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明細書 :耐塩性強化転移因子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4815579号 (P4815579)
公開番号 特開2006-042731 (P2006-042731A)
登録日 平成23年9月9日(2011.9.9)
発行日 平成23年11月16日(2011.11.16)
公開日 平成18年2月16日(2006.2.16)
発明の名称または考案の名称 耐塩性強化転移因子
国際特許分類 C07K  14/415       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C07K 14/415
C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 103
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 20
全頁数 19
出願番号 特願2004-231602 (P2004-231602)
出願日 平成16年8月6日(2004.8.6)
審査請求日 平成19年5月29日(2007.5.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】山田 晃世
【氏名】小関 良宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100123168、【弁理士】、【氏名又は名称】大▲高▼ とし子
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 第6回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨集,2002年,p.86, H-4
日本植物生理学会2002年度年会および第42回シンポジウム講演要旨集,2002年,p.157, 1pL02
PCP,2003年,Vol.44, No.1,pp.3-9
調査した分野 C07K 14/415
A01H 5/00
C12N 1/00- 1/38
C12N 15/00-15/90
C12N 5/00-5/28
C12P 21/02
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Science Direct



特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードするDNA。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号2に示されるアミノ酸配列と同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
以下の(a)~(j)のいずれか記載のDNA;
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号5に示される塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(e)配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(f)配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(g)配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(h)配列番号2の1-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(i)配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(j)配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
配列番号1、3又は5に示される塩基配列において、1~15個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項3の(a)~(c)のいずれか記載のDNAと同一性が95%以上のDNAからなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性である請求項1~5のいずれか記載のDNA。
【請求項7】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項8】
配列番号2に示されるアミノ酸配列と同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質。
【請求項9】
以下の(A)~(I)のいずれか記載のタンパク質;
(A)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(B)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(C)配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(D)配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(E)配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(F)配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(G)配列番号2の2-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(H)配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(I)配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項10】
配列番号2、4又は6に示されるアミノ酸配列において、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質。
【請求項11】
環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性である請求項7~10のいずれか記載のタンパク質。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか記載のタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクター。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項14】
