塗布・乾燥させた。尚、回転時間は試料溶液が乾くまでとし、約7分間とした。このようにして得られた基板の表面を、走査型電子顕微鏡(S-4300、日立製作所)を用いて観察したところ、約1500μm×1700μmの単層膜が得られ、そのうち50μm×100μm程度の面積においては、全く欠陥のない単層膜であることが確認された。
工程C:
その後、上記基板をそれぞれジクロロメタン(和光純薬工業社製)中に5分間静置し、ポリスチレン粒子を溶解除去することによって、基板上に金ナノ粒子が配列して形成されたナノ粒子配列構造領域が存在し、当該ナノ粒子配列構造領域において、金ナノ粒子が列をなした状態で鎖状あるいはリング状に配置された構造の本発明の微粒子集合体配列基板が製造できた。
尚、このようにして得られた微粒子集合体配列基板の表面を、走査型レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)を用いて撮影したところ、図1(a)に示されるような画像が得られ、この画像から、金の集合体と考えられるナノ粒子配列構造領域の中心間距離は約6μmであることがわかり、この距離は、使用したポリスチレン粒子の粒子径(6μm)と一致している。従って、ナノ粒子配列構造領域の配置から、各集合体は、ポリスチレン粒子が基板(図1(a)の基板はマイカ板である)に接していた部分に点在していると考えられ、ポリスチレン粒子単層膜を鋳型として金ナノ粒子の集合体を基板上に規則的に配列できることが確認できた。
【0021】
実施例2:本発明の微粒子集合体配列基板を用いた微量物質の分析例
1mMの4,4‘-ビピリジン(BiPy)水溶液を調製し、この水溶液を、上記実施例1で得られた本発明の微粒子集合体配列基板のナノ粒子配列構造領域面に滴下して付着させ、測定試料とし、測定装置としてジョバンイボン社製顕微ラマン分光器LabRam1Bを用いてSERSを測定した。図3に、この測定試料のSERSスペクトルを、マイカ板上に上記水溶液を滴下して得た比較試料のラマン散乱スペクトル、及び通常のラマン散乱スペクトルとともに示す。
図3に示されるように、マイカ板上に上記BiPy水溶液を滴下して得た比較試料のラマン散乱スペクトルと、通常のラマン散乱スペクトルの場合には、ピリジン環に由来するラマンシフトが観察されなかったが、本発明の微粒子集合体配列基板を用いて得られた測定試料においては、金ナノ粒子表面上でのBiPyのラマンシフトが観察され、SERSによる高感度の分析ができることがわかった。
尚、図3のラマンスペクトルは、S.-W Joo, Surface-enhanced
Raman scattering of 4,4’-bipyridine on gold nanoparticle surfaces, Vibration
Spectroscopy, 34, 269-272 (2004)の表1に示されている既知の結果とよく一致した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の微粒子集合体配列基板は、従来にない新規なナノ構造体を与えるものである。
又、本発明の製法は、大がかりな装置を必要とせずに、上記の微粒子集合体配列基板を再現性良く、安定して、比較的低コストにて製造するのに適している。また貴金属ナノ粒子を用いたとき、表面増強ラマン散乱の基質として機能し、有効な分析デバイスとなり、測定対象物中に微量存在する微量物質の分析が高感度で行える。
更に、本発明では、ナノ粒子が分散された溶液の粒子個数濃度を変えることによりその集合体の大きさの制御が可能で、また鋳型として用いるポリスチレン粒子の粒子径を変えることによりその集合体間距離の制御が可能で、分析対象物質に応じた微粒子集合体配列基板が製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)は、本発明の微粒子集合体配列基板(基板の材質:マイカ)の表面に形成されたナノ粒子配列構造領域(金ナノ粒子集合体)の配置状態を示す顕微鏡写真であり、図1(b)は、図1(a)の基板上に形成されたナノ粒子配列構造領域における第二の粒子(金ナノ粒子)の配列状態及び集合状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の微粒子集合体配列基板の製造方法における製造工程を示す概念図である。
【図3】実施例2における、本発明の微粒子集合体配列基板を用いた場合の4,4‘-ビピリジンのSERSスペクトル、マイカ板を用いた場合のラマン散乱スペクトル、及び通常のラマン散乱スペクトルを示す図である。
図面
【図3】
0
【図1】
1
【図2】
2