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明細書 :高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4965150号 (P4965150)
公開番号 特開2006-320316 (P2006-320316A)
登録日 平成24年4月6日(2012.4.6)
発行日 平成24年7月4日(2012.7.4)
公開日 平成18年11月30日(2006.11.30)
発明の名称または考案の名称 高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法
国際特許分類 A01G   7/00        (2006.01)
A01G   1/00        (2006.01)
FI A01G 7/00 604Z
A01G 1/00 301Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2006-107139 (P2006-107139)
出願日 平成18年4月10日(2006.4.10)
優先権出願番号 2005123599
優先日 平成17年4月21日(2005.4.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月31日(2009.3.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】岡田 益己
【氏名】井上 めぐる
【氏名】村井 麻理
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100123168、【弁理士】、【氏名又は名称】大▲高▼ とし子
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
審査官 【審査官】村田 泰利
参考文献・文献 特開平06-327355(JP,A)
特開2001-224249(JP,A)
宇田川雄二 青木宏史 伊藤正,養液栽培イチゴの生育・収量に及ぼす根温の影響,千葉県農業試験場研究報告,日本,千葉県農業試験場,1990年 3月31日,第31号,第27頁-第37頁
庄司和博 中屋耕 羽生広道,根圏温度の低下がサニーレタスのアントシアニン合成に及ぼす影響,農業環境工学関連4学会2002年合同大会 講演要旨,日本,2002年,第159頁
福元康文 西村安代 島崎一彦 藤本友紀,イチゴの生育,収量および無機成分に及ぼす根圏温度の影響,農業生産技術管理学会誌,日本,農業生産技術管理学会,2003年11月15日,第10巻第2号,99-106
調査した分野 A01G 1/00
A01G 7/00
A01G 9/00
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
アカザ科、アブラナ科、キク科(サニーレタスを除く)、ユリ科及びセリ科から選択される葉茎根菜類又はナス科及びウリ科から選択される果菜類の栽培方法において、葉茎根菜類については、収穫前の数日~3週間の範囲の栽培期間或いは収穫時の所定の保持期間、又は、果菜類については、収穫前の開花結実後から収穫時までの期間、葉茎根菜類又は果菜類の根部を実質的に0~15℃の範囲の低温条件に管理して栽培し、葉茎根菜類又は果菜類の可食部に含まれる糖度の上昇を図ることを特徴とする高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法。
【請求項2】
葉茎根菜類又は果菜類の根部の低温条件の管理を、葉茎根菜類又は果菜類の根部への低温水の供給或いは冷却媒体による根部雰囲気の冷却によって行うことを特徴とする請求項1記載の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法。
【請求項3】
低温水が、養液栽培における供給養液であることを特徴とする請求項2記載の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法において、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理して栽培し、葉茎根菜類又は果菜類の可食部に含まれる糖度の上昇を図る高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウレンソウやコマツナのような葉菜類においては、その植物体中に含有される糖やビタミンなどの含量は、その栽培時における気温や土壌養分、光条件、水ストレスなどの様々な環境要因によって影響されるが、一般に、該作物の糖やビタミンC等の含量は、冬期に高く、夏期に低いことが知られている。このことは、栽培期間中の気温が、該葉菜類の糖やビタミンCなどの含量の多少に大きな影響を及ぼす要因の一つであることを示している。
【0003】