請求項12又は13記載の組換えベクターを宿主細胞に導入することにより得られる形質転換細胞。
【請求項15】
宿主細胞が、植物細胞である請求項14記載の形質転換細胞。
【請求項16】
宿主細胞が、微生物細胞である請求項14記載の形質転換細胞。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか記載の形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養液の上清から組換えタンパク質を回収することを特徴とする環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項18】
請求項7~11のいずれか記載のタンパク質をコードするDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物。
【請求項19】
請求項1~6のいずれか記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物。
【請求項20】
請求項12又は13記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、耐塩性強化転移因子と考えられる塩ストレス耐性向上活性等の環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAや、耐塩性強化転移因子と考えられる塩ストレス耐性向上活性等の環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、トランスジェニック植物などのこれらDNAやタンパク質の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に存在する生物は塩、高温、低温、凍結、乾燥、塩ストレス等の種々の環境ストレスに曝されている。特に、塩ストレスは多くの高等植物の生育を阻害する最も大きな要因の1つである。高等植物の耐塩性強化は、農産物生産の増大につながるため、遺伝子導入により高等植物の耐塩性を強化させる試みが、活発に進められている。耐塩性を強化する機能を有するタンパク質は、大別して適合溶質(グリシンベタイン、マンニトール、トレハロース、プロリン)合成酵素や、イオンホメオスタシスに関与する酵素(Na/Hアンチポーター)、及びこれらの遺伝子の発現を制御する転写調節因子に大別することができる。これらのタンパク質を発現した形質転換細胞で、耐塩性の向上が認められた例が近年多数報告されている。例えば、コリンオキシダーゼをコードする遺伝子が染色体DNA中に導入されたユーカリ属の植物体(特許文献1参照)や、耐塩性藍藻 (Aphanothece halopytica) 由来Na/HアンチポーターをコードするDNA(特許文献2参照)や、植物の細胞内におけるプロリン分解系の酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することを特徴とする植物のストレス耐性を上昇させる方法(特許文献3参照)がそれぞれ報告されている。しかし、上記の耐塩性強化因子を発現した生物(特に植物)において、約500mMのNaClを含む海水に耐える形質転換体は未だ得られておらず、海水に耐える形質転換体を作成するためには、適合溶質合成系酵素やイオンホメオスタシスに関与する酵素だけでは不十分であると思われる。
【0003】
一方、自然界にはその進化の過程で強力な耐塩性機構を獲得した植物(塩生植物)がある。このような植物群がもつ耐塩性因子を、単独、あるいは複数組み合わせて使用することで、塩生植物並みの強力な耐塩性を獲得した形質転換体(特に植物)を作出できると期待されている。例えば、本発明者らは塩生植物の一種であるマングローブに着目し、既に培養細胞系が確立されているBruguiera sexangulaの培養細胞の分与を得て、この細胞株を100mMのNaCl存在下で培養し、培養細胞から抽出したmRNAを基にcDNAライブラリーを作製し、この中からマングローブの耐塩性に関与する遺伝子の探索を試み、単離したストレス耐性に関与する遺伝子群の中の1つの遺伝子を導入することにより、酵母、植物細胞(タバコ培養細胞)、そして植物体(タバコ)の耐塩性を強化させることに成功している(特許文献4参照)。また、マングローブの1種である、メヒルギ中に新規な耐塩性増大遺伝子を見出し、その塩基配列及びそれがコードするアミノ酸を決定し、さらに該遺伝子を他の植物に導入してその耐塩性が増大することが確認されている(特許文献5、6参照)。しかし、現在までに塩生植物由来の耐塩性因子に関する知見は大変少ない。
【0004】

【特許文献1】特開2003-143988号公報
【特許文献2】特開2003-180373号公報
【特許文献3】特開2003-186879号公報
【特許文献4】特開2001-333784号公報
【特許文献5】特開2003-116546号公報
【特許文献6】特表2003-512837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、塩、水分、熱ストレス等の環境ストレス、特に塩ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の遺伝子や、環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、環境ストレス耐性が増強されたトランスジェニック植物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、大腸菌を用いた機能スクリーニング法で耐塩生植物の塩ストレスに関与する因子の探索を行ってきた。その結果、シチメンソウ由来のcDNAライブラリーから新規タンパク質をコードするcDNA(s284)が導入された形質転換大腸菌に顕著な耐塩性の向上が認められた。s284 cDNAの全塩基配列を解析した結果、全長が2416bpで、670アミノ酸からなる親水性が高いタンパク質をコードしていることが明らかになった。また、データベース上に類似配列は存在せず、このアミノ酸配列の中にはPSTTKとそれに類似するアミノ酸配列が合計17回繰り返される極めて珍しい領域(以下 PSTTK-repeat)が含まれていた。そこで、s284 cDNAのデリーションクローンを作製し、大腸菌の耐塩性を強化するために必要な領域(機能領域)の検討を試みた。その結果、PSTTK-repeat領域のみでも大腸菌の耐塩性を強化する機能を有することが確認された。そこで、このPSTTK-repeatに着目し、このタンパク質のもつ大腸菌に対する耐塩性強化機能の解析を試みた。
【0007】
