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明細書 :イカ軟骨のコンドロイチン硫酸由来の硫酸化八糖及び十糖

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5344787号 (P5344787)
公開番号 特開2007-224216 (P2007-224216A)
登録日 平成25年8月23日(2013.8.23)
発行日 平成25年11月20日(2013.11.20)
公開日 平成19年9月6日(2007.9.6)
発明の名称または考案の名称 イカ軟骨のコンドロイチン硫酸由来の硫酸化八糖及び十糖
国際特許分類 C08B  37/08        (2006.01)
G01N  30/06        (2006.01)
G01N  30/88        (2006.01)
G01N  33/00        (2006.01)
C12P  19/64        (2006.01)
FI C08B 37/08 Z
G01N 30/06 E
G01N 30/88 N
G01N 33/00 Z
C12P 19/64
請求項の数または発明の数 5
全頁数 24
出願番号 特願2006-049308 (P2006-049308)
出願日 平成18年2月24日(2006.2.24)
審判番号 不服 2012-008173(P2012-008173/J1)
審査請求日 平成20年5月21日(2008.5.21)
審判請求日 平成24年5月7日(2012.5.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】菅原 一幸
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
参考文献・文献 JBC,2002年,Vol.277,No.11,pp.8882-8889
JBC,2005年,Vol.280,No.37,pp.32193-32199
Glycobiology,2005年,Vol.15,No.6,pp.593-603
Eur.J.Biochem.,1998年,Vol.251,p.114-121
調査した分野 C08B
特許請求の範囲 【請求項1】
イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸をヒアルロニダーゼ処理後、ゲル濾過カラム、次いで陰イオン交換カラムを用いて分画することにより得られた、以下の(1)~(5)、(7)、(9)、(10)の八糖構造の硫酸化オリゴ糖を含む画分。
(1)C-E-E-C、(2)E-E-A-C、(3)E-E-A-A、(4)C-E-E-A、(5)E-E-C-A、(7)E-A-E-E、(9)E-C-E-E、(10)A-E-E-E
(ただし、Eは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、Aは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸)]、Cは、[GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。)
【請求項2】
イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸をヒアルロニダーゼ処理後、ゲル濾過カラム、次いで陰イオン交換カラムを用いて分画することにより得られた、以下の(11)~(20)のいずれかの十糖構造の硫酸化オリゴ糖を含む画分。
(11)E-E-E-A-A、(12)C-E-E-E-A、(13)E-E-E-C-A、(14)E-E-E-E-C、(15)E-E-E-E-A、(16)E-E-E-E-E、(17)E-E-E-A-A、(18)E-E-E-E-A、(19)E-E-E-E-C、(20)E-E-E-E-A
(ただし、Eは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、Aは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸)]、Cは、[GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(6-O-硫酸)]、の二糖構造をそれぞれ意味する。)
【請求項3】
抗コンドロイチン硫酸抗体などの抗糖鎖抗体のエピトープ解析に用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の硫酸化オリゴ糖の画分の利用方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の硫酸化オリゴ糖の画分の、当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する物質の探索のための使用。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の硫酸化オリゴ糖の画分から調製した、当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する物質の探索に用いられるプローブ。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イカ軟骨のコンドロイチン硫酸E由来の新規硫酸化八糖及び十糖に関する。本発明は特に、糖鎖の構造及び機能の研究解析において、及びその医療等への応用分野において有用な技術を提供するものである。
なお、本明細書及び図面において使用される主要な略号の意味は以下のとおりである。
PG:プロテオグリカン、GAG:グリコサミノグリカン、CS:コンドロイチン硫酸、DPPE:L-α-Dipalmitoyl phosphatidyl ethanolamine、MALDI-TOF/MS:マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析、GlcUA:D-グルクロン酸、GalNAc:N-アセチルD-ガラクトサミン、HexUA:ヘキスロン酸、Δ4,5HexUA(ΔHexUA):4-deoxy-L-threo-hex-4-enepyranosyluronic acid、HPLC:高速液体クロマトグラフィー、2AB:2-アミノベンズアミド、ΔO:ΔHexUAα1-3GalNAc、ΔC:ΔHexUAα1-3GalNAc(6-O-硫酸)、ΔA:ΔHexUAα1-3GalNAc(4-O-硫酸)、ΔD:ΔHexUA(2-O-硫酸)α1-3GalNAc(6-O-硫酸)、ΔE:ΔHexUAα1-3GalNAc(4,6-O-二硫酸)。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン硫酸 (CS)は、グリコサミノグリカン (GAG) の一種であり、コアタンパク質に共有結合した形でプロテオグリカン (PG) として、哺乳類組織の細胞表面および細胞外マトリックスに広く分布している。こうしたコンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CS-PGs) は、多くの場合そのGAG鎖を介して細胞の移動、分化、分裂増殖、細胞間認識作用および組織の形態形成といった種々の重要な生物活性に関与している(後述の参考文献1-4)。
【0003】
CS鎖は、グルクロン酸(GlcUA)とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の二糖繰り返し構造から成り、この二糖単位中では様々な組み合わせで、GlcUAの2位やGalNAcの4位、6位が硫酸化修飾を受けている。その修飾によってCS鎖は多様な二糖単位を有することになる。このような多様な二糖構造のうちで、多硫酸化CS鎖であるコンドロイチン硫酸E(CS-E)およびコンドロイチン硫酸D(CS-D)は、それぞれE ユニット [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)] とD ユニット [GlcUA(2S)β1-3GalNAc(6S)](2S、4S、6Sはそれぞれ、2-O-硫酸、4-O-硫酸、6-O-硫酸を示す)を有する構造であり、海馬ニューロンの神経突起伸長促進活性や、種々のヘパリン結合性増殖因子との結合能などの生物活性が報告されており(参考文献3, 5, 18)、特に注目されている。
【0004】
最近の研究によって、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CS-PGs) の発現パターンがラット中枢神経系の発生に伴って変化することや、単クローン抗体を用いた免疫学的解析によって、硫酸基の位置や数が互いに異なるCS鎖(CSアイソフォーム)が発生段階においてそれぞれ異なった機能を発揮していることが示されている (参考文献6, 7)。神経系の構築において、CS-PGsは、ニューロンの接着、移動、神経突起の形成および軸索誘導の調節に関与し、重要な役割を担っている(参考文献8, 9)。また、ウシ、マウス、ラット、ニワトリおよびブタ胎仔の脳において、少量ではあるが有意量の上記E-ユニットおよびD-ユニットの存在が報告されている。こうしたCSの多硫酸化構造が、リガンドとなるタンパク質と特異的に相互作用し得る特異的な機能ドメインを形成し、当該タンパク質の活性を調節していると考えられている(参考文献5a, 10-13)。特に、脳CS-PGであるアピカンには14.3%、正常マウス乳腺上皮細胞由来シンデカン-1および-4のCS鎖には各々7%と9%というように、多硫酸化E-ユニットが相当量含まれている(参考文献14, 15)。
