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明細書 :燃料電池用電極触媒及びその製造方法並びに該触媒を用いた燃料電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4452889号 (P4452889)
公開番号 特開2007-207662 (P2007-207662A)
登録日 平成22年2月12日(2010.2.12)
発行日 平成22年4月21日(2010.4.21)
公開日 平成19年8月16日(2007.8.16)
発明の名称または考案の名称 燃料電池用電極触媒及びその製造方法並びに該触媒を用いた燃料電池
国際特許分類 H01M   4/90        (2006.01)
H01M   4/88        (2006.01)
H01M   4/96        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
FI H01M 4/90 X
H01M 4/88 C
H01M 4/96 B
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 9
全頁数 16
出願番号 特願2006-027005 (P2006-027005)
出願日 平成18年2月3日(2006.2.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2005年9月5日 社団法人化学工学会発行の「第37回秋季大会研究発表講演要旨集(CD-ROM)」G105に発表
特許法第30条第1項適用 2005年12月7日 炭素材料学会発行の「第32回炭素材料学会年会要旨集」第426~427頁に発表
審査請求日 平成18年3月6日(2006.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】尾崎 純一
【氏名】大谷 朝男
【氏名】佐藤 匡弘
【氏名】谷藤 信一
【氏名】木村 直文
【氏名】守屋 清志
個別代理人の代理人 【識別番号】100085372、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 正義
審査官 【審査官】小川 進
参考文献・文献 特開2004-082007(JP,A)
谷藤信一、尾崎純一、大谷朝男,「遷移金属錯体ドープ炭素のPEMFCカソード反応活性に及ぼす炭素化温度の影響」,第31回炭素材料学会 年会要旨集,炭素材料学会,2004年12月 1日,p.138~139
調査した分野 H01M 4/90
H01M 4/88
H01M 4/96
H01M 8/10
特許請求の範囲 【請求項1】
遷移金属共存下で炭素化調製して得られた炭素化材からなる燃料電池用電極触媒において、
前記炭素化材は、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合して形成され
前記シェル状構造の炭素粒子の炭素網面のエッジ面に、前記シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.2の窒素を含む
ことを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
シェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積と略平坦成分面積との合計面積に対する前記先鋭成分面積の割合が0.1以上である請求項1記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
ェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.7のホウ素を含む請求項1又は2記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
遷移金属をイオン交換樹脂に導入して前記遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、
前記遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、
前記炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入する工程と
を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
遷移金属をイオン交換樹脂に導入して前記遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、
前記遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、
前記炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入する工程と
を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項6】
遷移金属をイオン交換樹脂に導入して前記遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、
前記遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製する工程と、
前記ポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、
前記炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入する工程と
を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項7】
遷移金属をイオン交換樹脂に導入して前記遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、
前記遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製する工程と、
前記ポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、
