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明細書 :アンドロゲン受容体遺伝子に特異的なsiRNA

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4961549号 (P4961549)
公開番号 特開2007-215481 (P2007-215481A)
登録日 平成24年4月6日(2012.4.6)
発行日 平成24年6月27日(2012.6.27)
公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
発明の名称または考案の名称 アンドロゲン受容体遺伝子に特異的なsiRNA
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 G
A61K 48/00
A61K 47/42
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2006-039768 (P2006-039768)
出願日 平成18年2月16日(2006.2.16)
審査請求日 平成20年12月24日(2008.12.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
発明者または考案者 【氏名】中城 公一
【氏名】浜川 裕之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000040、【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 国際公開第2005/074995(WO,A1)
特表2005-529153(JP,A)
再公表特許第2005/061717(JP,A1)
特開2006-006262(JP,A)
国際公開第2004/045543(WO,A1)
J Steroid Biochem Mol Biol., 2005年, 第96巻, 251-258ページ
BENYI LI, Annual Report for the Project W81XWH-04-1-0214, University of Kansas Medical School, 2005年2月
Cancer Cell Int., 2005年, 第5巻, 8
Virology, 2005年, 第336巻, 51-59ページ
Database DDBJ/EMBL/GenBank[online], Accession No.NM_000044, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/21322251?sat=11&satkey=3792858>, 08-Jan-2006 uploaded, MARQUES, RB. et al., [retrieved on 17-Jun-2011], Definition:Homo sapiens androgen receptor (dihydrotestosterone receptor; testicular feminization; spinal and bulbar muscular atrophy; Kennedy disease) (AR), transcript variant 1, mRNA.
Cancer Res., 2004年, 第64巻, 3365-3370ページ
N Engl J Med., 1995年, 第332巻, 1393-1398ページ
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
アンドロゲン受容体(AR)遺伝子を標的とする二本鎖siRNAであって、
19塩基対と2塩基の3’末端オーバーハングとからなる21塩基の二本鎖siRNA、又は、27塩基対からなるブラントエンドの二本鎖siRNAであり、
前記19塩基対の配列が、配列表の配列番号1から3のいずれかであり、
前記27塩基対の配列が、配列表の配列番号4又は5である二本鎖siRNA。
【請求項2】
前記3’末端オーバーハング部分の2塩基の配列が、TTである請求項1記載の二本鎖siRNA。
【請求項3】
AR特異的阻害剤であって、請求項1又は2に記載の二本鎖siRNAを含み、RNA干渉によりAR遺伝子の発現を特異的に阻害するAR特異的阻害剤。
【請求項4】
癌治療用の医薬組成物であって、請求項1又は2に記載の二本鎖siRNAを含む医薬組成物。
【請求項5】
さらに、アテロコラーゲンを含む請求項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、前立腺癌である請求項4又は5に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子に特異的なsiRNAに関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、欧米では男性が罹患する最も頻度の高い癌である。日本においても、食生活の欧米化及び人口の高齢化に伴い、前立腺癌患者数が年々増加している。一般に前立腺癌細胞の増殖は、アンドロゲンにより刺激される。そのため、切除不能な進行前立腺癌の治療においては、アンドロゲンの産生及び機能を阻害するホルモン療法がしばしば行われる。その奏効率は、極めて高い。しかしながら、数年以内にアンドロゲン非依存性前立腺癌として再燃をきたす。したがって、前立腺癌治療においては、アンドロゲン非依存性癌の制御が最も重要な課題となる。