【0005】
イカ軟骨およびサメ軟骨には各々CS-EとCS-Dが豊富に含まれており、これらのCS鎖についてin vitroで種々の活性が示されている。例えば、ヘパリン結合性増殖因子であるミッドカイン (MK) を介したニューロンの接着および移動はCS-Eによって抑制される(参考文献16, 17)。種々のヘパリン結合性増殖因子が発生段階の脳に発現するが、これらの増殖因子はCS-Eに強く結合する(参考文献18)。L-, P-セレクチンなどの催炎性分子および種々のケモカインとPG-M/バーシカンとの結合は、CS-E由来のE-ユニット含有四糖によって特異的に阻害される(参考文献19)。CS-E はヘルペス単純ウイルス1感染の強力阻害剤であり(参考文献20, 20a)、CS-DおよびCS-Eは神経突起伸長促進活性を有する(参考文献21-23)。
【0006】
本発明者はこれまで、多硫酸化二糖構造を有するCS-EおよびCS-Dを含む、種々のCSアイソフォームの詳細な構造について網羅的な調査研究を行ってきた。そうした中、サメ軟骨CS-D(参考文献24-26)、イカ軟骨CS-E(参考文献27, 28及び非特許文献1, 2)、ヌタウナギ脊索CS-H(参考文献29)、カブトガニ CS-K(参考文献30, 31)およびサメ皮膚(参考文献31a)から各オリゴ糖を単離精製し、その配列の決定に成功した。これまでの研究により明らかにされた多硫酸化CSアイソフォームが示す生物活性の重要性に鑑みると、その構造と機能に関する研究を今後もなお一層精力的に進めることは、哺乳類の中枢神経系の形成・発達における糖鎖の役割や、増殖因子等の作用機構における糖鎖の役割を解明する上において非常に重要である。更にその研究成果を利用した創薬、疾病の診断法の開発など医療等への応用も期待される。
【0007】
ところで、市販の単クローン抗体MO-225は、ニワトリ胎仔四肢原基のPG-Mを抗原として作製されたものであり(参考文献32)、その抗体との結合にはCS-DおよびCS-Cに存在するA-D四糖配列が不可欠とされている(参考文献33, 34)。しかし、イカ軟骨CS-Eは、D-ユニットを含まないにもかかわらず、MO-225と結合する(参考文献32)。その理由は不明である。
【0008】

【非特許文献1】J. Biol. Chem. 272, 19656-19665 (1997)
【非特許文献2】Biochemistry 40, 12654-12665 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、種々の生物活性をもつコンドロイチン硫酸の構造と機能を解明するための研究用試薬として有用な新規硫酸化オリゴ糖を提供することをその課題とする。新規硫酸化オリゴ糖は、その配列、構造と相互作用するタンパク質の探索などに有用である。また、複数の新規硫酸化オリゴ糖の構造を決定し、硫酸化オリゴ糖鎖ライブラリーを構築することによって、これらの糖鎖を抗コンドロイチン硫酸抗体のエピトープ解析に利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、イカ軟骨のコンドロイチン硫酸多糖鎖(CS-E)を出発材料とし、精巣由来のヒアルロニダーゼを用いて断片化して得られた八糖及び十糖画分を陰イオン交換クロマトグラフィーでさらに分画することによって調製された硫酸化オリゴ糖鎖の構造解析を行った。その結果、従来報告のない合計20種類の新規硫酸化八糖及び十糖の構造を決定すると共に、これらの新規硫酸化オリゴ糖が実際に抗コンドロイチン硫酸抗体(MO-225)によって認識される糖鎖配列、構造の同定に利用できるなど、抗糖鎖抗体のエピトープ解析に有用であること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る硫酸化オリゴ糖は、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸から単離され、八糖構造又は十糖構造を有する硫酸化オリゴ糖である。本発明の硫酸化オリゴ糖には、二糖単位が以下のように配列された八糖構造を含む10種類の硫酸化オリゴ糖が含まれる。
(1)C-E-E-C、(2)E-E-A-C、(3)E-E-A-A、(4)C-E-E-A、(5)E-E-C-A、(6)E-E-E-A、(7)E-A-E-E、(8)E-E-E-C、(9)E-C-E-E、(10)A-E-E-E
【0012】
また、本発明の硫酸化オリゴ糖には、二糖単位が以下のように配列された十糖構造を含む10種類の硫酸化オリゴ糖が含まれる。
(1)E-E-E-A-A、(2)C-E-E-E-A、(3)E-E-E-C-A、(4)E-E-E-E-C、(5)E-E-E-E-A、(6)E-E-E-E-E、(7)E-E-E-A-A、(8)E-E-E-E-A、(9)E-E-E-E-C、(10)E-E-E-E-A
【0013】
ここで、上記E、A及びCはいずれも二糖単位の略号であり、
Eは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸, 6-O-硫酸)]、
Aは、[GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(4-O-硫酸)]、
Cは、[GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]、即ち、[グルクロン酸β1-3N-アセチルガラクトサミン(6-O-硫酸)]、
の二糖構造をそれぞれ意味する。
【0014】
後述の実施例に示すように、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸から単離された本発明の硫酸化オリゴ糖は、その配列又は構造の相違に応じて、抗コンドロイチン硫酸抗体(MO-225)と異なる反応性を示し(即ち、E-E-E-E-Cの十糖構造のみがMO-225との反応性を示し)、有用な抗糖鎖抗体のエピトープ構造の解析に利用できることが分かった。
【0015】
このように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、生体内に実際に存在し、抗コンドロイチン硫酸抗体のエピトープ解析に利用できることが示された硫酸化オリゴ糖であり、その構造をもとに、当該オリゴ糖の化学合成、酵素による合成などが可能となる。さらに、当該オリゴ糖に蛍光タグなどを結合させた種々の誘導体の合成や、タンパク質、脂質、核酸など他の生体分子又は人工分子との複合体の合成が可能である。これらの合成物は、当該オリゴ糖と相互作用する物質を探索するためのプローブとして利用することができる。例えば後述のように、本発明の硫酸化オリゴ糖を脂質と結合させてニトロセルロース膜上に固定し、当該オリゴ糖に結合する物質を高感度にハイスループットで検出するプローブとして利用できる。このようなプローブは、コンドロイチン硫酸を含めた糖鎖全般の構造及び機能の研究解析において有用であり、グライコミクス、糖鎖生物学、糖鎖工学など糖鎖研究の諸分野において有用な研究ツールを提供するものである。
【0016】
また、本発明の硫酸化オリゴ糖は、医療等への応用分野において有用な技術を提供することができる。例えば、種々の機能性タンパク質との結合解析を通じて得られた糖鎖の機能に関する研究成果を利用した創薬、疾病の診断法の開発などが挙げられる。本発明者は先に、他の硫酸化オリゴ糖が、繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)、プレイオトロフィン(PTN)、ミッドカイン(MK)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)といった各種増殖因子・神経栄養因子と相互作用し、その活性調節に利用し得ることを見出している(特願2005-80724号参照)。これらの知見は、本発明の硫酸化オリゴ糖もまた、増殖因子、神経栄養因子、サイトカインなど種々の機能性タンパク質との相互作用(結合)解析に利用できるだけでなく、当該硫酸化オリゴ糖と相互作用する機能性タンパク質の機能調節に利用し得ること、換言すれば、それらのタンパク質と混合して、いわば機能性タンパク質の活性調節結合剤として利用できることを示している。
【0017】
