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明細書 :鉄を抽出しない新規な遷移金属抽出剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4967113号 (P4967113)
公開番号 特開2007-126404 (P2007-126404A)
登録日 平成24年4月13日(2012.4.13)
発行日 平成24年7月4日(2012.7.4)
公開日 平成19年5月24日(2007.5.24)
発明の名称または考案の名称 鉄を抽出しない新規な遷移金属抽出剤
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
B01D  11/04        (2006.01)
C02F   1/62        (2006.01)
C07D 213/81        (2006.01)
FI C09K 3/00 108D
B01D 11/04 B
C02F 1/62 Z
C02F 1/62 C
C07D 213/81
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2005-320869 (P2005-320869)
出願日 平成17年11月4日(2005.11.4)
審査請求日 平成20年10月30日(2008.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】馬場 由成
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】安居 拓哉
参考文献・文献 特開平07-224038(JP,A)
特開昭57-146758(JP,A)
ポーランド国特許発明第188035(PL,B1)
LESSMANN,J.J. et al,Supramolecular Coordination Chemistry in Aqueous Solution: Lanthanide Ion-Induced Triple Helix Formation,Inorganic Chemistry,2000年,Vol.39, No.15,p.3114-3124
Amino acid binding by 2-(guanidiniocarbonyl)pyridines in aqueous solvents: a comparative binding study correlating complex stability with stereoelectronic factors,Chemistry--A European Journal,2005年 2月,Vol.11, No.4,p.1109-1118
2,6-Bis[N-(8-quinolyl)carbamoyl]pyridine as a highly selective extractant for copper(II),Bulletin of the Chemical Society of Japan,1990年,Vol.63, No.11,p.3331-3333
調査した分野 C09K 3/00
B01D 11/04
C02F 1/62
C07D 213/81
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
式(I):
【化1】
JP0004967113B2_000005t.gif

[式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基又はアルケニル基である]で表される化合物又はその塩を有効成分とする、鉄以外の遷移金属の抽出剤。
【請求項2】
鉄以外の遷移金属が銅である、請求項記載の抽出剤。
【請求項3】
請求項記載の抽出剤を用いて、遷移金属を含有する水溶液から鉄以外の遷移金属を選択的に抽出することを特徴とする、鉄以外の遷移金属の抽出方法。
【請求項4】
鉄以外の遷移金属が銅である、請求項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規カルボン酸アミド化合物、前記化合物を含有する、鉄以外の遷移金属の抽出剤、並びに前記抽出剤を用いた鉄以外の遷移金属の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金属の回収に用いられる抽出剤としては、酸素を配位原子とする工業用抽出剤である酸性リン化合物抽出剤(酸性リン酸エステル、酸性ホスホン酸エステル、酸性ホスフィン酸エステル)、中性リン化合物抽出剤(中性リン酸エステル、中性ホスホン酸エステル、中性ホスフィン酸エステル)およびジチオリン酸エステル、多座配位の有機リン化合物抽出剤がある。また、鉄、銅、鉛、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルトなどの抽出剤としては、カルボン酸を官能基とするバーサティック10やナフテン酸などの抽出剤が開発されており、湿式製錬工業で数多く利用されている。
【0003】
これらの金属抽出剤は鉄イオンに対して最も親和性が高い。そのため、鉄及びその他の遷移金属を含有する溶液から、上記の金属抽出剤を用いて低pH領域で抽出を行った場合、鉄イオンが必ず抽出されるため、鉄以外の遷移金属だけを選択的に抽出することができない。鉄以外の遷移金属を利用するには、鉄と鉄以外の遷移金属とを分離する工程が更に必要である。
【0004】
上記の問題点を解決するために、鉄イオンより銅に対して高い選択性を示すヒドロキシオキシム系の工業用抽出剤(LIXシリーズやPシリーズ)が開発された。これらの抽出剤は鉄イオンを抽出するものの、鉄イオンは銅イオンより高pHで抽出されるので、現在、銅の湿式製錬プロセスに利用されている。しかしながら、ヒドロキシオキシム系の抽出剤は、徐々にオキシムが分解するために、逐次的に試薬の追加充填が必要であるという問題がある。
【0005】
金属抽出剤に関する特許出願(特許文献1、2等)は数多くなされているが、鉄以外の遷移金属を選択的に抽出する抽出剤として満足できるものは未だ開発されていない。

【特許文献1】特開2000-107505号公報
【特許文献2】特開平11-179104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、金属の分離・回収を行う環境中には鉄イオンが共存していることが多い。鉄イオンを抽出せず、鉄イオン以外の遷移金属イオンを選択的に抽出できる抽出剤が開発されれば、今までの金属の分離・回収技術は大きく変化し、分離プロセスの簡略化、試薬の削減などによる経済的効果など、多大なものが期待される。
【0007】
