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明細書 :液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構および液晶流動形成方法、並びに、液晶流動を利用した物体移動機構および物体移動方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4701415号 (P4701415)
公開番号 特開2007-071225 (P2007-071225A)
登録日 平成23年3月18日(2011.3.18)
発行日 平成23年6月15日(2011.6.15)
公開日 平成19年3月22日(2007.3.22)
発明の名称または考案の名称 液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構および液晶流動形成方法、並びに、液晶流動を利用した物体移動機構および物体移動方法
国際特許分類 F15B  21/06        (2006.01)
FI F15B 21/06
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2005-255492 (P2005-255492)
出願日 平成17年9月2日(2005.9.2)
審査請求日 平成20年6月23日(2008.6.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】509093026
【氏名又は名称】公立大学法人高知工科大学
発明者または考案者 【氏名】蝶野 成臣
【氏名】辻 知宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100089222、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 康伸
審査官 【審査官】熊谷 健治
参考文献・文献 特開2003-113814(JP,A)
特開平06-046584(JP,A)
特開2001-260100(JP,A)
特開2001-013895(JP,A)
特開平05-289083(JP,A)
米国特許出願公開第2003/0067225(US,A1)
米国特許第5673721(US,A)
調査した分野 F15B 21/06
F15B 15/00
特許請求の範囲 【請求項1】
移動が固定された固定部材と、
該固定部材の一面と対向する対向面とを有し、該固定部材に対して、該固定部材の一面に沿って移動可能に配設された移動部材と、
該移動部材の対向面と前記固定部材の一面との間に配設された液晶と、
該液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成する一対の転傾形成手段と、
該一対の転傾を、互いに接近離間させる転傾移動手段とからなる
ことを特徴とする物体移動機構。
【請求項2】
前記移動部材が、前記一対の転傾の間に配設されている
ことを特徴とする請求項1記載の物体移動機構。
【請求項3】
前記一対の転傾形成手段が、
前記液晶中に、該液晶内で移動可能に挿入される挿入部材を備えており、
該挿入部材は、
その表面に、該挿入部材の周囲に位置する液晶分子が、該挿入部材の位置に転傾が存在するときと同等の配向を示すようにラビング処理が施されている
ことを特徴とする請求項1記載の物体移動機構。
【請求項4】
液晶上に配置された移動部材を移動させるための物体移動方法であって、
前記液晶に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成し、
該一対の転傾を、互いに接近離間させる
ことを特徴とする物体移動方法。
【請求項5】
前記移動部材を挟む位置に、前記一対の転傾を形成する
ことを特徴とする請求項4記載の物体移動方法。
【請求項6】
液晶内に液晶流動を発生させる液晶流動形成機構であって、
該液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成する一対の転傾形成手段と、
該一対の転傾を、互いに接近離間させる転傾移動手段とからなる
ことを特徴とする液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構。
【請求項7】
液晶内に液晶流動を発生させる液晶流動形成方法であって、