昨今、ホウレンソウやコマツナのような葉菜類においては、冬の寒さを利用して、野菜の甘味や栄養価を高める栽培法が、東北地方を中心に普及・拡大している。この栽培法は、「寒締め栽培」と呼ばれる。この栽培方法は、ハウス栽培のような葉菜類の栽培において、秋から冬にかけ、ハウス内の高い温度を利用して葉菜類を十分に生育させた後、冬期の低温に曝すことによって、葉菜類の糖やビタミンCなどの含量の増大を図る方法である。例えば、ホウレンソウのような葉菜類をこの「寒締め栽培」によって栽培するには、まず、外気温が4℃を下回る頃に出荷可能となるように栽培を始め、ハウス内の高い温度を利用して、十分に生育を図る。その後、ハウスの覆いを開放して、昼夜外気にあてて、外気の低温に曝す。この低温処理により、植物はその耐寒性を高めるために、体内の水分を減少させ、糖やビタミンCなどのような体内成分を増加させる(岡田益己、小沢聖編「べたがけを使いこなす」農文協、P68-70、1997)。
【0004】
最近、ホウレンソウやコマツナのような葉菜類の冬期ハウス栽培、すなわち「寒締め栽培」に関連して、これらの葉菜類のハウス栽培における低温処理と葉菜類の糖やビタミン含量等の増大の関係についての定量的な研究が進められ、その報告がなされている(日本土壌肥料科学雑誌、第58巻第4号、427-432、1987;東北農業研究、第47号、317-318、1994;東北農業研究、第50号、191-192、1997;農業および園芸、第71巻第3号、409-412、1996;園学研、3(2):187-190、2004;2004年9月6日~8日、農業環境工学関連4学会2004年合同大会発表要旨「寒締めホウレンソウの糖度変化の定量化」)。これらの報告により、葉菜類の栽培における低温処理の温度と葉菜類の糖やビタミン含量等の増大の定量的な関係が、明らかにされている。
【0005】
近年、野菜類の栽培技術が発達し、施設栽培による生産が著しく増加している一方、施設内で生産された野菜、特に、季節外れの野菜はビタミンCや糖含量が低く、成分面からみた品質が劣っているとも指摘されている中で、これらの栄養成分の増大を図り、施設内で生産された野菜の品質の向上を図る上で、ホウレンソウやコマツナのような葉菜類の冬期ハウス栽培において開発された「寒締め栽培」は極めて重要な栽培技術に位置付けられる。しかしながら、この「寒締め栽培」も、なお、いくつかの課題を残している。
【0006】
すなわち、まず、(1)温暖な秋の間に野菜を生長させ、冬の寒さに当てて糖度やビタミンの高い野菜を収穫する従来の「寒締め栽培」は、「冬の寒さ」に依存せざるを得ないため、その適用できる栽培時期が限られている。したがって、温暖な春から秋の間に栽培される野菜について、消費者から甘く栄養価の高い野菜が求められても、従来の「寒締め栽培」は、これらの消費者からのニーズに答えることは難しい。
【0007】
また、(2)従来の「寒締め栽培」は、該栽培方法で収穫された野菜の品質が、そのときの気象に大きく依存するという側面を有している。例えば、晩秋から初冬にかけて気温が高く経過すると、寒さが来る前に出荷規格の大きさを超えてしまい、糖度が高まる前に出荷せざるを得ない。またその期間が異常に寒いと、野菜が出荷規格に達しないまま、冬を迎えてしまい、糖度が上昇しても規格が小さいため市場性が損なわれる。更に、異常な暖冬であれば、糖度上昇は望めない。最近の異常気象により、この不安定な生産傾向が「寒締め栽培」に重大な影響を及ぼしている。このように、栽培時期の気象に依存するこれらの栽培法では、秋期の生長調節の失敗や暖冬による糖度不足などにより、安定した高品質の野菜の生産がしばしば損なわれている。
【0008】
更に、(3)従来の「寒締め栽培」は、冬の外気の低温を利用するため、その温度管理には熟練が必要とされ、また、地上部に出ている可食部を低温に曝すため、低温処理による栄養成分の増大と共に、凍害や黄変等の低温による可食部品質への影響を引き起こす恐れがあるという面を有している。したがって、「寒締め栽培」は、高品質野菜の栽培方法として有力の手段ではあるが、上記のように、なお、解決されなければならない制約を有しており、したがって、かかる「寒締め栽培」の利点を生かしつつも、上記のような制約を解消した新しい高品質野菜の栽培方法の確立が望まれているところである。
【0009】

【非特許文献1】岡田益己、小沢聖編「べたがけを使いこなす」農文協、P68-70、1997。
【非特許文献2】日本土壌肥料科学雑誌、第58巻第4号、427-432、1987。
【非特許文献3】東北農業研究、第47号、317-318、1994。
【非特許文献4】東北農業研究、第50号、191-192、1997。
【非特許文献5】農業および園芸、第71巻第3号、409-412、1996。
【非特許文献6】園学研、3(2):187-190、2004。
【非特許文献7】2004年9月6日~8日、農業環境工学関連4学会2004年合同大会発表要旨「寒締めホウレンソウの糖度変化の定量化」。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法において、従来行われている「寒締め栽培」の利点を生かしつつ、従来の「寒締め栽培」の適用時期を越えて適用することができ、なおかつ、気候変動に左右されず、更に、低温処理による可食部品質への望ましくない影響を極力抑えた新しい葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、冬の寒さを利用して、ホウレンソウやコマツナなどの葉菜類の糖度(甘み)やビタミンの含有量を向上させる「寒締め栽培」法について、低温処理と糖類の蓄積、及び、低温処理と水ストレス(吸水抑制)の関係について、鋭意検討する中で、地温を低下すると、言い換えれば、植物の根部を低温に曝すと、植物体の糖度やビタミンのような栄養分を高めることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、気温が低い場合のみならず、例えば、気温が25℃のように高い条件の場合でも、地温、言い換えれば植物の根部を10~15℃以下の低温条件に曝すと、植物の葉や茎根或いは果実等の可食部の糖度やビタミン等の含量を増大することができることを見い出した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであり、葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法において、収穫前の所定の栽培期間或いは収穫時の所定の保持期間、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理して栽培し、葉茎根菜類又は果菜類の可食部に含まれる糖度の上昇を図ることよりなる高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法からなる。本発明において、葉茎根菜類又は果菜類の根部の低温条件の管理は、葉茎根菜類又は果菜類の根部の低温水との接触によって行うことができ、該低温水としては、養液栽培における供給養液を用いることができる。
【0013】
本発明の方法は、葉茎根菜類又は果菜類の栽培において適用することができ、特に、アカザ科、アブラナ科、キク科、ユリ科及びセリ科から選択される葉茎菜類、或いは、ナス科、バラ科、及びウリ科から選択される果菜類に対して、適用することができる。本発明の栽培方法は、葉茎根菜類又は果菜類の植物の根部のみを低温管理することによって行われるから、冬期のみならず、夏の高温時においても適用することができ、夏冬の栽培時期を問わず、葉茎根菜類又は果菜類の葉、茎、根、及び果実等の可食部の糖度やビタミン等の栄養成分の含量を向上させて、品質の高い野菜を提供することができる。
【0014】
すなわち具体的には本発明は、(1)アカザ科、アブラナ科、キク科(サニーレタスを除く)、ユリ科及びセリ科から選択される葉茎根菜類又はナス科及びウリ科から選択される果菜類の栽培方法において、葉茎根菜類については、収穫前の数日~3週間の範囲の栽培期間或いは収穫時の所定の保持期間、又は、果菜類については、収穫前の開花結実後から収穫時までの期間、葉茎根菜類又は果菜類の根部を実質的に0~15℃の範囲の低温条件に管理して栽培し、葉茎根菜類又は果菜類の可食部に含まれる糖度の上昇を図ることを特徴とする高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法からなる。

【0016】
更に、本発明は、(2)葉茎根菜類又は果菜類の根部の低温条件の管理を、葉茎根菜類又は果菜類の根部への低温水の供給或いは冷却媒体による根部雰囲気の冷却によって行うことを特徴とする上記(1)記載の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法や、()低温水が、養液栽培における供給養液であることを特徴とする上記(2)記載の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法からなる。


【発明の効果】
【0017】
本発明の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法は、従来行われている「寒締め栽培」の利点を生かしつつ、従来の「寒締め栽培」の制約の点を解消して、栽培時期に限定されず、平易かつ確実な栽培管理で、葉茎根菜類又は果菜類の葉、茎、根、及び果実等の可食部の糖度やビタミン等の栄養成分の含量を向上させた、品質の高い野菜を供給することを可能とする。すなわち、本発明の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法は、外気によらず、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理することによって、実施できるから、従来の「寒締め栽培」のように、「冬の寒さ」に依存せず、夏の高温時においても適用することができ、夏冬の栽培時期を問わず、可食部の糖度やビタミン等の栄養成分の含量の増大した、品質の高い野菜を提供することができる。
【0018】
また、本発明の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法は、外気によらず、葉茎根菜類又は果菜類の根部のみの低温処理により行うことができるから、従来の「寒締め栽培」のように、地上部に出ている可食部を低温に曝し、低温処理による栄養成分の増大と共に、凍害や黄変等の低温による可食部品質への影響を引き起こすという恐れはなく、可食部の糖度やビタミン等の栄養成分の含量の増大した、高品質の野菜を提供することができる。