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明細書 :新規なリン酸カルシウム多孔体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4683590号 (P4683590)
公開番号 特開2002-274968 (P2002-274968A)
登録日 平成23年2月18日(2011.2.18)
発行日 平成23年5月18日(2011.5.18)
公開日 平成14年9月25日(2002.9.25)
発明の名称または考案の名称 新規なリン酸カルシウム多孔体およびその製造方法
国際特許分類 C04B  38/00        (2006.01)
B01D  39/00        (2006.01)
B01D  39/14        (2006.01)
C04B  35/447       (2006.01)
C04B  38/06        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C04B 38/00 303Z
C04B 38/00 304A
B01D 39/00 A
B01D 39/14 P
C04B 35/00 S
C04B 38/06 B
A61L 27/00 J
請求項の数または発明の数 11
全頁数 10
出願番号 特願2001-082403 (P2001-082403)
出願日 平成13年3月22日(2001.3.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第3項適用 2000年11月28日~29日 中小企業総合事業団 大阪府 大阪商工会議所主催の「産学官技術移転フェア2000」に出品
審査請求日 平成20年2月28日(2008.2.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】谷原 正夫
【氏名】大槻 主税
個別代理人の代理人 【識別番号】100062144、【弁理士】、【氏名又は名称】青山 葆
【識別番号】100067035、【弁理士】、【氏名又は名称】岩崎 光隆
【識別番号】100064610、【弁理士】、【氏名又は名称】中嶋 正二
【識別番号】100072730、【弁理士】、【氏名又は名称】小島 一晃
審査官 【審査官】小野 久子
参考文献・文献 特開昭57-007859(JP,A)
特開昭62-202880(JP,A)
特開平07-023994(JP,A)
特開平03-131580(JP,A)
特開2001-058885(JP,A)
特開昭57-004710(JP,A)
特公平08-029992(JP,B2)
調査した分野 C04B 38/00-38/10
B01D 39/00
B01D 39/14
C04B 35/447
A61L 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
細孔の直径が1~10μmの範囲にある3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格の直径が1~10μmの範囲にあるリン酸カルシウム多孔体。
【請求項2】
気孔率が40~90%の範囲にある請求項1記載のリン酸カルシウム多孔体。
【請求項3】
該リン酸カルシウムが、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウム、オルトリン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウムまたはリン酸カルシウム系ガラス、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項1または請求項2に記載のリン酸カルシウム多孔体。
【請求項4】
リン酸カルシウム、水溶性有機化合物および水からなるスラリーを、水不溶性3次元網状構造を有する有機体に担持して焼成する、細孔の直径が1~10μmの範囲にある3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格の直径が1~10μmの範囲にあるリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項5】
500℃~1700℃の温度で焼成する、請求項4に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項6】
該リン酸カルシウムが、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウム、オルトリン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウムまたはリン酸カルシウム系ガラス、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項4または請求項5に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項7】