予備的にPSTTK-repeatを導入した形質転換大腸菌のストレス耐性に関するキャラクタリゼーションを行った結果、PSTTK-repeatが導入された形質転換体には耐塩性と同時に、明らかな耐熱性の向上も確認された。このことから、PSTTK-repeatタンパク質には、分子シャペロン様の活性を示す可能性が考えられた。そこで、大腸菌発現ベクターであるpET15b(Novagen)にPSTTK-repeat cDNAを組み込み、Histidine-tagとの融合タンパク質として大腸菌内に発現させた。得られた融合タンパク質を精製し、分子シャペロン活性を評価した。分子シャペロン活性の評価には、クエン酸シンターゼ(CS)に対する熱凝集抑制効果を指標とした。His tag- PSTTK-repeat融合タンパク質はコントロールタンパク質であるBSAと比較して、明らかなCSに対する熱凝集抑制効果が認められた。一方、一般的な分子シャペロンは変性タンパク質のリフォールディングを促進する効果を有することが知られているため、His tag- PSTTK-repeat融合タンパク質についても同様な検討を行った。しかしながら、この融合タンパク質には、リフォールディングを促進する効果は全く認められなかった。これらの結果から、PSTTK-repeatは、ストレス下において生じる細胞内タンパク質の凝集を抑制する機能をもち、その結果、大腸菌に対し、耐塩性、耐熱性の向上をもたらすことができたと考えられた。同時に、シチメンソウの耐塩性機構に対しても、何らかの重要な役割を果たしていると考えられた。本発明は、以上の知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、(1)以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードするDNA;
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列と同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAや、
(3)以下の(a)~(j)のいずれか記載のDNA;
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号5に示される塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(e)配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(f)配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(g)配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(h)配列番号2の1-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(i)配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(j)配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAや、
(4)配列番号1、3又は5に示される塩基配列において、1~15個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAや、
(5)上記(3)の(a)~(c)のいずれか記載のDNAと同一性が95%以上のDNAからなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAや、
(6)環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性である上記(1)~(5)のいずれか記載のDNAに関する。
【0009】
また本発明は、(7)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、
(8)配列番号2に示されるアミノ酸配列と同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、
(9)以下の(A)~(I)のいずれか記載のタンパク質;
(A)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(B)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(C)配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(D)配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(E)配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(F)配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(G)配列番号2の2-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(H)配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(I)配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、
(10)配列番号2、4又は6に示されるアミノ酸配列において、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、
(11)環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性である上記(7)~(10)のいずれか記載のタンパク質や、
(12)上記(7)~(11)のいずれか記載のタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクターや、
(13)上記(1)~(6)のいずれか記載のDNAを含む組換えベクターや、
(14)上記(12)又は(13)記載の組換えベクターを宿主細胞に導入することにより得られる形質転換細胞に関する。
【0010】
さらに本発明は、(15)宿主細胞が、植物細胞である上記(14)記載の形質転換細胞や
(16)宿主細胞が、微生物細胞である上記(14)記載の形質転換細胞や
(17)上記(14)~(16)のいずれか記載の形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養液の上清から組換えタンパク質を回収することを特徴とする環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の製造方法や
(18)上記(7)~(11)のいずれか記載のタンパク質をコードするDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物や