前記炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入する工程と
を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないしいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有する燃料電池。
【請求項9】
請求項4ないし7いずれか1項に記載の方法で製造された燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有する燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、白金や白金合金等の貴金属を全く担持しないか、或いはその使用量を極力抑えた燃料電池用電極触媒と、この触媒を製造する方法と、この触媒を用いた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高効率、無公害の燃料電池の実用化は、地球温暖化、環境汚染問題に対する重要な対処手段である。とくに昨今、電気自動車(FCEV)や定置用電熱併供システム(CG-FC)に用いられる固体高分子型燃料電池は、低コスト化の可能性が大きく、広く研究、開発競争が展開されている。
こうした固体高分子型燃料電池において、その反応は多孔質ガス拡散電極内で起こる。十分な電流密度I(A/投影電極面積)を得るために、その電極としては、比表面積が大きくかつ導電性のあるカーボンブラックを多孔質構造体兼触媒担体としたものが一般に使用されている。また、その触媒としては白金(Pt)あるいは白金合金系触媒(Pt-Fe,Pt-Cr,Pt-Ru)が使用され、これら貴金属触媒が担体に高分散担持(粒径2~数十nm)されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、これまで特に、カソード極で起こる酸素の還元反応が非常に起こりにくいため、標準的担体材料としてのある決まった銘柄の炭素担体に、触媒である白金が、例えば、1mg/cm2の割合で多量に投入されてきた。即ち、白金の標準的担体材料としては、(1)カーボンブラック、例えばカーボンブラック(Carbon Black)B1 Degussa-Huels社(フランクフルト)、(2)ファーネスブラック、例えばバルカン(Vulcan)XC-72 Cabot社(マサチューセッツ)、(3)アセチレンブラック、例えばシャウイニガンブラック(Shawinigan Black)Chevron Chemicals社(ヒューストン、テキサス)などが挙げられる。
しかしながら、従来の標準的担体材料であるカーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックへの白金の担持の仕方は、白金をできるだけ微分散させることに多くの努力が傾注されてきた。そこでは、カーボンブラック等の標準的担体材料は、単に白金を分散させ易くするとともに、担体自体が導電性を与える媒体に過ぎず、担持された白金の活性化を十分に図ることができなかった。
【0004】
この点を改良するために、難黒鉛化性炭素を主成分とする炭素材料であって、その構造の少なくとも一部に乱層構造を有するものを電極触媒として用いる燃料電池用電極触媒が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この燃料電池用電極触媒では、難黒鉛化性炭素を生成する原材料に金属化合物を添加混合した後、焼成による炭素化処理により得られかつその構造の少なくとも一部に乱層構造を有するものが電極触媒として用いられる。
このように構成された燃料電池用電極触媒では、白金又は白金系合金等の貴金属触媒の代替として廉価で触媒活性の高い電極触媒が得られ、容易に製造することができるとともに、炭素化過程を制御することにより望み通りの触媒機能を備える炭素材料が得られるようになっている。
また白金又は白金合金を担持した炭素基材が窒素原子又はホウ素原子がドープされた平均粒径45μm以下のカーボンアロイ微粒子であって、炭素基材が含窒素化合物又は含ホウ素化合物と熱硬化性樹脂の前駆体とを加熱反応させて重合し、これにより得られた窒素化合物含有熱硬化性樹脂又はホウ素化合物含有硬化性樹脂を熱処理して炭素化し、炭素化された窒素化合物含有熱硬化性樹脂又はホウ素化合物含有硬化性樹脂を微粉砕してなるカーボンアロイ微粒子である燃料電池用電極触媒が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
このように構成された燃料電池用電極触媒では、炭素中に窒素又はホウ素のいずれか一方又は双方が導入された場合、導入した元素は炭素構造の発達を妨げる。これに伴い、基底面とは垂直方向のエッジ面の割合が増加する。エッジ面は基底面に比べて電子的、化学的に活性であり、このため、これと接触した白金は活性化される。また、同時に電極触媒では電子が増加し、炭素基材中にホウ素原子がドープされた場合、電極触媒では電子が減少する。これにより窒素原子又はホウ素原子がドープされない場合と比較して、窒素原子又はホウ素原子がドープされた炭素基材は導電性材料としての機能だけでなく、酸素還元の機能が付加され、担持された白金の活性化がより高まるようになっている。

【特許文献1】特開2003-249231号公報(請求項1及び2、段落[0046]、段落[0047])
【特許文献2】WO 2006/003831 A1(請求項1及び4、段落[0017])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された燃料電池用電極触媒では、構造の少なくとも一部に乱層構造を有する炭素材料を用いることにより、また上記従来の特許文献2に示された燃料電池用電極触媒では、炭素中に窒素又はホウ素を導入して炭素構造の発達を妨げ、基底面に対して垂直方向のエッジ面の割合を増加させることにより、それぞれ電極触媒の酸素還元活性を向上させているけれども、その電極触媒の酸素還元活性は未だ不十分であった。
本発明の目的は、酸素還元活性を炭素化材自体にもたせることができ、これにより炭素化材の酸素還元活性を向上できる、燃料電池用電極触媒及びその製造方法並びに該触媒を用いた燃料電池を提供することにある。