液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成し、
該一対の転傾を、互いに接近離間させる
ことを特徴とする液晶欠陥を利用した液晶流動形成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構および液晶流動形成方法、並びに、液晶流動を利用した物体移動機構および物体移動方法に関する。液晶は、通常、隣接する液晶分子の向きが大きく変化しないように配向している。しかし、液晶中には、隣接する液晶分子に対して配向が不連続となった部分が発生する場合があり、この不連続となった部分が並んで線状になったものは転傾と呼ばれる。
本発明は、かかる液晶に発生する転傾を積極的に利用して物体を移動させる物体移動機構および物体移動方法、並びに、液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構および液晶流動形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶を利用する装置として、液晶ディスプレイが知られている。この液晶ディスプレイでは一対の平板間に液晶を挟んで保持しているが、一対の平板間に挟まれている液晶において、液晶分子は、その配向方向が所定の方向を向くように調整されている。このため、液晶に電圧を加えることによって、液晶分子の配向方向を調整でき、液晶ディスプレイに所定の画像を表示させることができる。
液晶中に転傾が存在すると、転傾の部分は液晶分子の配向方向が本来予定されている方向と異なる方向を向いているため、転傾の部分は、液晶に電圧を加えても液晶分子の配向方向を制御することが困難である。すると、転傾の部分は、予定した色や明るさを示さなくなり、その部分に色落ち等の不具合が生じてしまう可能性がある。つまり、転傾の存在は液晶ディスプレイの品質の低下につながるのである。
かかる事情もあり、転傾の発生を抑制したり除去したりすることを目的とした研究は行われてきたのであるが(例えば、非特許文献1)、これまで、転傾を工業的に利用するような試みは全くなされてこなかった。
【0003】
ところで、転傾には、正の転傾と負の転傾があり、TNI(相転移温度)に近い温度では反対符号の転傾は互いに引き合って接近し、最終的に融合することが知られているが(非特許文献2)、転傾が引き合って融合するときに液晶分子の移動等が生じていることは明らかにされていなかった。しかし、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、転傾が引き合って融合するときに、転傾近傍における液晶分子の移動に起因する液晶流動が生じていること、および、その流動状態を明らかにすることによって、本発明を完成するに到ったのである。
【0004】

【非特許文献1】辻知宏・蝶野成臣,日本機械学会論文集(B編),68,675(2002),3012
【非特許文献2】S. Chandrasekhar 著、木村初男・山下護 共訳、「液晶の物理学」、株式会社吉岡書店、1995年9月25日、p.134-139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、液晶の欠陥構造である転傾の接近等に起因して生じる液晶流動を利用し、物体の微少移動を容易に行うことができる物体移動機構および物体移動方法、並びに、液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構および液晶流動形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の物体移動機構は、移動が固定された固定部材と、該固定部材の一面と対向する対向面とを有し、該固定部材に対して、該固定部材の一面に沿って移動可能に配設された移動部材と、該移動部材の対向面と前記固定部材の一面との間に配設された液晶と、該液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成する一対の転傾形成手段と、該一対の転傾を、互いに接近離間させる転傾移動手段とからなることを特徴とする。
第2発明の物体移動機構は、第1発明において、前記移動部材が、前記一対の転傾の間に配設されていることを特徴とする。
