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明細書 :肝がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5050193号 (P5050193)
公開番号 特開2007-135529 (P2007-135529A)
登録日 平成24年8月3日(2012.8.3)
発行日 平成24年10月17日(2012.10.17)
公開日 平成19年6月7日(2007.6.7)
発明の名称または考案の名称 肝がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12Q 1/02
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 101
G01N 33/53 D
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2005-336946 (P2005-336946)
出願日 平成17年11月22日(2005.11.22)
審査請求日 平成20年7月15日(2008.7.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】岡 正朗
【氏名】飯塚 徳男
【氏名】恒富 亮一
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 Int J Oncol., 2005 Feb, Vol.26, No.2, p.319-327
Cancer Res., 2003 Nov 1, Vol.63, No.21, p.7098-7105
Cancer Res. 2003 Nov 1;63(21):7098-7105.
Int J Oncol. 2005 Feb;26(2):319-327.
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験細胞におけるID2遺伝子の発現亢進を指標とする肝細胞がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
被験細胞におけるID2遺伝子の発現亢進を指標とする肝細胞がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法であって、対象とするがん細胞に前記薬剤の候補物質を投与し、これによって誘導されるID2遺伝子の発現レベル及び/またはID2タンパク質の発現レベルをスクリーニングする工程と、該がん細胞と前記候補物質を用いたInvasion Assayにより、該がんの門脈浸潤能力の抑制効果を検証する工程からなる、請求項1記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項3】
ID2遺伝子の発現レベルの測定が定量的RT-PCR法を用いる測定である請求項1又は2記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん進行の新規マーカーとして利用可能な遺伝子に関し、より詳しくは、分化制御因子の一種であるDominant-negative helix-loop-helix protein inhibitor of DNA binding 2(以下「ID2」と略す)遺伝子の発現が、肝細胞がんの浸潤と密接な関連を持つことを利用した、がん浸潤検出のための新規マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma)は日本における主要ながんの一種であり、肝臓にできる「肝がん」の90%を占める。肝がんは特に、男性の死亡者数が1位の胃がん、2位の肺がんに次ぐ第3位であり、平均発症年齢がおよそ55歳と、「働き盛り」の年代を襲う深刻な疾患である。これらの疾患に対する早期の発見と適切な治療は、現代医学における喫緊の課題である(非特許文献1)。
【0003】
肝がんの検査方法としては、主に「画像診断」と「腫瘍マーカー」の2つが挙げられる。画像診断にはCTと超音波検査があり、どちらも肝臓内部の様子から疾患を診断するものである。肝がんが血管の多い腫瘍であるという性質に着目し、造影剤などと組み合わせた検査方法も知られている(特許文献1-3)。
【0004】
腫瘍マーカーは、がん細胞の存在の目印となる物質の総称で、主にがん発症や進行に伴い発現量が増加(陽性)し、治療の効果でがんが縮小すれば発現量も減少し正常化(陰性)するという性質を持つ遺伝子・タンパク質を利用するものである。具体的な例としては、AFP(Alpha-fetoprotein)などが知られ、これらのタンパク質の血中濃度を指標としてがん進行度の目安としている(非特許文献2)。AFPの他にも、多くのタンパク質が「新規な腫瘍マーカー」として利用可能であるとして開示されている(特許文献4,5)。
