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明細書 :量子状態転送方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4793814号 (P4793814)
公開番号 特開2007-143085 (P2007-143085A)
登録日 平成23年8月5日(2011.8.5)
発行日 平成23年10月12日(2011.10.12)
公開日 平成19年6月7日(2007.6.7)
発明の名称または考案の名称 量子状態転送方法
国際特許分類 H04B  10/00        (2006.01)
H04B  10/04        (2006.01)
H04B  10/06        (2006.01)
H04B  10/14        (2006.01)
H04B  10/26        (2006.01)
H04B  10/28        (2006.01)
H04L   9/12        (2006.01)
G02F   2/00        (2006.01)
FI H04B 9/00 Z
H04B 9/00 Y
H04L 9/00 631
G02F 2/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2005-337880 (P2005-337880)
出願日 平成17年11月22日(2005.11.22)
審査請求日 平成20年11月6日(2008.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
発明者または考案者 【氏名】井手 俊毅
【氏名】ホフマン ホルガ
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】角田 慎治
参考文献・文献 特開2006-191410(JP,A)
特開2004-104771(JP,A)
特開2002-040505(JP,A)
特開2004-187274(JP,A)
特開2001-339387(JP,A)
特開2002-213977(JP,A)
調査した分野 H04B 10/00-10/28
H04J 14/00-14/08
G02F 2/00
H04L 9/12
特許請求の範囲 【請求項1】
配布装置から配布される光ビームを利用して、送信側装置の入力光の量子状態を受信側装置に転送する量子状態転送方法であって、
配布装置にて、
所定の偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第1の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(1a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(1b)を受信側装置に対して出射する段階と、
前記偏光モードと直交する偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第2の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(2a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(2b)を受信側装置に対して出射する段階とを備え、
送信側装置にて、
配布装置から出射された光ビーム(1a)および光ビーム(2a)を入射する段階と、
光ビーム(1a)および光ビーム(2a)のそれぞれについて、転送対象となる入力光と合波した場をホモダイン測定により測定する段階と、
古典通信路を通じて、ホモダイン測定の結果を受信側装置に送信する段階とを備え、
受信側装置にて、
配布装置から出射された光ビーム(1b)および光ビーム(2b)のスクィーズド光ビームを入射する段階と、
送信側装置からホモダイン測定の結果を受信する段階と、
ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(1b)を変調して得られる第1の変調光ビームと、ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(2b)を変調して得られる第2の変調光ビームとを合波することによって、出力光を得る段階とを備えることを特徴とする量子状態転送方法。
【請求項2】
前記送信側装置における、ホモダイン測定を行う段階は
前記入力光と入射された光ビームとをビームスプリッタに入射する段階と、
前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する段階と、
変換された2つの電流の差をとる段階を備えることを特徴とする請求項1に記載の量子状態転送方法。
【請求項3】
