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明細書 :ポリマー膜を用いるプロテアーゼ活性測定法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4505630号 (P4505630)
公開番号 特開2005-253436 (P2005-253436A)
登録日 平成22年5月14日(2010.5.14)
発行日 平成22年7月21日(2010.7.21)
公開日 平成17年9月22日(2005.9.22)
発明の名称または考案の名称 ポリマー膜を用いるプロテアーゼ活性測定法
国際特許分類 C12Q   1/37        (2006.01)
FI C12Q 1/37
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2004-073625 (P2004-073625)
出願日 平成16年3月15日(2004.3.15)
審査請求日 平成19年3月1日(2007.3.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】塩坂 貞夫
【氏名】田村 英紀
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】鈴木 崇之
参考文献・文献 特開昭59-048080(JP,A)
片山佳樹,ケミストからみたポストゲノム7 ~プロテインアレイ(2)タンパク機能解析用プロテインアレイ~,[online],2002年,[2009年12月02日検索],インターネット,URL,http://www.dojindo.co.jp/letterj/107/reviews_02_main.html
J. Biol. Chem.,1998年,Vol.273, No.18,P.11189-11196
J. Biol. Chem.,2001年,Vol.276, No.18,P.14562-14571
調査した分野 C12Q 1/37
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINEP(STN)
PubMed
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
カリクレインファミリープロテアーゼ活性を測定する方法であって、
カリクレインファミリープロテアーゼを含有するサンプルを疎水性ポリマー膜上に付着する工程、
カリクレインファミリープロテアーゼと該カリクレインファミリープロテアーゼ特異的合成基質とを該膜上で反応させる工程、および
カリクレインファミリープロテアーゼと該基質との反応により生じるシグナルを測定する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
カリクレインファミリープロテアーゼ活性を測定する方法であって、
組織切片をポリマー膜と接触させて、該組織から分泌されるカリクレインファミリープロテアーゼを該膜上に付着する工程、
カリクレインファミリープロテアーゼと該カリクレインファミリープロテアーゼ特異的合成基質とを該膜上で反応させる工程、および
カリクレインファミリープロテアーゼと該基質との反応により生じるシグナルを測定する工程、
を包含する、方法。
【請求項3】
前記カリクレインファミリープロテアーゼが、ニューロプシンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性ポリマー膜が、PVDF膜である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記合成基質が、Val-Pro-Arg-(4-メチルクマリル-7-アミド)(VPR-MCA)である、請求項またはに記載の方法。
【請求項6】
卵巣癌、皮膚癌、子宮頸癌および乾癬症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を診断するためのキットであって:
a)疎水性ポリマー膜;および
b)ニューロプシン特異的合成基質であって、ニューロプシンとの酵素反応により検出可能なシグナルを生じるよう標識された基質、
を備え、ここで、上昇したレベルのニューロプシン活性の検出は、被験体が該疾患を有することの指標となる、キット。
【請求項7】
