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明細書 :磁性体材料の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4858941号 (P4858941)
公開番号 特開2007-088215 (P2007-088215A)
登録日 平成23年11月11日(2011.11.11)
発行日 平成24年1月18日(2012.1.18)
公開日 平成19年4月5日(2007.4.5)
発明の名称または考案の名称 磁性体材料の製造方法
国際特許分類 H01F   1/34        (2006.01)
C04B  35/36        (2006.01)
H01F   1/36        (2006.01)
H01F  41/02        (2006.01)
C04B  35/26        (2006.01)
FI H01F 1/34 D
C04B 35/36 B
H01F 1/36
H01F 41/02 D
C04B 35/26 K
請求項の数または発明の数 3
全頁数 21
出願番号 特願2005-275314 (P2005-275314)
出願日 平成17年9月22日(2005.9.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2005年3月22日 社団法人日本セラミックス協会発行の「2005年年会講演予稿集」に発表
審査請求日 平成20年9月18日(2008.9.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】廣田 健
【氏名】庄田 良史
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】池田 安希子
参考文献・文献 特開昭49-059999(JP,A)
特公昭44-004468(JP,B1)
特開2003-338406(JP,A)
特開2005-209708(JP,A)
特開平03-271171(JP,A)
特開2005-213111(JP,A)
特開2005-225711(JP,A)
国際公開第03/084894(WO,A1)
特表平09-507960(JP,A)
特公昭46-014944(JP,B1)
特公昭39-006925(JP,B1)
特開平07-271171(JP,A)
調査した分野 H01F 1/34
C04B 35/26
C04B 35/36
H01F 1/36
H01F 41/02
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも一般式Mg(Fe1-xMn(xはMnの固溶量、0<x≦0.4)で構成されている、MgFeフェライトのFeの一部がMnに置換されてなるスピネル型フェライト磁性材料を製造するための方法であって、
Mg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料を蒸留水に溶解して混合水溶液を調製する工程と、
前記混合水溶液にクエン酸とエチレングリコールを加えて金属-クエン酸錯体を調製する工程と、
前記金属-クエン酸錯体をゲル状になるまで加熱攪拌したのち乾燥することにより前駆体を得る工程と、
前記前駆体を粉砕したのち加熱処理することにより、前記前駆体から仮焼粉体を得る工程と、
前記仮焼粉体を整粒後、加圧成型して成形体を作製する工程と、および、
前記成形体を焼結させて焼結体を作製する工程と、
からなり、
前記前駆体を、前記金属-クエン酸錯体を80℃~120℃の温度、及び2時間~8時間の条件で加熱攪拌したのち、130℃~180℃の温度、及び12時間~36時間の条件で乾燥することにより得、
前記仮焼粉体を、前記前駆体を粉砕したのち、大気中で600℃~1000℃の温度、及び1時間~8時間の条件で加熱処理することにより得、
前記成形体を、前記仮焼粉体を整粒後、一軸金型成形により50MPa~150MPaの条件で加圧成型して作製し、さらに、
前記焼結体を、前記成形体をホットプレスにより大気中で1200℃~1400℃の温度、1時間~4時間、及び20MPa~50MPaの条件で焼結させて作製する、
ことを特徴とするフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記Mg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料が、硝酸マグネシウム(II)六水和物(Mg(NO・6HOと、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HOと、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO・6HOとからなることを特徴とする請求項1に記載のフェライト磁性材料の製造方法。
【請求項3】
前記クエン酸が無水クエン酸(C(CHCOOH)(OH)(COOH))又はクエン酸一水和物C・HOからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト磁性材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品・電子機器において有効に使用される磁性材料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Feを主成分とする磁性酸化物の総称であるフェライトは、組成や製造方法によって結晶構造、磁気特性が大きく変化する特徴を有しており、現在ではその様な特性を利用して永久磁石や電磁波吸収材料のほか、磁心材料や磁気記録材料として既に広く用いられている。
近年では、フェライト材料の重要性は一層増しており、例えば(1)情報通信技術の発展に伴い、100Gbit/inchを超える高密度の垂直磁気記録を可能にする垂直磁気記録材料としてのフェライトのほか、(2)パワーエレクトロニクス技術の発展に伴う機器の小型高密度化により使用周波数の高周波化が進んでいることを踏まえ、より高周波領域で使用するために磁気特性のほかに電気抵抗率の高いフェライトが要望されている。
特に、スイッチング電源その他のトランス用磁芯に用いられる磁性材料においては、高周波化への対応が急務とされ、小型化した場合の発熱を防止するために、高周波において低損失であることが強く求められている。
【0003】
ここで、一般的にトランス磁芯材料には、大きく分けて酸化物フェライト系材料のほか、金属系材料が存在する。しかしながら金属系の材料は、飽和磁束密度B、透磁率μとも高いという長所がある一方、電気抵抗率ρが10-6~10-4Ω・cm程度と低いため、高周波においては渦電流損が生じ、損失が大きくなるという欠点があった。
【0004】
一方フェライト系材料は、飽和磁束密度は金属系材料の1/2程度しかないが、電気抵抗率ρは通常用いられているMnZn系のもので1Ω・cm程度と、金属系材料に比べて各段に高い値を得ることが出来る。そのため、渦電流損失が小さく、(1)特別な工夫をする事なく比較的高周波まで使用でき、また(2)複雑形状のものも容易に作れ、かつ(3)低コストであるといった特徴を持つ。従って、一般に高いスイッチング周波数を扱うスイッチング電源等に用いるトランス磁芯材料としては、このフェライト系の材料が多用されている。