本発明の硫酸化オリゴ糖は、上述のように、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eから単離精製することができる。例えば、市販のイカ軟骨由来CS-E鎖を材料に、まずヒアルロニダーゼなどの酵素を用いて断片化する。さらに後述の実施例に示すように、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン交換HPLCなどで複数回分画することによって単離精製することができる。分画操作は、所望の純度が得られるまで必要な回数行えばよい。分画方法も特に制限されるものではなく、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、又はこれらのHPLCシステム等を用いたカラムクロマトグラフィーによって行うことが可能であり、複数のカラムを組み合わせて多段階の分画・精製を行うことが望ましい。
【0018】
このように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸から作製可能であるが、本発明の硫酸化オリゴ糖の作製方法としては当該方法に制限されるものではない。例えば、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸以外の天然物由来糖鎖から単離精製してもよいし、上述のように、糖鎖合成技術を用いて化学合成や、酵素による合成を行ってもよいし、合成した糖鎖や天然物由来糖鎖を化学的に硫酸化することによって、本発明の硫酸化オリゴ糖を作製してもよい。
【0019】
なお、本発明の硫酸化オリゴ糖は、長さ八糖又は十糖のオリゴ糖に制限されるものではなく、これよりも長い糖鎖のオリゴ糖や多糖であってもよい。糖鎖の長さについては、新規の「八糖構造」又は「十糖構造」を機能ドメインやエピトープ構造などとして含むものであれば特に制限されるものではなく、八糖構造(又は十糖構造)のいずれか一方の末端にさらに二糖をもつ十糖(又は十二糖)や、両側にそれぞれ二糖がひとつずつ伸びた十二糖(又は十四糖)でもよく、さらに、より長い多糖鎖であっても、新規の八糖(又は十糖)がもつ立体構造(コンフォメーション)を機能ドメインやエピトープ構造として含んでいればよい。好ましい糖鎖の長さは8-150糖であり、8-100糖がより好ましく、8-50糖がさらに好ましく、8-20糖がより一層好ましい。
【0020】
また上述のように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、天然多糖又は天然多糖由来のオリゴ糖に限らず、人工合成多糖であってもよい。さらに、この人工合成多糖は、新規の「八糖構造」又は「十糖構造」を化学的に模倣して、新規の八糖(又は十糖)と構造は相違するが、機能上及び用途上は共通する類似構造を含む多糖やオリゴ糖を合成したものであってもよい。例えば、八糖構造(又は十糖構造)の片方あるいは両端にアグリコンを結合させたものや、四つ(又は五つ)の二糖単位のいずれかを人工のリンカー又はスペーサー(1又は複数の連続したメチレン基(-CH2-)からなる炭化水素基など)に置換して八糖(又は十糖)の機能ドメインのコンフォメーションを持たせたものでもよい。
【実施例】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
[1]実験方法
[1-1]実験材料
イカ軟骨由来CS-E (super special grade)、CS二糖標準品、Proteus vulgaris由来コンドロイチナーゼABC (EC 4.2.2.4)、Arthrobacter aurescens由来コンドロイチナーゼAC-II (EC 4.2.2.4)、およびモノクローナル抗体MO-225は生化学工業株式会社 (東京、日本) より購入した。ウシアルブミン (Fr V, chemical grade) はSerological Proteins社 (Kankakee, IL) より購入した。ペルオキシダーゼを結合したAffiPureヤギ抗マウスIgG+IgM (H+L) 抗体は、Jackson ImmunoReseach Laboratories社 (West Grove, PA) より購入した。ヒツジ精巣由来ヒアルロニダーゼ (EC 3.2.1.35) およびゲンチジン酸はSigma社より購入した。(Arg-Gly)15 ペプチドはペプチド研究所 (大阪) で合成したものを用いた。Bio-Gel P-10樹脂およびニトロセルロース膜 (Trans-BlotTM Transfer membrane, 0.45 μm) はBio-Rad Laboratories (CA) より購入した。
【0022】
[1-2]CS-Eのヒアルロニダーゼ分解によるオリゴ糖画分の調製
市販品のイカ軟骨由来のCS-E (89 mg) を全量3. 0 ml中で、最終濃度として50 mM リン酸ナトリウム緩衝液、pH 6.0、150 mM NaClになるように混合し、10 mg (約15,000国際単位) のヒツジ精巣由来ヒアルロニダーゼを用いて37 ℃で分解した (1国際単位は1分間にヒアルロン酸を74 μg加水分解する量に相当する)。反応開始後22時間と26時間においてそれぞれ約3000国際単位と6000国際単位の酵素を追加し、45時間かけてサンプルを徹底的に分解した。タンパク質は30%のトリクロロ酢酸を0.66 ml加えて沈殿させ、2,500 rpmで10分間遠心し、取り除いた。その上清を回収し、沈殿に5%のトリクロロ酢酸を1.0 ml加えて、洗浄した。回収して、合わせた上清のトリクロロ酢酸をエーテルで除去し、1M Na2CO3で中和した。そのサンプルを10%エタノールを含む1M NaCl溶出液を用いて、Bio-Gel P-10カラム (1.6 x 95 cm) で分画した。カルボニル基が吸収する210 nmの波長で溶出画分をモニターした。画分IからXIまで分離し、プールした (図1)。それらの画分をSephadex G-25 (fine) カラム (1.5 x 46 cm) で溶出液として蒸留水を用い、脱塩した。モニターには210 nmの波長を用いた。オリゴ糖に相当する画分をプールし、乾固した後GlcUAを標準品としてカルバゾール反応で定量した。
【0023】
[1-3]陰イオン交換HPLCによる推定八糖及び十糖画分の細分画
Bio-Gel P-10カラムによるゲルろ過によって得られた推定八糖画分IXをアミン結合シリカPA-03カラムを用いた陰イオン交換HPLCでさらに細分画した。測定条件としては、90分間で0.2から1 Mに至るNaH2PO4の濃度勾配で、流速1ml/min、室温を用い、検出は210 nmで行った。同様に、はじめの5分間を0.2 M から0.6 M 、5分から120分までを0.6 M から1.0 M に至るNaH2PO4の濃度勾配で、推定十糖画分VIIIを細分画した。分離した各々のピークの画分を回収し、画分VIIIk, l及びmについてPD-10カラムを用いたほかは上述と同様の方法で各々脱塩し、カルバゾール反応で定量した。
【0024】
[1-4]オリゴ糖の酵素分解
二糖組成を決定するため、各々の画分を全量30 μlの50 mM Tris-HCl緩衝液、pH 8.0、60 mM酢酸ナトリウムの中で、5 mIUのコンドロイチナーゼABCと37 ℃で反応させた。反応停止のため1分間煮沸した。そのサンプルを乾固し、Anal. Biochem. 269, 367-378 (1999)記載の方法に従い、不飽和二糖を2-アミノベンズアミド (2AB) で蛍光標識した。ペーパークロマトグラフィーにより2AB試薬を除去し、2AB誘導体化二糖を精製した後、精製した各画分を流速1 ml/min、NaH2PO4の濃度勾配でアミン結合シリカPA-03カラム (4.6 x 250 mm; YMC社、京都、日本) を用いたHPLCにより分画した。溶出ピークは標準品との溶出位置の比較により同定した。
【0025】
八糖及び十糖の配列解析には、コンドロイチナーゼAC-II、ABCによる酵素学的解析とHPLCとの併用により行った。各々の八糖及び十糖の二糖配列単位の配列を決定するためのシークエンシングのストラテジーを図7に図示した。各々の八糖又は十糖を還元末端の還元アミノ化によって2ABで誘導体化した。上述した方法に従い、ペーパークロマトグラフィーにより2AB試薬を除去した後、2AB誘導体化八糖又は十糖をそれぞれコンドロイチナーゼAC-II、ABCを用いて分解した。これらの分解物の一定量について、二糖が2ABでラベル化されたものか還元末端由来の不飽和ウロン酸 (ΔHexUA) をもつ四糖が2AB化されたものかを区別するためにHPLCで解析した(ステップ1)。一方で、分解物の残りをさらに2ABで標識し、ペーパークロマトグラフィーで精製後、非還元末端由来か糖鎖内部の二糖単位に由来するかを決定するため、HPLCにより解析した(ステップ2)。還元末端および糖鎖内部由来の二糖と四糖とはΔHexUAをもつのに対し、非還元末端由来の二糖はGlcUAを有している。
【0026】
[1-5]マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析(DE MALDI-TOF MS)
