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明細書 :チタン酸バリウム結晶、コンデンサ、光スイッチおよびFRAM

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4051437号 (P4051437)
公開番号 特開2004-231500 (P2004-231500A)
登録日 平成19年12月14日(2007.12.14)
発行日 平成20年2月27日(2008.2.27)
公開日 平成16年8月19日(2004.8.19)
発明の名称または考案の名称 チタン酸バリウム結晶、コンデンサ、光スイッチおよびFRAM
国際特許分類 C30B  29/62        (2006.01)
C30B   9/06        (2006.01)
C30B  29/32        (2006.01)
C01G  23/00        (2006.01)
G02F   1/03        (2006.01)
G02F   1/31        (2006.01)
H01G   4/12        (2006.01)
H01L  21/316       (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
FI C30B 29/62 F
C30B 9/06
C30B 29/32 A
C01G 23/00
G02F 1/03 501
G02F 1/31
H01G 4/12 415
H01L 21/316 H
H01L 27/10 444C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2003-025369 (P2003-025369)
出願日 平成15年2月3日(2003.2.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本物理学会講演概要集第57巻第2号(2002年秋季大会)[第4分冊](2002年9月6日)社団法人日本物理学会発行第816頁左下段、8aSH-4に発表
審査請求日 平成15年12月18日(2003.12.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
発明者または考案者 【氏名】秋重 幸邦
【氏名】深野 勝洋
個別代理人の代理人 【識別番号】100116861、【弁理士】、【氏名又は名称】田邊 義博
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2002-275390(JP,A)
特開2001-235715(JP,A)
特開2002-324895(JP,A)
特開平09-260516(JP,A)
調査した分野 C30B1/00-35/00
C01G23/00
G02F1/03
G02F1/31
H01G4/12
H01L21/316
H01L27/105
特許請求の範囲 【請求項1】
粉末X線回折により、2θ=19.35°±0.10°にピークを有する強誘電性チタン酸バリウム結晶。
【請求項2】
粉末X線回折により、2θ=25.65°±0.10°にピークを有する強誘電性チタン酸バリウム結晶。
【請求項3】
BaO/TiO=33/67のmol比率の混合原料をKirby&WechslerのBaO-TiO系相図に示される(固体立方晶BaTiO+液相)の混合相と全液相との境界温度より10℃程度高い温度で溶融した後、これを徐冷して種結晶を育成し、次いで、この種結晶を前記境界温度に昇温した状態から急冷して得られる強誘電性チタン酸バリウム結晶。
【請求項4】
420℃~480℃までのいずれかの温度に少なくとも一つの強誘電性相転移温度を有する強誘電性チタン酸バリウム結晶。
【請求項5】
キュリーワイス定数CがC=2.0×10~3.5×10にある強誘電性チタン酸バリウム結晶。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とするコンデンサ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とする光スイッチ。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とするFRAM。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チタン酸バリウム結晶に関し、特に、キュリー温度が著しく高いチタン酸バリウム結晶、およびこのチタン酸バリウム結晶を用いたコンデンサ、光スイッチおよびFRAMに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子部品材料として利用されている強誘電体の多くは、ペロブスカイト構造、擬イルメナイト構造、タングステン・ブロンズ構造を有する酸化物である。その中でも、セラミック圧電素子として現在最も幅広く利用されているものに、チタン酸ジルコン酸鉛、通称PZTがある。
【0003】
また、同様に、チタン酸バリウム(BaTiO)も、ペブロスカイト構造をとり、強誘電体材料として広く用いられている。BaTiOは、同質多形結晶が存在し、立方晶型と六方晶型が知られている。これらは、どちらも強誘電体である。また、BaTiOは、従来知られている強誘電体物質に比べ、単純な構造をしているにもかかわらず、室温付近において高い誘電性を示し、化学的、機能的にも安定でもある。
【0004】
【非特許文献1】
K.W. Kirby and B.A. Wechsler:J.Am.Ceram.Soc.74(1991)1841.
