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明細書 :基質感応膜素材およびそれを用いた酵素センサー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4810657号 (P4810657)
公開番号 特開2007-187449 (P2007-187449A)
登録日 平成23年9月2日(2011.9.2)
発行日 平成23年11月9日(2011.11.9)
公開日 平成19年7月26日(2007.7.26)
発明の名称または考案の名称 基質感応膜素材およびそれを用いた酵素センサー
国際特許分類 G01N  27/327       (2006.01)
G01N  27/30        (2006.01)
G01N  27/333       (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
C12M   1/40        (2006.01)
FI G01N 27/30 351
G01N 27/30 A
G01N 27/30 331M
G01N 27/46 336G
C12M 1/40 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 9
出願番号 特願2006-003229 (P2006-003229)
出願日 平成18年1月11日(2006.1.11)
審査請求日 平成20年12月16日(2008.12.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】中村 俊夫
審査官 【審査官】野村 伸雄
参考文献・文献 特開平06-109691(JP,A)
特開2001-272369(JP,A)
特表平03-502240(JP,A)
調査した分野 G01N 27/26-27/49
C12M 1/40
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
カルボキシル基含有ポリ( メタ) アクリルアミドの該カルボキシル基およびシクロデキストリンの水酸基でエステル結合している高分子化合物と、基質を反応させる酵素とが、
含有されていることを特徴とする基質感応膜素材。
【請求項2】
前記シクロデキストリンが、γ - シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1に記載の基質感応膜素材。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有ポリ( メタ) アクリルアミドが、ポリ( メタ)
アクリルアミドのアミド基の一部加水分解物、または( メタ) アクリルアミドと( メタ) アクリル酸との共重合物であることを特徴とする請求項1 に記載の基質感応膜素材。
【請求項4】
前記酵素が、前記基質を酸化還元反応させるものであることを特徴とする請求項1
に記載の基質感応膜素材。
【請求項5】
前記酵素が、チロシナーゼであることを特徴とする請求項4 に記載の基質感応膜素材。
【請求項6】
請求項1 に記載の基質感応膜素材で電極基材上に膜状に形成され、そこに前記酵素を固定しつつ前記高分子化合物と共に露出させている基質感応膜により、被覆されている作用電極と、参照電極と、対極とを有していることを特徴とする酵素センサー。
【請求項7】
前記基質と有機溶媒とを含む溶液に、前記作用電極と、前記参照電極と、前記対極とが、浸漬されていることを特徴とする請求項6
に記載の酵素センサー。
【請求項8】
前記有機溶媒が、非プロトン性溶媒であることを特徴とする請求項7 に記載の酵素センサー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の基質を酵素反応により検知する酵素センサーの原材料である基質感応膜素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵素センサーは、医療分野で患者の血糖値等の計測、食品製造分野での品質管理、環境保全分野での環境計測などの際に、様々な測定対象物質の量を検出するためのものである。
【0003】
酵素センサーは、酵素と測定対象物質である基質との特異的な高選択的反応による物理的または化学的変化を、電気信号、光、または熱に変換して検出するというものである。
【0004】
このような酵素センサーとして、例えば、特許文献1に、酵素への検体の供給部、酵素への酸素供給部、ポリアクリルアミドゲル状電解質含浸ポリカーボネートと電極との電荷伝達体および酵素を含んでおり、検体中の電極活性物量を酵素反応生成物によって生じる電流で検出する検出部を有するバイオセンサーが、開示されている。また、非特許文献1に、アセトニトリル中の基質のカテコールへ反応させる酵素のチロシナーゼを含む非可塑性ポリアクリルアミドメンブランでコーティングした白金ディスク電極が、開示されている。
【0005】
親水性高分子のポリアクリルアミドが含有する酵素と、非水溶媒のみに溶解している基質との間で起こる酵素反応を検出する非水溶液系の酵素センサーは、水溶液系の酵素センサーに比べ応答速度が遅く、再現性に欠けるという問題があった。
【0006】

【特許文献1】特開2004-101222号公報
【非特許文献1】「アナリティカル サイエンシズ(AnalyticalSciences)」、日本分析化学会、2001年9月、第17巻、p.1055-1058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、溶媒中で酵素により反応する基質を検出し、また、当該酵素反応の進行に関わる酵素活性・酵素反応速度等の諸因子の特定を迅速・高感度かつ高精度に行なうことができ、再現性に優れており、簡便な構成の酵素センサーを作製するために使用される原材料となる基質感応膜素材を提供し、またこのセンサーを有効にするための電気化学測定系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の基質感応膜素材は、カルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドの該カルボキシル基およびシクロデキストリンの水酸基でエステル結合している高分子化合物と、基質を反応させる酵素とが、含有されていることを特徴とする。
【0009】
この素材は、酵素がこの高分子化合物によって固定化され、それの酵素固定場で酵素反応を起こし易くする疎水性の反応場が構築されるという基質感応性膜の担体を、形成するものである。
【0010】
請求項2に記載の基質感応膜素材は、請求項1を限定するもので、前記シクロデキストリンが、γ-シクロデキストリンであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の基質感応膜素材は、請求項1を限定するもので、前記カルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドが、ポリ(メタ)アクリルアミドのアミド基の一部加水分解物、または(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合物であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の基質感応膜素材は、請求項1を限定するもので、前記酵素が、前記基質を酸化還元反応させるものであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の基質感応膜素材は、請求項4を限定するもので、前記酵素が、チロシナーゼであることを特徴とする。