本発明の別の目的は、高価な白金や白金合金等の貴金属を担持せずに、或いは僅かな貴金属の使用で、高い酸素還元活性を発現できる、燃料電池用電極触媒の製造方法及びその方法で製造された電極触媒を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、高価な白金や白金合金等の貴金属を担持せずに、或いは僅かな貴金属の使用で、極めて高い電流密度を得ることができる、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、遷移金属共存下で炭素化調製して得られた炭素化材からなる燃料電池用電極触媒の改良である。
その特徴ある構成は、炭素化材が、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合して形成され、シェル状構造の炭素粒子の炭素網面のエッジ面に、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.2の窒素を含むところにある。
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、更にシェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積と略平坦成分面積との合計面積に対する先鋭成分面積の割合が0.1以上であることを特徴とする。
求項に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、更にシェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.7のホウ素を含むことを特徴とする。
【0007】
請求項に係る発明は、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、この遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入する工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法である。
請求項に係る発明は、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、この遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入する工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法である。
請求項に係る発明は、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、この遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製する工程と、このポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入する工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法である。
請求項に係る発明は、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する工程と、この遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製する工程と、このポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製する工程と、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入する工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法である。
【0008】
請求項に係る発明は、請求項1ないしいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有する燃料電池である。
請求項に係る発明は、請求項ないしいずれか1項に記載の方法で製造された燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有する燃料電池である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子を非凝集状態で集合させることにより炭素化材を形成したので、ナノオーダーの均一なシェル構造の各炭素化材の表面に、カソード電極の触媒活性、即ち酸素還元活性をもたらす欠陥が多く存在する。この結果、酸素還元活性を炭素化材自体にもたせることができる。またシェル状構造の炭素粒子の炭素網面のエッジ面に、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.2の窒素を含むので、欠陥の一つである炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素を導入することにより、炭素化材にカソード電極の触媒活性、即ち酸素還元活性が発現させることができる。
請求項2に係る発明では、シェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積と略平坦成分面積との合計面積に対する先鋭成分面積の割合が0.1以上であるので、即ちシェル構造の発達程度を表すパラメータが0.1以上と大きくなる。この結果、シェル状構造の炭素粒子の平均粒径を10~20nmの範囲内に揃えることができるので、酸素還元活性を炭素化材自体にもたせることができる。
求項に係る発明では、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.7のホウ素を含むので、欠陥の一つである炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素及びホウ素を導入することにより、炭素化材のカソード電極の触媒活性、即ち酸素還元活性が更に向上できる。
【0010】
請求項に係る発明では、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して調製した遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製し、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入したので、シェル状構造の炭素粒子の凝集を抑制でき、炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素が導入されたシェル状構造の炭素化材を得ることができる。この結果、炭素化材自体に酸素還元活性をもたせることができる。