水溶性有機化合物が、糖類、蛋白質、ポリアクリル酸または、ポリビニルアルコール、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項4ないし請求項6の何れかに記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項8】
水30重量部に対するスラリー中のリン酸カルシウムの割合が10~30重量部の範囲にあり、かつ水溶性有機化合物の割合が10~30重量部の範囲にある、請求項4ないし請求項7の何れかに記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項9】
スラリーの25℃における粘度が1000mPa・s~1500mPa・sの範囲にある、請求項4ないし請求項8に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項10】
水不溶性3次元網状構造を有する有機体が、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ヘチマ、海綿、不織布および綿から1またはそれ以上選択される、請求項4ないし請求項9の何れかに記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
【請求項11】
該焼成が、500~1000℃における焼成と500℃~1700℃の焼成との2段階からなる、請求項4ないし請求項10に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なリン酸カルシウム多孔体とその製法に関する。さらに詳しくは、本発明は、細孔の直径が1~10μmの範囲にある3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格が1~10μmの範囲にあり、気孔率が40~90%の範囲にある、1μm以上の細孔の表面積が極めて大きいリン酸カルシウム多孔体およびその製造方法に関する。
本発明により得られるリン酸カルシウム多孔体は、直径が1~10μmの均一な細孔を有し、その表面積が極めて大きいため、骨形成材料等の生体補填材料として有用であり、さらに空気浄化フィルターや廃水処理などの環境浄化材料、断熱材などの建築材料としても有用である。
【0002】
【従来の技術】
リン酸カルシウムは脊椎動物の骨や歯を構成する生体硬組織の主要成分である。その為、生体親和性に優れた材料として注目されており、人工骨、人工歯、人工歯根、骨充填材等の生体補填材料としての使用が進められている。とりわけ、リン酸カルシウム多孔体は、生体内組織とリン酸カルシウム材料との接触面積が大きい為、生体内で骨組織と絡み合い構造を構築でき、しかも手術室での加工も可能なことから、人工骨等に適しているとされてきた。これらの多孔体およびその調製法として、炭酸カルシウム水懸濁液にリン酸を滴下し、この時に錯体形成能を有する第3物質を共存させて得られる、開口部を有する板状構造をしたリン酸カルシウム系化合物およびその製造方法(特開2000-128513)、リン酸カルシウム系セラミックスの粉体を5~50MPaの加圧下で圧縮して圧粉体とするとともに、該圧粉体にパルス状電圧を印加して650℃~900℃に加熱することにより、相対密度35~80%のリン酸カルシウム系セラミックス多孔体を作製する方法(特開平11-035379)、線材メッシュやビーズ結合体など生体用非吸収性材料からなる3次元多孔体の空隙内に、CMキチンとリン酸カルシウムの顆粒との混合材を充填して成る表面修飾骨補填部材およびその製造方法(特開平11-276510)、気孔が一定の方向性を有し、かつその方向に沿って連通してなるリン酸カルシウム化合物から成る多孔体骨補填材(特開平07-023994)、気孔径が10~100μm、開気孔率が40~80%の球状連通気孔を有するリン酸カルシウム系セラミックス多孔体、並びに球状気孔形成材が20~60重量%、リン酸カルシウム系セラミックスが60~40重量%からなるグリーン体を圧縮成型し、これを800~1400℃で焼成することを特徴とするリン酸カルシウム系セラミックス多孔体の製造方法(特開平05-208877)、セラミックス材料のグリーンシートに100~1000μmの孔を形成し、孔が連通するように積層した後焼成して得られる生体補填部材とその製造方法(特開平08-173463)、カルシウムイオンとリン酸イオンとを水性媒質中8以上のpHで反応して得られた、カルシウムとリンのモル比が1.45~1.75の間にあるゼラチン状のリン酸カルシウム沈殿物を3次元網状構造を有する有機多孔体の中に