TOP > 国内特許検索 > 超音波診断装置 > 明細書

明細書 :超音波診断装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4670054号 (P4670054)
公開番号 特開2007-167414 (P2007-167414A)
登録日 平成23年1月28日(2011.1.28)
発行日 平成23年4月13日(2011.4.13)
公開日 平成19年7月5日(2007.7.5)
発明の名称または考案の名称 超音波診断装置
国際特許分類 A61B   8/00        (2006.01)
FI A61B 8/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 16
出願番号 特願2005-370270 (P2005-370270)
出願日 平成17年12月22日(2005.12.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年11月16日~18日 超音波シンポジウム運営委員会主催の「第26回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム」において文書をもって発表
審査請求日 平成20年7月28日(2008.7.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】桝田 晃司
【氏名】高良 研一
【氏名】井上 博人
審査官 【審査官】冨永 昌彦
参考文献・文献 高良研一,桝田晃司,心臓超音波断層像のビデオ信号処理による僧帽弁の検出と座標認識,超音波Techno,日本,日本工業出版株式会社,2005年 9月20日,Vol.17 No.5,Page.35-39
調査した分野 A61B 8/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
超音波診断装置であって、少なくとも、
探触子を走査して、僧帽弁を含む左心室又は左心房の撮像画像を1秒間に5~30フレーム間隔より選択したフレーム数で一定時間測定した動画像をディスプレイ上に表示し、その画像を小領域に細分化するステップ、
前記細分化した各小領域内の輝度平均値の時系列変化を測定し、フレーム間差分の変化率を測定するステップ、
前記輝度平均値を測定した各領域の上下に隣りあう領域間で、心周期分の相互相関係数を計算し求めるステップ、
前記測定した変化率に閾値を設け、測定領域の中で、前記閾値を越える領域を抽出するステップ、
前記測定した相互相関係数に閾値を設け、測定領域の中で、前記閾値を越える領域を抽出するステップ、
前記2つの閾値の両方を越える領域を僧帽弁として判断し、座標位置(x、y)をディスプレイ画面に表示するステップ、
前記ディスプレイに表示された前記座標を中心とする多角形を描き、前記座標と、前記多角形の各頂点を結ぶ複数の三角形領域に分割するステップ、
前記三角形領域内において、時系列で描出される運動ベクトルが領域の中心に向かう成分の内積を計算し、その収縮速度の時系列変化を測定するステップ、
前記多角形を分割して作成した三角形から、選択した複数の三角形領域について、前記収縮速度の時系列変化を測定し、その傾向を比較・記憶するステップ、
前記探触子を、一定の角度で回転させてゆき、各角度ごとの断層像画像に、前記多角形と同一の多角形を描き、その各頂点を結ぶ三角形領域に分割し、前記選択した複数の三角形領域での前記収縮速度の時系列変化を測定し、その傾向を比較・記憶するするステップ、
前記探触子を一定の角度で回転し、回転角度ごと測定した、前記比較・記憶したデータの中より、選択した複数の三角形領域での収縮速度の時系列変化の傾向が、最も近似した回転角度の断層像を、心臓の診断基準の短軸断層像として認識し、その探触子の位置を、探触子の基準点とするステップ、
を含む、心臓の診断基準断層面を自動認識する機能を備えた事を特徴とする、超音波診断装置。
【請求項2】
前記多角形が、3角形から32角形の中から選ばれる多角形であり、前記探触子を一定の割合で回転させる探触子の回転角が、10°~120°の範囲から選択される回転角である、請求項1に記載の、超音波診断装置。
