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明細書 :金の高選択的な抽出剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4945744号 (P4945744)
公開番号 特開2007-113070 (P2007-113070A)
登録日 平成24年3月16日(2012.3.16)
発行日 平成24年6月6日(2012.6.6)
公開日 平成19年5月10日(2007.5.10)
発明の名称または考案の名称 金の高選択的な抽出剤
国際特許分類 C22B  11/00        (2006.01)
C22B   3/26        (2006.01)
C22B   7/00        (2006.01)
C07D 207/267       (2006.01)
FI C22B 11/00 101
C22B 3/00 ZABJ
C22B 7/00 G
C07D 207/267
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2005-306124 (P2005-306124)
出願日 平成17年10月20日(2005.10.20)
審査請求日 平成20年10月16日(2008.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】馬場 由成
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】河野 一夫
参考文献・文献 特開平01-297101(JP,A)
特開2002-348620(JP,A)
特表2001-505958(JP,A)
特開2005-047911(JP,A)
特開2003-119032(JP,A)
調査した分野 C22B 1/00 - 61/00
C07D 207/267
特許請求の範囲 【請求項1】
式(I)
【化1】
JP0004945744B2_000003t.gif
[式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基又はアルケニル基である]
で表される化合物を有効成分とする金の抽出剤。
【請求項2】
2.5mol/dm以上の塩酸濃度を有する金の塩化物を含有する水溶液から請求項1記載の抽出剤を用いて金を抽出することを特徴とする金の抽出方法。
【請求項3】
2.5mol/dm以上の塩酸濃度を有する金の塩化物を含有する水溶液から請求項1記載の抽出剤を用いて金を抽出した後、金及び前記抽出剤を含有する有機相から水を用いて金を逆抽出することを特徴とする金の回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は金の高選択的な抽出剤、並びに、前記抽出剤を用いた金の抽出方法又は回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工業において電子材料の製造工程で排出される廃棄物、自動車廃触媒、めっき廃液等には微量の貴金属が含まれる。従来より、これらの廃棄物からの貴金属の回収に用いられている代表的な工業用抽出剤は、硫黄を配位原子とするジヘキシルスルフィド(DHS)やジオクチルスルフィド(DOS)のようなスルフィド類や、LIXシリーズやPシリーズに代表されるヒドロキシオキシム類である。なかでも金の回収にはスルフィド類が主に用いられている。しかしながらスルフィド類は金を抽出するとともにパラジウムを同時に抽出するので、パラジウムと金とを分離する工程が必要となる。
【0003】
また金に選択的な抽出剤としてジブチルカルビトールが用いられる場合があるが、金に対する選択性は必ずしも高くはない。そのため、金の抽出剤としてジブチルカルビトールを用いる場合には、抽出後にスクラビング工程を行うことにより、共抽出された金以外の金属を逆抽出により除去し、金だけが有機相中に残存するように処理する必要がある。
【0004】
以上のように既存の抽出剤では貴金属の混合物の中から金だけを一段階で選択的に抽出し回収することはできない。
【0005】
またスルフィド類を工業的な抽出剤として長期間使用する場合、スルフィド類中の硫黄原子が試薬による酸化や空気酸化を受けてスルホキシドになり、抽出選択性が低下してしまうという問題もある。そのためスルフィド類は酸化性を有する溶液中では使用することができない。
【0006】
さらにまた、スルフィド類により有機相に抽出された金は、逆抽出剤により水溶液側に逆抽出されるが、このとき使用される逆抽出剤がアンモニア、チオ尿素、(塩酸+チオ尿素)溶液等である点でも従来のスルフィド類抽出剤の使用は問題がある。これらの逆抽出剤は後処理が必要であるため、処理工程全体が複雑になるからである。