八糖及び十糖のDE MALDI-TOF/MS解析はリニアモードで、Voyager DE-RP/Pro (PerSeptive Biosystems、Framingham、MA) を用いて行った。(Arg-Gly)15 (10 pmol/μl) の水溶液をまず10 pmolの八糖又は十糖とそれぞれ混合し(Carbohydr. Res., 270, 131-147 (1995))、次いで1 μlのマトリックス(ゲンチジン酸)溶液と混合した。その混合液をプローブ表面にのせ風乾し、スペクトルを測定した。
【0027】
[1-6]ニトロセルロース膜へ固相化したDPPE誘導化CS-Eオリゴ糖とMO-225との相互作用の検出
各々の八糖及び十糖画分を、L-α-dipalmitoyl phosphatidyl ethanolamine (DPPE) で脂質誘導体とした(Anal. Biochem. 270, 314-322 (1999))。これらの脂質結合オリゴ糖を、後述の参考文献34に記載の方法に従い、ニトロセルロース膜へ固相化し、抗体MO-225との反応性を調査した(特願2005-165699号明細書参照)。
【0028】
[2]結果
本発明者は先に、サメ軟骨由来CS-Cから新規硫酸化八糖を単離・同定すると共に、これらの新規硫酸化八糖が抗糖鎖抗体のエピトープ解析に有用であることを明らかにしたが、本実施例では以下のように、イカ軟骨由来CS-Eを出発物質として新規硫酸化八糖及び十糖を単離し、その構造を決定すると共に、これらの新規硫酸化オリゴ糖が実際に抗コンドロイチン硫酸抗体(MO-225)と結合する配列の同定に利用できるなど、抗糖鎖抗体のエピトープ解析に有用であることを明らかにした。
【0029】
[2-1]CS-Eからの八糖及び十糖の調製と同定
本実施例では市販のイカ軟骨由来のCS-E (89 mg) をヒツジ睾丸ヒアルロニダーゼで徹底的に分解し、その分解物を前記実験方法に示した方法に従い、Bio-Gel P-10カラムを用いたゲルろ過によって、サイズの違いで分画し、分離した画分を画分IからXIと命名した (図1)。以前のクロマトグラムのデータ(J. Biol. Chem. 272, 19656-19665 (1997))を基に、画分IXは八糖のオリゴ糖フラグメントを、画分VIIIは十糖のオリゴ糖フラグメントをそれぞれ含んでいると考えられた。また、210 nmの吸光度を基に、画分IX及び画分VIIIはそれぞれ全溶出オリゴ糖の11.9%と10.9%に相当すると考えられた。このうち、八糖を含んでいると予想された画分IX (1 mg) を図2に示すように、アミン結合シリカカラムで陰イオン交換HPLCによって画分IXa - IXtに細分画した。また、十糖を含んでいると予想された画分VIII (3.25 mg) を図3に示すように、アミン結合シリカカラムで陰イオン交換HPLCによって23の画分VIIIa - VIIIwに細分画した。各々の画分をSephadex G-25カラムを用いたゲルろ過で脱塩し、カルバゾール反応で定量した。HPLCと脱塩によって分画した八糖(画分IX)及び十糖(画分VIII)の全回収率はそれぞれ~57%と50%であった。単離したオリゴ糖画分の収率を下記表1にまとめた。
【0030】
前記実験方法で述べたように、各々のオリゴ糖画分の精製度は、2ABで蛍光標識した後、陰イオン交換HPLCで確認した。画分IXkを除く他の全てのオリゴ糖画分の精製度は72 - 98%程度であった (表1)。
【0031】
[表1:単離したCS-Eオリゴ糖の二糖組成]各々のオリゴ糖画分をコンドロイチナーゼABCで分解し、生成した二糖を2ABで蛍光標識後、アミン結合シリカPA-03カラムを用いて陰イオン交換HPLCで解析した。各々のピークの同定は2AB化二糖標準品の溶出位置と比較した。
【表1】
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[注]
a) 各々の画分の八糖及び十糖の量はカルバゾール法で定量した。
b) 各々の画分の純度は2ABで蛍光標識後、アミン結合シリカカラムを用いた陰イオン交換HPLCでピーク面積を基に決定した。
c) 二糖のモル比のパーセンテージはコンドロイチナーゼABCによる分解後、アミン結合シリカカラムで得られたピーク総面積から計算した。
d) 斜文字で記した二糖単位は、各々の画分中に含まれるマイナー成分の消化によって生じた二糖を示す。
【0032】
[2-2]画分VIIIoのシークエンシング
単離したすべての画分のシークエンシングは、図7に示した方法で行った。最初に、MO-225に対して反応性を示した十糖配列(後述)を含む、画分VIIIo主要構成成分のシークエンシング方法の詳細を以下に示す。酵素分解とHPLCによる推定では画分VIIIoの純度は85-89%であり、主要構成成分の配列の決定は以下に示すように可能であった。
【0033】
画分VIIIoに含まれる主要化合物の糖組成と硫酸基の数を決定するために、硫酸化糖鎖と結合するペプチド(Arg-Gly)15を用いて複合体を形成させてMALDI-TOF/MSを行った。検出した十糖の分子量は、プロトン化ペプチド/十糖複合体 (m/z 5854.1) からプロトン化ペプチド (m/z 3218) のm/zの値を差し引いた結果、2636.1であった(図4)。この値は九硫酸化十糖に相当する (表2)。コンドロイチナーゼABCで分解後、生じた二糖の還元末端を2ABで標識し、二糖組成を分析した。その分解物の陰イオン交換HPLCによる解析では、E [GlcUA-GalNAc(4S,6S)]、ΔC [ΔHexUA-GalNAc(6S)]、ΔE [ΔHexUA-GalNAc(4S,6S)] (ΔHexUAは4,5-ヘキスロン酸を表す) が主要な構成成分で、そのモル比は1.6 : 1.0 : 3.0 (表1) であった。これはMALDI-TOF/MS解析で得られた分子量の結果と一致する。従って、画分VIIIoの主要な構成成分は、1つのC-ユニットと4つのE-ユニットから成る。E-ユニットの一方は非還元末端に位置し、他方は糖鎖の内部あるいは還元末端に位置する。これらの主要な二糖ユニットに加えて、ΔA (6.9%) が少量検出された (表1)。これはおそらく非還元末端にE-ユニットを含み、糖鎖内部及び/又は還元末端にΔE-ユニットを含むマイナー成分に由来すると考えられた。
【0034】
[表2:CS-E八糖及び十糖のMALDI-TOF/MS解析、及びその推定構成糖と硫酸基の数]各々の八糖及び十糖画分 (10 pmol) を等モルの合成ペプチド(Arg-Gly)15と混合し、次にマトリックスであるゲンチジン酸と混合し、ポジティブイオンモードでスペクトラムを測定した。
【表2】
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[注]
a) 八糖又は十糖と合成ペプチド(Arg-Gly)15との1 : 1で結合した複合体プロトンのm/z値。
b) 1 : 1で結合した複合体プロトンのm/z値からプロトン化ペプチドの値を差し引いて得られた八糖又は十糖の質量。
c) 推定構造から算出された理論上の質量。
*) 1 : 1で結合した複合体プロトンから混入物によると考えられる別シグナルが観測された。
【0035】
配列を決定するため、まず画分VIIIoオリゴ糖の還元末端を2ABで標識し、2AB誘導体とし、誘導体試薬を除くためにペーパークロマトグラフィーで精製した。精製した2AB化VIIIo画分をコンドロイチナーゼAC-IIで分解し、陰イオン交換HPLCを行ったところ、還元末端由来の主要な2AB化生成物はΔC (85.7%) であった (表3)。また、少量ながら2AB化ΔA (8.4%) も検出された。これは還元末端又は糖鎖内部にA-ユニットを有するマイナー成分に由来すると考えられた。さらに、表3に示すように、2AB化ΔE-C (1.3%)およびΔE-E (4.6%)も検出された(図5C)。これらはそれぞれ主要成分とマイナー成分の十糖が完全に分解されなかったものと考えられる。
【0036】
[表3:2ABで標識した八糖又は十糖をコンドロイチナーゼAC-IIあるいはABCで分解し、生成した還元末端の二糖および四糖]各々の八糖又は十糖画分の還元末端を2ABで標識し、コンドロイチナーゼAC-IIあるいはABCでそれぞれ分解した。主要成分及びマイナー成分の還元末端の配列を決定するために、各々の分解物をアミン結合シリカカラムを用いて陰イオン交換HPLCで解析した。
【表3】
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[注]
a) 太字で記した二糖あるいは四糖は各々の分解によって生じた主要成分を示す。
【0037】
2AB化VIIIoのコンドロイチナーゼABCによる分解物は、還元末端由来の2AB化ΔE-C四糖の溶出位置に総ピーク面積の85.6%に相当する主要なピークが検出された。さらに3種類の四糖ΔE-A-2AB (9.3%)、ΔE-E-2AB (3.3%)およびΔA-A-2AB (1.8%)がマイナー成分として検出された(図5A、表3)。これらの結果によって、画分VIIIoの純度はおよそ85%であること、還元末端の主要単位は上述のようにC-ユニットであるので、画分VIIIoの主要化合物はE-E-E-E-C配列を有する十糖であることが分かった。また、コンドロイチナーゼABCによる解析結果は、少なくとも還元末端側に各々E-A、E-E、A-Aの四糖配列を有する他の3種類の十糖が画分VIIIo中に存在し、これらの十糖は画分VIIIoの全十糖のうち約14%を占めることを示している。