【請求項3】
前記設定された複数の三角形領域が2領域以上である、請求項1に記載の、超音波診断装置。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援のため、ロボットを用いて心臓断層像撮影することを想定し、超音波探触子の操作をロボットに指示させ、画像処理の手法を用いて超音波断層像診断装置で断層面を自動的に抽出し、早急の診断支援に役立つ、心臓の短軸または長軸の断層面画を抽出する手段を含む超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の探触子は聴診器と同じように手軽に使え、超音波の送受信で関心領域の動的な状態を観察し、単なる診断ばかりではなく、リアルタイム診断が可能な診断装置であり、超音波の周波数が高い(波長が短い)ほど解像度は良くなり、距離分解能が向上する。しかし、深部臓器の診断では、高い周波数の超音波は生体による吸収が大きく、透過性が低下するため、心臓診断のような深部臓器の動態情報が必要となる断層像を得るには、使用する超音波の周波数は低いため、解像度が低くなり、診断には専門的知識と熟練した手技が不可欠であり、断層像の撮影技術の習得には多大な時間と労力を費やす。
【0003】
そのため、超音波診断画像の抽出法として、例えば、オペレーターが、僧帽弁部の両端と僧帽弁部以外の対象臓器輪郭上の輪郭点を指示し、画像の中心点をもとめ、中心点より対象臓器の輪郭線を横切る放射線状に走査線を設定する方法(特許文献1)、オペレーターが注目領域と隣接領域とを分離する分離ラインを引き、注目領域の抽出範囲を的確に設定する方法、(特許文献2)、オペレータ自身が手作業で、または、対象臓器の輪郭内部の重心から求めた、中心点から放射状に延びる複数の指定線より、オプティカルフロー法ないし相互相関法を採用し、臓器の輪郭を求める(特許文献3)等の抽出方法が知られている。
【0004】

【特許文献1】特開平7-255703号公報
【特許文献2】2002-330967号公報
【特許文献3】2005-137936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通信技術の発達で、遠隔医療システムが構築できる環境になり、専門医が待機する医療機関に診断に必要な臓器断層画像を得るための探触子の操作を、熟練したオペレータでない人が操作し、あるいは、ロボットで体表面を走査し、診断の基準画像となる、心臓の長軸または短軸の断層画面を速やかに抽出する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、画像処理により人間の専門知識への依存度を縮小し、自動的に目的領域を認識するための、超音波画像を時系列に取り込んだ心臓画像を分割し、分割領域内の輝度平均値の時系列パターンから領域の属する部位を、装置が自動的に認識するシステムを考えた。
【0007】
本発明の超音波診断装置は少なくとも下記(1)から(11)のステップ、すなわち、
(1)探触子を走査して、僧帽弁を含む左心室又は左心房の撮像画像を1秒間に5~30フレーム間隔より選択したフレーム数で一定時間測定した動画像をディスプレイ上に表示し、その画像を小領域に細分化するステップ、
(2)前記細分化した各小領域内の輝度平均値の時系列変化を測定し、フレーム間差分の変化率を測定するステップ、
(3)前記輝度平均値を測定した各領域の上下に隣りあう領域間で、心周期分の相互相関係数を計算し求めるステップ、
(4)前記測定した変化率に閾値を設け、測定領域の中で、前記閾値を越える領域を抽出するステップ、
(5)前記測定した相互相関係数に閾値を設け、測定領域の中で、前記閾値を越える領域を抽出するステップ、
(6)前記2つの閾値の両方を越える領域を僧帽弁として判断し、座標位置(x、y)をディスプレイ画面に表示するステップ、
(7)前記ディスプレイに表示された前記座標を中心とする多角形を描き、前記中心座標と、前記多角形の各頂点を結ぶ複数の三角形領域に分割するステップ、