更に、本発明の高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法は、植物の根部のみの低温処理により行うことができるから、その低温管理が平易であり、かつ、気候変動に左右されることなく確実であり、従来の「寒締め栽培」のように、冬の外気の低温を利用して、低温の不足や過度の低温を避けて有効な低温処理を達成するための、温度管理における熟練は必要とされない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法において、収穫前の所定の栽培期間或いは収穫時の所定の保持期間、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理して栽培し、葉茎根菜類又は果菜類の可食部に含まれる糖度の上昇を図る高糖度含有葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法からなる。本発明において、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理して栽培する際の、低温条件としては、植物の種類によって多少の変動はあるが、葉茎根菜類又は果菜類の根部が、実質的に0~15℃の範囲に保持されることが好ましく、実質的に0~10℃の範囲に保持されることが、更に好ましい。
【0020】
低温条件での保持期間は、収穫前の所定の栽培期間或いは収穫時の所定の保持期間として、それぞれの作物に対して、設定されるが、葉茎根菜類については、数日~3週間の範囲において、低温条件で保持されることが好ましい。経済的には、数日~2週間の範囲において、低温条件で保持されることが好ましく、特に好ましくは、1週間~10日の範囲、低温条件で保持されることが好ましい。また、果菜類については、開花結実後から収穫時までの期間を設定することが好ましく、例えば、トマトについては、開花結実約4週間後から、収穫時までの期間を設定することができる。
【0021】
葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理するには、収穫前の所定の栽培期間において、植物の根部に低温水を供給して、植物の根部を低温条件に保持することができ、このような管理は、供給養液を冷却して用いることが可能な養液栽培における低温条件管理として特に有利に利用できる。また、低温水を供給する代わりに、供給した水を、冷水配管等により冷却して、根部の低温条件管理を行うことも可能である。更に、低温条件管理は、冷却パイプや冷却板、或いは冷却空気等の冷却媒体を用いて、直接根部雰囲気を冷却することにより行うことができる。これらの場合に、植物の根部全体が低温条件に保持されることが重要で、例えば、通常の土床栽培において、冷水配管をしただけの設備で、根の一部が高温に保持されるような状況では、本件発明の栽培法の効果が低減する。
【0022】
更に、本発明の栽培法において、葉茎根菜類又は果菜類の根部を特異的に低温条件に管理、栽培するのに、葉茎根菜類の収穫時の所定の時期に、すなわち、通常の栽培法で収穫規格の大きさに達した時期に、葉茎菜類を、根をできるだけ傷めずに収穫し、根の部分だけを所定温度の冷水に、所定期間浸すことによって低温条件に保持し、可食部の糖度等を増大するような方法で管理、栽培することができる。
【0023】
本発明の栽培方法は、特に、葉茎根菜類又は果菜類の栽培方法として適用することができ、とりわけ、アカザ科、アブラナ科、キク科、ユリ科、セリ科などの葉茎根菜類、例えば、ホウレンソウ、コマツナ、サントウサイ、ハクサイ、カブ、ミズナ類、サラダナ類、ネギ類、セリ、クレソン、カブ、ニンジンなど、或いは、ナス科、バラ科、ウリ科などの果菜類、例えばトマト、イチゴ、メロンなどの栽培方法として、有効に利用することができる。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
[糖度上昇に対する地温の影響]
恒温水槽をもちいて、ポット植えのホウレンソウ(品種:まほろば(冬期);プリウス(夏期))の根圏部温度(地温)を制御し、糖度上昇に対する地温の影響について、調査した。供試ホウレンソウは、ポット植え栽培により、13~15葉期のものを用いた。根圏部温度(地温)の制御は、それぞれ所定の温度に制御し、それぞれの温度に、1週間保持した。ホウレンソウの地上部雰囲気の温度(平均気温)は、夏期のハウス内で、25℃(平均気温:24.6℃)に制御された試験区と、4℃(昼温8℃、夜温0℃;平均気温:3.8℃)に制御された試験区とを用いた。糖度(Brix)の測定は、25℃の試験区及び4℃の試験区のいずれの試験区とも、最大展開葉の葉身で測定した。
【0026】
(結果)
25℃の試験区及び4℃の試験区における栽培試験の結果を、図1及び図2に示す。図1は、25℃の試験区における、地温処理に伴う、1週間後の糖度変化を示し、縦軸は、処理前の糖度との差を表す。無処理は、恒温水槽に浸さないポットのものを示す。図2は、4℃の試験区における、地温処理に伴う、1週間後の糖度変化を示し、縦軸は、処理前の糖度との差を表す。無処理は、恒温水槽に浸さないポットのものを示す。25℃の試験区(図1)及び4℃の試験区(図2)のいずれの試験区においても、地温が略10℃以下になると、糖度の上昇が起こった。地温が、おおむね10℃以下の低温では、根の吸水抑制が起こっているので、これが引き金となって地上部の糖濃度が上昇するものと推察される。
【0027】
図2に示されるように、「寒締め栽培」が十分可能な4℃の試験区の低温条件でも、地温が高いと糖度が上昇しない。一方、図1の25℃の試験区の結果に示されるように、平均気温が高い条件下(平均気温24.6℃)においても、地温が低ければホウレンソウの糖度は上昇する。このことは、夏のハウス内で気温が高くても、地温が低ければ、冬期の「寒締め栽培」並みの糖度の上昇したホウレンソウを生産できることを示している。
