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明細書 :コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4568833号 (P4568833)
公開番号 特開2002-291487 (P2002-291487A)
登録日 平成22年8月20日(2010.8.20)
発行日 平成22年10月27日(2010.10.27)
公開日 平成14年10月8日(2002.10.8)
発明の名称または考案の名称 コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ
国際特許分類 C12N   9/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12P  17/12        (2006.01)
FI C12N 9/10
C12N 15/00 ZNAA
C12P 17/12
請求項の数または発明の数 2
全頁数 27
出願番号 特願2001-226075 (P2001-226075)
出願日 平成13年7月26日(2001.7.26)
優先権出願番号 2000382166
優先日 平成12年12月15日(2000.12.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年8月6日(2007.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 文彦
【氏名】崔 琴富
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100116311、【弁理士】、【氏名又は名称】元山 忠行
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】伊藤 佑一
参考文献・文献 特開平11-178579(JP,A)
特開平11-178577(JP,A)
Phytochemistry, Apr. 2001, Vol.56, p.649-655
Phytochemistry, 1990, Vol.29, p.3491-3497
調査した分野 C12N 9/00-9/99
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
WPI
BIOSIS(STN)
CAplus(STN)
MEDLINE(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の理化学的性質を有するコクラウリンN-メチルトランスフェラーゼ。
(1)至適pH 7.0
(2)等電点 4.2
(3)4量体
(4)分子量 160kDa(ゲル濾過クロマトグラフィー)
(5)サブユニットの分子量 45kDa(SDS-PAGE)
【請求項2】
請求項1の酵素を用いて植物二次代謝産物を製造する方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、N-メチルコクラウリンの生合成酵素であるコクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(以下「CNMT」と略記することがある)、該酵素をコードするDNA該DNAを用いて、N-メチルコクラウリンおよび/またはこのN-メチルコクラウリンから生合成される各種アルカロイド、ならびにCNMTによって生成するN-メチル化化合物を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベルベリンは、イソキノリンアルカロイドに分類される植物二次代謝産物の一種で、キンポウゲ科のセリバオウレン(Coptis japonica Makino var. Dissecta (Yatabe) Nakai)やアキカラマツ(Thalictrum minus var. hypolencum)、ミカン科のキハダ(Phellodendron amurense Rupr) 、メギ科のセイヨウメギ(Berberis wilsoniae)などによって産生され、抗菌、健胃、抗炎症活性を持つ。現在のところ、ベルベリンは前記植物種を始めとするベルベリン含有植物天然品からの抽出によって製造されており、また当該植物の培養細胞を用いた工業的な製造法が研究されている [K. Matsubara et al., J. Chem. Tech. Biotechnol. 46, 61-69 (1989)] 。