(19)上記(1)~(6)のいずれか記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物や
(20)上記(12)又は(13)記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られる環境ストレス耐性向上活性を有するトランスジェニック植物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAは、塩生植物由来の遺伝子であるため、高等植物、微生物等幅広い生物群の環境ストレス(塩、水分、熱ストレス他)耐性向上、タンパク質凝集抑制効果向上への利用が期待できる。特に近年、土壌における塩分の集積により可耕地が激減している状態にあり、本発明は、農業における生産性向上、砂漠緑化に利用できる。また、微生物によるアミノ酸等の有用物質生産を行う場合、生産物 (代謝産物) による塩ストレスが生じ、それが微生物の持つ有用物質生産能に悪影響をもたらす現象が知られているが、塩ストレスによる悪影響を受けることなく有用物質生産を行うことができる。さらに、本発明で得られた成果は各種微生物産業にも応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のDNAとしては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と相同性が70%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA;(D)配列番号1、3若しくは5に示される塩基配列又はその相補的配列からなるDNA;(E)例えば、配列番号3又は5に示される塩基配列又はその相補的配列からなるDNAなど、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列の一部若しくは全部を含み、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA;(F)配列番号1、3又は5に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA;(G)上記の(D)又は(E)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA;又は(H)環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性であるDNAであれば特に制限されず、また、本発明のタンパク質としては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列と相同性が70%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質;(C)例えば、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質など、配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部若しくは全部を含み、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質;(D)配列番号2、4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質;又は(E)環境ストレス耐性が、塩ストレス耐性、熱ストレス耐性、水分ストレスから選ばれる1以上のストレス耐性であるタンパク質であれば特に制限されず、ここで「塩ストレス耐性向上活性」とは、所定濃度の塩水に対して向上した耐性を示す活性をいい、例えば、塩ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現する植物や微生物は、該蛋白質を発現しない植物や微生物に比べて、所定濃度の塩水存在下において統計学上有意に優れた増殖を示すことになるが、これに限定されるものではない。また、「熱ストレス耐性向上活性」とは、高温に対して向上した耐性を示す活性をいい、例えば、熱ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現する植物や微生物は、該蛋白質を発現しない植物や微生物に比べて、高温度下において統計学上有意に優れた増殖を示すことになるが、これに限定されるものではない。そしてまた、「水分ストレス耐性向上活性」とは、所定濃度のソルビトールに対して向上した耐性を示す活性をいい、例えば、水分ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現する植物や微生物は、該蛋白質を発現しない植物や微生物に比べて、所定濃度のソルビトール存在下において統計学上有意に優れた増殖を示すことになるが、これに限定されるものではない。
【0013】
また、本発明のDNAは、環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするが、塩ストレス耐性向上活性、水分ストレス耐性(ソルビトール耐性)向上活性、熱ストレス耐性向上活性などの複数の環境ストレスに対する耐性向上活性を有するタンパク質や、タンパク質凝集抑制効果を有するタンパク質をコードするものが好ましい。そしてまた、本発明のタンパク質は、環境ストレス耐性向上活性を有するが、塩ストレス耐性向上活性、水分ストレス耐性(ソルビトール耐性)向上活性、熱ストレス耐性向上活性などの複数の環境ストレスに対する耐性向上活性や、タンパク質凝集抑制効果を有するものが好ましい。
【0014】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個の任意の数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。
【0015】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.以後 "モレキュラークローニング第2版" と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1~38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0016】
上記「配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列との相同性が70%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上であることを意味する。
【0017】