【0014】
請求項6 に記載の酵素センサーは、請求項1 に記載の基質感応膜素材で電極基材上に膜状に形成され、そこに前記酵素を固定しつつ前記高分子化合物と共に露出させている基質感応膜により、被覆されている作用電極と、参照電極と、対極とを有していることを特徴とする。
【0015】
この酵素センサーは、基質感応膜中の疎水性の酵素固定場で特異的な高選択的酵素反応を起こし易くし、その変化を電気信号により高感度で再現性よく検出するというものである。
【0016】
請求項7 に記載の酵素センサーは、請求項6 を限定するもので、前記基質と有機溶媒とを含む溶液に、前記作用電極と、前記参照電極と、前記対極とが、浸漬されていることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の酵素センサーは、請求項7を限定するもので、該有機溶媒が、非プロトン性溶媒であることを特徴とする。非プロトン性溶媒は、例えばアセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミドである。
【発明の効果】
【0019】
基質感応膜素材は、酵素と、溶液中の基質とりわけ非水溶液にのみ溶解する基質との反応速度が迅速となるものである。この素材で被覆された電極を有する酵素センサーは、応答速度が迅速で、かつ高感度・高精度であり、再現性に優れるので、信頼性が高い。しかも簡便な構成であるので、製造効率が高い。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
基質感応膜素材は、以下のようにして調製される。
【0022】
先ず、その原材料であるカルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドは、数平均分子量20万のポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドを、部分的に加水分解することにより合成される。
【0023】
高分子化合物は、重量比で20~1:10~1のカルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドとγ-シクロデキストリンとを、エステル結合させることにより合成される。
【0024】
基質感応膜素材は、高分子化合物20~50重量部、および基質であるカテコールに酵素反応する酵素であるチロシナーゼ1~2重量部を、混練することにより得られる。
【0025】
この基質感応膜素材を用いた酵素センサー1は、実施例に対応する図1を参照して説明すると、以下の通りである。
【0026】
酵素センサー1は、反応容器を塞ぐポリテトラフルオロエチレン製栓16に作用電極17と参照電極15とが貫通したものである。容器に、カテコールのアセトニトリル溶液10が入っている。作用電極17と参照電極15との先端が、反応容器内へ到達し、この溶液10に浸漬されている。
【0027】
作用電極17は、図2に示すとおり、ポリテトラフルオロエチレン製管23の内空の下端に、白金製基板である2mm径の白金棒25が絞り挿入されている。その基板25の最下端に、基質感応膜素材の塗布により形成された基質感応膜26が0.1~0.2mmの厚さで被覆されている。この膜26から、酵素と高分子化合物中のシクロデキストリンとが、露出し、溶液10に接触している。一方基板25の最上端で導線であるステンレスリード線21が銀含有ペースト24で接合されている。ポリテトラフルオロエチレン製管23の内空の上端に挿入されたシリコン製栓22から、このステンレスリード線21が引き出されている。
【0028】
参照電極15は、図1に示すとおり、導線に繋がるAg/Ag参照電極であり、塩橋18を介して容器内で溶液10に接触している。
【0029】
作用電極17と参照電極15との導線は、検知機器に繋がっている。検知機器は、関数発生機13・ポテンショスタット12・X-Yレコーダー11に接続されている。
【0030】
基質を含有する非水溶液の少量を滴下するミクロビュレット14がポリテトラフルオロエチレン製栓16を貫通し、その先端の滴下孔が、溶液10よりも上方にまで達している。また、電気化学測定セルを構成するための対極19としての白金線がポリテトラフルオロエチレン製栓16を貫通し、その先端が溶液10に浸漬されている。
【0031】
容器の底に、ポリテトラフルオロエチレンで磁石が被覆された撹拌子20が、設置されている。
【0032】
酵素センサー1の作用について、酵素反応機構を示す図3を参照して説明する。アセトニトリル溶液10中で拡散しているカテコールが、基質感応膜26から露出している酵素に接触する。すると、カテコールが酵素チロシナーゼ酸化の作用で酸化されo-キノンになって電極に拡散され、電極で還元される。この電極反応により電子が電気回路に流れる結果、検出機器で電圧と電流が検出される。カテコールの濃度に応じた電流が検出されるので、その量からカテコールの濃度を算出することができ、また、当該酵素反応の進行に関わる諸因子(酵素活性・酵素反応速度)の特定をすることができる。
【0033】
アセトニトリル溶液のような非水溶液中のカテコールが、高感度で再現性よく検出されるメカニズムは、詳細が必ずしも明らかでないが、以下の通りであると推察される。基質感応膜にエステル結合した籠状のγ-シクロデキストリン(高分子化合物の化学構造式の模式を示す図4、γ-シクロデキストリンの化学構造式を示す図5、γ-シクロデキストリンの略立体構造を示す図6を参照)によって包接されている酵素に、カテコールが近接する結果、酵素反応を起こし易くする疎水性の反応場が形成され、チロシナーゼとの疎水的な酵素反応が迅速かつ確実に進行するためであると、考えられる。
【0034】
なお、基質がアセトニトリルに溶解したカテコールの例を示したが、基質がN,N-ジメチルアセトアミドに溶解したカテキン、ピロガロール、3,4-ジヒドロキシトルエン、ドーパミンのようなジヒドロキシ芳香族化合物であっても同様である。
【0035】
以下に、酵素センサーを試作した例、およびカテコールとチロシナーゼとの酵素反応をアンペロメトリーにより検討し、最大酵素反応速度とミカエリス定数とを特定した結果を、示す。
【0036】
(実施例)
1.高分子化合物の調製
カルボキシル基含有ポリアクリルアミド(Aldrich社製:製品番号19093-4)2gと、γ-シクロデキストリン(ナカライテスク株式会社製:製品番号10032-51)0.1gとを、リパーゼを触媒として、n-ヘプタン中、50℃で94時間反応してエステル結合させることにより、高分子化合物2gを得た(図4参照)。なお、本反応は次の文献に依拠しておこなった。H.H.Pattekhan and S. Divakar,
Indian J. Chem., Vol.41B, May 2002,pp.1025-1027.