(8)前記三角形領域内において、時系列で描出される運動ベクトルが領域の中心に向かう成分の内積を計算し、その収縮速度の時系列変化を測定するステップ、
(9)前記多角形を分割して作成した三角形から選択した、複数の三角形領域について、前記収縮速度の時系列変化を測定し、その傾向を比較・記憶するステップ、
(10)前記探触子を、一定の角度で回転させてゆき、各角度ごとの断層像画像に、前記多角形と同一の多角形を描き、その各頂点を結ぶ三角形領域に分割し、前記選択した複数の三角形領域での前記収縮速度の時系列変化を測定し、その傾向を比較・記憶するするステップ、
(11)前記探触子を一定の角度で回転し、回転角度ごと測定した、前記比較・記憶したデータの中より、選択した複数の三角形領域での収縮速度の時系列変化の傾向が、最も近似した回転角度の断層像を、心臓の診断基準の短軸断層像として認識し、その探触子の位置を、探触子の基準点とするステップ、
を含む、心臓の診断基準断層面を自動認識する機能を備えた事を特徴とする、超音波診断装置。
【0008】
前記(7)に記載した、多角形が、3角形から32角形の中から選ばれる多角形であり、探触子を一定の割合で回転させる探触子の回転角が、10°~90°の範囲から選択される回転角である。
【0009】
前記(10)に記載した、複数の三角形領域が2領域以上である。
【発明の効果】
【0010】
以上の説明で明らかなように、本発明の超音波診断装置は、超音波診断の探触子を手技で、あるいは、ロボットで、患者の体表面を移動し、画像信号を入力し、ディスプレイ画面上に表示すれば、装置が、僧帽弁の位置を確認し、探触子を操作して、僧帽弁の位置をディスプレイ画面の中央に移動した後、探触子を一定角度で回転させ、複数の分割領域内の運動ベクトルの測定することで、心臓の診断基準となる短軸断層像が自動的に選択できるので、専門医による早期診断の支援が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
心臓の大きさや位置は個人差があり、又、胸骨、肋骨および肺により超音波探触子の位置が制限されるなどの理由により、心臓の診断画像を得るためにセクタ型探触子が使用され、その位置や角度を決定することは、他の臓器に比べ特に熟練を要する。
【0012】
超音波断層像を用いて診断するには、臓器ごとに基準となる断面が決められており、心臓では、僧帽弁を断層像の中央に配置し、長軸像または短軸像の断層像が得られれば、どちらも心臓の診断基準画像となる。長軸断層像が得られた位置より、探触子を90°回転させると短軸断層像が得られる
【0013】
図1は心臓の診断において探触子で走査した超音波断層像診断の基準画面となる長軸像(a)・短軸像(b)を示す。それぞれ、左は心臓の模式図と探触子の位置と走査する断層面を、右は対応する超音波断層像である。図1において点線で囲まれた部位は僧帽弁(MV)と呼ばれ、心臓の中で最も速く運動する部位であり、これらの断層面は、探触子を体表面に垂直に押し当てた状態から±30°程度のピボット動作で取得でき、僧帽弁は画面上で上下方向の運動として観察される。
【0014】
本発明者等は、心臓の動画像を診断装置(日立メディコEUB-565及びGE Healthcare Vivid7)からのNTSCビデオ信号を同軸ケーブルとアナログ画像ボード(株式会社フォトロン社製、画像システム、FLX-PCl )を介し、PC(DELL precision670 Windows(登録商標) XP, Intel XEON, CPU 3.60GHz, 2.00GB RAM)上に取り込みAVI形式で保存した。動画像中の僧帽弁位置を認識するソフトウェアや、運動ベクトルを計測するソフトウェアは、PCIバスの高速転送能力を活かし、リアルタイムで超音波動画像入力画像をPCのメインメモリへ転送し、マルチメディア プログラミング インターフェイスMicrosoft DirectXを使用し、Visual C++を利用して、画像処理プログラムを作成した。雑音除去の前フィルタとして3×3ピクセルの領域において平滑化処理を行った。
【0015】