入れ、該ゼラチン状のリン酸カルシウム沈殿物を乾燥して該多孔体の孔の中に顆粒状のリン酸カルシウム成形体を形成し、しかる後、該有機多孔体を除去して得られる顆粒状リン酸カルシウム成形体の製造法(特公平08-29992)、厚み方向に1~3層の熱分解性物質を3次元的に連結した熱分解性物質多孔体と、セラミック基材を接触または近接して配置し、該セラミック基材と同質のセラミック粉末の泥しょうでセラミック基材と多孔体間および多孔体の空間部分を満たした後、加熱焼成して得られるセラミックインプラント材の製造方法(特許第2759147号)、化学反応により気体が発生するカルシウム化合物およびリン酸化合物を含む出発物質を反応させ、水熱ホットプレス法により加圧成形した後、焼成して成るリン酸カルシウム質セラミックス多孔体(特公平07-10749)、結晶質のリン酸カルシウム微粉末に解膠剤を水溶液にして添加し混合する工程と、この混合溶液に起泡剤を添加して連続した微細な空孔を有する多孔性流動体を調製する工程と、この多孔性流動体を乾燥処理してリン酸カルシウムの骨格を有する多孔形成体を作製する工程と、この多孔形成体を加熱して前記解膠剤および起泡剤を分解消失させるとともに前記リン酸カルシウム多孔体を焼結する工程とを具備したリン酸カルシウム多孔体の製造方法(特許第2597355号)が知られている。
しかし、上記何れの方法においても、気孔が1~10μmの範囲でその大きさが均一である多孔体の調製はなされていない。
【0003】
従来のリン酸カルシウム多孔体材料は、主に、起泡剤を用いて、泡を含むリン酸カルシウム材料のスラリーを硬化させるか、またはそれを焼成して製造される。例えば、特公平07-10749では化学反応により気体を発生する方法を用いる多孔体の製造方法を開示している。しかし、該方法では、均一に気体を発生させること、即ち気孔径を均一にすることが困難であり、0.01~500μmの不均一な孔を持つ多孔体しか得られない。また、特許第2597355号では、起泡剤により発泡させて多孔体の製造方法を開示している。この方法で得られる多孔体の空孔は、0.05~1.3mmである。このように、発泡体を用いて多孔体を調製する方法は気孔形成のコントロールが困難であり、そして形成された気孔構造は不定型である。こうして得られる多孔体は強度が低いという問題がある。更に、気孔径が均一でない為、生体補填材料として使用した場合、骨組織との絡み合い構造構築において高い効果は得られない。
【0004】
また、リン酸カルシウムの粉末を圧縮成型したグリーン体を焼成する製造方法もある。この方法で得られたリン酸カルシウム多孔体は、特開平05-208877および特開平08-173463で開示されている。しかし、特開平05-208877による多孔体は気孔径が10~100μm、開気孔率が40~80%の球状連通気孔であり、特開平08-173463による多孔体は孔径が100~1000μmである。これらの方法で得られる多孔体は、一般に骨格を形成するリン酸カルシウム相が厚いため、有効表面積の確保が困難であり、さらに気孔径の小ささが十分ではなく、周囲の環境に対して反応できる面積が単位体積あたりで小さくなるため、細胞の進入やリン酸カルシウムの示すタンパク質吸着特性やイオン交換特性、並びにそれらに起因する細胞親和性や刺激性において、効果が小さくなる。このように、従来開示されていた技術では細孔の直径が1~10μmの範囲にある多孔体、とりわけ、細孔の直径が1~10μmの範囲でその大きさが均一である多孔体、を得ることができなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、細孔の直径が1~10μmの範囲にある3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格が1~10μmの範囲にある多孔体に関する。該多孔体は細孔を形成する骨格の直径が非常に小さいため、非常に大きな有効表面積を確保することが可能となる。加えて、本発明は、該多孔体の気孔率が40~90%の範囲にある、1μm以上の細孔の表面積が極めて大きい多孔体に関する。
該多孔体は骨形成材料等の生体補填材料として有用であり、さらに、空気浄化フィルターや廃水処理などの環境浄化材料、断熱材などの建築材料としても有用である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記の目的は、リン酸カルシウムと水溶性有機化合物、水からなるスラリーを、水不溶性3次元網状構造を有する有機体に担持して、500℃以上の温度で焼成することを特徴とするリン酸カルシウム多孔体の製造方法を与えることにより達成される。この方法により、細孔の直径が1~10μmの範囲にあり、その大きさが均一である3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格が1~10μmの範囲にあるリン酸カルシウム多孔体を得ることが可能となる。
