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明細書 :磁気メモリ装置及びその書き込み方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4825975号 (P4825975)
公開番号 特開2007-242092 (P2007-242092A)
登録日 平成23年9月22日(2011.9.22)
発行日 平成23年11月30日(2011.11.30)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 磁気メモリ装置及びその書き込み方法
国際特許分類 G11C  11/15        (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
FI G11C 11/15 140
H01L 27/10 447
H01L 43/08 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2006-059953 (P2006-059953)
出願日 平成18年3月6日(2006.3.6)
審査請求日 平成21年1月9日(2009.1.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】能崎 幸雄
【氏名】松山 公秀
個別代理人の代理人 【識別番号】100091443、【弁理士】、【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
審査官 【審査官】高瀬 勤
参考文献・文献 特表2004-526270(JP,A)
国際公開第2005/038812(WO,A1)
調査した分野 G11C 11/15
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 43/08
特許請求の範囲 【請求項1】
所定の間隔をあけて配置されて、それぞれ選択的に直流電流が流される複数本の第1の書き込み導体線と、
所定の間隔をあけて配置され且つ前記複数本の第1の書き込み導体線と交差するように配置されて、それぞれ選択的に高周波電流が流される複数本の第2の書き込み導体線と、
選択された1以上の前記第1の書き込み導体線に前記直流電流を流し、選択された1以上の前記第2の書き込み導体線に前記高周波電流を流して、前記第1及び第2の書き込み導体線の交差点に前記直流電流及び前記高周波電流に基いて合成磁場を発生する合成磁場発生用電流通電回路と、
前記複数の第1の書き込み導体線と前記複数の第2の書き込み導体線とが交差して作られる複数の交差点に1つずつ対応して配置された、情報を保持するための磁性層を備えた複数の磁気記憶セルとを備え、
1つの前記磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響によって、前記1つの磁気記憶セルが最も大きな順方向磁化作用を受ける状態において、前記直流電流が流れているときにおける前記1つの磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数を最大強磁性共鳴周波数とした場合に、前記高周波電流の周波数は、前記直流電流が流れているときに、前記複数の磁気記憶セルごとにそれぞれ定まる複数の前記最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い前記最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定されており、
前記高周波電流の前記周波数とその電流値は、前記直流電流が流れておらず且つ前記高周波電流が流れている1以上の前記交差点に対応して配置された1以上の前記磁気記憶セルの前記情報を保持させる磁性層のみを磁化反転させることがない相関関係を有していることを特徴とする磁気メモリ装置。
【請求項2】
前記第1の書き込み導体線が、前記情報を保持するための磁性層の磁化容易軸と平行な前記第2の書き込み導体線に対して、45°傾けた状態で配置されており、
前記高周波電流の周波数が、前記直流電流が流れておらず且つ前記高周波電流が流れている1以上の前記交差点に対応して配置された1以上の前記磁気記憶セルの前記情報を保持させる磁性層のみを磁化反転させることができる磁化反転臨界周波数よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の磁気メモリ装置。
【請求項3】
前記複数の磁気記憶セルのそれぞれのギルバートのダンピング定数が、0.03以下であり、
前記高周波電流の周波数が、前記最大強磁性共鳴周波数から高周波側に0.69%以上増加させた値であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気メモリ装置。
【請求項4】
所定の間隔をあけて配置されて、それぞれ選択的に直流電流が流される複数本の第1の書き込み導体線と、
所定の間隔をあけて配置され且つ前記複数本の第1の書き込み導体線と交差するように配置されて、それぞれ選択的に高周波電流が流される複数本の第2の書き込み導体線と、
選択された1以上の前記第1の書き込み導体線に前記直流電流を流し、選択された1以上の前記第2の書き込み導体線に前記高周波電流を流して、前記第1及び第2の書き込み導体線の交差点に前記直流電流及び前記高周波電流に基いて合成磁場を発生する合成磁場発生用電流通電回路と、