【0003】
アンドロゲン依存性前立腺癌から非依存性癌への進行の詳細な分子メカニズムは明らかではないが、アンドロゲン受容体(AR)の関与が示唆されている。すなわち、アンドロゲン非依存性癌は、ARの変異あるいは増幅により、超低濃度のアンドロゲン、抗アンドロゲン剤、その他のステロイドホルモンなどに感受性を示すことが明らかにされている(特許文献1、非特許文献1~5参照)。また、数種類の増殖因子によるARの活性化も報告されている(非特許文献6参照)。そこで、AR拮抗剤などによる前立腺癌の治療が試みられている(特許文献2参照)。
【0004】
RNA干渉(RNAinterference:RNAi)技術は、生命科学研究に頻繁に利用され、その有用性は広く確認されている。RNAiとは、二本鎖RNAによって、その配列特異的にmRNAが分解され、その結果遺伝子の発現が抑制される現象をいう。2001年に21塩基の低分子二本鎖RNAが哺乳動物細胞内でRNAiを媒介できることが報告されてより(非特許文献7参照)、siRNA(small interferece RNA)は、標的遺伝子の発現抑制方法として頻用されている。また、より高いRNAi効果を得るためのsiRNAの配列選択基準についても報告されている(非特許文献8参照)。RNAi技術は、医薬品への応用や、癌を含む種々の難治性疾患の治療への応用が期待されている。
【0005】
しかしながら、siRNAを臨床応用する場合、インターフェロン応答の問題がある。すなわち、高濃度の合成siRNAを細胞内に導入したり、細胞内において高濃度にsiRNAを発現させたりすると、インターフェロン応答が誘導され非特異的な発現阻害や非特異的な細胞増殖阻害が起こる。現在では、10nM以上の合成siRNAを細胞内導入するとインターフェロン応答が誘導されることが知られている。
【0006】
さらに、siRNAを臨床応用する場合、オフターゲット効果の問題がある。すなわち、siRNAは、標的遺伝子の発現を抑制できる優れた技術ではあるが、標的遺伝子以外の類似標的配列を有する遺伝子の発現も抑制してしまう場合があることが明らかにされている(非特許文献9参照)。
【0007】
これまでに、AR遺伝子に特異的なsiRNAであって、上述したインターフェロン応答やオフターゲット効果などの問題を回避できる臨床応用可能なsiRNAは報告されていない。

【特許文献1】特開2004-57180号公報
【特許文献2】特開2003-252854号公報
【非特許文献1】Taplin MEら、「Mutation of the androgen-receptor gene in metastatic androgen-independent prostate cancer.」 N Engl J Med 332: 1393-1398, 1995.
【非特許文献2】Koivisto Pら、「Androgen receptor gene amplification: a possible molecular mechanism for androgen deprivation therapy failure in prostate cancer.」 Cancer Res 57: 314-319, 1997.
【非特許文献3】Gregory CWら、「Androgen receptor stabilization in recurrent prostate cancer is associated with hypersensitivity to low androgen.」Cancer Res 61: 2892-2898, 2001.
【非特許文献4】Zhao XYら、「Glucocorticoids can promote androgen-independent growth of prostate cancer cells through a mutated androgen receptor.」 Nat Med 6: 703-706, 2000.
【非特許文献5】Tan Jら、「Dehydroepiandrosterone activates mutant androgen receptors expressed in the androgen-dependent human prostate cancer xenograft CWR22 and LNCaP cells.」 Mol Endocrinol 11: 450-459, 1997.
【非特許文献6】Culig Zら、「Androgen receptor activation in prostatic tumor cell lines by insulin-like growth factor-I, keratinocyte growth factor, and epidermal growth factor.」 Cancer Res 54: 5474-5478, 1994.
【非特許文献7】Elbashir SMら、「Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells.」 Nature 411 (6836): 494-498, 2001.
【非特許文献8】Reynolds Aら、「Rational siRNA design for RNA interference.」 Nat Biotechnol 22 (3): 326-330, 2004.