より少量のリン酸カルシウムで、高いタンパク質吸着特性やイオン交換特性、細胞親和性や刺激性を効率よく達成するには、周囲の気体や液体に接する面積を単位体積あたりで大きくするほうが有利に働く。さらにリン酸カルシウム多孔対が気体や液体の流動も可能な連続した細孔を有しており、その細孔径が1~10μmの範囲にあれば、細孔内への細胞増殖の進入も可能であるので、人工骨用および環境浄化用としての有用性が非常に高い。先にも述べたように、多孔体の機能性は周囲の気体や液体と接する面積が大きいほど、反応できる部位が多くなり、生体適合性や環境浄化において高い効率が達成可能となる。多孔体の細孔容積を70体積パーセントとした場合、細孔径の平均が10μmであり、そのすべてが連続していると最低でも約0.28mの表面積が1.0×1.0×1.0cmの立方体に存在できる。細孔の平均が100μmですべてが連続していると約0.028mの表面積となる。すなわち細孔径が小さくなるに従って単位体積あたりの表面積が大きくなるので、この程度の違いであってもリン酸カルシウム表面へのタンパク質吸着やイオン交換に10倍以上の差が生じる。これは連続細孔が1つで繋がっていると仮定した場合であり、3次元での連続細孔(すなわち、連続貫通孔)が形成されている場合においては、その差はより大きくなる。
さらに、細孔が全て連続していれば、気体と液体は多孔体内部においても自由に流動が可能となり、接触面積が大きいだけでなく、気体や液体の供給が続く限り細孔の表面における反応が連続できる。一方、細孔が連続していない密閉気孔では、気体や液体との表面反応は起こらない(ここで密閉気孔とは外界との接触のない骨格内部の気孔(細孔)を意味する)。また片側だけ開口したボトル型の細孔では、周囲の液体や気体が連続的に供給され難いので、連続的な表面反応は望めない。従って、細孔が連続している点は、タンパク質や有機分子、無機分子の吸着を伴う医用材料や環境浄化用材料において、極めて重要な要素であり、連続細孔を構築する技術の有用性は高い。
本発明によって、多孔体を形成する骨格の径を小さくすることにより、連続細孔が形成されやすくなり、しかも多孔体の単位体積あたりに占める細孔の体積を大きくできるので、軽量で細孔の多い多孔体が得ることが可能となる。焼結による多孔体の合成では、グリーン体作成時の粉末が1~10μmを用いると、焼結した試料にはその粒子間に存在する細孔が残存する可能性が高い。この際焼結後に100μm以上の骨格を有すると、骨格構造内部に10μm以下の密閉細孔が残存することになる。密閉細孔はタンパク質の吸着や環境浄化に必要な気体や液体との接触による反応に寄与しない。従って、上記用途を目的とする、より高機能な多孔体を調製するには、骨格内部への細孔の残留を避けなくてはならない。骨格の径を非常に小さくすることは、単位体積あたりの細孔の数を大きくすると同時に、密閉細孔の残留を避ける上で極めて有効な技術である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のリン酸カルシウムには、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウム、オルトリン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、リン酸カルシウム系ガラスなどおよびこれらの複合物、特にそれらの2種以上の混合物が含まれる。これらは、天然に産生するものを用いることができるが、湿式法によりリン酸を含む水溶液とカルシウムを含む水溶液から合成されたものであっても、乾式法により高温での加熱処理による固相法で合成されたものであっても、また気相法を用いて合成したものを用いてもよい。
【0008】
本発明のリン酸カルシウム多孔体の細孔は3次元連続貫通孔であるため、気体や液体と連続的に接触させることが可能となる。該細孔の直径が1~10μmの範囲にあるのが好ましい。本発明における平均細孔径は、走査型電子顕微鏡や光学式実体顕微鏡による実測、水銀圧入法などにより測定される。連続細孔の存在量については、通気率の測定からも対比可能である。
【0009】
本発明のリン酸カルシウム多孔体の細孔を形成する骨格は、多孔体の強度の維持と有効表面積の確保のために、1~10μmの範囲にあることが好ましい。骨格の厚さは、走査型電子顕微鏡や光学式実体顕微鏡により測定できる。
【0010】
本発明のリン酸カルシウム多孔体は、多孔体の強度の維持と有効表面積の確保のために、気孔率が40~90%の範囲にあるのが好ましい。気孔率の測定は、体積と重さ、リン酸カルシウムの真比重から計算する方法、細孔中に比重が既知の液体を充填し、その前後の重さから計算する方法等がある。さらに有効表面積の指標となる比表面積を求める手法として、固体表面に占有面積の分かった分子やイオンを吸着させ、その量から試料の比表面積を求める吸着法や、流体の透過性から比表面積を測定する透過法、固体を液体に浸漬した際の発熱量から比表面積を求める浸漬熱法がある。
