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明細書 :誘電体導波路付き共振器とそれを備えた発振器及び測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3866804号 (P3866804)
公開番号 特開平10-123072 (P1998-123072A)
登録日 平成18年10月13日(2006.10.13)
発行日 平成19年1月10日(2007.1.10)
公開日 平成10年5月15日(1998.5.15)
発明の名称または考案の名称 誘電体導波路付き共振器とそれを備えた発振器及び測定装置
国際特許分類 G01N  24/10        (2006.01)
FI G01N 24/10 510Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 11
出願番号 特願平08-283482 (P1996-283482)
出願日 平成8年10月25日(1996.10.25)
審査請求日 平成15年9月29日(2003.9.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504265754
【氏名又は名称】財団法人山形県産業技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】鈴木 洋介
【氏名】大矢 博昭
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】田中 洋介
参考文献・文献 特開昭61-163704(JP,A)
特開昭53-099954(JP,A)
特開昭61-117439(JP,A)
特開昭62-018505(JP,A)
特公平06-041970(JP,B2)
特公昭63-038884(JP,B2)
特開平08-220033(JP,A)
実公平07-014870(JP,Y2)
特開平08-261922(JP,A)
特開平07-270308(JP,A)
Kojiro Takagi et al.,The EPR Spectrometer for Gaseous Free Radicals in the Three Millimeter Wavelength Region,Japanese Journal of Applied Physics,1974年 8月,Vol.13 No.8,pp.1195-1198
清川雅博 他,ガウシアンビーム出力型発振器,1994年電子情報通信学会春季大会講演論文集,1994年,p.2-580(C-75)
渡辺隆市 他,ファブリーペロー共振器を用いた100GHz帯誘電体定数の高精度測定,電子通信学会論文誌(J61-B),1978年,第3号,pp.205-207
W.Bryan Lynch et al.,1-mm wave ESR spectrometer,Rev.Sci.Instrum.,1988年,Vol.59 No.8,pp.1345-1351
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藤沢和男 他,誘電体棒/管ファブリ・ペロー共振器による高温超伝導薄膜のミリ波表面抵抗の測定,電子情報通信学会技術研究報告,1990年,Vol.90 No.1,pp.19-24
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調査した分野 G01N 24/00-24/14
G01R 33/20-33/64
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
ファブリ・ペロー共振器、およびファブリ・ペロー共振器の一方の反射鏡に設けられた孔を通して共振部に突き出すように挿入されている1本または2本の波動エネルギー導入または導出用誘電体導波路からなる誘電体導波路付き共振器。
【請求項2】
誘電体導波路の波動エネルギー伝送部分の少なくとも一部が、未焼成または不完全焼成のポリテトラフルオロエチレン成形物で形成されている、請求項1の誘電体導波路付き共振器。
【請求項3】
ファブリ・ペロー共振器の一方の反射鏡が、XYZステージの少なくともZステージで移動できるようになっており、該反射鏡に挿入されている誘電体導波路が2本であり、そのうちの1本は波動エネルギー導入用導波路であり、他の1本は波動エネルギー導出用導波路である請求項1または2の誘電体導波路付き共振器。