【非特許文献9】Jackson ALら、「Expression profiling reveals off-target gene regulation by RNAi.」 Nat Biotechnol 21 (6): 635-637, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子を標的とする臨床応用可能なsiRNAの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のsiRNAは、AR遺伝子を標的とする二本鎖siRNAであって、19塩基対と2塩基の3’末端オーバーハングとからなる21塩基の二本鎖siRNA、又は、27塩基対からなるブラントエンドの二本鎖siRNAであり、前記19塩基対の配列が、配列表の配列番号1から3のいずれかであり、前記27塩基対の配列が、配列表の配列番号4又は5である二本鎖siRNAである。なお、本発明の二本鎖siRNAは、いずれも、AR遺伝子に特異的なRNAiを媒介するという共通の活性を共有し、かつ、この共通の活性に不可欠な重要な構造要素、すなわち、RNAiを媒介するためのAR遺伝子に対応する共通した重要な構造要素を共有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは、前立腺癌のアンドロゲン依存性から非依存性への進行におけるARの役割に着目し、AR遺伝子に特異的なsiRNAについて鋭意研究を重ねた。その結果、1nMという使用濃度であっても十分にRNAi効果を発揮し、他の遺伝子にホモロジーを示さない二本鎖siRNAを見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明の二本鎖siRNAによれば、例えば、1nMという低濃度であっても十分にRNAi効果を発揮できるから、インターフェロン応答を回避して使用できる。また、本発明の二本鎖siRNAは、他の遺伝子にホモロジーを示さない配列を標的配列として選択された配列であるから、AR遺伝子に特異的であり、オフターゲット効果を回避して使用できる。したがって、本発明の二本鎖siRNAは、臨床応用可能であり、例えば、癌の治療、癌治療の医薬組成物、AR特異的阻害剤などに利用できる。なかでも、本発明の二本鎖siRNAがRNAi効果を発揮するAR遺伝子は、前立腺癌における治療標的分子となりうるから、本発明の二本鎖siRNAは、好ましくは、前立腺癌の治療や、前立腺癌の医薬組成物などに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAにおいて、前記3’末端オーバーハング部分の2塩基の配列は、TT(チミン・チミン)であることが好ましい。
【0013】
本発明の二本鎖siRNAは、その他の態様として、前記配列表の配列番号1から5の配列において、1又は数個の塩基が修飾され、又は置換、付加若しくは欠失し、かつ、AR遺伝子特異的なRNA干渉を誘導する二本鎖siRNAである。
【0014】
本発明のAR特異的阻害剤は、RNA干渉(RNAi)によりAR遺伝子の発現を特異的に阻害するAR特異的阻害剤であって、本発明の二本鎖siRNAを含む。
【0015】
本発明の医薬組成物は、癌治療用の医薬組成物であって、本発明の二本鎖siRNAを含む医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、さらに、アテロコラーゲンを含むことが好ましい。本発明の医薬組成物において、治療用途の対象となる癌は、特に制限されないが、例えば、前立腺癌であることが好ましい。
【0016】
次に、本発明の二本鎖siRNAについて詳しく説明する。
【0017】
まず、本発明において、「アンドロゲン受容体(AR)遺伝子」とは、前述のとおり、前立腺癌への関与が知られている遺伝子であって、アンドロゲンの受容体(レセプター)をコードする遺伝子である。アンドロゲンとは、男性ホルモン作用を持つステロイドホルモンの総称であり、精巣で合成されるテストステロンや、副腎皮質で合成されるデヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオンなどが挙げられる。
【0018】
本発明の二本鎖siRNAの標的となるAR遺伝子としては、好ましくは、ヒトAR遺伝子である。そのmRNAの配列は、例えば、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)Nucleotideデータベースの登録番号NM_000044などから入手可能である。また、本発明の二本鎖siRNAの標的となるAR遺伝子は、一塩基多型(SNP)、その他の多型、及び、変異体を含む。本発明の二本鎖siRNAの標的配列は、公知のSNPの部位や、McGillのAR遺伝子変異データベース(http://www.androgendb.mcgill.ca/)に登録されているAR遺伝子の多型及び変異部位を含まないから、これらのAR遺伝子の多型に対してもRNAi効果を発揮できる。