前記複数の第1の書き込み導体線と前記複数の第2の書き込み導体線とが交差して作られる複数の交差点に1つずつ対応して配置された、情報を保持するための磁性層を備えた複数の磁気記憶セルとを備えた磁気メモリ装置の書き込み方法であって、
1つの前記磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響によって、前記1つの磁気記憶セルが最も大きな順方向磁化作用を受ける状態において、前記直流電流が流れているときにおける前記1つの磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数を最大強磁性共鳴周波数とした場合に、
前記高周波電流の周波数を、前記直流電流が流れているときに、前記複数の磁気記憶セルごとにそれぞれ定まる複数の前記最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い前記最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定し、
前記高周波電流の電流値を、前記直流電流が流れておらず且つ前記高周波電流が流れている1以上の前記交差点に対応して配置された1以上の前記磁気記憶セルの前記情報を保持させる磁性層のみを磁化反転させることがない値に設定することを特徴とする磁気メモリ装置の書き込み方法。
【請求項5】
前記第1の書き込み導体線を、前記情報を保持するための磁性層の磁化容易軸と平行な前記第2の書き込み導体線に対して45°傾けた状態で配置し、
前記高周波電流の周波数を、前記直流電流が流れておらず且つ前記高周波電流が流れている1以上の前記交差点に対応して配置された1以上の前記磁気記憶セルの前記情報を保持させる磁性層のみを磁化反転させることができる磁化反転臨界周波数よりも高くすることを特徴とする請求項4に記載の磁気メモリ装置の書き込み方法。
【請求項6】
前記複数の磁気記憶セルのそれぞれのギルバートのダンピング定数が、0.03以下であり、
前記高周波電流の周波数を、前記最大強磁性共鳴周波数から高周波側に0.69%以上増加させた値に設定することを特徴とする請求項4または5に記載の磁気メモリ装置の書き込み方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記憶セルを用いた磁気メモリ装置及び強磁性共鳴現象を用いた磁気メモリ装置の書き込み方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特表2004-526270号公報(国際公開番号WO02/54407:USP6,351,409)には、強磁性共鳴効果を用いることによりエネルギー効率を高くしたMRAM書き込み装置が開示されている。この書き込み装置では、強磁性共鳴のQ値(直流磁界による磁化振幅に対する与えられた周波数での振幅の比)が1以上の磁気材料からなる自由層を含むMRAMセル(磁気記憶セル)を用いる。そして困難軸書き込み導体線に、対応共振周波数(associated resonant frequency)を含む書き込み信号(高周波電流)を流し、同時に容易軸書き込み導体線に直流電流を流すことにより、1つの磁気記憶セルのスイッチング(磁化状態の変更)を行う。この公報には、「対応共振周波数」とこの「対応共振周波数を含む書き込み信号」については、明確に説明されていない。しかし対応共振周波数とは、強磁性共鳴周波数を意味するものであると考えられる。また、対応共振周波数を含む書き込み信号とは、公報に記載の説明から推測すると、磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数または磁気記憶セルの磁化状態が単磁区構造ではなく且つ不均一な磁化構造が形成されている場合の高次の共鳴周波数を有する高周波電流を意味するものと考えられる。この従来の書き込み装置では、直流パルス電流だけで発生した磁界を用いる従来の書き込み装置よりも、低電力でMRAMセルの磁化方向のスイッチングを行うことができる。
【0003】
具体的には、この磁気メモリ装置では、絶縁層で分離した2系統の書き込み導体線の交差部に、一軸磁気異方性を有する磁気記憶セルが配置されている。そして2系統の書き込み導体線の1本(困難軸書き込み導体線)に高周波電流(交流電流)を流し、交差部直下に配置された磁気記憶セルに交流磁界Hacを印加する。高周波電流の周波数を磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数または磁気記憶セルが不均一な磁化状態にあるときの共鳴周波数に相当する高次の強磁性共鳴周波数に設定することにより、磁気記憶セルの磁化が困難軸方向に振動する。このとき、2系統の書き込み導体線の他方の書き込み導体線に直流電流のパルス電流を流し、磁化方向と反転方向にパルス磁界Hswtを発生させる。交流磁界とパルス磁界の共同作用によりセルの磁化方向をスイッチングさせる。一般に、困難軸方向への磁化方向の回転角が大きければ大きいほど、より小さな磁界で磁化方向のスイッチングを行うことができる(臨界スイッチング特性)。

【特許文献1】特表2004-526270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特表2004-526270号公報に記載の技術では、1つの磁気記憶セルをスイッチングすることしか検討されていない。また強磁性共鳴周波数も一定のものとして検討がなされている。しかしながら実際に製造される磁気メモリ装置では、磁気記憶セルは多数存在する。また1つの磁気記憶セルについてみると、その磁気記憶セルの周囲にある他の複数の磁気記憶セルからの漏洩磁界の影響を受けて、強磁性共鳴周波数も変動することが発明者の研究により判った。そのため特表2004-526270号公報に記載の技術だけでは、複数の磁気記憶セルを有する磁気メモリ装置において、確実な書き込みを達成することは難しい。