【請求項4】
反射鏡に設けられた孔の径が0.5~1.0mmである請求項1-3のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器。
【請求項5】
孔を通して誘電体導波路が共振部に0.5~1.0mm突き出すように挿入されている請求項1-4のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器。
【請求項6】
ファブリ・ペロー共振器を構成する一方の反射鏡が球面鏡であり、もう一方の反射鏡が平面鏡であって、該ファブリ・ペロー共振器の共振周波数における波長(λ)、共振器長(L)、球面鏡の曲率半径(b1)、球面鏡上のスポットサイズ(W1)、平面鏡上のスポットサイズ(W2)が以下の式を満たすことを特徴とする請求項1-のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器。
【数1】
JP0003866804B2_000002t.gif

【請求項7】
請求項1-のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器を備えた発振器。
【請求項8】
請求項1-のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器を備えた、誘電体の誘電率測定装置。
【請求項9】
請求項1-のいずれか一項の誘電体導波路付き共振器を備えた、誘電体のtan δ測定装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体導波路を挿入したファブリ・ペロー共振器と、それを備えた電子スピン共鳴測定装置に関する。さらに、本願発明は、誘電体導波路付きファブリ・ペロー共振器を備えた発振器、誘電率測定装置およびtan δ測定装置にも関する。
【0002】
【従来の技術】
スピン量子数Sを有する不対電子が静磁場中に置かれると、不対電子の自転(スピン)によって作られる磁場と外部磁場との相互作用によってエネルギー準位が2S+1個にゼーマン分裂する。電子スピン共鳴(Electron Magnetic Resonance)は、その隣りあった準位間のエネルギー差に等しい電磁波を加えたときに共鳴的に吸収が起こる現象であり、その測定は従来より電磁波の吸収または放射を測定することによって行われている。
このような電子スピン共鳴の測定は,不対電子の有無や、不対電子と別の不対電子との間に働く相互作用を調べること等を目的として行われる。不対電子を有する物質は非常に化学的反応性が高いため、物質の機能を探るうえで電子スピン共鳴の測定は極めて重要である。また、試料を分解せずに不対電子を有する物質のみを高感度で検出することができるため、電子スピン共鳴の測定は強磁性体や常磁性体等の分析に頻繁に利用されている。
【0003】
従来の電子スピン共鳴測定装置には、発振器から発振された電磁波を共振器に導入するために金属導波管が用いられている。この導波管は金属で形成されているために極めて硬く、自由に変形することは不可能である。このため、電子スピン共鳴測定装置の設計にあわせた導波管を用意しなければならず、装置の設計の幅を狭めていた。また、導波管を自由に動かすことができないために、測定試料挿入時に共振器の反射鏡を移動させたり、共振器の長さを変更したりすることが困難であった。さらに、金属導波管を用いた場合は電磁波のロスが少なくないという問題もある。これは、電子スピン共鳴測定装置の感度を悪化させる重大な要因であった。
【0004】
一方、従来の電子スピン共鳴測定装置は、マイクロ波の中でも低周波数の領域を対象としており、ミリ波やサブミリ波領域における高感度な測定装置は開発されるに至っていない。その一因は、水および酸素の吸収が測定の妨げになる点にある。しかしながら、ミリ波やサブミリ波領域における電子スピン共鳴の測定については、依然として高感度な測定方法の開発が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、伝送損失が小さくて可橈性に富んだ導波路付き共振器を開発することを目的とした。また、このような新しい発振器を利用することによって、電子スピン共鳴測定装置の設計の幅を広げ、測定感度を改善することも目的とした。すなわち、本発明は共振器の設定を細かく調節することが可能であって、ミリ波やサブミリ波領域であっても高感度に測定することができる電子スピン共鳴測定装置を提供することも目的とした。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、誘電体導波路とファブリ・ペロー共振器を組み合わせた誘電体導波路付き共振器を開発するに至った。すなわち、本発明は、ファブリ・ペロー共振器、およびファブリ・ペロー共振器に挿入された1本または2本の波動エネルギー導入または導出用誘電体導波路からなる誘電体導波路付き共振器を提供するものである。本発明で用いる誘電体導波路の波動エネルギー伝送部分の少なくとも一部は、未焼成または不完全焼成のポリテトラフルオロエチレン成形物で形成されているのが好ましい。