第3発明の物体移動機構は、第1発明において、前記一対の転傾形成手段が、前記液晶中に、該液晶内で移動可能に挿入される挿入部材を備えており、該挿入部材は、その表面に、該挿入部材の周囲に位置する液晶分子が、該挿入部材の位置に転傾が存在するときと同等の配向を示すようにラビング処理が施されていることを特徴とする。
第4発明の物体移動方法は、液晶上に配置された移動部材を移動させるための物体移動方法であって、前記液晶に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成し、該一対の転傾を、互いに接近離間させることを特徴とする。
第5発明の物体移動方法は、第4発明において、前記移動部材を挟む位置に、前記一対の転傾を形成することを特徴とする
第6発明の液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構は、液晶内に液晶流動を発生させる液晶流動形成機構であって、該液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成する一対の転傾形成手段と、該一対の転傾を、互いに接近離間させる転傾移動手段とからなることを特徴とする。
第7発明の液晶欠陥を利用した液晶流動形成方法は、液晶内に液晶流動を発生させる液晶流動形成方法であって、液晶内に、互いに異なる符号を有する一対の転傾を形成し、該一対の転傾を、互いに接近離間させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、転傾移動手段によって一対の転傾を互いに接近離間させれば、液晶の表面に、一の転傾から他の転傾に向かい、その後、一の転傾に戻るような液晶の流動が発生する。このため、液晶の表面に接している移動部材を、液晶流動の方向に移動させることができる。そして、液晶に発生した流動を部材の移動に利用することができるので、液晶を利用した搬送装置等に応用することができる。
第2発明によれば、一対の転傾間には、最も高速かつ移動量の大きい流動が発生するので、転傾の移動量が同じであれば、移動部材を他の位置に配置した場合に比べて、高速にかつ長い距離を移動させることができる。
第3発明によれば、液晶分子を、挿入部材の位置に転傾が存在しているかのように配向させることができるから、挿入部材を移動させることによって転傾が移動するときと同等の液晶流動を発生させることができる。しかも、挿入部材は、配設する位置やその移動を正確に制御できるから、液晶に発生する流動を正確に制御することができ、移動部材の移動制御も正確に制御することができる。
第4発明によれば、一対の転傾を互いに接近離間させれば、液晶の表面に、一の転傾から他の転傾に向かい、その後、一の転傾に戻るような液晶の流動が発生する。このため、液晶の表面に接している移動部材を、液晶流動の方向に移動させることができる。そして、液晶に発生した流動を部材の移動に利用することができるので、液晶を利用した搬送装置等に応用することができる。
第5発明によれば、一対の転傾間には、最も高速かつ移動量の大きい流動が発生するので、転傾の移動量が同じであれば、移動部材を他の位置に配置した場合に比べて、高速にかつ長い距離を移動させることができる。
第6発明によれば、転傾形成手段によって液晶中に符号の異なる一対の転傾を発生させ、転傾移動手段によって発生した一対の転傾を互いに接近離間させれば、液晶の表面に、一の転傾から他の転傾に向かい、その後、一の転傾に戻るような液晶の流動を発生させることができる。
第7発明によれば、液晶中に符号の異なる一対の転傾を発生させ、この一対の転傾を互いに接近離間させれば、液晶の表面に、一の転傾から他の転傾に向かい、その後、一の転傾に戻るような液晶の流動を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構を説明する。
本発明の液晶欠陥を利用した液晶流動形成機構は、液晶中に存在する転傾を利用して液晶流動を発生させるものである。図3は転傾が存在する液晶のシュリーレン写真である(出展:C. Destrader, H. -T. Nguyen, H. Gasparoux, J. Malthete, and A. M. Levelunt, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 71, 118,(1981) 図2.233)。