通常のVGA対応のディスプレイに表示させた場合の画像サイズは640×480ピクセルのディスプレイ画像になるが、この画面に、平均的成人男性の心臓長軸断層像各部位の大きさをピクセル(実際の大きさをmmで表記)で表記すると表1のようになる。
【表1】
JP0004670054B2_000002t.gif

【0016】
僧帽弁は、最も速い収縮運動を行っておるので、輝度の変化率が大きいのではないかと推察し、まず、僧帽弁の位置を判断する方法として、図2のように長軸断層像を40×20ピクセルの領域に分割し、まず、領域の平均輝度の変化率を解析する。分割された小領域内の時間に対する輝度変化率を数1のように定義する。nはフレーム番号を表し、Gx,y(n)は横軸x、縦軸y番目の領域内の平均輝度値Ix,y(n)の変化率を表す。Gx,y(n)は、Ix,y(n)の直前の値 Ix,y(n-1)が0に近い値であるほど大きくなる。
【0017】
【数1】
JP0004670054B2_000003t.gif

【0018】
これから領域ごとの輝度変化率Gx,y(n)の最大値に着目することで、輝度平均値Ix,y(n)が急激に増加する領域を識別できる。つまり僧帽弁(MV)が含まれる領域では、輝度の低い心室中腔(IVS)の領域を、輝度の高い僧帽弁が横切るため、僧帽弁の特徴量として有効である。
【0019】
図3は23歳健常者の心臓の各部位領域における輝度平均値の時間変化である。これから、僧帽弁領域(MV)の運動速度は心室後壁領域(PW)や心室中腔領域(IVS)より速いため、この領域の輝度平均値の時間変化はその開閉に伴う鋭いピークを示していることが分かる。
【0020】
常に高い輝度値で推移する心室後璧領域に比べ、僧帽弁領域は輝度変化率によって明瞭に区別できるが、心室中隔領域とは有意な差と呼ぶには至らなかった。そこで、これらを識別するための以下に述べる相互相関係数を導入した。相互相関係数は、位置的に上下に隣接した2領域間の時間変化の類似性を表し、両者の位相τの関数として数2のように定義する。
【0021】
【数2】
JP0004670054B2_000004t.gif

【0022】
この値はIx,y+1(n)を位相τずらした場合、Ix,y(n)と完全に一致する場合に1、符号反転で一致する場合に-1、類似性が認められない場合に0の値をとるように規格化している。僧帽弁(MV)および心室中隔(IVS)の運動範囲内の上下で隣接する領域間の相関係数を、1≦τ≦45フレームの範囲で図4に示す。僧帽弁の領域間では、心拍の周期ごとに高い値を示すが、心室中隔では高い相関は見られなかった。これは心室中隔では小領域の大きさがその運動範囲よりも大きいか同程度であり、僧帽弁では複数領域にまたがって運動するため、複数の領域間で高い相関を示すことに起因している。
【0023】
また、各領域間の波形を解析した結果、図5に示したように、僧帽弁が描かれた領域では隣接する領域で高い相関を示すことも明らかになった。これは、僧帽弁の振幅が領域のサイズより大きいためである。時系列による、領域の平均輝度変化率と、領域の上下隣の輝度の相互相関係数を計算し、細分化された領域より、上記計算した値に閾値を設けて、心臓の僧帽弁を判別する図6の手順のアルゴリズムを作成した。
【0024】
アルゴリズムの妥当性を確認する方法として、黒色背景図上で白色の棒を僧帽弁や心室壁などの見立て、運動範囲や速度を変化させて扇状に動かした様子をビデオカメラで撮影し、プログラム中での僧帽弁座標を正しく認識したフレームの数の比から、認識率を求めた。その結果を表2に示す。単振動物体の運動範囲と周期が僧帽弁固有のそれと一致した場合自動認識させることができることが分かった。
【0025】
【表2】
JP0004670054B2_000005t.gif

【0026】
このアルゴリズムを使用し、健常者10名の長軸像に対して適用したところ、心周期の約2倍に相当する2秒間の全1620領域(うち僧帽弁は100領域)において、1544領域(うち僧帽弁は87領域)を正解率95%で判別出来、判別した結果から僧帽弁領域として認識した座標にマーカを重畳するプログラムを開発した。