請求項に係る発明では、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して調製した遷移金属含有イオン交換樹脂を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製し、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入したので、液相ドープ法では炭素化材と窒素源等の混合工程とこの混合後の熱処理工程の2つの工程を必要とするのに対し、1つの工程で炭素化材に窒素等を導入することができ、液相ドープ法より製造工数を低減できる。
請求項に係る発明では、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して調製した遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製し、このポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製し、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を液相ドープ法により導入したので、炭素前駆体中への遷移金属含有イオン交換樹脂の導入により、シェル状構造の炭素粒子の凝集を更に抑制でき、効率良くシェル状構造の炭素粒子を形成できるとともに、炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素が導入されたシェル状構造の炭素化材を得ることができる。この結果、炭素化材自体に酸素還元活性をもたせることができる。
請求項に係る発明では、遷移金属をイオン交換樹脂に導入して調製した遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製し、このポリマー混合物を600~2000℃の温度で熱処理して平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子の集合体である炭素化材を調製し、炭素粒子の炭素網面のエッジ面に窒素又は窒素及びホウ素を気相ドープ法により導入したので、液相ドープ法では炭素化材と窒素源等の混合工程とこの混合後の熱処理工程の2つの工程を必要とするのに対し、1つの工程で炭素化材に窒素等を導入することができ、液相ドープ法より製造工数を低減できる。
【0011】
請求項に係る発明では、上記請求項1ないし4いずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有するので、電極触媒で高い酸化還元能力が発現され、燃料電池の電流密度が極めて高く又は比較的高くなる。
請求項に係る発明では、上記請求項5ないし8いずれか1項に記載の方法で製造された燃料電池用電極触媒を固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に層状に形成した電解反応層を有するので、電極触媒で高い酸化還元能力が発現され、燃料電池の電流密度が極めて高く又は比較的高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
燃料電池用電極触媒は、遷移金属共存下で炭素化調製して得られた炭素化材からなる。この炭素化材は、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合して形成される。ここでシェル状構造の炭素粒子の平均粒径を10~20nmの範囲に限定したのは、10nm未満では炭素粒子のシェル状構造が十分に発達せず、酸素還元活性の発現に寄与する炭素粒子表面の欠陥が未だ少ないからであり、20nmを越えると炭素粒子のシェル状構造が発達し過ぎて、酸素還元活性の発現に寄与する炭素粒子表面の欠陥が再び少なくなってしまうからである。またシェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積SSと略平坦成分面積SBとの合計面積STに対する先鋭成分面積Sの割合fSは0.1以上、好ましくは0.25以上である(図1)。この割合fSは炭素化材の炭素粒子のシェル状構造の発達程度を示す。ここで、割合fSを0.1以上としたのは、0.1未満ではシェル状構造の炭素粒子の平均粒径を10~20nmの範囲内に揃えることができず、酸素還元活性を炭素化材自体にもたせることができないからである。
【0013】
一方、シェル状構造の炭素粒子の炭素網面のエッジ面には、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.2、好ましくは0.02~0.1の窒素を含むか、或いはシェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.01~0.2、好ましくは0.02~0.1の窒素を含み、かつシェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して原子比で0.001~0.7、好ましくは0.005~0.1のホウ素を含む。具体的には、X線光電子分光法(以下、XPS法という)により測定した窒素内殻電子N1sに関するスペクトルを、結合エネルギ402.9±0.3eVを有する酸化状態の窒素と、結合エネルギ401.2±0.3eVを有する4級窒素と、結合エネルギ400.5±0.3eVを有するピリドン及びピロール型窒素と、結合エネルギ398.5±0.3eVを有するピリジン型窒素の4種類に分ける。このときシェル状構造の炭素化材の炭素網面のエッジ面には、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対して上記エッジ面に存在する窒素を原子比で0.01~0.2含むようにピリドン及びピロールとピリジンが存在する。ここで、シェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対する炭素網面のエッジ面における窒素の含有量を原子比で0.01~0.2の範囲内に限定したのは、0.01未満では窒素の効果が不十分であり、0.2を越えると電気伝導性が低下してしまうである。またシェル状構造の炭素粒子表面の炭素に対する炭素網面のエッジ面におけるホウ素の含有量を原子比で0.001~0.7の範囲内に限定したのは、0.001未満ではホウ素の効果が不十分であり、0.7を越えると電気伝導性が低下してしまうからである。