【0005】
しかしながら、このようなフェライト系材料においても、MHzオーダー或いはそれ以上の高周波数において使用する場合には、電気抵抗が十分ではなく、渦電流損失が大きくなって発熱が生じるという問題点があった。そこでCaOやSiOを添加する事により電気抵抗率を10~100Ω・cm程度と高めたものも作製されているが(特許文献1参照)、このような添加物は、フェライト自身と反応してその磁気特性を劣化させ、渦電流損失はある程度減少しても、ヒステリシス損失を増加させてしまい、結果としてトータルな損失はあまり低下しないという問題があった。
又新たに、MnZn系よりも電気抵抗の大きなNiZn系フェライトや、それよりもさらに電気抵抗の大きなMgFeからなるMgフェライトなるものも既に開発されているが(非特許文献1参照)、それでもMHzオーダーの高周波で機器を動作させるに当たっては十分な性能が得られないという問題があった。その他、フェライトをより実用的な材料とするため、Li-Zn-CuフェライトのFeの一部をMnで置換し、電気抵抗を向上させたという研究も報告されている(非特許文献2参照)が、これについても理論的、性能的に十分なものではなかった。
【0006】
ところで、フェライトの分子式は一般的にMO・Feのように表される(Mは2価の金属イオン)。この一群の物質は鉱物のスピネル(MgO・Al)の結晶構造と同じであることからスピネル型フェライトと呼ばれる。スピネル型フェライトは[MFe]8分子で単位胞を形成し、図12に示される様な結晶構造を持っている。ここで、単位胞は24個の金属イオンと32個の酸素イオンを含んでいる。また、金属イオンの入る位置はA及びBの2種類がある。A位置は8個あって、近接4個の酸素イオンO2-に四面体的に囲まれ、8aの点或いは四面体位置と呼ばれる。又B位置は16個あって、近接6個の酸素イオンO2-に八面体的に囲まれ、16dの点或いは八面体位置と呼ばれる。
この場合、金属イオンの入り方には3種類あり、MがA位置に入る正スピネルと呼ばれるもの、MがB位置に入る逆スピネルと呼ばれるもの、そして、正スピネルと逆スピネルの中間体に属するものがある。すなわち、正スピネル型はM2+イオンが全部A位置に、Fe3+イオンが全部B位置に入るものであり、M2+[Fe3+]O2-で表わされる。逆スピネル型ではM2+イオンが全部B位置に、Fe3+イオンが半分ずつA位置及びB位置に入り、Fe3+[Fe3+2+]O2-で表わされる。また、正スピネルと逆スピネルの中間体とは、MがA位置とB位置の両方に配分されているものであり、上記MgFeはそれに属する。
【0007】
このように、スピネルフェライトは原料混合を行うことによって多様な組み合わせが実現され得るため、非常に変化に富んだ組成をもつ磁性材料を作り出すことが可能である。その中でもMgFeは、軟磁性スピネルフェライトの中でも比較的高電気抵抗を示すものとして知られている。
しかしながら、如何に多様な組み合わせがあるといえども、MHzオーダーの高周波領域において、磁気特性である透磁率μ、磁化σに加え、電気抵抗率ρが十分に高く高周波損失特に鉄損の低減に有効な、磁気特性及び電気特性の優れたフェライトは、結局のところ現在に至るまで満足に提供されていなかったのである。

【特許文献1】特開平1-234357号公報
【非特許文献1】武井武, “フェライトの理論と応用”, 丸善, p.44-48(1960年)
【非特許文献2】T.Murase, T.Aoki, H.Umeda, Abs. Spring Meeting J. Jpn. Soc. Powder & Powder Metallurgy, p.108(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明は、上記課題を解決し、高周波帯域における透磁率μ、磁化σ及び電気抵抗率ρがより高く、鉄損が更に少ない磁性体材料製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、本願発明者は、軟磁性スピネルフェライトの中でも比較的高電気抵抗を示すMgFeからなるMgフェライトについて、そのFeのサイトにMnを添加、つまりMgFeのFeの一部をMnに置換することにより、電気抵抗率ρその他の諸特性の更なる向上が期待できることを見い出し、本発明を完成した。
【0012】
上記課題を解決可能な本発明のフェライト磁性材料を製造するための方法、()少なくとも一般式Mg(Fe1-xMn(xはMnの固溶量、0<x≦0.4)で構成されている、MgFeフェライトのFeの一部がMnに置換されてなるスピネル型フェライト磁性材料を製造するための方法であって、
Mg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料を蒸留水に溶解して混合水溶液を調製する工程と、
前記混合水溶液にクエン酸とエチレングリコールを加えて金属-クエン酸錯体を調製する工程と、
前記金属-クエン酸錯体をゲル状になるまで加熱攪拌したのち乾燥することにより前駆体を得る工程と、
前記前駆体を粉砕したのち加熱処理することにより、前記前駆体から仮焼粉体を得る工程と、
前記仮焼粉体を整粒後、加圧成型して成形体を作製する工程と、および、
前記成形体を焼結させて焼結体を作製する工程と、
からなり、
前記前駆体を、前記金属-クエン酸錯体を80℃~120℃の温度、及び2時間~8時間の条件で加熱攪拌したのち、130℃~180℃の温度、及び12時間~36時間の条件で乾燥することにより得、
前記仮焼粉体を、前記前駆体を粉砕したのち、大気中で600℃~1000℃の温度、及び1時間~8時間の条件で加熱処理することにより得、
前記成形体を、前記仮焼粉体を整粒後、一軸金型成形により50MPa~150MPaの条件で加圧成型して作製し、さらに、
前記焼結体を、前記成形体をホットプレスにより大気中で1200℃~1400℃の温度、1時間~4時間、及び20MPa~50MPaの条件で焼結させて作製する、
ことを特徴とするものである。
【0013】
ここで、()前記Mg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料は、硝酸マグネシウム(II)六水和物(Mg(NO・6HOと、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HOと、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO・6HOとからなることが好ましい。
また、()前記クエン酸は無水クエン酸(C(CHCOOH)(OH)(COOH))又はクエン酸一水和物C・HOからなることが好ましい。
【0015】
[用語の定義]