【0005】
またこの公報に記載の書き込み方法では、実施例レベルで見る限り、非常に電流を大きくしなければ、1ナノ秒以下での磁化反転を起こすことができない。この公報の図7のシミュレーション結果を見ると、磁化反転までに2ナノ秒を要している。
【0006】
本発明の目的は、複数の磁気記憶セルについて、それぞれ確実に書き込みを行うことができる磁気メモリ装置及びその書き込み方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、使用する高周波電流の周波数及び電流値に多少のバラツキがあっても、確実に書き込みを行うことができる磁気メモリ装置及びその書き込み方法を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、上記目的に加えて書き込み速度を速くすることができる磁気メモリ装置及びその書き込み方法を提供することにある。
【0009】
本発明の更に別の目的は、上記目的に加えて1ナノ秒以下の書き込み速度を実現することができる磁気メモリ装置及びその書き込み方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気メモリ装置は、所定の間隔をあけて配置されて、それぞれ選択的に直流電流が流される複数本の第1の書き込み導体線と、所定の間隔をあけて配置され且つ複数本の第1の書き込み導体線と交差するように配置されて、それぞれ選択的に高周波電流が流される複数本の第2の書き込み導体線と、合成磁場発生用電流通電回路と、複数の磁気記憶セルとを有する。合成磁場発生用電流通電回路は、選択された1以上の第1の書き込み導体線に直流電流を流し、選択された1以上の第2の書き込み導体線に高周波電流を流して、第1及び第2の書き込み導体線の交差点に直流電流及び高周波電流に基いて合成磁場を発生する。複数の磁気記憶セルは、情報を保持させる磁性層(磁性薄膜パターン)の磁化方向をスイッチング(磁化反転)することができる構造を有するものである。MRAMでは、例えば、(a) フリー層とピン層とを非磁性層を介して積層したスピンバルブ膜を有するセル、また(b)低保磁力層と高保磁力層とを非磁性層を介して積層した擬スピンバルブ膜を有するセル、のように多層構造の磁気記憶セルを用いることができる。そして読み出しの際には、情報を保持させる磁性層と隣接する他の磁性層の磁化方向が平行状態にあるときの電気抵抗と反平行状態にあるときの電気抵抗の差(変化)を読み出しに利用する。書き込み動作では、上記(a)の構造の場合ではフリー層を、そして上記(b)の場合には低保磁力層または高保磁力層のどちらかの磁化を反転(スイッチング)させる。すなわちMRAMの書き込みでは、情報を保持させる任意の磁性層のみを磁化反転(スイッチング)する。
【0011】
複数の磁気記憶セルは、複数の第1の書き込み導体線と複数の第2の書き込み導体線とが交差して作られる複数の交差点に1つずつ対応して配置される。
【0012】
本発明では、1つの磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響によって、この1つの磁気記憶セルが最も大きな順方向磁化作用を受ける状態において、直流電流が流れているときにおけるこの1つの磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数を最大強磁性共鳴周波数と定義する。そして高周波電流の周波数を、直流電流が流れているときに、複数の磁気記憶セルごとにそれぞれ定まる複数の最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定する。そして高周波電流の周波数とその電流値は、直流電流が流れておらず且つ高周波電流が流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セルの情報を保持させる磁性層のみを磁化反転させることがない相関関係を有している。
【0013】
このように本発明では、使用する全ての磁気記憶セルについての変動する強磁性共鳴周波数を考慮する。そして、複数の磁気記憶セルに関して、最も大きくなる強磁性共鳴周波数(最大強磁性共鳴周波数)よりも、高周波電流の周波数を高く設定する。その結果、複数の磁気記憶セルのすべてを書き込むことができる。
【0014】
しかしながら発明者の研究によると、高周波電流の周波数を上述のように設定した場合でも、書き込みを制御できない状況(制御不可能に書き込みが行われる状況)が、生まれる場合があることが判った。そこで、本発明では、第1の書き込み導体線に直流電流が流れておらず且つ第2の書き込み導体線に高周波電流が流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セルの磁化状態を反転させることがないように、第2の書き込み導体線に流される高周波電流の周波数とその電流値に相関関係を持たせている。この相関関係は、予め試験を行って確認するか、シミュレーションによって確認することができる。高周波電流の周波数とその電流値が、この相関関係を有していれば、書き込みの制御は可能になる。
【0015】