バイオテクノロジーを応用する素材として、またアルカロイド生合成の代謝制御に関する基本的な興味から、培養細胞におけるベルベリン生合成は酵素レべルでよく研究されている[T. M. Kutchan, In The alkaloids. Vol 50(G. Cardell, ed.), San Diego, Academic Press, pp257-316(1998); F. Sato et al., Phytochemistry 32, 659-664 (1993); F. Sato et al., European Journal of Biochemistry 225, 125-131 (1994)]。ベルベリンは、チロシンを生合成における出発化合物とし、(S)-ノルコクラウリンを経由して13段階の異なる酵素反応により生合成される(図1)。この13段階の反応には、1つのN-メチルトランスフェラーゼ(NMT) [T. Frenzel and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3491-3497 (1990); C. K. Wat and M. H. Zenk, Zeitschrift fuer Naturforschung 41c, 126-134(1986)]、3つのO-メチルトランスフェラーゼ(OMTs)[M. Ruffer et al., Planta Medica 49, 131-137 (1983); S. Muemmler et al., Plant Cell Reports 4, 36-39 (1985); T. Frenzel and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3505-3511 (1990); F. Sato etal., Phytochemistry 32, 659-664 (1993); F. Sato, et al. European Journal of Biochemistry 225, 125-131 (1994)]、1つのハイドロキシラーゼ[S. Loeffler and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3499-3503 (1990)]、1つのベルベリン架橋酵素[P.Steffens et al., Tetrahedron Letters 25, 951-952 (1984)]、1つのメチレンジオキシ環形成酵素[M. Rueffer and M. H. Zenk, Tetrahedron Letters 26, 201-202 (1985)]、1つのテトラヒドロプロトベルベリンオキシダーゼ[Y. Yamada and N. Okada, Phytochemistry 24, 63-65 (1985); E. Galnder et al., Plant Cell Reports 7, 1-4 (1988)]が含まれる。しかしながら、これら酵素のうち高度に精製され、その酵素学的性質が明らかにされたものは、6-O-メチルトランスフェラーゼ[M. Ruffer et al., Planta Medica 49, 131-137 (1983); F. Sato, et al. European Journal of Biochemistry 225, 125-131 (1994)]、3'-ハイドロキシ-N-メチルコクラウリン 4'-O-メチルトランスフェラーゼ[T. Frenzel and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3505-3511 (1990)]、(S)-スコウレリン 9-O-メチルトランスフェラーゼ[F. Sato et al., Phytochemistry 32, 659-664 (1993)]の3種にすぎない。
これら生合成に関わる酵素群の酵素学的性質、さらには該酵素遺伝子を明らかにし、バイオテクノロジーを応用することは、ファインケミカルズの生物変換する上で有用である。しかしながらベルベリン生合成経路上の酵素精製における困難な点は、これら酵素の反応メカニズムや基質が似ているために、それぞれの酵素の特性が類似していることにある。
【0003】
メチルトランスフェラーゼcDNAの単離およびこれらの大腸菌における発現に関する最近の研究は、O-メチルトランスフェラーゼに関する更なる情報を供給している[Frick et al.,Plant J. 17(4), 329-339(1999); Morishige et al., J. Biol. Chem. 275(30), 23398-23405 (2000)]。しかしながら、ベルベリン生合成におけるユニークなN-メチルトランスフェラーゼであるコクラウリン N-メチルトランスフェラーゼに関してはほとんど報告がない。N-メチルトランスフェラーゼでは、ニコチン生合成でのプトレシン N-メチルトランスフェラーゼのみがよく研究されており、cDNAが単離されている[N. Hibi et al., Plant Cell 6, 723-735(1994)]。ベルベリン生合成のN-メチル化反応を触媒するCNMTは、S-アデノシル-L-メチオニン(以下「SAM」と略記する)をメチル基供与体として(S)-コクラウリンのアミノ基をメチル化し、N-メチルコクラウリンを生成する酵素である。本酵素と同じ反応を触媒する酵素がメギ科Berberis koeineanaから既に単離されており、その酵素学的性質が調べられているが [T. Frenzel and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3491-3497 (1990)]、本酵素はノルラウダノソリン、6,7-ジメトキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリン、メチル-6,7-ジヒドロキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリンは基質として認識されず、そのN-メチル化反応を触媒しない。