尚本明細書において、錯体重合法又はクエン酸ゲル法とは、複数種の金属イオンとクエン酸との間で安定なキレート錯体を形成させ、これをエチレングリコール中に溶解分散し、この溶液を加熱重合エステル化させて均一な状態で金属錯体をポリエステル中に閉じ込め、その後、この高分子金属錯体を加熱焼成して目的物質を合成する方法を指し示すものとする。このようにして得られた高分子金属錯体のネットワーク構造は、おもにエステル重合と共重合により形成されており、非常に安定化されているため、金属イオンの移動度は小さく、その後の加熱焼成過程における金属元素の凝集や偏析を抑え得る作用効果を奏する。
以下に説明する本発明の一実施例では、金属硝酸塩を水に溶かし、クエン酸を加えて金属クエン酸錯体をつくり、そこにエチレングリコールを加えエステル重合させてゲルを得、このゲルを仮焼、本焼して酸化物を得る方法を錯体重合法又はクエン酸ゲル法と称している。
【0016】
固相法とは、出発原料となる複数種の原料粉体を所定量に秤量、混合後、仮焼を経て目的物質を合成する方法を指し示すものとする。固相反応法とも呼ばれる。
又ホットプレスとは、粉体或いは予め成形した原料を型に入れ、高温で加熱しながら加圧焼結させる方法を指し示すものとする。理論密度に近い緻密焼結体が得られるほか、焼結体の微細構造を制御できるので、高強度焼結体など機械的性質、物理的性質の優れた焼結体を作製することが可能である。さらに、異種材料間の界面接触がよくなるほか、結晶同士或いは異種材料を結合できる等の特長がある。
さらに、格子定数とは、結晶格子の単位格子の稜の長さa、b、cと、相互の間の角度α、β、γを言う。格子定数は結晶データの1つで、物質同定の重要要素である。
【0017】
体積磁化とは、単位体積当たりの磁気モーメントMを指し示すものとする。磁化の強さとも呼ばれる。単位は[emu/cm]。尚物質の磁性は、原子や分子のもつ磁気モーメントに還元される。磁性体に磁界を加えると磁気モーメントは磁界方向に向きを変え、磁化を生じる。磁化の強さは磁気分極(J)とも呼ばれ、ベクトルである。また磁性体に磁界を印加して磁気モーメントの方向を一方向にそろえることを「磁化する」という。磁性体の磁化特性は一般的に非可逆的であり、曲線的に変化する。その様な非可逆的特性をヒステリシスと呼ぶ。
尚以下に説明する本発明の一実施例では、σで標記される質量磁化(単位[emu/g])を、単に「磁化」と称している。
【0018】
また、磁性体に磁界を印加し飽和させたときの磁化の強さを、飽和磁化(J)という。このときの対応する磁束密度Bは、飽和磁束密度Bといわれる。尚飽和に達したとする点をS点という。
飽和磁化後、その磁界を取り去ると、ヒステリシスの存在により磁化の大きさはゼロにはならず、ある大きさの磁化が残存する。この磁化の大きさを残留磁化と呼びJで表わす。さらに、残留磁化状態の磁性体に逆方向の磁界を印加すると、ある大きさの印加磁界で磁化の大きさがゼロになる。このときの磁界の大きさを「保磁力」と呼び、Hで表わす。保磁力の小さい物質を軟磁性材料という。反対に保磁力の大きい物質を硬磁性材料(永久磁石等)という。保磁力の値は、磁性材料において大きく変化する。
【0019】
ボーア磁子Mとは、磁気モーメントの最小単位であり、原子程度の大きさの磁気双極子がもつ磁気モーメントの単位を指し示すものとする。量子力学によれば、電子の軌道運動による磁気モーメントMはボーア磁子Mの整数倍であることが知られている。
【0020】
また、超交換相互作用とは、化合物磁性体において磁性イオンの間に介在する酸素やハロゲンなどの負イオンや結晶水が媒介する磁気モーメント間の相互作用のこと、つまり、マンガン酸化物などの遷移金属の酸化物やハロゲン化物において、真中に挟まれた負イオン(酸素イオン)の媒介により二つの局在した遷移金属上のスピンの間に生じる磁気的な相互作用のことを指し示すものとする。ここで、遷移金属は酸素原子を間にして離れた位置にあるが、量子力学的には相互作用が働くことが可能である。この機構の理論を基礎として、これまでの遷移金属化合物の多彩な磁性現象が解明され得る。
【0021】
透磁率μとは、磁束が磁性物質の中をどれだけ容易に通過できるか、すなわちある大きさの磁界を印加した場合の磁束変化量の大きさを表す指標を言うものとする。透磁率は磁化のしやすさを表わすものであり、磁性体の特性を評価する一つの因子である。なお、透磁率と同様に磁界と磁化との間の関係を示すものが磁化率である。
一般的に、透磁率μは次式で定義される。
μ=(Φ/A)/((N・I)/L)=B/H
ここで、H(又は(N・I)/L)は磁場であり経路の単位長さあたりに磁束を送る力、B(又はΦ/A)は結果として経路の単位面積に流れる磁束Φの量(磁束密度)、Aは断面積、Nはソレノイドの巻数、Iはソレノイドを通る電流、Lは磁路長である。
又上記透磁率と同様に、磁界と磁化との間の関係を指し示すものを磁化率(帯磁率)という。一般的に、磁化率χは次式で定義される。
χ=J/H
ここで、Hは磁場、Jは磁化の強さである。上式で表わされるとおり、磁性体に磁界が作用しているとき、その磁化は磁界の関数となる。
【0022】
さらに、外部から僅かな磁界を印加することにより大きな磁束密度が誘導される高透磁率特性を有する材料を、高透磁率材料と言う。軟磁性材料とも言われる。高透磁率材料には、透磁率μが高く、保磁力Hが小さく、飽和磁束密度Bが高く、損失が小さいことが必要とされる。酸化物である軟磁性材料のフェライトは、一般に電気抵抗が高く、高周波用に通常用いられ得る。
【0023】
鉄損とは、単位体積当たりの磁心のエネルギー損失を指し示すものとする。磁心にエネルギー損失があると、外部印加磁界の変化に磁束が即応できず、遅れ角δ(=損失角)を生じる。tanδは損失係数と呼ばれ、高周波材料では重要なパラメータで、この値が小さいほど損失の少ない優れた磁心を意味する。すなわち、鉄損は材料品質を決定する重要なパラメータである。この鉄損は、一般的にヒステリシス損、渦電流損、及び残留損に分けられる。ヒステリシス損とは、強磁性体を1周期にわたって磁化したときの単位体積当りのエネルギー損失をいう。従って、高周波になるほど、単位時間当りのヒステリシス損は増大する。又磁性体に交流磁界を印加すると、電磁誘導によって磁性体内に電流が還流してジュール熱が発生するが、この電流を渦電流、損失を渦電流損という。従ってヒステリシス損失同様、高周波になるほど、単位時間当りの渦電流損は増大する。フェライトのような酸化物では、金属磁性体に比べて電気抵抗率が桁違いに大きく、渦電流による損失も金属磁性体に比べて少ないが、現状では、高周波になるにつれて損失は増大している。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、MHzオーダー或いはそれ以上の高周波帯域における透磁率μ、磁化σ及び電気抵抗率ρがより高く、鉄損が更に少ない磁性体材料製造方法を提供することが出来る。
【0025】
本発明によれば、Mg(Fe1-xMn)固溶体粉体を、複数の製造法によって調製することが出来、更に、これを焼結して緻密な焼結体を作製することが可能となる。
下記に何ら限定されない本発明の一実施例によれば、固相法により、大気中、1,200℃-2時間の仮焼の後、ホットプレスを用いて1,350℃/30MPa/2時間の条件で焼結したMg(Fe1-xMn)(0<x≦0.4)セラミックスは、x=0.2の組成のときに電気抵抗率ρ、透磁率μ、磁化σが全て最大値を示した。これはMgFeのFeのサイトにMnを添加することにより、複雑に超交換相互作用が働いたためと考えられる。