上記本発明の配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列の一部若しくは全部を含み、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNAとしては、環境ストレス耐性強化能を有する転写因子をコードする配列番号3に示される塩基配列とその相補的配列からなるDNA(配列番号2の57-173で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA)や、配列番号5に示される塩基配列とその相補的配列からなるDNA(配列番号2の88-190で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA)の他、配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の1-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA等を具体的に例示することができる。
【0018】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0019】
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列又は塩基配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的の遺伝子DNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0020】
具体的には、本発明の遺伝子DNAが単離されたシチメンソウより、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子DNAを取得することができる。上記cDNAの起源としては、上記植物由来の各種の細胞または組織を例示することができ、また、これらの細胞又は組織からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明の遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。また、上記(B)~(G)のいずれかに示される塩基配列からなる本発明の変異遺伝子又は相同遺伝子DNAとしては、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の生物体等より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
【0021】
上記本発明の配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部若しくは全部を含み、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質としては、環境ストレス耐性強化能を有する転写因子である配列番号4に示されるアミノ酸配列(配列番号2の57-173で示されるアミノ酸配列)からなるタンパク質や、配列番号6に示されるアミノ酸配列(配列番号2の88-190で示されるアミノ酸配列)からなるタンパク質の他、配列番号2の1-520で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の1-434で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の1-375で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の1-329で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の2-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の88-264で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2の88-259で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質等を具体的に例示することができる。
【0022】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来の単離されたタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来の単離されたタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0023】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明のタンパク質を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。また、本発明のタンパク質が細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。
【0024】
さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号1に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNAをプローブとしてシチメンソウ以外の生物より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0025】
上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させて融合タンパク質とすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni-NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0026】
上記本発明のDNAやタンパク質を用いると、植物・動物及びそれらの組織、器官、細胞並びに細菌、酵母、カビ等の微生物の耐塩性、水分ストレス耐性(ソルビトール耐性)、耐熱性等の環境ストレス耐性を向上させることができる。
【0027】
本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体を作製することができる。かかる抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列番号2に示されるアミノ酸配列と相同性が70%以上のアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質や、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を抗原として用いて作製することができる。これら抗体は、例えば、環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の分子機構を明らかにする上で有用である。
【0028】