前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する前に、該2本の出射光を、互いに直交する偏光方向成分を通過させる複屈折フィルタに入射することを特徴とする請求項に記載の量子状態転送方法。
【請求項4】
前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する段階において、フォトダイオードを用いることを特徴とする請求項2または3に記載の量子状態転送方法。
【請求項5】
前記受信側装置における第1の変調光ビームを得る段階と、第2の変調光ビームを得る段階との少なくとも一方では、変調ゲインを調整することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の量子状態転送方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光の量子状態を転送する量子状態転送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
量子テレポーテーションとはエンタングルド状態、いわゆる絡み合い状態ともよばれる相関を有する複数個の粒子(エンタングルメント対)の量子状態を、外部からの観測によって崩壊させる過程を利用して、粒子の量子状態を遠隔地に転送することである。
一般に量子テレポーテーションとは、量子エンタングルメントなる複数のモードにまたがる量子論的な相関を用いて、未知なる量子状態を遠隔地のモードに転送する手段のことである。
【0003】
エンタングルド状態にある粒子は、途中で観測を受ける等の作用を受けない限り、各粒子のテンソル積では表せない状態にあり、
エンタングル状態とは、各々独立な状態の直積で表すことができない状態のことで、量子論的な相関を有する。光学実験では短い波長の光を2つの長い波長の光に変換する、パラメトリック変換過程によって生成できることが知られている。
【0004】
一般的な量子テレポーテーションの手順は次のとおりである(非特許文献1)。
【0005】
量子状態の送信者(慣例において「アリス」と称される)と、量子状態の受信者(慣例において「ボブ」と称される)とは、エンタングルメント対のうち、一つずつを共有する。
【0006】
次に、送信者は、ビームスプリッタを用いながらいわゆるベル測定を行うことによって、転送したい量子状態と、上記エンタングルメント光のうちの一つとを混ぜ、2つの量子状態のあわせた系の状態を測る。
【0007】
送信者がベル測定を行った瞬間、転送元粒子(入力)の量子状態および上記エンタングルメント対が合わさった光のエンタングルド状態が破壊されるとともに、その測定の反作用が受信者側に量子相関を通して伝わる。。
【0008】
最後に、送信者は、古典チャンネルを通じて、上記ベル測定の結果を受信者に送信し、受信者は、受信したベル測定の結果に基づいて、手元粒子の状態にユニタリ変換を施して、テレポーテーション操作を完了する。

【非特許文献1】「Teleporting an Unknown Quantum State via Dual classical and Einstein-Podolsky-Rosen channels, C.H. Bennet, G.Brassard, C. Crepeau, R.Jozsa, A.Peres, and W.K. Wootters」Physical Review Letters 70,1895(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の量子テレポーテーションにおいては、次のような問題が生じていた。
【0010】
送信者が、ハーフビームスプリッタを用いてベル測定を行う場合を考える。ハーフビームスプリッタの出力先にそれぞれ検出器D,Dを置くものとすると、一般的なベル測定の検出方法としては、これら検出器D,Dによって、送信者がビームスプリッタからの2出力を同時検出することになる。
【0011】
しかしながら、実用上、量子状態の送信者が、検出器D,Dによって、ビームスプリッタからの2出力を同時検出することは、送信者およびEPR源への各入力光子が同じ偏光状態のときには起こりえないから、このような同時検出の事象は4つのベル基底のうちの1基底のみに対応するものとなる。
【0012】
