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明細書 :力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4273229号 (P4273229)
公開番号 特開2005-189297 (P2005-189297A)
登録日 平成21年3月13日(2009.3.13)
発行日 平成21年6月3日(2009.6.3)
公開日 平成17年7月14日(2005.7.14)
発明の名称または考案の名称 力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム
国際特許分類 G09B  19/24        (2006.01)
A61C  19/00        (2006.01)
G06Q  50/00        (2006.01)
FI G09B 19/24 Z
A61C 19/00 Z
G06F 17/60 126Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 24
出願番号 特願2003-427499 (P2003-427499)
出願日 平成15年12月24日(2003.12.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成15年7月31日にインターネットアドレス「http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/shiryo/003/03073101/003.pdf」に掲載
審査請求日 平成18年12月11日(2006.12.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】藤本 英雄
【氏名】陳 連怡
【氏名】伊藤 裕
【氏名】阿部 俊之
審査官 【審査官】植野 孝郎
参考文献・文献 特開平5-303327(JP,A)
特開2003-223205(JP,A)
特開2001-286451(JP,A)
小泉託真 他6名,人工現実感歯科治療訓練システムにおける訓練情報の提示,日本機会学会 東海支部第52期総会講演会 講演論文集 No.033-1,日本機会学会東海支部,2003年 3月 1日,p.171-172
調査した分野 G09B 9/00
G09B19/00-19/24
G09B23/28-23/34
A61C19/00
G06Q50/00
G09B 5/00- 7/12
特許請求の範囲 【請求項1】
仮想空間に作製した口腔および治療機器を表示可能なコンピュータ装置と、前記治療機器を操作する操作手段とを備え、前記操作手段を操作することにより前記治療機器で前記口腔内の歯を治療するフェザータッチ訓練を行えるように構成した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
前記操作手段の操作によるフェザータッチの力情報を取得する力情報取得手段と、
前記力情報取得手段によって取得した熟練者の力情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶した熟練者の力情報に基づいて、当該力情報が集中する範囲を表すセーフティーゾーンを決定するゾーン決定手段とを備え、
前記コンピュータ装置は、操作者が前記操作手段を操作したときに前記力情報取得手段によって取得した力情報に基づいて、前記治療機器で治療する過程を表示するとともに、当該取得した力情報が前記セーフティーゾーンに入っているか否かに応じて前記力情報の可視化形態を異ならせたことを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
【請求項2】
請求項1に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
コンピュータ装置は、力情報の可視化をベクトルで表示する場合、前記力情報の大きさに応じてベクトルの形態を変化させることを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
操作者の頭部の姿勢を検出する姿勢検出手段を備え、
コンピュータ装置は、前記姿勢検出手段によって検出した姿勢に基づいて、前記操作者から見える口腔および治療機器を表示することを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
コンピュータ装置は、口腔内における歯以外の部位と治療機器との接触を検出する接触検出手段と、当該接触検出手段によって接触を検出したときには報知を行う報知手段とを有することを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
【請求項5】
請求項4に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
コンピュータ装置は、仮想空間に血を作製し、接触検出手段によって接触を検出した口腔内の部位に前記血を出現させる表示を行うことを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
コンピュータ装置は、口腔内の舌をランダムに動かして表示することを特徴とする力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者が操作手段を操作することによって仮想の治療機器で仮想の歯を治療する訓練を行えるように構成した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯を治療するにあたっては、治療技術向上や熟練度向上のために訓練を欠かすことができない。従来では訓練者同士や患者の歯を治療する実習に先立って、マネキンや歯列模型を用いた実習が行われていた(例えば非特許文献1,2を参照)。

【非特許文献1】伊藤裕著「クラウン・ブリッジによる咬合回復」愛知学院大学歯学部歯科補綴学第三講座教本、1997年、p.45-52
【非特許文献2】川崎弘二,上村参生,神原正樹,岡本吉宏,井上宏著「歯の切削コンピュータ・シミュレーション・システム(DentSim)の応用とその考え方」日歯教誌、2000年、p.52-59
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、マネキンを用いた実習では、当該マネキンには動く舌が無いだけでなく、歯以外の口内部位(歯肉,頬粘膜,舌等)に治療機器が当たった場合でも反応が無い。そのため、実際に患者の歯を治療する場合には、思わぬ舌の動き等による危険性を習得できず、治療技術向上や熟練度向上の妨げになっていた。