本発明の誘電体導波路付き共振器は、電子スピン共鳴測定装置、発振器、誘電体の誘電率測定装置およびtan δ測定装置など多くの用途に用いることができる。
【0007】
本発明で用いる誘電体導波路を構成する誘電体には、誘電損失の小さい高分子材料を使用する。そのような高分子材料として、通常はフッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE);ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンの三元共重合体(FEP)や、オレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)を使用する。これらの高分子材料には、抽出可能な無機添加物(例えば珪酸塩、金属、金属酸化物、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム)や、有機粉末(例えば澱粉粉末)を適宜添加して、望ましい性質を付与することもできる。とくにチタン酸バリウムは誘電率が極めて大きいために、少量を添加するだけで誘電率を増加させ、導波路の外径を小さくすることができる(特公昭63-57961 号公報)。
【0008】
例えばポリテトラフルオロエチレンを用いた誘電体導波路を形成するためには、まずポリテトラフルオロエチレンの微粉末(通常は直径約0.1 ミクロン)または分散凝縮物に液状潤滑剤を添加混合して、材料を濡らす必要がある。ここで用いる液状潤滑剤としては、炭化水素(例えばソルベントナフサ、ホワイトオイル)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン)、各種アルコール、界面活性剤水溶液を例示することができる。
【0009】
得られた混和物は、次いで圧縮予備成形して、任意の断面形状に押し出す。例えば、先端にオリフィスを取り付けたラム押出機等を用いることによって、チューブ、シート、ロッド等に成形することができる。オリフィスを通過するときに、混和物は大きな剪断応力を受けるために、結晶性高分子材料の微粒子は長さ方向に引き伸ばされて絡み合う。その結果、押し出し成形物はある程度の強度を備えることになる。シート状に成形する場合には、さらにカレンダー化工を施すことによって圧延し、強度や密度を高めることもできる。
【0010】
成形を行った後、成形物から液状潤滑剤を除去することによって未焼結成形体にする。液状潤滑剤の除去方法は、液状潤滑剤の性質に応じて適宜選択することができるが、通常は加熱または蒸発によって除去する。
このようにして得られた未焼結成形体の中では、非常に細かい球状粒子が押し出しの際に剪断力を受けて押し出し方向に再配列され配向されている。ただし、押し出し成形後も微粒子の形状は維持されており、本質的に球状を保っている。これらの球状微粒子と配向されたフィブリルとの間には上述の空隙が存在している。
【0011】
このようにして得られた未焼結成形体の物性は、結晶性高分子材料としてポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、比重が1.45~1.8 、周波数10GHz で測定した比誘電率が1.6 ~1.9 、周波数10GHz で測定したtan δが2x10-5~1x10-4、気孔率が18.2% ~32% である。これらの物性値は、押出成形ダイの押出孔の圧縮比等の設計を変えることによって調節することができる。また、成形体をさらに結晶性高分子材料の融点以上に加熱することによって調節することも可能である。融点以上の温度に加熱すると、成形体を形成している微粒子とフィブリルは崩れて互いに集合し、粒子とフィブリルとの間の空隙は徐々に失われて行く。完全に焼成されると空隙は全く無くなってしまうので、適度な空隙を残す程度に加熱を止める必要がある。例えば、結晶性高分子材料としてポリテトラフルオロエチレン(融点372 ℃)を用いた場合は、350 ~380 ℃に加熱することによって調節することができるが、比重の上昇は1.9 程度で止めておくのが良い(完全に焼成されると比重は約2.2 になる)。このようにして得られた材料を、誘電体導波路の波動エネルギー伝送部の少なくとも一部に用いる。