また、錯体重合法により調製したMg(Fe1-xMn)(0<x≦0.4)粉体は前駆体の段階で結晶化されており、X線回折の結果からスピネル相の回折像が確認された。さらに、一実施例により得られたMg(Fe1-xMn)(0<x≦0.4)粉体は、正スピネルと逆スピネルの中間体をとり、Mg2+が8a位置(A位置)を占める割合は16%となった。
錯体重合法により調製した微粒子粉体をホットプレスにより1,350℃/30MPa/2時間の条件で焼結したMg(Fe1-xMn)(0<x≦0.4)セラミックスは、固相法を用いた場合と同様にx=0.2の組成のときに電気・磁気特性が最大値を示した。錯体重合法で作製したセラミックスは、平均粒子径Gが小さいにも関わらずμやσが高いことから、結晶粒子内部の均一性が高いと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施形態に付き説明する。
まず、固相法により本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体を調製した場合について説明したのち、錯体重合法により本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体を調製した場合について説明する。同時に、上記各方法で得られた仮焼粉体から本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の焼結体を作製する要領について説明する。固溶体の組成変化に伴う上記仮焼粉体及び焼結体等の諸特性については、実施例を用いて後に説明する。
図1は錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製するに当たっての工程図、図2は本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体から焼結体を作製するに当たっての工程図である。
【0027】
[第1実施形態]
はじめに、固相法により本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体を調製する要領に付き説明する。固相法による場合、出発原料となる複数種の原料粉体を所定量に秤量及び混合後、仮焼(加熱処理)を経て目的となる仮焼粉体を調製する。
混合粉から仮焼粉体を得るにあたっては、上記混合粉を、大気中で1100℃~1250℃の温度、及び3時間~8時間の条件で加熱処理することが好ましい。
【0028】
次に、コア等に加工されるフェライトの焼結体(セラミックス)を得るためには、上記仮焼粉体から焼結体を作製する必要がある。仮焼粉体から焼結体を作製する工程については、図2に示す工程図によって説明される。
すなわち、仮焼粉体8を整粒し、これを加圧成型して成形体(混合圧粉体)9を作製した後、上記成形体9を焼結させてMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の焼結体10を作製する。
【0029】
成形体9は、仮焼粉体8を、整粒後、一軸金型成形により50MPa~150MPaの条件で加圧成型して作製することが好ましい。
焼結体10は、成形体9を、ホットプレスにより大気中で1200℃~1400℃の温度、1時間~4時間、及び20MPa~50MPaの条件で焼結させて作製することが好ましい。
【0030】
以上の工程により、本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体8のほか、焼結体10を作製することができる。
【0031】
[第2実施形態]
又以下では、錯体重合法により本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体を調製する要領に付き説明する。
図1は、錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製するに当たっての工程図である。錯体重合法は、Mg、Fe、Mnの各硝酸塩1a~1cからなる出発原料を蒸留水に溶解して混合水溶液2を調製する工程と、この混合水溶液2にクエン酸3とエチレングリコール4を加えて金属-クエン酸錯体5を調製する工程と、この金属-クエン酸錯体5をゲル状になるまで加熱攪拌したのち、得られた金属-クエン酸錯体ゲル6を乾燥することにより前駆体粉体7を得る工程と、さらに、この前駆体粉体7を粉砕したのち加熱処理することにより、前駆体粉体7から本発明のMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の仮焼粉体8を得る工程とからなっている。
【0032】
ここで、上記金属-クエン酸錯体ゲル6は、金属-クエン酸錯体5を80℃~120℃の温度、及び2時間~8時間の条件でゲル状になるまで加熱攪拌して調製することが好ましい。
【0033】
また前駆体7は、金属-クエン酸錯体ゲル6を130℃~180℃の温度、及び12時間~36時間の条件で乾燥して調製することが好ましい。
【0034】
さらに、Mg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の仮焼粉体8は、前駆体7を粉末状に粉砕し、これを大気中で600℃~1000℃の温度、及び1時間~8時間の条件で加熱処理して調製することが好ましい。
【0035】
上記仮焼粉体8から焼結体10を作製して最終的にコア等に加工するが、この焼結体10を作製する工程については、図2に示すとおりである。
上記した錯体重合法は均質で微細な粒子粉体の調製が可能な製造方法であり、これによれば、より品質の高いMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体8及び焼結体10を製造することが可能となる。
【実施例1】
【0036】
以下、一実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。実施例1では固相法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製した場合について説明し、実施例2では錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製した場合について説明する。なお以下の説明は添付図面に基づいて行うものとする。