前記カリクレインファミリープロテアーゼが、ロイペプチンの存在下で調製される、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のプロテアーゼ活性測定法に関する。より詳細には、本発明は、ポリマー膜上に目的のプロテアーゼ(好ましくは、カリクレインファミリープロテアーゼ)を付着させ、膜上で活性を測定することを特徴とする、新規のプロテアーゼ活性測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素活性を測定するために、特異抗体を用い、免疫沈降産物について試験管内で合成基質を反応させて切断される基質蛍光を測定するか、ELISA法によりそのタンパク質量を測定するかのいずれかの方法が主に用いられていた。しかし、いずれの方法についても50~100マイクロリッターの量のサンプル量が必要となり、しかも感度が低いのが欠点であった。プロテアーゼ活性の測定のためには、プロテアーゼタンパク質または組織ホモゲネートを、プロテアーゼ特異抗体をコートしたチューブまたはウェル内に分注し、結合したプロテアーゼを定量するELISA法、あるいはプロテアーゼ特異的抗体により免疫沈降したプロテアーゼを基質と混合することによりプロテアーゼ反応を開始し、適当な時間に合成基質の切断によって生ずる蛍光(MCA)を測定する方法のいずれかが主に用いられてきた。
【0003】
プロテアーゼは、ペプチド鎖のペプチド結合を加水分解する酵素群の総称であり、種々の生体機能に関与することが知られている。最近の研究により、脳におけるセリンプロテアーゼの重要な役割が明らかになってきた。例えば神経の可塑性におけるプラスミノーゲンアクチベータやエキサイトトキシン(exitotoxin)による神経損傷などである。ニューロプシンは、当初マウスの海馬から単離されたセリンプロテアーゼであるが、生化学的な分析により、ニューロプシンが実際にはトリプシン様の基質特異性を持つタンパク質分解活性を持つことが明らかになった。さらに、ニューロプシンに特異的な抗体は、興奮によって引き起こされるてんかん発作の進行を引き延ばした。ニューロプシンのmRNAの量は化学的に誘導された虚血性障害の後の記憶の保持能力に関係している。このタンパク質はまた、長期増強の誘導をも調節する。このことから、ニューロプシンは神経の可塑性において重要な役割を担っている。さらに、ニューロプシンのmRNAは脳や皮膚、発達途中の妊婦の子宮といった多様な臓器において発現されている(特開平11-318461)。
【0004】
ニューロプシンは、その配列相同性からカリクレインファミリーのメンバーであると考えられている。カリクレインは、キニノーゲンを活性化し生理活性物質キニンへの変換を行うプロテアーゼとして研究されてきたタンパク質である。ニューロプシンは、学習機能に関与すると考えられているが、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。
【0005】
このようなプロテアーゼの生体機能への関与を調査するためには、簡便かつ高感度のプロテアーゼ活性測定法が必要である。ELISA法は、タンパク質量を測定できるにすぎないので、そのタンパク質の発現を確認することができても、そのタンパク質がどのような状態で(活性化状態であるか不活性化状態であるか)その部位に存在するのかまで知ることができない。従って、ELISA法では、そのプロテアーゼが、生体機能にどのように関与しているかを正確に知ることができない。また、特異抗体を用いて組織ホモゲネートから目的のプロテアーゼを精製し、合成基質を用いてその活性を測定する方法は、抗体を使用する必要があるので、特異性は高いものの非常に手間がかかる上に、感度も満足のいくものではない。

【特許文献1】特開平11-318461
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来よりも微量のサンプル量で、かつ高感度に活性を測定することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、プロテアーゼがポリマー膜上に付着すること、およびプロテアーゼをポリマー膜上に付着させた状態で酵素活性を測定することで従来の溶液法よりも微量のサンプル量でかつ従来よりも高感度で活性を測定できることを見出し、本願発明を完成するにいたった。本発明のプロテアーゼ活性測定法は、プロテアーゼが関与する種々の生体機能のメカニズムを解明する上で、非常に有用である。
【0008】
1つの局面において、本発明は、プロテアーゼ活性を測定する方法であって、a)プロテアーゼを含有するサンプルをポリマー膜上に付着する工程、b)該プロテアーゼと該プロテアーゼ特異的合成基質とを該膜上で反応させる工程、およびc)該プロテアーゼと該基質との反応により生じるシグナルを測定する工程、を包含する方法に関する。
【0009】
別の局面において、本発明は、プロテアーゼ活性を測定する方法であって、a)組織切片をポリマー膜と接触させて、該組織から分泌されるプロテアーゼを該膜上に付着する工程、b)該プロテアーゼと該プロテアーゼ特異的合成基質とを該膜上で反応させる工程、およびc)該プロテアーゼと該基質との反応により生じるシグナルを測定する工程、を包含する方法に関する。
【0010】
1つの実施形態において、プロテアーゼは、カリクレインファミリープロテアーゼである。好ましい実施形態において、カリクレインファミリープロテアーゼは、ニューロプシンである。より好ましい実施形態において、ポリマー膜は、疎水性ポリマー膜である。より好ましい実施形態において、疎水性ポリマー膜は、PVDF膜である。より好ましい実施形態において、シグナルは、蛍光シグナルである。さらにより好ましい実施形態において、合成基質は、Val-Pro-Arg-(4-メチルクマリル-7-アミド)(VPR-MCA)である。
