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明細書 :手術用縫合糸

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4670037号 (P4670037)
公開番号 特開2006-025867 (P2006-025867A)
登録日 平成23年1月28日(2011.1.28)
発行日 平成23年4月13日(2011.4.13)
公開日 平成18年2月2日(2006.2.2)
発明の名称または考案の名称 手術用縫合糸
国際特許分類 A61B  17/04        (2006.01)
A61L  17/00        (2006.01)
FI A61B 17/04
A61L 17/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 18
出願番号 特願2004-205078 (P2004-205078)
出願日 平成16年7月12日(2004.7.12)
審査請求日 平成19年6月12日(2007.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
発明者または考案者 【氏名】森 隆治
個別代理人の代理人 【識別番号】100078190、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 三千雄
【識別番号】100115174、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 正博
審査官 【審査官】佐々木 秀次
参考文献・文献 登録実用新案第3069906(JP,U)
特開平04-307052(JP,A)
特表2007-515212(JP,A)
調査した分野 A61B17/00-17/60
A61L15/00-33/18
特許請求の範囲 【請求項1】
内部が長手方向に中空状となるように編組された筒状糸から少なくとも構成されてなる長手の糸本体と、該糸本体の前記筒状糸の一方の端部に固定的に取り付けられた、該筒状糸をその直径方向に刺通し得るサイズの糸結び補助用の丸針とを有し、該筒状糸の他方の端部に取り付けられる縫合針によって目的とする縫合が行われるようにする一方、該糸本体の糸結びの途中において、結び目に位置する筒状糸の部位に前記丸針を刺通させることにより、該筒状糸同士が縫い合わされ得るようにしたことを特徴とする手術用縫合糸。
【請求項2】
前記目的とする縫合を行うための縫合針が、前記筒状糸の他方の端部に固定的に取り付けられている請求項1に記載の手術用縫合糸。
【請求項3】
前記糸本体が、前記筒状糸と、該筒状糸の中空部内の長手方向に非固定状態で収容された芯糸とを含んで、構成されていると共に、該芯糸の少なくとも一方の端部が該筒状糸から外部に突出せしめられており、該芯糸がその突出端部を用いて該筒状糸から引き抜かれることにより、該筒状糸の中空部内が空洞と為され得るようになっている請求項1又は請求項2に記載の手術用縫合糸。
【請求項4】
前記芯糸の突出端部が、前記筒状糸の筒壁部を内側から外側に貫通して突出せしめられた芯糸端部にて構成される請求項3に記載の手術用縫合糸。
【請求項5】
前記芯糸の突出端部が、前記筒状糸の前記他方の端部から長手方向に突出せしめられた芯糸端部にて構成されている請求項3又は請求項4に記載の手術用縫合糸。
【請求項6】
前記筒状糸の中空部内に注射針の針部が挿入、固定され、該注射針を通じて所望の薬液が該筒状糸の中空部内に注入せしめられ得るようになっている請求項1乃至請求項5の何れかに記載の手術用縫合糸。
【請求項7】
前記糸本体を挟み込み得るスリットを設けた固定用部材が取り付けられた注射針が組み合わされてなり、該注射針の針部が前記筒状糸の中空部内に挿入せしめられる一方、該固定用部材のスリットに前記糸本体を挟み込むようにすることによって、該注射針が該糸本体に固定されるようになっている請求項1乃至請求項5の何れかに記載の手術用縫合糸。
【請求項8】
前記糸本体を挟持し得るクリップが取り付けられた注射針が組み合わされてなり、該注射針の針部が前記筒状糸の中空部内に挿入せしめられる一方、該クリップにて前記糸本体を挟持することによって、該注射針が該糸本体に固定されるようになっている請求項1乃至請求項5の何れかに記載の手術用縫合糸。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、実用性に優れた手術用縫合糸に係り、特に、強固な結節部を形成し得ると共に、薬液を確実に注入することが可能な手術用縫合糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アキレス腱断裂の治療には、手術を行わずに、ギブス固定のみで治す保存的治療と、断裂したアキレス腱を縫合する手術的治療とが、採用されてきている。そして、それらの中でも、前者の保存的治療には、手術を行わないというメリットがあるものの、ギブスにて長期間に亘って固定する必要があり、また、再断裂を起こし易い傾向があることが認められている。このため、例えば、スポーツ選手等、早期回復を望む患者に対しては、一般に、手術的治療法が採用されているのであるが、この手術的治療法にあっても、手術後の一定期間、ギブスにて固定することが必要であり、スポーツ復帰には、通常、6ケ月程度の期間を要している。従って、手術後、より一層早く且つ確実に手術縫合部を治癒せしめることが、切望されている。
【0003】
ところで、断裂したアキレス腱の縫合には、従来より各種の縫合糸が使用されて来ているのであるが、よく知られているように、アキレス腱は非常に強い力が加わる部分であるところから、アキレス腱を縫合する縫合糸としては、糸自身において、抗張力が強く、伸び難いことに加えて、縫合糸の結び目(結節)部分が解け難いもの(表面がツルツルして滑り易いものではないもの)、更には、解離した組織の癒合を促進することが出来るものが、より一層望ましいと考えられる。なぜなら、縫合糸の結び目が解け易い場合には、縫合したアキレス腱に力が加わった際に、縫合糸が生体組織から引き抜けてしまい、再断裂に至らないまでも、縫合部が再解離し、ギャップが生じて、治癒が遅れてしまうことになりかねないからである。