【0037】
2.基質感応膜素材の調製
この高分子化合物0.1gと、チロシナーゼ(ナカライテスク株式会社製:製品番号208-11531)0.001gとを、水に溶解することにより、基質感応膜素材を得た。
【0038】
3.作用電極の作製
基質感応膜素材を、直径2mmの白金ディスク基板に塗布し、窒素ガスで水を気化した後、シリカゲルデシケータ内で2時間乾燥することにより、厚さ約0.2mmの基質感応膜で被覆された白金ディスクを得た。これを用い、図2に示すような作用電極を作製した。
【0039】
4.酵素センサーの試作
この作用電極と、実験ごとに作成したAg/Ag(対銀・銀イオン)参照電極とを用い、図1に示すような測定セルを構成した。
【0040】
5.アセトニトリル中でのカテコールのアンペロメトリー
アセトニトリル中のカテコールの濃度を順次増して行き、酵素反応によって生成するカテコールの酸化物が、-0.75V(対銀・銀イオン参照電極)に設定された作用電極の白金表面で還元される際に生じる電流を記録した。その結果を図7に示す。なお図8に比較のため、デキストリンを含まない感応膜を用いた場合のアンペロメトリーの結果を示す。図7から明らかな通り、デキストリンを含有するセンサーがその効力を保持していることが証明された。
【0041】
6.カテコールのLineweaver-Burkの逆数プロット
得られた結果から、カテコール濃度の逆数と電流値の逆数との関係をグラフにする。その結果を図9に示す。得られた直線の縦軸との接点と、横軸との接点から、それぞれ酵素反応速度因子が得られる。図9から明らかな通り、酵素反応の速度因子を精度良く、簡便に得られることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の基質感応性膜素材は、溶液、特に水不含有の溶液中の基質を検出するための酵素センサーの原材料に用いられる。これを用いた酵素センサーは、生体機能物質の酸化還元、電子移動、活性度、触媒能力等の評価に用いることができる高性能センサーであるから、新規な酵素反応系の研究開発、医薬品の研究開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を適用する酵素センサーの実施の一例を示す概要図である。
【図2】本発明を適用する酵素センサー中の作用電極を示す側面断面図である。
【図3】本発明を適用する酵素センサーが動作する際の酵素反応機構の一例を示す図である。
【図4】本発明を適用する酵素センサーの基質感応膜素材である、カルボキシル基含有ポリアクリルアミドにシクロデキストリンをエステル結合させた高分子化合物の化学構造式の模式図である。
【図5】γ-シクロデキストリンの化学構造式を示す図である。
【図6】γ-シクロデキストリンの略立体構造を示す図である。
【図7】本発明を適用する酵素センサーを用い、アセトニトリル中のカテコールのアンペロメトリーを測定したときのチャートを示す図である。
【図8】本発明を適用する酵素センサーと同型で、基質感応膜素材にシクロデキストリンを含まない酵素センサーを用い、アセトニトリル中のカテコールのアンペロメトリーを測定したときのチャートを示す図である。
【図9】本発明を適用する酵素センサーを用いてカテコール濃度変化に伴う電流値変化を測定したときのカテコールのLineweaver-Burkの逆数プロットを示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1は酵素センサー、10は溶液、11はX-Yレコーダー、12はポテンショスタット、13は関数発生機、14はミクロビュレット、15は参照電極、16はポリテトラフルオロエチレン製栓、17は作用電極、18は塩橋、19は対極、20はポリテトラフルオロエチレン被覆攪拌子、21はステンレスリード線、22はシリコン製栓、23はポリテトラフルオロエチレン製管、24は銀ぺースト、25は白金棒(2mm径)、26は基質感応膜である。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図1】
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【図2】
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