【0011】
別の局面において、本発明は、卵巣癌、皮膚癌、子宮頸癌および乾癬症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を診断するためのキットを提供する。このキットは:a)ポリマー膜;およびb)ニューロプシン特異的合成基質であって、ニューロプシンとの酵素反応により検出可能なシグナルを生じるよう標識された基質、を備え、ここで、上昇したレベルのニューロプシン活性の検出は、被験体が上記疾患を有することの指標となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って、膜上にプロテアーゼ自体を付着させることにより、微量の組織液、組織から直接ポリマー膜に転写したタンパク質を測定でき、サンプル量を極めて少なくしたのと同時に、ウェスタンブロット法によって転写したタンパク質の活性測定も可能にした。
【0013】
また、組織切片に存在するプロテアーゼを膜に転写することによって、in situ高感度測定法を実現した。
【0014】
本発明により、特に、ニューロプシン活性の測定について、微量サンプルでの活性測定を可能とした。
【0015】
本発明の方法は既存の画像解析装置と組み合わせることにより簡便な組織プロテアーゼの測定装置を造ることが可能となり、自動化も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(定義)
以下に、本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての用語は、本発明の属する分野の当業者によって、一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先される。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「プロテアーゼ」は、タンパク質のペプチド結合を切断する任意の酵素を意味する。本明細書中では、用語「プロテアーゼ」はまた、「ペプチダーゼ」および「プロテイナーゼ」を含む。
【0018】
本明細書中で使用する場合、用語「カリクレインファミリー」は、任意の種において、カリクレインファミリーのメンバーとして知られているタンパク質を意味する。今日までに、カリクレインファミリーメンバーは、ヒトにおいて15種類、マウスにおいて26種類が知られている。例えば、ヒトカリクレインファミリーメンバーについては、Diamandis,E.P.et al.Clinical Chemistry 46:1855-1858(2000)に記載されている。また、ヒトおよびマウス以外の種ホモログも、この用語に含まれる。
【0019】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリマー膜」は、低分子量の基本単位(モノマー)を縮合または付加反応により結合させることにより合成された任意の膜を意味する。
【0020】
本明細書中で使用する場合、用語「膜に付着する」とは、対象となるプロテアーゼ(例えば、ニューロプシン)が、膜上にとどまっていることを意味し、その作用機構によらない。
【0021】
本明細書中で使用する場合、用語「シグナル」は、当該分野で周知の手段を用いて検出可能な任意のシグナルを包含する。シグナルとしては、例えば、蛍光シグナル、放射性シグナル、発色(可視光)シグナル(例えば、p-ニトロアニリン(NA)(測定条件405nm)などを用いるシグナル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書中で使用する場合、用語「合成基質」は、対象の酵素と反応するよう構成されており、酵素反応により当該分野で周知の手段を用いて検出可能な任意のシグナルを生じるよう標識された、任意の基質を意味する。
【0023】
本明細書中で使用する場合、用語「特異的基質」は、対象の酵素との反応性が、他の酵素との反応と比較して検出可能に高い基質を意味する。
【0024】
本明細書中で使用する場合、用語「組織切片」とは、取り扱いに適した大きさ、形状となるよう調製された組織片(例えば、スライス)を意味する。
【0025】
(発明を実施するための最良の形態)
以下に、本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のより詳細な理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は、以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0026】