【0004】
例えば、図1は、縫合された腱に対して各種引張力を作用せしめた際における縫合部の状態を示す写真であるが、そこでは、大きな引張力が作用したときには、縫合部が解離し、更には断裂してしまう状態が示されているのである。より具体的には、図1の(a)には、引張力が加えられていない場合の、また(b)には、100Nの引張力が加えられた場合の、更に(c)には、340Nの引張力が加えられた場合の、縫合された腱の写真が、それぞれ、示されている。このように、縫合糸自体が切断したり、また縫合糸が伸び易いものであったり、更には結節部が解け易いものであったりすると、癒合した組織が再解離し、ギャップが生じ易く、その結果、治癒が遅れることとなるのである。
【0005】
加えて、手術には、一般に、感染症の予防が常に重要となっているのであるが、上記のアキレス腱の縫合術に用いられる縫合糸は、免疫機構が働かない生体以外の組織(異物)であるために、感染に弱い等といった欠点をも内在しているのである。
【0006】
なお、アキレス腱縫合術を含む手術用の縫合糸としては、これまでに、各種のものが提案されている(例えば、特許文献1~4参照)が、大きな力が加えられるアキレス腱等の腱や靱帯の縫合に際しては、より一層優れた結節性を実現するもの、更には、生体組織の癒合を促進せしめ得るものが、要求されており、従来の縫合糸は、そのような要求に充分に応え得るものではなかったのである。
【0007】
また、スポーツ選手においては、アキレス腱の断裂の他にも、膝を捻る等して、膝靱帯である前十字靱帯を断裂する場合があるが、この場合の治療法としては、靱帯縫合術は殆んど採られず、一般に、自家の他の健全な腱を採取して移植する靱帯再建術が採用されている。これは、前十字靱帯の縫合がアキレス腱の縫合よりも難しいことや、前十字靱帯の組織が癒合し難く、しかも、膝には力がかかり易くて、再断裂し易いからである。従って、優れた結節性を実現し、且つ膝靱帯組織の癒合を促進できる縫合糸が登場すれば、前十字靱帯においても、その縫合術が有効となる可能性を秘めている。
【0008】

【特許文献1】実公平4-2668号公報
【特許文献2】実開平6-44548号公報
【特許文献3】特開平6-14987号公報
【特許文献4】特開平6-245989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、手術縫合部を早く且つ確実に治癒させるために、緩み難い強固な結び目乃至は結節部を確実に形成することが出来る手術用縫合糸を提供することにあり、また別の解決課題とするところは、生体組織の癒合促進や感染症の防止を図るための薬液を、効率良く、簡便に付与することの出来る手術用縫合糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、上述の如き課題を解決するために為されたものであって、その第一の態様とするところは、内部が長手方向に中空状となるように編組された筒状糸から少なくとも構成されてなる長手の糸本体と、該糸本体の前記筒状糸の一方の端部に固定的に取り付けられた、該筒状糸をその直径方向に刺通し得るサイズの糸結び補助用の丸針とを有し、該筒状糸の他方の端部に取り付けられる縫合針によって目的とする縫合が行われるようにする一方、該糸本体の糸結びの途中において、結び目に位置する筒状糸の部位に前記丸針を刺通させることにより、該筒状糸同士が縫い合わされ得るようにしたことを特徴とする手術用縫合糸にある。
【0011】
また、本発明に従う手術用縫合糸における第二の態様にあっては、前記目的とする縫合を行うための縫合針が、前記筒状糸の他方の端部に固定的に取り付けられる構成が採用されることとなる。
【0012】
さらに、本発明に従う手術用縫合糸の第三の態様においては、前記糸本体が、前記筒状糸と、該筒状糸の中空部内の長手方向に非固定状態で収容された芯糸とを含んで、構成されていると共に、該芯糸の少なくとも一方の端部が該筒状糸から外部に突出せしめられており、該芯糸がその突出端部を用いて該筒状糸から引き抜かれることにより、該筒状糸の中空部内が空洞と為され得るようになっている。
【0013】
加えて、本発明の第四の態様においては、前記芯糸の突出端部が、前記筒状糸の筒壁部を内側から外側に貫通して突出せしめられた芯糸端部にて構成される。
【0014】
また、本発明に従う手術用縫合糸の第五の態様では、前記芯糸の突出端部が、前記筒状糸の前記他方の端部から長手方向に突出せしめられた芯糸端部にて構成されている。
【0015】
さらに、本発明の好ましい第六の態様にあっては、前記筒状糸の中空部内に注射針の針部が挿入、固定され、該注射針を通じて所望の薬液が該筒状糸の中空部内に注入せしめられ得るようになっている。
【0016】
更にまた、かかる本発明に従う手術用縫合糸の第七の態様においては、前記糸本体を挟み込み得るスリットを設けた固定用部材が取り付けられた注射針が組み合わされてなり、該注射針の針部が前記筒状糸の中空部内に挿入せしめられる一方、該固定用部材のスリットに前記糸本体を挟み込むようにすることによって、該注射針が該糸本体に固定されるようになっている。
【0017】
一方、本発明の望ましい第八の態様においては、前記糸本体を挟持し得るクリップが取り付けられた注射針が組み合わされてなり、該注射針の針部が前記筒状糸の中空部内に挿入せしめられる一方、該クリップにて前記糸本体を挟持することによって、該注射針が該糸本体に固定されるようになっている。
【発明の効果】
【0018】
そして、このような本発明に従う手術用縫合糸における、先述した第一の態様によれば、糸本体として、内部が長手方向に中空状となるように編組された筒状糸を少なくとも含んで構成されたものが採用されているところから、糸結び後の結び目(結節部)においては、連結される両側の筒状糸部位同士が絡み合うと共に、内方に縮径するようにして潰れた状態で結ばれることとなるため、中実の縫合糸を用いる場合に比して、強固な結び目が形成されるようになるのである。
【0019】