また、歯列模型を用いた実習では、歯列模型の歯は実際の歯と異なる材質で形成するため、切削する際の感触が異なり、歯の切削が適正に行われたか否かを判断できない。そのため、実際に患者の歯を治療した場合には必要以上に歯を削ることもあった。また、一回しか切削することができず、訓練を繰り返し行うことができなかった。
【0004】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、次の目的のうちで少なくとも一つの目的を達成可能な力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムを提供する。すなわち第1の目的は、思わぬ動きによる危険性を習得できるようにすることである。第2の目的は、歯の切削が適正に行われたか否かを判断できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)課題を解決するための手段(以下では単に「解決手段」と呼ぶ。)1は、図1に模式的に示すように、仮想空間に作製した口腔および治療機器を表示可能なコンピュータ装置5と、前記治療機器を操作する操作手段8とを備え、前記操作手段8を操作することにより前記治療機器で前記口腔内の歯を治療するフェザータッチ訓練を行えるように構成した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、
前記操作手段8の操作によるフェザータッチの力情報を取得する力情報取得手段9と、前記力情報取得手段9によって取得した熟練者(熟練した術者を意味する。以下同じ。)の力情報を記憶する記憶手段4と、前記記憶手段4に記憶した熟練者の力情報に基づいて当該力情報が集中する範囲を表すセーフティーゾーンを決定するゾーン決定手段Zoとを備え、
前記コンピュータ装置5は、操作者Tが前記操作手段8を操作したときに前記力情報取得手段9によって取得した力情報に基づいて、前記治療機器で治療する過程を表示するとともに、当該取得した力情報が前記セーフティーゾーンに入っているか否かに応じて前記力情報の可視化形態を異ならせたことを要旨とする。
【0006】
解決手段1によれば、コンピュータ装置5は口腔および治療機器を仮想空間に作製するので、操作者T(すなわち訓練者や熟練者)が見ることができる口腔や治療機器は仮想のものである。治療機器は歯科治療に用いる機器であって、例えばハンドピース,デンタルミラー,バキューム等が該当する。
【0007】
まずは熟練者(歯科医)としての操作者Tが治療機器に見立てた操作手段8を操作し、口腔内の歯を治療するフェザータッチを行う。図1の例で示す操作手段8は、右手用の右操作部8aと、左手用の左操作部8bとからなる。操作したときのフェザータッチの力情報は力情報取得手段9が取得し、当該取得した熟練者の力情報を記憶手段4に記憶する。図1の例で示す力情報取得手段9は、右操作部8aに備えた右検出部9aと、左操作部8bに備えた左検出部9bとからなる。記憶手段4に記憶された熟練者の力情報は、力情報が集中する範囲をセーフティーゾーンとしてゾーン決定手段Zoが決定する。その決定方法は任意であるが、例えばグラフ等に表した力情報の回数が集中する範囲を目視して決定してもよく、力情報が正規分布に従う場合には平均値±σ,平均値±2σ,平均値±3σ(σは標準偏差を意味する。)などで示す範囲に決定してもよい。
【0008】
上述のように決定したセーフティーゾーンを基にして、訓練者としての操作者Tが操作手段8を操作して口腔内の歯を治療するフェザータッチ訓練を行う。この訓練の際にコンピュータ装置5は、治療機器で歯を治療する過程をバーチャルリアリティ技術に基づいて表示器2に表示するとともに、操作手段8に加えた力の大きさ(すなわち力情報取得手段9で取得した力情報)がセーフティーゾーンに入っているか否かに応じて力情報の可視化形態を異ならせる。色彩によって可視化形態を異ならせる例としては、訓練者の力情報がセーフティーゾーンに入っていれば緑色で表示し、入っていなければ他の色(赤色や青色等)で表示する。他の可視化形態としては、ベクトル(単なる線分を含む)の長さの長短,数値情報の表示,図形の表示などが該当する。力情報の内容を認識した訓練者(操作者T)は、どの程度の力を入れて治療機器を扱っているのかを一目で簡単に把握できる。よって、歯の切削が適正に行われたか否かを判断できるようになる。また、上述した治療訓練は何度も繰り返し行えるので、治療技術向上や熟練度向上を図ることができる。
【0009】
また図1に示すように、訓練者として操作者Tによるフェザータッチの力情報(例えば力Fb)を表示するだけでなく、熟練者として操作者Tが操作したフェザータッチの力情報(例えば力Fa)をも表示する。よって、訓練者として操作者Tは自己の操作によるフェザータッチの力情報だけでなく熟練者が操作するフェザータッチの力情報も同時に認識できるので、力の強弱を対比できるのでより分かり易くなり、切削を行う力が適切か否かをリアルタイムで判断できるようになる。
【0010】
(2)解決手段2は、解決手段1に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は力情報の可視化をベクトルで表示する場合、前記力情報の大きさに応じてベクトルの形態を変化させることことを要旨とする。
【0011】
解決手段2によれば、コンピュータ装置5は、力情報の内容(力の大きさ、力の方向等)に応じてベクトルの形態を変化させる。当該ベクトルの形態は操作者Tが変化を認識可能であればよく、例えば長さ,太さ,色彩等が該当する。例えば操作する力が大きくなれば、ベクトルを長くしたり、太くしたり、青色から赤色に次第に変化させる等を行う。逆に操作する力が小さくなれば、ベクトルを短くしたり、細くしたり、赤色から青色に次第に変化させる等を行う。操作する力の方向が変化する場合も同様である。ベクトルの形態が変化したのを認識した操作者Tは、切削を行う際に加える力の向きや大きさ等が適切か否かをリアルタイムで判断できるようになる。
【0012】
(3)解決手段3は、解決手段1または2に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、操作者Tの頭部の姿勢を検出する姿勢検出手段1を備え、コンピュータ装置5は前記姿勢検出手段1によって検出した姿勢に基づいて前記操作者Tから見える口腔および治療機器を表示することを要旨とする。
【0013】