1つの局面において、本発明は、ポリマー膜を用いたプロテアーゼ活性測定法を提供する。本発明の方法は、プロテアーゼをポリマー膜上に付着する工程、膜上でプロテアーゼと合成基質とを反応させる工程、およびプロテアーゼと合成基質との反応により生じるシグナルを検出する工程を包含する。
【0027】
本発明において使用するポリマー膜は、当業者に周知の任意の膜である。ポリマー膜は、親水性膜と疎水性膜が存在する。親水性膜としては、ニトロセルロース膜、PCN膜が挙げられるがこれらに限定されない。疎水性膜としては、PVDF膜が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
本発明の方法によって活性を測定されるプロテアーゼとしては、当該分野で周知の任意のプロテアーゼが挙げられる。プロテアーゼは、ペプチドの加水分解を触媒する酵素である。プロテアーゼは、ペプチダーゼ(比較的低分子量のペプチドを基質とする酵素)およびプロテイナーゼ(高分子量のタンパク質を基質とする)としても分類され得る。ペプチダーゼには、ペプチド鎖の末端アミノ酸の加水分解を触媒するエキソペプチダーゼ、およびペプチド鎖の内部点におけるペプチド結合の加水分解を触媒するエンドペプチダーゼが含まれる。エキソペプチダーゼとしては、アミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼが挙げられるがこれらに限定されない。エンドペプチダーゼとしては、ペプシンおよびトリプシンが挙げられるがこれらに限定されない。プロテイナーゼとしては、触媒残基の種類によって、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)、アスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ,カルボキシプロテアーゼ)、メタロプロテアーゼ(金属プロテアーゼ)などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明の方法において使用するプロテアーゼは、セリンプロテアーゼの一種であるカリクレインファミリープロテアーゼである。より好ましくは、本発明において使用するプロテアーゼは、ニューロプシンである。しかし、本発明は、特定のプロテアーゼ種に依存しない。また、当業者は、本発明の方法が、プロテアーゼ以外の酵素にも適用され得ることを理解するはずである。
【0029】
本発明において、プロテアーゼを含むサンプルを調製するために、当該分野で周知の任意の緩衝液が使用され得る。使用され得る緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、Tris系緩衝液、HEPES系緩衝液などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本発明において、ポリマー膜へのプロテアーゼの付着は、いかなる手段によってもよい。例えば、ポリマー膜へのプロテアーゼの付着は、プロテアーゼを含有するサンプル溶液中に、ポリマー膜を浸すことにより実施されるが、これらに限定されない。また、細胞外(組織外)に分泌されるプロテアーゼの場合、その細胞(組織)を直接ポリマー膜に接触させることによって、測定対象のプロテアーゼを膜上に付着することができる。好ましくは、プロテアーゼを膜に付着した後に、緩衝液などで膜を洗い流すことによって、付着力の弱い物質を除去し、プロテアーゼ活性の測定の精度を上げることができる。洗浄条件は、当業者によって適宜変更され得る。
【0031】
本発明において使用する酵素基質は、酵素反応により検出可能な任意のシグナルを生じる任意の基質である。好ましくは、基質は、膜に付着したプロテアーゼに特異的な基質である。本明細書において例示するニューロプシンの場合、合成基質Val-Pro-Arg-(4-メチルクマリル-7-アミド)(VPR-MCA)が好ましい。プロテアーゼ以外の酵素についても、それらに対する特異的基質を作製することで、本発明の方法を使用して活性を測定することができる。
【0032】
本発明において使用する基質は、当該分野で周知の技術で検出可能なシグナルを生じる任意の手段によって標識される。検出可能なシグナルとしては、蛍光シグナル、放射性シグナル、発光シグナル、発色(可視光)シグナルが挙げられるが、これらに限定されない。基質は、酵素との反応によって、シグナルを生じるよう標識される。例えば、本明細書において使用される合成基質VPR-MCAの場合、以下の式のように、ニューロプシンとの反応によって、合成基質が切断されて、AMCが生じる。生じた蛍光は、当該分野で周知の任意の画像解析法を用いて検出され得る(例えば、VPR-MCAの場合、励起波長370nm、測定(蛍光)波長460nm)。1つの実施形態において、膜上の発光もしくは発色は、高感度カメラ(CCDカメラおよびクールドCCDカメラ、)またはX線フィルムあるいはイメージングプレートによって画像取得され、デジタル画像上にて、その発光、発色強度を測定するための装置およびコンピュータソフトウェアを用いて検出され得る。ソフトウェアとして他にNIHイメージなどがある。