【0027】
図7は、23歳健常者の長軸像入力時に僧帽弁と認識された座標の8秒間における時系列画像を示す。これから明らかな様に、探触子の位置は固定されており、マークが描かれた場所は僧帽弁が運動した領域にほぼ含まれることが確認できた。長軸像では僧帽弁は扇状に運動するため、分割する領域は横長を採用したが、短軸像でも僧帽弁は上下運動をするため、同じアルゴリズムを適用した。図8は22歳健常者の短軸像入力時に認識した僧帽弁座標の8秒間における分布を示している。この被験者は80フレーム中、全フレームにマーカが描かれ、そのうち正しく僧帽弁の運動範囲を認識していたのは78フレームで認識度は97.5%であり、僧帽弁の位置の特定は非常に高い認識率であった。
【0028】
図9に誤認識した場合の例を示す。25フレーム中、心室後壁の速い動きを3フレーム誤認識したことを表している。以上のことから僧帽弁が画像中に含まれない場合は、僧帽弁を含む断面を発見するまで、心臓があると思われる付近の体表面を走査するように教示させることができる。
【0029】
臓器の超音波断層像にオプティカルフローの画像処理手法を用いて臓器の運動ベクトルを求める方法は、これまでは臓器運動の定量的計測で利用されてきたが、処理結果の評価は検者もしくは医者に委ねられていた。
【0030】
オプティカルフローは画面上の各点の速度場のことである。すなわち、画像中のある点が次の瞬間にどのような方向へ、どの程度度の距離を移動するかを示すベクトルを計算する方法である。ブロックマッチング法と勾配法が一般的であるが、ブロックマッチング法に比べて、対応点検索を行う必要が無く計算負荷が小さい勾配法を用いた。勾配法は時空間微分によって動画像から対象の動きパラメータを推定する方法で、「物体上の点の輝度は移動後も変化しない」と仮定して対象の動きを推察し、時刻tにおける点(x,y)の輝度値をE(x,y,t)とし、微小時間Δt後に対象が(Δx、Δy)だけ移動したとすると、E(x,y,t)=E(x+Δx,y+Δy,t+Δt)で表現される。
【0031】
ここで、右辺をテーラー展開し、2次以降を無視すると、
Ex・u+Ey・v+Et=0
が成立する。
但し、Ex=δE/δx、Ey=δE/δy、Et=δE/δT,u=dx/dt、v=dy/dt。
これが勾配法における拘束式である。パラメータがu、vの2つあるのに対し、一つの拘束式だけで解で一意の値を得ることは困難であって「移動物体の画素は似たような速度を持ち、画像全体では滑かに変化する」するという条件で、従って、画像が空間的に滑らかであるということ、即ち、空間的変化を最小にするという条件を加え、Eが最小になるようにオプティカルフローを決定する。
【0032】
図10は23歳健常者の心臓の長軸像について、隣接フレーム間でオプティカルフローの分布を表わした図である。時相は拡張期で1秒間に10フレームで処理した。図1と比較すると、左心室(LV)の壁の運動を捉えていることが分かり、心室後壁(PW)に垂直な方向に運動ベクトルが描出されている様子が分かるが、しかし、心室後壁(PW)に比べて運動ベクトルの大きい僧帽弁(MV)のフローは、心室後壁よりもその運動速度が速いにも関わらず、長いベクトルが描かれず、また最も速い弁の先端部が、その基部よりも短く描かれている。これは、僧帽弁の速度が速いことと、それよりも運動速度が速いこと、僧帽弁自身は薄い組織であり、その周囲に輝度として反映されない血液が充満しているため輝度値が急激に変化していることが原因であり、これは、短軸像でも同様の傾向だった。
【0033】
図10中のA-P上の輝度分布を図11に示す。100ミリ秒の間に破線から実線に動いたことを表している。通常、ビデオ信号入力による断層像のフレームレートは1秒間に30フレームであるが、汎用のPCを用いてリアルタイムに前述の画像処理演算を行う時間を確保するため、取得フレーム間隔を空ける必要がある。左心室後壁や僧帽弁の最大速度は、1秒間に100~200mmと言われている。フレームレートが1秒間に10フレーム程度に間隔が開いてしまうと、僧帽弁はこのようにフレーム間で完全に分離してしまい、オプティカルフローによる移動量の検出に限界があることが分かる。