【0014】
このように構成された燃料電池用電極触媒の製造方法を説明する。
[A] 炭素化材の調製方法
先ず遷移金属をイオン交換樹脂に導入して遷移金属含有イオン交換樹脂を調製する。イオン交換樹脂としては、キレート樹脂、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられる。また遷移金属としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、亜鉛、銅等が挙げられるけれども、炭素化材自体に付与されるカソード電極の触媒活性、即ち酸素還元活性を向上できるコバルト又は鉄を用いることが好ましい。これは、カソード電極の触媒活性を向上させるナノサイズのシェル状構造を形成するのにコバルト又は鉄が優れていることが分かっているからである。コバルトをイオン交換樹脂に導入する場合、硫酸コバルト七水和物水溶液にイオン交換樹脂を投入して撹拌してコバルト含有イオン交換樹脂を調製するけれども、この塩に限定されるものではない。鉄、ニッケル、マンガン、亜鉛、銅等についてもこれに準ずる。次いで上記遷移金属含有イオン交換樹脂を、窒素流通下、600~2000℃、好ましくは650~1500℃に、5~180分間、好ましくは20~120分間保持する熱処理を行う。これにより上記遷移金属含有イオン交換樹脂が炭素化されて炭素化材となる。ここで、上記熱処理温度を600~2000℃の範囲内に限定したのは、600℃未満では炭素化が不十分であり、2000℃を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。また、上記熱処理時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では均一な熱処理が行えず、180分を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。
【0015】
[B] 窒素の導入方法
炭素化材に窒素を導入するには、液相ドープ法又は気相ドープ法が用いられる。
(1)液相ドープ法による窒素の導入
炭素化材と窒素源であるメラミンを混合した後に、この窒素源が混合された炭素化材を、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、550~1500℃、好ましくは600~1000℃に、5~180分間、好ましくは20~60分間保持する熱処理を行うことにより、炭素粒子表面に窒素を導入する。ここで、上記熱処理温度を550~1500℃の範囲内に限定したのは、550℃未満では炭素とメラミンとの反応が不十分となり、1500℃を越えると窒素原子が離脱するとともに炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。また、上記熱処理時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では窒素ドープが十分に行われず、180分を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。
(2)気相ドープ法による窒素の導入
気相ドープ法を用いる場合、CVD法又はアンモオキシデーション法を用いることが好ましい。
(a) CVD法による窒素の導入
0~80℃にあるアセトニトリルに窒素ガスを通過させ、このアセトニトリルを含む窒素ガスを反応管内で550~1500℃、好ましくは600~800℃に加熱された炭素化材に5~180分間、好ましくは10~60分間接触させる熱処理を行うことにより、炭素粒子表面に窒素を導入する。ここで、上記熱処理温度を550~1500℃の範囲内に限定したのは、550℃未満ではアセトニトリルの熱分解が不十分であり、1500℃を越えると窒素原子が離脱するとともに炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。また、上記熱処理時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では窒素ドープが十分に行われず、180分を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。
(b) アンモオキシデーション法による窒素の導入
反応管に収容した炭素化材を酸素雰囲気中で550~800℃、好ましくは550~650℃に保持し、この状態で空気とともに窒素源であるアンモニアガスを反応管内に流し、炭素化材をアンモニアガスと5~180分間、好ましくは10~120分間接触させることにより、炭素粒子表面に窒素を導入する。ここで、上記炭素化材の酸化温度を550~800℃の範囲内に限定したのは、550℃未満では炭素表面の活性化が不十分であり、800℃を越えると炭素の酸化が著しく加速されて炭素化材が消失してしまうからである。また、上記アンモニアとの接触時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では反応が不十分であり、180分を越えると炭素化材が著しく酸化消耗してしまうからである。
【0016】
[C] 窒素及びホウ素の導入方法
炭素化材に窒素及びホウ素を導入するには、液相ドープ法、気相ドープ法又は気相-液相ドープ法が用いられる。
(1)液相ドープ法による窒素及びホウ素の導入
炭素化材と、窒素源であるメラミンと、ホウ素源であるBF3メタノール錯体とを混合した後に、この窒素源及びホウ素源が混合された炭素化材を、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、550~1200℃、好ましくは600~1000℃に、5~180分間、好ましくは20~120分間保持する熱処理を行うことにより、炭素粒子表面に窒素及びホウ素を導入する。ここで、上記熱処理温度を550~1200℃の範囲内に限定したのは、550℃未満では反応が不十分であり、1200℃を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。また、上記熱処理時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では反応が不十分であり、180分を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。