第1の書き込み導体線を、情報を保持する磁性層を備えた磁気記憶セルの磁化容易軸に平行な第2の書き込み導体線に対して45°傾けた状態で配置する場合に、高周波電流の周波数とその電流値が、上記相関関係を有している場合においては、第1の書き込み導体線に直流電流が流れておらず且つ第2の書き込み導体線に高周波電流が流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セルの磁化状態を反転させることができる磁化反転臨界周波数よりも高く高周波電流の周波数をするのが好ましい。発明者の研究によると、上記相関関係においては、高周波電流の周波数が磁化反転臨界周波数よりも低い値に設定された場合でも、書き込みを制御できる相関領域があることが判っている。しかしながらこの相関領域の使用可能な周波数の幅(マージン)及び電流値の幅(マージン)は狭い。製造のバラツキが大きくなると、書き込み制御ができない磁気メモリ装置も出てくる。これに対して、高周波電流の周波数を前述の磁化反転臨界周波数よりも高い周波数にした場合に使用可能な相関領域の周波数の幅(マージン)及び電流値の幅(マージン)は、広くなることが発明者の研究によって判っている。したがって製品のバラツキが大きい場合でも、確実に制御性を確保するためには、高周波電流の周波数を前述の磁化反転臨界周波数よりも高い周波数(上部の周波数領域)にするのが好ましい。
【0016】
なお第1の書き込み導体線と第2の書き込み導体線とが直交して配置されている場合には、上記に説明した上部の高周波領域にはスイッチング領域がない。上部の高周波領域を用いることは、動作マージンの確保および安定書き込み動作の観点からはメリットがある。しかしながら、低周波領域を用いる場合よりも大きなスイッチング電流が必要になる。そのため実デバイス化に向けて、低電流化と動作マージン確保のどちらの要求が厳しいかによって、どちらの周波数領域を用いるべきかを決めればよい。なお発明者の研究によると、現時点においては、低周波領域側に動作点を設定した場合には、どちらかというと直交導体線を用いた方が、電流強度を低減することができ、動作マージンを確保できるという結果が得られている。したがって、高周波電流の動作周波数は、マージン確保の観点からは高周波領域を用いることが好ましく、書き込み電流低減の観点からは低周波領域を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明で使用する複数の磁気記憶セルの特性は、特に限定されるものではない。しかしながら複数の磁気記憶セルとして、ギルバートのダンピング定数が、0.03以下になるものを用いることが好ましい。そして高周波電流の周波数を、最大強磁性共鳴周波数から高周波側に0.69%以上増加させた値に設定することが好ましい。このようにすると、書き込み速度を速くすることができる。具体的には、書き込みに必要な時間を1ナノ秒以下にすることも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の磁気記憶セルについて、それぞれ確実に書き込みを行うことができる。また磁気記憶セルのダンピング定数と高周波電流の周波数を適宜に選択することにより、書き込みに必要な時間を1ナノ秒以下にすることも可能になる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。強磁性共鳴現象を用いた磁気記憶セル装置の書き込みにおいて、書き込み電流の動作マージンの確保と、電流強度の低減、および高速書き込み特性をすべて満足させるための条件を探索するため、以下のような計算機シミュレーションを行った。シミュレーションを簡単化するために、磁気記憶セル1の磁化は単磁区であると仮定した。図1(A)に示すように、磁気記憶セル1の形状は0.1mm×0.1mmの正方形とし、膜厚を3 nmとした。磁性層の磁気特性は、飽和磁化が4πMs=10kGであり、 一軸磁気異方性定数KuはKu=5×105erg/cm3が標準値となるものと定めた。磁気記憶セルの磁化容易軸方向および困難軸方向の磁界を発生させるための電流を流す2本の導体線6及び7を磁気記憶セル1の上下に配置した。導体線6及び7の断面形状および導体線と磁気記憶セルとの間の距離は、図1(A)に示すとおりである。容易軸磁界を発生する直流電流をIw、困難軸磁界を発生する高周波電流のピーク値をIaとする。ここで仮定した設計における磁界発生効率は、直流電流Iwおよび高周波電流Iaに対して、それぞれ6.4 Oe/mAおよび12 Oe/mAである。このような系に対し、図1(B)に示すような台形状の直流パルス電流Iwおよび周波数fの高周波電流Iaをそれぞれ流した場合の磁気記憶セルの磁化スイッチング特性をLandau-Lifshitz-Gibert (LLG)方程式を解くことにより求めた。
【0020】
図2は、Iw=10 mA, Ia=7 mA(ピーク値), f=9.09 GHz, パルス幅tw=10 ナノ秒の電流を通電した際の磁化容易軸を基準とした磁化回転角qの時間遷移である。磁化が、困難軸方向の交流磁界により周期的に振動している様子がわかる。図2を見ると、電流を通電してから5 ナノ秒(ns)経過するまでの間は、うなりのような波形を示している。この条件では5 ナノ秒以上経過すると、定常的な振動(振幅が一定)に移行する。うなりの第1ピークでの磁化回転角の振幅をqmax、定常状態に達した後の磁化回転角の振幅をqFMRとし、電流を通電してから、うなりの第1ピークが出現するまでにかかる時間をtbeatとする。ここで注目すべき点は、qmax > qFMRとなっている点にある。したがって、このようなうなり現象が生じれば、うなりの第1ピークにより、磁気記憶セル1を磁化反転させることができる。