【0033】
【化1】
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プロテアーゼ活性は、生じたシグナルを検出することにより測定される。例えば、予め、既知の活性を有するプロテアーゼを用いて検量線を作成しておくことにより、生じたシグナルの強度から活性を定量することができる。
【0034】
本発明の活性測定法は、従来法と比較して、驚くべきほど微量のサンプル量で、酵素活性を高感度に測定することができる。本発明の方法は、微量のサンプル量しか必要としないので、従来では精製の困難性から活性測定が困難であったプロテアーゼの活性の測定が可能とする。
【0035】
本発明の方法によれば、ウェスタンブロットに用いた膜をそのまま用いて活性を測定することができる。例えば、ウェスタンブロットにより目的の酵素の存在を、活性を阻害しない抗体等により確認してから、次に、その酵素が活性化状態であるか否かを、本発明の方法によって、同じ膜を用いて測定することができる。これにより、目的のバンドを示すタンパク質の酵素活性を測定するのに再度サンプルを調製する手間が省ける。このことは、タンパク質の発現、機能解析を容易にすると考えられる。
【0036】
(ニューロプシンの活性測定)
好ましくは、本発明の方法において使用するプロテアーゼは、ニューロプシンである。上述のように、ニューロプシンは、セリンプロテアーゼの一種であり、脳、腎臓、胸腺、皮膚、および子宮などで発現されることが見出されている(Chen,Z-L.et al.,J.Neurosci.,15,5088(1995))。また、ニューロプシンは、その配列相同性からカリクレインファミリーのメンバーであると考えられている。カリクレインは、活性中心にセリン残基を有する点、およびN末端に疎水性のシグナル様配列を有する点で共通している。従って、ニューロプシンを含め、カリクレインファミリープロテアーゼは、分泌タンパク質であり、細胞内機能よりも細胞外機能と深く関わっていると考えられている(Shiosaka,S.et al.,Neurosci.Res.,237,85(2000))。また、カリクレインファミリープロテアーゼは、癌組織において高発現され、血液中または組織液中に分泌されるので、有用な癌マーカーとして注目されている(Diamandis EP,Yousef GM,Luo LY,Magklara A,Obiezu CV,The new human kallikrein gene family:implications in carcinogenesis,Trends Endocrinol Metab.2000;11(2):54-60)。ニューロプシンは、卵巣癌、皮膚癌、および乾癬症、アルツハイマー病、子宮頸癌などにおいて高発現されるのでこれらの疾患の診断マーカーとして注目されている(Cane,S.,Bignotti,E.,Bellone,S.,Palmieri,M.,De las Casas,L.,Roman,J.J.,Pecorelli,S.,Cannon,M.J.,O’Brien,T.and Santin,A.D.,2004,The novel serine protease tumor-associated differentially expressed gene-14(KLK8/Neuropsin/Ovasin) is highly overexpressed in cervical cancer,Am J Obstet Gynecol.190,60-66)。よって、上記疾患を有すると疑われる被験体から組織を得、組織中で発現されたニューロプシンを膜面に付着し、そのプロテアーゼ活性を測定することで、癌の診断を行うことも可能である。プロテアーゼ活性が、通常レベルよりも有意に高い場合、被験体は、上記疾患を有する可能性があると診断される。
【0037】
従って、別の局面において、本発明は、卵巣癌、皮膚癌、および乾癬症からなる群より選択される少なくとも1つの疾患の診断キットを提供する。この診断キットは、ポリマー膜(好ましくは、PVDF膜)、および検出可能に標識されたニューロプシン特異的合成基質(好ましくは、VPR-MCA)を備える。本発明のキットは、必要に応じて、このキットを使用するための指示書を備える。本発明の診断キットを用いて、組織におけるニューロプシンの活性レベルを測定することにより、被験体が上記疾患を有するか否かを診断する。通常よりも上昇したレベルのニューロプシン活性は、被験体がこれらの疾患を有することの指標となる。
【0038】
ニューロプシンはまた、上述のように、脳において、神経可塑性に関与するタンパク質であることが見出されている(Shimizu,T.et al.,J.Biol.Chem.273:11189-11196(1998))。このタンパク質は、学習機能に関与すると考えられているが、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。