転傾とは、液晶における配向ベクトルの場の欠陥、すなわち不連続線をいい、図3では、その紙面と垂直な方向に沿って、周囲の液晶分子に対して液晶分子の配向が不連続となっている部分が並んで線状に存在することによって形成されている。この図3において、白色と黒色の帯状組織が交差する箇所が欠陥核、つまり、転傾において液晶分子の向きの空間的歪みが最も高くなるところである。なお、周囲の液晶分子に対して配向が不連続となっているとは、その位置において、紙面内での配向が規定できない状態となっていることを意味する。例えば、図3であれば、紙面と垂直な方向、つまり、紙面面外に向かう方向に液晶分子が配向していたり、配向秩序が低下している状態をいう。
以下では、この液晶分子の配向が不連続となっている部分が並んでいる方向を転傾の軸方向という。
図4に、転傾の周囲における液晶分子の配向をモデル化した図を示す(出展:液晶辞典)。図4において、点で表されている部分が、転傾が存在する位置である。また、図4において実線が転傾周囲の配向場を示しており、実線に沿って液晶分子が、その配向方向が連続してるように配向している。なお、図4中のsは欠陥の強度示している。
【0009】
図4に示すように、転傾の周囲に位置する液晶分子は、その配向方向が連続的に変化するように配置されるのであるが、転傾は、周囲に位置する液晶分子の配向方向の空間的状態によって正の転傾と負の転傾に分類される。具体的には、正の転傾と負の転傾は、一対の転傾を偏光子を通して同じ方向かつ軸方向から見たときに、転傾の周りに位置する黒色の帯状組織が偏光子の回転方向と同じ方向に回転する場合が正の転傾であり、転傾の周りに位置する黒色の帯状組織が偏光子の回転方向と逆方向に回転する場合が負の転傾である。図3であれば、一対の転傾A,Bを偏光子を通して紙面と垂直な方向から見たときに、転傾の周りに位置する黒色の帯状組織が偏光子の回転方向と同じ方向に回転する場合が正の転傾であり、転傾の周りに位置する黒色の帯状組織が偏光子の回転方向と逆方向に回転する場合が負の転傾である。
【0010】
図3に示すように、隣接する正の転傾と負の転傾は、黒色の帯状組織によって繋がっているように見えるのであるが、この隣接する正の転傾と負の転傾が互いに接近し、やがて両転傾が融合、言い換えれば、両転傾が消滅する。この正の転傾と負の転傾が互いに接近し融合する場合において、転傾近傍の配向の変化および速度場をシミュレーションした結果を図5,6に示す。
シミュレーションに用いた、液晶分子の配向確率密度を表す配向分布関数fの時間発展方程式、運動方程式、連続の式、および構成方程式は、それぞれ以下の数式で表される。
【0011】
【数1】
JP0004701415B2_000002t.gif
式中のuは着目した棒状の液晶分子に平行な単位ベクトル、f(u,t)はuの配向分布関数、D/Dtは実質微分、▽は実空間上での微分演算子、▽は位相空間上での微分演算子、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、κは速度勾配テンソルである。τは偏差応力テンソル、cは液晶分子の数密度、δは単位テンソル、Uはネマチックポテンシャル強度、ρは密度、vは速度ベクトル、pは圧力である。また、回転拡散係数は、以下の数2の記号で表される。
【0012】
【数2】
JP0004701415B2_000003t.gif
また、Vは平均場ポテンシャルでありMarrucci‐Grecoポテンシャルを用いると、以下の数2のように表すことができる。なお、数3において、lは棒状分子の長さ、lは棒状分子の相互作用代表長さであり、Sは液晶の配向状態を表す秩序パラメータテンソルであり、数3のように定義される。なお、数4において、<>は、fによる<>内の数値のアンサンブル平均を表す。
【0013】
【数3】
JP0004701415B2_000004t.gif

【0014】
【数4】
JP0004701415B2_000005t.gif
以上の基礎式をコンピュータ上で数値計算することにより、幅Hの2次元正方領域中に正負一対の欠陥構造が発生した場合の速度場のシミュレーションを行った。
計算条件として、無次元化した式を空間方向には中心差分法を、時間方向には4次のRunge-Kutta法を用いて離散化した。境界条件として、周期境界条件を用いた。このとき、計算メッシュ幅をΔx=Δz=10-2、dt=2×10-5とした。また物性値は実際の液晶材料から、U=5、l=0.2、ρ=10-3kg/mとし、c=2.25×1027-3、T=300K、H=1.5×10-4mとした。そして、回転拡散係数は、以下の数5のようにした。