【0012】
未焼結成形体は、さらに少なくとも一軸方向に1~100 倍程度延伸してもよい。延伸方法は、例えば特公昭51-18991 号公報および特開昭50-22881 号公報に記載される方法にしたがって行うことができる。延伸倍率を変えることによって、最終的に得られる結晶性高分子からなる誘電体の密度、気孔率および誘電率等を広範囲に調節することができる。得られた延伸物は、さらに熱固定する。
【0013】
このような工程にしたがって製造した誘電体は、多孔質微細構造を有する。例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いて製造した結晶性高分子材料は、一般に60~90%程度の高い気孔率を有し、平均孔径が0.01~50μm 、長さ2.54cmのチューブの1psigにおける通気量が100 ~5000ml/分、水漏れ圧力が0.1 ~1.5kg/cm2 である。ポリテトラフルオロエチレン成形体を倍率を変えて延伸させ、360 ~375 ℃で1~15分焼成熱固定した場合に得られる誘電体は、延伸倍率が1倍のとき密度が1.6 g/cm2 、比誘電率(106Hz) が1.71、tan δ(106Hz) が7x10-5であり;延伸倍率が2倍のとき密度が0.8 g/cm2 、比誘電率(106Hz) が1.31、tan δ(106Hz) が3x10-5であり;延伸倍率が10倍のとき密度が0.08g/cm2 、比誘電率(106Hz) が1.07、tan δ(106Hz) が1x10-5になる。このようにして、延伸倍率や熱固定条件を調節することによって、所望の物理的性質を有する結晶性高分子を得ることができる。
【0014】
本発明では、このようにして製造される結晶性高分子を、波動エネルギー伝送部分の少なくとも一部に用いるとともに、主に誘電体導波路のクラッド部に用いる。波動エネルギー伝送部分は、一種類の結晶性高分子のみから構成されていてもよいし、二種以上の結晶性高分子から構成されていてもよい。二種以上の結晶性高分子から構成されている場合は、それらを混合して均一な波動エネルギー伝送部分にしてもよいし、一方をコアとして他方はそれを覆うクラッドとしてもよい。後者の場合、クラッドの比誘電率はコアの比誘電率をよりも低くする。本発明では、誘電体導波路を構成する結晶性高分子としてポリテトラフルオロエチレンを用いるのが好ましい。また、結晶性高分子からなる波動エネルギー伝送部分の外周は保護層で覆われていてもよい。保護層としては、塩化ビニルやポリエチレン樹脂などの保護層として通常用いられる材料を広く使用することができる。これらの誘電体導波路の構造の具体的な態様については、特公昭63-38884 号公報に記載されている。また、誘電体導波路の断面形状は特に制限されないため、矩形、円形、楕円形などさまざまな形状を有するものを使用することができる。通常は、偏波面を保存するために、2.5x5.0mm 程度の矩形断面を有する誘電体導波路を使用する。
【0015】
本発明の誘電体導波路付き共振器は、ファブリ・ペロー共振器の反射鏡に設けられた1つまたは2つの孔に、1本または2本の誘電体導波路を挿入した構造を有する。1つの孔に1本の誘電体導波路を挿入する場合、その誘電体導波路はファブリ・ペロー共振器の外において、電磁波導入用の誘電体導波路と電磁波導出用の誘電体導波路に分枝しているのが一般的である。また2つの孔に2本の誘電体導波路をそれぞれ挿入する場合は、1本は電磁波導入用であり、もう1本は電磁波導出用である。これら2本の誘電体導波路は、ファブリ・ペロー共振器外においてそれぞれ1本の磁性を有しない管の中に入れられていてもよい。そのような管の材料として、ガラス、石英、テフロン、アクリル、プラスチック、ステンレス、銅などを用いることができる。また、管として金属以外の材料を用いる場合は、2本の誘電体導波路を電磁波的に分離するために、金属帯状体を2本の誘電体導波路の間に設けるのが好ましい。なお、2つの孔は、ともに1つの反射鏡上に設けられていても、2つの反射鏡上にそれぞれ1つずつ設けられていてもよい。
【0016】