【0021】
そこで、磁気記憶セルのギルバートのダンピング定数α(磁化の運動の摩擦項に相当)を変化させた際における、第1ピークの出現時間tbeatおよび定常状態での磁化振幅に対するうなりによる磁化振幅の増加率qmax / qFMRを求めた。これらを図3及び図4にそれぞれ示す。これらの図の結果から、ダンピング定数αが0.03よりも大きいと、図2に示すような、うなり波形が発生しないことがわかった。さらに、ダンピング定数αが0.03よりも小さくなるにつれて、1ナノ秒以下でうなりの第1ピークが出現し、その振幅も増大することがわかった。したがって、磁気記憶セルのダンピング定数αを0.03以下に設定することにより、より小さな電流でかつ1ナノ秒以下の時間で磁化反転(スイッチング)可能なことが確かめられた。
【0022】
図5は、高周波電流Iaの周波数fを変化させた際の第1ピークの出現時間tbeatの変化の様子を計算により求めた結果を示すものである。図5においてf1は、直流電流Iw及び高周波電流Iaを通電したことにより発生する直流磁界と交流磁界とによって決まる磁気記憶セルの共鳴周波数である。図5の例では、f1=8.5251GHzである。frgは1ナノ秒以内にうなりの第1ピークが出現する周波数領域であり、f2は1ナノ秒以内にうなりの第1ピークが出現する最低周波数である。この例ではf2=8.5837GHzである。
【0023】
また図6に,うなりの第1ピークにおける磁化回転角振幅qmaxの交流電流周波数f依存性を示す。図6に示したのグラフでqmaxの値が最大となる周波数が強磁性共鳴周波数である。図6は、交流磁界強度の異なる場合の結果を示している。図6において、aは高周波電流Iaの通電により発生する高周波磁界強度が96Oeのときの共鳴周波数(8.37GHz)を示している。またbは、高周波電流Iaの通電により発生する高周波磁界強度が72Oeのときの共鳴周波数(8.71GHz)を示している。さらにcは、高周波電流Iaの通電により発生する高周波磁界強度が48Oeのときの共鳴周波数(9.16GHz)を示している。そしてdは、高周波電流Iaの通電により発生する高周波磁界強度が24Oeのときの共鳴周波数(9.77GHz)を示している。これを見てもわかるように強磁性共鳴周波数frが交流磁界強度の増加に伴い低周波側にシフトしている。一般に強磁性共鳴周波数frは
【数1】
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【0024】
で与えられる。ここでHeasyは、容易軸方向に印加したバイアス磁界を示しており、直流電流Iwによって形成された磁界に相当する。また、Hkは磁気異方性定数Kuによる一軸磁気異方性の強さを示すパラメータであり、磁化を磁化容易軸方向に戻そうとする復元力に相当する。交流磁界強度の増加は、図6を見てもわかるように困難軸方向への磁化回転角を増加させる。磁化回転角の増加は前記復元力を減少させる方向に働くため、強磁性共鳴周波数が減少したのである。図5を計算した条件における強磁性共鳴周波数は、8.5251 GHzであり、ちょうどその周波数で第1ピークの出現時間tbeatが最も大きくなる。図5のfrgおよびf2で示すように、1ナノ秒以下で第1ピークを出現させるためには、換言すると1ナノ秒以下で磁化をスイッチングさせるためには、交流磁界の周波数fを共鳴周波数よりも0.69%高い8.5837 GHz以上に設定しなければならないことがわかった。以上より、1ナノ秒以下の時間で磁化スイッチングを完了させるためには、磁気記憶セル1のダンピング定数αを0.03以下にするとともに、通電する高周波電流Iaの周波数を、直流電流Iwおよび高周波電流Iaの大きさによって決まる磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数frよりも0.69%以上高く設定することが重要であることが判った。前述の特表2004-526270号公報に記載の従来技術では、磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数、または不均一磁化状態(スピン波)励起に起因する高次の強磁性共鳴周波数を含む高周波電流を通電している。上記のシミュレーション結果と照らし合わせると、従来の技術には、磁化スイッチングの高速性に問題がある。実際に、特表2004-526270号公報の図7を参照すると、高周波電流を通電し始めてから磁化スイッチングが生じるまでに2 ナノ秒を必要としている。図7に、ダンピング定数αおよび高周波電流の周波数を最適化した場合の磁化曲線を示す。図7を見てもわかるように、0.6 ナノ秒での磁化反転に成功している。さらに、うなり現象を有効に利用することにより、特表2004-526270号公報に記載の技術よりもより小さな電流でのスイッチングを可能にしている。
【0025】
なおスイッチングを高速化するために、高周波電流Iaの周波数を、磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数frよりも0.69%以上高く設定する場合においても、後に詳しく説明するように、1つの磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響を考慮する必要がある。この影響を考慮すると、基準とする強磁性共鳴周波数frの定め方は、複数の磁気記憶セルごとにそれぞれ定まる複数の最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定することになる。