【0019】
本発明において、「siRNA」とは、RNAiを媒介可能な短鎖のRNA分子であって、一般には、21塩基~27塩基の二本鎖低分子RNAをいう。
【0020】
本発明の二本鎖siRNAは、2つの態様があり、第1の態様が、19塩基対と2塩基の3’末端オーバーハングとからなる3種類の21塩基の二本鎖siRNAであり、第2の態様が、27塩基対からなる2種類のブラントエンドの二本鎖siRNAである。前記19塩基対及び前記27塩基対の配列を、下記表1に示す。同表において、左欄が、それぞれのsiRNAのコードネームであり、右欄が、SeqID、すなわち、配列表の配列番号である。
【0021】
【表1】
JP0004961549B2_000002t.gif
本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAにおいて、前記3’末端のオーバーハングとは、5’末端から19merが相補的な配列である2本の21merのRNA鎖が対合して二本鎖を形成したとき19塩基対の両端から突出する3’末端の2merの部分をいう。前記3’末端オーバーハングの2塩基の配列は、例えば、両端とも、TT(チミン・チミン)が好ましい。なお、前記3’オーバーハングの2塩基の配列は、これに制限されず、RNAi効果や細胞増殖抑制効果に実質的に影響を及ぼさない範囲であれば、任意の天然核酸塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル)、並びに、天然及び人工の公知の修飾塩基であってもよい。また、前記3’末端オーバーハング部分のヌクレオチドは、通常、リボヌクレオチドを使用できるがこれに制限されず、RNAi効果や細胞増殖抑制効果に実質的に影響を及ぼさない範囲であれば、デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、その他の公知のヌクレオチド類似体を使用してもよい。さらに、本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAは、必要に応じて、前記3’末端オーバーハングに代えて、5’末端オーバーハングとしてもよい。

【0022】
本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAの19塩基対の配列は、上記表1に記載のとおり、AR1、AR24及びAR61(それぞれ、配列表の配列番号1~3)の3種類が使用できるが、好ましくは、AR1である。
【0023】
本発明の27塩基ブラントエンド二本鎖siRNAは、27merの相補的な2本のRNA鎖が対合して形成した二本鎖であるから、その末端は平滑である。本発明の27塩基ブラントエンド二本鎖siRNAの27塩基対の配列は、上記表1に記載のとおり、AR1169及びAR4257(それぞれ、配列表の配列番号4及び5)が使用できるが、好ましくは、AR4257である。
【0024】
本発明の二本鎖siRNAの塩基対部分の配列(配列表の配列番号1~5)は、AR遺伝子特異的なRNAiを誘導できる範囲において、1又は数個の塩基が修飾され、又は置換、付加若しくは欠失したものであってもよい。前記数個とは、例えば、2、3、4個である。
【0025】
本発明の二本鎖siRNAの製造方法は、インビトロで化学的又は酵素的に合成しても、又は、インビボで合成してもよく、その製法は特に制限されないが、なかでも、従来公知の方法により化学合成して製造することが好ましい。合成二本鎖siRNAであれば、濃度調節が容易となり臨床応用に際してインターフェロン応答の回避が容易となる。また、コンタミネーションの防止が容易であり安全性においても利点がある。例えば、本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAのAR1を製造する場合、まず、配列表の配列番号1の配列の3’末端に2塩基のオーバーハングを加えた21merのRNA鎖、及び、前記配列番号1の配列の相補配列の3’末端に2塩基のオーバーハングを加えた21merのRNA鎖をそれぞれ化学合成する。次に、前記2本のRNA鎖が対合する条件で対合させ、本発明の21塩基のオーバーハング二本鎖siRNAを得る。使用に際しては、必要に応じて、従来公知の方法により適宜精製することが好ましい。
【0026】