【0038】
画分VIIIoの主要化合物の配列は以下のように確認した。2AB化VIIIo画分をコンドロイチナーゼAC-II又はABCを用いて分解し、各々の分解物の一部をもとの十糖の非還元末端と糖鎖内部由来の二糖を標識するためにさらに2AB化した。そして、2AB化された二糖と四糖をペーパークロマトグラフィーで精製後、陰イオン交換HPLCで解析した (図7)。コンドロイチナーゼAC-IIによる分解物を2AB化したものからは、2AB化されたE、ΔCおよびΔEのピークが、1.1 : 1.0 : 3.1のピーク面積の割合で得られた。また、マイナー成分として、混入物由来と考えられる二糖及び四糖のピークも得られた (図5D、表4)。一方、コンドロイチナーゼABCによる分解物をさらに2AB化したものからは、2AB化されたE、ΔEおよびΔE-Cのピークが、1.0 : 2.2 : 0.9のピーク面積の割合で得られた (図5B、表4)。また、少量ながらマイナー成分として混入物のピークも得られた。
【0039】
[表4:2AB化八糖又は十糖をコンドロイチナーゼAC-IIあるいはABCで分解し、生じた二糖および四糖]各々の八糖又は十糖画分の還元末端を2ABで標識し、コンドロイチナーゼAC-IIあるいはABCでそれぞれ分解した。主要成分及びマイナー成分の還元末端の二糖単位を決定するため、その分解物をさらに2ABで標識し、2AB化試薬を除去・精製し、アミン結合シリカカラムを用いて陰イオン交換HPLCで解析した。
【表4】
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[注]
a) 太字で記した二糖あるいは四糖は各々の分解によって生じた主要成分を示す。
【0040】
以上をまとめると、画分VIIIoの主要化合物の配列は、画分中の全十糖のうち約85%を占めるE-E-E-E-C [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S) β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S) β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S) β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S) β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]である(表5)。この結果は前述の推定配列結果と一致する。さらに、この配列構造は、1H NMRスペクトル解析によっても確認された(図8、図10)。コンドロイチナーゼの分解により得られた二糖の割合が推定配列と一致しないのは、画分VIIIo中のマイナー成分の存在によるものと考えられる。下記表5は、後述するシークエンシング解析の結果を含め、画分VIIIoさらに他の画分(フラクション)に含まれる十糖構造並びに八糖構造の各割合をまとめたものである。
【0041】
[表5:イカ軟骨由来CS-Eから単離した新規な八糖配列及び十糖配列]
【表5】
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[注]
a) 括弧内の数字は各々の画分中に含まれるその配列の割合(%)を表す。
b) E-E-E-Cなどの配列は、J. Biol. Chem. 277, 8882-8889 (2002) において報告されている。
【0042】
画分VIIIoの約14%を占める3種類のマイナー成分の十糖は、その還元末端側にΔE-A (9.3%)、ΔE-E (3.3%)およびΔA-A (1.8%)という四糖構造を有している(表3)。酵素分解によってE-ユニットのみが非還元末端から切り出されたので、画分VIIIo中のすべての十糖は非還元末端にE-ユニットを有する。2AB標識VIIIoをコンドロイチナーゼABCで分解すると、主要な不飽和二糖としてΔE-ユニットが切り出されたので、画分VIIIo中のすべての十糖は糖鎖内部にΔE-ユニットを有する。これらの結果から、画分VIIIo中の3種類のマイナー成分の十糖は、E-E-E-E-A (9.3%)、E-E-E-E-E (3.3%) およびE-E-E-A-A (1.8%)の配列構造を有していると判断した。なお、これらの配列は後述のようにそれぞれ画分VIIIq、VIIIsおよびVIIImの主要成分であった。
【0043】
同様の方法で、画分IXk, l, m, o, q, s, VIIIm, qおよびsについても配列決定を行った。表3に、各々の画分の八糖及び十糖の還元末端からコンドロイチナーゼAC-II、ABCを用いて二、四糖を切り出し、検出された配列をまとめた。2AB化オリゴ糖をコンドロイチナーゼAC-IIで分解すると、還元末端から主に不飽和2AB化二糖が得られたが、不飽和2AB化四糖も生じた。対照的に、2AB化オリゴ糖をコンドロイチナーゼABCで分解すると、全ての八糖及び十糖画分から不飽和2AB化四糖が得られた。
【0044】
[2-3]画分IXkのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXkの主要成分は六硫酸化八糖であった(表2)。画分IXk を2AB標識後、コンドロイチナーゼABCによる分解で生じた二糖の組成分析を行ったところ、非還元末端からC、EおよびAの3種類の飽和二糖の2AB誘導体が、63.8 : 23.6 : 19.8のモル比で得られた。従って、画分IXkには少なくとも3種類の化合物が存在する。また、2ABで標識した画分IXkのコンドロイチナーゼAC-IIによる分解物は、2AB化ΔC (75.3%) が主要な構造であったのに対し、コンドロイチナーゼABCによる分解物は、2AB化ΔE-C (60.8%) が主要な構造であった (表3)。従って、画分IXkの主要構成成分は還元末端にE-C 四糖配列を有して。硫酸基数が全部で6つであること、及び糖鎖内部由来の二糖の主要生成物がE-ユニットであったこと(表1)から、画分IXkの約47%を占める主要化合物の配列は、C-E-E-C [GlcUAβ1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]であると結論した。また、複数のマイナー成分の還元末端には、E-A (22.6%) とC-C (16.6%)が含まれることから、マイナー成分の配列はE-C-E-A、E-A-E-AおよびE-E-C-Cであると推定されるが、更なる解析が必要である。
【0045】
[2-4]画分IXLのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXLの主要成分は六硫酸化八糖であった(表2)。画分IXL を2AB標識後、コンドロイチナーゼABCによる分解で生じた二糖の組成分析を行ったところ、主要生成物としてE、ΔAおよびΔEの3種類の2AB誘導体が、1.4 : 1.0 : 1.4のモル比で得られた(表1)。さらに、非還元末端から相当な割合のC-ユニットが検出されたので(C-ユニットとE-ユニットの合計を100%とすると30%)、画分IXLには複数の糖鎖化合物が存在する。また、陰イオン交換HPLC解析の結果、2ABで標識した画分IXLのコンドロイチナーゼABCによる分解物は、ΔA-Cの2AB誘導体が主要生成物(78.7%)であったのに対して、コンドロイチナーゼAC-IIによる分解では還元末端からΔC-ユニット(33.8%)が検出されると共に、分解されなかったΔA-C (39.6%)も検出された(表3)。この結果から、画分IXLの純度は73-79%と考えられる。コンドロイチナーゼABCによる分解物を2AB標識しHPLC解析を行ったところ、主要生成物としてE、ΔEおよびΔA-Cが1.4 : 1.1 : 1.0のモル比で得られた(表4)ので、画分IXLの主要構成成分の配列はE-E-A-Cであると考えられる。一方、コンドロイチナーゼAC-IIによる分解物を2AB標識しHPLC解析を行ったところ、主要生成物としてE、ΔE、ΔAおよびΔCの2AB誘導体が1.0 : 1.0 : 0.3 : 0.3のモル比で得られた(表4)。このモル比は一見すると上記推定結果と矛盾しているが、これは分解されなかったΔA-Cの存在によるものと考えられる。