一方、オウレン細胞由来CNMTの単離精製、酵素化学的性質および該酵素遺伝子に関しては、それを解明しようとする研究はこれまでのところ全くなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、CNMTを用いて、医薬品として有用なイソキノリンアルカロイドを効率よく生産することを目的とする。また、CNMTをコードするDNAをクローン化し、その塩基配列を決定し、更にクローン化した組換えDNAを発現させた細胞を用いてCNMT、該酵素をコードするDNAおよびN-メチルコクラウリンおよび/またはこのN-メチルコクラウリンから生合成される各種アルカロイド、さらにはCNMTによって触媒される種々のN-メチル化化合物を製造することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、誠意研究の結果、オウレンの培養細胞からCNMTの酵素活性(ノルレティクリンとS-アデノシルメチオニンからのレティクリンの生成)を指標にCNMTの単離精製を試み、硫安沈殿および各種カラムクロマトグラフィーにより、およそ340倍に精製した酵素を疎抽出液の1%の収量で得た(表1)。本精製酵素の酵素学的性質を調べたところ、オウレン培養細胞から得られたCNMTは、Berberisから単離されたCNMTでは酵素反応の基質とならなかったノルラウダノソリン、6,7-ジメトキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリン、メチル-6,7-ジヒドロキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリンについても基質として利用され、メチル化反応が触媒されることから、BerberisからのCNMTに比べて基質特異性が低く、より多くの化合物をメチル化できることを確認した。
また、本酵素のN末端アミノ酸配列ならびに発明者がこれまでに解析してきたオウレンのコドンの使用頻度を手がかりとして、PCR法によりCNMT cDNAをクローニングした。本cDNAの全長ORFを大腸菌発現ベクターに組込み、形質転換して機能解析をした結果、該大腸菌においてノルレティクリンとS-アデノシルメチオニンからのレティクリンの生成、すなわちN-メチルトランスフェラーゼ活性が認められたことから、本cDNAがCNMTをコードしていることを確認した。
【0006】
すなわち、本発明の第1の態様は、コクラウリンN-メチルトランスフェラーゼの酵素活性を有し、更にはノルラウダノソリン、6,7-ジメトキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリン、メチル-6,7-ジヒドロキシ-1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリンなどのイソキノリンとともにフェニールエタノールアミンなどのフェノールアミンを含む広範な化合物群を酵素反応の基質としてメチル化反応を触媒する酵素および/または配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。また、第2の態様は、CNMT酵素活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAおよび/または配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAであり、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むDNAが挙げられる。本発明の第3の様態は、第2の様態に記載のDNAを含むベクターである。本発明の第4の様態は、上記ベクターで形質転換された細胞である。また、本発明の第5の様態は、上記形質転換細胞を用いて、植物二次代謝産物を製造する方法である。この植物二次代謝産物はN-メチルコクラウリンから生合成されるアルカロイドならびにCNMTによって生成するN-メチル化化合物であってもよい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、ベルベリン型アルカロイド産生植物の一つであるオウレンの培養細胞からCNMTを単離したが、SAMをメチル基供与体としてコクラウリンをN-メチルコクラウリンに変換する反応を有する植物であれば、本発明のCNMTと実質的に同一の酵素が含まれていると推測され、本明細書に記載の方法を用いればそれら植物からでも、本発明のCNMTと実質的に同一のを単離することができる。SAMをメチル基供与体としてコクラウリンをN-メチルコクラウリンに変換する反応を有する植物としては、セリバオウレンなどのキンポウゲ科Coptis属植物、アキカラマツなどのキンポウゲ科Thalictrum属植物、キハダなどのミカン科Phellodendron 属植物、セイヨウメギなどのメギ科Berberis属植物、ケシなどのケシ科Papaver属植物などを例示することができる。
【0008】
さらに、本発明のCNMTは、表2および図2に示したようにコクラウリンの他にもノルラウダノソリンやノルレティクリンといった構造類似化合物をもメチル化することができるので、前記の植物種以外であってもこれらコクラウリンの構造類似化合物を含む植物であれば、本発明の方法を適用することができる。