したがって、本発明は、その他の態様として、二本鎖siRNAの製造方法であって、前記二本鎖siRNAが、本発明の二本鎖siRNAであり、配列表の配列番号1~3のいずれかの配列及びその相補配列にそれぞれ2塩基のオーバーハングを加えた2本のRNA鎖、又は、配列表の配列番号4若しくは5の配列及びその相補配列の2本のRNA鎖を合成する合成工程と、合成した前記2本のRNA鎖を対合して二本鎖RNAとする対合工程とを含む製造方法を含む。
【0027】
次に、本発明の二本鎖siRNAの使用方法について説明する。本発明の二本鎖siRNAは、RNAi効果によるAR遺伝子の発現抑制に使用することができる。本発明の二本鎖siRNAは、一種類でもRNAi効果を発揮する。また、より高いRNAi効果を得るために複数種類の本発明の二本鎖siRNAを混合して使用してもよい。前記混合としては、例えば、前記AR1、AR24及びAR61の21塩基オーバーハング二本鎖siRNA、並びに、前記AR1169及びAR4257の27塩基ブラントエンド二本鎖siRNAからなる群から選択される2種類、3種類、4種類、5種類を含む混合が挙げられ、また、前記AR4257及び前記AR1を含む混合が挙げられる。
【0028】
本発明の二本鎖siRNAは、インビトロにおいて細胞や組織に対して使用できることに加えて、ヒトに対して臨床応用可能である。ヒトへの投与方法は、特に制限されず、適宜、従来公知のデリバリーシステムを利用できる。例えば、アテロコラーゲンを用いた局所投与法、全身投与法が好ましい。前記アテロコラーゲンは、例えば、局所止血剤として既に臨床応用されており、また、前記アテロコラーゲンを用いたsiRNAの局所投与法は、血管内皮増殖因子(VEGF)を分子標的とした動物実験でその有意性が示されている(Takei Yら、Cancer Res 64(10):3365-3370、2004)。
【0029】
また、その他のデリバリーシステムとして、生体内での分解を防ぎ、細胞内透過性を高めるための化学修飾(Rossi JJ.、Nature 432(7014):155-156、2004; Soutschek Jら、Nature 432(7014):173-178、2004)やカチオニックリポソーム(Yano Jら、Clin Cancer Res 10(22):7721-7726、2004)を用いたデリバリーシステムを利用しても良い。さらに、必要に応じて、本発明の二本鎖siRNAを発現するsiRNA発現ベクターを構築し、遺伝子治療技術を利用したデリバリーシステムを利用することもできる。
【0030】
本発明の二本鎖siRNAは、とりわけ、前立腺癌の治療や、前立腺癌の治療の用途に使用する医薬組成物に使用することが好ましい。すなわち、本発明の二本鎖siRNAを使用してRNAi効果によりAR遺伝子の発現を阻害することで、前立腺癌細胞の細胞増殖を抑制できる。本発明の二本鎖siRNAによれば、アンドロゲン依存性及び非依存性双方の前立腺癌を治療できる。
【0031】
なお、本発明の二本鎖siRNAは、前立腺癌に限られず、例えば、ARが関与する乳癌、唾液腺癌、頭頸部扁平上皮癌、腎臓癌、膀胱癌、胃癌、大腸癌、精巣癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌などの癌治療一般や、癌治療に使用する医薬組成物一般に使用できる。
【0032】
前述したとおり、従来、siRNAを臨床応用する上で大きな問題が2つあった。すなわち、インターフェロン応答が誘導される問題と、オフターゲット効果の問題である。前記インターフェロン応答を回避するには、細胞内導入濃度を少なくとも10nM未満とする必要があるが、本発明の二本鎖siRNAは、1nMという超低濃度でAR遺伝子に対して十分なRNAi効果を発揮することができる。また、前記オフターゲット効果についても、本発明の二本鎖siRNAの標的配列として、BLASTサーチを駆使して、3塩基以下のミスマッチを有する遺伝子が存在しないもの、あるいは、交叉反応の可能性を有する遺伝子数が最小のものを選択することでオフターゲット効果を回避可能とした。このように、本発明の二本鎖siRNAは、臨床応用における大きな2つの障壁をクリアしており、臨床応用可能である。なお、臨床応用においては、本発明の二本鎖siRNAは、合成二本鎖siRNAであることが好ましい。
【0033】
したがって、本発明は、その他の態様として、RNA干渉によりAR遺伝子の発現を特異的に阻害するAR特異的阻害剤であって、本発明の二本鎖siRNAを含むAR特異的阻害剤を含む。含有される本発明の二本鎖siRNAは、一種類であってもよく、複数種類であってもよい。複数種類であれば、より高い阻害効果を得ることができる。前記複数種類としては、例えば、前記AR1、AR24、AR61、AR1169及びAR4257からなる群から選択される2種類、3種類、4種類、5種類が挙げられる。本発明のAR特異的阻害剤は、細胞内のAR遺伝子の発現を特異的にノックダウンする用途に、インビトロ及びインビボで使用できる。その剤形は、特に制限されない。