したがって、このような粒子の量子テレポーテーションにおいて、ビームスプリッタからの2出力を同時検出することによってベル測定を実施するために、4つのベル基底のうちの1基底のみしか認識できず、必然的に、転送効率は理論上限の4分の1になってしまうという問題点が生じていた。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光の場の連続量を用いて、高効率転送を実現する量子テレポーテーションを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る量子状態転送方法は、上記課題を解決するために、配布装置にて、所定の偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第1の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(1a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(1b)を受信側装置に対して出射する段階と、前記偏光モードと直交する偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第2の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(2a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(2b)を受信側装置に対して出射する段階とを備え、送信側装置にて、配布装置から出射された光ビーム(1a)および光ビーム(2a)を入射する段階と、光ビーム(1a)および光ビーム(2a)のそれぞれについて、転送対象となる入力光と合波した場をホモダイン測定により測定する段階と、古典通信路を通じて、ホモダイン測定の結果を受信側装置に送信する段階とを備え、受信側装置にて、配布装置から出射された光ビーム(1b)および光ビーム(2b)のスクィーズド光ビームを入射する段階と、送信側装置からホモダイン測定の結果を受信する段階と、ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(1b)を変調して得られる第1の変調光ビームと、ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(2b)を変調して得られる第2の変調光ビームとを合波することによって、出力光を得る段階とを備えることを特徴としている。
【0015】
上記の構成によれば、光の偏光の重ね合わせ状態(光量子ビット)を入力光として用いた量子状態の転送(テレポーテーション)、すなわち、光の場の連続量を用いた量子状態の転送を実現することができる。換言すると、上記の構成によれば、偏光2モード(縦偏光、横偏光)におけるスクィーズド状態(位相の揺らぎを抑圧した状態)を用いた量子状態の転送を実現することができる。
【0016】
また、配布装置から配布される光ビームの量子論的絡み合い(エンタングルメント)を完全とするためには理論上無限大のエネルギーを必要とするので、実際の配布装置から配布される光ビームの量子論的絡み合い(エンタングルメント)は完全ではあり得ない。 しかしながら、本発明者らは、鋭意研究の結果、本発明の量子状態転送方法においては、配布装置から配布される光ビームの量子論的絡み合い(エンタングルメント)の程度が不十分であっても、転送効率に与える悪影響が比較的小さいことを理論的に見いだしている。
【0017】
すなわち、本発明の量子状態転送方法においては、実用上、配布装置から配布される光ビームの量子論的絡み合い(エンタングルメント)の程度が不十分さであったとしても、この不十分さによって生じるエラーに起因して光量子ビットの偏光の反転が起こる確率よりも、光ビームにおいて光子を損失する確率の方が大きく、上記偏光の反転が問題となりにくい。このことは、偏光の反転に起因する量子情報の誤りが起きにくいことを意味しており、実用上有益である。
【0018】
さらに、特筆すべきは、本発明者らは、鋭意研究の結果、本発明の量子状態転送方法によって、2つの直交する1光子偏光状態の重ね合わせを、光量子ビットとして連続量テレポーテーションで転送すると、量子エンタングルメントの不完全さのため、出力状態の平均光子数が増加することを理論的に期待できることを見出している。
【0019】
この結果は、配布装置から配布される光ビームの量子論的絡み合い(エンタングルメント)の程度が不十分さであったとしても、この不十分さによって生じるエラーに起因して、光量子ビットの偶発的な1光子状態の量子複製が生じることに起因するものと考えられる。
【0020】
この現象は、ある確率においては量子複製が生じることを意味する点において、単一の量子状態を完全に複製することを禁止する量子論の基本法則(量子クローニング禁止定理)に照らせば、非常に興味深い結果であるうえ、量子情報の実用という意味において極めて重要な意義を有している(「A single quantum cannot be cloned.」W.K.Wootters and W.H.Zurek Nature 299;802-803, 1982)。
【0021】
それゆえ、上記の構成によれば、同時検出の条件によってその転送効率に原理的な制約が課されるベル測定を用いた量子状態転送と比較して、より高い効率にて量子状態の転送を実現することができる。つまり、光量子ビットの高効率転送が可能となる。