【0005】
肝がんの腫瘍マーカーとして利用可能なものとしては、これまでにがん抗原KU-TES-1、RAAG10、Pin1などが開示されている(特許文献6-8)。また、肝がんの予後を判断するための方法としては、DNAくり返し配列中の脱メチル化DNA数を測定し、その割合に基づいて予後の判定を行う方法などが開示されている(特許文献9)。
【0006】
一方、肝細胞がんの予後規定因子として、門脈浸潤(Portal vein invasion)は極めて重要な因子である。門脈浸潤は肝細胞がんの特徴的な肝内進展形式の一つで、代表的な治療後の予後不良因子である。もう一つの予後不良因子である肝内転移と強い相関が指摘されており、肝がんは門脈浸潤を基盤として肝内に散布すると考えられている(非特許文献3)。すなわち、肝細胞がんにおける門脈浸潤を効果的に検出する事は重要であると考えられるが、これまでの所、門脈浸潤を特異的に検出するためのマーカーは報告されていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-006772 X線診断装置及びCT画像の生成方法
【特許文献2】特開2005-021380 生体情報映像装置
【特許文献3】特開2005-040465 X線CT装置
【特許文献4】特開2005-073621 脳腫瘍マーカーと脳腫瘍の診断方法
【特許文献5】特開2005-117993 カテプシンEの腫瘍マーカーとしての用途およびカテプシンEならびにカテプシンDの腫瘍血管新生阻害療法のターゲットとしての用途
【特許文献6】特開2004-248585 新規な癌精巣抗原KU-TES-1
【特許文献7】特表2005-532050 新規のRAAG10細胞表面標的および当該標的を認識する抗体ファミリー
【特許文献8】特表2003-515172 異常細胞増殖のマーカーとしてのPin1
【特許文献9】特開2002-112799 癌疾患の予後判定法
【0008】

【非特許文献1】国立がんセンターホームページ「肝細胞がん」(http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pub/cancer/010214.html)
【非特許文献2】国立がんセンターホームページ「腫瘍マーカー」(http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pub/diagnosis/010601.html)
【非特許文献3】国立がんセンターホームページ「カンファレンスのビデオ公開 MC99-39」(http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pro/vod/abstract/MC99-39.html)
【非特許文献4】Karaya K.et al.(2005) Nucleic Acids Res.33(6):1924-34.
【非特許文献5】Lasorella A.et al.(2005) Mol.Cell Biol.25(9):3563-74.
【非特許文献6】Iizuka N,Oka M.et al.(2003) Oncogene 22:3007-14.
【非特許文献7】Iizuka N,Oka M.et al.(2003) Int.J.Cancer 107:666-72.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の現状に鑑み、がん浸潤、好ましくは肝細胞がんにおける門脈浸潤を検出するための新規なマーカーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決手段として、本発明者らは門脈浸潤が認められない高分化型肝細胞がんサンプルを対象から除き、中分化型肝細胞がんを用いた発現遺伝子のDNAマイクロアレイ解析を行って、門脈浸潤に関連のある遺伝子を探索した。この中から、肝細胞がんに対する新たな治療戦略を提供しうる遺伝子として、ID2を見出した。
【0011】
ID2は転写制御因子として知られ、また近年では腫瘍の成長などへの関連が指摘されているが、腫瘍マーカーとして利用できるという報告は無い(非特許文献4,5)。本発明者らは、定量的RT-PCRによりマイクロアレイ解析の再現性を確認し、数種の肝細胞がん細胞株におけるID2の発現レベルを解析した。更に本発明者らは、ID2発現ベクターを構築して解析を進め、ID2の発現と門脈浸潤の間の相関を明らかにして、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明の第の態様は、()被験細胞におけるID2遺伝子の発現亢進を指標とする肝細胞がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【0015】