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
すなわち、PZTには鉛が含まれており、環境上好ましくないという問題点があった。また、特に生産設備現場などの工業用用途として用いる場合には、一般的に、より誘電率が高く、より温度が高い雰囲気下でも使用に耐えうる誘電体であることが望ましい。
【0006】
また、強誘電体は光スイッチとしての応用が想定されるが、この場合には、無色透明な誘電体であることが望ましい。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、誘電率の高いチタン酸バリウムを提供することを目的とする。
また、キュリー温度の高いチタン酸バリウムを提供することを目的とする。
また、無色透明なチタン酸バリウムを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、後述する結晶の育成方法により、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明(請求項1)は、粉末X線回折により、2θ=19.35°±0.10°にピークを有する強誘電性チタン酸バリウム結晶である。
【0011】
また、本発明(請求項2)は、粉末X線回折により、2θ=25.65°±0.10°にピークを有する強誘電性チタン酸バリウム結晶である。
【0012】
また、本発明(請求項3)は、BaO/TiO=33/67のmol比率の混合原料をKirby&WechslerのBaO-TiO系相図に示される固体立方晶BaTiO+液相の混合相と全液相との境界温度より10℃程度高い温度で溶融した後、これを徐冷して種結晶を育成し、次いで、この種結晶を前記境界温度に昇温した状態から急冷して得られる強誘電性チタン酸バリウム結晶である。なお、相図では必ずしも明瞭ではないが、上記境界温度を本発明者らは1376℃と読み取り新規チタン酸バリウムを得た。
【0013】
また、本発明(請求項4)は、420℃~480℃までのいずれかの温度に少なくとも一つの強誘電性相転移温度を有する強誘電性チタン酸バリウム結晶である。
【0014】
また、本発明(請求項5)は、キュリーワイス定数CがC=2.0×10~3.5×10にある針状結晶の強誘電性チタン酸バリウム結晶である。
【0015】
また、本発明(請求項6)は、請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とするコンデンサである。また、本発明(請求項7)は、請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とする光スイッチである。また、本発明(請求項8)は、請求項1~5のいずれか一つに記載の強誘電性チタン酸バリウム結晶を用いたことを特徴とするFRAMである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、チタン酸バリウムが結晶状態において強誘電性を発揮するが、チタン酸バリウム結晶を単にチタン酸バリウムと適宜表現することとする。
まず、従来知られているBaO‐TiO系相図を示す。図1は、Kirby&Wechslerによる相図であって、BaOとTiOの混合割合を横軸に、温度を縦軸として、混合物がどのような結晶形をとるかを示した図である。ここで、BaO/TiO=33/67(mol比)の相を見ると、1376℃付近を超える温度ではすべて液相(全液相と適宜称する)であり、1332℃を超え1376℃付近未満の温度ではcubic BaTiO S.S.+Liquidの混合相(固体立方晶チタン酸バリウムと液相の混合相)であり、1332℃未満ではcubic BaTiO+BaTi1740の結晶の混在相であることがわかる。
【0017】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、上記混合比のBaO+TiOの混合物を1376℃付近~1395℃付近の温度領域で徐冷と急冷の二つの工程を経させることにより、新規なチタン酸バリウム結晶を育成することに成功した。結晶の育成に際しては、電気炉を用い、炉温(炉中心温度)の最高温度が1376℃付近~1395℃付近になるように設定した。実際の出発物質としては、BaTiOとTiOを用い、BaTiO/TiO=33/34(mol比)の割合で混合した。用いたチタン酸バリウムは、BaTiO:キシダ化学社製(純度99.98%)であり、酸化チタンは、TiO:Aldrich Chemical Co, Inc製.(99.9+%)である。結晶育成には、セルフフラックス法を用いた。
【0018】
具体的には、以下の手順で実験をおこなった。
1:BaTiOおよびTiOを電子天秤で1/10000gの単位で量りとった。以下に示す実験例では、すべてBaTiO=23.085g、TiO=8.1477gの仕込量とした。