さらに、コンドロイチナーゼABCによる分解によって還元末端からΔA-A (8%)、ΔE-A (4.8%)およびΔE-C (8.5%)が切り出されたので、画分IXLには3つのマイナー成分が含まれていることが分かる。酵素分解によって切り出されたマイナーな二糖及び四糖は、表4に示すとおりである。これらの結果から、画分IXLの主要構成成分の配列は、純度73-79%のE-E-A-C [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]であると結論した(表5)。一方、マイナー成分の配列の1つは、画分IXmの主要成分(後述)であるE-E-A-A (8%)と考えられ、他の2つのマイナー成分の配列は、非還元末端側にCユニットを有すること、硫酸基数が全部で6つであることから、C-E-E-C (8.5%)およびC-E-E-A (4.8%)と考えられるが、E-C-E-C およびE-C-E-Aの可能性もある。
【0046】
[2-5]画分IXmのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXmの主要成分の分子量は2014.76であり、六硫酸化八糖であった(表2、図9)。コンドロイチナーゼABCによる分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物として2AB 化されたE、ΔAおよびΔEが1.1 : 1.0 : 1.6のモル比で得られた(表1)。さらに、非還元末端から、E-ユニットのほかに一定割合のC-ユニットが切り出されたので(C-ユニットとE-ユニットの合計を100%とすると8.2%)、画分IXmには2つの主要化合物が混在する。また、陰イオン交換HPLC解析の結果、2ABで標識した画分IXmのコンドロイチナーゼAC-IIによる分解物は、ΔAの2AB誘導体が主要な産物(58.7%)であったのに対して、コンドロイチナーゼABCによる分解では還元末端から主要な四糖生成物としてΔA-A-2AB (56.5%)が検出された(表3)。従って、画分IXmの主要成分の純度は約57-59%であると考えられる。2AB化IXmをコンドロイチナーゼAC-IIで分解し、2AB誘導体化したところ、主要生成物として2AB化されたE、ΔEおよびΔA-ユニットが1.0 : 1.3 : 0.7のピーク面積比で得られた(表4)。一方、コンドロイチナーゼABCの分解物を2AB標識しHPLC解析した結果では、2AB化E、ΔEおよびΔA-Aが1.0 : 1.3 : 0.9のピーク面積比で得られた(表4)。コンドロイチナーゼABCの場合に生じた二糖及び四糖の割合は下記推定配列と一致するが、コンドロイチナーゼAC-IIの場合に生じた二糖の割合は大筋でしか一致しておらず、これはマイナー成分の存在や2AB標識効率が低かったことによると考えられる。還元末端から切り出された主要四糖はΔA-Aであったこと、非還元末端からの主要二糖はE-ユニットであったこと、糖鎖内部からの主要二糖はΔE-ユニットであったことから、画分IXmの全八糖のうち~56%を占める主要構成成分の配列は、E-E-A-A [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]であると結論した(表5)。この配列は、1H NMR スペクトル解析の結果からも確認された(図9)。画分IXmの他の成分の配列は、C-ユニットが非還元末端由来の二糖として切り出されたこと、ΔE-ユニットが主要な糖鎖内部由来の二糖であること、ΔE-Aが還元末端由来の四糖として検出されたこと(表3)から、C-E-E-A (35%)であると考えられる。さらに、還元末端由来の四糖がΔC-A (8.4%)である他のマイナー成分の配列は、E-E-C-Aであると考えられる(表3)。
【0047】
[2-6]画分IXoのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXoの主要成分は七硫酸化八糖であった(表2、図9)。画分IXo を2AB標識後、コンドロイチナーゼABCによる分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物として2AB 化されたE、ΔCおよびΔEが1.0 : 0.7 : 2.2のモル比で得られた(表1)。従って、主要成分は3つのE-ユニットと1つのC-ユニットを有している。2AB標識した画分IXoのコンドロイチナーゼAC-IIとABCによる分解物のHPLC解析では、主要生成物として2AB化されたΔC及びΔE-Cが得られ、これら切り出された二糖及び四糖の割合は各々87.4%と89.4%であったので、画分IXoの純度は87-89%である(表3)。コンドロイチナーゼABCによる分解によって、画分IXoのマイナー成分の還元末端からΔE-A (6.9%)とΔE-E (3.3%) が切り出された(表3)ので、画分IXoには3つの化合物が含まれていると判断した。酵素分解によって切り出された他のマイナーな二糖及び四糖は表3に示すとおりである。コンドロイチナーゼAC-IIによる分解物を2AB標識しHPLC解析を行ったところ、E、ΔEおよびΔCが1 : 1.7 : 1.3のモル比で得られた(表4)。従って、画分IXoの主要構成成分の配列はE-E-E-Cであると考えられる。一方、2AB化IXoのコンドロイチナーゼABCによる分解物を2AB標識しHPLC解析を行ったところ、E、ΔEおよびΔE-Cの2AB誘導体が1 : 1.1 : 1.5のモル比で得られた(表4)。この結果は上記推定結果と一致する。以上の結果から、画分IXoの主要化合物の配列は、E-E-E-C [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]であると結論した(表5)。この配列は、1H NMR スペクトル解析の結果からも確認された(図9)。画分IXo中のマイナーな糖鎖化合物の1つはE-E-E-A (6.9%)であり、他の1つは、還元末端にΔE-E四糖を有しており、コンドロイチナーゼABCの分解によって糖鎖内部由来と考えられる少量のΔA-ユニットが検出された(表4)ことから、その配列はE-A-E-E(3.7%)であると判断した。
【0048】
[2-7]画分IXqのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXqの主要成分は七硫酸化八糖であった(表2、図9、図11)。画分IXq を2AB標識後、コンドロイチナーゼABCによる分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物として2AB 化されたE、ΔAおよびΔEが1.2 : 0.8 : 2.1のモル比で得られた(表1)。従って、主要成分は3つのE-ユニットと1つのA-ユニットを有している。2AB標識した画分IXqのコンドロイチナーゼAC-IIによる分解物のHPLC解析では、主要生成物としてΔA-2AB (79.7%)が得られたのに対して、コンドロイチナーゼABCではΔE-A-2AB (98.5%)が得られた(表3)ので、画分IXqの主要八糖の配列はE-E-E-Aと考えられる。コンドロイチナーゼABCの分解結果からも分かるように、画分IXqの純度はおよそ98%である。コンドロイチナーゼAC-IIによる分解では、ΔA-2AB (79.7%)のほか、分解が十分ではなかったためと考えられる主要成分由来のΔE-A-2AB (18.4%)が少量得られた。さらに、ごく少量のΔE-C (1.5%)も酵素分解によって切り出されたが、これは混入しているマイナー成分由来と考えられた。コンドロイチナーゼAC-IIの分解物を2AB標識し陰イオン交換HPLC解析を行ったところ、非還元末端からは2AB標識されたE-ユニット、糖鎖内部からは2AB標識されたΔA、還元末端からは2AB標識されたΔEがそれぞれ検出され、E、ΔAおよびΔEの2AB誘導体が1.0 : 1.0 : 2.0のピーク面積比で得られた(表4)。この結果は上記推定構造と一致する。一方、コンドロイチナーゼABCの分解物を2AB標識しHPLC解析を行った結果では、E、ΔEおよびΔE-Aの2AB誘導体が0.9 : 1.0 : 1.4のピーク面積比で得られ(表4)、この結果も上記推定構造と一致する。以上の結果から、画分IXqの主要化合物の配列は、E-E-E-A [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]であると結論した(表5)。この配列は、1H NMR スペクトル解析の結果からも確認された(図9、図11)。画分IXqには、この主要化合物のほかに配列E-E-E-C (1.5%)のマイナー成分が含まれていたが、この成分は上述のように画分IXoの主要化合物である。
【0049】
[2-8]画分IXsのシークエンシング