【0015】
【数5】
JP0004701415B2_000006t.gif
なお、計算では、領域を2次元領域に限定しているため、シミュレーション結果として、図3の写真に示された転傾と、帯状組織の数が異なる転傾が現れている(図5)。
【0016】
図5は、転傾が消滅する状況における配向場の時間変動を示した計算結果である。図5では、(a)から(f)に向かって時間が進行しており、色が濃くなるほど、その位置における液晶分子の配向方向の傾きがx軸方向(図5の左右方向)に対して±45°に近づいていることを示し、色が薄くなるほど、その位置における液晶分子の配向方向の傾きがx軸方向に対して0°または±90°に近づいていることを示している。
図5示すように、一対の転傾A,Bが互いに接近し、やがて消滅する状況が確認できる。しかも、一対の転傾A,Bが互いに接近していくにしたがって、一対の転傾A,B間および各転傾の周囲における液晶の配向の空間的歪み領域が小さくなっていることが確認できる。
図6では、矢印により各点での速度を表して、矢印の向きが液晶の流動方向、長さが流動速度を示している。図6に示すように、一対の転傾A,B転傾の周囲では、図3に示す配向の変化に起因すると考えられる液晶流動が発生していることが確認できる。つまり、符号の異なる一対の転傾を液晶中に発生させ、この一対の転傾を互いに接近離間させれば、液晶中に液晶流動を発生させることができるのである。
また、一対の転傾A,Bが互いに接近していくときに発生する液晶流動は、一の転傾(図6では転傾B)から他の転傾(図6では転傾A)に向かって流れ、再び一の転傾に戻る循環流(以下、基本循環流という、図1(B)参照)を形成していることが確認できる。しかも、液晶流動の速度は、一対の転傾A,Bの間の部分において最も大きいことが確認できる。また、循環流は、基本循環流だけでなく、転傾Aの側方(図6では上方下方)にも、基本循環流と逆周り、かつ、基本循環流よりも小規模の循環流が形成されることが確認できる。
以上のごとく、符号の異なる一対の転傾を互いに接近させれば、液晶中には流動を発生させることができるのである。
なお、図示しないが、一対の転傾を互いに離間させれば、液晶分子は、接近するときと逆の動きによって元の状態に戻るから、一対の転傾を互いに接近させる場合と逆向きの循環流が形成させることができる。
【0017】
さらになお、符号の異なる一対の転傾を液晶中に発生させる方法は、例えば、後述するような一対の棒状部材4A,4Bを液晶中に挿入したり、液晶を封入する容器の内面をラビングすることによって形成することができる。
【0018】
以上のごとく、符号の異なる一対の転傾が互いに接近離間するときに、液晶には流動が発生することが確認できたので、この液晶流動を利用した物体移動機構を説明する。
図1(A)は転傾の接近に起因する液晶流動を利用した物体移動機構の一例であり、(B)は棒状部材4Aを移動させたときにおける液晶流動と移動部材2の移動の関係を示した図である。
図1において、符号3は液晶を示している。この液晶3は、例えばネマティック液晶やスメクティック液晶、コレステリック液晶、ディスコティック液晶等であるが、転傾を生じさせることができるものであればよく、特に限定はない。
【0019】
図1に示すように、液晶3は、固定部材1の上面に載せられている。この固定部材1は、例えば、ガラスや金属、プラスチック等の平板であるが、平板に限られず、液晶をその上面に載せて保持しておくことができる面を有するものであればよい。また、液晶3を載せる面は、図1では平面を例として記載しているが、平面に限られず曲面であったり、凹凸を有する面であってもよい。さらに、固定部材1において液晶3と接触する面は、ラビング処理やラビングレス処理等の液晶の配向を拘束する処理を行っていてもよいし、配向を拘束する処理を行っていなくてもよい。
【0020】
図1に示すように、液晶3の上面には、移動部材2が配置されている。この移動部材2は、例えば、ガラスや金属、プラスチック等を素材とする部材であり、その下面、つまり、液晶3と接触する面が固定部材1の上面と対向し、かつ、固定部材1の上面に沿って移動できるように配設されている。この移動部材2の下面が、特許請求の範囲にいう対向面である。
なお、図1では、移動部材2を、その下面が固定部材1の上面と平行となるように配設しているが、移動部材2の下面と固定部材1の上面は互いに平行でなくてもよい。