2:めのう乳鉢で1時間から2時間程度試料をすり潰し、その後、白金るつぼに投入した。
3:電気炉で試料を溶融固化した。具体的には、試料を入れた白金るつぼをアルミナるつぼの中に入れ、これをSUPERTHAL(カンタム ガデリウス K.K製)電気炉にセットした。次いで、所定の温度で試料を溶融し、その後徐冷した(以降、徐冷工程と適宜称する)。得られた固体をもう一度所定の温度で溶解条件下としてから急冷した(以降、急冷工程と適宜称する)。電気炉の温度プログラムについては後述する。なお、徐冷工程または急冷工程で、実験環境が還元雰囲気となった場合は、適宜雰囲気ガスを空気としてアニールした(以降、徐歪工程と適宜称する)。
4:室温まで冷えた後、白金るつぼの底を木槌でたたき、固化した試料を落とした。その中から単結晶を回収した。なお、図2に実験に用いた白金るつぼとアルミナるつぼの概略構成を示した。
【0019】
【実施例】
〔実験1〕
実験1の電気炉の温度設定と実際の炉中心温度の関係を表1~表4に示す。
【表1】
JP0004051437B2_000002t.gif・工程後の試料の状態:黒い筋状の領域とそれ以外の白色の領域とが混在した固体がるつぼの底に形成された。
・特記事項:炉から硫黄のような悪臭が発生した。これは、用いた炉が新品であり、十分仮焼きを行っていなかったためと考えられる。
【0020】
【表2】
JP0004051437B2_000003t.gif・工程後の試料の状態:徐冷工程後の黒い部分がすべて白色となった。結晶は目視では確認できなかった。
【0021】
【表3】
JP0004051437B2_000004t.gif・工程後の試料の状態:つぼの底に白色の固体が形成され、所々に目視で確認できる程度の大きさ(長さ約5mm)の結晶であって無色の領域から析出した黒色の針状の結晶が形成された。
・特記事項:炉から硫黄のような悪臭が発生した。
【0022】
【表4】
JP0004051437B2_000005t.gif・工程後の試料の状態:黒色の針状結晶がそのまま無色の針状結晶となった。
【0023】
実験1で得られた針状結晶を以降結晶Aと表記する。図3は、実験1により得られた無色透明の針状結晶Aの概観を撮影した写真である。
【0024】
〔実験2〕
実験2の電気炉の温度設定と実際の炉中心温度の関係を表5および表6に示す。
【表5】
JP0004051437B2_000006t.gif・工程後の試料の状態:つぼの底に一様な白色の固体が形成された。結晶は目視では確認できなかった。
【0025】
【表6】
JP0004051437B2_000007t.gif・工程後の試料の状態:つぼの底に無色の固体が形成され、所々に目視で確認できる程度の大きさ(長さ5mm程度)の結晶であって無色の領域から析出した無色透明の針状の結晶と黄色の有色透明の粒状結晶が形成された。
【0026】
実験2で得られた針状結晶を以降結晶Bと表記する。また、実験2で得られた黄色の有色透明の粒状結晶を以降結晶Cと表記する。図4は、実験2により得られた無色透明の針状結晶Bと黄色の有色透明の粒状結晶Cの概観を撮影した写真である。
【0027】
〔実験3〕
実験3の電気炉の温度設定と実際の炉中心温度の関係を表7および表8に示す。
【表7】
JP0004051437B2_000008t.gif・工程後の試料の状態:つぼの底に一様な白色の固体が形成された。結晶は目視では確認できなかった。
【0028】
【表8】
JP0004051437B2_000009t.gif・工程後の試料の状態:つぼの底に白色の固体が形成されたが、目視では針状の結晶は確認できなかった。
【0029】
実験3で得られた固体を固体Dと表記する。図5は、実験3により得られた固体の概観を撮影した写真である。
【0030】
以上の実験の結果、所定の条件の下に無色透明の針状結晶が得られることが確認できた。これまで知られているチタン酸バリウムは、その結晶の型によらず、すべて黄ないし茶系統の有色結晶である。得られた無色透明の針状結晶が新規な結晶であることを証明すべく、その物性を測定した。
【0031】
〔試料の分析〕
(粉末X線回折)
まず、粉末X線回折法による分析を試みた。測定装置は、RIGAKU RINT2000を用いた。プローブ光としてCuの管球から発生するKα、Kα特性X線を使用した。Kβ線は、Niフィルターでカットした。測定開始角度は10.000°、測定終了角度は80.000°、ステップ角度は0.05°とした。
図6は、結晶AのX線回折パターンを示した図である。
図7は、結晶BのX線回折パターンを示した図である。
図8は、固体DのX線回折パターンを示した図である。
図9は、同様の測定機器で測定した立方晶BaTiO(c-BaTiO)のX線回折パターンを示した図である。