【0022】
また、本発明に係る量子状態転送方法では、前記送信側装置における、ホモダイン測定を行う段階は前記入力光と入射された光ビームとをビームスプリッタに入射する段階と、前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する段階と、変換された2つの電流の差をとる段階を備えることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、ホモダイン測定によって、ハーフビームスプリッタから出射した光の場の強度(振幅)を的確に測定することができる。
【0024】
また、本発明に係る量子状態転送方法では、前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する前に、該2本の出射光を、互いに直交する偏光方向成分を通過させる複屈折フィルタに入射することが好ましい。
上記の構成によれば、ハーフビームスプリッタの各出力光を複屈折フィルタに入射することによって、上記出力光のうち、互いに直交する特定の偏光方向成分(例えば、縦偏光成分や横偏光成分)を有する光のみをフォトダイオード等の光電変換手段に入射することができる。
【0025】
また、本発明に係る量子状態転送方法では、前記ビームスプリッタから出射した2本の出射光を電流に変換する段階において、フォトダイオードを用いることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、光検出に光電子増倍管等を用いる手法と比較して、はるかに高い量子効率を得ることができる。
【0027】
また、本発明に係る量子状態転送方法では、前記受信側装置における第1の変調光ビームを得る段階と、第2の変調光ビームを得る段階との少なくとも一方では、変調ゲインを調整することが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、各変調の強度ないしゲインやそのバランスを的確に調整することができるので、より的確な量子状態の転送を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る量子状態転送方法は、以上のように、上記の構成によれば、2×2モード(縦偏光、横偏光における各2モード)におけるスクィーズド状態を用いた量子状態の転送、すなわち、光の場の連続量を用いた量子状態の転送を実現する構成である。また、本発明によれば、高い効率にて量子状態の転送を実現することができ、光量子ビットの高効率転送が可能となるという作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(1.システム構成)
本発明の一実施形態に係る量子状態転送システムについて、図1ないし図12に基づいて説明すると以下の通りである。
【0031】
本実施形態に係る量子状態転送システム1は、図1に示されるとおり、配布装置2、送信側装置3、受信側装置4、配布装置2と送信側装置3および受信側装置4とをそれぞれ結ぶ光路10(R)・10(B)、転送対象となる入力光が送信側装置3に入射する光路11、送信側装置3が古典情報を受信側装置4に送信するための古典チャンネル(電気通信回線など)12、転送された出力光が受信側装置から出射する光路13から構成されている。
【0032】
図2は、量子状態転送システム2の動作を概念的に示した図である。
【0033】
図2において、それぞれの偏光モードについて、送信者は、入力光と、一対のスクィーズド光(EPR光)の一方とを合波した場をホモダイン測定により測定する。測定するのは、xとyとの2成分であって、両者を複素数表示でまとめて、β=x+iyで表す。また、受信者は、送信者から古典情報として送信される測定値βに基づいて、場の振幅に変調を加える。その操作をD(β)で表す。
【0034】
図3は、量子状態転送システム1の動作を大まかなステップにわけて示したフローチャートである。同図に示されるとおり、量子状態転送システム2の動作ステップ(各ステップに「S」の略号を付している)は、送信処理(S31)、配布処理(S32)、測定処理(S33)、制御処理(S34)、受信処理(S35)から構成されている。
【0035】
上記の各処理のうち、送信処理(S31)は送信側装置3(特に後述する送信装置)において、配布処理(S32)は配布装置2において、測定処理(S33)~制御処理(S34)は送信側装置3(特に後述する測定装置)において、受信処理(S35)は受信側装置4の各装置において主に行われる処理である。
詳細については、後述するが、量子状態転送システム1は、2モードスクィーズド状態のEPR光を2組生成するものであって、受信側装置4は、上記2組の構成によって得られた2つの変調光ビームを合波することによって、送信装置から入力された入力光の量子状態が転送(テレポーテーション)された出力光を得るものとなっている。