ここで、図3は固相法によって得られたフェライト磁性材料の仮焼粉体を粉末X線回折を用いて解析した際のX線回折パターンを示す図、図4は固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す図、図5は固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る周波数帯域における熱消磁後(磁性体全体としては磁化方向が平均してほぼゼロの状態)の透磁率μの関係を示す図、図6は固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る磁場における磁化σの温度依存性を示す図、図7は錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の前駆体粉体を粉末X線回折を用いて解析した際のX線回折パターンを示す図、図8は錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の仮焼粉体の格子定数aの変化を示す図、図9は錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す図、図10は錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る周波数帯域における熱消磁後の透磁率μの関係を示す図、図11は錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の磁化σに係る諸特性を示す図である。
また、以下の各例では、本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料に対する比較例として、Mnを添加していない(x=0)試料やMnの固溶量x=0.5、x=0.6の場合のデータや測定結果等についても適宜説明を行うものとする。
【0037】
[粉体及び焼結体の調製]
まず始めに、固相法により本発明のMg(Fe1-xMn)フェライト磁性材料の仮焼粉体を調製する工程について説明し、その後、これを用いて本発明のフェライト磁性材料の焼結体を作製する工程について説明する。
【0038】
固相法自体は、出発原料となる複数種の原料粉体を所定量に秤量及び混合後、仮焼を経て目的物質を合成する公知の方法である。本実施例では、まず、最終組成がMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)となる様に、MgO、α-Fe、及びMnCOからなる出発原料を秤量して準備した。本実施例では、MgOとして純度99.9%、平均粒径φ=0.35μmのもの、α-Feとして純度99.9%、平均粒径φ=0.06μmのもの、MnCOとして純度99.0%、平均粒径φ=5.4μmのものを使用した。
その後、上記出発原料を水又はメタノール中に溶解して湿式混合を行ったのち乾燥することにより混合粉を得た。さらに、上記混合粉を大気中で1,150℃~1,200℃で2時間加熱処理することにより、上記混合粉からMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)仮焼粉体を得た。
【0039】
次に、以下の工程を経て、上記仮焼粉体から焼結体を作製した。なお、仮焼粉体から焼結体を作製する工程については錯体重合法によって仮焼粉体を得る場合と全く同様であり、図2に示す工程図によって説明される。
すなわち、図2に示すとおり、まずMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)仮焼粉体8を整粒し、これを加圧成型して成形体(混合圧粉体)9を作製した。本実施例では、仮焼粉体8に微量の蒸留水を加えてから整粒を行った。整粒に使用した器材の開口径は約75μmとした。また本実施例では、整粒後の仮焼粉体を、φ=20mmの一軸金型成形により98MPaの圧力で加圧成型して成形体9を作製した。
その後、上記成形体9を、ホットプレスを用いて大気中で1,350℃、30MPaで2時間焼結させて、上記成形体9からMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)焼結体10を得た。
【0040】
[粉体及び焼結体の評価]
上記工程を経て得られたMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)仮焼粉体については、粉末X線回折(XRD: CuのKα線を用いたもの。以下同様)を用いて解析することにより相の同定を行った。
また、焼結体についてはXRDによる結晶相の同定を行ったほか、走査型電子顕微鏡(SEM)により破面の微細構造を観察した。加えて、平均粒子径Gをインターセプト法により算出すると共に、相対密度をアルキメデス法により、嵩密度を測定した上で理論密度(MgFe: 4.53[Mg/m])に対して算出した。ここで、本実施例においては、上記MgFeの理論密度は、「Powder Diffraction File, Card No.17-464, International Centre for Diffraction Data, Newtown Square, PA, 1974」より得ている。
さらに、上記焼結体については、適当な手法により透磁率μ及び磁化σの磁気特性のほか、電気特性(電気抵抗率ρ)を測定した。
【0041】
[粉体及び焼結体の構造、特性]
図3に示すとおり、上記工程を経て得られたMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)仮焼粉体のX線回折パターンは、x=0(比較例)、0.2のとき1,150℃で2時間、x=0.4のとき1,200℃で2時間、の条件で仮焼したものについては少なくとも立方晶型スピネル型構造と完全に一致することが明らかとなった。このとき、上記仮焼粉体の格子定数aは、Mnの固溶量の増加とともにx=0.4まで直線的に増加し(x=0: a=0.8373nm → x=0.4: a=0.8413nm)、それ以降は一定の値(a=0.8413nm)を示した。また、x>0.4組成の試料ではスピネル相以外のγ-Mn相が認められたことから、固溶限界はx=0.4までと推察される。従って、本願発明の効果を得るには、例えば前記xが0.05以上0.4以下であることが好適であると考えられる。錯体重合法による場合も同様と推察される。
次に、本実施例で得られた上記焼結体の相対密度は、xの増加に依存せず、各組成とも~99.5%となった。尚相対密度は分子量、配位数Z=8、アボガドロ数及び格子定数から算出した理論密度を用いて算出される。
また、インターセプト法により算出した平均粒子径Gは、xの増加に伴い9.6(x=0)μm→22(x=0.4)μmへと増加した。インターセプト法については、「M.I.Mendelson, J. Am. Ceram. Soc., 52, 443-446 (1969)」を参照した。
【0042】
[電気特性]
次に図4に、本実施例で得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す。周波数の増加に伴いρは減少した。ここで、電気抵抗率ρは、表面研削した焼結体の表面にAg電極を形成させ、インピーダンス測定器を用いて周波数f=100Hzから10MHzまで変化させながら測定した。
周波数f=100Hzにおいて、電気抵抗率ρは、Mnを添加していない比較例試料(x=0)のρ≒5.0×10Ω・cmから、x=0.2の時まで増加し、最大でρ=9.8×10Ω・cm(x=0.2)の値を示した。これにより、本実施例のフェライト磁性材料によれば、Mnを添加していない比較例試料(x=0)と比較して最大で4桁を超える抵抗の増加が実現され得ることが確認された。