【0032】
測定結果から、結晶A(図6参照)の対称性は非常に低いことが確認できた。また、図6に示した結晶Aのパターンと図9に示した立方晶BaTiOセラミック(室温では正方晶)のパターンを比較すると、2θ=44.853°(立方晶BaTiOでは面(002))2θ=45.375°(立方晶BaTiOでは面(200))だけが一致しており、その他のピークは全く一致しないことが確認できた。したがって、結晶Aは、新規のチタン酸バリウムであることが確認できた。特に、この新規チタン酸バリウムは、粉末X線回折により2θ=19.35°±0.10°,21.53°±0.10°,25.65°±0.10°といった低角度側にピークを有する点が特徴的であり、本願発明者はこれにより新規チタン酸バリウムであるか否かを判定できると考える。
【0033】
図7に示した結晶Bのパターンと図6に示した結晶Aのパターンと比較すると、出力強度は若干異なるが、ピークのでる角度(2θ°)は、ほぼ一致することが確かめられた。したがって、結晶Aと結晶Bとは、同じ結晶系であるといえる。
【0034】
図8に示した固体Dのパターンを検討すると、図6に示した結晶Aのパターンと図9に示した立方晶BaTiOセラミックのパターンがミックスしているパターンであることがわかる。したがって、固体Dの中には一部に微小な結晶Aが形成されていると思われる。
【0035】
なお、結晶Aを偏光顕微鏡で観察したところ、すべての方向で消光したため、結晶Aの構造は光学的二軸性結晶であると考えられる。光学的二軸性結晶には、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系があるので、新規チタン酸バリウムは、この3つのいずれかの結晶系をとると考えられる。
【0036】
(EPMA測定)
次に、結晶Aの組成を電子プローブマイクロアナライザー(ElectronProbe Micro Analyzer:EPMA)により調べた。結晶Aから5個を選び、12点で測定した。図10は、結晶Aの組成をBaTix+2yと表現したときのBaとTiの存在比を示す図である。図では、縦軸をBaの存在割合x、横軸をTiの存在割合yとしている。Baの存在割合xが増えれば、Tiの存在割合yが減少しており、Ba、Ti以外の物質の混入がないことと組成が一定であることが確認できた。測定したすべての点で、Baが1より小さく、Tiが1より大きかった。以上のことから、結晶Aは、チタンリッチなチタン酸バリウムであることが確認できた。12点で平均するとx=0.980、y=1.006、x+2y=2.992であり、これらの組成比率の誤差は0.5%以下である。したがって、得られた新規チタン酸バリウムの組成は、誤差はあるものの、Ba0.980Ti1.0062.992と表現可能であるといえる。
【0037】
なお、EPMA測定には、日本電子製JXA-8800M電子プローブマイクロアナライザーを用いた。硬化剤としてトリエチレンテトラミンを用い、ビスフェノール-A-ジグリシディルエーテルを主成分とするエポキシ系樹脂により試料を固定した。なお、補正計算は、ZAF補正を使用した。標準試料には、分析用のBaTiO単結晶を用いた。
【0038】
(誘電率測定-誘電率の周波数依存と誘電率の温度依存について)
次に、針状結晶Aを用いて、結晶成長軸(以降適宜c軸と称する)方向とこれに垂直な方向の誘電率(実数部ε’および虚数部ε’’)の周波数特性を測定した。測定用試料の作成手順を以下に示す。
1:結晶をロウで固定し、切断機(IMPTECH社 PC 10 PRECISION CUTTER)を用いて薄く切断した。
2:切断した結晶を研磨し、c軸の軸出しをした。
3:ダイヤルゲージで試料の厚みを数回測定し、平均値をもってその試料の厚みとした。
4:結晶に電極とリード線を取り付けた。具体的には、まず、結晶の一方の面に、銀ペースト(Dupond No.7095)を薄く塗った。この面の中央にφ=0.25mmの金線をとり付け、十分乾くまでそのまま放置した。反対の面にも同様に銀ペーストと金線をとり付けた。最後にヒーターを150℃まで上げて完全にペーストを乾かした。
5:作成した試料をMIRA-3000(ULVAC製)に入れ、室温から500℃まで10分で上昇させて電極を焼き付けた。
なお、作成した試料の様子を図11に示す。
【0039】
図12は、c軸方向についての室温における結晶Aの誘電率の周波数特性を示す図である。
図13は、c軸に垂直な方向についての室温における結晶Aの誘電率の周波数特性を示す説明図である。
【0040】
図12に見てとれるように、c軸方向の誘電率は対数プロットにおける線形性が高周波まで観測されていることがわかる。
【0041】