操作者Tの頭部の姿勢が変化すると、口腔や治療機器を見る角度も変化するので、見た目が変わる。解決手段3によれば、姿勢検出手段1が操作者Tの頭部の姿勢を検出する。図1に示す例では、磁気を発生させる磁気発生器3aと、所定位置に設置した磁気センサ3bと、操作者Tの頭部に取り付けた磁気センサ3cとを有する磁気センサ装置3を用いる。すなわち磁気発生器3aが発生させた磁界中に磁気センサ3b,3cを置くと電流が流れるので、当該電流の強さから姿勢検出手段1は操作者Tの頭部の姿勢(位置,回転等)を求める。コンピュータ装置5は、姿勢検出手段1が検出した姿勢に基づいて操作者Tから見える口腔および治療機器を表示する。したがって、実際の患者を治療すると同様な見え方で治療訓練を行える。なお、本例では磁気センサ装置3によって操作者Tの頭部の姿勢を検出したが、他の装置(例えば赤外線やレーザー光等を用いる光センサ装置など)によって操作者Tの頭部の姿勢を検出する構成としてもよい。
【0014】
(4)解決手段4は、解決手段1から3のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は、口腔内における歯以外の部位と治療機器との接触を検出する接触検出手段6と、当該接触検出手段6によって接触を検出したときには報知を行う報知手段7とを有することを要旨とする。
【0015】
解決手段4によれば、接触検出手段6が歯以外の部位と治療機器との接触を検出すると、報知手段7が当該接触を報知する。接触の検出は、例えば治療機器の先端位置が多角形ポリゴンの一面を突き抜けたか否かで判別する。また報知は、例えば音(例えば音声,効果音等)を出したり、図形,画像,文字等を表示したりする。報知を認識した操作者Tは、操作中(すなわち治療訓練中)に治療機器が歯以外の部位に接触したという治療ミスが発生したことが分かる。どのような操作をしたら治療ミスが発生するのかが分かるので、治療時の危険性を習得できる。したがって、操作者Tは危険回避を意識しながら治療訓練を行うことになるので、治療技術向上や熟練度向上につながる。
【0016】
(5)解決手段5は、解決手段4に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は、仮想空間に血を作製し、接触検出手段6によって接触を検出した口腔内の部位に前記血を出現させる表示を行うことを要旨とする。
【0017】
解決手段5によれば、コンピュータ装置5には口腔や治療機器と同様にして血も仮想空間に作製するので、操作者Tが見ることができる血も仮想のものである。操作者Tが操作手段8の操作中に治療機器が歯以外の部位に接触したとき、コンピュータ装置5は当該接触部位に血を出現させる表示を行う。血の表示を認識した操作者Tは、実際の治療と同様の臨場感で治療ミスの発生を知り得るので、治療時の危険性を現実的に習得できる。
【0018】
(6)解決手段6は、解決手段1から5のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は、口腔内の舌をランダムに動かして表示することを要旨とする。
【0019】
実際の患者は突発的に舌を動かすことがあり、これがもとで治療機器が舌に接触する治療ミスが発生する場合もある。解決手段6によれば、コンピュータ装置5は仮想空間に口腔の一部として舌を作製する。そして、当該舌をランダムに動かすことにより、現実的な動きを再現する。操作者Tは実際に現れるような舌の動きに対応して歯の治療を行わなければならないので、実際の患者を治療するに近い環境で治療訓練を行うことができる。
【0020】
(7)解決手段7は、解決手段1から6のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は、口腔の一部については対応する画像をテキスチャマッピング(Texture mapping)によって表示することを要旨とする。
【0021】
解決手段7によれば、口腔の一部について、テキスチャマッピングによって実際に撮像した口腔の画像を表示する。この表示によって仮想患者の口腔は現実感を出すことができ、かつモデルが簡易化されるので処理負担を減らすことができる。したがって、仮想の口腔にかかる臨場感を増すとともに、処理すべきデータ量を軽減できる。
【0022】
(8)解決手段8は、解決手段1から7のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、コンピュータ装置5は、治療機器としてデンタルミラーを表示する場合、操作者Tがデンタルミラーを見る視線ベクトルと鏡面の法線ベクトルとに基づいて鏡に映る方向ベクトルを求め、当該方向ベクトルの方向に見える映像を反転させて表示することを要旨とする。
【0023】
歯(特に歯の裏側)を治療するにあたってはデンタルミラーが欠かせない。解決手段8によれば、仮想の治療機器としてデンタルミラーを用いた場合には、当該デンタルミラーに映る画像を表示する。したがって、実際にデンタルミラーを見て歯を治療するに近い環境で治療訓練を行える。
【0024】
(9)解決手段9は、解決手段1から8のいずれか一項に記載した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムであって、操作手段8は、治療機器が口腔内の歯に接触したときに受ける反力を操作者Tに伝達する構成としたことを要旨とする。
【0025】
歯にはある程度の硬度があるので、実際の治療を行う際に治療機器(例えばハンドピース)が歯に接触すると反力を受ける。当該反力を受けた場合には、歯を削る際に加える力を弱めなければ削り過ぎる可能性が高まる。解決手段9によれば、反力を操作者Tに伝達するように操作手段8を構成する。よって、操作者Tは操作手段8から反力を受けた場合に力を弱めなければ歯を削り過ぎることを訓練で習得できる。したがって、実際に歯を治療するに近い環境で治療訓練を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、思わぬ動きによる危険性を習得できるようになる。また、歯の切削が適正に行われたか否かを判断できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、実施例に従って説明する。
【実施例】
【0028】
本実施例は、図2~図11を参照しながら説明する。図2には、本発明にかかる力情報の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムの構成例を斜視図で示す。図3~図6には、治療訓練処理の手続きをフローチャートで表す。当該図3~図6の間は、結合子J2,J4,J6,J8,J10で処理が継続する。図7~図11には、表示器に表示される一例を示す。なお、図3のステップS20および図4のステップS30はそれぞれ接触検出手段6に相当し、図4のステップS32は報知手段7に相当し、図4のステップS38はゾーン決定手段Zoに相当する。