さらになお、移動部材2は、液晶3の上面において、どの方向にも自由に移動できる状態で配設してもよいが、図示しない案内レールなどによって、移動方向が拘束されていてもよい。
さらになお、移動部材2において液晶3と接触する面は、ラビング処理やラビングレス処理等の液晶の配向を拘束する処理を行っていてもよいし、配向を拘束する処理を行っていなくてもよい。
【0021】
図1に示すように、液晶3には、前記移動部材2を挟むように一対の棒状部材4A,4Bが配設されており、かつ、この一対の棒状部材4A,4Bは、その軸方向が固定部材1の上面と直交するように配設されている。この一対の棒状部材4A,4Bの表面には、ラビング処理やラビングレス処理等の液晶の配向を拘束する処理が行われている。この処理は、一対の棒状部材4A,4Bの側面に沿って液晶分子が欠陥構造を形成するように行われている。具体的には、棒状部材の表面に接する液晶分子が垂直配向、つまり、液晶分子の方向が棒状部材の軸方向を向くように配向させれば、棒状部材の周囲における液晶の空間的配向状態を、図4(d)に示すような状態にすることができる。棒状部材の表面に接する液晶分子を垂直配向させるには、界面活性剤やクロム錯体、酸化ケイ素(SiO)の垂直蒸着を行えばよく、この場合には、棒状部材の位置が、正の符号を有する転傾であるかのように液晶分子は配向する。
一方、図4(d)に示すような液晶の配向を形成させ、かつ、棒状部材の位置が負の符号を有する転傾であるかのように液晶分子を配向させるには、棒状部材の表面を、その軸方向に沿って複数の領域に分割し、各領域において異なるラビング処理、例えば、棒状部材の軸方向に対するラビング方向やラビング強度を軸方向に沿って徐々に変化させればよい。すると、棒状部材の表面に接する液晶分子を垂直配向させることができ、しかも、棒状部材の位置が、正の符号を有する転傾であるかのように液晶分子は配向する。
【0022】
なお、一対の棒状部材4A,4Bの表面に行う処理は、上記の処理に限られず、一対の棒状部材4A,4Bの側面に沿って液晶分子が欠陥構造と同様の空間的配向状態となる処理、言い換えれば、液晶分子を、一対の棒状部材4A,4Bの位置に転傾が存在しているかのように配向させることができるのであれば、どのような処理を行ってもよい。
さらになお、一対の棒状部材4A,4Bは、その軸方向が固定部材1の上面と直交するように配設されている必要はなく、固定部材1の上面に対して傾いていてもよい。
上記の棒状部材4A,4Bが、特許請求の範囲にいう挿入部材であるが、挿入部材は棒状に限られず、どのような形状の部材でもよく、挿入部材の位置に転傾が存在しているかのように配向させることができればよい。
【0023】
上記のごとき処理が行われた一対の棒状部材4A,4Bを液晶3に挿入すれば、一対の棒状部材4A,4Bの周囲では、液晶分子が、一対の棒状部材4A,4Bの位置に欠陥構造(転傾)が存在するときと同様の空間的配向状態となる。言い換えれば一対の棒状部材4A,4Bの周囲に位置する液晶分子は、一対の棒状部材4A,4Bの位置が転傾であるかのように配向するのである。
【0024】
また、図示しないが、一対の棒状部材4A,4Bは、一対の棒状部材4A,4Bを互いに接近離間するように移動させる転傾移動手段に連結されている。この転傾移動手段は、とくに限定されず、公知の移動機構を採用することができるが、一例としては、ボールネジ機構やシリンダ機構等を使用することができる。
【0025】
このため、図1に示すように、一対の棒状部材4A,4Bのうち、他方の棒状部材4Bを固定した状態で、転傾移動手段によって一方の棒状部材4Aを他方の棒状部材4Bに向けて移動させれば、一対の転傾を互いに接近させた場合と同等の液晶流動が液晶3内に発生する。よって、移動部材2が、一対の棒状部材4A,4Bのうち、一方の棒状部材4Aに近い位置に配置されていれば、移動部材2は、一方の棒状部材4Aから他方の棒状部材4Bに向かって移動するのである。そして、一対の棒状部材4A,4Bを移動させれば、上記のごとく移動部材2を移動させることができるから、液晶を利用した搬送装置等に応用することができる。
【0026】
なお、一対の棒状部材4A,4Bを接近させたときに形成される循環流の回転方向および大きさは、液晶材料の物性,転傾の性質および転傾の符号により決定されるが、再現性が高いので、事前にこれらを把握しておけば、各転傾A,Bの周囲に形成される循環流を予測することができる。