しかも、筒状糸の一方の端部には、所定サイズの糸結び補助用の丸針が取り付けられているところから、糸結び乃至は結節の際、結び目乃至は結節部に位置する筒状糸の部位に、かかる丸針を刺通させて、筒状糸同士を縫い合わすことが可能となっているのであり、これにて、更に強固な結び目(結節)を、より一層確実に形成せしめることが出来るようになると共に、縫合糸の結び目が解けてしまうようなことが有利に解消され得ることとなるのである。また、ここでは、糸本体(筒状糸)として、中空部を有し、且つ編組されたものが採用されているところから、かかる筒状糸に、糸結び補助用の丸針を、難なく容易に刺し込むことが出来るようになっている一方、筒状糸に丸針を刺通しても、更には筒状糸に筒状糸自身が貫通しても、筒状糸は、その編目の部分にて糸の組織が緩むことによって損傷を受けるようなことがなく、加えて、糸結び補助用の針として、先端部以外の外表面が角張っていない丸針が採用されているところから、針の外表面で、筒状糸自体を傷付けてしまったり、或いは何等かの拍子に生体組織を誤って傷付けてしまうようなことも、有利に防止され得るのである。
【0020】
また、ここで、かかる本発明において採用される糸結び補助用の丸針としては、筒状糸をその直径方向に容易に刺通し得るサイズの針であれば、特に制限されるものではないものの、一般に、筒状糸と同程度若しくはそれよりも小さな断面直径を有するものであって、生体組織を縫合するための縫合針に比して、サイズ(太さや形状)の小さな針が、有利に選択されることとなる。
【0021】
さらに、本発明に従う上述の如き手術用縫合糸は、編組された筒状糸を用いて構成されているところから、使用前に、その中空部内に所望の薬液を効率的に導入することが出来るという大きな特徴を有している。そして、そのような中空部内に導入された薬液中の薬剤(細胞等も含む)は、縫合部において、徐々に放出されて、生体組織に供給され、その結果、縫合部の生体組織の癒合が顕著に促進せしめられたり、感染症の発生が有利に防止され得ることになる。
【0022】
なお、本発明に従う手術用縫合糸の第二の態様によれば、前記糸結び補助用丸針が取り付けられた端部とは反対側の端部に、アキレス腱縫合や屈筋腱縫合等、目的とする縫合を行うための縫合針が、予め取り付けられているところから、手術に先立って、医療関係者が、かかる端部に縫合針を取り付ける手間がなくなるといった利点が得られる。
【0023】
また、本発明に従う手術用縫合糸の第三の態様によれば、上述せる如き筒状糸の中空部内に、取り出し可能な状態で、芯糸が収容されているところから、手術用縫合糸を使用に供するまでの間、糸本体の筒状部の中空部が、折り曲げや外力によって、潰れるようなことが極めて効果的に防止され得るという特徴を有している。このため、縫合手術の直前に芯糸を引き抜き、これにて形成される筒状糸の中空部(空洞)内に、所望とする薬液を導入するようにすれば、薬液が内部で詰まるようなことが有利に阻止され得るという特徴が発揮されるのである。
【0024】
さらに、本発明に従う手術用縫合糸の上記した第四の態様や第五の態様によれば、芯糸の突出端部を簡単に把持乃至は挟持することが可能となり、その突出端部を筒状糸に対して相対的に引っ張ることにより、芯糸を容易に引き抜くことが出来、以て筒状糸の空洞化が容易に実現され得ることとなる。
【0025】
更にまた、本発明に従う手術用縫合糸の第六乃至第八の各態様によれば、筒状糸の中空部内に、安定的に薬液を導入することが可能となる特徴を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0027】
先ず、図2には、本発明に従う構造を有する手術用縫合糸の一実施形態が、平面図の形態において、示されている。そして、かかる図2から明らかなように、本実施形態の手術用縫合糸10は、主として、長手の糸本体12から構成されており、また、この糸本体12の一方の端部には、糸本体12をその直径方向に刺通することの出来る、比較的に小さなサイズ(太さや形状)の糸結び補助用の丸針14が、一体的且つ固定的に取り付けられている一方、その他方の端部には、アキレス腱や屈筋腱等、目的とする生体組織を刺通して、生体組織に糸本体12を通すための縫合針16が、一体的且つ固定的に取り付けられている。即ち、本実施形態の手術用縫合糸10は、糸本体12と、その両端にそれぞれ固定的に取り付けられた糸結び補助用丸針14及び縫合針16とを有して、構成されているのである。
【0028】
より具体的には、手術用縫合糸10を構成する糸本体12は、目的とする生体組織を縫合することが可能な太さと長さとを全長に亘って有している。また、この糸本体12は、図3の(a)に示される部分拡大図や、図3の(b)や(c)に示される横断面図及び縦断面図からも明らかなように、内部が長手方向に中空状となるように組紐状に編組された1本の長手の筒状糸18と、かかる筒状糸18の中空部(内孔)20内に抜出し可能に収容された1本の長手の芯糸22とを有して、構成されている。
【0029】
また、筒状糸18内の芯糸22は、筒状糸18の内径(内寸)と略同程度か、それよりも僅かに小さな太さを有している一方、その長さは適宜に選定され、例えば、筒状糸18の長さと同程度か、それよりも或る程度短い長さとされたり、或いは筒状糸18よりも長い長さとされる。また、芯糸22は、図3に示される如く、筒状糸18の中空部20内に、筒状糸18に対して非固定状態で収容、配置されていると共に、ここでは、芯糸22の両端(24a,24b)が、所定の長さだけ、筒状糸18の筒壁部を内側から外側に貫通して突出せしめられている。このため、かかる芯糸22の突出端部24a,24bのうちの何れか一方を、外方に引っ張れば、芯糸22が、筒状糸18の中空部20内から容易に引き抜かれ得るようになっている。
【0030】
そして、かくの如き構成の本実施形態に係る手術用縫合糸10にあっては、その芯糸22が引き抜かれて、筒状糸18の中空部20内が空洞と為された状態で、使用に供されることとなる。従って、このように、使用までの間、筒状糸18の中空部20に、芯糸22が収容されていることによって、かかる筒状糸18の中空部20が押し潰されてしまうようなことが、有利に防止され得るようになっているのである。具体的には、手術用縫合糸は、一般に、長尺なものであるところから、リール等に巻回された状態で市販されるのであるが、そのような巻回によって外力が加えられても、中空部20内に芯糸22が存在することによって、中空部20が潰れて、対向する筒壁部同士が接触するようなことが、効果的に回避され得るのである。