続いて、印加電圧の周波数を変化させ、結晶A、結晶B、結晶D、固体Dおよび結晶Cの誘電率の温度依存の特性を測定した。LCRメータは、HP4285AおよびHP4284Aの2台を用いた。HP4285Aを用いる場合は、印加する交流電圧を75kHz、120kHz、300kHz、1000kHz、3000kHz、5000kHzとして測定した。HP4284Aを用いる場合は、印加する交流電圧を30Hz、100Hz、1kHz、10kHz、100kHz、1000kHzとして測定した。
【0042】
高温側の測定では、温度コントローラーCHINO SU10 1200NSを用い試料雰囲気温度を上昇させ、デジタルマルチメーターKEITHLEY 2000 MULTIMETERにより試料温度を測定した。温度コントローラーの昇温速度は1.0K/min、または2.0K/minに設定した。試料へ印加する電圧は1Vとして、上記の各周波数の交流電圧にて測定をおこなった。
【0043】
低温側の測定では、クライオスタットを用いた(Iwatani CRT-M310-RE)。試料は8時間かけて約10Kから300Kまで上昇させた。試料へ印加する電圧は1Vとして、上記の各周波数の交流電圧にて測定をおこなった。
【0044】
測定サンプルの番号と大きさを表9に示す。
【表9】
JP0004051437B2_000010t.gif【0045】
図14は、結晶A(サンプル番号A1)の誘電率の温度依存の特性を測定した図である。
【0046】
図15は、結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第1回目の測定結果を示した図である。
図16は、結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第2回目の測定結果を示した図である。
図17は、結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第3回目の測定結果を示した図である。
図18は、結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第4回目の測定結果を示した図である。
図19は、結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第5回目の測定結果を示した図である。
【0047】
図20は、結晶A(サンプル番号A3)の誘電率の温度依存特性について、第1回目の測定結果を示した図である。
図21は、結晶A(サンプル番号A3)の誘電率の温度依存特性について、第2回目の測定結果を示した図である。
図22は、結晶A(サンプル番号A2)と立方晶BaTiOの誘電率の温度依存特性を比較した図である。
【0048】
図23は、結晶B(サンプル番号B1)の誘電率の温度依存の特性を測定した図である。
【0049】
図24は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第1回目の測定結果を示した図である。なお、ヒーティングの場合とは、昇温過程におけるという意味である。
図25は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第1回目の測定結果を示した図である。なおクーリングの場合とは、降温過程におけるという意味である。
図26は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第2回目の測定結果を示した図である。
図27は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第2回目の測定結果を示した図である。
図28は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第3回目の測定結果を示した図である。
図29は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第3回目の測定結果を示した図である。
図30は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、1000kHの交流電場に対する3回のヒーティング結果を重ね合わせた図である。
図31は、固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、1000kHの交流電場に対する3回のクーリング結果を重ね合わせた図である。
【0050】
図32は、結晶C(サンプル番号C1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の測定結果を示した図である。
図33は、結晶C(サンプル番号C1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の測定結果を示した図である。
【0051】