MALDI-TOF/MS解析の結果、画分IXsの主要成分の分子量は2175.81であり、八硫酸化八糖であった(表2、図9)。コンドロイチナーゼABCによる分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物としてEとΔEのみが1 : 2.8のモル比で得られた(表1)ので、画分IXsの主要成分の配列はE-E-E-Eであると推定された。E-ユニットのほかに、少量のA-ユニットが非還元末端から切り出されたので、非還元末端にA-ユニットを有するマイナー成分が混在することが分かった。2AB標識した画分IXsのコンドロイチナーゼAC-IIとABCによる分解物のHPLC解析では、主要生成物として2AB 化されたΔE-Eが得られ、その割合は各々87.4%と94.1%であった(表3)。コンドロイチナーゼAC-IIによる分解では、ΔE-E四糖 (87.4%)のほかに、ΔE-ユニット(6.8%)が切り出されたので、画分IXsの純度は、コンドロイチナーゼABCの分解によって示されるように94%である。さらに、少量のΔE-A (5.8%)四糖も検出されたが、これは画分IXs中のマイナー成分の還元末端に由来すると考えられる。コンドロイチナーゼAC-IIとABCの分解物を2AB誘導体化しHPLC解析したところ、E、ΔEおよびΔE-Eの2AB誘導体のピークが、各々、1.0 : 1.1 : 0.8と1 : 1.1 : 1.1の面積比で得られ(表4)、この結果は上記推定構造とよく一致する。従って、画分IXsの主要成分の配列は、全八糖の94%を占めるE-E-E-E [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)]であると決定した(表5)。この配列は、1H NMR スペクトル解析の結果からも確認された(図9)。画分IXsには、このほかに配列E-E-E-A (5.8%)のマイナー成分が含まれていると考えられる。また、少量のΔC-ユニット (1.3-2.1%)が糖鎖内部から切り出されたので、E-C-E-Eの配列構造の存在、及び、非還元末端にA-ユニット(1.1-2.2%)を有するマイナー成分としてA-E-E-Eの配列が混在していると考えられる。
【0050】
[2-9]画分VIIImのシークエンシング
MALDI-TOF/MSの解析から画分VIIImの主要成分は、八硫酸化十糖である(表2)。画分VIIImを2AB標識後、コンドロイチナーゼABC分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物として2AB 化されたE、ΔAおよびΔEが1.0 : 1.5 : 3.0のモル比で得られた(表1)。さらに、相当量(33%)のC-ユニットが非還元末端から切り出されたので、画分VIIImには主要成分以外の成分も存在すると考えられる。2AB標識した画分VIIImをコンドロイチナーゼAC-IIで分解し陰イオン交換HPLC分析すると、主要生成物として還元末端からΔA(82.6%)の2AB誘導体が得られ、コンドロイチナーゼABC分解物からは、マイナー成分由来のΔC-A-2AB (6.7%)に加えて、主要成分としてΔA-A-2AB (58.4%)およびΔE-A-2AB (34.9%)が得られた(表3)。この結果から、画分VIIImには3つの化合物が含まれていると考えられる。コンドロイチナーゼAC-II分解物を2AB標識してHPLC分析すると、非還元末端から2AB標識されたE-ユニットおよびC-ユニットが検出され、糖鎖内部及び/又は還元末端から主要生成物として2AB標識されたΔE-ユニットおよびΔA-ユニットが検出され、2AB標識されたC : E : ΔA : ΔE のピーク面積比は0.3 : 1.0 : 1.1 : 3.1であった(表4)。一方、コンドロイチナーゼABC分解物を2AB標識したものでは、C、E、ΔE、ΔA-AおよびΔE-Aのピーク面積比が0.3 : 1.0 : 2.9 : 0.6 : 0.4であった(表4)。還元末端から切り出されたΔA-Aが主要成分由来の四糖であり、主要成分の非還元末端の二糖はE-ユニットであり、糖鎖内部からΔEが切り出されたことから、画分VIIImの主要化合物の配列は E-E-E-A-A [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]であると決定した(表5)。また、還元末端から切り出されたΔE-A(34.9%)が2番目の主要化合物由来の四糖であり、その非還元末端の二糖はC-ユニットであり(33%)、糖鎖内部からΔEが切り出されたことから、画分VIIImの2番目の主要化合物の配列はC-E-E-E-A [GlcUAβ1-3GalNAc(6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]であると決定した(表5)。さらに、他の成分は、還元末端からΔC-A (6.7%)が生成されたので、その配列はE-E-E-C-Aである。
【0051】
[2-10]画分VIIIqのシークエンシング
MALDI-TOF/MSの解析から画分VIIIqの主要成分は、九硫酸化十糖である(表2)。コンドロイチナーゼABC分解物の二糖を組成分析すると、E、ΔAおよびΔEが1.0 : 0.8 : 2.8のモル比で得られた(表1)ので、4つのE-ユニットと1つのA-ユニットを有する構造と考えられる。配列決定のため、2AB標識されたVIIIqをコンドロイチナーザAC-IIで分解しHPLC解析すると、還元末端由来の主要成分として2AB標識ΔA(75.7%)が得られ、分解されなかったΔE-Aも少量 (19.2%)検出された。コンドロイチナーゼABCの分解では、還元末端から主要な四糖としてΔE-A-2AB (96.4%) が検出されたので、画分VIIIqの主要化合物は高純度(96%)であると考えられる(表3)。さらに、少量のΔE-C (3.6%)が還元末端から切り出されたが、これはマイナー成分の還元末端に由来すると考えられる。コンドロイチナーザAC-II分解物を2AB誘導体化しHPLC解析すると、E、ΔAおよびΔEの2AB誘導体が1.0 : 1.3 : 2.5のピーク面積比で得られた。一方、コンドロイチナーゼABC分解物からはE、ΔEおよびΔE-Aが1 : 2.2 : 4.4 のピーク面積比で検出された(表4)。これらの結果から、画分VIIIqの主要化合物の配列は、全十糖の約96%を占めるE-E-E-E-A [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S)]であると決定した(表5)。2AB標識VIIIqをコンドロイチナーゼACII 又はABCで分解すると、それぞれΔC-ユニット(5.1%)とΔE-C(1.9%)が得られたので(表3)、画分VIIIqのマイナー成分の配列は、E-E-E-E-C [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(6S)]であると考えられる。この配列は画分VIIIoの主要化合物である。
【0052】
[2-11]画分VIIIsのシークエンシング
MALDI-TOF/MSの解析から画分VIIIsの主要成分は、十硫酸化十糖と九硫酸化十糖である(表2)。コンドロイチナーゼABC分解物の二糖を組成分析すると、主要生成物としてEおよびΔEのみが1 : 4.3のモル比で得られた(表1)ので、画分VIIIsの主要化合物の1つは5つのE-ユニットから構成されていると考えられる。2AB標識画分VIIIsをコンドロイチナーゼAC-II で分解して分析すると、主要成分としてΔE-E とΔEの2AB-誘導体が得られ、その合計量は全二糖と四糖のうちの67.4%であった。一方、コンドロイチナーゼABCの分解では、主要四糖としてΔE-E の2AB誘導体(79.5%)が検出された(表3)ので、画分VIIIs の主要化合物の純度は67.4-79.5%であると考えられる。さらに、少量のΔE-A(20.5%)がコンドロイチナーゼABC分解物から検出されたが、これは画分VIIIsのマイナー成分の還元末端に由来すると考えられる。コンドロイチナーザAC-IIおよびABCの分解物を2AB誘導体化しHPLC解析すると、E、ΔEおよびΔE-Eの2AB誘導体がそれぞれ1 : 3.3 : 0.5と1 : 2.7 : 0.6のピーク面積比で得られた(表4)。上記推定配列と割合が一見すると一致しないが、これは両方のコンドロイチナーゼにおいて分解されなかったΔE-E四糖が存在したためと考えられる。これらの結果から、画分VIIIsの主要化合物の配列は、全十糖の約79%を占めるE-E-E-E-E [GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)β1-4GlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S)]であると決定した(表5)。画分VIIIsのマイナー成分(21%)の配列は、上記解析結果からE-E-E-E-Aと考えられる。この配列は画分VIIIqの主要化合物である。
【0053】
[2-12]構造決定した十糖のMO-225抗体に対する反応性
MO-225は、ニワトリ胎仔四肢原基のPG-Mを抗原として作製され、D-ユニットを含む配列を主に認識する (J. Biol. Chem. 262, 4146-4152 (1987))。しかし、イカ軟骨CS-Eは、D-ユニットを含まないにもかかわらず、MO-225モノクローナル抗体と反応することが報告されている(J. Biol. Chem. 262, 4146-4152)。また、A-DおよびE-Dの四糖配列がMO-225と結合し得ることについて報告されているが、CS-Eにおけるいずれの構造がMO-225と結合するかは不明である。そこで、構造決定した上述のCS-E八糖および十糖とMO-225抗体との相互作用をオリゴ糖マイクロアレイ法を用いて解析した。