【0011】
また、本発明で使用し得る水溶性有機化合物として、グルコースやマルトース、ショ糖、トレハロース、澱粉、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチル澱粉、アルギン酸、ヒアルロン酸、デキストラン、キトサンなどの水溶性糖類;アルブミンやコラーゲン、カゼイン、リゾチーム、グロブリンなどの蛋白質;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子化合物を使用することができる。中でも、澱粉、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチル澱粉、アルギン酸等の水溶性多糖類が好ましい。
【0012】
本発明のリン酸カルシウムと水溶性有機化合物、水からなるスラリー中の、水30重量部に対するリン酸カルシウムの割合は10~30重量部の範囲にあり、かつ水溶性有機化合物の割合は10~30重量部の範囲にあることが好ましい。さらに、水30重量部に対するリン酸カルシウムの割合は15~25重量部の範囲にあり、かつ水溶性有機化合物の割合は15~25重量部の範囲にあることが特に好ましい。リン酸カルシウムの割合が10重量部より低い場合には、気孔率は大きくなるが、細孔の直径が大きくなるとともに、骨格の連続性が失われて強度が減少してしまい好ましくない。また、リン酸カルシウムの割合が30重量部を超える場合には気孔率及び細孔の直径が低くなり好ましくない。水溶性有機化合物の割合が10重量部より低い場合には、気孔率および細孔の直径が減少し好ましくない。また、水溶性有機化合物の割合が30重量部を超える場合には気孔率及び細孔の直径が大きくなり、強度も低下するので好ましくない。本発明のスラリー調製にあたっては、リン酸カルシウムは粉末を使用するのが望ましく、好ましくは粒度0.01~10μm、特に好ましくは0.1~5μmのものである。
【0013】
本発明のスラリーの23℃における粘度は、水不溶性3次元網状構造を有する有機体中に均一にスラリーが含有され、かつ保持される範囲にあればよいが、特に1000mPa・s~1500mPa・sの範囲にあることが好ましく、1100mPa・s~1350mPa・sの範囲にあることがさらに好ましい。スラリーの23℃における粘度が1000mPa・sを下回る場合には、多孔体の均一性が失われ好ましくない。スラリーの23℃における粘度が1500mPa・sを越える場合には、気孔率および細孔の径が減少し好ましくない。
【0014】
本発明の水不溶性3次元網状構造を有する有機体は、スラリーを網状構造の中に均一に保持できるものであればよいが、例えばポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ヘチマ、海綿、不織布、綿などが挙げられる。
【0015】
本発明の焼成温度は、スラリー中のリン酸カルシウムが焼結するとともに、水不溶性3次元網状構造を有する有機体が消失し、かつ目的とするリン酸カルシウムの結晶構造や非晶質構造を安定化する温度であればよいが、500℃以上1700℃以下の温度で焼成するのが好ましい。さらに、該焼成工程が、水不溶性3次元網状構造を有する有機体を消失させるための500~1,000℃の範囲の温度での焼成と、目的とするリン酸カルシウムの結晶構造を安定化するための500℃以上1700℃以下の温度での焼成の2段階であってもよい。
【0016】
本発明のリン酸カルシウム多孔体はそのまま骨形成材料等の生体補填材料として用いることができるが、アルギン酸やキトサン、セルロースなどの多糖類、コラーゲン、アルブミンなどの蛋白質で細孔内壁を被覆して用いてもよく、あるいはこれらで細孔内を充填して用いることもできる。また、薬剤、増殖因子などをそのまま添加して、あるいは被覆して用いてもよく、多孔体に充填する多糖類や蛋白質に添加して、または包含させて、あるいは結合させて用いることもできる。
【0017】
本発明のリン酸カルシウム多孔体とともに用いる薬剤として、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、レチノイン酸、アスコルビン酸、ビタミンD、ビスフォスフォネート等の骨吸収抑制または骨形成促進作用を持つ薬剤、抗生物質、および消毒剤などの抗菌剤が挙げられる。
【0018】
本発明のリン酸カルシウム多孔体とともに用いる増殖因子として、骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein)、腫瘍成長因子-β、オステオポンチン、塩基性線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子等の骨形成促進作用を有する増殖因子が挙げられる。