また、MHz帯域における電気抵抗率を見ても、Mnの固溶量x=0.2とした場合には、Mn無添加の場合と比較して、周波数f=1MHzにおいては2桁弱、f=10MHzにおいても1桁弱の抵抗の増加が実現され得ることが確認された。
【0043】
本実施例では、Mnの添加量をx=0.2からさらに増加させると抵抗は減少に転じている。一般にフェライト中の電気伝導度はFeの2価、3価間でのホッピング伝導により生じるとされており(「A.Nakamura, T.Kodama, T.Konoike, and K.Tomono, J. Jpn. Soc. Powder & Powder Metallurgy, 48, 145-149 (2000)」参照)、添加されたMnは粒内でアクセプタとして働いたため電気抵抗がx=0(比較例)の場合に比較して急激に上昇したものと考えられる。一方で、x=0.2以上の添加では、Mnの3価、4価間のホッピング伝導により電気抵抗率ρが低下したと考えられる。
なお、金属、半導体の電気伝導は多くの場合、物質中をほとんど自由に動く伝導電子によって生じ、電子の平均自由行程は原子間距離に比べて長い。これに対し、非晶質半導体や、ある種のイオン結晶等では、電子がほとんど局在的状態にあり、それらの間を次々に不連続的に飛躍(ホッピング)することによって電気伝導が担われていることがある。これをホッピング伝導という。この場合、電子の平均自由行程は原子間距離(不純物伝導では不純物原子間距離)の程度で、電気伝導率は自由電子的な場合よりもはるかに小さく、長い平均自由行程をもった自由電子と対照的な挙動を示す。また飛躍過程は原子の熱振動によって助けられるので、電気伝導率は温度の上昇と共に増大する。
【0044】
[磁気特性]
また図5に、本実施例で得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数f=100Hz~1MHzにおける熱消磁後の透磁率μの関係を示す。ここで、透磁率μは焼結体をリング状(外径およそ15~16mm(図5及び図10のDの値参照)、内径4mm、厚さ3mm)に超音波加工したものにつき、消磁するためにMgFeキュリー温度Tが440℃(非特許文献1参照)であることを考慮して500℃-1時間の熱処理(熱消磁)を行った後、インピーダンス測定器を用いてそれぞれf=100Hz~10MHzの範囲で測定を行うことにより求めた。
電気抵抗率ρの場合と同様、本実施例においてもx=0.2のときに透磁率が最大値を示すことが確認された。また、周波数が高くなるにつれて透磁率μが低下している。これは、周波数が高くなるにつれて、磁芯の磁気誘導は掛けた交流磁界の変化について行けなくなって一般に遅れを生じることから、周波数が高くなるにつれて損失を生じ、透磁率μが低下するものと考えられる。なお、磁芯の磁気誘導の遅れに伴うエネルギー損失の大きさの目安として、磁心の性能を表わす損失係数tanδのパラメータが用いられ得る。主な磁気損失としては渦電流損失が挙げられ、磁性体を横切る交流磁束を妨げる渦電流が流れることにより生じる。
本実施例によれば、x=0.2のとき、f=100Hzで最大の透磁率μ≒70が得られた。また、f=1MHzにおける透磁率を見ても、最大値の80%程度の値が得られた。
【0045】
さらに図6に、本実施例で得られたフェライト磁性材料の焼結体の磁場H=1[T]における磁化σの温度依存性のグラフを示す。ここで、磁化σは各組成の焼結体をアルミナ乳鉢を用いて粉砕し、得られた粉体をSQUID磁化測定装置を使用して、磁場H=1[T]の条件下、温度T=10~300Kの範囲で測定した。
室温(300K=約27℃)では、Mnを添加していない比較例試料(x=0)のときσ=35.9[emu/g]である一方、Mnの固溶量x=0.2のときσは最大値を取り、σ=約50[emu/g]を示した。温度上昇における磁化の減少は、熱じょう乱のためモーメントの規則配列が乱されたことによるものと考えられる。
【0046】
なお、x=0.2の組成の時に最適な磁気的な構造が形成される点に関しては、[背景技術]の項で説明した、MgFeが正スピネルと逆スピネルの中間体をとる点が関係しているものと考えられる。すなわち、添加したMnが8a位置(A位置)、又は16d位置(B位置)のどちらのFeに置換するかにより複雑に超交換相互作用が働くほか、さらにMnが3価、4価、Feが2価、3価の混合原子をとることによりボーア磁子が多様な組み合わせからなり得る結果、x=0.2の組成の時に最適な磁気的な構造を形成したものと推察される。
【実施例2】
【0047】
又以下では、より優れた特性を実現するために、均質で微細な粒子粉体の調製が可能な錯体重合法により、新たに本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製した一実施例について説明する。
【0048】
[粉体及び焼結体の調製]
実施例1同様、まず始めに、錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製する工程を説明し、その後、これを用いて本発明のフェライト磁性材料の焼結体を作製する工程を説明する。
【0049】
図1に、錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製するに当たっての工程図を示す。本実施例で用いる錯体重合法は、クエン酸ゲル法とも呼ばれ、金属硝酸塩を水に溶かし、クエン酸を加えて金属クエン酸錯体をつくり、そこにエチレングリコールを加えエステル重合させてゲルを得、このゲルを仮焼、本焼して酸化物を得る方法である。
【0050】
図1に示すとおり、先ず始めにMg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料1a~1cを蒸留水に溶解して混合水溶液2を調製した。本実施例では、Mg、Fe、Mnの各硝酸塩からなる出発原料を、それぞれ硝酸マグネシウム(II)六水和物(Mg(NO・6HO(純度99.9%)と、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HO(純度99.9%)と、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO・6HO(純度99.0%)とからなるものとした。各出発物質は、所望の組成となる様秤量後、蒸留水に溶解させた。
【0051】
次に、混合水溶液2にクエン酸3とエチレングリコール4を加えて金属-クエン酸錯体5を調製した。クエン酸3は、無水クエン酸(C(CHCOOH)(OH)(COOH))又はクエン酸一水和物C・HOからなるものとし、エチレングリコール(HOCHCHOH)4は純度99.5%のものを用いた。
本実施例では、金属-クエン酸錯体5を調製する工程は、混合水溶液2に、Mgの硝酸塩1a:Fe、Mnの各硝酸塩1b、1c:クエン酸3:エチレングリコール4の比率がそれぞれ約1:2:5:20のモル比となるようにクエン酸3とエチレングリコール4を加えることにより実施した。
【0052】
その後、上記金属-クエン酸錯体5をゲル状になるまで加熱攪拌したのち、得られた金属-クエン酸錯体ゲル6を乾燥することによってMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)フェライト磁性材料の前駆体7を調製した。