【0034】
激しい運動をする僧帽弁付近でフローが得られないのは、運動速度に比べてフレ-ム時間間隔が100msと長いため、オプティカルフロー検出に必要な「物体上の点の輝度は移動後も変化しない」という条件が成立しないためである。フレーム時間間隔は33msまで短くすることは可能だが、僧帽弁の厚みは断層像では数ピクセル程度しかない場合もあり、フレームレートの上限でもこの条件が成立しない可能性も考えられる。これより1秒間に撮像するフレーム数としては最低5フレーム程度は必要であり、上限が30フレーム程度であり、心臓の速度より考慮すれば、5フレームから15フレーム程度が好適であると考えられる。
【0035】
オプティカルフローによる心室壁の運動ベクトル検出と、僧帽弁の位置認識アルゴリズムを組合せた心臓の画像取得で、診断時間を短縮できる効果的な診断支援を行うため、僧帽弁を抽出し、僧帽弁をディスプレイの真ん中に、移動するような、探触子の位置、角度、あて方の指示を与える。この指示は探触子を手技で操作している場合には、音声で探触子の移動方向、傾斜方向、回転方向を指示する、あるいは、探触子をロボットが走査している場合は、僧帽弁座標位置がディスプレイの中央に位置するように、探触子の走査をロボットに指示する。
【0036】
心臓の長軸断層像、短軸断層像は心臓診断時の基準断層像となるので、診断支援のためには、この短軸断層像あるいは長軸断層像を短時間で装置が認識し、ディスプレイ画面上に表示できれば良い。本発明者等は、心室後壁の運動方向に注目し、短軸像の場合、心室後壁の運動は、僧帽弁を中心として、同心円状の動きをすることから、断層像の時系列画像で、この動きを行う断層像を抽出できれば、この断面が心臓の基準画像になる短軸像の段面であり早期診断に役立つことが出来ると考えた。
【0037】
そのため、僧帽弁を中心に、ディスプレイ画面内に出来るだけ大きな多角形を描き、中心と多角形の各頂点を結ぶ分割線で多角形を分割し、探触子を一定の角度で回転させてゆき、それぞれの断層像を分割した三角形領域内で、まず運動ベクトルが検出されたすべての座標において、僧帽弁に向かう方向を正として単位ベクトルを計算し、運動ベクトルとの内積を計算する。これにより、収縮運動を正、拡張運動を負とする速度成分が導かれる。これを各三角形領域内で平均して収縮速度と定義し、それぞれの時間変化を調べた。測定は、探触子を一定角度で回転させ、断層像で複数、少なくとも2ヶ所以上、の三角形領域内の収縮速度を測定し、測定後、順番に一定角度で回転した、各断層像につき、同様の測定を行い、測定した断層像での複数の三角形領域の収縮速度の時系列傾向を比較し、最も類似した傾向を示す断層像が、心室後壁の収縮運動が僧帽弁を中心に行う、短軸断層像であるので、その位置を、基準位置と決めれば、その角度より90°探触子を回転した位置での断層像は長軸像と判定できる。
【0038】
多角形としては、最も少ない3角形の場合でも、回転角度を小さくして一定の角度で探触子を回転してゆき、ディスプレイ画像を分割した三角形領域の設定した少なくとも2領域内で測定し、各角度での、設定した複数の領域で運動ベクトルの時系列傾向を比較すれば可能であり、角数の多い多角形の場合、各角度で少なくとも3箇所以上の三角形領域を測定し比較すれば短軸像の判定が可能と考えられる。
【実施例】
【0039】
僧帽弁を中心とする断層像の画面上に、僧帽弁を中心として、8角形を描き、角の頂点と中心を結び、8角形を分割してできた8つの三角形領域で、オプティカルフローを計算する。サンプリングレートは1秒間に10フレーム、領域のサイズは、短軸像を640×480ピクセルの画面に収めて観察することを考慮し、8角形の一辺を最大120ピクセルで可変とした。また領域の名称を画面の上部から時計回りに、N,NE,E,SE,S,SW,W,NWとした。図12に23歳健常者の(a)長軸像および(b)短軸像入力時における動作ベクトルが描かれているが、ここでは、短軸像では同心円状の運動を検出するため、単位ベクトルとの内積を用いることで、領域内において描出された運動ベクトルが領域の中心に向かう成分のみを抽出した。これにより、心室壁の収縮運動を正、拡張運動を負とする速度成分が導かれる。これを各領域で平均して収縮速度と定義し、それぞれの時間変化を調べた。