【実施例2】
【0028】
[地温変化に伴う吸水量及び気孔コンダクタンスの変化]
低温条件の地温を利用した糖度の上昇栽培のメカニズムを解明するために、地温変化に伴う吸水量の変化と気孔コンダクタンスの変化について測定した。地温の温度管理は、実施例1の方法によって行った。
【0029】
(結果)
ポット栽培したホウレンソウ(品種:まほろば)を恒温水槽で、根圏部のみ温度管理し、恒温し、恒温水槽の温度を、20℃からそれぞれ12、9、6℃に低下させた場合の吸水量の経時変化を図3に示す。地温が、9℃前後を境にして、低温による根の吸水量の減少が顕著に現れる。このことから、低温に対する適応が、根の吸水抑制によって引き起こされ、その結果、植物の地上部に糖を蓄積し、「寒締め栽培」と同様の効果が発現するものと考えられる。したがって、秋から冬期の栽培において、気温が下がっても、地温がおおむね10℃以下に低下しないと、ホウレンソウの糖度は上昇しない。
【0030】
気孔コンダクタンスと糖度との関係を測定した結果を、図4に示す。図4は、上記図2の実験で、糖度測定サンプルの採取直前に、気孔コンダクタンスを測定した結果を示すものである。図4に示されるように、地温低下に伴って、気孔コンダクタンスが減少し、糖度と気孔コンダクタンスの間には高い負の相関が認められる。
【実施例3】
【0031】
[ホウレンソウの水耕栽培における水温低下と糖濃度上昇]
最低気温が12℃を下回らないように暖房した温室内で、ホウレンソウ(品種:まほろば)を水耕栽培し、水温を14℃から4℃に低下させたときのショ糖濃度の変化を測定した。
【0032】
(結果)
結果を、図5に示す。水温低下2週間後に、ショ糖濃度は水温低下前の濃度に比べて6~7倍に増加した。このことから「寒締め効果」が起こらないような気温条件でも、水耕栽培で水温を低下することにより糖濃度上昇が可能なことが証明された。
【実施例4】
【0033】
[トマトの糖度・食味に対する根域温度の影響]
最低気温が12℃を下回らないように暖房した温室内で、トマト(品種:桃太郎)を水耕栽培し、根域温度(水温)がトマトの糖度や食味に及ぼす影響を調査した。第1段花房の開花結実から約4週間後に、水温を12℃又は20℃に制御する試験を開始した。水温制御開始から11週間後に果実の糖度(Brix)を測定し、また12週間後に35人のモニターを対象に食味(甘さ、酸味、味の濃さ、総合的な旨さ)を調査した。
【0034】
(結果)
水温の異なるトマト水耕栽培における糖度の比較についての結果を図6に、水温の異なるトマト水耕栽培における食味試験項目の比較についての結果を図7に示す。20℃区の糖度は、一般に美味しいと言われる糖度6をやや上回る値であったが、12℃区の糖度は強い甘みを感じる糖度10を超えた(図6)。食味試験では、市販品の中でも美味しいとされる完熟トマトに比べて、供試品が優位か否かを判定した。例えば甘さの場合は、供試品が市販品に比べて、「やや甘い」、「甘い」、「かなり甘い」、「非常に甘い」の4段階あるいは市販品の方が甘い場合の4段階に、「差がない」を加えて計9段階で評価した。その結果を-1から+1のスケール(0:差がない、-1:市販品が非常に優位、+1:供試品が非常に優位)で表したところ、酸味以外の項目で水温12℃区が顕著に優位となり(図7)、低水温処理によりトマトの糖度や旨みを極端に高められることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例において、地温処理に伴う1週間後の糖度変化について、25℃(平均気温:24.6℃)に制御された試験区における測定結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、地温処理に伴う1週間後の糖度変化について、4℃(昼温8℃、夜温0℃;平均気温:3.8℃)に制御された試験区における測定結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、地温変化に伴う吸水量の経時変化を測定した結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、気孔コンダクタンスと糖度との関係について、測定した結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例における、ホウレンソウの水耕栽培における水温低下と糖濃度上昇についての試験において、水温を低下させたときのショ糖濃度の変化について、測定した結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例における、トマトの糖度・食味に対する根域温度の影響についての試験において、水温の異なるトマト水耕栽培における糖度の比較についての結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例における、トマトの糖度・食味に対する根域温度の影響についての試験において、水温の異なるトマト水耕栽培における食味試験項目の比較についての結果を示す図である。
図面
【図5】
0
【図6】
1
【図7】
2
【図1】
3
【図2】
4
【図3】
5
【図4】
6