本実施例では、金属-クエン酸錯体5を100℃で6時間加熱攪拌したのち、金属-クエン酸錯体ゲル6を150℃で24時間乾燥することにより前駆体7を調製した。
【0053】
さらに、本実施例では得られた前駆体7を粉末状に粉砕し、これを大気中で800℃で2時間加熱処理することにより、前駆体粉体7からMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)仮焼粉体8を得た。
【0054】
次に、図2に示す工程に従って、上記仮焼粉体8から焼結体10を作製した。
なお、仮焼粉体8から焼結体10を作製する工程については、固相法により仮焼粉体を調製した場合も、錯体重合法により仮焼粉体を調製した場合も工程的に何ら変わるところがない。図2に示す工程については、実施例1に於いて既に説明した通りである。
【0055】
[粉体及び焼結体の評価]
錯体重合法を用いた場合の粉体特性を、固相法を用いた場合のものと比較して把握するべく、得られたMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)の前駆体及び仮焼粉体については、粉末X線回折(XRD)を用いて解析して相の同定を行った。
また、焼結体については実施例1同様、XRDによる結晶相の同定を行ったほか、走査型電子顕微鏡(SEM)により破面の微細構造を観察した。加えて、平均粒子径Gをインターセプト法により算出すると共に、相対密度をアルキメデス法により、嵩密度を測定した上で理論密度(MgFe: 4.505[Mg/m])に対して算出した。本実施例で使用した上記MgFeの理論密度も、実施例1で示した参考文献より得ている。
さらに、得られた焼結体について透磁率μ、磁化σ及び電気抵抗率ρを適宜測定した。尚夫々の測定要領は実施例1の場合と同様である。
【0056】
[粉体及び焼結体の構造、特性]
図7に示すとおり、錯体重合法により得られた本実施例のMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)フェライトの前駆体粉体7では、X線回折の結果から、全組成領域において強度が低く、幅広いスピネル相の回折像が確認された。錯体重合法では前駆体は非晶質であることが多いが、今回、スピネル相が確認された要因としては、出発原料に硝酸塩1a~1cを用いているため加熱攪拌で金属-クエン酸錯体ゲル6を得るときに自己燃焼が起こり、そのときの発熱で結晶化が起こったものと推察される。さらに前駆体粉体については、数十nmの微粒子からなることも確認された。
【0057】
次に、仮焼粉体8について検討したところ、X線回折の結果より、各組成の仮焼粉体は立方晶スピネル型構造の単一相、即ち立方晶のスピネルフェライトであることが確認された。
また、図8に示すとおり、各組成の仮焼粉体のX線回折データを最小二乗法により精密化して算出した格子定数aの変化については、実施例1と同様、Mnの固溶量の増加とともにx=0.4まで直線的に増加し(x=0: a=0.8384nm → x=0.4: a=0.8394nm)、それ以降は一定の値(a=0.8394nm)を示した。実施例1同様、x>0.4組成(x=0.5、x=0.6)の試料ではスピネル相以外のγ-Mn相が認められたことから、固溶限界はx=0.4までであると推察される。
【0058】
焼結体10についても検討を行ったところ、本実施例で得られた焼結体10の相対密度は、xの増加に依存せず、各組成とも~99.0%となった。又インターセプト法により算出した平均粒子径Gは、xの増加に伴い4.8(x=0)μm→5.6(x=0.4)μmへと増加した。このように、錯体重合法で作製したフェライトでは、同一条件の下で固相法で作製したフェライトと比較して、平均粒子径Gを小さくできることが明らかとなった。
【0059】
さらに、本実施例のMg(Fe1-xMn(0≦x≦0.6)フェライトの各組成の粒子径をTEM観察したところ、前駆体7では各組成とも約40nmと一定の値を示したが、仮焼粉体8ではMnの固溶量とともに増加し、x=0(比較例)で約115nmであったものが、x=0.4で約155nmであった。
このように、錯体重合法により得られた本発明のMg(Fe1-xMn(0<x≦0.4)フェライト磁性材料の焼結体は、平均粒子径G=約5.0μmの結晶粒子から構成された、相対密度約99.0%の高密度焼結体であることが明らかとなった。
その他、一例によれば、リートベルト解析の結果、16%のMg2+が8a位置(A位置)に存在し、また、添加したMnは8a位置のFeに置換していることが明らかとなった。
【0060】
[電気特性]
図9に、本実施例で得られたMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す。周波数の増加に伴いρは減少した。
周波数f=100Hzにおいて、電気抵抗率ρは、Mnを添加していない比較例試料(x=0)のρ=2.0×10Ω・cmから、x=0.2の時まで増加し、最大でρ=9.8×10Ω・cm(x=0.2)の値を示した。これにより、本実施例のフェライト磁性材料によれば、Mnを添加していない比較例試料(x=0)と比較して最大で4桁近い抵抗の増加が実現され得ることが確認された。
また、MHz帯域における電気抵抗率を見ても、実施例1同様、Mnの固溶量x=0.2とした場合には、Mn無添加の場合と比較して、周波数f=1MHzにおいては2桁弱、f=10MHzにおいても1桁弱の抵抗の増加が実現され得ることが確認された。
尚本実施例でも、Mnの添加量をx=0.2からさらに増加させると抵抗が減少に転じている。一般にフェライト中の電気伝導度はFeの2価、3価間でのホッピング伝導により生じるとされており、実施例1同様、添加されたMnが粒内でアクセプタとして働いたため電気抵抗がx=0(比較例)の場合に比較して急激に上昇したと考えられる。一方で、x=0.2以上の添加では、Mnの3価、4価間のホッピング伝導により電気抵抗率ρが低下したと考えられる。
【0061】
[磁気特性]
また図10に、本実施例で得られたMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数f=100Hz~1MHzにおける熱消磁後(500℃-1時間)の透磁率μの関係を示す。
電気抵抗率ρの場合と同様、本実施例においてもx=0.2のときに透磁率μが最大値を示すことが確認された。透磁率μは微細構造、磁束密度などに依存し、また、磁気異方性、磁歪などさまざまな要素が透磁率に関連する。その結果、x=0.2の組成のときに透磁率が最大値を示したと考えられる。
また、周波数が高くなるにつれて透磁率μが低下している。高周波数領域では、磁化変化が高速になる程、渦電流が発生し、磁化特性は劣化することが知られている。そのため、高周波になるにつれて透磁率μが減少するものと考えられる。
本実施例によれば、x=0.2のとき、f=100Hzで最大の透磁率μ=75が得られた。また、f=1MHzにおける透磁率を見ても、最大値の80%程度の値が得られた。
【0062】