【0026】
図8及び図9は、本発明の一実施の形態の磁気メモリ装置の構成と書き込み動作を説明するために用いる図である。図8において、1は前述の記憶セルとして用いられる磁気記憶セルである。前述のように、複数の磁気記憶セル1は、複数本の第1の書き込み導体線6と複数本の第2の書き込み導体線7との交差点に対応して配置されている。複数本の第1の書き込み導体線6は、所定の間隔をあけて配置されており、第1の書き込み導体線6にはそれぞれ選択的にパルス状の直流電流Iwが流される。また第2の書き込み導体線7も、所定の間隔をあけて配置されており、複数本の第1の書き込み導体線6と交差するように配置されている。複数本の第2の書き込み導体線7には、それぞれ選択的に高周波電流(交流電流)Iaが流される。直流電流Iw及び高周波電流Iaは、合成磁場発生用電流通電回路8から選択的に第1の書き込み導体線6と第2の書き込み導体線7とに通電される。合成磁場発生用電流通電回路8は、選択された1以上の第1の書き込み導体線6に直流電流Iwを流し、選択された1以上の第2の書き込み導体線7に高周波電流Iaを流して、第1及び第2の書き込み導体線6及び7の交差点に直流電流Iwに基く直流磁場と高周波電流Iaに基く交流磁場との合成磁場を発生する。直流電流Iwと高周波電流Iaのそれぞれの電流波形の例は、図1(B)に示すものと同様である。
【0027】
図9においては、読み出し用の電磁波が流れる伝送線路(センス線)9と、読み出しに使用されるMOS-FETのゲート10と、接続線11とが示されている。この磁気メモリ装置では、反平行状態にある磁気記憶セル1の強磁性共鳴周波数と同じ周波数の電磁波を読み出し用の電磁波として伝送線路9に流す。伝送線路9に電磁波が流されたときに、各磁気記憶セル1の磁気抵抗効果の発現による抵抗値の相違により、各磁気記憶セル1に対応して設けられたMOS-FETの出力が、HighまたはLowになる。そこでこれを、読み取って、読み出し結果とする。なお読み取り方式は、これに限定されるものではなく、磁気記憶セルの構造に応じて任意に選択できるものである。
【0028】
本発明では、1つの磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響を考慮する必要があるため、合成磁場発生用電流通電回路8から供給する高周波電流Iaの周波数を、次のように定めている。すなわちまず1つの磁気記憶セルに対してその周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響によって、この1つの磁気記憶セルが最も大きな順方向磁化作用を受ける状態を考える。この状態において、直流電流Iwが流れているときにおけるこの1つの磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数を最大強磁性共鳴周波数と定義する。そして高周波電流Iaの周波数を、第1の書き込み導体線6に直流電流Iwが流れているときに、複数の磁気記憶セル1ごとにそれぞれ定まる複数の最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定する。
【0029】
この例でも、高周波電流(交流電流)を書き込み導体線7に流す点は、特許文献1に記載の発明と同じである。しかしながら高周波電流の周波数を対応共鳴周波数とはせずに、意図的に対応共鳴周波数よりも高い周波数(前述の最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高い周波数)を用いる点で相違する。後に詳しく説明するように、高周波電流の周波数をこのように高くすると、実用的な動作マージンを確保できる。また前述の所定の条件下では、1ナノ秒以下での高速な磁化スイッチングを全ての磁気記憶セルについて実現することができる。本発明は、特許文献1のように1つの記憶セルについてピンポイント的に得たデータのみからは明らかにならないものであり、図8に示すように、多数の磁気記憶セルとの関係を検討して、初めて見出されたものである。
【0030】
図10(A)及び(B)に示すように、選択された中心の1つの磁気記憶セル1´は、その周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響を受ける。図10(A)の状態は、1つの磁気記憶セル1´が、その周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響を受けて、最も大きな逆方向磁化作用を受けている状態を示している。また図10(B)の状態は、1つの磁気記憶セル1´が、その周囲にある他の複数の磁気記憶セルから漏洩した漏洩磁界の影響を受けて、最も大きな順方向磁化作用を受けている状態を示している。図11に示された曲線A及びBは、図11の右側に示した条件の磁気記憶セルと通電条件とを用いた場合における、図10(A)のパターンA(Pattern A)と図10(B)のパターンB(Pattern B)における中心の磁気記憶セル1´の高周波電流の周波数fと磁化方向の最大回転角度θの変化を示している。使用した磁気記憶セルは、幅寸法が0.1μm、長さLと幅Wの比率L/W=1、厚みt=3nm、一軸磁気異方性定数Ku=5×10erg/ccである。通電条件は、直流電流Iw=0A、高周波電流Ia=9mAである。そして図11の横軸は、高周波電流Iaの周波数を示し、縦軸は中心の磁気記憶セル1´の磁化方向の最大回転角度θを示している。