【0039】
従って、本発明の活性測定法は、脳におけるニューロプシンの機能を解明する上で非常に有用である。本発明の方法を用いてニューロプシン活性の変化を測定することによって、ニューロプシンの活性と生体機能との関係を解明する研究が、大きく前進するものと考えられる。
【0040】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供されることが理解されるべきである。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0041】
(実施例1:組織からのニューロプシンの遊離)
マウスより得た海馬スライスを、培養液(ACSF:127mM NaCl、1.6mM KCl、1.24mM KHPO、1.3mM MgSO、2.4mM CaCl、26mM NaHCO、10mM グルコース)中に浮遊させ、一定時間後に海馬スライス中および培養液中のニューロプシンタンパク質含有量を測定した。タンパク質含有量は、免疫沈降法によって定量した。その結果を図1に示す。図1に示されるよう、ニューロプシンは、培養開始後わずか30分で培養液中に遊離した。
【0042】
次に、ニューロプシンの組織外への分泌が、組織の破壊によるものではないことを実証するため、非分泌型酵素であるラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)の組織外への遊離量を、培養液中のLDH活性として定量した。LDH活性は、LDHキット(微量毒性試験用試薬MTX ‘LDH’(極東製薬工業株式会社))を用いて、反応開始0分および60分に測定した。その結果を図2に示す。図2に示されるよう、培養液中のLDH活性は、60分後も、開始時(0分)の活性とほとんど変化しなかった。このことは、少なくとも60分間、組織が破壊されなかったことを示す。これは、ニューロプシンの組織外への遊離が、組織の破壊に起因しないことを実証している。
【0043】
このように、ニューロプシンは、組織外に分泌される性質を有するので、組織切片と膜を接触させることにより、分泌されたニューロプシンを膜上に付着させることができる。また、組織片を調製する間に活性化されたニューロプシンは、速やかにプロテアーゼインヒビターと結合し、その活性を失う(示さず)。従って、このような不活性化を防止するために、リバーシブルインヒビターであるロイペプチンを用いることも有効である。ロイペプチンの存在下で組織を調製し、ニューロプシンを膜上に付着させた後に、ニューロプシンからロイペプチン除去することで、ニューロプシンの活性を維持し、より正確な測定を行うことができる。
【0044】
(実施例2:膜へのニューロプシンの付着)
実施例1のように組織外へ遊離したニューロプシンの膜への付着性について、ニトロセルロース膜およびPVDF膜を用いて検討した。当講座にて調製した、FITC標識したリコンビナントニューロプシンを含有する溶液と、各々の膜を接触させ、付着したニューロプシンの量を、画像解析法を用いて蛍光シグナルを検出することで測定した。次に、両方の膜を、TBS(pH 7.5)で10分、計6回洗浄した後に、同様の手順で蛍光を検出した。その結果を図3に示す。図3に示されるよう、ニューロプシンは、ニトロセルロース膜(図3パネルA)およびPVDF膜(図3パネルC)の両方に付着した。洗浄すると、ニトロセルロース膜に付着したニューロプシンは、大部分が洗い流されたが(図3パネルB)、PVDF膜に付着したニューロプシンは大部分が膜上に残存した(図3パネルD)。これらの結果から、ニューロプシンは、ニトロセルロース膜のような親水性膜よりも、PVDF膜のような疎水性膜により強く付着することが理解できる。本実施例で使用したPVDF膜以外の疎水性膜についても、同様の結果が得られると考えられる。
【0045】
次に、0、100、500、および1000pgのFITC標識リコンビナントニューロプシンを、PVDF膜上に付着し、同様の方法でそれらの蛍光強度を測定した(図4)。図4は、得られた結果から作成した検量線である。図4下パネルに示されるように、蛍光強度は、ニューロプシン量が1000pgまで直線性を示す。この結果は、ニューロプシンがPVDF膜に対して極めて高い付着性を有していることを実証している。
【0046】
(実施例3:膜上での酵素反応)
膜上に付着したニューロプシンが活性を有するか否かを検討するため、リコンビナントニューロプシン1ngをPVDF膜に付着し、膜上でニューロプシン特異的合成基質Val-Pro-Arg-MCA(VPR-MCA)(ペプチド研究所、大阪)と反応させた。合成基質が切断されて生じたAMCの蛍光強度を、F-4500 Fluorescence Spectrophotometer(日立製作所)で測定した(励起波長340nm、測定波長460nm)。これをリコンビナントニューロプシン蛋白質量に換算した。図5は、反応時間(x軸)に対する蛍光強度(y軸)の変化を示す。ニトロセルロース膜とPVDF膜の両方の膜上で、時間と共に、酵素反応により生じた蛍光強度(MCA)が増加した。このことは、両方の膜上で酵素反応が進行した(すなわち、ニューロプシンが両方の膜上に活性を保持したまま付着された)ことを示す。PVDF膜上で生じた蛍光は、18時間後には、ニトロセルロース膜と比較して約2.5倍の強度を示した。従って、酵素活性の面でも、PVDF膜のような疎水性膜が好ましいことがわかる。