反射鏡に設けられた孔の径は、0.5 ~1.0 mm程度であるのが好ましい(図1のa)。また、誘電体導波路は、反射鏡に設けられた孔から共振部に突き出すように挿入されているのが好ましい。通常は、0.5 ~1.0 mm程度共振部に突き出した構造を有する(図1のb)。共振器の先端の形は特に制限されないが、円錐状などの先細り構造になるように成形しておくのが好ましい。ファブリ・ペロー共振器は、誘電体導波路との結合が良好で、Q特性が高いものを用いる。ファブリ・ペロー共振器の反射面の形状と組み合わせには特に制限はない。例えば、2つの反射面がともに凹形であるもの、1つが凹形であってもう1つが平面形であるものなどを用いることができる。共振周波数における波長(λ)、共振器長(L)、球面鏡の曲率半径(b1)、球面鏡上のスポットサイズ(W1)、平面鏡上のスポットサイズ(W2)の関係は、以下の式を満たすように設計する(図2参照)。
【0017】
【数1】
14 = (λ/π)2 12L/(b1 ─L)
24 = (λ/π)2 L(b1 ─L)
【0018】
半球面型ファブリ・ペロー共振器を例にとって、設計の具体例を以下の表1に示す。
【表1】
L (mm) 5λ=16 10λ=32 15λ=48
b1 (mm) 16.5 32.5 48.5
W1 (mm) 9.8 16.3 22.0
W2 (mm) 1.8 2.4 2.2
【0019】
共振器長(L)は、波長の2倍~50倍程度にするのが一般的であり、5倍~6倍に設定するのが最も好ましい。また、本発明のファブリ・ペロー共振器のQ値は6000以上であり、9000~12000 まで高めることが可能である。
ファブリ・ペロー共振器反射鏡の間には、電子スピン共鳴測定の対象となる試料を挿入する。試料の大きさは、ファブリ・ペロー共振器のスポットサイズに応じて適宜決定する。ただし、生体などの水や酸素を含有する試料を測定する場合には、水や酸素の電磁波吸収によるロスをできる限り少なくするために試料の厚さを薄くするのが好ましい。試料挿入位置は、反射面がともに同じ凹形を有する場合には2つの反射面の中央にするのが好ましい。また、一方の反射面が平面である場合には、その平面上に試料を挿入することもできる。さらに、中央部に試料を保持し、その周囲に電磁波を透過しないマスクを付けた平面状試料保持部を挿入してもよい。また、共振器の一方の反射鏡はXYZステージで移動し、1μm 単位で位置決めができるようになっているのが好ましい(図3a)。このようにして一方の反射鏡を可動性にしておくことによって、測定用試料をファブリ・ペロー共振器中に挿入しやすくし、共振周波数の調整や試料移動によるイメージング処理を容易にすることができる。さらに、本発明で用いるファブリ・ペロー共振器の側面は、テフロンなどの誘電吸収がないプラスチックで覆われていてもよい(図3b)。
【0020】
本発明の誘電体導波路付き共振器は、当業界で通常用いられている電子スピン共鳴測定装置の導波管および共振器の代わりに用いることができる。すなわち、発振器、磁石、検出部などの構成部分の種類や形状については、特に制限されない。例えば、発振器には、周波数と振幅が安定な電磁波を発生することができるものを広く使用することができる。また、磁石としては、電磁石、超伝導磁石、永久磁石等を使用することができ、測定の目的、必要な磁場強度や均一度等に応じてその種類を適宜選択することが可能である。静磁場発生用の磁石の他に、磁場掃引や変調などの磁場微調整のための磁場掃引コイルや変調コイルを設けてもよい。
【0021】
1/f ノイズを低減させるために、通常の電子スピン共鳴測定装置と同様に、磁場変調コイルにより低周波交流磁場を重畳させながら磁場掃引し、電流変化の変調周波数成分のみをロックイン検出器で検出する手段を利用することもできる。磁場変調コイルにかかる交流磁場の周波数は0.1HZ ~10MHz 程度、好ましくは50~100 kHZ にする。さらに試料に照射する電磁波として一定周波数・振幅波形の他に、振幅変調、周波数変調、位相変調あるいはパルス変調された波形を用いて、時間変化情報を引き出したり1/f ノイズを低減してもよい。
【0022】