【0031】
図11から判るように、最も大きな順方向磁化作用を受けている選択された1つの磁気記憶セル1´の強磁性共鳴周波数fr(波形Bのピークに対応する周波数)は、最も大きな逆方向磁化作用を受けている選択された1つの磁気記憶セル1´の強磁性共鳴周波数fr(波形Aのピークに対応する周波数)よりも高くなっている。そのため、高周波電流Iaの周波数を決定するためには、まずすべての磁気記憶セル1について、最も大きな順方向磁化作用を受ける状態において、第1の書き込み導体線に直流電流Iwが流れているときにおける強磁性共鳴周波数を確認する。この確認した強磁性共鳴周波数がその磁気記憶セルにおける最大強磁性共鳴周波数である。この確認は、シミュレーションおよび実デバイスの書き込み動作テストにより実行できる。そして高周波電流Iaの周波数を、直流電流Iwが流れているときに、複数の磁気記憶セルごとにそれぞれ定まる複数の最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定する。すなわち確認した複数の磁気記憶セルの複数の最大強磁性共鳴周波数の中で、最も大きな強磁性共鳴周波数よりも高い周波数に、高周波電流Iaの周波数を設定する。このようにすると、使用するすべての磁気記憶セル1に対して、それぞれ磁化状態の回転に必要な合成磁場を与えることが可能になる。
【0032】
発明者の研究によれば、高周波電流Iaの周波数のみで、すべての磁気記憶セル1の書き込みを制御できるわけではないことが判った。図12は、図11に示した条件の複数の磁気記憶セルを図8に示すパターンで配置して構成した磁気メモリ装置に関して、図8の第1の書き込み導体線6を第2の書き込み導体線7に対して45°傾斜させて交差させた状態で、第1の書き込み導体線6に流す直流電流Iwを一定としたとき(この例では20mA:パルス幅1.2ナノ秒)における、高周波電流Iaの周波数fと高周波電流Iaの電流値(ピーク値)と、選択された磁気記憶セル1´の磁化状態が変わったか否か(磁化状態が反転したか否か)をシミュレーションした結果を示している。図12において、境界線L1は、第1の書き込み導体線6に直流電流Iwを流したときにおいて、磁化反転が可能な最大強磁性共鳴周波数frと高周波電流Iaの電流値との相関関係を示している。また境界線L2は、第1の書き込み導体線6に直流電流Iwを流さない(Iw=0)ときにおいて、磁化反転可能な最大強磁性共鳴周波数froと高周波電流Iaの電流値との相関関係を示している。また境界線L3は、直流電流Iwを流さない(Iw=0)ときにおいて、磁化反転が発生しなくなる高周波電流Iaの臨界周波数[Iw=0のときの磁化反転臨界周波数(fto)]である。そして境界線L4は、直流Iwを流したときにおいて、磁化反転が発生しなくなる高周波電流Iaの臨界周波数[Iw=20mAのときの磁化反転臨界周波数(fso)]である。そして破線で示した境界線L5は、直流電流Iw=0のときの高周波電流Iaの磁化反転臨界電流値(Iao)である。
【0033】
ここで境界線L2と境界線L3とによって囲まれた領域では、直流電流Iw=0のときでも、磁化反転が発生する。したがってこの領域においては、直流電流Iwと高周波電流Iaとを同時に流すことにより書き込みを行う選択的書き込み制御をすることができない。よってこの領域に入る高周波電流Iaの周波数及び電流値は、選択できない。このような現象があることは、発明者の研究によって初めて判明したことである。なお境界線L1と境界線L2とによって挟まれた領域B内、境界線L3と境界線L4とによって挟まれた領域C内、そして境界線L1と境界線L4とによって挟まれた領域A内においては、直流電流Iw=0のときでも、磁化反転が発生することはなく、磁化反転の制御が可能である。なお領域Aは、Ia<Iaoを満足する部分であり、領域BはIa>Iao及びfr<f<froを満足する部分であり、領域CはIa>Iao及びfto<f<ftを満足する部分である。領域Aは、高周波電流の周波数と電流値の相関関係として使用可能な領域ではある。そしてこの領域Aは、領域A乃至Cのうち、最も小さい電流で書き込みを行える領域である。ただし、この領域Aでは、高周波電流Iaの電流値を選択できる範囲(マージン)がかなり狭い。また反転・非反転の周波数条件が、僅かな周波数変化で現れるため、制御性が少し悪い。また領域Bも、周波数と電流値の相関関係として使用可能な領域ではある。しかしながら領域Bは、領域Aと同様に、強磁性共鳴周波数に近い周波数で動作を行うため、制御性は少し悪い。領域A及びBと比べて、領域Cの高周波電流の周波数と電流値の相関関係は、周波数が強磁性共鳴周波数からかなり離れた領域であり、周波数及び高周波電流の電流値を選択できる範囲(マージン)が広く、制御性が良い。しかしながら、高周波電流の周波数は、安定動作、実用的な動作マージンの確保、および電流強度の低減の要求を満足するように決められるべきものである。したがって前述の例の領域AおよびBを使用する場合は、電流強度を低減することができ、また領域Cを用いる場合には、安定動作と、実用的な動作マージン確保にそれぞれメリットを有すると見ることができる。よって必要に応じて各領域を使い分ければよい。
【0034】
このようなことから本発明では、高周波電流Iaの周波数とその電流値は、直流電流Iwが流れておらず且つ高周波電流Iaが流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セルの磁化状態を反転させることがない相関関係(高周波電流Iaの周波数とその電流値が、A乃至Cの領域に入る関係を有していること)を必須の要件とする。なおこの相関関係は、第1の書き込み導体線を第2の書き込み導体線に対する傾き角度を変更すれば、当然にして変わるし、また直流電流Iwの値を変えた場合にも当然にして変わる。