【0029】
図2に示す力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムは、メモリ34を内蔵するコンピュータ本体20や、力覚センサ26を有する操作装置24(左手用)、力覚センサ32を有する操作装置30(右手用)、立体視用頭部搭載型のディスプレイ12(いわゆるヘッドアップディスプレイ)、磁気発生源16、三次元磁気センサ10,18、測定装置14等を備える。なお、コンピュータ本体20およびディスプレイ12はコンピュータ装置5に相当し、メモリ34は記憶手段4に相当し、操作装置24,30はそれぞれが操作手段8に相当し、磁気発生源16および三次元磁気センサ10,18は磁気センサ装置3に相当し、測定装置14は姿勢検出手段1に相当する。
【0030】
メモリ34には、仮想空間に作製する光源,視点,顔面,口腔(歯を含む),治療機器,血等に関する形状データや、テキスチャマッピングによって表示する画像データ、訓練者や熟練者等の操作により力覚センサ26,32が検出したフェザータッチの力情報、当該力情報と反力との関係を規定する関係情報等を記憶(記録)する。メモリ34はこれらのデータを記録して読み込み可能な記録媒体であって、例えばROM,RAM,ハードディスク,光磁気ディスク等を用いる。
【0031】
左操作部8bに相当する操作装置24には操作レバー22と力覚センサ26を備え、右操作部8aに相当する操作装置30には操作レバー28と力覚センサ32を備える。これらの操作レバー22,28は治療機器に見立てたものであり、仮想空間上ではハンドピース,デンタルミラー,バキューム等に対応する。操作装置24は、操作者Tが操作したときの操作レバー22の位置や姿勢に関する情報(すなわち機器情報)をコンピュータ本体20に出力するとともに、当該操作時に加えられる力を力覚センサ26が検出して力情報としてコンピュータ本体20に出力する。操作装置30も操作装置24と同様の機能を有し、機器情報や力情報をコンピュータ本体20に出力する。
【0032】
コンピュータ本体20は、操作者Tが操作レバー22,28を操作することにより治療機器で口腔内の歯を治療するフェザータッチ訓練を行えるように構成する。具体的には、操作者Tが操作する操作レバー22,28にかかる情報(機器情報や力情報等)に基づいて、仮想空間に作製した口腔や治療機器等を用いて歯を治療する過程をディスプレイ12に表示するとともに、検出した力情報の内容をディスプレイ12に表示する。
【0033】
磁気発生器3aに相当する磁気発生源16と、磁気センサ3b,3cに相当する三次元磁気センサ10,18とは、いずれもX軸,Y軸,Z軸方向に互いに直交させた三つのコイルによって構成する。磁気発生源16は、コイルに電流を流すことによって磁気(磁界)を発生させる。こうして発生させた磁気の中に三次元磁気センサ10,18を置くと電流が流れ、当該電流の強さは磁気発生源16からの距離と角度によって決定される。測定装置14は、磁気発生源16および三次元磁気センサ10,18に流れる各電流値から3×3の9通りのデータを基にして連立方程式を解くことにより、三次元磁気センサ10(すなわち操作者Tの頭部)にかかる三次元位置座標およびオイラー角(roll,pitch,yaw)を求める。こうして操作者Tの頭部の姿勢(すなわち三次元座標位置や回転角,仰角等)が分かるので、測定装置14は姿勢情報としてコンピュータ本体20に出力する。
【0034】
上述のように構成した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムにおいて、本発明を実現するための治療訓練処理について図3を参照しながら説明する。図3において、始めにメモリ34に記憶させた光源,視点,顔面,口腔,治療機器等に関するデータに基づき、「メタファ(Metaphor;比喩の意)」として仮想空間に顔面,口腔,治療機器,血,操作者Tの手等を作製する〔ステップS10〕。作製時期は問わないが、少なくとも治療訓練を開始する前には作製を終えておく必要がある。また、仮想空間に作製する顔面,口腔,治療機器等は、所定のポリゴン数からなるポリゴンで実現する。例えば、口腔に含まれる舌のポリゴン数は16であり、歯切削用のダイヤモンドバーを含めたハンドピースのポリゴン数は216である。口腔内の前歯と奥歯では形状が異な等のように、歯は一本ごとに作製する必要があるので、一般的にポリゴン数が異なる。
【0035】
データ取得中には、必要に応じて取得環境(後述する訓練環境と同様である)を設定または変更する〔ステップS12〕。例えば治療機器については、デンタルミラーを選んで設定したり、当初はデンタルミラーであったものをハンドピースに替えて設定するなどが該当する。同様に、顔面が見えるのか、口腔を含めた口とその周囲のみが見えるのか等のように仮想患者の見え方について設定または変更する。
また、実際の患者と同様の動きを再現するため、仮想患者の舌をランダムに動かす〔ステップS14〕。さらに、測定装置14から出力された姿勢情報を取得してメモリ34に記憶する〔ステップS16〕。そして、操作装置24,30から出力された機器情報やフェザータッチの力情報を取得してメモリ34に記憶する〔ステップS18〕。
【0036】
ステップS16,S18でメモリ34に記憶した情報(姿勢情報,機器情報,力情報等)に基づいて、治療機器が歯に接触したと判定したときは(ステップS20でYES)、ステップS18で取得した力情報から関係情報に従って反力を求め、操作装置24,30を通じて操作者Tの手に当該反力を与える〔ステップS22〕。例えば治療機器がハンドピースであり、かつ当該ハンドピースに装着されたダイヤモンドバーやタービン等が歯に当たった場合が該当する。
なお、ハンドピース以外の治療機器(例えばデンタルミラーやバキューム等)を用いて治療訓練を行う場合についても反力を与えてもよい。また、歯以外の口腔内部位(例えば硬口蓋や歯茎等)に接触した場合についても反力を与えてもよい。
【0037】
治療機器としてデンタルミラーを使用するときは(ステップS24でYES)、当該デンタルミラーの鏡に表示する反射映像を作製する〔ステップS26〕。一般に治療機器としてのデンタルミラーは、歯を削るときに舌や頬粘膜を排除する役目とともに、正面から見えない裏側の状態を映し出す。実際の患者に対してもデンタルミラーを見ながら歯を治療することが多いので、仮想患者に対する治療訓練を行う場合でもデンタルミラーを見ながら歯を治療する必要がある。そこでステップS26では、操作者Tがデンタルミラーを見る視線ベクトルと鏡面の法線ベクトルとに基づいて鏡に映る方向ベクトルを求め、当該方向ベクトルの方向に見える映像を反転させて作製する。視線ベクトルはステップS16で取得した姿勢情報によって計算することができ、鏡面の法線ベクトルはデンタルミラーにかかる情報(位置や姿勢等)によって知ることができる。