本発明の装置による電子スピン共鳴の測定は、従来の電子スピン共鳴測定に用いられている周波数の電磁波を用いて行うことができる。それに加えて、本発明の電子スピン共鳴測定装置では、通常用いられている周波数よりも高い周波数の電磁波を用いて感度よく測定することが可能である。これは、本発明の電子スピン共鳴測定装置を構成する誘電体導波路が、曲折した状態であってもミリ波およびサブミリ波を効率よく伝送することができるためである。その伝送損失は、従来の電子スピン共鳴測定装置に用いられている金属導波路に比べて1/10以下である。このため、本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いることによって、従来不可能であったミリ波およびサブミリ波領域の高感度測定が初めて可能になった。すなわち、本発明の電子スピン共鳴測定装置によれば、ミリ波領域の電磁波を用いてTEMPOLなどの常磁性種を無変調のまま直接観測することができる(実施例参照)。したがって、これを磁場変調等で増幅すれば極めて高感度な測定を行うことが可能になる。
【0023】
本発明の電子スピン共鳴測定装置による測定に用いる電磁波は、1THZ 以下であるのが好ましい。その中でも、Wバンド(75~110GHz)領域、特に92~97GHz のミリ波が有用である。本発明に用いる誘電体導波路は、Wバンド領域の電磁波を極めて効率よく伝送することができる。Wバンド領域での測定は、生体試料のように水および酸素を含有する試料を測定する場合に特に有用である。通常、水分子による吸収は20GHz および160 GHz で起こり、さらに酸素分子による吸収は60GHz および120 GHz で起こる。したがって、これらの吸収帯の影響が比較的小さいWバンド領域の電磁波を用いて高感度で電子スピン共鳴測定を行うことができる本発明は極めて有用である。
【0024】
本発明の電子スピン共鳴測定装置によれば、ファブリ・ペロー共振器中に挿入することができる試料を広く測定することができる。すなわち、常磁性体や強磁性体等の不対電子を含む物質をはじめとする様々な試料を測定することができる。例えば、鉄酸化物などの強磁性体;アルカリ金属、銅、アルミニウム等の金属;グラファイトやカーボンファイバー;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム/砒素等の半導体;アルカリハライド結晶、石英等の色中心;チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、銅、カドニウム等の金属錯体;MMAや酢酸ビニル等の高分子化合物;DPPH、TEMPOL、TANOL等のスピンラベル剤やスピンプローブ剤等の有機ラジカル;TTF塩やTCNQ塩等の有機金属;HRPやヘモグロビン、フェレドキシン等の金属酵素、金属蛋白および血液;ビタミンC、E、K、NADPH等のビタミンおよび補酵素;メラニンや過酸化脂質等を含む血液成分、組織および食品;歯や骨、貝、サンゴ等の化石、鉱物、石炭および石油;ダイヤモンド、ルビー、真珠等の宝石を測定対象とすることができる。上述のように、本発明の電子スピン共鳴測定装置は、特に微小生体試料の分析に有用である。例えば、生体そのものや、生体から分離または採取された組織、体液、細胞またはそれらの懸濁液を分析することができる。生体内に存在するフリーラジカルや遷移金属等の常磁性種が、癌、炎症性疾患、腫瘍、脳血管疾患および心筋梗塞などの各種疾患を誘起したり悪化させることが明らかにされている。このため現在では、生体内細胞レベルの微小領域における常磁性種の検出や分析の必要性は極めて高くなっている。したがって、本発明の電子スピン共鳴測定装置は、常磁性種の生理作用に関する研究や、常磁性種が関与する疾患の診断、治療および予防に応用しうるものである。特にWバンド領域における測定は、水や酸素のような障害物質による吸収の影響が少ないため極めて有用である。
【0025】
これらの試料の溶液または懸濁液を形成するための溶媒としては、例えば、水、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、液体アンモニア、硫酸等を適宜選択して用いることができる。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されることはない。
(実施例1)
本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いて、多結晶固体TEMPOLの電子スピン共鳴を測定した。
測定に用いた電子スピン共鳴測定装置の構成概略図は、図4に示すとおりである。ファブリ・ペロー共振器は、共振器長(L)が5λ、球面鏡の曲率半径(b1)が16.5、球面鏡のスポットサイズ(W1)が 9.8、平面鏡上のスポットサイズ(W2)が 1.8に設計されたものを用いた。ファブリ・ペロー共振器の上側球面鏡に設けられた2つの孔には、以下の方法で調製した誘電体導波路が挿入されている。