【0009】
【表1】
JP0004568833B2_000002t.gif【0010】
次に、CNMTをコードするcDNAを単離し、その塩基配列を決定した。まず、ベルベリン高生産オウレン培養細胞から単離精製したCNMT標品のN末端アミノ酸配列を決定し、この配列に対する縮重プライマーを用いて、アルカロイド高生産オウレン培養細胞cDNAライブラリーを鋳型としたPCR法により、このアミノ酸配列に相当するcDNAを増幅、単離し、この塩基配列を決定した。更に、決定した内部塩基配列より設計したプライマーとcDNAライブラリーのアダプター領域に対するプライマーを利用したPCR法により、本酵素のC末端及びN末端部分に相当する塩基配列を得たことで、全長塩基配列を決定した。本cDNAの全長のORFを大腸菌発現ベクターに組込み、大腸菌に形質転換して機能解析を行った結果、該大腸菌において本来存在しないN-メチルトランスフェラーゼ活性が認められたことから、本cDNAがN-メチルトランスフェラーゼをコードしていることを確認した。また、本組換え酵素は、単離精製したCNMTが有する上記基質に対するN-メチルトランスフェラーゼ活性に加え、4-O-メチルドーパミンやノルエピネフリンなどをN-メチル化する活性を弱いながら有していた。
【0011】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]CNMTの抽出、精製
まず、セリバオウレンからベルベリン高産生培養細胞を以下のようにして誘導した。
【0012】
セリバオウレンの葉および葉柄を、70%エタノールおよびアンチホルミン溶液で殺菌した後、切片を作成し、10-5M αナフタレン酢酸および10-8M 6-ベンジルアデニンを含むリンスマイヤー・スクーグの寒天培地に床置し、25℃、暗所で培養した。培養開始後3週間目頃から、当該切片の切り口に生じた黄色カルスを採取して、前記と同様の寒天培地に移植しさらに増殖を図った。こうして得られたカルスを前記と同様の組成の液体培地に懸濁し、前記と同じく25℃、暗所で、旋回型のロータリーシェーカーを用いて100rpmで振盪培養し、2~3週間毎に移植を繰り返した。
【0013】
得られた液体培養細胞は、直径が数十μm~数mmの細胞塊からなるので、これら細胞塊を単位として、ベルベリン高生産株の選抜を実施した。すなわち、細胞塊の一部を前記の寒天培地上に均一に広げて培養し、各細胞塊からコロニーを増殖させた。得られたコロニーを同じ寒天培地に個別に増殖させ、その一方で液体クロマトグラフィーを用いてベルベリンの含有量を測定し、含有量の高いものを高生産細胞として選抜し、この系統をあらたな親株として液体培養、次いで前記操作による選抜を繰り返し、高生産株を得た。
【0014】
このベルベリン高産生培養細胞を10μMのα- ナフタレン酢酸と0.01μMの6-ベンジルアデニンを含むリンスマイヤー・スクーグの液体培地で3週間ごとに継代し、25℃、暗所で、旋回型のロータリーシェーカーを用いて100rpmで振盪培養した。培養14日目の細胞を収穫し、直ちに液体窒素中で凍結後、-80℃で保存した。
【0015】
この細胞を用いてCNMTの単離精製を実施した。特に断らない限り、全ての操作は0-4℃で行われ、全ての緩衝液に20mMのβ-メルカプトエタノールと10%グリセロールを添加した。約200gの凍結オウレン培養細胞を、450mlの0.2Mトリス塩酸緩衝液中で、ワーリングブレンダーを用いて最高速度で2分間破砕し、その後20分間超音波処理を行って、酵素を抽出した。懸濁物を濾過し、濾液を10000×gで50分間遠心分離した。上清をNAP-10カラム(Parmacia社)で脱塩し、疎抽出液とした。酵素は30-50%飽和の硫安で沈殿させた。沈殿した蛋白を60mlの抽出緩衝液に溶解し、遠心した。蛋白溶液はPD-10カラム(Pharmacia社)で脱塩し、初動緩衝液(30%硫安を含む200mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))で平衡させたフェニルセファロースCL-4Bカラムにのせた。黄色のアルカロイドを除去するために、同じ緩衝液で十分にカラムを洗浄した後、CNMTは120mlの30%から0%の直線的グラジエントをかけた硫安溶液で溶出した。CNMTフラクションを、200mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で予め平衡させたQ-Sepharose FF カラム(Pharmacia社)によるイオン交換クロマトグラフィーにかけた。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、CNMTを120mlの0から0.5Mの直線的グラジエントをかけた塩化ナトリウム溶液で溶出した。活性フラクションを集め、脱塩し、20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で予め平衡させたMono-Qカラム(HR5/5、Pharmacia社)によるFPLCシステムで精製した。CNMTは40mlの0から0.35Mのグラジエントをかけた塩化ナトリウム溶液で段階的に溶出した。