【0036】
以下、各装置の構成ないし動作について詳細に説明する。
【0037】
(2.送信装置)
送信側装置3は、転送対象となる入力光と、配布装置2から光路10を通じて配布されるEPRビーム(量子論的絡み合いを有する2モードスクィーズド状態のスクィーズド光ビーム)とに基づいて、後述のホモダイン測定を行い、その測定結果を、古典チャンネル12を通じて受信側装置4に送信するものである。
【0038】
より詳細に説明すれば、量子状態転送システム1において、送信側装置3は、その装置内に入力光を出射するための送信装置(図示せず)と、この送信装置から入射した入力光と配布装置2から配布されるEPRビームとに基づいて後述のホモダイン測定を行い、その測定結果を受信側装置4に送信する測定装置とから構成されている。
【0039】
送信装置は、転送対象となる入力光を生成する装置であって、ここでは、任意の偏光を有する光子を発生する光子発生装置である。このような送信装置は、パラメトリック・ダウンコンバージョン(PDC)と呼ばれる物理過程を利用して実現することができる。パラメトリック・ダウンコンバージョンとは、非線形結晶内に押し込まれた光子が小さい確率で低周波数の二つの光子に分裂するプロセスのことである。ここで、非線形結晶とは、複屈折性があって、光学結晶軸に対する偏光等の方向によって異なる屈折率を示す結晶を指す。
【0040】
図4は、送信装置の構成例を示す図である。図5は、図4の送信装置の動作ステップを示すフローチャートである。
【0041】
図4において、非線形結晶に入射した周波数2ωの入射光(初期光)は、パラメトリック・ダウンコンバージョンによって、周波数ωの2本の出射光となる(図5のS51に対応)。この出射光の一方は、回転制御される波長板を通すことによって任意の偏光方向を与えられて出力光とされる(図5のS53に対応)。上記出射光のもう一方は、光子数が識別可能な検出器に入射され、この検出器が一光子を検出した時のみ、上記出力光を出力可能とするように、出力ポートをトリガ制御する構成となっている(図5のS52に対応)。
【0042】
なお、送信装置は、後述の測定装置と一体的に構成されてもよいし、測定装置と独立した別構成としてもよい。
【0043】
(3.配布装置)
配布装置2は、量子論的絡み合いを有する2モードスクィーズド状態の第1および第2のEPR光(スクィーズド光ビーム)を出射し、上記第1および第2のEPR光との位相差を90度有するとともに、量子論的絡み合いを有する2モードスクィーズド状態の第3および第4のEPR光(スクィーズド光ビーム)を出射するものである。
【0044】
配布装置では、次の手順で、2モードスクィーズド状態のEPR光を生成する。
【0045】
あらかじめ真空状態の量子揺らぎをスクィーズドした光を2本準備する。2本の光の位相を90度違えて、ハーフビームスプリッタに入力する。ハーフビームスプリッタからの出射光は、量子論的な相関を有する2つのモードにまたがる揺らぎを有する光となっており、その状態は2モードスクィーズド状態と呼ばれる。
【0046】
量子状態転送システム1においては、このような2モードスクィーズド状態のEPR光を、互いに直交する偏光モードにて利用するので、配布装置2は、合計で4モード(2モード×2偏光)のスクィーズド状態の光を生成して分配することになる。
【0047】
このようなスクィーズド光の生成には、公知の光パラメトリック発振器(OPO)を用いることができる。光パラメトリック発振器(非線形結晶)では、光を共振器の中で何度も経由させながら、前述のパラメトリック・ダウンコンバージョンを起こさせることによって変換効率を高めており、スクィーズの高い光場を生成することができる。
【0048】
なお、本明細書におけるレーザとは、特にその発振機構等を限定されるものではなく、YAGレーザなど任意のものを採用することができる。
【0049】
図6は、配布装置2の構成例を示す図である。図7は、図6の配布装置2の動作ステップを示すフローチャートである。
【0050】
図6においては、前述と同様、非線形結晶に入射した周波数2ωの入射光(初期光)は、パラメトリック・ダウンコンバージョンによって、周波数ωの2本の出射光となる(図7のS71に対応)。そして、2本の出射光は、その位相差が90度を保つようにロックされた状態で(図7のS72に対応)、ビームスプリッタ(Beam Splitter)にて合波され(図7のS73に対応)、それぞれ送信側装置3(測定装置)と受信側装置4とに配布される。測定基準を明確とするためには、系全体において光の相対位相を定める必要があるので、光路中のフィードバック機構などを用いて光の位相をロックすることは重要である。
【0051】