【0031】
なお、かかる手術用縫合糸10において、筒状糸18内に収容される芯糸22は、縫合時に、筒状糸18から引き抜かれるものであるところから、その材質や形状が、特に制限されるものではないが、病原性や発癌性、毒性などが無く、無菌であると共に、適度な柔軟性を有し、筒状糸18から引き抜く際に切れない程度の抗張力を有していることが望ましく、そして、そのような特性を有する従来から公知の糸が、芯糸として採用されることとなる。また、芯糸22の形態にあっても、図2や図3おいては、編糸(組紐)として示されているものの、そのような編糸の他にも、単糸や撚糸であっても、何等差支えない。また、芯糸22の長さや外径にあっても、筒状糸18の長さや内径に応じて適宜に設定され得るものである。更に、かかる芯糸22を、筒状糸18の中空部20内に収容する手法としては、筒状糸18を編組した後、その中空部20内に芯糸22を挿入させる手法や、芯糸22を中心に、その周囲に筒状糸18を編組する手法等、従来から公知の手法が採用されることとなる。
【0032】
一方、筒状糸18は、手術用縫合糸10の主たる構成部材であって、編組によって形成されるものである。そして、そのような編組糸にて与えられる筒状糸18の径方向の中央部には、中空部20が長手方向の全長に亘って形成されている。なお、このような筒状糸18を与えるフィラメントとしては、生体組織への悪影響が少なく、適度な伸び及び硬さ(柔軟性)を有し、且つ抗張力の高い材質からなるものが望ましく、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ザイロン(商品名)、ポリアリレート、ポリグリコール酸、ポリグラクチン、ポリディオキサノン、ポリグリカプロン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブからなるものを挙げることが出来、これらのうちの少なくとも1種のフィラメント、又は2種以上のフィラメントを組み合わせて用いて形成される筒状(中空状)糸を、採用することが出来る。なお、この筒状糸18は、生体内で分解されるものであっても、そうではないものであっても、何等差支えない。
【0033】
また、かかる筒状糸18の外径(外寸)は、被縫合物に応じて適宜に設定されるものではあるが、アキレス腱や屈筋腱等の腱や靱帯を縫合する場合には、通常、0.31~3.0mm(ここで、0.31mmは、USP規格の2-0に相当する。)程度、好ましくは1.0~2.0mm程度のものが望ましい。また、筒状糸18の内径(内寸:対向する筒壁面間の距離)としては、強固な結び目が形成され得るように、更には、後述する薬液が中空部20内に良好に注入され得るように、外径の50~95%程度、好ましくは外径の70~90%程度の大きさが望ましく、具体的には、0.30~2.9mm(ここで、0.30mmは、30G needleに相当する。)程度、好ましくは0.7~1.8mm程度のものが、望ましい。更に、筒状糸18の長さにあっても、特に制限されるものではなく、従来の縫合糸と同様な長さ、例えば、50~70cm程度が採用される。
【0034】
このように、本実施形態においては、糸本体12が、中空部を有する編組筒状糸18にて少なくとも構成されているところから、縫合時の糸結びにおいて、連結される両側の筒状糸部位が良好に絡み合い、また、内方に縮径して潰れた状態で糸同士が結ばれるため、同材質の中実の縫合糸にて結び目を形成する場合に比して、より一層解け難い結び目が形成されることとなる。
【0035】
また、糸本体12を実質的に構成する筒状糸18の一方の端部に固定的に取り付けられた丸針14は、横断面が円形形状を呈するものであって、先端部が尖鋭となっていること以外、丸針14の外表面は、角張っていない滑らかな表面とされている。このため、かかる丸針14の外周面で、筒状糸18を傷つけたり、或いは何等かの拍子に生体組織を誤って傷つけてしまうようなことも、良好に防止され得るといった特徴を有している。
【0036】
さらに、かかる丸針14は、一般に、筒状糸18を、その直径方向に刺通し得るサイズ(太さや長さ、形状)や材質とされている。具体的には、丸針14の太さとしては、丸針14を刺通した筒状糸18の部位において、筒状糸18が破損して切れてしまうようなことがないように、筒状糸18の太さと同程度か、それよりも小さな断面直径を有するものが、好適に用いられることとなる。また、丸針14の長さとしては、特に制限されるものではないものの、長過ぎたり、短過ぎると、取り扱い難くなるところから、通常、7~15mm程度とされることが望ましい。更に、丸針14の形状としては、図2に示される円弧状の他にも、直線状のもの等、筒状糸18をその直径方向に刺通し得るものであれば、従来より公知の形状のものが何れも採用され得る。加えて、丸針14の材質にあっても、筒状糸18をその直径方向に刺通し得る程度の硬さを有するものであれば、公知の金属製及び樹脂製の針を、何れも採用することが出来る。
【0037】
そして、上述せる如き丸針14が、筒状糸18に刺し通されることによって、丸針14に連結された筒状糸18も筒状糸18に通されることとなるのである。つまり、本実施形態に係る手術用縫合糸10は、筒状糸18に取り付けられた丸針14によって、筒状糸18同士を縫い合わせることが出来るようになっているのである。
【0038】
特に、本実施形態においては、糸本体12として、単なる単糸や撚糸ではなく、中空部を有し且つ編組された筒状糸18が用いられているところから、上記した丸針14を容易に刺通することが出来るのであり、更には筒状糸18が通っても、筒状糸18は、編目の部分で、編目組織が緩んで隙間が形成されるところから、刺通によって、筒状糸18が破損するようなことが、極めて効果的に防止され得ることとなる。
【0039】
ところで、上述せる如き丸針14を、筒状糸18に固定的に取り付けるには、例えば、接着剤で固着したり、筒状糸18を丸針14にてかしめたりする等、公知の手法が採用されることとなるが、刺通時に丸針14と筒状糸18の接続部位がスムーズに通るように、接続部位に、外方に突出する瘤を出来るだけ作らないように、それらを接続することが望ましい。