上記環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質に対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に該環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質又はエピトープを含む断片、類似体若しくは細胞を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ技法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV-ハイブリドーマ技法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc.,1985)など任意の技法を用いることができる。
【0029】
本発明の上記環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質に対する一本鎖抗体をつくるために、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778 号)を適用することができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニック植物又はトランスジェニック動物等を利用したり、上記抗体を用いて、その環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。
【0030】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明のDNAを含み、かつ環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子DNAを発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明の遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。
【0031】
例えば、植物細胞用の発現ベクターとしては、Tiプラスミド(Tumor inducing plasmid)、pSPORT1、pT7Blue-Tベクター、pIG121-Hm〔Plant Cell Report, 15, 809-814(1995)〕、pBI121〔EMBO J. 6, 3901-3907(1987)〕などのプラスミド、あるいはタバコモザイクウイルス、カリフラワーモザイクウイルス、ジェミニウイルスなどの植物ウイルスベクター等を例示することができる。植物細胞用のプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター〔Mol.Gen.Genet (1990) 220, 389-392〕、ルブロースビスフォスフェートカルボキシラーゼスモールサブユニットプロモーター等を挙げることができ、ターミネーターとしては、例えばノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターを挙げることができる。
【0032】
酵母用の発現ベクターとして、例えば、pYES2(Invitrogen)、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、Ycp5O(ATCC37419)、pHS19、pHS15等を例示することができる。酵母用のプロモーターとしては、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等のプロモーターを具体的に挙げることができる。発現ベクターとしては、酵母用発現ベクター、植物細胞用発現ベクター、細菌用発現ベクター、動物細胞用発現ベクター等を用いることができるが、酵母用発現ベクターや植物細胞用発現ベクターを用いた組換えベクターが好ましい。
【0033】
細菌用の発現ベクターとしては、例えば、pBTrP2、pBTac1、pBTac2(いずれもべ一リンガーマンハイム社製)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agrc.Biol.Chem., 48, 669(1984)〕、PLSA1〔Agrc. Blo1. Chem., 53, 277(1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)〕、pTP5、pC194、pUC18〔Gene, 33, 103(1985)〕、pUC19〔Gene, 33, 103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、等を例示することができる。細菌用のプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明の形質転換細胞としては、上記本発明の組換えベクターが導入され、かつ少なくとも熱又は水分ストレス耐性向上活性を有するタンパク質を発現する形質転換細胞であれば特に制限されず、形質転換植物細胞、形質転換動物細胞、形質転換細菌、形質転換酵母を挙げることができるが、形質転換大腸菌、形質転換酵母、形質転換植物細胞などを好適に例示することができる。これら、形質転換大腸菌、形質転換酵母、形質転換植物細胞などの形質転換細胞は、アミノ酸生産など各種微生物産業に好適に応用することができる。
【0035】
形質転換植物細胞の作製に用いられる宿主植物細胞としては、その種類は特に限定されず、花卉、果実植物、野菜、根菜、穀類、観葉植物、果樹を含む樹木などの植物、例えばナス科、イネ科、アブラナ科、キク科、ゴマ科、モクセイ科、フトモモ科、バラ科、マメ科、ヤシ科又はアカネ科に属する植物の培養細胞のうちから適宜選択することができる。この形質転換植物細胞を作製するには、本発明の遺伝子DNAを含有した上記本発明の組換えベクターを用い、この組換えベクターを植物細胞内に導入し、植物細胞内のゲノムDNA中に本発明の遺伝子DNAを導入する方法を採用することができる。植物の形質転換は、植物の種類等に応じて、リーフディスク共存培養法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の公知の方法を適宜用いて行うことができる。その他、物理的または化学的に植物細胞の透過性を高めて本発明の組換えベクターを受容体細胞内に直接取り入れて形質転換植物を作製する方法を採用することもできる。
【0036】