八糖および十糖の各混合物(各25 pmol)をそれぞれニトロセルロース膜上に固相化してMO-225抗体との反応性を試験し、MO-225と結合するオリゴ糖の最小単位を調査した。試験した濃度において、八糖の混合物はMO-225との反応性を示さなかったが(図6Aの1)、十糖の混合物はMO-225と強い反応性を示した(同図Aの2)ので、CS-Eの十糖がMO-225抗体と結合するための最小単位と考えられる。構造決定した個々の八糖とMO-225との反応性についても試験したが、いずれの八糖も反応性を示さなかった。この結果は、CS-E八糖がMO-225と結合し得る最小サイズではないことを示している。
MO-225 はCS-E十糖混合物と強い反応性を示した(図6Aの2)ので、次に構造決定した個々の十糖についてMO-225との反応性を試験した。前述のように、6つの十糖画分(VIIIi, k, m, o, qおよびs)のうち4つの画分に含まれる配列構造を決定しているが、これらの画分をMO-225と結合する配列の同定試験に使用した。試験した画分のうち主要成分としてE-E-E-E-Cを含む画分VIIIoのみがMO-225によって認識された(図5Bのd)。これに対して、MO-225 は、画分VIIIm、VIIIqおよびVIIIs(それぞれ主要成分としてE-E-E-A-A、E-E-E-E-AおよびE-E-E-E-Eを含む)とは反応性を示さなかった(図5Bのc、e、f)。
上記4つの十糖配列はすべて非還元末端にE-ユニットを有し、さらに隣接して2つのE-ユニットを有する点で共通するが、還元末端側の四糖配列が相違する。従って、MO-225と画分VIIIoとの反応性には還元末端側のE-C四糖配列の存在が重要である。他の画分ではすべて反応性を示さなかったからである。また興味深いことに、MO-225は還元末端側に同じくE-C四糖配列を有する八糖画分IXm(E-E-E-C)に対しては反応性を示さなかった。この結果はE-C配列を有する十糖構造(換言すればその十糖配列によって得られる立体構造)が抗体との結合に重要であることを示している。
このように本実施例によって、MO-225 による認識に必要とされていたD-ユニットがなくても、還元末端にE-C四糖配列を持つ十糖構造を有するCS-Eオリゴ糖がMO-225と結合し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明の硫酸化オリゴ糖は、コンドロイチン硫酸を含めた糖鎖全般の構造及び機能の研究解析に有用な試薬として利用することができる。さらに、各種増殖因子、神経栄養因子、又はサイトカインなどの他の機能性タンパク質と相互作用する可能性を有することから、プローブとして、あるいは有用な生理活性調節剤として利用することができる。例えば、これら機能性タンパク質の機能を調節するために、それらのタンパク質と混合して、いわば機能性タンパク質の活性調節結合剤として利用することができる。
【0055】
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【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】イカ軟骨由来CS-Eのヒアルロニダーゼ分解生成物のゲルろ過クロマトグラフィーの結果を示す図である。市販のイカ軟骨由来のCS-Eを前述した方法に従い、ヒツジ睾丸ヒアルロニダーゼで徹底的に分解した。その分解物を1M NaCl/10%エタノール溶出液を用いて、Bio-Gel P-10カラム (1.6 x 95 cm) で分画し、2 mlずつの画分を集めた。210 nmの波長で溶出画分をモニターし、水平バーで示したところをプールした。これまでの研究結果(J. Biol. Chem. 272, 19656-19665 (1997))などから、画分XIからIVにかけて四糖から十八糖に相当すると判断した。画分I-IIIは十八糖より大きい画分である。V0:空隙容量、Vt:総容積。
【図2】陰イオン交換HPLCによるCS-E八糖画分(IX)の細分画の結果を示す図である。サイズ分画で得られた八糖画分(図1のIX)を、アミン結合シリカカラムを用いて、点線で示すように、90分間で0.2から1 Mに至るNaH2PO4の濃度勾配で細分画した。
【図3】陰イオン交換HPLCによるCS-E十糖画分(VIII)の細分画の結果を示す図である。サイズ分画で得られた十糖画分(図1のVIII)を、アミン結合シリカカラムを用いて、点線で示すように、はじめの5分間を0.2 M から0.6 M、5分から120分までを0.6 M から1.0 M に至るNaH2PO4の濃度勾配で細分画した。
【図4】十糖画分VIIIoのプロトン化複合体のDE MALDI-TOF-MSスペクトルの結果を示す図である。画分VIIIoをペプチド (Arg-Gly)15 と混合し、前述した方法に従い、プロトン化複合体のDE MALDI-TOF-MSスペクトルを測定した。ペプチドと糖鎖との非共有結合的な複合体のシグナルが観測された。ペプチドの質量を差し引いた糖鎖の質量を図中カッコにて示した。
【図5】酵素を用いた十糖画分VIIIoのシークエンシング解析を示すグラフである。2ABで誘導体化した画分VIIIoをコンドロイチナーゼABC (A)あるいはAC-II (C) で分解し、アミン結合シリカカラムを用いて陰イオン交換HPLCで解析した。(A) のコンドロイチナーゼABCによる分解物、(C) のコンドロイチナーゼAC-IIによる分解物をさらに2ABで標識し、同じカラムを用いてHPLCで解析した。それらの結果をパネル(B)および(D) にそれぞれ示した。2AB化二糖標準品の溶出位置を数字の矢印で記した。1:ΔDi-0S、2:Di-6S、3:ΔDi-6S、4:Di-4S、5:ΔDi-4S、6:ΔDi-diSD、7:Di-diSE、8:ΔDi-diSE、9:ΔDi-triSである。また、2AB化四糖標準品の溶出位置をアルファベットの矢印で記した。a:ΔE-C、b:ΔE-A、c:ΔE-Eである。ΔE-Cは、1H NMRスペクトル解析により構造決定した画分IXoおよびVIIIo中の主要化合物の配列を基に、本実施例ではじめて同定された。
【図6】CS-E 八糖及び十糖の混合物並びに構造決定した十糖のMO-225に対する反応性を検討した結果を示す図である。イカ軟骨CS-E由来の八糖及び十糖の混合物(各々パネルAの1と2)又は構造決定した十糖(パネルB)をDPPEで脂質誘導体とし、それぞれ25 pmol(Aの1と2)と5 pmol(パネルB)をニトロセルロース膜上に固相化し、前述した方法に従い、MO-225との反応性を調べた。パネルBのaおよびbはそれぞれ画分VIIIiとVIIIk、c:主要成分としてE-E-E-A-Aを有する画分VIIIm、d:主要成分としてE-E-E-E-Cを有する画分VIIIo、e:主要成分としてE-E-E-E-Aを有する画分VIIIq、f:主要成分としてE-E-E-E-Eを有する画分VIIIs、である。
【図7】CS-E由来八糖及び十糖のエキソ-シークエンシングのストラテジーを示す図である。各々の八糖及び十糖画分 (300 pmol) の還元末端を2ABで標識し、ペーパークロマトグラフィーで過剰な2AB溶液を除去した後、2ABで誘導体化した八糖及び十糖画分を各々コンドロイチナーゼABCあるいはAC-IIで分解した。還元末端の二糖を同定するために、2ABで標識した不飽和二糖あるいは不飽和四糖分解生成物の一部を陰イオン交換HPLCで解析した (ステップ1)。一方、各々の分解生成物の残りをさらに2ABで標識し、ペーパークロマトグラフィーで精製後、非還元末端と糖鎖内部の二糖単位を同定するため、陰イオン交換HPLCで解析した (ステップ2)。
【図8】画分VIIIo中の十糖を構成する各単糖におけるプロトン(1H)の化学シフトの測定結果を示す表である。GlcUA、GalNAcの後に続く数字は、図10と同様に還元末端側から数えた糖鎖上の位置を示す。測定は26℃で行われたが、bを付したものは40℃での測定値である。
【図9】画分IXm, IXo, IXqおよびIXs中の八糖を構成する各単糖におけるプロトン(1H)の化学シフトの測定結果を示す表である。GlcUA、GalNAcの後に続く数字は、図11と同様に還元末端側から数えた糖鎖上の位置を示す。測定は26℃で行われたが、bを付したものは40℃での測定値である。N.D.は未決定。
【図10】画分VIIIoの1H NMRスペクトル解析結果を示すグラフである。図中のUとGはそれぞれGlcUA、GalNAcを表す。その後に続く数字は、グラフ上部に示すように、還元末端側から数えた糖鎖上の位置を示す。
【図11】画分IXqの1H NMRスペクトル解析結果を示すグラフである。図中のUとGはそれぞれGlcUA、GalNAcを表す。その後に続く数字は、グラフ上部に示すように、還元末端側から数えた糖鎖上の位置を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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