【0038】
図4に移って、上述したステップS12~S26までを実行した結果における仮想患者の現況、すなわち現在の状態をディスプレイ12に表示する〔ステップS28〕。具体的には、(a)仮想空間に作製した顔面,口腔,治療機器等や、(b)テキスチャマッピングによる口腔内の一部にかかる画像、(c)熟練者の力情報の内容、(d)治療機器としてデンタルミラーを使用したときに鏡に映される映像であってステップS26で作製した反射映像などのように訓練に必要とされる情報が該当する。
【0039】
事項(a)で示す顔面,口腔,治療機器等の表示内容は、図3のステップS12で設定した内容や、図3のステップS16で取得した姿勢情報、図3のステップS18で取得した機器情報および力情報などに従って変化してゆく。例えば姿勢情報によれば、操作者Tの頭部が仮想患者に近付けば当該仮想患者の顔面や口腔等が大きくなるように表示し、逆に操作者Tの頭部が仮想患者から遠ざかれば当該仮想患者の顔面や口腔等が小さくなるように表示する。同様にして例えば機器情報によれば、操作者Tが操作レバー22,28を動かす度合いに応じて仮想空間上の治療機器を動かす。
【0040】
事項(c)で示す熟練者の力情報の内容は、図3のステップS18でメモリ34に記憶した力情報の内容であって、熟練者としての操作者Tが操作装置24,30(具体的には操作レバー22,28)に加えた力に対して、反対方向の力にかかるベクトル形式で表示する。こうして表示するベクトルは、力情報の大きさに応じて長さ,太さ,色彩等を変化させるのが望ましい。例えば力情報の大きさが大きくなれば、ベクトルを長くしたり、太くしたり、青色から赤色に次第に変化させる。逆に力情報の大きさが小さくなれば、ベクトルを短くしたり、細くしたり、赤色から青色に次第に変化させる。
【0041】
また、図3のステップS16,S18でメモリ34に記憶した情報(姿勢情報,機器情報,力情報等)に基づいて、治療機器が歯以外の口腔内部位に接触したと判定したときは(ステップS30でYES)、当該接触部位に血を表示したり、音(例えば効果音や音声等)を響かせて操作者Tに報知する〔ステップS32〕。
実際には口腔内部位に接触して血が出現する治療機器は限られ、例えばダイヤモンドバーやタービン等を有するハンドピースなどが該当する。またステップS30で行う接触したか否か判定は、仮想空間上に作製した治療機器とは別個に一枚の無色の三角ポリゴンを作製しておき、当該三角ポリゴンを治療機器の先端の動きに追従させ、当該三角ポリゴンが舌のポリゴンに接触したか否かで行う。ポリゴンの中でも最も単純な三角ポリゴンを用いて接触判定を行うことにより、計算量を大幅に減らすことができる。仮想の血(ポリゴン)は図3のステップS10で予め作製しておいて仮想空間の遠方に配置してあるので、ステップS32では当該血を単に接触部位に移動させるだけでよい。したがって、ディスプレイ12への表示に際してリアルタイム性を損なわない。
【0042】
上述した処理は力情報にかかるデータ取得を終えるまで繰り返す〔ステップS34〕。図3に示す実線の例では、データ取得中に取得環境の設定や変更を可能とするべくステップS12から繰り返すように戻している。これに対して、データ取得中に取得環境の設定や変更を不可能とするには、二点鎖線で示すようにステップS14から繰り返すように戻せばよい。
【0043】
データ取得を終えるときには(ステップS34でYES)、図3のステップS18でメモリ34に記憶した熟練者の力情報を視認可能にするべく当該力情報をディスプレイ12(または他の表示器)に表示したり印刷する〔ステップS36〕。力情報の表現形式は問わないが、操作レバー22,28に加えた力や当該加えた力の方向が分かるように表現するのが望ましい。例えば、グラフで表現する形式などが該当する。
【0044】
そして、視認可能になった(あるいはメモリ34に記憶された)熟練者の力情報に基づいて、当該力情報(力の大きさや方向)が集中する範囲を表すセーフティーゾーンを決定する(ステップS38)。セーフティーゾーン(上限値や下限値等)の決定方法は任意であるが、例えばグラフ等に表した力情報の回数が集中する範囲を目視して決定してもよく、力情報が正規分布に従う場合には平均値±σ,平均値±2σ,平均値±3σ(σは標準偏差を意味する。)などで示す範囲に決定したり、力情報が正規分布に従わない場合には力情報が所定回数(例えば5回や10回等)以上になる範囲に決定してもよい。このように力情報の回数が集中する範囲についてセーフティーゾーンとして決定するのは、当該範囲より小さい力では歯を削る力も不十分となり、当該範囲より大きい力では歯を削り過ぎることになるためである。
【0045】
以上の説明では熟練者についてフェザータッチの力情報を取得する過程を示したが、以下の説明では訓練者(特に初心者)についてフェザータッチの力情報を取得して表示することによりフェザータッチ訓練を行う過程を示す。
なお、訓練者が訓練するにあたっては、熟練者についてフェザータッチの力情報を取得する環境と同等の環境で行うのが望ましい。以下に説明する相違点を除けば、図5のステップS40から図6のステップS62までの処理内容は、図3のステップS12から図4のステップS34までの処理内容とほぼ同じである。よって図5,図6では、同等の処理内容の場合には、対応する処理内容のステップ番号を括弧内に表している。
【0046】
図5,図6に示す処理内容が図3,図4と異なるのは、次に示す各相違点である。
(相違点α)
対象者が訓練者になる点である。そのため、取得環境と訓練環境とは同じ環境にするのが望ましい。その意味では図3のステップS12で設定された内容をメモリ34に記憶しておき、当該設定内容を図5のステップS40で再現(再設定)するのが望ましい。このように自動的に訓練環境(特に治療機器)が再設定されると、訓練者は歯を治療するにあたってどのタイミングでどの治療機器を選択したらよいのかも学習することができる。
【0047】
(相違点β)
図5のステップS46では、訓練者としての操作者Tが操作装置24,30を操作することにより出力された機器情報やフェザータッチの力情報を取得する。当該取得した訓練者の力情報は、熟練者の力情報に代えてメモリ34に記憶してもよく、熟練者の力情報を残した上でメモリ34に記憶してもよい。後者の場合では、メモリ34には熟練者および訓練者の双方にかかる力情報が記憶される。
【0048】
(相違点γ)