以上の測定結果から、結晶Aおよび結晶Bに関しては、430℃または480℃付近に誘電異常が見られる(図14~図21、図23参照)。従来知られている立方晶BaTiOが示す誘電異常の温度は130℃であるので(図22参照)、この点からも本実験により得られた結晶は新規チタン酸バリウムであることが裏付けられ、そのキュリー温度も従来のチタン酸バリウム結晶のキュリー温度より遙かに高いことが確認できた。
【0052】
c軸方向に関しては新規チタン酸バリウム結晶は、最高で40,000に達する高誘電率を有することも確認できた(図14参照)。新規チタン酸バリウム結晶は、周波数依存があり、周波数を上げていくと誘電率は下がっていきキュリー温度付近では3000kHzで下げ止まることも確認できた(図14など参照)。
【0053】
なお、同一のサンプルを用いて誘電率の温度依存特性を繰り返し測定すると、全体的に誘電率が低下していくことも確認された。図15に示したサンプル番号A2の結晶は、1回目の測定時には最大の誘電率が約35,000あったものが、図17に示した3回目の測定時には、最大の誘電率が約28,000にまで低下している。これは、誘電率の虚数部ε”では、キュリー温度以上の損失が測定を重ねるたびに小さくなっているために誘電率が下がっているものと考えられる。また、測定前に無色透明であった結晶が、2回目の測定後には黄色く濁っていた。図34は、測定前の透明結晶とサンプルA2の2回の測定経過後の着色の様子を示した図である。
【0054】
また、図18および図19に示したように、サンプルA2の4回目以降の測定では、誘電率の低下は収まる一方、キュリー温度付近において誘電率の振る舞いに変化が現れる。即ち、4回目の測定では、キュリー温度付近の誘電率の立ち上がりが鋭くなり、周波数を上げていくと高温側にキュリー温度がスライドする現象が確認された。
【0055】
しかしながら、5回目の測定では、4回目の測定で確認された現象とは異なり、キュリー温度付近の誘電率の山が平らとなり、ピークが2つに分かれるように見える現象が確認された。なお、図示を省略するが、A2のサンプルで0Kから850Kにおける誘電率の温度依存測定を行ったところ、低温域(室温以下)で誘電異常は見らなかった。したがって新規チタン酸バリウムの相転移点は、従来知られているチタン酸バリウムの相転移点より高い温度域に少なくとも一つ存在し、従来知られているチタン酸バリウムの相転移点付近以下の温度には存在しないと思われる。
【0056】
サンプルB1の針状単結晶の誘電率の温度依存特性については、サンプルAシリーズと異なり、キュリー温度が約480℃付近であることが確認された(図23参照)。
【0057】
結晶の明瞭でない固体Dについては、すべての測定において134℃から140℃の間に小さな誘電異常が見られた(図24~図29参照)。これは、立方晶BaTiOも育成されている証拠である。一方、1回目測定のヒーティング時には400℃付近の誘電異常見られなかったが(図24参照)、2回目以降には見られるようになった(図26および図28参照)。また、クーリング時には、1回目から360℃付近に誘電異常が観測された(図25参照)。この誘電異常は立方晶BaTiOでは観測されるものではないため、固体Dには、結晶Aおよび結晶Bと同様の新規BaTiOが混在しているものと考えられる。
【0058】
なお、図30および図31に示したように、ヒーティング、クーリングともに測定を重ねるにつれて300℃以上の誘電率の大きさが小さくなり、360℃と400℃付近の誘電異常も確認しづらくなる。1回目のヒーティング時に360℃付近の誘電異常が見られなかった点や測定回数に従ってこの誘電異常が不明瞭となった点を考え合わせると、固体D中の微少な新規チタン酸バリウムが熱により変質した可能性が示唆される。
【0059】
黄色の有色結晶Cの誘電率の温度依存を測定したところ、ヒーティング時はキュリー温度が136℃(409K)、クーリング時はキュリー温度が130℃(403K)であった(図32および図33参照)。したがって、結晶Cは、新規BaTiOではなく立方晶BaTiOであることが判明した。
【0060】
(導電率について)
次に、結晶Aと結晶Bの導電率を調べた。図35は、結晶Aのキュリー温度付近の導電率σを示した図である。図36は、結晶Bのキュリー温度付近の導電率σを示した図である。図35と図36を比較すると、キュリー温度以上の温度領域では、結晶Aの方が結晶Bに比して誘電率が1桁以上大きい。結晶Aおよび結晶BのX線回折パターンより結晶構造はほぼ同じと考えられるため、電導性の違いは結晶育成時の雰囲気ガスに依存すると考えられる。
【0061】
(キュリーワイス定数とキュリーワイス温度の検討)