図8は、位相をロックした光の合波によって、2モードスクィーズド状態のEPR光を生成する様子を概念的に示す図である。同図において、(a)は、ハーフビームスプリッタにおける入射光1および2の合波によって、2モードスクィーズド状態の出射光3および4が得られる過程を示しており、(b)(c)は各モードのスクィーズド光の位相空間における様子を示したものである。
【0052】
前述のとおり、量子状態転送システム1は、このような2モードスクィーズド状態のEPR光を2組生成するものであるから、配布装置2は、図6の構成を2組有することになる。ただし、これら2組の構成においては、適宜の位相調整のために、初期光として同一のレーザ光源を分けて用いることが好ましい。また、送信装置と配布装置との間についても、同一のレーザ光源から出射されたレーザ光をわけて用いることが好ましい。これらに、それぞれ独立したレーザ光源を用いると、互いの位相を合わせることが極めて困難となるからである。他方、同一のレーザ光源から出射されたレーザ光をわけて用いるのであれば、互いに位相情報を共有することになる。
【0053】
(4.測定装置)
測定装置は、前述のとおり、送信装置とともに、送信側装置3を構成するものであって、送信側装置3の主要構成となるものである。
【0054】
測定装置は、送信装置から入射された入力光と、配布装置2から配布された2モードスクィーズド状態のEPR光とに基づいて、ホモダイン測定を行う。
【0055】
ここで、ホモダイン測定(ホモダイン検出、ホモダイン検波)とは、光搬送波の周波数と光局部発振器の信号波の周波数が等しい時の二光波間の干渉を利用して光情報を得る位相変調方式による光検波のことである。光局部発振器の信号波は、局部発振(LO)光とも呼ばれる。局部発振(LO)光は、レーザのコヒーレント光であって、ハーフビームスプリッタから出射した光と結合されることにより、ホモダイン測定の検出感度を高めるものである。この局部発振(Local Oscillator)光は、ハーフビームスプリッタから出射した光の場の振幅より十分強く、後述のとおり、電磁場の直交位相振幅成分の位相を定めるための参照用として用いられる。
図9は、ホモダイン測定の概念を示す図である。図10は、図9のホモダイン測定の処理ステップを示すフローチャートである。
【0056】
同図には、図の下方からの2本の入射光がハーフビームスプリッタ(BS)を経て2本の出射光となり(図10のS101に対応)、各出射光が更なるハーフビームスプリッタにおいて局部発振(LO)光と混合され(図10のS102に対応)、2つのフォトダイオードで検出されて(図10のS103に対応)、検出された電流値(光電流)の差を出力する(図10のS104に対応)様子が示されている。同図において、各2つのフォトダイオードにおいて検出された電流値(光電流)の差は、後述のとおり、上記出射光の場の直交位相振幅に対応するものである。
【0057】
量子状態転送システム1の測定装置(送信側装置3)では、図1に示すように、入力光と配布装置からのスクィーズド光ビームとを混合するハーフビームスプリッタ(の出力ポート)との間に複屈折フィルタを設けている。ハーフビームスプリッタの各出力光をこの複屈折フィルタに入射することによって、上記の出力光のうち、互いに直交する特定の偏光方向成分(例えば、縦偏光成分や横偏光成分)を有する光のみをフォトダイオードに入射することができる。
【0058】
前述のとおり、量子状態転送システム1は、2モードスクィーズド状態のEPR光を2組生成するものであるから、通常、測定装置(送信側装置3)は、図1のホモダイン測定構成を2組有することになる。ただし、2組のホモダイン測定構成の測定内容は、その偏光方向のみを除いて同一であるから、以下、単一のホモダイン測定構成を前提として、ホモダイン測定の詳細を説明する。
【0059】
測定装置(送信側装置3)は、2個(×2組)のフォトダイオードにおいて、ハーフビームスプリッタから出射した光の場の強度(振幅)β=xH-+iyH+,β=xV-+iyV+を測定するものである。前述のとおり、ホモダイン測定では、さらなるハーフビームスプリッタと局部発振光とが用いられる。
【0060】
測定装置(送信側装置3)は、フォトダイオードから出力される光電流I,Iの差をとることによって、偏光された入力光の直交位相成分を測定する。すなわち、本測定装置による平衡型のホモダイン測定は、ハーフビームスプリッタからなる局所振動子で信号フィールドを混合し、ハーフビームスプリッタの出力アームにおける二つの検出器間の光電流の差を記録することに基づいている。
【0061】
この光電流(測定強度)の差は、局所振動子の位相の関数、すなわち測定装置に入射された、偏光入力光とスクィーズド光ビームとの干渉ないし偏光入力光の直交位相成分を表している。以下、光電流(測定強度)の差と偏光入力光の直交位相成分との関係について説明する。
【0062】