【0047】
次に、リコンビナントニューロプシンを膜上に付着し、合成基質VPR-MCAと反応させて酵素反応により生じた蛍光(MCA)を測定した(図6上パネル)後、同じ膜を、抗ニューロプシン抗体B5(医学研究所、名古屋)と反応させ、これをローダミンで染色した(図6下パネル)。簡単にいうと、PVDF膜にニューロプシンをブロットした後、5%BSAでブロッキング(室温、1時間)し、ニューロプシンモノクローナル抗体B5で4℃にて一晩反応し、次に膜をTTBSで洗浄後、ローダミン結合ヤギ抗ラットIgG(Cappel:1:100)で1時間(室温)反応した。膜を洗浄後、蛍光顕微鏡にて染色状態を観察した。図6の両パネルを比較すると、酵素反応により生じた蛍光(MCA)が検出された領域と、抗体により検出されたニューロプシンの局在領域が一致した。このことは、合成基質の切断が、ニューロプシンとの反応により生じたことを実証している。
【0048】
(実施例4:最適なニューロプシン量の決定)
PVDF膜上に付着するニューロプシンの量を0、5、10、25、50、および100pgと変化させて合成基質VPR-MCAと反応させ、酵素反応により生じる蛍光(MCA)を測定した。結果を、図7に示す。図7に示されるように、ニューロプシン量の増加に伴い、より鮮明に蛍光が見られるようになった。蛍光強度は、ニューロプシン量が0~50pgの間で直線性を示した。この結果は、この測定系が、特に、0~50pgのニューロプシン量で、酵素反応を高感度で検出することを示している。
【0049】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
カリクレインファミリープロテアーゼは癌組織で高発現し、血中や組織液中に放出されがんの診断マーカーとなることが知られており、高感度で微量定量できる本発明の方法はがん診断の診断薬、治療法開発のための試薬として使用できる。中でも、ニューロプシンは卵巣がんの特異マーカーとして卵巣癌診断に、その他では、皮膚がん、子宮頸癌、乾癬症の診断マーカーとして応用できる。ニューロプシンはアルツハイマー病患者脳でその遺伝子発現が増加することが確かめられており、その診断薬、治療法開発のための試薬として使うことができる。また、前立腺癌特異抗原の代替測定法として応用できる。またこの方法を応用すれば、図8に示すように、メンブレンにニューロプシンによって描かれた字などを美しく基質によって発色ことができ、診断薬以外の応用も期待される。たとえばマイクロカプセルにいれた基質とニューロプシンをともに印刷することにより、一定時間経由後に可視化される時限的情報(食品保存期間を過ぎると可視化する)やその不可逆性を利用した温度管理システム(一定温度を超えると可視化する)として使用できる。これらはたとえば温度感受性、時間分解性の膜によって隔てたニューロプシンと基質が反応を開始することで達成される。ニューロプシンは常温でも極めて安定であり、オートカタリシスを起こさない蛋白質である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、海馬スライス内および培養液中に分泌されたニューロプシン量の経時的変化を表す。
【図2】図2は、海馬スライス中のラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)活性の変化を表す。
【図3】図3は、ニトロセルロース膜(パネルA)およびPVDF膜(パネルC)へのニューロプシンの付着を表す。また、各々の膜を洗浄し、膜上に残存するニューロプシン量を調べたのがパネルB(ニトロセルロース膜)およびパネルD(PVDF膜)である。
【図4】図4は、膜に付着させたニューロプシンの量と、付着したニューロプシンにより膜面で検出されたシグナルの強度との関係を示す。
【図5】図5は、ニトロセルロース膜およびPVDF膜面における、ニューロプシンと合成基質VPR-MCAとの反応を示す。
【図6】図6は、PVDF膜におけるニューロプシンの付着領域と、合成基質から生じるシグナルの検出された領域との比較を示す。
【図7】図7は、膜に付着させたニューロプシンの量と、合成基質との反応により合成基質から生じたシグナルの強度との関係を示す。
【図8】図8は、メンブレン上にニューロプシンで字を書き、基質によって発色させた様子を示す写真である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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