次に、誘電率の測定データから、キュリーワイス温度Tとキュリーワイス定数Cを求めた。キュリーワイスの法則を示す式 1/ε’=(T—T)/C と、サンプルA2に対する第3回目の測定の3000kHzの誘電率の温度特性のデータ(図17参照)から、縦軸を誘電率の逆数1/ε’に横軸を温度T(℃)として、V字を外挿してTとCを求めた。
【0062】
図37は、サンプルA2に対する第3回目の測定の3000kHzの誘電率の温度特性のデータに基づいて、TとCを求める際の外挿図である。図示したように、キュリーワイス温度TはT=419℃、高温側のキュリーワイス定数CはC=3.5×10℃(T>T=419℃)であった。このCの値は、従来知られている強誘電体のうち、最高レベルにあるKNbOと同じ大きさであることがわかった。
【0063】
なお、サンプルB1についても3000kHzの誘電率の温度特性のデータに基づき、キュリーワイス温度Tとキュリーワイス定数Cを求めた。図38は、サンプルB1の3000kHzの誘電率の温度特性のデータに基づき、TとCを求める際の外挿図である。図示したように、キュリーワイス温度TはT=478℃、高温側のキュリーワイス定数CはC=2.0×10℃(T>T=478℃)であった。
【0064】
(自発分極の測定)
次に、新規チタン酸バリウムの自発分極を測定した。測定方法について説明する。測定用の試料は、誘電率測定と同じ要領で作成して準備した。測定に際しては、クライオスタットを用い、これに結晶を固定した。放電防止のためクライオスタット内にシリコンオイルを結晶全体がつかるように満たした。印加電圧と試料の厚みから、電場の強さEに測定データを変換し、基準既知コンデンサの電圧と試料の面積、基準既知コンデンサの容量Cから電束密度Dへの変換も行った。
【0065】
測定には結晶Aを用いた。測定用試料の大きさは、面積S = 0.42 ×10-6 (m)、距離d = 0.29 × 10-3 (m)、静電容量C = 0.0056 (pF)である。この試料に0.5Hzの三角波を印加して室温で測定を行った。図39は、結晶AのD-E履歴曲線を示した図である。図から明らかなように、自発分極が観測され、強誘電体であることがこの点からも確認できた。自発分極の大きさは約6.6μC/cmであった。
【0066】
〔適用例〕
以上説明したように、本発明の新規チタン酸バリウムは従来知られているチタン酸バリウムよりキュリー温度が著しく高いので、使用環境が高温であっても機能を損なうことがない。したがって、生産設備(生産工場)などの工業用設備においても使用に耐えうる。さらに、特にキュリー温度付近で、従来のチタン酸バリウムに比して著しく誘電率が高いので、利用価値が高い。したがって、工業用用途の大容量のコンデンサに適用可能である。
【0067】
また、本発明の新規チタン酸バリウムは、強誘電体であることに加え、その結晶が無色透明であるという特徴を有する。したがって、光スイッチとしての適用が可能である。すなわち結晶両端を電極として、これに電圧をかけると、電場の大きさによって結晶に入射した光の進路が変わる。これにより、たとえば光を受光体に当てたり外したりすることが可能である。さらには、入射光の波長によって光を分配できるのでWDM(Wavelength Division Multiplexing)への適用が可能となる。特に、本発明の新規チタン酸バリウムは、透明であるためその設計自由度も高い。
【0068】
また、本発明の新規チタン酸バリウムを利用してFRAM(Ferro-electric Random Access Memory)に適用してもよい。
【0069】
なお、本発明の新規チタン酸バリウムの製造方法は、上述した徐冷工程と急冷工程の二つの工程を経ることにより得ることができるが、本発明の新規チタン酸バリウムは、この製造方法で製造されたものに限定されず、他の方法で製造されたものも含む。すなわち、本発明は、本実施の形態および本実施例に示した特性を備える新規チタン酸バリウムを意味し、製造方法は本発明の結晶を特定するための要素として言及したものに過ぎない。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、誘電率およびキュリー温度が高く、無色透明な新規チタン酸バリウムを提供することができた。また、この新規チタン酸バリウムを利用し、高温であっても自発分極を維持するコンデンサを提供することができた。また、この新規チタン酸バリウムを利用した光スイッチを提供することができた。また、この新規チタン酸バリウムを利用したFRAMを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】Kirby&Wechslerによる相図であって、BaOとTiOの混合割合を横軸に、温度を縦軸として、混合物がどのような結晶形をとるかを示した図である。
【図2】実験に用いた白金るつぼとアルミナるつぼの概略構成図である。