更に活性フラクションを集め、Mono-Pカラム(HR5/5、Pharmacia社)によるFPLCシステムでのクロマトフォーカシングした(初動緩衝液;25mM Bis Tris-イミノ二酢酸緩衝液( pH7.1)、溶出緩衝液;イミノ二酢酸でpH4に調製した10%ポリ緩衝液74)。溶出したフラクションのpHは直ちに、100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で調整した。精製された酵素は50%グリセロール中、-20℃で保存した。尚、凍結融解のくり返しによりCNMT活性はかなり減少したことから、融解したサンプルについては再凍結を行わなかった。精製酵素は50%グリセロール中、-20℃で保存した場合、1年後でもCNMT活性を保持していた。また、全てのFPLCステップは室温で実施した。
【0016】
CNMT活性の測定は以下条件で行った。表2に精製過程をまとめた。
JP0004568833B2_000003t.gif【0017】
【表2】
JP0004568833B2_000004t.gif【0018】
[実施例2] CNMTの酵素特性
コクラウリンN-メチルトランスフェラーゼが高純度で精製され、酵素特性が調べられたのは、これが始めてである。SDS-PAGE分析でのCNMTモノマーの分子量は45kDaであった。一方、Superose 12カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーでは、天然のCNMTの分子量は約160kDaであった。これらの結果より、CNMTは4量体の酵素である。Mono-Pカラムでのクロマトフォーカシングより、CNMTの等電点は4.2であった。酵素活性の至適pHは7.0であり、50%活性のpHは6.0と9.0であった。CNMTは活性発現に2価カチオンを必要とせず、EDTA添加はCNMTの活性を阻害しなかった(表3)。5mMのCo2+、Cu2+、Mn2+の添加は、活性をそれぞれ、75、47、57%阻害した。いくつかのO-メチルトランスフェラーゼ活性を阻害するSH-阻害剤であるp-クロロメリクリベンゾエイトとヨードアセタミドは、5mMではCNMT活性を阻害しなかった。
【0019】
【表3】
JP0004568833B2_000005t.gif【0020】
[実施例3] CNMTの基質特異性
広範囲のイソキノリンアルカロイドにおいて、酵素の基質特性を調べた。酵素活性は、S-adenosyl-L-[methyl-3H] methionineから生成物への放射能の編入を測定した。以下の条件で酵素反応を行った。
JP0004568833B2_000006t.gif酵素反応後、150μlの炭酸2ナトリウムと400μlのイソアミルアルコールを添加して反応を停止した。激しく混合した後、室温、10000×gで5分間遠心し、150μlの有機層を取り、放射能を測定した。酵素液の入っていないアッセイ溶液をコントロールとして用いた。
【0021】
結果を表1に示す。(S)-コクラウリンの活性を100%とした場合、(R)-コクラウリン、ノルレティクリン、ノルラウダノソリンおよび6-O-メチルノルラウダノソリンの比活性はそれぞれ、122%、55%、48%、および38%であった。興味深いことに、6,7-ジメトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンは39%の比活性でメチル化されたが、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンはメチル化されなかった。オウレンのCNMTは、かなり広い範囲の基質にメチル基を転移し、立体特異性を示さなかった。
【0022】
オウレンCNMTの基質特異性は、BerberisのN-メチルトランスフェラーゼの基質特異性とよく似ており、どちらの酵素も立体特異性を示さず、それぞれ(R)-コクラウリン、(S)-コクラウリン、ノルレティクリン、6-O-メチルノルラウダノソリンに広い基質特異性を示す。しかし、オウレンのCNMTはノルラウダノソリンをN-メチル化するが、BerberisのN-メチルトランスフェラーゼはノルラウダノソリンをN-メチル化しない。オウレン由来CNMTは、Berberis由来CNMTに比べ、より広い基質特異性を持つ。
【0023】
[実施例4]CNMTの酵素動力学
CNMTの最適基質は(R)-コクラウリンであるが、CNMTの酵素特異性を調べるのには、最も利用しやすいノルレティクリンを用いた。オウレン細胞のCNMTは、ノルレティクリンとSAMとでミカエルス-メンテン型の動力学を示した。見かけのKm値は,ノルレティクリンが0.38mM、SAMが0.68mMであった。これは、BerberisのCNMTのKm値(ノルレティクリンで0.02mM、SAMで0.04mM)[T. Frenzel and M. H. Zenk, Phytochemistry 29, 3491-3497 (1990)]やSanguinariaのCNMTのKm値((R,S)-テトラヒドロベルベリンで0.02mM、SAMで0.012mM)[B. R. O'keefe and C. W. W. Beecher, Plant Physiology, 105, 395-403 (1994)]よりもやや大きいが、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼのKm値((R,S)-ノルラウダノソリンで2.23mM、SAMで3.95mM)[F. Sato, et al. European Journal of Biochemistry, 225, 125-131(1994)]よりも小さい。