【0019】
本発明のリン酸カルシウム多孔体を滅菌して用いてもよい。この滅菌方法として、日本薬局方に記載されている方法、即ち180℃、2時間の乾熱滅菌、121℃、20分間の湿熱蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、ガンマ線滅菌などのいずれの滅菌方法を用いることができる。
【0020】
本発明のリン酸カルシウム多孔体は連通細孔を有しており表面積が非常に大きいため、空気中の細菌、ウイルス、花粉、塵埃、CO、NO、SO、オゾン等の除去用の空気浄化フィルター、水中の重金属や軽金属イオン、有機物、細菌等の除去に用いる廃水処理などの環境浄化材料としての使用において極めて有用である。本発明のリン酸カルシウム多孔体をそのまま環境浄化材料として用いることができるが、アルギン酸やキトサン、セルロースなどの多糖類、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステルなどの高分子化合物で細孔内壁を被覆して用いることもできる。
【0021】
本発明のリン酸カルシウム多孔体は、気孔率が大きいこと、毒性が低いこと、不燃性であることなどから断熱材などの建築材料としても有用である。本発明のリン酸カルシウム多孔体は、そのまま、あるいはアルギン酸やキトサン、セルロースなどの多糖類、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステルなどの高分子化合物で細孔内壁を被覆して、建築材料に用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例は例示説明のみを目的としており、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
20gのβ-リン酸3カルシウム(Nacalai tesque製、code 069-30)と20gの馬鈴薯澱粉(Nacalai tesque製、code 321-28)を混合して、らいかい機でさらに20分間粉砕混合した。これに、純水28gを加えてよく撹拌し、スラリーを得た。スラリーの23℃における粘度は、1212mPa・sであった。得られたスラリーをポリウレタン製のボディスポンジ((株)マーナ社製)に十分に含浸させた。均一にスラリーが含浸されたことを確認した後、60℃で約1時間乾燥した。その後、マッフル炉中1000℃で3時間焼成した。室温まで冷却後、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0023】
得られた、リン酸カルシウム多孔体の破断面を走査型電子顕微鏡で観察した。図1に示すように、1~10μmの範囲の均一な細孔と1~10μmの範囲の均一な骨格を持つ多孔体が得られた。かさ比重から求めた気孔率は65%であった。
【0024】
(実施例2)
20gのβ-リン酸3カルシウム(Nacalai tesque製、code 069-30)と20gの馬鈴薯澱粉(三和澱粉工業製、十勝産)を混合して、らいかい機でさらに20分間粉砕混合した。これに、純水30gを加えてよく撹拌し、スラリーを得た。スラリーの23℃における粘度は、1250mPa・sであった。得られたスラリーをヘチマ((株)マーナ社製)に十分に含浸させた。均一にスラリーが含浸されたことを確認した後、60℃で約1時間乾燥した。その後、マッフル炉中1000℃で3時間焼成した。室温まで冷却後、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0025】
得られた、リン酸カルシウム多孔体の破断面を走査型電子顕微鏡で観察、1~10μmの範囲の均一な細孔と1~10μmの範囲の均一な骨格を持つ多孔体が得られたことを確認した。かさ比重から求めた気孔率は70%であった。
【0026】
(比較例1)
30gのβ-リン酸3カルシウム(Nacalai tesque製、code 069-30)と30gのコーンスターチ(三和澱粉製)を混合して、らいかい機でさらに20分間粉砕混合した。これに、純水30gを加えてよく撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーをアルミナ板の上に置いた、直径4cm、高さ2cmの紙製の型枠に流し込んだ。この試料を型枠に入れたまま60℃で約1時間乾燥した。その後、マッフル炉中1000℃で3時間焼成した。室温まで冷却後、高温電気炉中1400℃で24時間焼成した。
【0027】
得られた試料は脆く、内部に焼きむらが生じていた。細孔径および骨格とも不均一で、1~数百μmの範囲に分布していた。
【0028】
(比較例2)