前提として、偏光入力光と、スクィーズド光ビームとの位相関係は、互いに保たれているものとする。偏光入力光の強度は十分高いので、ハーフビームスプリッタに入力する偏光入力光の消滅演算子aを、古典的な光の場の振幅αLOとして記述することができる。全体として、偏光入力光の量子揺らぎは無視できるものとする。
【0063】
そして、簡単のために、光電流I,Iの値は、フォトダイオード(検出器)に入射する光子の数n、nに比例するものとすると、次の(1)式が成立する。ここで、aは消滅演算子と呼ばれ、古典的には電磁場の複素振幅に対応するものである。また、aaは個数演算子と呼ばれ、古典的には電磁場の強度に対応するものである。
=a,n=a・・・(1)
ベル測定のときと同様に計算すれば、(1)式から次の(2)(3)式が得られる。
=(a-αLO)/√2 ・・・(2)
=(a-αLO)/√2 ・・・(3)
(5)(6)式において、aは第1のスクィーズド光ビームの消滅演算子、αLOは第1の偏光入力光の複素振幅を表す。
【0064】
すると、光電流IとIとの差I21は光子数の差に比例するので(4)式で表される。
【0065】
21=n2-n1=(αLOa-αLO ・・・(4)
この(4)式を、次の(5)式と対比する。
21=(|αLO|xθ)/√2 ・・・(5)
すると、(4)式は、(5)式と同様、位相θにおける直交位相振幅xθに比例した量となっていることがわかる(ただし、xθ≡a・e-iθ+a・e)。
【0066】
なお、θ=0のときの直交位相振幅はx、θ=π/2のときの直交位相振幅はyとなるので、2つのホモダイン測定部では、θを90度異ならせて測定することになる。
【0067】
なお、量子状態転送システム1では、光検出に、フォトダイオードを用いているので、光電子増倍管を用いる手法よりも、はるかに高い量子効率を得ることができる。
【0068】
このようにして、測定装置は、フォトダイオードによって測定した光の場の強度(振幅)βH=xH-+iyH+,βV=xV-+iyV+を、光電流(xH-,yH+)という古典情報として、古典チャンネル12を通じて受信側装置4に送信するものである。
【0069】
(5.受信側装置)
受信側装置4は、送信側装置3(送信装置)からホモダイン測定の各結果を受信し、このホモダイン測定の結果に基づいて、配布装置2から配布されたEPR光(スクィーズド光ビーム)を変調するものである。
【0070】
図11は、受信側装置4の構成例を示す図である。図12は、図11の受信側装置4の動作ステップを示すフローチャートである。
【0071】
まず、一つの偏光モード(xH-,yH+)に対して変調を行う場合の手順を説明する。
【0072】
99%の反射率(99%の透過率であってもよい)を有するビームスプリッタ(部分反射ミラー)を用意する。ここで、変調のために用いられるモードが、1%ほど出力モードに結合するようにしておく。ハーフビームスプリッタを用いない理由は、EPR光によるものとは別の量子揺らぎが変調モードから混入することを避けるためである。その意味では、変調のために用いられるモードの結合は0%とすることが好ましいが、この結合を0%とすると変調をかけることができないので、上記の結合率を採用している。
【0073】
受信側装置4は、変調モードのレーザ光に、測定装置から受信したホモダイン測定の結果(電流値)に比例する大きさの変調を加える。これにより、振幅(xH-,yH+)を有するコヒーレント光を生成することができる。ただし、実際には、ビームスプリッタの透過率に起因する減衰分を補うことが好ましい。
【0074】
このコヒーレント光を、ビームスプリッタ(部分反射ミラー)にて、EPR光と混合することによって、出力光に(xH-,yH+)の振幅を加えることができる。すなわち、受信側装置4は、ビームスプリッタ(部分反射鏡)を通して、測定装置から受信したホモダイン測定の結果に応じて、位相ないし振幅変調された場を加算することができる。
【0075】
なお、一般に、電気光学効果を利用する変調は、変調の対象となる光に、微小な周波数変化を引き起こす。すなわち、変調が大きければ、周波数変化の生じたモードの強度が大きくなる。換言すれば、注目している量子状態に用いている光の周波数はωではなく、測帯波のω±δωである。すなわち、実質的な変調は測帯波にエネルギーを振り分けることによって行われる。
【0076】
上述では、一つの偏光モード(xH-,yH+)に対して変調を行う場合について説明したが、量子状態転送システム1は二つの偏光モードを取り扱うために、受信側装置4は、2段階の変調を行うことになる。
【0077】
すなわち、図11に示されるように、受信側装置4は、変調器1ないし変調器2において、レーザ光にホモダイン測定の結果に基づいた2段階の変調を施し(図10のS121ないしS121に対応)、ビームスプリッタ(部分反射ミラー)にて、EPR光と混合することによって出力光を得る(図10のS123に対応)。