【0007】
本発明に関連する先行技術文献として以下の文献を開示する。

【特許文献1】特開平9-316561号公報
【特許文献2】特開平10-130744号公報
【特許文献3】特開平11-335749号公報
【特許文献4】特開2001-316736号公報
【特許文献5】特表2005-523992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一段階で高選択的に金を抽出することができ、かつ、逆抽出に用いる水相の特別な後処理工程が不要である金の抽出方法および回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)式(I)
【0010】
【化1】
JP0004945744B2_000002t.gif
[式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基又はアルケニル基である]
で表される化合物を有効成分とする金の抽出剤。
(2)金を含有する水溶液から(1)記載の抽出剤を用いて金を抽出することを特徴とする金の抽出方法。
(3)金を含有する水溶液から(1)記載の抽出剤を用いて金を抽出した後、金及び前記抽出剤を含有する有機相から水を用いて金を逆抽出することを特徴とする金の回収方法。
(4)金を含有する水溶液が金の塩化物を含有する水溶液である(2)又は(3)記載の方法。
(5)金の塩化物を含有する水溶液が、2.5mol/dm以上の塩酸濃度を有するものである(4)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により各種の貴金属を含有する溶液から一段階で高選択的に金を抽出することが可能になる。本発明による金の回収方法では、水を用いて金の逆抽出を行なうことが可能であるため、逆抽出後の複雑な後処理工程が不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
式(I)で表される化合物において、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18、好ましくは炭素数8~16、より好ましくは炭素数8~12のアルキル基又はアルケニル基である。Rがアルケニル基である場合、不飽和結合の数は複数であっても単数であってもよい。Rの好ましい具体例としてはオクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オレイル基等が挙げられるがこれらには限定されない。Rがドデシルである化合物は、例えば東京化成工業株式会社や、アルドリッチジャパン等の試薬メーカーから市販されている。式(I)で表される化合物は非常に安定であるため長期間の工業的使用にも耐えるものである。
【0013】
本発明による金の回収方法は、金を含有する水溶液から式(I)で表される化合物を用いて金を抽出する工程(以下「抽出工程」と称することがある)と、金及び式(I)化合物を含有する相から水を用いて金を逆抽出する工程(以下「逆抽出工程」と称することがある)とを含むことを特徴とする。
【0014】
抽出工程は金を含有する水溶液(水相)と式(I)で表される化合物を含有する有機相とを接触させることにより行う。式(I)で表される化合物は常温で液体であるから、抽出工程において式(I)で表される化合物を単独で有機相としてもよいが、式(I)で表される化合物を有機溶媒に希釈したものを有機相としてもよい。式(I)で表される化合物を有機溶媒で希釈する方法は経済的である点で好ましい。希釈液として使用できる有機溶媒としては脂肪族化合物から芳香族化合物までの種々の有機溶媒が使用でき、なかでもトルエン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、キシレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、あるいはこれらの混合物等が好適に使用できる。
【0015】
「金を含有する水溶液」は典型的には「金の塩化物を含有する水溶液」である。金の塩化物を含有する水溶液は、例えば、金を含む廃棄物等を塩素化溶解することにより得ることができる。塩素化溶解は常法により、例えば過酸化水素と塩酸の併用、あるいは塩素ガスと塩酸の併用により行うことができる。
【0016】