【0040】
一方、筒状糸18の他方の端部に、常法に従って固定的に取り付けられた縫合針16は、生体組織を縫合するために用いられる金属製の針であって、ここでは、上記の糸結び補助用丸針14と比べてサイズが顕著に大きな縫合針が取り付けられている。なお、縫合針16のサイズは、目的とする生体組織の縫合に応じて、適宜に選択されるものであるが、丸針14に比べて、サイズ(太さや形状)が大きなものが用いられる。
【0041】
そして、本実施形態に係る手術用縫合糸10にあっては、目的とする縫合を行うための縫合針16が、筒状糸18の他方の端部に予め取り付けられているところから、医師等の医療従事者が、手術に先立って、縫合針16を取り付ける必要がなく、手間が省かれるといった利点を有している。しかしながら、かかる縫合針16は、本発明において、必ずしも取り付けられている必要はなく、医師等の医療従事者が、所望とする縫合針を、自ら取り付けるようにすることも、勿論、可能である。
【0042】
ところで、かくの如き構造とされた本実施形態の手術用縫合糸10を用いて、目的とする縫合を行う際には、例えば、以下の如き手順に従って、その作業が進められることとなる。
【0043】
すなわち、先ず、筒状糸18の筒壁部の内側から外側に貫通して突出された芯糸22の突出端部24a,24bのうちの何れか一方が外方に引っ張られることによって、筒状糸18から芯糸22が引き抜かれ、筒状糸18の中空部20内が空洞とされる。
【0044】
次いで、空洞とされた中空部20内に、所望の薬液が導入される。このとき、薬液の導入方法としては、特に制限されるものではないものの、薬液が中空部20内に確実に導入され得るように、注射器を用いた注入方式が、好適に採用されることとなる。具体的には、図4の(a)に、注射器本体の先端に取り付けられる注射針の一具体例が示されているが、かかる注射針26は、金属製の鋭利な先端を有し、且つ筒状糸18の中空部内に挿入され得る大きさ(例えば、30G、径:0.3mm)の針部28と、針部28を固定的に支持すると共に、図示しない注射器本体に接続される樹脂製の基部(接続部)から構成されており、その針部28を、図4の(b)に示されるように、筒状糸18の中空部20内に挿入し、その後、かかる注射針26を通じて、所望の薬液を注入するようにすれば、筒状糸18の中空部20内に、極めて簡便に薬液を注入することが出来る。なお、図4には、シリンダーとピストンとを有して構成される注射器本体が図示されてはいないものの、所定量の薬液(例えば、1mlの薬液)が収容された注射器本体のシリンダーの先端部が、常法に従って、針部28が固着された基部の端部の円筒部30内に嵌挿されることとなるのであり、そして、注射針に取り付けられた注射器本体のピストンが押圧されることによって、注射器に収容された薬液が、注射針26を通じて、筒状糸18の中空部20内に注入されるようになる。
【0045】
そして、注入された薬液は、筒状糸18の内面(筒壁面)を伝うようにして浸透せしめられる。例えば、筒状糸18の長手方向が鉛直となるように筒状糸18を保持し、上方より薬液を注入するようにすれば、注入された薬液は、重力と表面張力(毛細管現象)によって、筒壁面に均一に広がりつつ、下方に広がっていくのである。なお、薬液の注入状態は、親水性若しくは疎水性の何れの材質からなる筒状糸であっても、筒状糸18の筒壁部の隙間から少量の薬液が外表面に出るため、これを観察すれば、薬液の注入状態を目視で容易に確認することが出来るようになっている。なお、中実糸に対して薬液を付与する場合には、糸表面からの浸透となるため、薬液が浸透し難かったり、大量の薬剤が必要になる等して、貴重な薬液が無駄となる傾向がある。
【0046】
また、かかる薬液は、手術用縫合糸10の全長に亘って導入されても良いが、貴重な薬液の場合には、その使用量を最小限に抑えるべく、手術者が把持する部分を除いた部分(例えば、縫合糸の全長が50~70cmの場合、30cm程度の長さ部分)や、縫合によって生体組織に接触する部分に相当する部分のみに導入されても良い。
【0047】
このように、本実施形態の手術用縫合糸10は、中実糸ではなく、筒状糸(中空糸)にて構成されているところから、使用直前に、その中空部20内に所望の薬液を簡便に導入することが出来るという有利な特徴を具備しているのである。
【0048】
なお、手術用縫合糸10(筒状糸18)に導入される薬液としては、例えば、(1)蛋白質やペプチド又はそれらをコードする核酸を含む液剤、(2)抗生物質を含む液剤、(3)血液製剤(赤血球、血小板、フィブリン)を含む液剤、(4)治療用細胞を含む液剤及び(5)これら液剤の組合せ等を挙げることが出来る。これらの薬液は、流動性を有するものであれば良く、溶液状の他、ゾル状やエマルジョン状のものであっても何等差支えない。また、上記の薬液に含まれる薬剤は、ヒドロゲル等からなる微小ビーズや、赤血球等の内部に封入された形で、薬液中に含有せしめられていても良い。ここで、上記(1)の具体例としては、骨誘導因子(BMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDG)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、成長ホルモン(GH)、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)、ラミニン、及びフィブロネクチンからなる群より選択された少なくとも一種の蛋白質やペプチド、又はそれらをコードするDNA配列に機能的に結合したDNA分子などを挙げることが出来る。このような薬液の選択は、手術前に先立って行われる場合の他、手術中に必要に応じて適切な薬剤を組み合わせる場合がある。
【0049】