さらに図11(a)に、本実施例で得られたMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の焼結体の磁場H=1[T]における磁化σの温度依存性のグラフを、図11(b)に、本実施例で得られたMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料の焼結体の、室温においての磁場H=-2[T]から2[T]の範囲での磁化σの変化のグラフを、そして図11(c)に、固相法と錯体重合法の双方で本発明のMg(Fe1-xMn(x=0.2)フェライト磁性材料を調製したときにおける平均粒子径G及び磁気特性の比較表を示す。
図11(a)を参照すると、室温(300K=約27℃)では、Mnを添加していない比較例試料(x=0)のときσ=約40[emu/g]である一方、Mnの固溶量x=0.2のときσは最大値を取り、σ=約50[emu/g]を示した。実施例1同様、温度上昇における磁化の減少は、熱じょう乱のためモーメントの規則配列が乱されたためと考えられる。
また図11(b)を参照すると、保磁力Hはどの組成も約10mTとなり、本実施例で得られた本発明のMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料は、すべて軟磁性材料の特性を示すことが明らかとなった。
さらに、図11(c)を参照すると、錯体重合法で作製したフェライトでは、同一条件の下で固相法で作製したフェライトと比較して、平均粒子径Gが小さくなっている一方でμ、σが向上していることから、結晶粒子内部の均一性が高いものと推察される。
なお、x=0.2の組成の時に最適な磁気的な構造が形成される点に関しては、実施例1における考察と同様、FeとMnが複雑に混合原子価をとり、そのため、複雑に超交換相互作用が働く結果、x=0.2の組成の時に最適な磁気的な構造が形成されたものと考えられる。
【0063】
[変形例]
以上、本発明を実施例等により詳細に説明したが、本発明は上記実施例記載の構成及び条件に何ら限定されず、種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、上記実施例では、出発物質に特に添加物を加えることはなかったが、例えば、微粉砕された仮焼粉体8に対して微量な添加物を加え、これらを十分に整粒、混合したのち加圧成形及び焼結を行うことにより、焼結体10の電気特性及び磁気特性を更に向上させることも可能である。好ましい添加物としては、Ca、CaO、SiO、Al或いはこれらの2種以上の混合物から選ばれるものが挙げられる。又、その添加量に関しては、添加物の種類によっても異なるが、0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましい。なお、添加物を加えることによって基本的特性が失われることはない。
【0065】
また、上記各例では固相法及び錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料を作製したが、製造方法についてはこれらに何ら限定されるものではない。公知の製法を適用して本発明のフェライト磁性材料を作製することは十分可能である。
ここで、従来知られたMnZn系或いはNiZn系軟磁性フェライト材料に関しては、錯体重合法を用いて製造を試みても、クエン酸で重合後、大気中で熱処理を行う際、(1)熱処理により立方晶系のスピネル構造が破壊され、(2)Feが遊離してスピネルから鉄の酸化物α-Feが析出することより、フェライトとしての機能が失われてしまう(単なる化合物になってしまう)という問題があった。しかしながら、Mgフェライトを基礎とする本発明のMg(Fe1-xMnフェライト磁性材料は、錯体重合法を用いて製造した場合であってもFeの遊離がなく、それゆえ本発明によれば、化学的に安定なフェライト磁性材料を提供することが可能となる。
さらに、本発明のフェライト磁性材料は、Mgフェライトを基礎としており、MgO同様、加温により塑性変形が実現される可能性が期待できるものである。
【0066】
上記各例では、焼結体10を得るに当たり、予め一軸金型成形により仮焼粉体8を加圧成型することによって成形体9を得ていたが、成形体の形成手段は一軸金型成形に特に限定されない。
【0067】
このように、本発明は上記実施形態等に記載の構成に限定されるものではなく、当業者であれば、以上に開示された基本的技術思想及び教示に基づき、種々の変形例を想到出来る事は自明である。
【0068】
以上に説明したとおり、本願発明は、透磁率の低下がより少なく、鉄損の増大を防止でき、高周波帯域において低鉄損のフェライト磁性材料製造方法を提供する新規かつ有用なるものであることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】錯体重合法により本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体を調製するに当たっての工程図である。
【図2】本発明のフェライト磁性材料の仮焼粉体から焼結体を作製するに当たっての工程図である。
【図3】固相法によって得られたフェライト磁性材料の仮焼粉体を粉末X線回折を用いて解析した際のX線回折パターンを示す図である。
【図4】固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す図である。
【図5】固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る周波数帯域における熱消磁後の透磁率μの関係を示す図である。
【図6】固相法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る磁場における磁化σの温度依存性を示す図である。
【図7】錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の前駆体粉体を粉末X線回折を用いて解析した際のX線回折パターンを示す図である。
【図8】錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の仮焼粉体の格子定数aの変化を示す図である。
【図9】錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の測定周波数fと電気抵抗率ρとの関係を示す図である。
【図10】錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の或る周波数帯域における熱消磁後の透磁率μの関係を示す図である。
【図11】錯体重合法によって得られたフェライト磁性材料の焼結体の磁化σに係る諸特性を示す図である。
【図12】スピネル型フェライトの結晶構造を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1a~1c 出発原料
2 混合水溶液
3 クエン酸
4 エチレングリコール
5 金属-クエン酸錯体
6 金属-クエン酸錯体ゲル
7 前駆体粉体
8 仮焼粉体
9 混合圧粉体
10 焼結体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11