5gのβ-リン酸3カルシウム(Nacalai tesque製、code 069-30)と5gの馬鈴薯澱粉(三和澱粉製)、純水1gを混合して、遊星型ボールミルで5分間粉砕混合した。得られた混合粉末1ton/cmの圧力で、2cm×2cm×0.3cmの成形体を得た。これをアルミナ板の上に置き、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0029】
得られた試料は内部から膨張して形を崩していた。細孔径および骨格とも不均一で、1~数百μmの範囲に分布していた。
【0030】
(比較例3)
湿式法にて合成したCa/Pモル比1.5を有するアパタイト型リン酸カルシウムの粉末5gを5gの馬鈴薯澱粉(三和澱粉製)、純水1gを混合して、遊星型ボールミルで5分間粉砕混合した。得られた混合粉末1ton/cmの圧力で、2cm×2cm×0.3cmの成形体を得た。これをアルミナ板の上に置き、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0031】
得られた試料は内部から膨張して形を崩していた。細孔径および骨格とも不均一で、1~数百μmの範囲に分布していた。
【0032】
(比較例4)
5gのβ-リン酸3カルシウム(Nacalai tesque製、code 069-30)と5gのコーンスターチ(三和澱粉製)、純水1gを混合して、遊星型ボールミルで5分間粉砕混合した。得られた混合粉末1ton/cmの圧力で、2cm×2cm×0.3cmの成形体を得た。これをアルミナ板の上に置き、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0033】
得られた試料は内部から膨張して形を崩していた。走査電子顕微鏡観察の結果、粒子同士の結合が認められず、連続気孔も観察されなかった。
【0034】
(比較例5)
湿式法にて合成したCa/Pモル比1.5を有するアパタイト型リン酸カルシウムの粉末5gを5gのコーンスターチ(三和澱粉製)、純水1gを混合して、遊星型ボールミルで5分間粉砕混合した。得られた混合粉末1ton/cmの圧力で、2cm×2cm×0.3cmの成形体を得た。これをアルミナ板の上に置き、高温電気炉中1400℃で12時間焼成した。
【0035】
得られた試料は内部から膨張して形を崩していた。走査電子顕微鏡観察の結果、粒子同士の結合が認められず、連続気孔も観察されなかった。
【0036】
(試験例1)骨形成試験
実施例1および比較例1で得られたリン酸カルシウム多孔体を直径4mm、長さ10mmに成形し、ウサギ頚骨に開けた孔に埋植した。1ヶ月後に埋植部位を摘出し、固定後組織切片を作製して、組織学的評価を行った。
実施例1で得られたリン酸カルシウム多孔体では、わずかな残存しか認められず、欠損部のほとんどは骨組織が再生していた。これに対して、比較例1で得られたリン酸カルシウム多孔体は、周辺部に骨組織の再生が認められたが、かなりの割合で埋植した材料が残存していた。
(試験例2)蛋白質、フッ素イオン、硝酸イオンの吸着特性
実施例1および比較例2、3で得られたリン酸カルシウム多孔体各1gに、蛋白質(牛血清アルブミン)1mg/ml、フッ素イオン1mM、硝酸イオン1mMを含む0.01Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)5mlを加え、37℃で3時間接触させた。3時間後の上清中の各溶質の濃度を、それぞれBCAアッセイ(フナコシ)、イオン電極(堀場製作所)で測定した。リン酸カルシウム系多孔体を加えない場合をコントロールとして、溶質の吸着除去能を求めた。
実施例1で得られたリン酸カルシウム多孔体は、蛋白質の除去率が98%、フッ素イオン除去率が86%、硝酸イオン除去率が82%であった。これに対して、比較例2、3で得られたリン酸カルシウム多孔体では、それぞれ蛋白質の除去率が18%と12%、フッ素イオン除去率が20%と7%、硝酸イオン除去率が13%と9%であった。
【発明の効果】
上記のとおり、本発明のリン酸カルシウム多孔体は、細孔の直径が1~10μmの範囲にあり、その大きさが均一である3次元連続貫通孔を有し、該細孔を形成する骨格が1~10μmの範囲にあるものである。該多孔体は細孔を形成する骨格が非常に小さいため、非常に大きな有効表面積を確保することが可能となる。該多孔体は骨形成材料等の生体補填材料として有用であり、さらに、空気浄化フィルターや廃水処理などの環境浄化材料、断熱材などの建築材料としても有用である。
また、本発明の製造方法によって、上記のリン酸カルシウム多孔体を容易に調製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、実施例1で得られたリン酸カルシウム多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
図面
【図1】
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