かくして、上述せる如き薬液が導入された手術用縫合糸10(筒状糸18)は、そのまま、或いは乾燥された後、使用される。そして、縫合操作が行なわれると、薬液中に含有されていた薬剤が、縫合部の生体組織に確実に供給されることとなる。また、薬剤は、筒状糸18の内部に長期に亘って留まるため、筒状糸18の表面から縫合部の生体組織に徐々に放出される。このため、縫合部の生体組織は、長期に亘って薬剤の供給を受けることが出来、以て、治癒効果が効果的に促進せしめられたり、感染症の発生が極めて効果的に防止され得るようになる。これに対して、薬剤が縫合糸の表面にのみコーティングされてなるものを用いた場合には、縫合操作の途中で、生体組織内を縫合糸が通って、生体組織に縫合糸が擦られることによって、縫合糸の表面にコーティングされている薬剤が擦り取られてしまうという問題が生じると共に、薬剤が生体組織に早期に吸収されて、上述せる如き長期に亘る除放性効果を期待することも出来ないという欠点を内在する。
【0050】
また、特に、薬液として、後述せる如き薬剤を含有せしめたものを用いる場合には、周囲から侵入する細胞と共同して、筒状糸18の内部に組織が形成されるようにもなる。つまり、筒状糸18の内部に留まる薬剤が、筒状糸18内への生体組織の侵入を促すのである。例えば、BMPは、筒状糸18内に骨を形成させる。また、FGFは、筒状糸18内に線維組織を形成させ、更に、筒状糸18内に導入された細胞は、自ら組織を形成する。このように、適切な薬剤(細胞を含む)を筒状糸18内に導入すれば、外部と同じ組織が内部にも形成され、筒状糸18は、その内外から組織に固定されるようになるのである。このような現象は、従来の中実糸からなる縫合糸では、起こり得ず、この現象によって、縫合糸(筒状糸18)と生体組織の固定性が飛躍的に向上せしめられることとなり、以て、縫合部全体の強度が著しく向上して、縫合手術後の再断裂を効果的に防止することが出来るようになる。このため、従来においては、手術後のリハビリテーション等で、縫合部に引っ張り負荷がかかると、縫合部にギャップが生じることがあったのであるが、縫合糸と生体組織が一体となって固定されると、ギャップが生じ難くなり、癒合が促進されるようになるといった効果が得られる。
【0051】
ところで、本実施形態に係る手術用縫合糸10は、上記した注射針26が、筒状糸18に、予め、固定的に取り付けられた構成とされていても良く、そのような構成を採用することによって、注射針26が抜け出るようなことが防止されて、筒状糸10の中空部20内に、薬液を安定的に導入することが出来るといった利点がある。ここで、注射針26を筒状糸18に固定する形態の一つとして、スリットに筒状糸18を固定せしめる構造が挙げられる。即ち、図5の(a)及び(b)に示されるように、注射針26の針部28の根元付近に、筒状糸18(糸本体12)を挟み込み得る大きさのV字状スリット孔32が形成された樹脂板乃至は金属板からなる固定用部材34を設ける。そして、かかる固定用部材34が一体的に設けられた注射針26の針部28を、図5の(c)に示されるように、芯糸22が内部に存在しない筒状糸18(糸本体12)の中空部20内に挿入する。この針部28の挿入によって注射針26側に配置される筒状糸18の部分(図中、針挿入部36から左側に位置する筒状糸18の部位)を、固定用部材34のスリット孔32に挟み込むことによって、注射針26が、筒状糸18に固定されるようにするのである。
【0052】
また、別の固定形態としては、例えば、図6の(a)に示されるように、図6の(b)に示される如き形状のクリップ38を、接着剤などを用いて、注射針26に固定的に取り付け、そして、図6の(c)に示されるように、クリップ38が取り付けられた注射針26の針部28を、芯糸22が内部に存在しない筒状糸18(糸本体12)の中空部20内に挿入すると共に、かかる針部28が挿入された筒状糸18の部位を、クリップ38で挟持することによって、固定せしめる構造が挙げられる。
【0053】
より具体的には、図6の(b)に示されるクリップ38は、従来より紙を挟むために用いられているクリップと同様のものであって、弾性作用を発揮するスプリング部40と筒状糸18を挟持するための一対の挟持部42,42とが一枚の金属板にて構成された三角筒状の弾性挟持部材44と、スプリング部40の弾性作用によって一対の挟持部42,42を開口させる(図6(a)中、クリップ38の右側端部において、当接された上下板状部を、それぞれ、上方及び下方に移動させる)ための一対の金属製ハンドル部46,46とを有して構成されている。なお、それら一対のハンドル部46,46は、よく知られているように、弾性挟持部材44の挟持部42,42において、回動可能に取り付けられている。そして、本実施形態においては、矩形形状のスプリング部の略中央部に、注射針26の針部28を通すことが可能な大きさの、円形形状の取付孔48が設けられており、この取付孔48に、スプリング部40側から挟持部42,42側に向かって、注射針26の針部28を貫入し、接着剤などを用いて、注射針26の針部28の根元の部分をスプリング部40に固定することによって、それら注射針26とクリップ38とが一体化されている。このとき、注射針26の針部28は、クリップ38の挟持部42,42よりも外方に突出した状態となっている。そして、このような構造のクリップ38付き注射針26の針部28を、ハンドル部46,46の自由端部が接近するように押圧して、挟持部42,42を開口せしめた状態で、筒状糸18の中空部20内に挿入し、その後、かかるハンドル部46,46の押圧を解除するようにすれば、挟持部42,42が閉じて、それら挟持部42,42にて筒状糸18と針部28が同時に挟まれて、それらが相対移動不能に固定されるようになるのである。
【0054】
このように、図5や図6に示される如くして、前もって、注射針26が手術用縫合糸10の筒状糸18に固定的に装着されていることにより、手術時に、細径の縫合糸に注射針26を挿入するといった、煩雑で細かな手作業を何等行う必要がなくなると共に、注入操作中に注射針が抜けてしまうようなことが有利に防止され、以て、筒状糸18の中空部20内に、所望とする薬液を容易に且つ安定的に注入することが出来るのである。また、上述せる如き形態にて筒状糸18に固定された注射針26は、薬液の注入の後、容易に取り外すことが出来るため、かかる注射針によって、その後の縫合操作や糸結び操作が阻害されるようなこともなく、それらの操作が良好に実施されることとなるのである。なお、注射針26の取付け位置は、芯糸22が内部に存在しない筒状糸18の部位であれば、特に制限されるものではなく、薬液の種類や目的とする縫合に応じて、適宜に設定されることとなる。