【0078】
前述のとおり、量子状態転送システム1は、2モードスクィーズド状態のEPR光を2組生成するものであるから、受信側装置4は、図11の構成を2組有している。したがって、受信側装置4は、上記2組の構成によって得られた2つの変調光ビームを合波することによって、送信装置から入力された入力光の量子状態が転送(テレポーテーション)された出力光を得る。
【0079】
なお、受信側装置4は、2つの変調光ビームを得るにあたって、変調ゲインを調整することが好ましい。これにより、各変調の強度ないしゲインやそのバランスを的確に調整することができるので、より的確な量子状態の転送を実現することが可能となる。
【0080】
(6.まとめ)
以上のとおり、本発明に係る量子状態転送方法は、配布装置にて、所定の偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第1の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(1a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(1b)を受信側装置に対して出射する段階と、前記偏光モードと直交する偏光モードにおいて、2モードスクィーズド状態の第2の光ビームを構成する量子論的な相関を有する一対のうち、一方の光ビーム(2a)を送信側装置に対して出射するとともに、他方の光ビーム(2b)を受信側装置に対して出射する段階とを備え、送信側装置にて、配布装置から出射された光ビーム(1a)および光ビーム(2a)を入射する段階と、光ビーム(1a)および光ビーム(2a)のそれぞれについて、転送対象となる入力光と合波した場をホモダイン測定により測定する段階と、古典通信路を通じて、ホモダイン測定の結果を受信側装置に送信する段階とを備え、受信側装置にて、配布装置から出射された光ビーム(1b)および光ビーム(2b)のスクィーズド光ビームを入射する段階と、送信側装置からホモダイン測定の結果を受信する段階と、ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(1b)を変調して得られる第1の変調光ビームと、ホモダイン測定の結果に基づいて光ビーム(2b)を変調して得られる第2の変調光ビームとを合波することによって、出力光を得る段階とを備えている。
【0081】
それゆえ、同時検出の条件によってその転送効率に原理的な制約が課されるベル測定を用いた量子状態転送と比較して、より高い効率にて量子状態の転送を実現することができる。つまり、光量子ビットの高効率転送が可能となる。
【0082】
すなわち、本発明に係る量子状態転送方法は、2×2モード(縦偏光、横偏光における各2モード)におけるスクィーズド状態を用いた量子状態の転送、すなわち、光の場の連続量を用いた量子状態の転送を実現する構成である。本発明によれば、高い効率にて量子状態の転送を実現することができ、光量子ビットの高効率転送が可能となるという作用効果を奏する。
【0083】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る量子状態転送方法は、光量子ビットの高効率転送を実現するので、量子情報の転送に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態に係る量子状態転送システムの構成を示す図である。
【図2】量子状態転送システムの動作を概念的に示した図である。
【図3】量子状態転送システムの動作をステップにわけて示したフローチャートである。
【図4】送信装置の構成例を示す図である。
【図5】送信装置の動作ステップを示すフローチャートである。
【図6】配布装置の構成例を示す図である。
【図7】配布装置の動作ステップを示すフローチャートである。
【図8】位相をロックした光の合波によって、2モードスクィーズド状態のEPR光を生成する様子を概念的に示す図である。(a)は、ハーフビームスプリッタにおける入射光1および2の合波によって、2モードスクィーズド状態の出射光3および4が得られる過程を示しており、(b)(c)は各モードのスクィーズド光の位相空間における様子を示したものである。
【図9】ホモダイン測定の概念を示す図である。
【図10】ホモダイン測定の処理ステップを示すフローチャートである。
【図11】受信側装置の構成例を示す図である。
【図12】受信側装置の動作ステップを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
1 量子状態転送システム
2 配布装置
3 送信側装置
4 受信側装置
10 光路
11 光路
12 古典チャンネル
13 光路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11