本発明者らは驚くべきことに、抽出工程において用いられる金塩化物含有水溶液中の塩酸濃度が高いほど、式(I)で表される化合物を含有する有機相中へ金がより選択的に抽出されることを見出した(実施例参照)。金塩化物含有水溶液中の塩酸濃度は2.5mol/dm以上であることが好ましく、3mol/dm以上であることがより好ましく、4mol/dm以上であることが最も好ましい。金塩化物含有水溶液中の塩酸濃度の上限は特に限定されない。すなわち金の選択的抽出を行うためには、金塩化物含有水溶液中の塩酸濃度は、当該水溶液中での塩酸飽和濃度を上限とし、好ましくは上記下限以上である任意の濃度であってよい。
【0017】
抽出の条件は特に限定されない。例えば、金を含有する水溶液(水相)と、式(I)で表される化合物を含有する有機相とを1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1の容積比で、5~50℃にて、0.5~48時間接触させることにより有機相に金を抽出することができる。
【0018】
上記の抽出工程により有機相中に金を抽出した後、有機相と水相とを分離することが好ましい。
【0019】
続いて、式(I)で表される化合物及び金を含む有機相から水を用いて金を逆抽出する逆抽出工程を行う。背景技術の項で説明した通り、スルフィド類を金の抽出剤として用いる従来の方法では有機相から金を逆抽出するための媒体として水を用いることはできず、アンモニア、チオ尿素、(塩酸+チオ尿素)溶液等を用いる必要があった。これに対して本発明では、有利なことに、水を用いて有機相から金を逆抽出することが可能である。逆抽出に用いられる水は、逆抽出の効率に悪影響を与えない範囲で他の成分(例えば0.01M以下の塩酸)を含有するものであってもよい。
【0020】
逆抽出の条件は特に限定されない。例えば、式(I)で表される化合物及び金を含む有機相と、水とを1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1の容積比で、5~50℃にて、0.5~48時間接触させることにより水相に金を逆抽出することができる。
【0021】
上記の逆抽出工程により水相中に金を逆抽出した後、有機相と水相とを分離することが好ましい。
【0022】
水相中の金は常法に従い還元剤を用いて還元析出させ、回収することができる。還元剤としては例えばシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムが挙げられる。また、水素ガスをバブリングすることによっても還元析出できる。
【実施例】
【0023】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが本発明は実施例の記載には限定されない。
実験1:各種金属の抽出
実験は全てバッチ法で行った。水相としては、各塩酸濃度(1.0x10-2~5.0mol/dm)に調製した金属濃度1.0x10-3mol/dmである各金属(Au,Cu,Hg,Pd,Pt,Rh,Ir,Fe,Ni,Zn,Co)の塩酸溶液を用いた。有機相としては濃度1.0x10-2mol/dmに調製した1-ドデシル2-ピロリジノン(本発明の抽出剤)のトルエン溶液を用いた。水相及び有機相をそれぞれ10cmずつL字管に入れ、30℃の恒温槽で24時間振とうさせた。24時間後、水相を採取した。水相の金属濃度は原子吸光光度計を用いて定量化した。平衡後の水相の塩酸濃度は中和滴定によって定量化した。実験結果を図1に示す。
【0024】
図1において横軸は水相中の塩酸濃度を示し、縦軸は各金属の抽出率を示す。抽出率(E(%))は次式により求めた。
E=100x(C-C)/C (%)
式中、Cは水相中の金属イオンの初濃度を示し、Cは平衡化後の水相中の金属イオンの濃度を示す。
【0025】
図1に示される通り、銅、水銀、鉄、ニッケル、亜鉛、コバルト等のベースメタルやパラジウム、白金、ロジウム、イリジウム等の貴金属は有機相中には全く抽出されず、金のみが選択的に抽出されている。しかも、塩酸濃度が高い(5mol/dm)領域で金の抽出率は高まる。このことは、廃触媒や電子材料の廃材から貴金属を溶解して金を回収する際に使用される酸濃度が5~6mol/dmであることを考慮すれば、工業的な観点からも有利な結果である。また、塩酸濃度が低い領域で抽出率が0であることは、抽出された金が水で回収されることを示唆している。
【0026】
実験2:有機相から水相への金の逆抽出
実験は全てバッチ法で行った。まず、塩酸濃度を5.0mol/dmとし金(III)濃度を1.0x10-3mol/dmとした溶液10cmを水相に用い、濃度を1.0x10-2mol/dmとしたDPOのトルエン溶液10cmを有機相に用いて、実験1の手順に従って抽出実験を行った後、有機相を採取した。採取された有機相と、逆抽出剤としての蒸留水又は塩酸(濃度;0.01,0.1,1.0mol/dm)10cmをL字管に入れ、30℃の恒温槽で24時間振とうさせ、金(III)の逆抽出操作を行った。振とう後、水相を採取した。水相のAu濃度を原子吸光光度計を用いて定量化した。結果を図2に示す。