(2)気相ドープ法による窒素及びホウ素の導入
上記CVD法又はアンモオキシデーション法を用いて炭素化材の炭素粒子表面に窒素を導入した後に、この炭素化材を反応管から取出すことなく、BCl3ガスを550~1500℃、好ましくは550~1000℃に加熱された炭素化材に5~180分間、好ましくは20~120分間接触させることにより、炭素粒子表面にホウ素を導入する。ここで、上記BCl3ガスとの接触温度を550~1500℃の範囲内に限定したのは、550℃未満では反応が不十分であり、1500℃を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。また、上記BCl3ガスとの接触時間を5~180分の範囲内に限定したのは、5分未満では反応が不十分であり、180分を越えると炭素粒子のシェル状構造の巨大化と結晶成長に伴って炭素粒子表面の欠陥が解消してしまうからである。
(3)気相-液相ドープ法による窒素及びホウ素の導入
上記CVD法又はアンモオキシデーション法を用いて炭素化材の炭素粒子表面に窒素を導入した後に、この炭素化材をホウ素源であるBF3-メタノールと混合し、更にこのホウ素源を混合した炭素化材を、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、550~1500℃、好ましくは600~1000℃に、5~180分間、好ましくは20~120分間保持する熱処理を行うことにより、炭素粒子表面にホウ素を導入する。
一方、遷移金属含有イオン交換樹脂を熱処理して炭素化材を調製する前に、遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素前駆体中に導入してポリマー混合物を調製し、このポリマー混合物を熱処理して炭素化材を調製することが好ましい。炭素前駆体としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ(木材、石炭、石油等の有機物を乾留或いは高温熱分解して得られる残渣)等が挙げられるけれども、これらに限定されるものではない。またポリマー混合物の熱処理温度及び熱処理時間は上記遷移金属含有イオン交換樹脂の熱処理温度及び熱処理時間と同一である。
【0017】
[D] 固体燃料電池の製造方法
固体高分子形燃料電池は電池モジュール内に組込まれたセルがシート状の固体高分子電解質膜を挟むようにして対向配置されるアノード(燃料極)及びカソード(酸化剤極)とから構成されている。この固体高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜(例えば、デュポン社製ナフィオン膜)を代表とするフッ素系イオン交換樹脂膜が用いられている。また上記熱処理された燃料電池用電極触媒は平均粒径0.05~0.1μmの粉状に粉砕され、この粉状の燃料電池用電極触媒を上記固体高分子電解質膜の一方又は双方の面に塗布することにより層状の電極反応層が形成される。即ち、アノード及びカソード(以下、電極と略称)は、上記燃料電池用電極触媒を含む電極反応層と電極基材を備えて構成される。両電極を電極反応層側で固体高分子電解質膜の両主面にホットプレスにより密着することにより、MEA(Membrane Electrode Assembly)として一体化される。
上記電極基材は、触媒層を支持するとともに反応ガス(燃料ガスと酸化剤ガス)の供給・排出を行い、集電体としての機能も有する多孔質のシート(例えば、カーボンペーパー)が用いられる。そして、上記電極のそれぞれに反応ガスが供給されると、両電極に備えられた白金系の貴金属を担持した触媒層と固体高分子電解質膜との境界に気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成され、電気化学反応を生じさせることで直流電力を発生する。
上記電気化学反応において、
カソード側:O2+4H++4e-→2H2
アノード側:H2→2H++2e-
の反応が起こり、アノード側で生成されたH+イオンは固体高分子電解質膜中をカソード側に向かって移動し、e-(電子)は外部の負荷を通ってカソード側に移動する。一方、カソード側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、アノード側から移動してきたH+イオン及びe-とが反応して水が生成される。この結果、固体高分子形燃料電池は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ずキレックス(バイオラッド社製のキレート樹脂)を5gを計り取る。次に予め調製しておいた硫酸コバルト七水和物水溶液(イオン濃度:0.9g/リットル、pH調整剤として硫酸アンモニウムを50g/リットル添加)100ccに上記キレックスを投入し、マグネチックスターラーにより1~2時間撹拌することにより、コバルトをイオン交換した樹脂を調製した。上記コバルト水溶液は、撹拌を開始してから2時間後に略完全に脱色し、所定量のコバルトがキレックスに定量的に導入された。また、上記キレックスのイオン交換量は18mg/gであり、コバルト水溶液の濃度は、キレックスの飽和交換量の25%を意図して設定した。即ち、キレックスの飽和交換量に対するコバルト交換率を25%に設定した。ここで、飽和交換量とは、バイオラッド社のカタログに記載されたキレックスのイオン交換量、即ちキレックスが0.61ミリ当量/gのコバルト含有イオンを吸着したときのイオン交換量をいう。イオン交換終了後、コバルト含有イオン交換樹脂に対して吸引ろ過とイオン交換水による洗浄とを繰返した後、コバルト含有イオン交換樹脂中の水分を凍結乾燥により除去した。更にこの水分の除去されたコバルト含有イオン交換樹脂を窒素流通下1000℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例1とした。
<実施例2>