さらになお、上記の例では一対の棒状部材4A,4Bのうち、一方の棒状部材4Aのみを移動させたが、両方の棒状部材4A,4Bを移動させてもよいのは、いうまでもない。
【0027】
また、移動部材2を一対の棒状部材4A,4Bを結ぶ線L(以下、単に線Lという、図2参照)上に配設されている場合には、移動部材2は一方の棒状部材4Aから他方の棒状部材4Bに向けて移動するのであるが、移動部材2は必ずしも一対の棒状部材4A,4Bの間に配設されていなくてもよい。その場合でも、一対の棒状部材4A,4Bを接近離間させたときに液晶に前述した循環流が形成される位置に移動部材2を配置しておけば、移動部材2を移動させることができる。
【0028】
例えば、移動部材2を、図2(A),(B)のような位置関係、つまり、一対の棒状部材4A,4Bの間であってかつ線Lから横にズレた位置に配置しても、移動部材2は一対の棒状部材4A,4Bの周りに発生する循環流に沿って移動する。しかし、この位置における循環流の流動方向は、線Lから離間する方向であってかつ線Lに対して傾いているので、図2(A)の位置に移動部材2を配置すれば、移動部材2を、一対の棒状部材4A,4Bを結ぶ線Lから離間する方向であって線Lに対して傾いた方向(図2(A)矢印aの方向)に移動させることができる。
【0029】
また、図2(B)の位置、つまり、一対の棒状部材4A,4Bの側方に配置すれば、移動部材2は一対の棒状部材4A,4Bを結ぶ線Lとほぼ平行に移動させることができる。この点では移動部材2を線Lに配設した場合と同じであるが、移動部材2Aの位置、つまり、移動させる棒状部材4Aの側方に配置すれば、移動部材2Aを一方の棒状部材4Aと逆方向(図2(B)矢印aの方向)に移動させることができる。
【0030】
そして、移動部材2Bの位置、つまり、固定している棒状部材4Bの側方に配置すれば、移動部材2Bを、一方の棒状部材4Aと同じ方向に移動させることができるが、線L上に配置した場合よりもその移動量を少なくすることができる。つまり、棒状部材4Aの移動に比べて、非常に微小な量だけ移動部材2Bを移動させることができる。すると、非常に微細な移動が求められるアクチュエータとして、この物体移動機構を採用できる可能性がある。具体的には、図2(C)に示すように、移動部材2Bに微細なアームP2の基端を固定し、このアームP2の先端と対向する位置にアームP1を配置しておけば、一方の棒状部材4Aを移動させることによってアームP2をアームP1に対して接近離間させることができる。すると、アームP2とアームP1によって物体を把持したり解放したりすることができる。しかも、一方の棒状部材4Aの移動が大きくても、移動部材2Bの移動量は、棒状部材4Aの移動量に比べて非常に少なくなる。つまり、一方の棒状部材4Aを大きく移動させても、アームP2に微小な移動をさせることができるから、本発明の物体移動機構を、DNA等のような非常に細く扱いが難しい物体を掴むことができるプローブのアーム駆動装置に採用できる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の物体移動機構は、非常に微細な動きを必要とするマイクロスケールやナノスケールの物体を移動させる搬送装置や、マイクロスケールやナノスケールの物体を取り扱うプローブの作動装置等に適している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)は転傾の接近に起因する液晶流動を利用した物体移動機構の一例であり、(B)は棒状部材4Aを移動させたときにおける液晶流動と移動部材2の移動の関係を示した図である。
【図2】移動部材2と一対の棒状部材4A,4Bとの相対的な位置の相違による移動部材2の移動方向の相違を比較した図である。
【図3】転傾が存在する液晶のシュリーレン写真である
【図4】転傾の周囲における液晶分子の配向をモデル化した図である。
【図5】転傾が消滅する状況における配向場の時間変動を示した計算結果である。
【図6】転傾が消滅する状況において、転傾近傍における液晶流動の速度を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 固定部材
2 移動部材
3 液晶
4 棒状部材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図3】
4
【図5】
5