【0027】
ポリテトラフルオロエチレン粉末にホワイトオイルを重量比80:20で添加混合して、ロッド状に圧縮成形した。加熱することによってホワイトオイルを除去し、得られた未焼結成形体を成形することによって、2.5 x5.0 mmの矩形型誘電体導波路を得た。
試料は、縦3mm、横5mm、高さ2mmの試料保持部に入れて、ファブリ・ペロー共振器の下方平面鏡の上に乗せてXYZステージで所定の位置に設定した。電磁波発振器にはガン発振器(Epsilon Lambda社製、93.96GHz)を用い、検出部にはSiショットキーダイオード(CUSTOM社製、最小感度46dB)を用いて低ノイズ増幅器で増幅した。磁石には、MCD用超電導磁石(Oxford社製、~7T)を使用した。磁場強度は、3.36~3.39Tの範囲で0.05T/分で掃引した。
【0028】
試料の無変調スペクトルを図5のaに示し、100 kHz で磁場変調した後のスペクトルを図5のbに示した。これらの結果は、本発明の電子スピン共鳴測定装置によれば、無変調の場合であっても電子スピン共鳴を検出しうるほど感度が良いことを示している。また、約300 Gにわたって試料内の微結晶による信号が分布していることが確認された。これはg値による異方性による信号の広がりを端的に示すものである。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同じ電子スピン共鳴装置を用いて、DPPH(1,1 ─ジフェニル─2─ピクリルヒドラジル)を測定した。周波数は94GHz とし、3.0 ~4.5 Tの範囲で0.1 T/分で磁場掃引した。740 Hzで振幅変調した結果は図6に示すとおりであった。
【0030】
(実施例3)
実施例1と同じ電子スピン共鳴装置を用いて、(Ph4P2)2(MnCl4)を測定した。周波数は90GHz とし、3.4 ~4.0 Tの範囲で0.2 T/分で磁場掃引した。得られた無変調信号は、図7に示すとおりであり、明らかに信号が検出できた。
【0031】
(実施例4)
実施例1と同じ電子スピン共鳴装置を用いて、YIG薄膜を測定した。周波数は95GHz とし、0~7Tの範囲で0.2 T/分で磁場掃引した。得られた無変調信号は、図8に示すとおりであり、明らかに信号が検出できた。
【0032】
【発明の効果】
本発明の誘電体導波路付き共振器の誘電体導波路は、柔軟で可撓性に富むために共振器の反射鏡の位置を正確に設定することが可能である。また、本発明の誘電体導波路付き共振器の誘電体導波路は、伝送損失が極めて小さいために、高感度で電子スピン共鳴を測定することが可能である。特に、高周波領域の伝送効率が良いため、従来不可能であったミリ波やサブミリ波領域の高感度測定が可能になった。中でも、Wバンド領域での高感度測定を可能にしたことによって、微小生体をはじめとする多くの試料の精密分析の途が開けた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の誘電体導波路付き共振器の断面図である。
【図2】 本発明で使用するファブリ・ペロー共振器の断面図である。
【図3】 本発明の誘電体導波路付き共振器の断面図である。
【図4】 本発明の電子スピン共鳴測定装置の構成概略図である。
【図5】 本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いて測定した、TEMPOLの電子スピン共鳴スペクトルである。
【図6】 本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いて測定した、DPPHの電子スピン共鳴スペクトルである。
【図7】 本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いて測定した、(Ph4P2)2(MnCl4)の電子スピン共鳴スペクトルである。
【図8】 本発明の電子スピン共鳴測定装置を用いて測定した、YIG薄膜の電子スピン共鳴スペクトルである。
【符号の説明】
1 誘電体導波路
2 ファブリ・ペロー共振器の反射鏡
3 XYZステージ
4 磁石
5 テフロン布
6 周波数カウンター
7 ガン発振器
8 PLL
9 トリプラー(285GHz)
10 ロックイン増幅器
11 レコーダー
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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