キレックスの飽和交換量に対するコバルト交換率を50%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例2とした。
<実施例3>
キレックスの飽和交換量に対するコバルト交換率を75%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例3とした。
<実施例4>
キレックスの飽和交換量に対するコバルト交換率を100%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例4とした。
【0019】
<実施例5>
実施例1と同様にしてコバルト交換率25%のコバルト含有イオン交換樹脂を調製し、このコバルト含有イオン交換樹脂と、ノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂(群栄化学社製のフェノール樹脂)とを、ラボプラストミルμ(東洋精機社製の小型セグメントミキサー)を用いて混練することにより、ポリマー混合物を調製した。コバルト交換率25%のコバルト含有イオン交換樹脂のフェノール樹脂に対する混合割合を、フェノール樹脂に対するコバルト重量比が3%になるように、重量比で12:8とした。このポリマー混合物を窒素流通下1000℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例5とした。
<実施例6>
コバルト交換率50%のコバルト含有イオン交換樹脂を用い、コバルト交換率50%のコバルト含有イオン交換樹脂のフェノール樹脂に対する混合割合を、フェノール樹脂に対するコバルト重量比が3%になるように、重量比で6:8としたこと以外は、実施例5と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例6とした。
<実施例7>
コバルト交換率75%のコバルト含有イオン交換樹脂を用い、コバルト交換率75%のコバルト含有イオン交換樹脂のフェノール樹脂に対する混合割合を、フェノール樹脂に対するコバルト重量比が3%になるように、重量比で4:8としたこと以外は、実施例5と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例7とした。
<実施例8>
コバルト交換率100%のコバルト含有イオン交換樹脂を用い、コバルト交換率100%のコバルト含有イオン交換樹脂のフェノール樹脂に対する混合割合を、フェノール樹脂に対するコバルト重量比が3%になるように、重量比で3:8としたこと以外は、実施例5と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を実施例8とした。
【0020】
<比較例1>
キレックスの飽和交換量に対するコバルト交換率を0%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例1とした。
<比較例2>
コバルト交換率0%のコバルト含有イオン交換樹脂を用い、コバルト交換率0%のコバルト含有イオン交換樹脂のフェノール樹脂に対する混合割合を、フェノール樹脂に対するコバルト重量比が3%になるように、重量比で6:8としたこと以外は、実施例5と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例2とした。
【0021】
<比較試験1及び評価>
実施例1~8と比較例1及び2の粉末状の炭素化材について粉末X線回折を測定し、その炭素化材の炭素粒子のシェル状構造の発達程度fSを求めた。具体的には、シェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積SSと略平坦成分面積SBとの合計面積STに対する先鋭成分面積Sの割合fSを求めた。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
JP0004452889B2_000002t.gif

【0023】
表1から明らかなように、比較例1及び2ではfSがともにゼロであり、炭素粒子のシェル状構造が十分に発達していなかったのに対し、実施例1~8ではfSが0.19~0.45と大きく、炭素粒子のシェル状構造が十分に発達していたことが分かった。
【0024】
<比較試験2及び評価>
実施例3及び6の粉末状の炭素化材の酸素還元活性を回転電極法で評価した。即ち、実施例3及び6の炭素化材の酸素還元に関する電極活性を、図2に模式的に示す3極回転電極セル1を用いて測定した。具体的には中央部の作用電極(回転電極)2は周囲が高分子絶縁体、中央部にガラス状炭素からなる電極部を持つ。この電極部にそれぞれ以下のようにして調製した触媒インクを塗布し、作用電極とした。符号3は参照電極(Ag/AgCl)であり、符号4は対極(Pt)である。
先ず、実施例3及び6の粉末状の炭素化材を、それぞれ5mg量り取り、これにバインダー(商品名:ナフィオン、デュポン社)溶液、水、エタノールを適量加え、各触媒インクを調製した。次いで、得られた触媒インクを微量ピペットにより吸い取り、回転電極装置のガラス状炭素部分(直径5mm)に塗布し、乾燥させることにより、作用電極を作製した。
電解質溶液としては、1M硫酸水溶液に酸素を常温で溶解したものを用いた。回転速度1500rpmで電極を回転し、電位を掃引速度0.5mVs-1で掃引して、そのときの電流を電位の関数として記録した。その結果を図3に示す。なお、図3において、縦軸は反応速度を表す電流であり、縦軸の電流密度の絶対値が大きくなるほど反応速度が大きくなることを示し、また横軸は反応を進ませる力としての電圧であり、横軸の電圧が小さくなるほど反応を引き起す力が大きくなり、更にこの反応は燃料電池のプラス極の反応であるため、より電圧の高いところで大きな電流が流れるものほど触媒としての性能が高いことを意味する。
図3から明らかなように、実施例3及び6の炭素化材は、極めて高い電位から酸素還元電流が流れ始め、同じ電位で比較すると、極めて大きな電流密度を示すことが分かった。
【0025】
<比較試験3及び評価>
実施例3及び6の粉末状の炭素化材を透過型電子顕微鏡にて撮影した。その結果を図4(a)及び(b)に示す。
図4(a)及び(b)から明らかなように、炭素化材の原料としてイオン交換樹脂を用いることにより、凝集の抑制されたシェル状構造の炭素粒子を形成できることが分かった。またイオン交換樹脂を熱処理した炭素化材(図4(a))より、イオン交換樹脂にフェノール樹脂を混合したポリマー混合物を熱処理した炭素化材(図4(b))の方が、上記シェル状構造の炭素粒子の凝集の抑制効果を増強する傾向にあることが分かった。