形質転換酵母の作製に用いられる酵母宿主の具体例としては、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisae)、シゾサッカロミセス・ボンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリュイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pu11ulans)、シュワニオミセス・アルビウス(Schwanniomyces a11uvius)等を挙げることができる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
形質転換細菌の作製に用いられる細菌の宿主細胞の具体例としては、エッシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、バチラス(Bacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、エルウニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物を挙げることができる。細菌宿主へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、カルシウムイオンを用いる方法やプロトプラスト法等を挙げることができる。
【0037】
また、本発明の環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の製造方法としては、上記本発明の形質転換酵母、形質転換細菌、形質転換植物細胞等の形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞又はその培養液の上清から組換えタンパク質を回収する方法であれば特に制限されるものではない。さらに、本発明のトランスジェニック植物としては、前記環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質をコードするDNA又は前記ベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞の分裂・増殖と再分化を行わせることにより得られるものであれば特に制限されるものではない。以下、上記本発明のベクター、形質転換細胞、環境ストレス耐性向上活性を有するタンパク質の製造方法、及びトランスジェニック植物について説明する。
【0038】
上記のように、本発明のDNAは組換えタンパク質の調製に利用することができる。組換えタンパク質の調製は、上記本発明のDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入して、該DNAを発現させ、次いで、発現させたタンパク質を該形質転換細胞又はその培養上清から回収することにより行うことができる。組換えタンパク質の発現に用いられる宿主-ベクター系としては、例えば、IMPACT-CN System(宿主: E. coli strain ER2566、ベクター:pTYB1、pYB2、pYB11、pYB12 (BioLabs社))、あるいはpET Expression System(宿主: Epicurian Coli BL21、ベクター:pET3シリーズ(Novagen社))を挙げることができる。宿主細胞へのベクターの導入法としては、当業者に公知の方法、例えば、エレクトロポレーション法やヒートショック法が挙げられる(遺伝子ライブラリーの作製法、羊土社(1994)、植物細胞工学入門、学会出版センター(1998))。また、組換えタンパク質を発現させるための形質転換体の培養は、当業者に一般的に用いられている方法および条件にて行なうことができる。発現させたタンパク質は、例えば、IMPACT-CN Systemを利用した場合にはキチンビーズ(BioLabs社)で、pET Expression Systemを利用した場合にはHis Bind Resin(Novagen社)により精製できる。
【0039】
上記本発明のDNAは、また、環境ストレス耐性が強化されたトランスジェニック植物の作出に利用できる。本発明のDNAを用いてトランスジェニック植物を作出する生物種としては特に限定されるものではないが、高等植物であることが好ましい。かかるトランスジェニック植物の作出は、該DNAを植物細胞内でその発現を保証するベクターに挿入し、これを植物細胞に導入し、トランスジェニック植物を得るために該形質転換植物細胞を再生させることにより有利に行うことができる。
【0040】
トランスジェニック植物の作出に用いられるベクターとしては、例えば、東洋紡から市販されているpBI101、あるいはpIG121Hm (Plant J, Vol 6, p271-282(1994)) を好適に用いることができる。ベクターを導入する植物細胞の種類に特に制限はないが、例えばイネ、小麦、トウモロコシ、大豆、タバコ、ニンジン等が考えられる。植物細胞の形態としては、例えば、プロトプラスト、カルス、植物体の部分(リーフディスク、ヒポコチル等) がある。宿主植物細胞へのベクターの導入法としては、アグロバクテリウム法が好適であるがその他にも、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などを用いることができる(モデル植物の実験プロトコール、秀潤社(1996))。
【0041】
ベクターの導入された植物細胞を植物体へ再生させる方法は、植物種により異なる。例えば、イネの場合、以下のようにして行なうことができる。完熟種子からカルス誘導を行い、これにcDNAを導入したアグロバクテリウムを感染させる。共存培養を経て、選抜培地に移し培養する。約3週間後カルスを再分化培地に移し、再分化するまで培養する。4、5日馴化させた後ポットに移すことで形質転換体を再生させる(モデル植物の実験プロトコール、秀潤社(1996))。また、ニンジン、タバコ等の再生の方法としては、それぞれ加藤、庄野博士等の方法(植物組織培養の技術朝倉書店(1983)) を好適に例示することができる。
【0042】
これによりトランスジェニック植物体が得られれば、さらに該植物体から繁殖材料(例えば、植物の種類に応じて、種子、塊根、切穂、メリクローン等の培養増殖)を得て、これを基に本発明のトランスジェニック植物を量産することが可能である。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
[シチメンソウcDNAライブラリーの作製]
シチメンソウ (Suaeda japonica) は被子植物、双子葉類、アカザ科の一年草で、強力な耐塩性(700mM NaCl以上)を示す。シチメンソウのcDNAライブラリーの作製は、植物体全体を使用し、以下に示す手順で行った。まず、Ostremらの方法 (Plant Physiol Vol.84 p1270-1275(1987)) に従って全mRNAを抽出し、ここからOligotex-dT30<super> (第一化学社) を用いpoly(A)+RNAを精製した。精製したpoly(A+)RNAを基にcDNAを合成し、λZap II (Stratagene社) ラムダファージベクターに導入してcDNAライブラリーを構築した。λZap IIを用いたcDNAライブラリーの構築方法は周知の方法であり、実際の手順はStratagene社の手引き書に従った。その結果、10の独立クローンを含むシチメンソウcDNAライブラリーの構築に成功した。