【0027】
図2において各カラムは逆抽出剤の種類(蒸留水あるいは0.01、0.1又は1.0mol/dmHCl)を示し、縦軸は金イオンの逆抽出率を示す。逆抽出率(E’(%))は次式により求めた。
E’=100xC’/C (%)
式中、Cは抽出前の水相中の金イオンの初濃度を示し、C’は逆抽出により得られた水相中の平衡化後の金属イオンの濃度を示す。
【0028】
図2に示される通り、水を逆抽出剤として用いた場合に逆抽出率が100%となった。このことから、DPOを金の抽出剤として用いた場合は、逆抽出剤として化学薬品を用いる必要がなく水のみで金の逆抽出が可能であることがわかる。
【0029】
実験3:パラジウム(II)/金(III)混合系、又は白金(IV)/金(III)混合系からの金(III)の選択的抽出
実験は全てバッチ法で行った。水相としては、各濃度(0.1~5.0mmol/dm)に調製したパラジウム(II)または白金(IV)が混合した、金(III)の塩酸溶液(金(III)濃度;0.1mmol/dm,塩酸濃度;6.0mol/dm)を用いた。有機相としては、濃度1.0x10-2mol/dmのDPOのトルエン溶液を用いた。水相及び有機相をそれぞれそれぞれ10cmずつL字管に入れ、30℃の恒温槽で24時間振とうさせた。24時間後、水相を採取した。水相の金属濃度は原子吸光光度計を用いて測定し、抽出実験後の塩酸濃度は中和滴定により定量化した。実験結果を図3及び4に示す。
【0030】
図3は、金とパラジウムの混合溶液からの金の抽出率を示す。図3において横軸は抽出前の水相中での金に対するパラジウムのモル比を示し、縦軸は金又はパラジウムの抽出率を示す。抽出率の定義は実験1での抽出率と同様である。
【0031】
図3に示される通り、金に対してパラジウムが60倍以上存在しても、パラジウムは殆ど抽出されず、金のみが高選択的に抽出された。また異なるパラジウム/金比においても金の抽出率がほぼ一定であることから、パラジウムが共存することによる金の抽出妨害は起こっていないことがわかる。
【0032】
図4は、金と白金の混合溶液からの金の抽出率を示す。図4において横軸は抽出前の水相中での金に対する白金のモル比を示し、縦軸は金又は白金の抽出率を示す。抽出率の定義は実験1での抽出率と同様である。
【0033】
図4に示される通り、金に対して白金が40倍以上存在しても、白金は殆ど抽出されず、金のみが高選択的に抽出された。また異なる白金/金比においても金の抽出率がほぼ一定であることから、白金が共存することによる金の抽出妨害は起こっていないことがわかる。
【0034】
比較実験:ジブチルカルビトールによる各金属の抽出
比較のために、抽出剤としてDPOに代えて既知の抽出剤であるジブチルカルビトール(DBC)を用いて各金属の抽出を行った。
【0035】
実験は全てバッチ法で行った。水相としては、各塩酸濃度(1,3,6mol/dm)に調製した金属濃度約1.0x10-3mol/dmである各金属(Au,Pt,Pd,Fe)の塩酸溶液を用いた。有機相としては濃度1.0x10-2mol/dmに調製したDBCのトルエン溶液を用いた。水相及び有機相をそれぞれ10cmずつL字管に入れ、30℃の恒温槽で24時間振とうさせた。24時間後、水相を採取した。水相の金属濃度は原子吸光光度計を用いて定量化した。平衡後の水相の塩酸濃度は中和滴定によって定量化した。実験結果を図5に示す。
【0036】
図5において横軸は水相中の塩酸濃度を示し、縦軸は各金属の抽出率を示す。抽出率の定義は実験1での抽出率と同様である。
【0037】
図5に示される通り、塩酸濃度が高くなるにつれて金の抽出率は高くなるが、それに伴って他の金属(特に白金及び鉄)の抽出率も高まっている。すなわち抽出剤としてDBCを用いた場合には共抽出が起こり、金を選択的に抽出することができない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】水相中の塩酸濃度と、1-ドデシル2-ピロリジノンによる各金属の抽出率との関係を示す図である。
【図2】逆抽出剤の種類と、金(III)イオンの逆抽出率との関係を示す図である、
【図3】金に対するパラジウムのモル比と、1-ドデシル2-ピロリジノンによる金の抽出率との関係を示す図である。
【図4】金に対する白金のモル比と、1-ドデシル2-ピロリジノンによる金の抽出率との関係を示す図である。
【図5】水相中の塩酸濃度と、ジブチルカルビトールによる各金属の抽出率との関係を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4