【0026】
<比較例3>
フルフリルアルコールにフェロセン錯体を鉄重量基準で1重量%となるように導入し、炭素化した。具体的には、先ずフルフリルアルコール3gに対して、所定量のフェロセンを混合した後、酸触媒を加え70℃で24時間重合を行った。次にこの重合物を窒素流通下700℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例3とした。
<比較例4>
フルフリルアルコールにフェロセン錯体を鉄重量基準で2重量%となるように導入したこと以外は、上記比較例3と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例4とした。
<比較例5>
フルフリルアルコールにフェロセン錯体を鉄重量基準で3重量%となるように導入したこと以外は、上記比較例3と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例5とした。
<比較例6>
フラン樹脂(日立化成社製のフラン樹脂)にコバルトアセチルアセトン錯体をコバルト重量基準で3重量%となるように導入し、炭素化した。具体的には、先ずフラン樹脂3gに対して、相当量のコバルトアセチルアセトナートを混合した。次にこの混合物を窒素流通下800℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例6とした。
<比較例7>
混合物を窒素流通下1000℃に60分間保持したこと以外は、上記比較例6と同様にして炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例7とした。
<比較例8>
フラン樹脂(日立化成社製のフラン樹脂)に鉄アセチルアセトン錯体を鉄重量基準で3重量%となるように導入し、炭素化した。具体的には、先ずフラン樹脂3gに対して、相当量の鉄アセチルアセトナートを混合した。次にこの混合物を窒素流通下1000℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例8とした。
<比較例9>
フラン樹脂(日立化成社製のフラン樹脂)にニッケルアセチルアセトン錯体をニッケル重量基準で3重量%となるように導入し、炭素化した。具体的には、先ずフラン樹脂3gに対して、0.448gのニッケルアセチルアセトナートを混合した。次にこの混合物を窒素流通下1000℃に60分間保持して炭素化材を調製した。この炭素化材を比較例9とした。
【0027】
<比較試験4及び評価>
実施例1~8及び比較例3~9の炭素化材のシェル状構造の発達程度fSと、これらの炭素化材を用いた電極触媒の酸素還元電位E02とをそれぞれ測定した。上記fSは上記比較試験1と同様に測定して求めた。また酸素還元電位E02は、酸素還元ボルタモグラムにおける10μA/cm2の還元電流を与える電位と定義した。実施例1~8及び比較例3~9の炭素化材のシェル状構造の発達程度fSと酸素還元電位E02との関係を図5に示す。
図5から明らかなように、比較例3~9では、シェル状構造の発達、即ちfSの増加とともに酸素還元活性が増加するけれども、fSが約0.3から更に増加すると酸素還元活性が次第に低下した。これに対し、実施例1~8では、シェル状構造の発達、即ちfSの増加とともに酸素還元活性が増加し続け、酸素還元活性が低下しなかった。これは、実施例で高分子錯体(イオン交換樹脂又はイオン交換樹脂及び炭素前駆体のポリマー混合物)を用いることにより金属の凝集が抑えられたため、ナノサイズのシェル状構造の発達が表面欠陥の解消に結びつかず、酸素還元活性をもつ微細なシェル状構造の炭素粒子が多数発生したことによるものと考えられる。
【0028】
<実施例9>
実施例3の炭素化材に気相ドープ法(アンモオキシデーション法)により窒素を導入した後に、気相ドープ法によりホウ素を導入した。具体的には、先ず反応管に収容した炭素化材0.4gを窒素ガスにより流動化し、反応管内の温度を600℃まで昇温し、反応管内の炭素化材を、70%アンモニア:30%空気の混合ガスと120分接触させることにより、炭素粒子表面に窒素を導入した。次に窒素を導入した炭素化材を反応管から取出すことなく、反応管内にBCl3ガス(濃度1%-Heバランスガス)を50ミリリットル/分で流し、17分間保持した。そして昇温速度30℃/分で昇温し、1000℃に15分間保持することにより、炭素化材にホウ素を導入した。その後1000℃の温度に保持した状態で反応管内のガスをN2ガスに切替えて20分間保持することにより、炭素化材の炭素粒子の炭素網面のエッジ部にホウ素を組込んだ。更に自然冷却により室温まで冷却した。この窒素及びホウ素の導入された炭素化材を実施例9とした。
<実施例10>
実施例6の炭素化材を用いたこと以外は、実施例9と同様にして窒素及びホウ素を導入した。この窒素及びホウ素の導入された炭素化材を実施例10とした。
<比較試験5及び評価>
実施例3、6、9及び10の粉末状の炭素化材の酸素還元活性を上記比較試験2と同様に回転電極法で評価した。その結果を図6に示す。
図6から明らかなように、実施例9及び10の炭素化材は実施例3及び6の炭素化材と比べて、高い電位から酸素還元電流が流れ始め、同じ電位で比較すると、大きな電流密度を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明実施形態のシェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における合計面積STに対する先鋭成分面積Sの割合fSを示す図である。
【図2】3極回転電極セルの模式図である。
【図3】実施例3、実施例6及び比較例1の炭素化材の電位と電流密度との関係を示す図である。
【図4】実施例3及び6の炭素化材の透過型電子顕微鏡図である。
【図5】実施例1~8及び比較例3~9の炭素化材のシェル状構造の発達程度fSと酸素還元電位E02との関係を示す図である。
【図6】実施例3、実施例6、実施例9及び実施例10の炭素化材の電位と電流密度との関係を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図4】
5