本発明の第の態様は、()被験細胞におけるID2遺伝子の発現亢進を指標とする肝細胞がんの門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法であって、対象とするがん細胞に前記薬剤の候補物質を投与し、これによって誘導されるID2遺伝子の発現レベル及び/またはID2タンパク質の発現レベルをスクリーニングする工程と、該がん細胞と前記候補物質を用いたInvasion Assayにより、該がんの門脈浸潤能力の抑制効果を検証する工程からなる、()記載の薬剤スクリーニング方法を提供する。
【0016】
本発明の第3の態様は、(3)ID2遺伝子の発現レベルの測定が定量的RT-PCR法を用いる測定である(1)又は(2)記載の方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
発明は、「ID2の発現亢進」ががん門脈浸潤を抑制しうるという新たな知見を提供し、これはがん門脈浸潤に対する新たな創薬への道を拓くものである。本発明の提供する薬剤スクリーニング方法によって、がん門脈浸潤を抑制する新規薬剤を効率的にスクリーニングすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第から第の態様においては、被験細胞におけるID2遺伝子の発現亢進を指標とする、がん門脈浸潤を抑制する薬剤のスクリーニング方法を提供する。本態様における薬剤スクリーニング方法は、対象となるがん細胞に前記薬剤の候補物質を投与し、これによって誘導されるID2遺伝子の発現レベル及び/またはID2タンパク質の発現レベルをスクリーニングする工程と、がん細胞と前記候補物質を用いたInvasion Assay(in vitro invasion assay)により、がん浸潤能力の抑制効果を検証する工程からなる薬剤スクリーニング方法であって、好ましくはID2遺伝子の発現レベルの測定が定量的RT-PCR法を用いる測定、またはID2タンパク質の発現レベルの測定が、ウェスタンブロットを利用した測定である、薬剤スクリーニング方法である。本発明者らによって、ID2遺伝子を過剰発現したがん細胞では、MMP遺伝子の発現抑制を介して、invasive potentialが低下している事が明らかとなった。この事実に基づき、被験細胞に薬剤候補物質を投与し、ID2遺伝子の発現を計測し、合わせて細胞のin vitro invasion assayを行うことによって、「がん門脈浸潤を抑制する薬剤」という新たな薬剤のスクリーニングが可能となる。
【実施例1】
【0023】
(DNAマイクロアレイ) 以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明に係る研究に際してはまず、全ての患者さんから本人自筆によるインフォームドコンセントを得た。また実験方法については、山口大学医学部の公式な承認を得て行った。本発明者らはまず、76例の肝細胞がんからオリゴヌクレオチドのarray datasets(DNA Chips; Affymetrix, CA)を作成した。76例の臨床病理学的形質は非特許文献6に示されている。本発明者らは、門脈浸潤に関わる遺伝子を同定するために、これらのデータセットの中から35例のC型肝炎ウィルス陽性中分化型肝細胞がんからのDNAマイクロアレイ(約12600遺伝子を対象)によって網羅的解析を行った。この12600遺伝子のうち、全肝臓組織での発現レベル(arbitrary units by Affymetrix)が40より大きかった3559遺伝子を、更なる解析に用いた。これは、本発明者らが非特許文献7で示した様に、発現レベルが40以下のものは生物学的に有意でないという見地に基づくものである。
【実施例1】
【0024】
(門脈浸潤に関わる遺伝子の同定) 組織学的な検査により、35例の肝細胞がんのうち40%に当たる14例で門脈浸潤が見られた。この14例と非門脈浸潤の21例における遺伝子発現を、Fisher ratioを用いて比較し、3559遺伝子をFisher ratioの高い順にランク付けし、合わせてRandom permutation testを行って確認した。ランダム化されたデータに基づくFisher ratioの分布から、Random permutation test(p<0.004)を通った全ての遺伝子を選択した。その結果、門脈浸潤有りの肝細胞がんと無しの肝細胞がんの間でFisher ratioの差が1.10を超えた35遺伝子(=門脈浸潤で特異的に発現が変化していると考えられる遺伝子)を見出した(表1)。
【表1】
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【実施例2】
【0025】