【0024】
[実施例5]CNMTのN末端アミノ酸配列の決定
実施例1に記載のベルベリン高産生セリバオウレン培養細胞から単離精製したコクラウリンN-メチルトランスフェラーゼをSDS-PAGEにより分離し、Bio-Rad blotting装置によりPVDFブロッティングメンブレンフィルター(ミリポア製)へ電気泳動的に移した。メンブレンフィルターを洗浄した後、CBB試薬による発色でタンパクの位置を検出した。目的のバンドを切り出し、乾燥させた後、アミノ酸シークエンサー477A/120A(Applied Biosystems製)により分析を行った。結果を配列番号2に示す。
【0025】
[実施例6]cDNAライブラリーの作成
実施例1のようにして得られた培養10日目のセリバオウレン培養細胞から、グアニジンチオシアネート/ホットフェノール法により全RNAを抽出し、更にmRNA精製キット(Pharmacia製)を用い、製造者の説明書に従ってPoly(A)+RNAを精製した。精製したPoly(A)+RNAを用い、Gubler and Hoffman (Gene 25: 263 (1983))の方法に従ってセリバオウレン培養細胞cDNAライブラリーを作成した。
【0026】
[実施例7]CNMTのN末端アミノ酸配列に相当するcDNA断片の取得
実施例5で決定したN末端アミノ酸配列をもとに、配列番号3に記載の塩基配列を推定し、この配列に相当するcDNA断片をオウレンのコドン使用頻度により予測した縮重プライマーを用いたPCRにより増幅した。PCRは実施例6に記載のセリバオウレン培養細胞cDNAライブラリーを鋳型とし、配列番号4と配列番号5で示される塩基配列の縮重プライマーを用い、94℃で30秒間のディネーチャー、50℃で30秒間のアニール、72℃で45秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。得られたPCR産物はpGEM-Tベクターにサブクローニングした。いくつかのクローンをシークエンスした結果、配列番号6で示される塩基配列から成る目的のcDNA断片を取得した。
【0027】
[実施例8]CNMTをコードする全長塩基配列の決定
配列番号6に記載の塩基配列をもとに、本酵素のC末端アミノ酸配列に相当するcDNA部分をセリバオウレンcDNAライブラリーを鋳型にネスティッドPCRにより増幅した。初めは配列番号7で示される塩基配列のプライマーと配列番号8で示されるcDNAライブラリーのアダプター領域に対するプライマーを用いて、94℃で30秒間のディネーチャー、50℃で30秒間のアニール、72℃で45秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。二回目は配列番号9で示される塩基配列のプライマーとオリゴdTプライマーを用いて、94℃で30秒間のディネーチャー、50℃で30秒間のアニール、72℃で45秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。得られたPCR産物はpGEM-Tベクターにサブクローニングした。いくつかのクローンをシークエンスした結果、配列番号10で示される塩基配列から成る目的のcDNA断片を取得した。
配列番号10に記載の塩基配列をもとに、本酵素のN末端アミノ酸配列に相当するcDNA部分をセリバオウレンcDNAライブラリーを鋳型にネスティッドPCRにより増幅した。初めは、配列番号11で示される塩基配列のプライマーと配列番号12で示されるcDNAライブラリーのアダプター領域に対するプライマーを用いて、94℃で30秒間のディネーチャー、50℃で30秒間のアニール、72℃で45秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。二回目は、配列番号13で示される塩基配列のプライマーと初めのPCRに使用した配列番号12で示されるプライマーを用いて、94℃で30秒間のディネーチャー、50℃で30秒間のアニール、72℃で45秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。得られたPCR産物はpGEM-Tベクターにサブクローニングした。いくつかのクローンをシークエンスした結果、配列番号14で示される塩基配列から成る目的のcDNA断片を取得した。既に決定していた配列と合わせて、配列番号1に示す1274塩基よりなる塩基配列が得られ、その配列より、アミノ酸配列が推定された。
【0028】
[実施例9]機能確認