【0055】
また、図4乃至図6に示される注射針26は、薬液の注入後に、筒状糸18の中空部20内に挿入された針部28が引き抜かれて、取り外され得るようになっているが、図7の(a)に示されるように、可撓性のある柔軟な材料からなる針部50を具備する注射針52を用いる場合には、薬液の注入後、針部50を基部54から切り離して、かかる針部50を筒状糸18(糸本体12)の中空部20内に収容するようにすることも可能である。より具体的には、注射針52は、曲げ変形を容易に行うことが出来る樹脂材料からなる針部50と、かかる針部50を支持すると共に、図示しない注射器本体に接続される基部(接続部)54とを有して構成されている。そして、かかる注射針52の針部50が、図7の(b)に示されるように、筒状糸18の中空部20内に挿入される。このとき、針部50は、その根元部分56で筒状糸18に皺が形成されるように挿入されると共に、根元部分56よりも先端側の部位(針部50の長さ方向中央の部位)で、接着剤58等の固着手段によって筒状糸18に固着される。
【0056】
そして、このようにして、注射針52が取り付けられた状態で、図8に示されるように薬液の注入が行われた後、注射針52の基部54を切り離し、針部50の根元部分56に形成された筒状糸18の皺を伸ばす(図8中、右方向に伸ばす)と、針部50が筒状糸18の中空部20内に、注射針52の針部50が収容されるようになっているのである。かかる構成においても、筒状糸18の外表面から外方に向かって突出するものが取り除かれるところから、その後の縫合操作や糸結び操作が良好に実施されることとなるのである。
【0057】
かくして、薬液が注入されて、注射針などが取り除かれ後、常法に従って、アキレス腱等の生体組織を縫合する縫合術が、縫合針16を生体組織に刺通することによって実施されることとなる。なお、薬液が注入された縫合糸10は、そのまま、或いは、必要に応じて、乾燥操作が実施された後、用いられる。
【0058】
そして、かかる縫合術において、本実施形態に係る手術用縫合糸10を用いて糸結び乃至は結節を行う場合には、糸結びの途中において、結び目に位置する筒状糸18の部位に、前記糸結び補助用の丸針14が刺通せしめられ、これにより、筒状糸18同士が縫い合わされるのである。より具体的には、本実施形態に係る手術用縫合糸10を用いた糸結び乃至は結節形態の一例が、図9に示されているのであるが、そこでは、先ず、図9の(a)及び(b)に示されるように、両側の筒状糸18(糸本体12)を計2回結んで、外科結び(Surgeon's knot)を行った後、更に3回目の糸結びを行う前に、図9の(c)に示されるように、結び目に相当する部分に丸針14を刺通させることにより、一方の筒状糸18を、他方の筒状糸18の中空部20内に挿通させるのである。これによって、筒状糸18,18同士が縫い合わされることとなる。その後、図9の(d)に示されるように、更に、糸結びを行うことによって、極めて強固な結び目乃至は結節部が形成されるのである。なお、かかる図9においては、糸結びの形態を具体的に説明するために、結び目が緩んだ状態で示されているが、実際には、緊締されるものであることは、言うまでもないところである。
【0059】
このように、本実施形態に係る手術用縫合糸10は、糸結び乃至は結節の際、結び目に位置する部位に、糸結び補助用の丸針14を刺通させて、筒状糸18,18同士を縫い合わすことが出来るようになっているところから、筒状糸18,18同士を縫い合わさない場合に比して、極めて強固な結び目を、より一層確実に形成することが可能となっているのである。従って、術後、縫合糸の結び目が解けてしまうようなことが極めて効果的に解消乃至は防止され得るようになっている。
【0060】
また、本実施形態においては、糸本体12である筒状糸18は、中空部を有し、且つ編組されたものであるところから、丸針14を、糸本体12に対して極めて容易に刺し込むことが出来るようになっているのである。更に、角張っていない円形断面の丸針14が刺通されるところから、かかる刺通によって、丸針14の外表面で筒状糸18が損傷を受けるようなことも有利に防止されるようになっているのである。これに対して、編組されていない筒状のフィラメントに対して丸針14を刺通せしめると、かかる刺通部位が発端となって縫合糸が切断される恐れがある一方、中実糸に対しては、丸針14を刺通せしめることが困難となる傾向がある。
【0061】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0062】
例えば、図2に示される手術用縫合糸10には、縫合針16が、予め取り付けられていたが、かかる縫合針16は、前述せるように手術直前に、筒状糸18(糸本体12)に取り付けるようにすることも可能である。
【0063】
また、上例では、芯糸22の両端部が、ぞれぞれ、筒状糸18の筒壁部を貫通して、外方に突出せしめられることによって、かかる芯糸22を引き抜くための突出端部24a,24bが構成されていたが、一本の芯糸22において、突出端部が少なくとも一つ設けられておれば、芯糸22を筒状糸18から引き抜くことが可能であるところから、芯糸22の何れか一方の端部のみを突出端部とする構成も、勿論、採用され得るところである。そして、縫合針16を前もって取り付けていない場合には、図10に示されるように、丸針14が取り付けられる端部とは反対側の端部において、芯糸22を、筒状糸18の端部から長手方向に所定の長さだけ突出せしめて、芯糸22を引き抜くための突出端部25を構成するようにすることも、可能である。
【0064】
さらに、前記実施形態においては、1本の芯糸22が、筒状糸18の略全長に亘って、その中空部20に非固定状態で収容されており、これによって、筒状糸18の中空部20が押し潰されてしまうようなことが、有利に防止され得るようになっているが、芯糸22は、筒状糸18の略全長に亘って収容されている必要はなく、所望とする部分のみに収容されていても何等差支えない。また、長手方向に、所定間隔をおいて複数の芯糸22が収容される構成も、採用され得ると共に、芯糸22が全く収容されていない構成も、採用することが出来る。なお、筒状糸18の中空部20内に、芯糸22を部分的に乃至は全く収容しない場合等においては、芯糸22の非収容部位に、予め、前述せる如き所望の薬液を注入し、必要に応じて乾燥せしめておくことも可能であり、このように薬液を予め注入しておけば、手術時に薬液を注入する手数が軽減されることとなる。