(HCC cell lines) 本実施例においては、ヒト肝細胞がんの細胞系であるHLE,Hep 3B,Hep G2,HuH-6,HuH-7を用いた。これらの細胞は研究室ストックまたは(財)ヒューマンサイエンス振興財団の研究資源バンク(Health Science Research Resourses Bank,Osaka, Japan)から分譲されたものである。細胞培養には10% 熱不活性化FBS(Fatal bovine serum,Invitrogen,CA)とペニシリン(100units/ml)、ストレプトマイシン(100units/ml)及び、1.5g/lの炭酸水素ナトリウムを含んだDMEM(Nissui Pharmaceutical,JPN)を用い、37℃、5%COの条件下で培養した。
【実施例3】
【0026】
(プラスミド設計とヒトID2の形質転換) ヒトID2遺伝子の全長cDNAを、ヒト肝臓由来のRNAストックからRT-PCR法によって増幅し、pcDNA3.1(-)(Invitrogen,CA)のBamHI/HindIIIサイトに挿入してクローニングし、ID2発現ベクターpID2を作成した。得られたプラスミド内のインサート塩基配列のダイレクトシークエンスを行い、既知のID2シークエンス(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez.viewer.fcgi?db=nucleotide&val=33946335)と一致する事を確認した。60%コンフルエンス状態のHLE細胞にpID2をLipofectAmine reagent(Invitrogen Corp.)存在下で導入した。安定した形質転換細胞を得るために、800μg/mlのG418(Sigma-Aldrich,USA)を加え耐性クローンを選別した。1週間後、2つのクローンを単離し、それぞれHLE/pID2-1、HLE/pID2-2と名付けた。インサートを含まない空のベクターで形質転換したHLE細胞を対照(mock)とした。
【実施例4】
【0027】
(Cell invasion assay) がん細胞の転移浸潤能の評価系としてInvasion assayを用いた。アッセイにはマトリゲルでコートし、24穴invasion chamber のサイズに合わせたFilter insert(直径8μm,Becton Dickinson,USA)を用いた。細胞を無血清DMEMに懸濁し、Invasion chamberの上部に加え(2.5×10cells/well)、2%FBSを含むDMEMを下部に加えた。37℃で22時間培養した後、マトリゲルを通過した細胞をPhotonic microscope(IX71:Olympus,JPN)にて計測した。対照として、マトリゲルチャンバーの代わりにコートされていない口径8μmのポリカーボネイト膜(Becton Dickinson,USA)を用いた。浸潤の評価は、パーセンテージ(マトリゲル膜を通過した細胞数/対照の膜を通過した細胞数×100)の形で表現した。各々のアッセイでは3つのウェルで試験を行い、またアッセイは少なくとも2回はくり返した。
【実施例5】
【0028】
(ID2のmRNAレベルの定量的解析) プラスミドpID2(10-10コピー)を鋳型として用いた。RNA抽出とReal-time RT-PCR法は次の方法で行った。トータルRNAをTRIZOL試薬(Invitrogen Corp.)で抽出し、1μgのトータルRNAを5UのAvian myeloblastosis virus reverse transcriptase(Takara Bio,JPN)を用いて逆転写(45℃、30min)した。10pmolのプライマー(表2)と10ng initial RNAに相当するcDNA、Master Mix(LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I;Roche Diagnostics)及び4mM MgClでReal-time PCR(LightCycler system Ver.3,Roche Diagnostics,Ger.)を行った。PCRのサイクル(40)は以下の通りである;95℃-10s:55℃-10s:72℃-20s。PCR産物はLumi-Imager F1(Roche Diagnostics)で定量し、LightCycler software(Roche Diagnostics)で解析した。PCR産物定量の対照として、LightCycler-Primer set for human GAPDH(Search-Lc GmbH,Ger.)を用いた。ID2のmRNAレベルは10コピーのGAPDHのmRNAとの相対コピー数の形で算出した。
【表2】
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【実施例6】
【0029】
(半定量的RT-PCR) 半定量的RT-PCRを、以下の要領で行った。5μlのcDNA(10ng initial RNAに相当)を、10pmolプライマーセットを含む15μl PCR Mixture(Roche Diagnostics)にて増幅した(表3)。PCR産物は1.5%アガロースゲルにて電気泳動を行い、臭化エチジウムで染色して紫外線照射によってバンドを確認した。