上記相違点βの記憶に関連する。もし熟練者の力情報に代えてメモリ34に記憶した場合には、図5のステップS56では訓練者の力情報がセーフティーゾーンに入っているか否かでベクトルの形態を異ならせる。たとえば訓練者の力情報(力の大きさ)がセーフティーゾーンの下限値よりも小さければベクトルを青色で表示し、同じくセーフティーゾーンの範囲内であればベクトルを緑色で表示し、同じくセーフティーゾーンの上限値よりも小さければベクトルを赤色で表示する。こうすればベクトルの色彩を認識した訓練者(操作者T)は加える力が大きいか、適切か、小さいかが一目で分かる。
一方、熟練者の力情報を残した上でメモリ34に記憶した場合には、上述した表示を行なってもよいが、訓練者の力情報だけでなく熟練者の力情報も同時に表示してもよい。このように熟練者および訓練者の双方にかかる力情報を同時に表示すれば、訓練者は熟練者の力情報と対比させながらフェザータッチ訓練を行うことができる。
【0049】
図3~図6に示す治療訓練処理を実行してディスプレイ12で実現する表示例について、図7~図11を参照しながら説明する。
【0050】
まず図7では、訓練環境を設定する状態を図7(A)に示し、口腔52を拡大して表示する設定を行なった状態を図7(B)および図7(C)に示す{図3のステップS12,図4のステップS28を参照}。図7(A)では、仮想患者にかかる顔面40や、仮想の治療機器(本例ではバキューム42,デンタルミラー46およびハンドピース50)、操作者Tにかかる仮想の手(本例では左手44および右手48)などをディスプレイ12に表示する。当該表示を見た操作者Tは、仮想患者の顔面40の状態や、どのような治療機器を選択したのかを容易に把握できる。なお、図3のステップS16で取得する操作者Tの頭部にかかる姿勢情報に応じて、図7に示すディスプレイ12の見え方も変化する。
【0051】
歯の治療訓練を行うにあたっては口腔52が大きく表示されたほうが見えやすいので、図7(B)や図7(C)のように拡大して表示する設定を行うことができる{図3のステップS12を参照}。図7(B)に示す口腔52の一部分(本例では口蓋,口蓋垂,扁桃,口峡等の部分)は、当該部分にかかる画像54をテキスチャマッピングによって表示している。この表示では、テキスチャマッピングを行わない図7(C)に比べて仮想の口腔52にかかる臨場感を増すことができる。また、予めメモリ34に記憶した画像54をテキスチャマッピングで表示するだけであるので、処理すべきデータ量を軽減できる。
【0052】
操作者Tが操作レバー22,28を操作して、ハンドピース50に備えたダイヤモンドバー50aによって歯56を切削すると、図8のような表示を行う{図3のステップS12,図4のステップS28を参照}。ここで図8(A)には口腔52内に並んでいる歯56(歯列)を切削する例を示すのに対して、図8(B),図8(C)および図8(D)には一本のみの歯56を切削する例を示す。なお当該図8(B),図8(C)および図8(D)では、虫歯に相当する部位を黒く表示している。
【0053】
図8(A)に示す例では、操作者Tが操作レバー22,28に加えた力とは反対方向の力をベクトル58で表示する{図4のステップS28,図6のステップS56を参照}。操作者Tが操作レバー22,28に加えて力覚センサ26,32で検出する力は押圧力に等しいので、ベクトル58とは逆方向の力となる。この方向のまま表示したのでは不自然な表示になるので、歯56に対して加える力を可視化するべく反対方向のベクトル成分を求めて表示している。
【0054】
またベクトル58は、力情報(力の大きさ)に応じて長さ(あるいは太さ)を変化させ、訓練者としての操作者Tの力情報についてはセーフティーゾーンに入っているか否かで色彩を変える{図6のステップS56を参照}。その色彩は、例えば力情報(力の大きさ)がセーフティーゾーンの下限値よりも小さければベクトルを青色で表示し、同じくセーフティーゾーンの範囲内であればベクトルを緑色で表示し、同じくセーフティーゾーンの上限値よりも小さければベクトルを赤色で表示する。こうすればベクトル58の色を認識した訓練者は加える力が大きいか、適切か、小さいかが一目で分かる。
【0055】
図8(B),図8(C)および図8(D)に示す例では、操作者Tが操作レバー22,28に加えた力の大きさに応じてベクトル58の形態を変化させている。すなわち、操作者Tが加えた力が大きくなるにつれて、ベクトル58の形態が図8(B)→図8(C)→図8(D)の順番に変化する。例えば操作者Tが加えた力が7[gf]未満であれば、図8(B)に示すように青色のベクトル58を表示する。同様に7[gf]以上26[gf]未満のときは、図8(C)に示すように緑色のベクトル58とし、かつ青色のベクトル58よりも長く表示する。さらに26[gf]以上のときは、図8(D)に示すように赤色のベクトル58とし、かつ緑色のベクトル58よりも長く表示する。このように、単に力成分をベクトル58で表示するだけでなく、力の大きさに応じてベクトルの形態を変化させたので、操作者Tは歯56を切削する際の力の強弱を一目で把握できる。
【0056】
図4のステップS30において、歯56以外の口腔内部位(例えば舌)とダイヤモンドバー50aとの接触判定について、図9を参照しながら説明する。まず図9(A)に示すようにダイヤモンドバー50aに対応する三角ポリゴン62と、口腔内部位に対応する舌ポリゴン60とを仮想空間上に作製しておく{図3のステップS10を参照}。同様にして、図9(B)に示すように仮想の血64を仮想空間上に作製しておく{図3のステップS10を参照}。そして、ダイヤモンドバー50aの動きに追従して三角ポリゴン62を動かし{図3のステップS16,図4のステップS28を参照}、当該三角ポリゴン62の先端が舌ポリゴン60表面に接触したか否かで判定を行う。
【0057】
もし、三角ポリゴン62の先端が舌ポリゴン60表面に接触したと判定したときは、図9(C)に示すように血64を表示する{図4のステップS32を参照}。当該図9(C)の例では、三角ポリゴン62の先端が舌ポリゴン60表面に接触した部位、すなわち歯56と舌66とが接触する部位の近傍に血64を表示している。舌66はランダムに動くので{図3のステップS14を参照}、ダイヤモンドバー50aが接触する場合がある。当該血64を見た操作者Tは、ダイヤモンドバー50aが舌66に接触したことを容易に把握できる。口腔52の全体を表示する場合も同様である。三角ポリゴン62の先端が舌ポリゴン60表面に接触していないときの表示例を図10(A)に示し、三角ポリゴン62の先端が舌ポリゴン60表面に接触したときの表示例を図10(B)に示す。
【0058】