すなわち本発明は、鉄と鉄以外の遷移金属とを含有する溶液から、鉄以外の遷移金属を選択的に抽出することができる、化学的に安定な抽出剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は以上の問題点を解決するために鋭意研究した結果、鉄を抽出しないが他の遷移金属は抽出できる抽出剤を新規に開発した。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)式(I):
【0009】
【化1】
JP0004967113B2_000002t.gif
[式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基又はアルケニル基である]で表される化合物又はその塩。
(2)(1)記載の化合物を有効成分とする、鉄以外の遷移金属の抽出剤。
(3)鉄以外の遷移金属が銅である、(2)記載の抽出剤。
(4)(2)記載の抽出剤を用いて、遷移金属を含有する水溶液から鉄以外の遷移金属を選択的に抽出することを特徴とする、鉄以外の遷移金属の抽出方法。
(5)鉄以外の遷移金属が銅である、(4)記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、鉄と鉄以外の遷移金属とを含有する溶液から、鉄以外の遷移金属を選択的に一段階で抽出することができる、化学的に安定な抽出剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
式(I)で表される化合物(以下「本発明の化合物」と称する)は新規化合物である。本発明の化合物は、任意の有機又は無機の酸又は塩基と塩を形成することができる。当該塩もまた本発明の範囲内である。本化合物は実施例記載の方法により調製することができる。
【0012】
本発明の化合物において、Rは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~18、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数8~12のアルキル基又はアルケニル基である。Rがアルケニル基である場合、不飽和結合の数は複数であっても単数であってもよい。Rの好ましい具体例としては2-エチルヘキシル、tert-ドデシル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オレイル基等が挙げられるがこれらには限定されない。本発明の化合物は非常に安定であるため長期間の工業的使用にも耐えるものである。
【0013】
本発明において「遷移金属」とは周期表の3A~7A及び1Bの各族の元素だけでなく2B族の亜鉛、カドミウム、水銀の3元素をも含む広義の遷移金属を意味する。本発明の化合物により抽出される遷移金属イオンとしては特に、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、カドミウム、鉛のイオンが挙げられる。本発明の化合物により抽出される金属イオンの選択性は、抽出時の水相のpHにより変動し、例えばpH5以下では銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉛、及びカドミウムのイオンが選択的に抽出され、pH4.5以下では銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、及び鉛のイオンが選択的に抽出され、pH3以下では銅が選択的に抽出される。水相のpHを適宜調節することにより、所望の金属イオンを選択的に抽出することが可能となる。本発明の化合物を用いれば、高pH条件下において鉄イオンは抽出されないため、従来困難であった銅と鉄との分離が可能となる。
【0014】
本発明はまた、本発明の化合物を用いて、鉄と鉄以外の遷移金属とを含有する水溶液から鉄以外の遷移金属のみを選択的に抽出することを特徴とする、鉄以外の遷移金属の抽出方法に関する。
【0015】
抽出工程は遷移金属を含有する水溶液(水相)と本発明の化合物を含有する有機相とを接触させることにより行う。本発明の化合物を有機溶媒に希釈したものを有機相とすることが好ましい。本発明の化合物が常温で液体である場合(例えばN-6-(t-ドデシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸は常温で液体である)は、当該化合物自体を希釈することなく有機相として用いてもよい。希釈液として使用できる有機溶媒としては脂肪族化合物から芳香族化合物までの種々の有機溶媒が挙げられ、なかでもトルエン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、キシレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、あるいはこれらの混合物等が好適である。なお、金属抽出時に抽出剤がゲル化する場合は、改質剤として2-エチルへキシルアルコールを10%程度添加することによって解決できる。
【0016】
水相中には、遷移金属イオンが種々のカウンターアニオンととも存在する。水相としては、例えば電子工業において電子材料の製造工程で排出される廃棄物、自動車廃触媒、めっき廃液等の、鉄イオン及びその他の遷移金属イオンを含有する水溶液が使用できる。
【0017】
抽出の条件は特に限定されない。例えば、水相と有機相とを1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1の容積比で、5~50℃にて、0.5~48時間接触させることにより有機相に鉄以外の遷移金属を抽出することができる。
【0018】
有機相に抽出された遷移金属は常法により容易に回収することができる。例えば、有機相と水相とを分離し、分離された有機相から希薄な酸性溶液を用いて遷移金属を逆抽出することができる。
以下本発明を具体的に説明するが本発明は下記の実施例には限定されない。
【実施例1】
【0019】
本発明の化合物は次のスキームに従い合成することができる。
【0020】
【化2】
JP0004967113B2_000003t.gif

【0021】
本実施例では上記スキームに従い、N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸及びN-6-(t-ドデシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸を合成した。
【0022】
1. N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸の合成
1-1. N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸メチルの合成
2,6-ピリジンカルボン酸ジメチル9.5g(0.048mol)、2-エチルへキシルアミン6.5g(0.05mol)、トリエチルアミン4.0g(0.05mol)を200mlクロロホルムに溶解させ、70℃で48時間還流させた。反応終点は、TLC(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により決定した。反応終了後、未反応のアミンを除去するため、生成物を1mol dm-3 HClを加えて分液漏斗により分液し、クロロホルム相を分取した。このクロロホルム相に炭酸水素ナトリウムを加えて分液し、クロロホルム相を分取した後、適量の蒸留水を加え分液した。無水硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去し、透明の液体7.8g(59%)を得た。生成物はH-NMRおよび13C-NMRにより同定した。H NMR(CDCl)δ0.97(t,6H),1.43(m,8H),1.61(m,H),3.45(t,2H),4.01(s,3H),8.21(s,NH),8.03-8.4(m,5H)。
【0023】
1-2. N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸の合成
6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸メチル7.8g(0.024mol)、THF200ml、0.5N水酸化カリウム80mlの混合物を3時間70℃で還流した。その後、塩酸を用いて混合溶液をpH3,4程度に調整した。遊離酸をクロロホルム200mlで2回抽出し、クロロホルムを蒸留水で数回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去して、白色粘性液体7.7g(収率97%)を得た。得られた生成物をヘキサンで数回洗い、デカンテーションを行った。生成物の確認はH-NMRおよび13C-NMRにより同定を行った。OH、NH基の確認は重水素置換法により確認した。H NMR(CDCl)δ0.89(t,6H),1.43(m,8H),1.60(m,H),3.43(t,2H),8.13(br,OH),8.03-8.41(m,5H),8.59(s,NH)。
【0024】
2. N-6-(t-ドデシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸の合成
2,6-ピリジンカルボン酸ジメチル4.0g(0.02mol)とPrimene 81-R(登録商標)4.1g(0.02mol)(ロム&ハース社,Molecular weight average 185)、ナトリウムメトキシド1.1g(0.02mol)を100mlトルエンに溶解させ、80℃のシリコンオイルで12時間反応させた。反応終点は、TLC(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により決定した。反応終了後、クロロホルムを加え蒸留水で数回洗った後、溶媒を留去した。生じた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1)により精製し、黄色液体3.5g(80%)を得た。エステルのアルカリ加水分解によるカルボン酸の合成は1-2と同じ方法で行い、黄色粘性液体2.8g(76%)を得た。生成物の確認はH-NMRおよび13C-NMRにより同定を行った。H NMR(CDCl)δ0.97-1.93(m,25H),8.10(s,NH),7.96-8.37(m,5H)。
【実施例2】
【0025】
本実施例では、N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸を抽出剤として用いて、バッチ法により金属イオンの抽出実験を行った。
【0026】
金属イオンを含有する水相としては、Cu(II)、Ni(II)、Co(II)、Cd(II)、Fe(II)、Pb(II)、Zn(II)、又はMn(II)を1.0×10-3Mの濃度で含有する1Mの硝酸アンモニウム溶液を用いた。水相の初期pHinitialが0~10となるようにアンモニア水と硝酸より調整した。
【0027】
一方、有機相としては、抽出剤であるN-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸を0.01Mの濃度で含有するトルエン溶液(10% 2-エチルヘキシルアルコールを含む)を用いた。
【0028】
上記の水相と有機相とを各10mlずつL字管に入れ、恒温槽にて、30℃、24時間振とうした。その後水相を分取し、抽出平衡後の水相のpHをpHメータで測定した。また、水相中の金属イオンの初期濃度([M]aq, initial)及び平衡後の水相中の金属イオン濃度([M]aq)を原子吸光光度計により求めた。有機相の金属イオンの濃度([M]org)は水相と有機相のマスバランスから求めた。抽出率%Eは次式より算出した。
【0029】
【数1】
JP0004967113B2_000004t.gif

【0030】
結果を図1に示す。高pH条件下において鉄は抽出されず、銅を始めとして他の遷移金属が抽出されていることが分る。すなわち、鉄以外の遷移金属の選択的抽出が可能である。
【実施例3】
【0031】
本実施例では、N-6-(t-ドデシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸(t-DAPA)(実施例1参照)を抽出剤として用いて、実施例2と同様にして金属イオンの抽出実験を行った。
【0032】
t-DAPAによる銅イオンの抽出結果を図2に示す。図2では、実施例2において抽出剤としてN-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸(EHPA)を使用した銅イオンの抽出実験結果と比較した。
図から明らかにほぼ同様な結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は環境保全、資源回収等の分野で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】N-6-(2-エチルへキシルアミド)-2-ピリジンカルボン酸による各種遷移金属の抽出率E%とpHとの関係を示す図である。
【図2】N-6-(2-エチルヘキシルアミド)-2-ピルジンカルボン酸(t-DAPA)とN-6-(t-ドデシルアミド)-2-ピルジンカルボン酸(EHPA)による銅の抽出率E%とpHの関係を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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