【表3】
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【実施例7】
【0030】
(タンパク質解析) 発現タンパク質を解析するために、細胞をLysis buffer(50mM Tris-HCl(pH7.5),165mM NaCl,1mM PMSF,10mM NaF,10mM バナジウム酸,10μg/ml アプロチニン,10μg/ml ロイペプチン,0.1% NP-40)中で破砕した。全細胞溶解液から得られた20μgタンパク質をSDS-PAGEで電気泳動し、Hoefer electrotransfer system(Amersham Biosciences,USA)を用いてPVDF膜に転写した。ID2、MMP-1、GAPDHの各タンパク質を検出するために、前記膜を抗ID2(C-20,Santa Cruz Biotechnology,USA)、抗MMP-1(M4177,Sigma-Aldrich)、抗GAPDH(FL-335,Santa Cruz Biotechnology)ウサギポリクローナル抗体でインキュベートし、2次抗体処理としてセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗ウサギ抗体で処理を行い、ECL chemiluminescence system(Amersham Biosciences,USA)にて検出を行った。
【実施例7】
【0031】
(MMPタンパク質のイムノアッセイ) 細胞が80%コンフルエンスに達した段階で、10%FBS添加DMEMを無血清DMEMに置き換え、24時間培養した。培養液をCentricon Plus-20遠心フィルター(Millipore Corp.USA)にかけ、溶液中に分泌されたMMP-1,MMP-2及びMMP-3タンパク質の活性をBiotrak assay(Amersham Biosciences)にて測定するため、それぞれのMMPタンパク質に対する抗体をマイクロプレート上にコートした。活性化MMPが結合して前検出酵素が活性化され、これが基質と反応して色原体ペプチドが遊離した後405nm吸光度を測定した。トータルの活性を計測するために、結合したMMPをp-aminophenylmercuric acetateを加えて活性化した。本アッセイによる検出限界は、MMP-1及びMMP-3で0.1ng、MMP-2で0.2ngである。
【実施例8】
【0032】
(ルシフェラーゼレポーターアッセイ) MMP-1プロモーター-オペレーター領域(MMP-1遺伝子のプロモーター-オペレーター領域1.3kbpをPCRで増幅したもの)を結合したホタルルシフェラーゼ遺伝子を、pGL3-basic vector(Promega Corp.USA)に導入し、MMP-1プロモーター活性のアッセイを行った。MMP-1プロモーター領域の増幅は、HLE細胞より抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表4に示すプライマーを用いてMMP-1遺伝子の5’上流(コード領域の直前)部分を増幅した。得られたPCR断片をpGL3-basicベクターのPstI-HindIIIサイトに挿入し、pMMP1-Lucベクターとした。作成したプラスミドはダイレクトシークエンスを行ってその配列を確認した。
【表4】
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【実施例8】
【0033】
24穴プレート中で60%コンフルエンスまで増殖した細胞を、4μl/wellのLipofectAmine reagent存在下において、500ng/wellのホタルルシフェラーゼレポータープラスミドと10ng/wellのphRL-TK control vector(Promega Corp.)を遺伝子移入した。移入24時間後、細胞を回収し、細胞溶解液のホタル及びウミシイタケのルシフェラーゼ活性をDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega Corp.)によって計測した。ホタルルシフェラーゼ活性は、共移入したphRL-TKによるウミシイタケルシフェラーゼ活性に標準化した。
【実施例9】
【0034】
(統計的解析) 本実施例のデータは平均値±標準偏差で表す。2グループ間の有意差はStudents’s t testまたはMann Whitney U testによって算出した。3またはそれ以上のグループ間の有意差はANOVA with Scheffe’s or Dunnett’s testによって算出した。Pearson correlation coefficientsはID2遺伝子の発現レベルの算定(DNAマイクロアレイと定量的RT-PCRとの間)のために用いた。計算はDr.SPSS II software for Windows(登録商標)(SPSS Inc.,USA)を用いて行った。P<0.05を示したものを統計的に有意と判定した。