治療機器としてデンタルミラーを使用するときの表示例について、図11を参照しながら説明する。図11には、デンタルミラー46と、当該デンタルミラー46に備えた鏡46aに鏡像70を表示する例を示す。本例の鏡像70は歯56の裏側を映し出したものであり、操作者Tがデンタルミラー46を見る視線ベクトルと鏡面の法線ベクトルとに基づいて鏡に映る方向ベクトルを求め、当該方向ベクトルの方向に見える映像を反転させた画像である{図3のステップS26を参照}。当該鏡像70の表示により、操作者Tは実際にデンタルミラーを見て歯を治療するに近い環境で治療訓練を行える。
【0059】
治療訓練を終えてディスプレイ12に表示する一例を図12に示す。図8(B),図8(C)および図8(D)に示したように一本のみの歯56をダイヤモンドバー50aで切削する際に操作者Tが加えた力の分布であって、初心者(操作者T)の訓練結果を図12(A)に棒グラフで示し、熟練者の取得結果を図12(B)に棒グラフで示す。図12(A)と図12(B)とを比較してみると、初心者は熟練者よりも強い力を加えて歯56を切削しているのが分かる。このように熟練者が加えた力と対比させることで、初心者(操作者T)は歯56を切削する際に加える力が大きいか小さいかを把握できる。
【0060】
上述した実施例によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
(1)治療機器に見立てた操作装置24,30(操作手段8)を操作者T(熟練者,訓練者)が操作することにより治療機器で口腔内の歯を治療する訓練を行えるように構成した力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムについて、仮想空間に作製した口腔および治療機器を表示可能なコンピュータ本体20およびディスプレイ12(コンピュータ装置5)と、操作装置24,30に備えられ操作者Tが操作時に加える力を検出する力覚センサ26,32(力情報取得手段9)と、力覚センサ26,32によって取得した熟練者の力情報を記憶するメモリ34(記憶手段4)とを備え{図2を参照}、メモリ34に記憶した熟練者の力情報に基づいて当該力情報が集中する範囲を表すセーフティーゾーンを決定した{ゾーン決定手段Zo;図4のステップS38を参照}。
コンピュータ本体20は、操作者Tが操作装置24,30を操作したときに力覚センサ26,32によって取得した力情報に基づいて、治療機器で治療する過程を表示するとともに、当該取得した力情報がセーフティーゾーンに入っているか否かに応じて力情報の可視化形態を異ならせた{図5のステップS40~図6のステップS56を参照}。こうして力情報の内容を認識した操作者Tは、熟練者の力加減とともに、どの方向にどの程度の力を入れて治療機器を扱っているのかを簡単に把握できる。よって、歯の切削が適正に行われたか否かを判断できるようになる。また、治療訓練を何度も繰り返し行えるので、治療技術向上や熟練度向上を図ることができる。
【0061】
(2)力情報をベクトルで表示する場合、コンピュータ本体20は当該力情報に応じてベクトルの形態を変化させた{図8(B),図8(C)および図8(D)を参照}。ベクトルの形態が変化したのを認識した操作者Tは、切削を行う際に加える力の向きや大きさ等が適切か否かをリアルタイムで判断できるようになる。
【0062】
(3)姿勢検出手段1に相当する測定装置14を備え{図2を参照}、当該測定装置14によって検出した操作者Tの頭部の姿勢に基づいて、コンピュータ本体20は操作者Tから見える口腔および治療機器をディスプレイ12に表示した{図4のステップS28、図7等を参照}。操作者Tの頭部の姿勢が変化すると、口腔や治療機器を見る角度も変化するので、見た目が変わる。図2に示す例では、測定装置14が操作者Tの頭部の姿勢(位置,回転等)を求め、当該検出した姿勢に基づいてコンピュータ本体20が操作者Tから見える口腔および治療機器をディスプレイ12に表示している。したがって、実際の患者を治療すると同様な見え方で治療訓練を行える。
測定装置14が操作者Tの頭部の姿勢を検出するにあたっては、磁気を発生させる磁気発生源16(磁気発生器3a)と、三次元磁気センサ18(磁気センサ3b)と、操作者Tの頭部に取り付けた三次元磁気センサ10,18(磁気センサ3c)とを用いた。この構成によればコード等の引き回しに煩わされることなく、現実の歯科治療と同様の環境で訓練を行うことができる。
【0063】
(4)コンピュータ本体20は、口腔内における歯以外の部位と治療機器との接触を検出し{接触検出手段6;図3のステップS20および図4のステップS30を参照}、当該接触を検出したときに報知した{報知手段7;図3のステップS32、図9,図10を参照}。すなわち治療訓練中に歯以外の部位と治療機器とが接触したときには、現実の歯科治療と同等な状況を再現するために仮想の血を表示したり、警告音や音声を響かせるなどで接触の発生を報知した。報知を認識した操作者Tは、操作中(すなわち治療訓練中)に治療機器が歯以外の部位に接触したという治療ミスが発生したことが分かる。どのような操作をしたら治療ミスが発生するのかが分かるので、治療時の危険性を習得できる。したがって、操作者Tは危険回避を意識しながら治療訓練を行うことになるので、治療技術向上や熟練度向上につながる。
【0064】
(5)コンピュータ本体20は、仮想空間に血を作製しておき、接触を検出した口腔内の部位に血を出現させる表示を実現した{図3のステップS30,S32、図9,図10を参照}。当該血の表示を認識した操作者Tは、実際の治療と同様の臨場感で治療ミスの発生を知り得るので、治療時の危険性を現実的に習得できる。
【0065】
(6)コンピュータ本体20は、口腔内の舌をランダムに動かしてディスプレイ12に表示した{図3のステップS32を参照}。実際の患者は突発的に舌を動かすことがあり、これがもとで治療機器が舌に接触する治療ミスが発生する場合もある。治療訓練でも舌をランダムに動かすことにより、現実的な動きを再現する。操作者Tは実際に現れるような舌の動きに対応して歯の治療を行わなければならないので、実際の患者を治療するに近い環境で訓練を行うことができる。本例では舌をランダムに動かしたが、上下の顎をランダムに動かしたり、患者の頭全体をランダムに動かす等を行なってもよい。したがって、思わぬ動きによる危険性を習得できるようになる。
【0066】
(7)コンピュータ本体20は、口腔の一部については対応する画像をテキスチャマッピングによって表示した{図4のステップS28、図7等を参照}。この表示によって仮想患者の口腔は現実感を出すことができ、かつモデルが簡易化されるので処理負担を減らすことができる。したがって、仮想の口腔にかかる臨場感を増すとともに、処理すべきデータ量を軽減できる。
【0067】