【0040】
まず、長軸像を基準の0°と定義し、体表上で探触子の軸を時計回りに、0から150°の範囲で30°ずつ回転させながら断面を変化させ、各領域におけるフローの時系列変化を健常者12名で計測した。その結果、短軸像においてビームの走査方向に対して垂直な心室後壁に含む領域S,SE,SWのフローは振幅、位相共に類似していた。
【0041】
図13に同一被験者の長軸像および短軸像中の領域SE,S,SWにおける平均収縮速度の時間変化を示す。短軸像ではほぼ同期しているが、長軸像では領域SEはほとんど描出されないか、運動が小さい。そのため、各断面においてSE-SW間での収縮速度の相関をもとめると、短軸のみが高い値を示した。
【0042】
つまり、短軸像では、多角形を分割した、複数の領域内の平均収縮速度の時間変化がほぼ同期しているので、探触子を回転し、断層像を分割した超音波画像の複数の領域内での運動ベクトルの時系列の方向・速度が最も同期している断層像が短軸像と判断すればよく、僧帽弁を通過するこの分割線での断層像を捉えれば、心臓診断の基準画面である、心臓の短軸断層像が得られる。多角形としては、3角形以上で32角まで、速度と精度のバランスから考慮すると6~12角形程度、また、運動ベクトルを測定する複数の設定領域とは、2領域以上で6領域以下程度が操作性の面では好適である。
【0043】
図14は、ロボットの制御ブロック図である。オペレーターが、ディスプレイを見ながら、探触子の位置・姿勢を操作し、患者への接触位置による患者に過度の力を加えない制御が可能であり、探触子の回転角度を制御し、上記の制御をおこなうことにより、診察を支援するための、心臓の基準診断画像の自動的な抽出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】心臓の診断において基準画像となる、長軸像(a)と短軸像(b)の外形と断面を示した図である。
【図2】超音波診断での長軸像の画像を40×20ピクセルの大きさの領域に分割した画面である。
【図3】超音波診断での、心臓の各部位の輝度平均値の時系列変化を表示したグラフである。
【図4】僧帽弁(MV)および心室中隔(IVS)の運動範囲内の上下で隣接する領域間の相関係数をグラフで表示した図である。
【図5】超音波診断での、心臓の各部位の輝度変化率と相互相関係数の最大値分布をプロットした図である。
【図6】心臓の超音波診断画像より、僧帽弁の位置を判断するアルゴリズムを示す図である。
【図7】超音波診断の心臓の長軸像入力時に僧帽弁と認識された座標の8秒間における分布。探触子の位置は固定され、座標にマーカを重畳させた図である。マーカが描かれる場所は僧帽弁が運動した領域を示す。
【図8】超音波診断の心臓の短軸像入力時に僧帽弁と認識された座標の8秒間における分布。探触子の位置は固定され、座標にマーカを重畳させた図である。マーカが描かれる場所は僧帽弁が運動した領域を示す。
【図9】僧帽弁を含まない断層像において心室後壁を僧帽弁と語認識した例を示す図である。
【図10】23歳健常者の心臓の長軸像について、隣接フレーム間でオプティカルフローを計算し画像上に表示した図である。
【図11】図8に記載した、直線A-P上の輝度分布を示す図である。
【図12】23歳健常者の(a)長軸像、および(b)短軸像入力時における、僧帽弁の座標を中心とし、8角形の各頂点を結び8分割した各領域内で運動ベクトルを描いた図である。
【図13】23歳健常者の(a)長軸像、および(b)短軸像中の領域S,SE,SWにおける平均収縮速度の時間変化を示した図である。
【図14】ロボットの制御ブロックを示したである図である。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図11】
4
【図13】
5
【図14】
6
【図1】
7
【図2】
8
【図7】
9
【図8】
10
【図9】
11
【図10】
12
【図12】
13