【実施例10】
【0035】
(門脈浸潤に関与する遺伝子の同定) C型肝炎ウィルス陽性肝がん細胞を用い、本発明者らは門脈浸潤で特異的に発現量が変化(増加または減少)する遺伝子35種類を同定した(図1、表1)。これらの遺伝子中で、13遺伝子は発現が増加し、22遺伝子は減少していた。発現が減少した22遺伝子の中で、本発明者らはID2遺伝子に着目し、更に解析を進めた。ID2遺伝子のマイクロアレイデータを、定量的real-time RT-PCRにて再現した(図2)。一方で、C型肝炎ウィルス陰性の中分化型肝がん細胞18例におけるID2の発現レベルは、門脈浸潤との相関が見られなかった(図3)。
【実施例10】
【0036】
(HCC細胞系におけるID2の発現) ID2の臨床病理学的性質を確証するために、本発明者らは分化型/非分化型肝細胞がんから得られた5つの肝がん細胞におけるID2遺伝子の発現レベルを定量的Real-time RT-PCRで検証した(表5上段)。ID2の発現レベルは、非分化型肝がん細胞(HLE,Hep3B)の方が分化型(HuH-6,HuH-7,Hep G2)で有意に低かった(p<0.05)。この中で特に、HLEのID2発現レベルは分化型の細胞に比べ6.9-15.8倍も低く、その後の標的遺伝子組み換え実験(Gene-targeting study)にはこのHLE細胞を用いた。
【表5】
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【実施例11】
【0037】
(ID2遺伝子の過剰発現) HLE細胞におけるID2過剰発現を、定量的Real-time RT-PCR及びウェスタンブロット解析によって遺伝子、タンパク質それぞれについて検証した(表5下段、図4)。ID2遺伝子を導入したHLE/pID2-1とHLE/pID2-2細胞におけるID2のmRNAレベルはHLE及びHLE/mock細胞の8倍の値を示した(P<0.001)。HLE細胞におけるmRNAレベルの上昇は分化型Hep G2と類似していた。ウェスタンブロット解析の結果も同様に、ID2を導入したHLE細胞でのID2タンパク質の発現が、HLE及びHLE/mock細胞におけるID2タンパク質の発現の約2倍である事を示した。
【実施例11】
【0038】
細胞の増殖に関しては、ID2を過剰発現させたHLE(pID2-1,2-2)で若干速いという傾向を示したが、統計的にはHLE/pID2-1,2-2,mock,及びHLEの間で有意な差は無かった(図5)。同様に、ID2遺伝子導入は細胞周期にはほとんど影響しなかった(Data not shown)。これらの事実は、2倍程度のID2タンパク質の過剰発現はHLE細胞の増殖等にはほとんど影響しない事を示した。
【実施例11】
【0039】
ID2を導入したHLE細胞(HLE/pID2-1,2-2)におけるがん浸潤能力を、細胞外マトリクス(Extracellular matrix=ECM)を含むマトリゲルを用いたInvasion assayにて検証した。その結果、HLE/mock細胞に比べ1.8-3.2倍浸潤能力が低下している事が示され(表6,P<0.05)、この結果はまた、ID2がECM degradationに関与している事も示した。
【表6】
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【実施例12】
【0040】
(MMP遺伝子の発現に対するID2過剰発現の影響) ID2遺伝子とがん浸潤能力の相関が示唆されたため、本発明者らはID2過剰発現系におけるMMP(Matrix metalloproteinase)や他の関連遺伝子の発現を半定量的RT-PCRにて解析した(図6)。MMP-1及びMMP-3の発現レベルは、ID2過剰発現系においてHLEやmock cellsに比べて顕著に低下していた。MMP-2及びMMP-7においては過剰発現系で緩やかな低下を示した。MMPの阻害因子であるTIMP-1及びTIMP-2については、発現レベルの変動は見られなかった。Biotrak assayの結果も遺伝子発現解析の結果と同様であり、ID2過剰発現系においてMMP-1,MMP-2,MMP-3のレベルが明確に低下していた(表7)。MMP-1については、ウェスタンブロット解析を行い、MMP-1タンパク質の発現量がID2過剰発現系で減少している事を確認した(Data not shown)。
【表7】
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【実施例13】
【0041】