【実施例2】
【0045】
[シチメンソウcDNAライブラリーからの環境ストレス耐性遺伝子の探索]
シチメンソウcDNAライブラリーからの環境ストレス耐性遺伝子の探索は、山田らの開発した大腸菌を用いた機能スクリーニング法(Plant Cell Physiol Vol.43 p903-910(2002))で行われた。その結果、図1に示す全長2405bpからなるcDNAが導入された大腸菌に耐塩性の向上が認められた。遺伝情報処理ソフトウエア(ソフトウエア開発株式会社)で塩基配列を解析した結果、670アミノ酸からなるタンパク質をコードしていることが判明した。BLAST相同性検索プログラムを用い、これらのDNAがコードするアミノ酸配列の相同性検索を行った。その結果、図2に示されるアミノ酸配列は、Garden snapdragon の転移因子の一種であるTNP1(prf1718313A)と部分的な相同性(図2のアミノ酸配列の260-552番目の領域に26%の相同性あり)を有することが確認された。シチメンソウゲノム内に図1に示す配列は多コピー存在していたこと、また、一般的な転移因子と同様に複数の繰り返し配列を有することから、図1に示す配列も新規の転移因子であると考えられた。
【実施例3】
【0046】
[耐塩性強化に関わる機能領域の決定]
次に、耐塩性強化転移因子cDNAに対し、山田ら(Plant Cell Physiol Vol.43 p903-910(2002))と同様な方法で人工的に開始コドンと終止コドンを導入した各種サブクローンを作製し、これを大腸菌SOLRに導入して得られた形質転換体の耐塩性をスポットテスト(Plant Cell Physiol Vol.43 p903-910(2002))にて評価した。OD600=1まで培養した各形質転換大腸菌懸濁液の希釈シリーズを作製し、それぞれ2YT寒天培地上に15μlスポットし、風乾後、37℃で14時間培養した後の生育を評価したところ、通常の86mMNaClを含む2YT寒天培地上では全ての形質転換体に生育が認められた(図3)。これに対し、400mM NaClを含む2YT寒天培地上では対照となるベクター(pBluescript SK) のみを導入した形質転換体が、全く生育できないのに対し、耐塩性強化転移因子全長(1-670)を導入した形質転換大腸菌に明らかな生育が認められた(図3)。さらに、同様な効果が耐塩性強化転移因子の部分長88-190にも認められた。このことから、耐塩性強化転移因子による耐塩性の強化には、88-190の領域が必要であることが明らかになった。この領域はPSTTK (proline-serine-threonin-threonin- lysine) 及び、これに類似したアミノ酸配列の繰り返し構造を有し、タンパク質データベース上にこの領域と相同性を有するタンパク質は存在しなかった。よって、同タンパク質は、シチメンソウが塩環境下で生き残るために進化的に獲得した新規タンパク質の1つと考えられた。
【実施例4】
【0047】
[水分ストレス耐性強化機能]
700mM ソルビトールを含む2YT寒天培地を用いたスポットテストでも耐塩性強化機能と同様な効果が認められたことから、耐塩性強化転移因子全長(1-670)及びその部分長(88-190)は、水分耐性強化機能を有していることが確認された。
【実施例5】
【0048】
[熱ストレス耐性強化機能]
次に、pET15b (Novagen)のNde1 とXho1 サイトに耐塩性強化転移因子の機能領域を含む断片(57-173)を導入したプラスミドpET15b-PSTTKを作製した。これは、後に耐塩性強化転移因子機能領域タンパク質(PSTTK repeat)を精製しやすくするためにPSTTK repeat タンパク質を6xヒスチジンタグとの融合タンパク質として発現させるためのプラスミドである。pET15b-PSTTKを導入した大腸菌は、6xヒスチジンタグの影響を受けずに耐塩性、塩ストレス耐性因子として機能すると同時に、耐熱性強化因子として機能することも確認された。図4にpET15b-PSTTK 及び対照としてpET15bを導入した大腸菌(SOLR)を42℃、2YT液体培地を用いた培養した結果を示す。
【実施例6】
【0049】
[PSTTK繰り返し配列の有するタンパク質凝集抑制効果]
pET15b-PSTTKを導入した大腸菌(DE3)からPSTTK repeatタンパク質を精製した。精製にはHis Bind Kits (Novagen) を用い、キットの手引き書に従い、タンパク質精製装置AKTA prime (Amersham Biosciences) を用いて精製した。タンパク質凝集抑制効果の評価は、基礎生化学実験法第3巻第8章(日本生化学会編、東京化学同人)に示された最も一般的な方法に従った。指標として用いたクエン酸シンターゼは、42℃条件下で徐々に凝集、析出することで、溶液の散乱光強度が増大する(図5)。これに対照となるBSAタンパク質を添加した場合、クエン酸シンターゼの凝集抑制はほとんど見られない。これに対し、PSTTK repeatタンパク質を添加した場合、その添加濃度に依存してクエン酸シンターゼの凝集抑制効果が確認された。これらの結果から、耐塩性強化転移因子による環境ストレス耐性の強化の原因は、その機能領域に含まれるPSTTK repeat領域が、環境ストレスによって生じる細胞内タンパク質の不安定化を抑制し、細胞内タンパク質の安定化に寄与するためであると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の環境ストレス耐性強化能を有する転移因子をコードするcDNAの塩基配列を示す図である。
【図2】本発明の環境ストレス耐性強化能を有する転移因子のアミノ酸配列を示す図である。
【図3】本発明の環境ストレス耐性強化能を有する転移因子をコードするcDNA、さらにその部分長cDNA(開始コドン及び終止コドンはPCRにより人工的に付加した)を導入した大腸菌の塩、及び塩ストレス(ソルビトール)耐性を示す図である。
【図4】本発明の環境ストレス耐性強化能を有する転移因子をコードするcDNAを導入した大腸菌の耐熱性を示す図である。
【図5】本発明の環境ストレス耐性強化能を有する転移因子の機能領域 (57-173) タンパク質の有するタンパク質熱変性抑制効果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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