【0035】
第1の書き込み導体線を第2の書き込み導体線に対して45°傾けた状態で配置する場合において、高周波電流の周波数とその電流値は、上記相関関係を有している。そこでこの場合に、制御に関して広いマージンが取れる状況を考えると、高周波電流Iaの周波数は、直流電流Iwが流れておらず且つ高周波電流Iaが流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セル1の磁化状態を反転させることができる磁化反転臨界周波数ftoよりも高いことが好ましい。
【0036】
A乃至Cの領域では、高周波電流Iaの周波数とその電流値は、直流電流Iwが流れておらず且つ高周波電流Iaが流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セル1の磁化状態を反転させることがない相関関係を有している。したがって実際に、書き込みを行う場合には、直流電流Iwを第1の書き込み導体線6に流しているときに、複数の磁気記憶セル1ごとに定まる複数の最大強磁性共鳴周波数の中で最も高い最大強磁性共鳴周波数よりも高く設定する。このようにすれば、複数の磁気記憶セルがどのような磁化状態にあったとしても、書き込みの制御は可能になる。その上で、高周波電流Iaの電流値および周波数を、直流電流Iwが流れておらず且つ高周波電流Iaが流れている1以上の交差点に対応して配置された1以上の磁気記憶セル1の磁化状態を反転させることがない値とする。このようにすれば、勝手に磁化状態が反転する磁気記憶セルが現れることはないため、複数の磁気記憶セルの全ての書き込みを制御することができる。
【0037】
なお図12に示した特性は、直流電流Iwの大きさ、使用する磁気記憶メモリ1のダンピング定数α、磁気異方性定数Kuによって異なる。したがって実際に高周波電流Iaの周波数と電流値とを決定するためには、使用する磁気記憶メモリ1を形成するために使用する材料毎に図12と同様の特性をシミュレーションをして仮の周波数と電流値とを決め、実際に確認試験を行って、実際に使用する周波数と電流値とを決定する。
【0038】
本実施の形態の磁気メモリ装置で書き込み動作を行う場合には、第1の書き込み導体線にパルス状の直流電流Iwを流し、同時に第2の書き込み導体線に高周波電流Iaを流す。磁化を逆向きに反転させたい場合には、直流電流Iwの極性を逆にすればよい。
【0039】
第1の書き込み導体線6と第2の書き込み導体線7の配線パターンは、任意であり、図13(A)乃至(C)に示すようような配線パターンも用いることができる。図13(A)の配線パターンは、図8に示した直交パターンと異なって、第1の書き込み導体線6を第2の書き込み導体線7に対して斜めにしている。また図13(B)の配線パターンでは、第2の書き込み導体線7を第1の書き込み導体線6に対して斜めにしている。そして図13(C)の配線パターンでは、第1の書き込み導体線6と第2の書き込み導体線7とを斜めにしている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)はシミュレーションに使用した条件を説明するための図である、(B)は高周波電流と直流電流の波形を示す図である。
【図2】電流を通電した際の磁化容易軸を基準とした磁化回転角qの時間遷移である。
【図3】磁気記憶セルのギルバートのダンピング定数αを変化させた際における、第1ピークの出現時間tbeatを示す図である。
【図4】磁気記憶セルのギルバートのダンピング定数αを変化させた際における、定常状態での磁化振幅に対するうなりによる磁化振幅の増加率qmax / qFMRを求めた結果を示す図である。
【図5】高周波電流の周波数を変化させた際の第1ピークの出現時間tbeatの変化の様子を計算した結果を示す図である。
【図6】うなりの第1ピークにおける磁化回転角振幅qmaxの交流電流周波数f依存性を示す図である。
【図7】ダンピング定数αおよび高周波電流の周波数を最適化した場合の磁化曲線を示す図である。
【図8】本発明の磁気メモリ装置の書き込みために必要な構成の概要を示す図である。
【図9】1つの磁気記憶セルを中心にして書き込みと読み出しに必要な構成を示す立体模擬図である。
【図10】(A)及び(B)は、周囲の磁気記憶セルの影響を説明するために用いる図である。
【図11】図10(A)のパターンAと図10(B)のパターンBにおける中心の磁気記憶セルの強磁性共鳴周波数fと磁化方向の回転角度θの変化を示す図である。
【図12】高周波電流の周波数fと高周波電流Iaの電流値と、選択された磁気記憶セルの磁化状態が変わったか否か(磁化状態が反転したか否か)をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【図13】(A)乃至(C)は、第1及び第2の書き込み導体線の配置パターンの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 磁気記憶セル
3 磁性層
5 非磁性層
6 第1の書き込み導体線
7 第2の書き込み導体線
8 合成磁場発生用電流通電回路
9 伝送線路
10 ゲート
11 接続線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12