【0034】
さらに、本発明は、その他の態様として、癌、好ましくは、前立腺癌の治療方法であって、本発明の二本鎖siRNAを使用することを含む癌の治療方法を含む。また、さらにその他の態様として、本発明は、癌、好ましくは、前立腺癌の治療における二本鎖siRNAの使用であって、前記二本鎖siRNAが、本発明の二本鎖siRNAである使用を含む。これらの使用における発明の二本鎖siRNAは、一種類であってもよく、複数種類であってもよい。複数種類であれば、より高い治療効果を得ることができる。前記複数種類としては、例えば、前記AR1、AR24、AR61、AR1169及びAR4257からなる群から選択される2種類、3種類、4種類、5種類が挙げられる。
【0035】
次に、本発明の医薬組成物について説明する。本発明の医薬組成物は、癌治療用の医薬組成物であって、本発明の二本鎖siRNAを含むものである。含有される本発明の二本鎖siRNAは、一種類であってもよく、複数種類であってもよい。複数種類であれば、より高い治療効果を得ることができる。前記複数種類としては、例えば、前記AR1、AR24、AR61、AR1169及びAR4257からなる群から選択される2種類、3種類、4種類、5種類が挙げられる。本発明の医薬組成物は、さらに、アテロコラーゲンを含むことが好ましい。上述のとおり、本発明の医薬組成物の治療用途の対象となる癌は、特に制限されないが、前立腺癌であることが好ましい。
【0036】
本発明の医薬組成物は、さらに、薬学的に許容されるキャリアを含んでもよい。前記薬学的キャリアとしては、特に制限されないが、例えば、本発明の二本鎖siRNAが、標的の部位、組織、細胞などに侵入する効率を高めることができるキャリア、例えば、リポソーム、カチオンリポソームなどが挙げられる。本発明の医薬組成物の剤形は、特に制限されず、例えば、注射剤、クリーム剤、軟膏、錠剤、懸濁剤などが挙げられる。また、投与方法も特に制限されず、例えば、注射、経口、局所、鼻内、直腸投与などが挙げられる。
【0037】
以下に、本発明を、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0038】
前記表1の3種類の21塩基オーバーハング二本鎖siRNA(AR1、AR24及びAR61;それぞれ、配列表の配列番号1~3)と、2種類の27塩基ブラントエンド二本鎖siRNA(AR1169及びAR4257;それぞれ、配列表の配列番号4又は5)の5種類の二本鎖siRNAを合成して調製し、それぞれの合成二本鎖siRNAについて、1nMの濃度で使用した場合のAR遺伝子に対するRNAi効果及び細胞増殖抑制効果を確認した。具体的には、以下のようにして行った。
【0039】
合成二本鎖siRNAの調製
前記3種類の21塩基オーバーハング二本鎖siRNA(AR1、AR24及びAR61)は、配列表の配列番号1~3の19塩基の配列及びその相補配列それぞれの3’末端にTT配列からなる2塩基オーバーハング部分を加えたRNA鎖を、定法により化学合成し、それらを対合させて調製した。また、前記2種類の27塩基ブラントエンド二本鎖siRNA(AR1169及びAR4257)は、配列表の配列番号4又は5の配列及びその相補配列のRNA鎖を定法により化学合成し、それらを対合させて調製した。以下のRNAi効果及び細胞増殖抑制効果の確認に際しては、適宜、HPLCなどで精製したものを使用した。
【0040】
細胞及び培養法
RNAi効果の確認には、ヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞を用いた。前記細胞の培養には、10%ウシ胎児血清(FBS;Biosource International社製)、100μg/mlストレプトマイシン、100U/mlペニシリン、0.25mg/mlアンホテリシンB(Invitrogen社製)を含むRPMI1640(Sigma-Aldrich社製)を増殖培養液として用い、空気中に5%の割合で炭酸ガスを含む培養器内で、37℃で行った。
【0041】
合成二本鎖siRNAの細胞内導入
60mm径プラスチックペトリ皿(商標:Falcon、BD Biosciences社製)に、8×105個の前記LNCaP細胞を植え込み、24時間培養後Opti-MEM(Invitrogen社製)にて2回洗浄し、1nMの合成二本鎖siRNAを含むLipofectamine2000(Invitrogen社製)溶液を加えた。5時間後10%FBSを含むDMEMに培地交換した。