(8)治療機器としてデンタルミラーを表示する場合、コンピュータ本体20は操作者Tがデンタルミラーを見る視線ベクトルと鏡面の法線ベクトルとに基づいて鏡に映る方向ベクトルを求め、当該方向ベクトルの方向に見える映像を反転させて表示した{図3のステップS26および図4のステップS28、図11を参照}。歯(特に歯の裏側)を治療するにあたってはデンタルミラーが欠かせない。デンタルミラーに映る画像を表示するようにしたので、実際にデンタルミラーを見て歯を治療するに近い環境で訓練を行える。
【0068】
(9)操作装置24,30は、治療機器(特にダイヤモンドバー50a)が歯に接触したときに受ける反力を操作者Tに伝達する構成とした{図2、図3のステップS20,S22を参照}。歯にはある程度の硬度があるので、実際の治療を行う際に治療機器(例えばハンドピース)が歯に接触すると反力を受ける。当該反力を受けた場合には、歯を削る際に加える力を弱めなければ削り過ぎる可能性が高まる。操作者Tは操作装置24,30から反力を受けた場合に力を弱めなければ歯を削り過ぎることを訓練で習得できる。したがって、実際に歯を治療するに近い環境で治療訓練を行うことができる。
【他の実施例】
【0069】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例に従って説明したが、本発明は当該実施例に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することが可能である。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【符号の説明】
【0070】
(1)上述した実施例では、操作者Tが操作レバー22,28を操作する際に加えた力のみをベクトル58で表示した{図8(A),図8(B),図8(C)および図8(D)を参照}。この形態に代えて、操作者Tのベクトル58に加え、図13に示すように熟練者が操作レバー22,28を操作する際に加えた力のベクトル74を同時に表示してもよい。当該ベクトル74で示す力は、熟練者が操作レバー22,28に加えた力を力覚センサ26,32によって検出して力情報としてメモリ34に記憶したものである。現在操作している操作者Tのフェザータッチの力情報(本例ではベクトル58)を表示するだけでなく、熟練者の操作によるフェザータッチの力情報(本例ではベクトル74)をも表示するので、操作者Tは熟練者の力よりも強い(大きい)か否かが分かる。こうして操作者T自身の操作による力情報の内容だけでなく熟練者が操作する力情報の内容も認識した操作者Tは、切削を行う力が適切か否かをリアルタイムで判断できるようになる。
【0071】
(2)上述した実施例では、操作者Tが操作レバー22,28を操作するフェザータッチの力情報をベクトル形式で表示した{図8(A),図8(B),図8(C)および図8(D)を参照}。この形態に代えて(あるいは加えて)、操作者Tが操作レバー22,28を操作するフェザータッチの力情報を他の形式で表示してもよい。例えば図13に示すように力の大きさを数値(本例では10[gf])を表示したり、ベクトルの各成分(X軸方向成分,Y軸方向成分,Z軸方向成分等)を数値で表示したりする。当該数値はベクトル58とともに表示してもよく、当該数値のみを表示してもよい。
【0072】
(3)上述した実施例では、治療機器が口腔内部位に接触したと判定した場合には、単に報知を行うのみとした{図4のステップS32、図6のステップS60、図9(C)等を参照}。この形態に加えて、治療機器が接触した口腔内部位(例えば舌)や仮想患者の顔面等を反射的に動かす表示を行なってもよい。現実に治療機器が口腔内部位に接触すると、患者には痛みが発生するので、当該患者は接触した部位や顔面等を痛みから回避しようと反射的に動くことが多い。そこで、仮想患者も実際の患者と同様の行動を起こさせることにより、治療ミス時の対応措置を訓練することができるようになる。
【0073】
(4)上述した実施例では、操作者Tが加えた力の分布を訓練結果として表示する構成とした{図4のステップS36、図10を参照}。この形態に代えて(あるいは加えて)、操作者Tが加えた力の時系列的な変化を表示する構成としてもよい。こうすれば、操作者Tはどのタイミングでどれだけの強さを加えていたのかが分かるようになる。特に熟練者が加えた力の時系列的な変化を合わせて表示すれば、操作者Tは各タイミングで加える力が熟練者と比べて強い(大きい)か否かを簡単に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の概要を模式的に表すブロック図である。
【図2】力触覚の可視化を伴うフェザータッチ歯科治療訓練システムの構成例を示す斜視図である。
【図3】治療訓練処理の手続きを表すフローチャートである。
【図4】図3に続く手続きを表すフローチャートである。
【図5】図4に続く手続きを表すフローチャートである。
【図6】図5に続く手続きを表すフローチャートである。
【図7】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図8】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図9】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図10】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図11】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図12】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【図13】ディスプレイへの表示例を示す図である。
【0075】
1 姿勢検出手段
2 表示器
3 磁気センサ装置
3a 磁気発生器
3b,3c 磁気センサ
4 記憶手段
5 コンピュータ装置
6 接触検出手段
7 報知手段
8 操作手段
8a 右操作部
8b 左操作部
9 力情報取得手段
9a 右検出部
9b 左検出部
Fa,Fb 力(力情報)
T 操作者(熟練者,訓練者)
Zo ゾーン決定手段
10,18 三次元磁気センサ(磁気センサ)
12 立体視用頭部搭載型ディスプレイ(コンピュータ装置)
14 測定装置(姿勢検出手段)
16 磁気発生源(磁気発生器)
20 コンピュータ本体(コンピュータ装置)
22,28 操作レバー(操作手段)
24,30 操作装置(操作手段)
26,32 力覚センサ(力検出手段)
34 メモリ(記憶手段)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12