実施例8で決定したアミノ酸配列を有するポリペプチドの機能を明らかにするため、該ポリペプチドをコードするcDNAの全長ORFをPCRにより増幅し、大腸菌での発現プラスミドpET-21d(Novagen社)に組込んだ。PCRはセリバオウレンcDNAライブラリーを鋳型とし、配列番号15と配列番号16で示される塩基配列のプライマーを用い、94℃で30秒間のディネーチャー、60℃で30秒間のアニール、72℃で90秒間の伸長反応を1サイクルとし、30サイクル反応させた。得られたPCR産物は制限酵素NcoIとEcoRIで処理し、発現プラスミドpET-21dのNcoIとEcoRIサイトに組込み、これをpET-21d-CNMTとした。これによりCNMTはT7プロモーターの下流にセンス方向に導入される。更に得られたpET-21d-CNMTプラスミドを大腸菌株BL21(DE3) に導入した。培養条件、IPTGによる発現誘導、発現した酵素の調整方法はMorishige,T. et al.文献に記載されている方法と同様に行った[J.Boil.Chem. 275, 23398-23405(2000)]。なお、誘導後の培養は30℃、3時間行った。発現したタンパク質を用いて実施例1に従い、CNMT活性を測定した。生成したアルカロイド画分はHPLCにより分析した。生成した化合物であることはLC-MS(島津製作所製)により行った。
【0029】
尚、メチル化化合物のLC-MS分析の結果、ノルレティクリン( m/z 316, m/z 178)からレチクリン(m/z 330、m/z 192)が生成していることを確認した。よって本cDNAは、高等植物から得られたN-メチルトランスフェラーゼの1つに位置づけられるコクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)をコードしているものと結論づけた。
【0030】
さらに、上記大腸菌より実施例1により組換えCNMTを精製したところ、その比活性はオウレン細胞からの精製物よりはるかに高い活性(18 nkat/mg)を示し、かつ、この酵素はnorreticulineを基質にした時の活性を100として表示すると、1-methyl-6,7-dihydorxy-1,2,3,4-tetrahydroisoqauinolineを180メチル化し、phenylethanolamineを20、3-hydroxy-4-methoxyphenylethylamineを11、norphenylephrine(noradrenarine)を16メチル化するなど、イソキノリンアルカロイドに限らず、一般的なフェニールアミンに対してもN-メチル化活性を示すことを明かとした。
【0031】
【発明の効果】
以上記載の如く、本発明によりCNMTおよびCNMTをコードするDNAが提供される。本願発明の酵素を用いることにより医薬品として有用なイソキノリンアルカロイドを効率よく生産することが可能で、更にクローン化した組換えDNAを発現させた細胞を用いてCNMT、該酵素をコードするDNAおよびN-メチルコクラウリンおよび/またはこのN-メチルコクラウリンから生合成される各種アルカロイド、あるいはN-メチル化フェニールアミン類縁体を製造することも可能である。
【0032】
【配列表】
JP0004568833B2_000007t.gifJP0004568833B2_000008t.gifJP0004568833B2_000009t.gifJP0004568833B2_000010t.gifJP0004568833B2_000011t.gifJP0004568833B2_000012t.gifJP0004568833B2_000013t.gifJP0004568833B2_000014t.gifJP0004568833B2_000015t.gifJP0004568833B2_000016t.gifJP0004568833B2_000017t.gifJP0004568833B2_000018t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】ベルベリン生合成経路を示す図である。図中、1~13は示される反応を触媒する酵素をそれぞれ表している。各酵素は以下のとおりである。1:L-チロシンデカルボキシラーゼ、2:フェノラーゼ、3:L-チロシントランスアミナーゼ、4:p-ヒドロキシフェニルピルベートデカルボキシラーゼ、5:(S)-ノルコクラウリンシンターゼ、6:ノルコクラウリン-6-O-メチルトトランスフェラーゼ(6-OMT) 、7:コクラウリンN-メチルトランスフェラーゼ(NMT) 、8:フェノラーゼ、9:(S)-3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4'-O-メチルトランスフェラーゼ(4'-OMT)、10:ベルベリン架橋酵素(BBE) 、11:(S)-スコウレリン9-O-メチルトランスフェラーゼ(SMT) 、12:メチレンジオキシ環形成酵素、13:テトラヒドロベルベリンオキシダーゼ(THBO)
【図2】CNMTの基質特異性を調べた化合物群の化学構造を示す図である。
【図3】CNMT反応速度とノルレティクリン、SAM濃度の関係を示すグラフである。
【図4】CNMT活性の二重逆数プロットを示すグラフである。(a)はノルレティクリンの各濃度における1/v対1/[SAM]のプロットを示し、(b)はSAMの各濃度における1/v対1/[ノルレティクリン]のプロットを示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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