【図3】実験1により得られた無色透明の針状結晶Aの概観を撮影した写真である。
【図4】実験2により得られた無色透明の針状結晶Bと黄色の有色透明の粒状結晶Cの概観を撮影した写真である。
【図5】実験3により得られた固体の概観を撮影した写真である。
【図6】結晶AのX線回折パターンを示した図である。
【図7】結晶BのX線回折パターンを示した図である。
【図8】固体DのX線回折パターンを示した図である。
【図9】結晶A、結晶Bおよび固体Dと同様の測定機器で測定した立方晶BaTiOのX線回折パターンを示した図である。
【図10】結晶Aの組成をBaTix+2yにより表したときのBaとTiの存在比を示す図である。
【図11】誘電率測定のために作成した試料の概念図である。
【図12】c軸方向についての室温における結晶Aの誘電率の周波数特性を示す図である。
【図13】c軸に垂直な方向についての室温における結晶Aの誘電率の周波数特性を示す説明図である。
【図14】結晶A(サンプル番号A1)の誘電率の温度依存の特性を測定した図である。
【図15】結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第1回目の測定結果を示した図である。
【図16】結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第2回目の測定結果を示した図である。
【図17】結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第3回目の測定結果を示した図である。
【図18】結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第4回目の測定結果を示した図である。
【図19】結晶A(サンプル番号A2)の誘電率の温度依存特性について、第5回目の測定結果を示した図である。
【図20】結晶A(サンプル番号A3)の誘電率の温度依存特性について、第1回目の測定結果を示した図である。
【図21】結晶A(サンプル番号A3)の誘電率の温度依存特性について、第2回目の測定結果を示した図である。
【図22】結晶A(サンプル番号A2)と立方晶BaTiOの誘電率の温度依存特性を比較した図である。
【図23】結晶B(サンプル番号B1)の誘電率の温度依存の特性を測定した図である。
【図24】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第1回目の測定結果を示した図である。
【図25】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第1回目の測定結果を示した図である。
【図26】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第2回目の測定結果を示した図である。
【図27】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第2回目の測定結果を示した図である。
【図28】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の第3回目の測定結果を示した図である。
【図29】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の第3回目の測定結果を示した図である。
【図30】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、1000kHの交流電場に対する3回のヒーティング結果を重ね合わせた図である。
【図31】固体D(サンプル番号D1)の誘電率の温度依存特性について、1000kHの交流電場に対する3回のクーリング結果を重ね合わせた図である。
【図32】結晶C(サンプル番号C1)の誘電率の温度依存特性について、ヒーティングの場合の測定結果を示した図である。
【図33】結晶C(サンプル番号C1)の誘電率の温度依存特性について、クーリングの場合の測定結果を示した図である。
【図34】透明結晶とサンプルA2の2回の測定経過後の着色の様子を示した図である。
【図35】結晶Aのキュリー温度付近の導電率σを示した図である。
【図36】結晶Bのキュリー温度付近の導電率σを示した図である。
【図37】サンプルA2に対する第3回目の測定の3000kHzの誘電率の温度特性のデータに基づいて、TとCを求める際の外挿図である。
【図38】サンプルB1の3000kHzの誘電率の温度特性のデータに基づき、TとCを求める際の外挿図である。
【図39】結晶AのD-E履歴曲線を示した図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
33
【図35】
34
【図36】
35
【図37】
36
【図38】
37
【図39】
38