(ID2のMMP-1プロモーター活性への影響) ID2過剰発現により最も発現が抑制されたMMP-1のプロモーター活性を、Dual-luciferase assayにて解析した(表8)。pID2を導入した細胞におけるMMP-1プロモーターのルシフェラーゼ活性は、mock細胞に比べ1/10以下に低下していた(P<0.01)。これは、ID2がMMP-1の発現を転写レベルで抑制している事を示している。
【表8】
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【実施例13】
【0042】
(肝細胞がん組織におけるID2とMMP-1タンパク質レベル) 肝細胞がん組織におけるID2とMMP-1タンパク質の発現を解析した結果、門脈浸潤無しの肝細胞がんでは多量のID2タンパク質が発現しMMP-1タンパク質がほとんど見られなかったのに対して、門脈浸潤有りの肝細胞がんではID2タンパク質はほとんど発現しておらず、代わりにMMP-1タンパク質が大量に発現していた(図7)。この結果は、本発明によるがん浸潤の検査方法が臨床レベルでも活用可能である事を示すとともに、ID2遺伝子やID2タンパク質の発現を亢進することで、がん浸潤を抑制しうるという可能性も示している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、被験細胞のがん浸潤、特に肝細胞がんにおける門脈浸潤を遺伝子或いはタンパク質レベルで検出するものであり、産業上利用可能性としては検査試薬や検査キットの形で利用することが可能である。また本発明は、ID2遺伝子の過剰発現ががん浸潤能力を低下させるという新たな事実を明らかにし、これによってID2遺伝子の発現を亢進する物質を、がん浸潤の抑制剤としてスクリーニングする事も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明におけるDNAマイクロアレイの結果を示し、C型肝炎ウィルス陽性肝細胞がんにおける門脈浸潤に関与する35遺伝子をリストした。上位35遺伝子はFisher ratioにより選択し、GenBank accession number及びEntrez gene symbol(http://www.ncbi.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=gene)でリストした。
【図2】ID2のマイクロアレイデータの有効性を定量的RT-PCR解析にて確認した。ID2のmRNA発現レベルは、GAPDHの発現レベルの相対値として算出した。RT-PCRのデータとマイクロアレイのデータは一致した。
【図3】C型肝炎ウィルス陽性肝細胞がんと陰性肝細胞がんにおけるID2のmRNAレベルを示す。ID2発現のデータは、本発明者らが行った76肝細胞がんのマイクロアレイデータセットから抽出した。C型肝炎ウィルス陽性肝細胞がんでは門脈浸潤とID2発現レベルとの間に相関が見られたが(P<0.05)、非感染性では有意差が見られなかった。
【図4】ID2タンパク質のレベルを、形質転換細胞と対照とで比較した。pID2を導入した2つの細胞では、対照に比べID2バンドが濃くなっており、ID2タンパク質レベルが上昇している事を示した。一方GAPDHのバンドについては、4者で差は見られなかった。
【図5】ID2遺伝子導入が細胞の生存や細胞周期などに与える影響を検討した。それぞれのHLE細胞を96穴マルチプレートに2×10細胞/ウェルになるように蒔き、適当な時間をおいた後指示薬としてMTTをウェルに加え、37℃で4時間インキュベートした。生細胞によって形成される色素を、0.04N HClを含むイソプロパノールの滴下により抽出した。光学密度は570/620nmの吸光度より測定した(n=6,3回のくり返し,値は平均値±標準偏差)。白三角と黒三角はHLE/pID2-1と2-2をそれぞれ示し、白丸は非導入HLEを、黒丸はmockをそれぞれ示す。ID2遺伝子の導入によっても、細胞の生存などには影響が見られなかった。
【図6】HLE細胞系におけるMMPとTIMPのRT-PCR解析の結果を示す。MMP-1,2,3,7の転写に対しては、ID2の過剰発現が抑制的効果を示した(pID2-1,2)。一方TIMPについては、転写量に差はID2過剰発現の影響は見られなかった。
【図7】ID2とMMP-1のタンパク質レベルを、C型肝炎陽性肝細胞がん組織で調べた。ウェスタンブロッティング解析の結果、門脈浸潤がある肝細胞がん(HCV20,43T,58T)では門脈浸潤が無い肝細胞がん(HCV16T,34T,90T)よりもID2タンパク質のレベルが低かった。一方MMP-1タンパク質については、ID2と反対の結果を示した。GAPDH(対照)のタンパク質レベルは、それぞれの肝細胞がん組織で差は見られなかった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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