【0042】
ウエスタンブロッティング法
合成二本鎖siRNAを上述のとおり導入して48時間培養した後に、細胞をCelLytic M Cell Lysis Reagent(Sigma-Aldrich社製)を用いて可溶化した。前記可溶化試料を、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド電気泳動)にて展開し、Mini-PROTEANII(Bio-Rad社製)を用いて、2時間PDVF(polyvinylidene difuoeide)膜(Millipore社製)に転写した。転写後は、5%スキムミルク(和光純薬社製)を含むT-TBS(25mM Tris-HCl、125mM NaCl、0.1% Tween20;Sigma-Aldrich社製)にて4℃、1晩ブロッキングした。さらに、一次抗体をブロッキング溶液にて希釈し、室温にて1時間反応させ、前記T-TBS溶液にて3回洗浄後、二次抗体を同様に1時間反応させた。ECLplusキット(Amersham Biosciences社製)にて発色させた後、LAS3000(富士フィルム社製)を用いてデジタル画像化した。
【0043】
細胞増殖評価法
前記LNCaP細胞に前記合成二本鎖siRNAを導入した細胞を、6ウェルマイクロプレート(商標:Falcon、BD Biosciences社製)に5×104個植え込み、4日間培養した後、0.05%トリプシン-0.53mM EDTA(Invitrogen社製)にて細胞を回収し、Z1 Coulter Counter(Beckman Coulter社製)を用いて細胞数を計測した。
【0044】
RNAi効果についての結果
前記5種類の合成二本鎖siRNAを前記培養ヒト前立腺癌細胞株LNCaPに導入し、上述のとおり、RNAi効果をARタンパク質の発現レベル(ウエスタンブロット)で評価した。その結果、前記5種類の全ての合成二本鎖siRNAが、1nMの濃度で標的AR遺伝子の発現を有意に抑制することが確認された。その結果の一例を図1に示す。同図において、一番左のレーンは、GFP遺伝子に対する合成二本鎖siRNA(21塩基オーバーハング)を導入した場合のコントロールである。同図に示すとおり、前記5種類の中でも、AR1、AR61、AR1169及びAR4257の4種類の合成二本鎖siRNAは、80%以上の顕著なRNAi効果を示した。
【0045】
細胞増殖抑制効果についての結果
前記5種類の合成二本鎖siRNAを前記培養ヒト前立腺癌細胞株LNCaPに導入し、上述のとおり細胞増殖抑制効果を評価した。その結果、前記5種類の全ての合成二本鎖siRNAが、1nMの濃度で前記前立腺癌細胞の増殖を有意に抑制することが確認された。その結果の一例を図2に示す。同図において、GFP19は、GFP遺伝子を標的とした21塩基オーバーハングsiRNAを導入した場合のコントロールであり、GFP27は、GFP遺伝子を標的とした27塩基ブラントエンドsiRNAを導入した場合のコントロールである。また、同図において、縦軸は細胞数を示す。同図に示すとおり、前記5種類の中でも、AR4257の合成二本鎖siRNAは、70%以上の顕著な前立腺癌細胞の増殖抑制効果を示した。
【0046】
上述のとおり、前記5種類の合成二本鎖siRNAは、1nMという超低濃度でも、有意なAR遺伝子を標的としたRNAi効果示し、かつ、前立腺癌細胞の増殖抑制効果を示した。そのなかでも、AR4257は、とりわけ優れたRNAi効果及び細胞増殖抑制効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したとおり、本発明の二本鎖siRNAは、オフターゲット効果及びインターフェロン応答を回避しつつ、AR遺伝子特異的なRNAiを媒介できるから、例えば、臨床応用が可能であり、ARを標的分子とした医療や医薬組成物の分野、例えば、前立腺癌を含む癌治療に関する治療や医薬組成物の分野で有用である。その他、本発明の二本鎖siRNAは、例えば、学術及び基礎医学的研究開発分野においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の二本鎖siRNAのAR遺伝子を標的としたRNAi効果をウエスタンブロットで確認した結果の一例である。
【図2】図2は、本発明の二本鎖siRNAの細胞増殖抑制効果を確認した結果の一例である。

【配列表フリ-テキスト】
【0049】
配列番号1 オーバーハングsiRNA AR1
配列番号2 オーバーハングsiRNA AR24
配列番号3 オーバーハングsiRNA AR61
配列番号4 ブラントエンドsiRNA AR1169
配列番号5 ブラントエンドsiRNA AR4257
図面
【図1】
0
【図2】
1