【0065】
また、上例の糸結びでは、丸針14を、筒状糸18の直径方向に貫通させることなく、中空部20内まで刺し込んだのち、刺し込み側の方向に刺し抜くことによって、両側の筒状糸18,18同士を縫い合わせるようにしていたが、丸針14を刺通させて筒状糸18,18同士を縫い合わせる構造も、上述せる如き具体例に何等限定されるものではなく、丸針14を、筒状糸18の直径方向に貫通せしめることにより、筒状糸18,18同士を縫い合わせることも勿論可能である。
【0066】
さらに、筒状糸18の編組の様式にあっても、図2等に図示される構造に、何等限定されるものではなく、公知の各種編組構造のものが適宜に採用されることとなる。
【0067】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることが、理解されるべきである。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0069】
-糸の結び目の強度-
先ず、供試用の糸として、東洋紡績(株)製ザイロンからなる、外径:1.0mm、内径:0.7mmである筒状糸(ザイロンノット:(株)YGKよつあみ)と、外径:0.7mmの中実糸(ザイロンX:(株)YGKよつあみ)を準備した。
【0070】
そして、それら準備された筒状糸と中実糸について、その1本の糸の両端を結んで、結節を作り、ループにした。次いで、そのループを、引張試験機(インストロン)で引張し、結節部分が断裂する時或いは結節部分が滑って張力を失ったとき(つまり、引張により、結節部分が糸の端部まで移動して、糸の両端の結合が解除されたとき)の引張強度を求める引張試験を実施した。
【0071】
なお、糸結びの方式は、通常の手術で採用されている方式を用い、結節を作るために要した、糸同士をくぐらせる回数(図9参照)を、糸結び回数とした。また、筒状糸に関しては、筒状糸の一方の端部に円弧状の丸針(断面直径:0.7mm、長さ:15mm)を取り付け、2回の糸結びを行った後、3回目の糸結びの前に、かかる丸針を、それが取り付けられていない他方の筒状糸に刺し、貫通させて、糸同士を縫い合わせる中縫いを行った。なお、中実糸においても、中縫いを試みたが、密に編組されているところから、中縫いを行うことが出来なかった。
【0072】
上記試験の結果、少ない糸結び回数では、結節部が滑って、大きな引張強度を実現できなかったが、筒状糸では、糸結び回数:8回で、中実糸にあっては、糸結び回数:10回で、最高の引張強度が得られ、結節部にて破断が起こった。また、筒状糸の中縫いを行った場合には、糸結び回数:3回で、筒状糸を8回結んだときと同程度の引張強度が実現され、結節部で破断が起こった。なお、これらの結果を下記表1に示す。
【0073】
【表1】
JP0004670037B2_000002t.gif

【0074】
かかる表1の結果からも明らかなように、中実糸と筒状糸とを比較すると、筒状糸の方が、強固な結び目が形成されると言うことが出来る。また、中縫いを行うことにより、より一層容易に、強固な結び目を形成することが出来ることが認められる。特に、外科手術の際には、早く結ぶことが出来ること、生体内に残る結節が小さいことが望ましく、通常、糸結びの回数として、3回が選択されている。従って、中縫いを実施することが出来ることは、実用性において、非常に優れていると言うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来の縫合糸を用いて縫合された腱の写真であり、(a)は、引張力が加えられてない状態を、(b)は、100Nの引張力が加えられた状態を、(c)は、340Nの引張力が加えられた状態を示している。
【図2】本発明に従う構造を有する手術用縫合糸の一例を示す平面説明図である。
【図3】(a)は、図2に示される手術用縫合糸の糸本体部分の部分拡大説明図であり、(b)は、(a)に示される糸本体部分の横断面説明図であり、(c)は、(a)に示される糸本体部分の縦断面説明図である。
【図4】(a)は、本発明において採用される注射針の一例を示す正面説明図であり、(b)は、図2に示される手術用縫合糸の糸本体部分に、(a)に示される注射針の針部を挿入した状態を示す正面説明図である。
【図5】(a)は、本発明において採用される注射針の別の一例を示す正面説明図であり、(b)は、(a)に示される注射針の右側面説明図であり、(c)は、図2に示される手術用縫合糸の糸本体部分に、(a)に示される注射針の針部を挿入した状態を示す正面説明図である。
【図6】(a)は、本発明において採用される注射針の更に別の一例を示す正面説明図であり、(b)は、注射針に取り付けられるクリップの斜視説明図であり、(c)は、図2に示される手術用縫合糸の糸本体部分に、(a)に示される注射針の針部を挿入した状態を示す正面説明図である。
【図7】(a)は、本発明において採用される注射針の他の一例を示す正面説明図であり、(b)は、図2に示される手術用縫合糸の糸本体部分に、(a)に示される注射針の針部を挿入した状態を示す正面説明図である。
【図8】手術用縫合糸に挿入された注射針を縫合糸の内部に収容する工程を説明するための概略説明図である。
【図9】本発明に従う手術用縫合糸を用いて結び目を形成する工程の一例を示す説明図であって、(a)は、1回目の糸結びの状態を示し、(b)は、2回目の糸結びの状態を示し、(c)は、中縫いの状態を示し、(d)は、3回目の糸結びの状態を示している。
【図10】本発明に従う構造を有する手術用縫合糸の別の一例を示す平面説明図である。
【符号の説明】
【0076】
10 手術用縫合糸 12 糸本体
14 糸結び補助用丸針 16 縫合針
18 筒状糸 20 中空部
22 芯糸 24a,24b,25 突出端部
26,52 注射針 28,50 針部
32 スリット孔 34 固定用部材
38 クリップ 48 取付孔

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9